コラム

被害者に対する理解の重要性 (国士舘大学教授 辰野文理)

 国民一般を対象とした意識調査によると、国民の多くは犯罪の被害者といえば、暴力犯罪の被害者を想定している。そして、被害者は「不安を抱えている」、「落ち込んでいる」、「精神が不安定になっている」といった精神的な落ち込みや不安を抱えており、「報道関係者からしつこく取材を受けている」、「事件に直接関係のないプライバシーに関する報道をされている」といった状況に置かれていると認識している。

 犯罪被害の回復を促進する上で有効と考える項目については、「加害者の適正な処罰」や「カウンセリング」があげられている。被害者等の回答では、「加害者の被害弁償」や「加害者からの謝罪」も回答率が高いものの、18年の調査に比較すると、全般的に被害者に対する国民の認識は被害者自身のそれと大きく隔たっていないように見受けられる。

 こうした国民の被害者に対する認識はどのような情報からもたらされているのであろうか。

 9割以上の人は犯罪被害が身近にないと回答している。犯罪の被害について考えることは、メディアからの影響が大きいと考えられる。現在は、報道情報の入手先としてテレビ、新聞が上位であるが、ウェブサイトとする割合も高まってきている。ウェブサイトからの情報入手の特徴は、自身の関心で情報にアクセスすることであろう。犯罪被害者等基本法の施行など被害者支援に関するここ数年の動きは大きく、犯罪被害に対する人々の認識も深まりつつある。公判への被害者参加が始まり、さらに裁判員裁判も始まることで、犯罪被害者をより身近に感じられることとなろう。

 その一方で、今後の被害者支援における方向性は定まらない感がある。今の被害者支援の運用状況を確かめつつ拡充していくことは重要であるが、さらにどのような支援が必要とされ、どのような支援の方法が可能かといったことについて考えるためには今後も被害者自身の声を集めていくことが重要となろう。

 ウェブサイトの普及やメディアの理解などにより、被害者自身や被害者支援団体からの情報発信が拡充し、その置かれた状況や要望についての情報は入手しやすくなっている。しかし、被害者の置かれた状況やニーズはそれぞれに大きく異なるとされる。そうしたさまざまな被害者の状況や要望を知る際には個々の被害者自身からの問題提起に負うところが大きい。周囲の理解がない中で、被害者が声を上げることは難しい。

 被害者自身がいつでも声を上げられるように、そのための環境整備やメディアの理解、そして国民の理解がより一層重要となろう。