講義1

 
テーマ:「犯罪被害者支援ボランティアの活動について」
講師:間中 壽一 氏(NPO法人長野犯罪被害者支援センター事務局長)

 実は昨日、久しぶりに私も飯田へ行きましてこういった同じ話をする機会がありました。飯田で私どものセンターでいろいろ支援をしたのが過去に2回ほどありまして、当時のことを思い出したわけです。2年ほど前に1回、3年ほど前に1回行いました。このとき飯田の相談員の方があまりいらっしゃらないということで、私ども長野のセンターから相談員が行ったわけです。

 少し説明させていただきたいと思いますが、この相談員の方、女性が8割を超す状態です。女性の方のご年齢など話を申し上げるのは、誠に失礼なのですが、50~60歳代の年代の方が大半です。女性二人で、長野からレンタカーを借りて飯田まで支援に行きました。

 昨日も3時間かけて飯田まで行き、向こうで支援を行って、さらに3時間かけてまた長野まで帰ってくるという形が2回行われたのです。往復6時間かかるボランティア活動が、果して現在のシステムとして適切なのかということが、私どものセンターの中で非常に大きな課題となっております。高速道路を使っていくわけですが、その際に何らかの交通に関するトラブルがあれば、私どもセンターとしては、この先々にいろいろなことを考えていかなければならない大きな課題がございます。

 それからもう一つ、現在抱えている課題としては、大勢の被害者の方と接して感じたのですが、見えない被害に悩んでいる被害者の方が大勢おられるということです。犯罪の被害ですから、当然警察で扱われています。物を盗られたという経済的な被害、あるいは怪我をさせられたという身体的な被害を受けた方の対応というのは警察署でも十分行われています。それとは別に私どもで対応する大勢の被害者は、一見すると、どこに被害があるのかわからないが精神的な悩みを持って電話相談へしてくる方が大勢いらっしゃるということです。

 こういった見えない被害というものをどうやっていち早く見つけ出して、被害者を支援していくか、これを見つけるのが非常に大変です。また、被害者自身は一人で悩んで、なかなか私ども民間の団体に辿り着けないという方が多く見られます。このようなことが大きな課題として残っております。

 また後ほどこの話をしたいと思いますのが、とりあえず、最初に被害者の実態をご理解いただくということで、最初にビデオを20分ほど見ていただきます。それではよろしくお願いします。

(ビデオ「ある日突然 最愛の娘を奪われて」)

 それでは拙い話ですが、1時間ほどお聞きいただければありがたいと思います。よろしくお願いいたします。
 実は、今日ここへ来る間際、急な電話が入っております。私どものほうで2年ほど支援を続けている方からでした。ショッピング街の本屋さんで女性が1名殺害されて、1名のお客様がお怪我をされたという殺傷事件が一昨年の20年の7月に東京の八王子で起きたのをご存じでしょうか。この大きな怪我をされた女性の方は長野県ご出身の方で、東京の大学に通っていて、たまたま本屋さんへ行っているときにこの被害に遭ったのです。

 このようなことを考えてみますと、長野県は悲惨な事件はあまりないと言われておりますが、このようにご子息の方が東京へ行って勉学に励んでおられる、あるいは東京で就職されておられるという県内のご出身の方もたくさんおられるわけです。ですので長野県にいるから安全だということはないわけです。

 この方からの電話があった内容は、昨年の3月に東京の八王子でこの方の裁判の第1回公判がありました。この裁判には、私もご家族の方と一緒に裁判の付添いに行き、裁判の経過を見てきました。その後、八王子地裁がなくなり、現在立川地裁へ吸収されたので、立川で行われた裁判に私どもの支援の相談員がご家族の方に付き添って、何回か傍聴に行っているという状態です。この2月10日に本事件に関して東京の高等裁判所で裁判が行われるという情報が入り、この裁判について、被害者の方やご家族の方から、是非代理傍聴をしてもらいたいという依頼が、先ほど電話で入ったということです。このようなことから、急遽、高等検察庁と連絡を取り、この代理傍聴に、私どもセンターとしての座席の確保、傍聴が確実に可能になるような状態ができるようにお願いしたり、また担当の弁護士の方と連絡をしたりしていました。

 冒頭にこのような話を申し上げたのは、長野県にいるからすべて比較的安全であるということだけではないということを、まずお気づきになっていただければと思ったからです。こうした点もお気づきになっていただければありがたいと思います。
 それでは、私のほうで皆さんにお配りしましたレジュメの内容に従いましてご説明させていただきます。よろしくお願いしたいと思います。

 先ほど、冒頭に「見えない被害」ということで申し上げましたが、実はこの見えない被害というのは、非常に奥の深いものです。私どもが現在支援をしている中で、この見えない被害というのが多数あるというのも実情です。見えない被害の実態の中で一番多く見られる形態は、各新聞あるいはテレビなどでも取り上げられるように、高齢者の介護という問題があります。高齢者の介護の中で、つい最近も介護殺人ですとか老老介護の果てにというように、介護に関わって行われる傷害事件や殺人事件が非常に多数見られるという実態があります。このような事件に関連して、隠れている被害者の方が非常に大きな悩みを持っておられるということで、私どものセンターへ電話をかけてこられるケースが非常にたくさん出てきているというのが実態です。

 具体的な話はあまり申し上げることができませんが、一般的に起きている犯罪は、家族の中でこういった介護の果てに事件になってしまうということから、お互いに高齢の方が介護を行っている中で、どちらかの方が手を出して、もう一人の介護をしている人を殺めてしまうというような形になります。そうしますと、一つの家族の中で加害者がいて、もう一人被害者の方もいるというような形になるわけです。

 そういう形でありますと、私どもでは加害者・被害者が、双方同じ家族の中におられるということから、そういう関係の中であまり支援を差し上げるということは基本的にはできないわけですが、こういった事件に関連して、影には遺族の方がいるわけです。事件の現場に全く関係のない小さな子どもさんがいたとか、あるいはその事件の起きたご家庭には既に成人している子どもさんがいらっしゃたりしますが、その子どもさんが、両親が起こした事件で大きな痛手を負ってしまって悩み続けているというような実態がでてくるわけです。このようなことは、犯罪そのものに関係はないのですが、もう長いこと支援を続けているご家族が、幾つものケースあります。

 つい最近起きた事件では、中信地区のある地区で、奥さんが旦那さんを殴ってしまって、旦那さんがけがをしてしまい、翌朝、旦那さんの寝ているところへ行ったところ、旦那さんが既に冷たくなっていたというような事件がありました。これは殺人事件というより、殴るということで、けがをさせた傷害致死事件という形で処理されているわけですが、このご家族にお一人子どもさんがおられました。この子どもさんは当事者の娘の子どもで、お嫁に行っていて、その事件の起きた場所にはおられないわけなのです。ただ、その娘さんが唯一の身内であることから、いろいろな形で警察や他の司法関係からも問い合わせを受けたり、取調べや事情聴取があったりして、立ち会っているということでした。この女性自身がこういった問題について非常に大きな悩みをもっておられるということで、少し前に電話の相談がありまして、この方に対しては、私ども組織の中で臨床心理士に対応してもらい、カウンセリングを続けているというようなケースがあります。

 また別の事件としまして、やはり家族の中で父親・母親がこういう殺人事件になってしまって、たまたまその事件の現場に中学生の息子さんがいたわけです。この母親が殺害される現場を目の前で見てしまって、これが原因で中学生の子どもさんが非常に大きな痛手を負ってしまっているという事例もございます。この事例につきましては、お母さんが亡くなってしまい、父親は刑務所へ入ってしまうということになり、そんなことから、事件のあった自宅へ住んでいることができなくなりまして、現在は他の市で生活されているということです。現在はもう成人になっているのですが、そういった痛手が非常に強くて就労できないでおられます。このようなことから、ずっと別な市で、市の生活保護を受けて暮らしておられます。

 この生活保護もかなり長いこと続いていますから、市の担当者の方から、私どものセンターへ連絡がありまして、犯罪被害者の遺族として何とか支援をしてあげられるような形がないかというご相談受けました。
 そんなことから、急遽、私どもの中で検討した結果、早急にカウンセリングを担当する臨床心理士に面接をしてもらいまして、治療を続けているというような経過がございます。

 また別な事件では、これもやはり夫婦の間で起きた事例ですが、小さな村で発生した事例がありました。ところが小さな村というのは、夫婦の間で起きた事例というのは、当然その地域に住んでおられる方にすべて知れ渡ってしまうわけです。そうしますと、そこに残されたご子息の方が何名かおられるのですが、そういった方が非常に辛い思いが残ってしまっているというのも事実であります。

 ある小さな村で起きたこの事件につきましては、この息子さんともう一人娘さんがおりました。両方とも成人なさっているんですが、この事件の遺族ということで、村の中ではいろいろな面で、比較的冷たい目で見られている実態がありました。しかし、母親が亡くなって、父親は既に刑務所へ入ってます。そうしますと、父親に関します保険の手続の問題や居住地に関する問題などについて、残されたこの子どもさんたちに通知が行くわけです。この通知を受け取った後、行政機関へ行っていろいろ相談の対応に行かなければいけなのですが、これが小さな村ですから、行ったときに、役場の人だけではなく、大勢の住民の方にお会いするわけです。これがまた、とてもいたたまれない状態になっているというようなことがありました。このようなことから、ご遺族の子どもさんたちからご相談がありまして、私どもでいろいろと支援を続けています。

 この事例では、役場へ連絡をしまして、遺族の方に対して何とか一般の村人の目にあまり晒されないような形で、何とか役場の方でご相談してくれるようお願いしましたところ、早急に、好意的に取り計らっていただきまして、村の中の全く別な施設の中で、村の役場のそれぞれの担当の係の方に別々に出向いてもらい、そこでお話をして、納得されたというようなことがありました。

 家族の中のこういったいろいろな事件、あるいは事案などによりまして大きな痛手を負う、見えない被害というのが非常に多いというのも実態です。外国の殺人事件に比べて、日本の殺人事件というのは、約半数近くが家族の中の事例だと言われています。そういったことを踏まえて見ますと、新聞紙上で起きます親族間の事例というのは非常に多いような感じがするわけです。
 ですので、見えない被害に対してどのように対応していかなければならないのか、非常に大きな課題が私どもにあり、日夜、飛び歩いているというのが実態です。そのため、冒頭からちょっと細かい話を申し上げたわけです。

 今現在、私ども犯罪被害者支援センターに関わっていただいている、今日こちらにおいでになっている相談員の方もそうですが、大勢の方に関わってもらっております。こういったボランティアの活動に従事されている方がいなければ、私どものこういった組織というものはとても成り立っていかないというのが実態です。最初にありますとおり、民間団体による犯罪被害者支援ボランティアの活動の中で、「なぜ民間の被害者支援団体による支援活動が行われるのか」ということが大きなの課題ではないかと感じております。

 外国の状態を見てみますと、特にこの被害者支援に関して先進的なイギリスやアメリカの支援の形と、日本の支援の形は、もう全く相違しております。特にイギリスの状態を見てみると、1975年頃には、もうこういった犯罪被害者に対する支援が始まっているのです。日本では、1996年に警察庁が被害者対策要綱を策定しました。それから、警察において被害者支援の取組がなされるようになりました。このイギリスの支援の状態はどうかと言いますと、イギリスでは国の行政機関の中に、日本語でいう「被害者支援庁」というような、一つの行政機関がしっかりできており、そこの行政機関の中には約800名の常勤職員の方が国の職員としています。その800人の被害者支援の常勤職員の方に付随して、ボランティアの方が大勢参加していただいて支援の活動を続けているという形が取られています。

 それに反して日本では、一応私ども民間の団体だけが、犯罪被害者支援を行っている。私どものほかにも被害者団体として支援を行っている団体なども幾つかございますが、全国的に行っている組織としましては、私どもの支援センターが入っております全国被害者支援ネットワークが中心になってやっているというのが実態です。

 それではなぜ、こういった民間の団体による支援がこれほどまでに行われるような状態になっているのかと申しますと、やはり一番は行政機関が行う犯罪被害者支援というのも非常にたくさんございます。もちろん長野県あるいはそれぞれの各県にあります警察が行う犯罪の被害者支援という形が非常にたくさん取られていることも事実でございます。しかし、なかなか行政機関の中で、個々の犯罪被害者支援、被害者の方に対応していく中で、どうしても行えていないというような実態があるのも事実です。特に行政機関というのは、ご自分のおやりになる仕事の中で非常に規約や規則が細かく決められているわけです。したがってその規則の中でしか動けないというのも実態ではないかと思うのです。

 しかし、被害者あるいはご遺族のいろいろな思いの中、こういう支援をしてもらいたいというニーズを見てみますと、非常に細かいことがたくさんあります。こういった個々の被害者の方、あるいは遺族の方の細かい支援に対応していくためには、やはり民間の団体でないと対応できないというような支援の形が非常にたくさんあるということです。このようなことから、被害者支援は民間の団体に委託されて行われているというのが実態です。これをまずご承知いただきたいと思います。

 冒頭も申し上げましたとおり、イギリスなどでは国の機関があって、その中にボランティア活動があるといった形です。日本でもこういう形が取れるようになれば非常にありがたい感じもしますが、現在の段階ではこういう形で、ボランティア団体として活動しているのが実態です。

 次に、私どものセンターがどんな形の組織であるかということですが、皆様方のほうにお配りしております、同じような表紙の内容の資料の中で「被害者を知ってください」という資料がお手元に届いていると思います。これは、被害者ではない一般の方に被害者のことを知っていただきたいということでつくった資料でございます。

 もう一つあります「一人で悩まないで」という、赤い字で書いてあります資料ですが、これは被害者あるいはご遺族の方に対してお作りした資料です。組織的なことにつきましては「被害者を知ってください」という資料をご覧になっていただければ、私どものセンターのやっている仕事の内容がおわかりになるのではないかと思います。

 もちろん、この被害者支援団体につきましては、長野県においても非常に活発にいろいろな支援の形を取っていただいております。現在行われているこの研修会などにつきましても、内閣府の事業として行われると先ほど説明がございましたが、内閣府で行う事業の一つとして、全国でこういう形で研修会というものを開いたらということで、長野県の担当の人権の男女共同参画課の皆さんから内閣府のほうへ申請をされまして、それが元で、こういう形で今回研修が行われるようになったという実態でございます。

 またもう一つ、県からお作りにいただいております「犯罪被害者のための相談窓口」という資料もございますが、この資料の中には、それぞれ犯罪被害に関する各種相談の窓口なども出ております。この相談の窓口の中で、女性、男女間暴力あるいは性犯罪という項目がありますが、その中ほどに「あいとぴあ」という施設があります。これは岡谷市にある施設ですが、この施設については、実は私どもでは非常にお世話になっておりまして、長野県は非常に広いわけなのですが、中信または南信地域で起きたいろいろな被害者の方と面接をするときに「あいとぴあ」の一室をお借りして、カウンセリングや面接の作業を進めています。このように、長野県内におきましても、非常にこの犯罪被害者支援という形を積極的に取り組んでいただいていることも事実です。

 また私どものセンターの組織につきましては、先ほど申しましたように、この資料の内容でございます。活動の仕組みなどにつきましては、ここにありますとおり、「犯罪被害者支援者センターは犯罪被害者やご家族を支援します」というような内容から、支援の形がいろいろな形で出ております。これにつきましては、後ほどまた少し細かく説明させていただくことにします。

 次に、民間の支援団体による支援の活動の基本ということですが、最初に支援活動の究極の目標ということで掲げてあります。ボランティア団体としましては、多くの場合にこういった目標があるわけなんですが、私ども犯罪被害者支援センターとして支援活動を行う一番の目標は、やはり被害者の方がご自分の受けた被害というもの、困難な状況からいち早く回復していただいて、これからも生きる人間として以前と同じ生活を取り戻していただくようにするための支援を行うという形が究極の目標でございます。

 このことを踏まえ、被害者自身あるいはご遺族の方自身には、生き返る力というもの、元の生活を取り戻せる力というものは、それぞれの方がそれぞれの立場で力をお持ちになって、元の生活に戻っていただくということを目指して、すべての支援が行われてます。

 常磐大学に犯罪被害学という一つの部門があります。ここで教授をされている、長井進さんという方がおられます。この方は非常にご熱心にこの被害者学を勉強されておりまして、いろいろな形で著書なども出しておられます。この長井進さんが、以前ある新聞の中に投書をされたものがここにありますので、ちょっとご紹介してみたいと思います。秋葉原の大きな殺傷事件がありましたが、この殺傷事件に関連して、被害者としてどんな形ということをお書きになった投書でございます。「被害者支援は長い目で」ということでお書きになり、その中でこのようなふうに言っております。

 「これまでの日常生活が成り立たなくなる困難に加え、裁判も始まる。そうした中で被害者の傍らに居続け、必要なことを把握し、一つずつ実現していくための調整を果たす。複数の方策を示して選んでもらい、意思確認を取りながら進めていく。そうした存在が、被害者にそれぞれ欠かせないのである。被害者支援とは、『私には自分で判断し、意思決定をする力がある』という感覚を取り戻してもらうことだ。被害者の悲しみや苦しみは消えない。10年先を見据えながら、長期的に関わる必要がある」。こういうふうに、被害者支援ということをおっしゃっておられます。正にこの言葉どおりではないかというふうに思うわけでございます。このようなことで、私ども犯罪被害者支援センターが、各種の形で支援を続けております。

 この次に、途切れることのない支援という形でございます。実は、現在制定されております犯罪被害者等基本法という法律がございますが、この基本法の中の、大きな基本的な事項の中の一つでございます。その中には、実に何と各行政庁が、実施すべき258の施策を決めて、いろいろおやりになっているということでございます。この途切れることのない支援を行うため、各種の情報提供が行われております。といいますのは、被害者自身は全くご自分が悩んでおられるけれど、これを解決するためにどういうことが一番欲しいのかということで、その欲しいものに対して各種の情報を差し上げるというのが一つの目標になっております。

 この情報の提供ということに関連しまして、非常に数の細かい、例えば司法関係の実態です。被害者自身の方、ご遺族の方がすぐ始まるのは、裁判です。しかし裁判が行われても、裁判所へどんな形で関わっていったらいいのかということも、非常に被害者自身の大きな悩みになっているわけです。あるいは、現在自分の被害を受けた加害者がどんな生活をしているのか、どこの刑務所にいるのかという各種情報を非常に求めておられる被害者の方もたくさんいるわけです。こういった細かいそれぞれの情報を、いかにして途切れることなく被害者の方に提供していくかということも、非常に大きな基本的な問題となっております。

 また、途切れることのない支援のもう一つの大きな課題としましては、それぞれ犯罪被害者にかかわる各種の団体があります。もちろん長野県を始めとしまして、警察の組織あるいは一般的な司法的な組織、あるいは県の所属する、先ほど見ていただきました各種の団体があるわけなんですが、この団体との連携をいかに強めて被害者の方に適切な支援を差し上げることができるかということも、非常に大きな課題として、私どもは捉えております。この連携ということに関連しましては、警察署の中に、各警察署の単位の中で支援連絡協議会という組織をおつくりになっていただきまして、そこで各地域ごとの支援の担当される方がお集まりになって、そこの中でいろいろな活動をされておられるというのも実態でございます。こういった連絡協議会が行われることによりまして、担当者自身が犯罪被害者の実態を把握されながら、被害者に対してお気づきになりながら支援していくという形が現在取られておりまして、この連携がいかに活発に行われるかによって、非常に被害者に対する支援が大きく左右されるのではないかと思います。

 このほか、これは私どもとしましては、途切れることのない支援として、支援に関するいろいろな知識を、組織の中の大勢の方に共有していただきたいということから、この支援に関するいろいろな研修会を行っております。次に出てきますこの組織の中の支援の形態の中でもお話しする予定ですが、支援に関する知識というのは非常に多岐に渡っており、非常に複雑な問題もありますが、いずれにしましても、これをクリアしながら支援を続けていくという形をとっております。

 また3つ目のボランティアの倫理としまして、やはりボランティア活動をされる大勢の相談員の方については、ボランティアの倫理というものをお気づきになって活動していただきたいということで、いろいろな形でお願いしております。一番お願いしているのは、秘密の保持をお願いをしていることでございます。多分に犯罪被害者あるいはご遺族の方というのは、ご自分の受けた被害内容につきましては、あまり大勢の方に積極的に知ってもらいたくないという内容のものも非常にたくさんあります。ご自分の名前すら、私どもへ電話をかけてくるときもおっしゃらない被害者の方も大勢いるわけです。このようなことから、被害者自身の秘密の保持ということに非常に大きな題目を置きまして、私どもは対応しています。

 さらに2番目の問題としましては、支援の究極の問題にもかかわりますが、被害者自身を尊重した態度というのが非常に大切だということをお願いをしております。この尊重した対応ということでお願いするほかに、責任を持った対応をしていただきたいということも、3つ目としてお願いをしています。

 責任を持った対応ということにつきまして、こういう事例もございます。これは私どものセンターではございませんが、私どものセンターが加盟している全国的な組織というのは、各都道府県に一つずつ、こういう私どものセンターのようなものがあるわけですが、そこへ加盟していただいている大勢のボランティアの皆さんの中には、ボランティアとして参加することについて、単に自分の居場所だけを求めてボランティアに参加しておられる方もおられるということです。そうしますと、自分が望むような支援の形だけを自分は担当するのであって、それ以外のものは一切関わりませんよという考え方で参加されている方も大勢おられるというような実態も報告されております。このようなことのないように、私どものセンターとしましては、相談員の皆さんと積極的に話を進め、それぞれが責任を持った態度でボランティアとして参加していただきたいということで、各種の支援活動を進めているというのも実態でございます。

 それでは、4番目の支援活動の形態ということに入りたいと思います。支援活動、被害者が望む支援ということで、これは非常にたくさんの被害者のニーズがございます。このニーズに基づきまして、被害者の方に対応して、この人は何を必要としているのかと、この人が究極の目的であります、各自の、ご自分の力で元の生活を取り戻してもらうための生活を行うために、どんな支援が必要なのかを細かくお聞きした上で、最適な支援を作りあげていくという形です。

 被害者の方の望む支援というのは非常にたくさんございます。一番大きなものは、やはり情報の提供ということです。自分が悲惨な目に遭った、この犯罪被害者について、それぞれその時点に応じた情報の提供ということを非常に多くの方が求めておられます。また、精神的なケアを求める被害者の方も大勢おられます。

 さらに、直接的な支援を求められる方も非常にたくさんおります。特に悲惨な大きな事件に遭った被害者の方については、例えば殺人事件等になりますと、ご家族の方が遺体となって帰ってくるわけですが、このときからすぐ始まることが、葬儀の問題などがあります。ところが事件に遭ったということから、とても通常の生活に戻れなくて、なかなか葬儀のことまで細かい面倒を見るというような形が取れないわけなのです。こういった方に対して、事件直後の被害者のニーズに応じまして、ご葬儀の手伝いですとか、あるいは家庭内での細かな日常生活の支援なども行ったりしています。

 さらに経済的な被害の回復のためにいろいろなことが行われるわけですが、特に直後の状態というのは、一時的に非常にお金のかかるような状態であるのです。このお金がかかる状態の中で加害者から適切なお金が提供されれば問題ないのですが、事件の直後ではなかなかこういった状態にならないわけです。こういったことについて、それぞれの機関で行っている支援活動に対して、行えるような経済的な支援の対応というのも行われております。こういったことで、被害者の望む支援という形を積極的にとっていくというような対応をとっております。

 それでは、2番目の支援活動の形態です。最初にありますのが、電話相談による支援という形でございます。これは現在、長野県内、長野それから中信地区が豊科の合同庁舎の中にお借りしてます。もう一つ、飯田に民間の施設をお借りして電話の相談所を開設しまして、電話の相談に対応しています。

 次が被害直後の危機介入ということです。これ以降に行われるのは直接的支援という形で呼んでいます。最初に事件現場となりますのがご自宅であったりしたような場合に、非常にご自宅の中が混乱してしまうわけです。こういったことについて、個々のお宅の中に私どもの支援員、相談員が参りまして、通常の生活ができるような状態でいろいろな形で支援を行っています。特に食事、着替え、身の回りの世話、あるいは小さな子どもさんがおられるような場合には子どもさんの学校の送り迎え、こういったようなことなども合わせた形で支援が行われるというのが、直接的な支援の第一歩であります危機介入的な支援という内容です。

 さらに数日後に起きますシーン、これは数日後になりますと大きな事件では葬儀なども行われます。またそれぞれの経済的な支援の中の一つとして、保険や各種の保障制度の請求の問題が出てきます。こういったことについて事務的な手続のお手伝いをしていくことが、この数日後における支援でございます。さらに、逮捕あるいは裁判中の支援になりますが、これ以降はずっとこういった内容が継続するわけですが、裁判が行われますと、裁判の進行にしたがって、こういった裁判に関するいろいろな情報の提供が行われます。また裁判が行われて、お一人で裁判になかなか参加できない、傍聴できないというような被害者の方もおいでになります。これに関しましては最初に申しましたように、代理傍聴も行っております。さらに一般的な形としましては、公判の付添いが最近は非常に頻繁に行われるような状態になってきております。このようなところが、私ども支援センターの主な活動内容などでございます。

 5つ目の問題としまして、ボランティア相談員の養成と研修があります。これは私どもセンターで行う非常に大きな課目になっております。一つはまずボランティアを目指してこられます、相談員の方に対する養成講座を行っております。今年度は長野市で行いました。長野県の実態を見てみますと、私どものセンターに長野県内約50名のボランティアの相談員の方がいるわけですが、長野市を中心にどうしても多数の方が参加されているというのが実態でございます。そうしますと、中信地区あるいは南信地区のボランティア相談員の方が非常に少ないのも実態です。このようなことから、広い長野県の中、すべてのところでボランティア相談員に参加していただきたいとのことから、来年度、この6月から11月の間にまたこのボランティアの相談養成講座を行うための予定を組んでおります。来年度の6月から行われる養成講座は、中信地区かあるいは南信地区で実施することで、今、最終の詰めを行っている段階です。さらにボランティア相談員になった後、継続的な研修というのも続けております。また特異な支援の状態もありますので、支援の状態に応じて支援研修も行っています。

 私どものセンターは、先ほども申しましたように全国的な組織に加盟するセンターでございます。特に隣の県のセンターと上下関係などは全くございません。東京に、犯罪被害者の都民センターというのがございますが、こういった組織とも全く上下関係はないわけですが、それぞれの県がそれぞれのところでありました被害について、どこにいても同じ支援を受けるということが非常に大切になってきます。このようなことから、全国的なネットワークという組織がございまして、どこにいても同じ支援が受けられるということを目指して、全国的な研修会あるいは関東甲信越ブロック研修会、さらに上級研修やコーディネーター研修も積極的に行われています。このようなことで、私ども犯罪被害者支援センターが行っております支援という形が取られています。どうぞ、このようなこともご承知おき願いたいと思います。

 最後になりましたが、被害者支援団体としての大きな課題ということで、先ほど来からお話ししております3つの課題があります。
 見えない被害者に対する支援をいかにやっていくかということ、見えない被害者につきましては統計上の被害者、これは警察署でお取り扱いになっていただきます財産上の被害あるいは身体的な被害については、被害届をお取りになって統計に載る状態でいるわけですが、統計に表れない被害というのもいくつかあるというふうに先ほど申し上げております。こういった見えない被害に対して、どういう形で対応していくかということですが、一番は、ここでお願いしたいこともありますが、町や村の行政機関の方自身が、やはり被害者に一番身近な存在でいるのではないかと思います。こういったそれぞれの行政機関の方々の立場で、いろいろお仕事をされている中で、被害者の方をお見かけしたときに、何かお悩みになっているようなことがないか、是非お声をかけていただきたいということを、思っております。

 また、被害者の方がお住まいになっている町内会あるいは隣組会が各地域にあるわけですが、特にこの町内会の中に犯罪被害者を担当する方がいるわけではありませんが、町内会の中で、お隣同士の方が被害者の方に対して問いかけを行って、何か支援するような形がないかというようなことから、私どものセンターのほうへ繋げていただくという形が一番望ましいのではないかと思います。あるいは隣近所の方、被害者の方がお勤めになっております職場の関係の中から、こういった見えない被害者に対する支援が手に届くような状態になっていただければ一番ありがたいと思っています。

 さらに広域な地域における支援活動の課題としまして、冒頭にも申し上げましたとおり、支援の活動というのは非常に多岐に渡ってきているわけです。さらにこの長野県中、いろいろなところで各種の被害に遭っておられる方というのはたくさんいるわけです。こういった人たちに対して、どこに住んでいても平等に支援を受けられるという形が非常に大切になってきます。しかし長野県の場合は非常に広い範囲であるというのが、飯田地域で起きた事件について、長野から飛んでいって支援をするというようなことのないような形で是非支援をするような体制を作り上げていきたいというのが、広域な地域における支援活動上の課題です。

 さらに3つ目としまして、被害者支援団体としての財政的あるいは施設、あるいは人材育成ということについて、大きな課題もございます。こういったことにつきまして、今後精神的に課題の成就のために進めていきたいと思っております。

 このようなことで私の話は終わりにさせていただきたいと思いますが、最終的に、一つの事例についてお話したいと思います。
 交通事故でご子息を亡くされたある被害者の方がおいでになります。これは轢き逃げ交通事故によりましてご子息の方を亡くされた方でございます。この方は奥さんが私どものほうへ電話の相談をおかけになってきていただいたことから、ずっと支援を続けてきたという方です。ご主人からお聞きした話によりますと、奥さんが毎日必ず夕食のときになると、亡くなったご子息のお名前を呼んで、「○○の帰りが今日も遅いね」とお声をかけるんだそうです。これがもう、事件があってから3年近くなるわけですが、その間、ずっとこういう状態で、毎晩ご主人にその言葉をかけておられたということございました。

 そんな話をお聞きしていた中で、たまたま長野県内のある市から「交通事故被害者遺族の方でお話しできるような方はいませんか」というような紹介をいただいたわけです。そんなことからすぐに思い出したのは、先ほど申しました被害者の遺族の方から、奥さんがそういうお話をしているというようなことを聞いていたものですから、すぐにこの方をご紹介して、当日、市民の集いの中で犯罪被害者の遺族の立場でお話をしていただきました。私も、ご紹介したこともあり、聞いていました。当日、奥さんと前へ行かれまして、旦那さんがお話をされました。終わった後、数日して、私どものセンターへ旦那さんがお見えになりまして、「非常にありがたかった。私のしゃべったことについて、妻が非常に喜んでくれた」とおっしゃいました。「私のしゃべったことは、妻が持っているいろいろな悩みについて、私がすべてしゃべってくれたと。それについて、妻が非常に喜んでれた」というふうにおっしゃったわけです。その講演会が行われた日以降、奥さんが夕食のときになると子どもさんの名前を毎日呼んでいたのがピッタリ止まったということでした。

 先ほど、被害者の支援の基本の中で、被害者の方が元の生活がとれるような状態になるということを目指して支援を行っていると申し上げたわけでございますが、この事例から、このようなことが是非今後も続いていってもらえるようになっていただくことを目指して、支援を続けていきたいと考えているところでございます。

 最後に、このような話を皆さんにご紹介したわけですが、是非また、私ども支援センターに対しまして各種のご支援をいただければありがたいなと思っております。どうぞよろしくお願いしたいと思います。ありがとうございました。
 

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