講義

 
テーマ:「犯罪に巻き込まれた被害者の心理」
講師:神部 英子 氏(静岡県臨床心理士会事務局長)

 よろしくお願いします。神部でございます。
 大体このお話の趣旨は、NPO法人の静岡犯罪被害者支援センターで、私が何年間か続けてボランティアの養成講座でお話しておりましたのを持ってきた形ですので、NPOのほうでお話を聞かれたかたには退屈かもしれませんが、よろしくお願いいたします。
 私の話は大体50分ぐらいということで、そのあとグループワークにしたいと思います。ここには全然お互いの顔もお名前も分からない方々がいらっしゃっているので、皆さんがお互いにお顔だけは分かるような、そういう関係になっていただきたいということで企画しております。

 被害者の心理について話をいたします。
 犯罪の種類についてですが、皆さんもうここへ来られるというときには、大体、犯罪については関心を持っておられて、いろんなことも知っておられると思います。私はNPOのほうの犯罪被害者支援センターの面接委員もやっておりますし、電話相談にも関わっているので、よく行っていますが、そこでどんな電話相談が来るかということから見みて、最近相談の多い犯罪を挙げてみたいと思います。

 殺人は報道もされますし、皆さんよくご存じだと思いますが、殺人に至らないまでも、傷害事件もあります。
 それから交通事故も、警察ではいわゆる普通の傷害や性犯罪として告訴するというのとはちょっと別の扱いをされているのですが、交通事故の被害はとても多くて、受けるダメージも非常に強いので、それもきちんと考えに入れておかなければいけないことだろうと思います。

 それから最近目立つのは、性犯罪についての相談です。昔は、性犯罪というのは警察に訴え出るということは、あまり多くはなかったようですし、今でも被害を受けたからといってすぐ警察に届け出るという人が100パーセントいるわけではありませんが、性犯罪は多くて、非常に問題になっています。そういうこともしっかり考えておかなければいけないと思っています。

 それからDVです。DVも、法律ができたこともありまして非常に目立ちます。わたしは母子支援施設でも相談をしているのですが、そこには、DVの被害を受けて、自分の家にいられなくて逃げてきたお母さんたちが多く入っておられます。昔は経済的に困ったので母子寮にという方が多かったのですが、最近はDVの方が非常に多くなっています。

 それから虐待の被害、これも非常に件数が増えています。児童相談所で受けますけれども、数はうなぎ登りという感じです。
 それから、普通に犯罪といわれる盗難とか、詐欺とか、振り込め詐欺なども結構多いのです。詐欺も犯罪被害になります。
 犯罪の被害者としては、被害者本人、要するに殺されてしまったり、傷害を受けたり、性犯罪を受けたりした、その被害者本人もありますし、残されたご家族、遺族の方も被害者ですし、目撃者も被害者といえます。お友達、知っている人、いろんな被害者がたくさんいます。

 学校でも、一人の子どもが事件の被害者になると、やっぱりクラスの子たちもみんな影響を受けるとか、先生も非常に影響を受けるとか、臨床心理士会でも学校のほうの支援もやっておりますが、そういう被害者の人たちも多いと思います。

 それから、被害の種類をいいますと、実際にけが怪我をしたという身体的な被害と、盗難とか、詐欺というような経済的な被害、それから精神的な被害があります。ただ、身体的な被害を受けても、経済的にも非常に困窮してきてしまうこともありますし、単純なものではなくて、一つの事件でも、輻輳していろんな被害が、起こってきます。

 被害がどのようにういうふうにして起こってくるかということを説明するときには、時間を追って、まず被害を受けた直後のことからお話ししていくと分かりやすいと思います。傷害事件とか、交通事故とか、起こった直後のことを、考えていただきたいと思いますが、被害を受けた人はどんな状態になってしまうか、どんな気持ちになってしまうかというのを、想像しながら聞いていただきたいと思います。被害を受けたときには、とにかく、頭が真っ白というっていうような、そんな程度のものではなくて、もっともっとすごい、なんかもう自分がちゃんとした人間だったんだろうかとか、離人感みたいなものもありますし、それから、一体どうなっちゃったんだろうというっていうふうな、時間的にも、よく分からなくなってしまうようなこともあります。一体私はどこにいるのだろうとっていうようなことも、ちょっと分からなくなるような、そんなことも起こります。

 神戸で、尼崎西宮でだったでしょうか、JRの事故がありました。ものすごい車内の状況で、救出するのにもとても大変だったと思いますが、ああいう方たちが一体どんな気持ちで中におられたか、救出されるまでどんな気持ちでおられたかということを想像しますと、非常にすさ凄ましじい恐怖心に襲われます。全く自分は何もできないという無力感に襲われ、感覚的には、何もなんか分からなくなってしまって、いわゆる麻痺まひ状態で、全然考えることもできなくなってしまうような状態だったでしょう。ですから、もう冷静な判断なんかとても無理という、そういう非常にすさ凄ましじい被害を受けた直後の状況があると思います。

 これは超々混乱期ですけれども、それから一応その場から救出されたりとか、病院に運ばれたりとか、一応は家へ帰れるような状態になったにしても、今度は、その次にはいろんなことが起こってきます。まず、とにかくやることはやらなければという状況になります。そのときは、かなり混乱しています。ある人は、非常に冷静に見えるようなこともありますけれども、それは感覚的には麻痺マヒをしているので、とにかくこれをしなくてはいけない、あれをやらなくてはいけないと、いろんなことがたくさん出てきてしまうので、それを片っぱし片っ端から何とかして、処理していかなければいけないという、そういう状態になる時期が来ます。

 もし、どなたかが亡くなって、死因について警察が調べなければならないとなると、司法解剖になるわけですけど、そういうときには遺体が病院に運ばれていってしまって、遺族の方たちは、もうそんなものやらなくてもいいなんて思ったりするような、非常につら辛いことが起こります。

 それで、実際の被害に遭ったときには、まず警察の方が家族の方にも、事情を聴かれます。加害者でなくても聞かれるのですけれども、警察のほうは、もしかしたら加害者的な要素があるかもしれないという、ちょっと疑いの意味もありますので、かなり厳しく調査をされるようです。時間もかかりますし、明らかにしなければいけないので、質問なんかも、非常に厳しい質問をしてこられるということを聞いております。

 そういう事情聴取もありますし、けが怪我をしていれば体の治療もしなくてはいけない。亡くなった方がいれば葬儀もしなければならないということになります。そして、事件ですとやっぱりマスコミが取材に来ます。ので、マスコミがうち家の周りを取り巻いていたりすることもあるので、非常に取材される側は大変です。

 物が壊れたり、体がだめになったり、いろんなことすれば、やっぱりそこを少し修復しておかなければいけないので、いろいろな修復作業をしなければいけません。家族の方もいますから、被害を受けた人でも下の子どもさんがいるとか、おじいちゃん、おばあちゃんもいらっしゃるとか、他の家族の生活もあるので、その方々の生活についてもいろいろな家事がたくさん起こってきます。

 そういうときは非常に混乱していますが、とにかく頑張らなくてはと、被害を受けた方は、そこを何とか乗り切ろうとなさいます。案外しっかりしているように見えたりすることもあるのですが、とても大変です。

 そうしているうちに、やっぱりいろいろ大変なことが起きますから、体も大変になってきます。被害を受けてけが怪我をしたり、病気になってしまったりとか、そういうこともありますが、まずくたびれてしまいます。もう、どうやっていけばいいのだろうかと非常にくたびれて、そして、あれも考え、これも考えてで、寝ることもできなくなってしまったり、食べることもできなくなってしまったり、それは大変なことが起こってきます。

 そして、もうそれを考えただけで、本当に辛つらくなってしまって、体の面で病気が起こったり、免疫機能不全といって免疫が弱くなってしまうことも起こります。ひどい風邪かぜを引いたり、おなかお腹の具合が悪くなったり、頭痛、肩こりはもう当然のことで、いろいろな症状が起こってきます。そして、お医者さんが急性ストレス反応と診断する症状(ASD)がでてくることもあります。

 私は臨床心理士なので病気の診断はしないのですが、どういうことが問題になって起こってくるかということを、一応皆さんに知っていただきたいと思ったので、ここに、資料を準備しました。急性ストレス反応について、資料[PDF:481KB]をご覧ください。

 これはどういうことかと言ういうと、お医者さんはこれを参考にして、病院に来られた方については、このかたはこれに当てはまるということで、急性ストレス傷障害という診断を下されます。実際に死の脅威とか、また、深刻な負傷とか、もしくはそれらを生じるおそ恐れとか、あるいは自分自身が非常に脅威となるような出来事を体験したり、目撃したりとか、そういう事態に直面したとき。、それで、その人の反応が極度に恐怖とか、無力感とか、絶望を伴うものであったときに起こってくる、麻痺マヒした感情、現実感がなくなるとか、離人症とか、解離性健忘とか、そういうことが起こってきます。

 それから、非常にフラッシュバック的なことが起こって、またそういう刺激を避けたいという気持ちも起こってくる。また過覚醒といいますが、寝られなくなってしまったりとか、いらいらしたりとか、集中ができないとか、非常に警戒が過剰になってしまうとか、反応がものすごく大きく出てしまうような、そういうことが起こります。

 急性ストレス傷障害の場合は、大体1ヶか月ぐらいの間に起こってくるものを急性といいます。それが4週間ぐらい経たって、それでも治まらないで、もっとひどく出てきたときには、PTSD、外傷後ストレス障害といいます。外傷後ストレス障害のほうも、一応、急性のほうと同じようなことが起こってくるということですけれども、こちらは、急性からしばらく経たった状態でも、まだこういうことが起こってくるということです。

 最近PTSDという言葉がよくい言われるので、日常的に使われますが、これは時期的に、急性からそれが治らなくって、またずっと経たってから出てくる。それがPTSDというふうに理了解していただきたいと思います。

 さらに、心にもいろんなことが起こってきます。いろんな感情が湧わいてきます。もうそういうことはなかったと思いたい。否認です。

 そういう被害に遭ってしまったということに対して、非常に強く起こってくるのは怒りの感情です。なんで私がこんな目に遭ったのかという、犯人、加害者に対する怒りです。それから、被害を受けたことによって非常に悲しい思い、それも起こります。無力感も。私には何にもできなかった、もうだめじゃないかなっていうような感じです。それから、抑うつ感も起こってきます。何にもやる気がしないし、本当ほんとに憂うつで、もう仕方がないとっていうふうな気持ちです。

 それから、自責感とっていうのは、私にも何か責任があったのではないかという感じです。だから、一番これが多く出てくるのは、遺族の方が、あの時もうちょっと言っておけばよかったのにとか、家を出るのが遅かったら、事故に遭わなかったのにとかいうふうな感じで、自分を責めてしまう。そういう自責感が起こってきます。

 罪悪感というのも、やっぱり自責感と同じような感じで、私にも何か責任があるのではないか、私も悪かったのではないかという気持ちです。

 それから恥辱感、屈辱感。これは、主に性被害を受けた方に多いですが、本当ほんとに恥ずかしい。それから、身体的な被害を受けた方でも、こんなことになって、みっともなくてとか、その人は悪いわけではないのに、そういうことが起こってしまうと、非常に恥ずかしい気持ちになります。

 それで、過剰な警戒心と言いますか、また起こるのではないか、今までは何にもそんなこと考えずに普通に生活していて、何にも危ないことは起こってこないと思っていたから外に出られたのに、またこんなことがあるかもしれないと思うと、家から出られなくなってしまったり、電車に乗れなくなってしまったり、非常に強い警戒心が起きてきます。

 それから、犯罪を受けたことによって、私がこんな目に遭ってしまったとっていうことで、みんなの中にはいられない。私ははじき出されてしまったのではないかというような、そういう疎外感。焦燥感も起こる。どうしてこんな状態でいなきゃいけないの、何とかしなきゃいけない、でもできないというような感じです。

 加害者に対しては復讐しゅう心も起こってきます。どうしてこんなことをしてくれたのか、もう何とかしてやっつけてやりたいとか、そういう気持ちが起きます。

 そして大変なのはやっぱり、未来への希望がなくなってしまうということです。こんな被害を受けてしまったので、もう私の将来、全くだめになってしまったというふうな感じで、非常に希望がなくなる。それがとても大変です。

 その上、自信もなくなってしまいます。今までは普通にちゃんとやれていたのに、こんな被害に遭ってしまうと、これからはちゃんとやっていけないのではないか。私の今まで一生懸命やってきたことが全く崩れてしまったと自信がなくなってしまう。

 それから、他人への信頼感がなくなってしまいます。要するに、誰だれも守ってくれなかったとか、誰だれも頼りにならないとか、どうして私だけこんなふうになってしまったのだろうとっていうような、今まで持っていた周囲の人々に対する信頼感がなくなってしまったような、そういうことが起こってきます。

 それに伴って、今度は二次被害も結構出てきます。二次被害というのは、実際に被害を受けただけではなくて、その後、周りの人や社会の、いろんな人の言葉に傷ついてしまうとか、そういうことも起こります。

 警察で事情聴取を受けたことによって、二次被害を受けることもあります。それが普通の事情聴取だけならまだしも、事情聴取をやってない休憩時間などに、そこの人たちが談笑していたり、自分のことを話題にしているのを耳にしたりすると、あの人たちは、私のことに対して笑ってたとか、あんまりちゃんと対応しなかったという感じで、非常に被害的な気持ちが起きてくることが多いのです。

 医療関係者の方についても、本当にまじめ真面目に、心からの対応をしてくださればいいのですが、なかなかそういかない場合もありますし、その関係者の間では冗談言って、何か言っていたとか、そんなのを目にしたりすると、非常に被害者は傷つきます。

 それに、よく言われることですが、マスコミの取材で適当なことを書かれてしまったり、嘘うそを書かれたりすることもあります。報道されてしまうと、なかなか訂正はしてもらえないですし、普通の人はそれを信じてしまうので、それを聞いた近隣の人の噂うわさになっているのが聞こえてきたりして、非常に傷つくことがあります。

 家族の態度っていうのも、家族の中でも、みんなで支え切れない部分があるんですね。だから被害を受けたことによって、家族がバラバラになってしまうようなこともあります。もう、「なんでそんな文句ばっかり言ってるのよ」と親に言われたり、「そんなわ我がまま言わないで」と言われたりして、非常に傷つくこともあります。

 それが、さらに三次被害にいくこともあります。三次被害というのは、家庭生活とか社会生活に支障を来してしまいまして、そこには住んでいられなくなってしまうとか、職場も休まなければならなくなったりとか。「なんかあの人は、ああいう被害を受けたらしいよ」なんていう噂うわさが立って、職場にもいられなくなってしまって、結局転職しなければならなくなったということもあると言われています。

 皆さんここへ、ボランティアをしようという形で来られているので、被害を受けた方に対しては、少し何かお手伝いをしなければと、思われることと思います。それで、支援センターでも一生懸命そういう被害者の方のためにいろんなことをしています。被害者が回復するために、ご自分でしたほう方がいいこと、支援者がすべきことについてお話します。

 混乱しているときというのは、まずは安全を確保してあげなければいけない。特に性被害を受けた場合、安全なところに置おいてあげるとか、泊まるところを確保してあげるとか、その人がここなら大丈夫というところを、きちんと確保しなくてはいけないわけです。

 それから、日常生活を取り戻すための生活支援ということですが、まず、混乱しているときには、安心して頼れる人がいないといけませんし、一番大事なのが、自分で自分の生活をきちんと管理できるような、事故に遭う前の普通の日常生活ができるようにならないといけないので、それを取り戻すための支援が必要です。

 孤独感とか、無力感を感じていて、感覚的にもちょっとおかしくなっていたりしますので、やっぱり安心して頼れる人がきちんとそばでお話を聴いてあげるとか、日常生活のために、その人が大変になっていることはお手伝いしてあげるとか、そういうことが必要になります。

 それから、少し混乱が収まってきて、日常生活は何とか元どおりにできるようになってきた頃ころに何をしたらよいかというと、その人の気持ちが元に戻っているわけではありませんので、服喪追悼を行うということ、非常に辛つらかった体験を言葉に直すということが大事です。言葉にすることによって、亡くなってしまったことを認めるということが大事ですし、自分の複雑な気持ちに向き合って、整理をしていくのがいいのです。それから、非常に辛つらかった体験ですけれども、その体験に対してもある程度認めて、自分に対してどういう意味があったのだろうかということぐらいまでは、考えられるようになると戸いいと思います。そのために、カウンセリングは非常に有効な手段ですし、そういう体験をされた方々かたがたの自助グループに参加してみることもいいと思います。

 精神的な被害から回復するには、基本的な信頼感をまず取り戻さなくてはいけませんし、自分で何かを決定してそれを行うやることが大事ですし、それから、自分で積極的に何かりやらなくてはだめだし、他ほかの人との親密な関係をまず取り戻して、きちんと日常生活がやっていけるようにならないと回復したとはいえませんので、そのための支援ができたらと思っています。

 さらに、混乱は収まってきて、一応そんなひどい状態ではなくなってきたけれども、まだ自分が受けた被害については納得していませんし、やはり被害者であるということは非常に辛いことだという思いで、暮らしていらっしゃると思います。ですから、さらに回復を求めるには、公の場で被害体験を語っていただくとか、手記をまとめていただくとか、ここでは「怒りを建設的な形で表す」と書いてありますが、法律的な問題についてまできちんと発言するような活動を行うという方もいらっしゃいます。

 この間、本村さんがみえてお話しをされましたが、一生懸命ご自分で勉強されて、法律的な改正を促すようなにいくような、そういう活動もされています。それから、交通事故の被害者の方でも、そう簡単には、加害者は刑務所から出てこられないようにという形で、法律の改正を要求するような署名運動をしたり、いろいろ公にも活動するぐらいのことをしておられる方もあります。
 亡くなった方が無駄死にではなかったと、亡くなったことをそこへ生かさなければいけないというような気持ちになってこられれば、かなり回復されておられると感じます。それで、私わたしたちもそういう方々に、非常に学ぶことが多いという思いがいたします。

 実際に支援をするときにはどういうことを心掛けなければならないかというと、被害者の方を批判したり、非難したりとか、ただ「頑張りなさいね」とか、そういうことは言わないで、被害者の感情、経験などを、共感を持って、まず受け止めるということが大事です。

 それから、被害者の意見や選択を尊重するということが大事です。こういうふうにやりなさいとか押しつけるのではなく、「ここでは、今やれることはこういうことと、こういうことが、あると思いますけど、どんなことをやってごらんになりたいですか」というように提案をすることはいいと思います。決定は被害者の方にしていただかないと、ご自身が回復する方向には向かいません。それは非常に気をつけなければいけないことです。

 それから、その下に「支援者は救済者ではない」ということを書きましたが、それは被害者に代わって何でもやってあげますよとっていうことではありません。実際にやりたいことがあって、どうしてもその方がうまくそこを、障害を乗り越えてやることができないときにはお手伝いするということはいいと思いますが、やるのは被害者の方なので、そこをお手伝いする、お助けするとっていうぐらいの気持ちでいなければかないとなりいけません。被害者の方が自分で自律心を取り戻せるようにというふうに力づけていくのが、一番大事なことだと思います。

 実際に回復したというのはどういうことかというと、PTSDはなかなか治らない、大変なことですけども、それが普通の生活の中で、自分の被害体験がフワッとフラッシュバックして起こってくるとか、そういうことではなくて、ある程度自分で管理できるというか、思い出したくないときは思い出さないでもいられるという状態になったときが、回復したときです。

 それから、自分が傷を受けたときの記憶に対して、それに関係したような感情的なものが起こってきても、ある程度耐えられる状態になったとき。それから、自分に対しては否定的な自己評価ではなくて、ちゃんとやれるという自信が回復したとき。それから、対人関係でも元のように、大体、大事な対人関係が元に戻ったときということを目安に、回復のお手伝いをすればいいと思います。

 それから、「支援者への支援も必要になる」と書いてありますが、支援をするときに気をつけておかなければいけないのは、被害者の方のお話を聴いていますと、自分も本当ほんとに辛つらくなってしまって、もう自分も被害を受けたような気持ちになって寝られなくなってしまったりとか、ご飯が食べられなくなってしまったりとか、そういう状態が起こることがあります。これを代理受傷といいますが、それはなるべく防がなくてはいけません。

 また、自分が被害者の方と会っていたりすると、「何なんでこの人、本当ほんとにわ我がままばっかり言って」という、被害者に対するマイナスの感情が起こってくることがあります。それは、望ましいことではありません。だから、それをどういうふうに解決していかなければならないかということも、考えておかなければいけないことです。

 それから、あまり一生懸命やり過ぎても、燃え尽きてになってしまうような、そういうやり方もまずいですし、疲労がたまりすぎるのもいけない。そういういろいろなストレスが起きますので、それにはどう対処していったらいいかということを、きちんと考えておかなくてはいけません。

 「スーパービジョンも必要」と書きましたけれども、誰だれか、直接その事件には関係していない人に、自分がそういう支援をやったことについて一応報告して、どうでしょうかとって意見を聞いてみる。こういうことをスーパービジョンというのですが、それが大事です。

 それから、やるときは、一人でやるとすごく辛つらくなります、大変ですから。支援に行くときは複数でやるのが大事ですし、現場へ行くようなときは、行き帰り、車に乗ったり電車に乗ったりしますが、その電車の中でも一緒に行った人と話をする。それで結構、お互いの気持ちが大変だったのだなあっていうのを確認すると、そこでストレスがたまらずにいくのではないかと思います。

 では、私のほうの、そのあとの資料について説明しておきたいと思います。この資料[PDF:481KB]の3から、3、4、5、6ですが、これは、「犯罪被害者実態調査報告書」から抜き出したものです。

 それは、私がお話ししたところの中のいろいろな項目について、それぞれの犯罪被害者の、被害者の遺族の方、身体犯の被害者の方、性被害を受けた方、財産犯の被害者の方について、どういうことで被害を受けていたか、どういう思いをしたかとっていうふうなことをアンケートで聞いているので、比べて見みていただくと非常によく分かりますのでご覧ください。

 それが、上のほうにある、「不安だった」とか、「恥ずかしかった」とか、「誰だれかにそばにいてほしかった」とか、「自分を責めた」「運が悪いと思った」「人に会いたくなくなった」「どこかに行ってしまいたいと思った」「驚いた」「信じられないと思った」「妙に自分が冷静だと思った」とか、「痛みや感情を感じなかった」という感じで、アンケートを取っております。

 これを見ていただくと、被害者の遺族の方は非常に、「自分を責めた」というのが結構あります。「なかった」と「あった」というのが、表の右側にまとめて書いてありますが、そこを見ていただくと、「非常にあった」とっていう項目の中に、「自分を責めた」というのは、遺族の方は、67.1%もあります。

 身体犯の被害者の方はかたは、「自分を責めた」というのは29.5%しかないですが、性犯罪の被害者の方は、「自分を責めた」というのは50%もあります。それから、財産犯の被害者の方も50%ありますが、そのように、どういう犯罪に遭った人たちがどういうことを感じているかとっていうことが分かります。

 それから、事件後に二次被害と思われることが、どれだけ起こってきているか。精神的なショックを受けたとっていうのもありますし、近所の人や通行人に変な目で見られたとか、そういうことがあったか、なかったかとっていうことについてのを、細かく聞いております。これを見ていただくと、資料[PDF:481KB]の3で、「精神的ショックを受けた」というのは、非常に遺族の方には多いです。それから、「体の不調を来した」というのも、相当の方にありまますし、いろいろなのことが起きてきているので、比べて、実際に見ていただくといいと思います。

 それから、右側のほうは事実に対する認識ですが、「近所の人や通行人に変な目で見られた」というところで、97人の方が事実はあったと答えておられますが、その中で、それが被害の一部であるか、被害とはあまり思わないかという判断をしてもらっています。「被害だと思う」という回答ところが結構出てきているので、そこも実際に見ていただくといいと思います。

 皆さん、多分関心を持っておられると思うので、本も何冊か持ってきましたけれども、小西先生の『犯罪被害者の心の傷』というのは随分昔から出ている本なので、ご覧になっている方もあると思います。

 酒井肇さん、酒井智恵さんの本は、「池田小の事件の遺族と支援者による共同発信」という副題がついていますが、『犯罪被害者支援とは何か』、これはミネルヴァ書房から出ているのですが、実際に、酒井さんは娘さんを亡くされていて、その亡くされたことについて、大学の先生が長い聴き取りをしていらっしゃいます。これはカウンセリングの記録といえるものです。非常に長い聴き取りをしていて、どういうときにどういうふうに感じて、どういうことが起きて、誰だれがどういうことをやってくれたのが非常に助けになったかというようなことを、細かく書いてあるので、読んでいただくと、こういうふうに犯罪被害者に対しては対応していけばいいのだなということが分かります。是非、これも読んでいただきたい本です。

 それから、最近出たのでは、小林美佳さんが、『性犯罪被害にあうということ』という本を出されています。小林さんは、実際に公園でレイプの被害に遭った方です。そういう方が、ご自分の経験を本にすることはめったにないことですけど、勇気を持ってされたのです。性被害に遭ったときにどういうことを感じて、誰だれがどういう助けになったかということも多少は書いてありますが、非常に大変な思いをされています。

 そして、結局犯人は捕まりません。結婚もしたけれども、前の被害に遭ったときのことを思い出してしまって、やっぱり続かなかったというようなことまで書いてあります。ですから、本当のことで、非常に参考になると思いますので、是非読んでいただきたいと思っています。

 なぜ、私たちが犯罪被害者の方に支援をするかというと、私たちはその方たちを救ってあげようとか、そういうような大それた考えは持っておりません。ただ、そういう方たちに寄り添って何かしてあげると、非常にその方たちが回復していかれる姿を見せていただくことができます。

 それから、犯罪の被害に遭ったということは、回復された方をよく見ますと、本当にほんとになんか素晴らしいことをされているなっとていうか、もうびっくりするような人間の力というか、それを非常に感じるので、素晴らしいことだと感じます。絶対、被害なんかに遭ってはいけないことなのですが、是非皆さんにも、被害に遭った方たちに優しく寄り添って、一緒にやっていただけたらいいと思っております。

 次に、これからのグループワークのことをご説明します。今日決まった席に座っていただいたのは、ちょうどいいようにグループを分けていただきたいと思って、野村さんにお願いしましたので、指定されたグループでお願いします。

 実際にやっていただくことは何かといいますと、皆さんが犯罪被害のボランティアとして来てくださっているので、犯罪被害に遭った人たちに対して、言葉をかけるというようなとき、助けになるようなことを少し考えていただきたいなと思いましたので、こういたしました。

 テーマは「『私のつらかったこと、そのとき助けになった印象的な言葉』」です。

 5人ぐらいずつに分かれていただきますが、その中で、司会を決めていただいて、タイムキーパーみたいな役割も多少やっていただく方も決めていただきたいと思います。それから記録もどなたかにお願いしたいと思います。

 そのあとで、グループで話し合ったことについて報告をしてくださる方をかた、どなたか、この中で決めてください。記録の方が報告してくださってもいいですが、グループごとにどうしたらいいか、決めていただきたいと思います。

 お願いしたいのは、これは別に犯罪の被害に遭ったということじゃなくていいのです。皆さんに、まだあんまりなじみのない方に話すようなことはできないというような、そういう辛い体験は話さなくて結構です。他ほかの方にも聞いてもらってもいいという程度の辛い経験でいいですから、それをちょっと思い出していただいて、何か一つ考えていただいて。そのときに、誰だれかが何かしてくれたとっていうことも、思い出してください。全く一人で解決したとっていう方は、それでも結構ですが、ちょっと周りの人から何かしてもらったこととか、周りの人から何かちょっと言ってもらったこととか、それが自分の非常に助けになったとっていうか、ほっとしたとか、なんかそういうことを、多分皆さん、持っていらっしゃると思います。それについて話し合いをしていただきたいと思います。

 一応報告の部分と最後のまとめのところで20分ぐらいですか、取りたいので、だから、話し合いは30分を目安にぐらいで、していただきたいと思います。

 実際に、5人ぐらいずつになるので、お一人の方が長く話すと、ほかの方の発言の機会がなくなります。ですから、そこはちょっと心得ていただいて、皆さんが話せるように、司会の方が気をつけてください。自己紹介もごく簡単に、あんまり詳しいことはしなくてもいいです。一応皆さんのお名前が分かって、あの方が、どんな気持ちで、どんなことを目指してここにいらしたのかなとっていうことが、ちょっと分かるぐらいの自己紹介をしていただけばいいと思います。それではお願いします。

 必要なのは、こういう言葉とか、支援とか、それで非常に自分が助かったとっていうことについて話していただけるといいと思います。

 あんまり難しく考えないでください。つらかった経験とかって。例えば、自分が病気したとか、それから親が亡くなったとか、そんなことでもいいです。それから、何か物を取られたときなんか、辛いですよね。そういうときに、誰だれかが慰めの言葉を言ってくれたかもしれないので、そういうことを中心に考えていただきたいと思います。それでは、よろしくお願いします。

(グループワーク実施)

 皆さん、話し合い、発表をしてくださって、ありがとうございました。
 聞いていて、多分グループの他の方も、「ああ、そういうことなんだ」と多分、分かったと思います。

 せっかくここに来て皆さんのお話を聞いたので、これからまた皆さんがそういうボランティアのようなお仕事をするときの、一つのきっかけというか、力になったのではないかなと思います。

 いろいろ、そういうときに言ってはいけない言葉とかっていうのも書いている本もありますけれども、皆さんがここで話し合いをされて、そういうことはとっても、回復をするのには役に立つということを感じられたことが大事だと思います。今日は皆さんにいい経験をしていただいたと思います。

 ですから、是非、この講座を続けて受講されて、そういうボランティアの機会があれば、是非参加していただきたいと思っています。

 

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