コラム:「犯罪被害者等の支援に関する指針」について

犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律に基づいて、平成20年10月、国家公安委員会は、「犯罪被害者等の支援に関する指針」を示しました。各都道府県の公安委員会や警察では、この指針に基づき犯罪被害者等への支援や民間被害者支援団体への援助などを行っています。このコラムでは、この指針の概要などについて解説します。

1 経緯

平成13年、「犯罪被害者等給付金支給法」の改正により、法律の名称が「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」に改められ、犯罪被害者等に対する支援に関する規定が新設されました。具体的には、犯罪被害者等に対する援助の措置を警察本部長等の責務として定めるとともに、こうした措置の適切かつ有効な実施を図るための指針が国家公安委員会によって定められることとされました。これに基づいて、平成14年、「警察本部長等による犯罪の被害者等に対する援助の実施に関する指針」が制定されました。

平成20年、再びの法改正により、法律の名称が「犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律」(略称:犯罪被害者支援法)に改められ、犯罪被害者等の支援を目的とする民間団体の活動の促進に関する規定が整備されました。その内容は、こうした民間団体の活動を促進するための措置を都道府県公安委員会の責務として定めるとともに、こうした措置の適切かつ有効な実施を図るための指針が国家公安委員会によって定められることとされました。

国家公安委員会は、平成14年に示した指針と平成20年の法改正により新たに必要となった指針とを併せて、平成20年10月、「犯罪被害者等の支援に関する指針」を制定しました。

2 指針の構成

この指針は、犯罪被害者支援法に基づいて、

○ 警察本部長等が犯罪被害者等に対して行うべき情報提供その他による援助の措置

○ 都道府県公安委員会が民間被害者支援団体の自主的な活動を促進するために行うべき助言などの措置

の両者に関して、その適切かつ有効な実施を図るために、国家公安委員会が示すガイドラインです。

そのため、まず両者に共通する基本的事項である犯罪被害者等の支援を実施する際の留意事項が示された上で、警察本部長等が援助を実施する際の留意事項、都道府県公安委員会が民間被害者支援団体の自主的な活動を促進するための措置を実施する際の留意事項、さらに講じるべき具体的な措置内容が定められています。

3 指針の概要

(1) 犯罪被害者等の支援に関する基本的事項

犯罪被害者等の支援を実施する際の基本的事項として、次のとおり留意事項が定められました。

ア 犯罪被害者等の個人の尊厳への配慮

犯罪被害者等が社会の一員として有する尊厳を尊重し、これにふさわしい支援が行われるよう十分配慮すること。

イ 犯罪被害者等の置かれた状況に対する理解

個々の事情に応じた適切な支援を行うため、個々の犯罪被害者等の具体的事情を正確に把握し、その変化にも留意すること。

ウ 犯罪被害者等のニーズに即した支援の実施

犯罪被害者等が何を望んでいるか、犯罪被害者等に何が必要かを常に念頭に置いて、犯罪被害者等のニーズに即した適切な支援を行うこと。

エ 犯罪被害等の早期軽減

犯罪被害の発生直後から継続的に支援を行うことにより、犯罪被害者等が将来にわたって深刻な精神的打撃を被ることを防ぐとともに、犯罪被害者等の受ける苦痛を緩和することにより犯罪被害等からの立直りを促進すること。

オ 支援に携わる者からの積極的な働き掛け

犯罪被害者等からの要請を待つのみではなく、犯罪被害後の経過に応じた適宜適切な支援を、支援に携わる者の側から提示するなど積極的な働き掛けを行うこと。

カ 犯罪被害者等に対する情報提供及び適切な説明

犯罪被害者等支援の基礎となるべき刑事手続や各種の支援制度に関する情報については、個々の事情に応じて必要な情報を、適切な時期に提供すること。また、犯罪被害者等が直面している各般の問題や犯罪被害者等が陥りがちな心身の状況について、積極的に情報を提供し、適切な説明を行っていくこと。

キ 二次的被害の防止

犯罪被害者等の人権やその心身の状況に十分に配慮すること、犯罪被害者等の支援について専門的知識を有する者が支援に当たること、必要な施設の整備を行うことなどにより、二次的被害の防止を図ること。

ク プライバシーへの配慮

周囲の人々の言動や報道機関による取材や報道による二次的被害を防止し、犯罪被害者等の名誉又は生活の平穏を害することがないようにするため、犯罪被害者等のプライバシーに十分に配慮すること。

ケ 犯罪被害者等の安全確保

犯罪被害者等が更なる犯罪被害等により被害を受けることを防止し、その安全を確保するために必要な施策を講じ、犯罪被害者等の不安を解消すること。

コ 支援に携わる者への心理的影響に対する配慮

犯罪被害者等の支援に携わる者が極めて強いストレスを受ける場合があることについて、配慮すること。

サ 途切れることのない支援

制度や担当機関などが替わっても連続性をもって支援が行われるよう、また、犯罪被害者等の誰もが、必要なときに必要な場所で適切な支援を受けられるよう、途切れることのない支援を実施すること。

シ 民間被害者支援団体と警察との有機的な連携

犯罪被害の直後から犯罪被害者等の支援に当たる警察と、警察などの公的機関では十分に対応できない、個々の犯罪被害者等の事情に即したきめ細かな支援を継続的に実施できる民間被害者支援団体との間で、相互の役割分担や連絡方法などについて認識の共有を図り、継ぎ目のない有機的な連携が行われること。

(2) 警察本部長等による援助に関する事項

警察本部長等による援助を実施する際の留意事項として、(1)に加え、次の事項が示されました。

ア 犯罪被害者等に対する援助における警察の役割の認識

警察は、通常、犯罪被害の直後から犯罪被害者等と接することから、犯罪被害者等にとって最も身近な機関であり、特に、犯罪被害等の早期軽減に中心的な役割を果たすこと。

イ 犯罪被害者等に対する援助に係る組織運営の基本

警察各部門の犯罪被害者等に対する援助に関連する施策が最大限の効果を発揮するよう、体制の充実に努めるとともに、部門間の連携を図り、各種法令を積極的に活用して、犯罪被害者等の視点に立ったきめ細かな犯罪被害者等に対する援助を実施すること。

また、捜査活動が犯罪被害者等に対し過大な負担をかけることのないよう留意すること、人員、施策や資機材を効率的に配置することなど、警察運営全般にわたり組織の運営と管理に関し部門間や各種業務間のバランスを確保すること。

ウ 各種施策の実施状況の把握

各種施策の実施状況を定期的かつ正確に把握し、その効果を適切に判断すること。

エ 援助実施のための基盤整備

警察職員に対して犯罪被害者等に対する援助に関する指導と教養を的確に行うこと。また、犯罪被害者等支援に必要な体制、施設や資機材を整備すること。

オ 関係都道府県警察、関係する機関及び団体との連携等

関係都道府県警察、部門や警察署相互間の協力、関係機関・団体との連携・協力、民間被害者支援団体との連携・協力を図ること。

カ 犯罪被害者等に対する情報提供及び相談体制の充実

犯罪被害相談に携わる職員への各種制度に関する知識の習得の促進を図るとともに、相談窓口における各種制度の案内書の配布や関係機関・団体との迅速かつ確実な引継ぎを進めること。また、犯罪被害者等が安心して相談できるよう、性犯罪相談窓口への女性警察官の配置、カウンセリング専門職員の電話によるカウンセリングの実施、精神科医や臨床心理士などによる専門的ケアが行える機関の紹介などを進めるよう努めること。

キ 捜査過程における二次的被害の防止

二次的被害の防止のため、捜査における精神的負担の軽減と犯罪被害者等のプライバシーの保護に留意するとともに、犯罪被害者等の要望を踏まえ、かつ、犯罪被害者等の年齢、性別、家庭環境、事件の態様、社会的反響などに応じたきめ細かな対応を行うこと。

ク 警察による犯罪被害者の支援に関する広報啓発活動

犯罪被害者等の支援に関する広報啓発の重要性にかんがみ、関係機関や民間被害者等支援団体とも連携の上、広報啓発活動を促進すること。

ケ 犯罪被害者等の安全の確保

防犯指導、警戒を実施するなど、再被害防止の措置を推進すること。

(3) 都道府県公安委員会の留意事項

都道府県公安委員会が民間被害者支援団体の自主的な活動を促進するための措置を実施する際の留意事項として、(1)に加え、次の事項が示されました。

ア 民間被害者支援団体の自主性の尊重

民間被害者支援団体の活動は、関係機関と連携協力を図りつつも、各地域に根ざした自主的なものであるべきであり、民間被害者支援団体については、独立した組織として、その自主性が尊重される必要があること。

イ 関係機関・団体との連携

犯罪被害者等のニーズは多種多様であり、時間の経過とともに必要とされる支援内容も変化することから、あらゆるニーズを単独の組織で満たすことは困難である。そのため、犯罪被害者等の支援に携わる様々な関係機関・団体が相互補完的な役割を果たすことが必要であり、制度や担当機関が替わっても連続性をもって支援が行われるよう、関係機関・団体の連携を一層充実・強化し、その連携密度の底上げを図る必要があること。

ウ 保秘の徹底

犯罪被害者等の二次的被害を防止するため、支援を通じて知った犯罪被害者等のプライバシーに十分配慮し、保秘の徹底を図ること。

(4) 都道府県公安委員会による具体的な措置

民間被害者支援団体の自主的な活動を促進するために都道府県公安委員会が講ずべき措置の具体的内容として、次の事項が示されました。

ア 支援に携わる者の知識向上

犯罪被害者等の心身の健康を回復させるための知識・技能を持った人材を育成するため、民間被害者支援団体に対し、次の措置を実施すること。

・ 犯罪被害等の実態に関する情報の提供

・ 犯罪被害者等の支援に役立つ事例などに関する情報の提供

・ 犯罪被害者等の支援における二次的被害を防止するための留意事項に関する情報の提供

・ 犯罪被害者等の支援に携わる者の研修カリキュラムに関する助言

・ 犯罪被害者等の支援に携わる者の研修に対する講師の派遣

イ 関係機関・団体の連携の充実・強化

関係機関・団体の連携の充実・強化が図られるよう、民間被害者支援団体に対し、次の措置を実施すること。

・ 他の行政機関などにおける支援内容に関する情報提供

・ コーディネーターの育成の支援

・ 犯罪被害者等早期援助団体等への情報の提供

ウ 人的・物的基盤の充実

民間被害者支援団体のほとんどが、財政面の脆弱さ、人材確保や人材育成の不十分さ、活動の地域的な格差などの問題を抱えている現状にかんがみ、次の措置を実施すること。

・ 財政的援助

地方公共団体と協同し、適切な財政的援助を可能な限り行うよう努めること。

・ 施設や物品の貸与

民間被害者支援団体の活動拠点としての事務所などの提供や支援を実施する際に必要となる物品の貸与が積極的に行われるよう、施設や庁舎の借上げへの協力などの促進について地方公共団体などに対して働き掛けを行うこと。

・ 設立支援

団体の設立や犯罪被害者等早期援助団体としての指定などそれぞれの段階に応じて、情報提供、地方公共団体などによる協力の促進のための働き掛け、その他必要な助言を行うこと。

エ 民間被害者支援団体による広報啓発活動の促進

広報啓発を行う様々な機会の提供などにより、民間被害者支援団体による広報啓発活動を促進すること。


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