講義1

 
テーマ:「犯罪被害者支援ボランティアの活動について」
講師:間中 壽一 氏(NPO法人長野犯罪被害者支援センター事務局長)

 皆さん、こんばんは。こんなに遅い時間に積極的に参加していただきましてありがとうございます。
 ボランティア活動で実際にどんなことをやっているのか、皆さんがわかりやすいようになるべく細かく説明させていただきたいと思います。その後、私どもの犯罪被害者支援センターで実際に相談員をされている鮎澤さんから犯罪被害者支援のいろいろなご経験をお話いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 私どもの犯罪被害者支援センターは、長野県の中で唯一の民間の犯罪被害者支援団体ということで活動しています。現在いろいろな活動をしている中で非常にたくさんの課題を持っております。一番大きな課題は、皆さんもお気づきかもしれませんが、お年寄りの介護という問題が大きなテーマになっております。介護の問題と犯罪被害者がどういう関係にあるのかというと、介護の果てに介護をしている方、されている方のどちらかが行き詰まってしまい、介護をしている方あるいは介護をされている方を殺めてしまうといった犯罪行為が、たくさん出ております。こういう事例は、親族の中で起きるものです。

 例えば、旦那さんが介護を受けていて奥さんが旦那さんを殴ってしまったというような場合だと、親族の中で加害者と被害者というような立場になってしまうわけです。そうしますと、私どものセンターとしては基本的には支援という形を取れません。ただ、こういう問題もあります。事件の現場にたまたま小さい子どもさんがいたとか、あるいはこの事件の起こった後で残されたご家族の方が、いろいろ深い問題を抱え込んでしまいなかなか以前の生活が取り戻せなくて非常にお悩みになっていることが、非常にたくさんあるわけです。

 こういうお悩みは、日ごろあまり表に出てきません。ご遺族の方の立場とすると、そういった状態が自分の家族の中で、両親の中で起きているということはなかなか表だって言えないこともあります。あるいは事件の現場そのものをたまたま見ていた小さな子どもさんたちが、非常に精神的に大きなショックを受けて悩んでしまうということも出ております。

 こういった直接目に見えない被害というものをどうやっていち早く私どもの方で把握して、そういった被害者の方あるいはご遺族の方にいち早く支援の手を差し伸べていくことが非常に大きな課題になっております。

 今日はそんなことも含めまして、皆さんに被害の実態ということ、それから私どものセンターではこういう支援を行っています、という実態などについて、お話させていただきたいと思います。

 その後、相談員の鮎澤さんの方からお話いただきますが、鮎澤さんは私どものセンターに入られて、5年以上も活動していただいております。普段はお仕事を持っておられて、その合間に電話の相談などでおいでいただき、電話の相談以外にも、直接的な支援の関係でいろんな被害者の方に直接寄り添って、いろんな形で支援をされています。

 そんな、ご自分の活動の実態を細かくご説明していただくことになっております。最終的には先程担当の係の方のお話がありましたように、私どものボランティア活動に是非皆様の中からもご参加していただければありがたいなと思っておりますので、よろしくお願いします。

(ビデオ「ある日突然 最愛の娘を奪われて」)

 それでは私から続けて話をさせていただきたいと思います。
 今、DVDをご覧になって犯罪被害者あるいはご遺族の方が、いろいろなお悩みを持っておられる状態がおわかりになったと思います。また、犯罪被害ということ自体がこの長野県、また、この松本にいれば、そんなにたくさん起きないことは皆さん方もご承知かと思います。ただ、こういう事例もございます。

 東京の秋葉原などではあれだけ大勢の方が亡くなって、また、大勢の方が怪我をしているという実態があります。茨城県の土浦でも同じような無差別殺傷事件というようなものが発生しております。東京都内だけでも八王子のビルの9階でも殺傷事件がありまして、店員の方が亡くなりました。幸い、長野県ではこういった大きな事件が起きていないことは、ある程度安心する部分もあるのですが、結果としてこういう場合もあります。

 ご承知かと思いますが、長野市松代町の方で東城瑠理香さんという方が東京の港区のマンションに住んでおられて、すぐ隣の1つ隣にいる方から家の中に踏み込まれて殺害され、亡くなりになったという事件が起きております。ですから、長野県におられるから決して犯罪被害に遭うことはないという保証は何もありません。

 もう1つ、先程ちょっと触れた八王子であったビルの9階の本屋さんで発生した事件ですが、お亡くなりになったのは店員の方ですけれども、元々茨城県のご出身の方でした。実は、最初に本屋さんで本を選んでいて切りつけられた方というのは、長野県のご出身の方だったのです。たまたま東京の大学へ通っておられて、ご自分の本を選んでいてこの被害に遭ってしまいました。この事件につきましては、ご家族の方自体も「娘が何でこんな理不尽な犯罪に遭わなければならないのか」ということから、私どもセンターの方にご連絡をいただき、いろいろお話をしました。犯人は間もなく捕まったものですから、約3ヶ月してから犯人に対する裁判が始まったわけです。裁判といいましても、東京で起きた事件ですから、ご自分で東京まで行ってその裁判の結果を見るということはなかなか難しかったのですが、是非家族として「娘が何でこんな事件に遭ったのか確認をしたい」というお話をいただいて、東京の地方検察庁と相談をしました。そして、この裁判の傍聴を続けるということでご家族の方と東京の八王子の地裁で行われました裁判へ行きまして、付添いの支援を続けているということになります。この方の事件につきましては、2月10日に東京の高等裁判所で裁判が行われるのですが、家族の方がどうしても都合がつかず裁判に出られないということでしたので、過日東京の高等検察庁のほうと連絡を取りまして、私どものほうで相談員の方2名がこの裁判に行って傍聴してきます。これは代理傍聴という形になるのですが、その結果をご家族の方にお伝えするという形で今準備を進めています。

 このように、この長野県にいると比較的大きな事件というのは少ないのですが、いろんな形で犯罪の被害に遭う方がいることもご承知おき願います。また、そういった事件によって大勢の方が深く悩んでおられることを、どうぞご承知おきいただきたいと思います。

 それでは、犯罪被害者支援ボランティア活動について、話を進めさせていただきたいと思います。どういうわけで私どものような民間の団体が犯罪被害者の支援を行うのか、ということをまず皆様に少しお気づきになっていただきたいと思います。この犯罪被害者支援という形は、世界中を見てみますと、特にイギリスですとかアメリカなどではこういう形が取られております。

 それぞれの国の中に犯罪被害者を支援される、いわゆる犯罪被害者支援庁という1つのお役所があります。そういうところでは国の職員の方が大勢います。例えばイギリスの場合ですと、犯罪被害者支援庁の中には約800人の方が職員としてお勤めになっており、そこへ、何万人という大勢の方がボランティアとしてご参加しているのです。イギリスなどでは国のほうでかなり大きな予算を使って、犯罪被害者支援活動を積極的に行っています。そこへボランティアの方が大勢参加しまして、一緒に被害者の方を支援しているという体制がとられています。

 日本を見てみますと、まだこの犯罪被害者支援庁といったものは何もありません。現在私どもの民間の団体としましては、是非国の中でこういった犯罪被害者を専門に扱う具体的な活動をしてもらう役所が欲しいということで内閣府のほうへお願いをしております。しかし、現在の段階では新しい庁をつくるにはいろんな問題があり、難しい状態です。結局は私ども民間の団体、ボランティア団体が扱うという形になってしまっているのが実情です。こんなことがあるということをどうぞご承知おき願いたいと思います。

 それでは、なぜ民間の団体がこういったボランティア活動をやっているのかということですが、やはり一番言えることは公務員の皆さんが活動される場合、行政機関としての制約が非常にたくさんあるということも事実です。ですから、あまり細かいところまで踏み込んだ支援という形がなかなかとれないというのが、実情ではないかと言われております。そんなことで、行政が対応できない部分のことをきめ細かくやっていくのは、やはり民間のボランティア団体の皆さんが、私どものような団体のものが、犯罪被害者の方あるいはご遺族の方に踏み込んでご支援していくという形が望ましいのではないかと言われております。

 また1つの行政庁としますと、「こういう支援をします」と言いますと、大きな組織の中で動かなければなりません。そうしますと、それぞれの段階に応じた方がすべて納得をしていただいた上で、支援という形がとられるということになるわけですが、犯罪被害者自身は本当にいたたまれない状態で、すぐにもこうやってもらいたいと望んでいるのですが、それに対応することになりますと、行政庁がこの問題を取り扱っていくということは難しいことです。それに比べて私どもの民間の団体は、被害者の方からこういうお悩みの苦情がありますよというと、すぐ中で話をして、それぞれ自分の職業を持っておられますが、どんどん電話で連絡をとって、ものの30分もしないうちにもうおよその支援の概要というものを決めて、被害者と支援を続けていくという形を取っています。非常に迅速な対応ができることにおいては、民間の団体として非常に大きな成果が得られているのではないかと思います。

 さらに、現在の日本の団体の状態を見てみましても、お隣同士との付き合いが何か希薄な状態になってきております。そのような中で犯罪被害に遭った方に対して、民間のボランティア団体が支えていくという、国自体も、日本の国の中だけでも、この国民の気持ちとして非常に大きなメリットがあるのではないかとも言われております。
 私ども民間の団体として今申し上げましたような状態で支援を続けているというのを、知っていただければと思います。

 それでは二番目の民間の被害者支援団体とはどんな組織かということですが、その前に、長野県における犯罪被害者支援の状況をお伝えします。皆さんのところへお配りしました資料の中に、「犯罪被害者のための相談窓口」というパンフレットがございます。これをご覧になっていただくと、長野県のそれぞれの行政機関の中で、これだけ多くのところが犯罪被害者の方を対応するための窓口というものを持っております。ただ行政の機関ではありますが、すべてのところが、まだこの犯罪被害者のことを深く理解してもらっているというところまでは、まだ手が届いていないところもあるとも聞いております。

 そのようなことで、私どもで入っております支援センターの理事などが、県のほうでこの被害者の窓口担当の方を集めていろんな研修会なども行われています。これには積極的に大勢の職員の方にご出席していただいて、研修を受講されているということです。

 そのように、県のほうでも非常に大きな形で犯罪被害者の支援を取り上げられておられます。そんなこともまずご承知おき願いたいと思います。現在この研修会自体も長野県の企画で行われるようになったということです。

 それでは、私ども長野犯罪被害者支援センターが、どういう組織かということでございます。これにつきましては、皆様方へお配りした「犯罪被害者を知ってください」というパンフレットがございます。これを一枚めくっていただきますと、すぐ右側のほうに、「犯罪被害者支援センターは犯罪被害者やご家族を支援します」というような内容があります。その裏に「NPO長野犯罪被害者支援センターのご案内」ということで出ております。少しこれをご覧になっていただきたいと思います。

 活動の仕組みとしましては、私どものセンターが真ん中にあります。私ども組織の中では、全くの民間の団体ということで、1つの総会が毎年一回ずつ行われております。その総会の下に理事会というものがございまして、これは理事の方がこの下におりますように、これだけご参加いただいております。ご覧のとおり、弁護士の方ですとか、あるいは精神保健センターの方、さらに大学の教授の方、こういった方に大勢参加していただいており、それぞれ犯罪被害者の方がお持ちのいろんな悩みについて対応してご活躍していただいております。この理事の一番始めに出てきております、酒井宏幸さんという弁護士の方は私どものセンターが加入している全国的な組織の犯罪被害者の会の中で、ネットワーク組織というのがございまして、その東京にある、全国ネットの拠点の理事も務めておりまして、日本中の犯罪被害者支援の活動をされています。

 また、もう少し下がっていきますと、信州大学の中西公一郎先生という方は臨床心理士で、信州大学の教育学部でご活躍しておられます。またその次のほうに望月秋一様という方がおいでになりますが、この方は長野県の臨床心理士会の会長をお務めになっておられます。この臨床心理士というのも、いろんな犯罪被害者として、非常にたくさんお悩みになることがあります。こういうことについては、私のほうですべて場所を作り、臨床心理士の方がカウンセリングを行うというような体制を取りまして、被害者の方の改善に努めております。このようなことで私どもの組織としましては、こういった総会、理事会、さらにその下に事務局の方、それからボランティア団体、ボランティア相談員ということで大勢の方に参加していただいています。

 では、次に、民間の支援団体による支援活動の基本です。これがボランティア団体としての一番、基本になることです。皆さんも他のボランティア団体などにも入って、こういったお話も聞いておられるかと思いますが、私どもセンターの行う、支援活動の究極の目標ということです。これにつきましては、先ほどのDVDの中でも鈴木さんという被害者の方が、最後には家族の中で笑顔を取り戻して、また元の生活に戻られたとお話しされておりました。私どもの活動の目標としましては、被害者の方あるいは遺族の方自身が再びもとの生活に戻ることができる力というものは、それぞれの方が持ち合わせているのだということを自覚してもらう、もらえるような支援を行うというのが私どもの究極の目的でございます。ですから、私どものセンターで行っている支援というのは犯罪被害者の方が悩んでおられることすべてを支援することが目的ということではなくて、あくまでも犯罪被害者の方がそれぞれ自分の力で再び元の生活が取り戻せるような状態に帰っていただく、これが究極の目的だということをまず皆さんもご承知していただきたいと思います。

 この犯罪被害者のことについて、研究しておられる方がおります。これは常磐大学という、日本の中でこの大学に犯罪被害者学という学問を研究されている先生がおります。この先生がこの間、ある新聞に投書をされた内容がありますので、少しご紹介しておきます。

 その中では、被害者支援とはこういうことだと言っています。「『私には自分で判断し、意志決定する力がある』という感覚を取り戻してもらうことだ。被害者の悲しみや苦しみは消えない。十年先を見据えながら長期的に関わる必要がある。誰もが犯罪に巻き込まれる可能性がある中、身近な人が被害に遭ったときどのように接したらよいのか、一言で言えばこれまでどおりに接することだ。下手な同情や哀れみはしない。時間はかかるが、回復する力はその人自身に備わっているということを心にとめて接してほしい。』。これがこの先生のおっしゃっている一番基本的なことでございます。被害者自身の方に自分の力で立ち直ってもらうということ、これが私ども、大勢の支援を行っております者の見方であるということです。

 それから、途切れることのない支援です。犯罪被害者の方、ご遺族の方は、非常にたくさんのニーズを持っております。それぞれの犯罪被害者の方が全く同じニーズを持っておられることはございません。先ほどのDVDをご覧になりまして、鈴木さんがご家族の中で非常にお悩みになっておられたという場面がありました。それで、同じ状態で被害に遭った方がそっくり同じ状態になるかというと、そんなことはなくて、被害者それぞれの方がお悩みになっている状態というのは、違うということが言われております。私どもセンターとしては被害者の方と最初に面接をしたときに、この被害者の方が何を望んで電話をかけてこられたか、あるいは面接に来られたか、こういったことを把握することが非常に大切なことだと言われております。そして、その被害者の方が望んでおられる支援をいち早く把握して、その悩みを解決するためにどんな支援が一番必要なのか一番初めに見つけ出すことではないかといわれております。

 そのようなことで、多くの支援の形が取られていますが、こういった支援が途切れることなく行われることが非常に大切です。そのために被害者の方には多くの情報を提供しております。と言いますのは、被害者自身が求めている、あるいは望んでいることについて、それぞれいろんな機関があるわけです。先ほど長野県のパンフレットをご覧になって、それぞれの機関がございますが、行っている支援がみんな違います。それで、被害者の方が望んでおられる支援に、どの機関が対応していくことが一番適切なものか、ということもあるわけなのです。このようなことから、情報の提供は被害者の方にとって、大きなメリットのあることであると言われております。また、こういった情報を提供するにあたりましても、こういうそれぞれの行政の機関あるいは私どものような民間の団体も含めまして、あらゆる機関が連携を保って被害者の方を支援していくことが大切です。

 現在この松本の中には、松本犯罪被害者支援連絡協議会というものがございます。これは松本の警察署の中に事務局がありますが、警察署でももちろん犯罪被害者の支援を行っております。支援を行っておりますというよりも、警察では一番初めに事件を扱うわけですから、当然被害者の方の対応もしますが、警察の一番大きな目標はどうしても、犯罪を起こした加害者自身を早期に見つけることですから、その分だけどうしても被害者に対する扱いが非常に軽くなっていたというのが、昔からとられてきた警察の支援の形であったわけです。それで、現在はそういうことがないように警察も非常に力を入れて、こういった支援の連絡協議会というものを作りまして、警察署の中に事務局を置いて、いろいろ活動してもらっております。1つの大きな事件がおきて、その中に被害者の方がおられますと、この被害者の方に対してはどういう支援を行ったらいいのかということを、この連絡協議会の中に参加していただいている人たちの中から皆さんが集まって、この被害者はこういうことを悩んでおりますよ、この方はこんなことで非常に困っています、ですからこの被害者の方についてはこういう部門の方に是非参加していただいて、支援をしていく形が一番よいのではないでしょうか、というような話を進めていく形が取られております。

 このようなことで、情報の提供ですとか、あるいはそれぞれの機関が連携して途切れることのない支援を行っていくことが被害者にとって大切なことです。

 3つ目の段階といたしまして、ボランティアの倫理ということです。これは皆さん方も十分ご承知かと思います。ボランティア活動をされる方は、いろいろな思いがあってボランティア活動を担っていると思いますが、私どものセンターで行う活動としましては、被害者自身を尊重していただくということ、これが一番大切な気持ちではないかと思います。こういう言い方をして、甚だ失礼なのですが、ボランティア活動をされる方の中には、自分の居場所というものを見つけるためにこのボランティアに参加する方も、いらっしゃると聞いております。特に、東京都内大きな都民センターというところがございますが、ここでは何百人というボランティアの方に参加していただいているのですが、その中には自分の望むような形の支援だけに携わらせてもらえれば結構ですと、おっしゃっている方もいるということなのです。

 どんな相談員の方にも、すべての方に対応していただけるようなボランティア活動というのが大切です。その人自身が被害者を選んで活動するようなボランティアというのはありえません。まず被害者自身を尊重されて、ボランティア活動に入っていただくことが、一番大切だということです。

 その次に、特に私どもの犯罪被害者支援センターは、個人の秘密をたくさん持っているということです。特に被害者の方が悩んでおられることは、他の社会の人になるべく知られたくない方もたくさんおいでです。

 それで、どこどこの方はどういう被害に遭ってこういうことを悩んでいると、それで犯罪被害者支援センターにご相談に来ているというようなことが、一般の市民の方にわかったりすることは、非常に困ります。こういったこと、あるいは被害者自身に具体的な支援を行っている中で、あの人の家ではこういうことを悩んでいるというようなことが隣近所にいろいろ知れたりするということは、被害者自身にとって辛いことです。

 そのようなことで、多分に私どものセンター自身としては、秘密を守っていただくということは強くお願いしております。したがいまして、皆様方の中でもこれから、私どものようなボランティアの団体に加入して活動されていくということについては、ご自分の普通の生活は一切、被害者の方、相談員、ご遺族の方にお知らせしないという形になっております。

 たまたま電話で連絡をしなければならないというようなことがあったとしても、ご自分の電話、携帯などは一切使わず、私どものほうで所有している携帯電話で被害者の方、ご遺族の方と連絡を取っていただくというような形になっておりますので、こういったことで秘密を守っていただくと、秘密の遵守ということを非常に大事にしています。こういったようなこと、あるいは、最終的なことでございますが、被害者の支援をしていただくことによって、被害者の方に共感をしていただく、これが非常に大きな大切であるということです。

 このようなことで、ボランティアの皆さんとして扱っていただく倫理的なものをご紹介しました。それでは、支援の活動の形態ですが、先ほど申しましたように、被害者が望む支援というのは非常にたくさんあるのだということをご承知していただきたいと思います。

 一番多く望んでいる被害者の支援は、いろいろな機関でどういうことが行われているのかはっきりしていない。それを知りたいということが、被害者自身にとって一番望む支援でございます。例えば、犯人が捕まります。そうしますと警察の調べが終わって、検察庁へ送られて、検察庁から裁判所の方へ加害者が起訴されます。そうしますと裁判が始まるわけです。裁判が始まりますと、今度は裁判所と連絡を取らなければなりません。その間、どこに加害者自身がいるのかということを被害者の方は非常に気にされます。自分をこんな犯罪に巻き込んだ加害者が今どこにいるのかということ。その次に、裁判が終わりますと、今度は受刑者ということで有罪になれば刑務所に行くわけです。そうするとどこの刑務所にいて、どんな生活をしているのかということは、被害者自身として知りたいことだといいます。このようなことから、こういった加害者に対する情報ですとか、さらに自分はどんな支援が受けられるのかと、こういった情報を知ることが、大勢の方が望んでおられることの1つであるということです。こんなことが被害者支援に関わる内容でございます。

 それでは、活動の形態ということですが、通常は電話の相談という形で犯罪被害者の支援を一番始めに行っていただくようになっております。この電話の相談を受ける、長野犯罪被害者支援センターの拠点的なところが長野の県庁の中の東庁舎というところにございます。そこで電話の相談を一括して受けております。

 このほか、本来は、この松本が中心になる地点だというわけで是非この松本に電話の相談室を作りたかったのですが、いろいろ事情がございまして、現在、豊科にあります、中信地区の安曇野合同庁舎というものがございますが、そこの中に電話の相談を受ける場所がございます。それからもう一つ、飯田に電話の相談を受ける場所がございます。それぞれの場所が、電話を受ける日にちですとか、時間も変わっております。しかし、私ども長野犯罪被害者支援センターの長野のほうへお電話をいただければ、平日でしたら10時から午後4時まで、この時間帯はいつでも電話の相談を受けることができるというような状態になっております。

 この電話の相談を受ける相談員の方、今日ここにおいでになっています鮎澤さんなども含めまして、約50名の方に電話の相談を受けていただく形になっております。

 それで、この電話の相談を受けるためには、単に電話の受け答えだけを勉強するのではなく、先ほど見ていただきましたDVDのような悩みを持っておられる方が、どんな形で支援を望んでいるのか、あるいは被害者自身としてどんな実態があるのかということ、非常にたくさんの法律的なことなども勉強した上で、この電話の相談員になっていただくという体制がとられております。それから、これについてもう少し最後で述べたいと思います。

 あと、被害直後の危機介入ということですが、この内容などにつきましては、非常に積極的にいろんな支援が行われております。これは少し前ですが、長野市であった殺人事件の被害者の方からご連絡をいただきまして、この方のご支援をかなり長い間続けております。この方につきましては、主人がご自宅で殺害されてしまって、非常に大きな痛手を持っておられます。そのご自宅には、まだ小さな子どもさんもおりまして、非常に混乱状態になってしまったというようなことから、ご葬儀の内容から家の中のすべての掃除洗濯、それからご家族の買い物、こういったことまで相談員の皆さんにお願いして、もう四六時中に近い状態で被害者の方に寄り添って支援を続けてきたというようなことが続いています。

 こんな状態を続けるというようなことがあるものですから、私事で本当に恐縮なのですが、いろいろな支援を行う過程の中で、家の中のことも積極的に行わなければならないことから、つい最近ホームヘルパーの資格を取りまして、被害者の方と一緒に支援を続けられるような形を取ろうと頑張っているところです。このようなことで、被害直後の危機介入的な直接支援というものがこれから非常に多くなるといわれております。

 それから、事件が起きて数日後という状態です。この数日後というのは、ある程度危機感があるのですが、少し大きな事件になりますと、例えば、被害者の方がお亡くなりになってしまったということになりますと、ご遺族の方は、いろんな手続を取らなければなりません。市の行政の機関ですとか、医療機関、保険の関係の機関、こういったところへご連絡をとって、それで対応していかなければならないというような形です。ところが被害者の方は、一番大切な人を亡くしてしまったことから、なかなか積極的にそういった機関へ行ってお話をすることができません。そんなときには、なるべく被害者の方と一緒に付き添って、それぞれの行政機関のところへ行き、必要な支援をしていくという形がとられております。これが数日後における直接的な支援ということです。

 それから逮捕、裁判中の支援です。これは先程から何度か触れておりますが、裁判の進行に伴いまして、裁判に関しますいろんな情報を提供したり、あるいは裁判を傍聴しながら被害者の方と一緒に支援をしていくということが行われております。裁判の付添いで行くようなときも、いきなり、被害者だからといって裁判所のほうへ行き、被害者の方が裁判の傍聴席へ入りますと、大勢の報道の方がいて、被害者の方に大勢の方がテレビのカメラを向けて「今日行われる裁判についてどういうふうに思っていますか」とういことを必ず聞いてきます。多くの被害者の方は、こういった取材を非常に嫌がります。ですから、そういう方のためには、どうしても裁判所と、あるいは検察庁とあらかじめ連絡をとって「今日はこういう形で行きます、報道機関に対してはこういう形で臨みたいと思いますので」ということをあらかじめそれぞれの機関の方にお伝えしておいた上で、傍聴の席に臨むというような形をとらないと、非常に大きな混乱になってしまうのです。

 東京のほうへ行って裁判の傍聴を進めている方については、被害者であるということが一切わからないような状態で傍聴したいとおっしゃっている方も中にはいます。そうしますと、大勢の方の中に紛れ込むようにして入る、という形を取らなければならないこともございます。こういったことの内容をすべて、それぞれの司法機関と私どものほうで連絡を取って、進めていくというような形がとられております。このようなことが、被害者支援で行われている大きな内容でございます。

 あと、ボランティア相談員の養成、研修ということです。皆様の中でボランティア相談員になる方が、お一人でもお二人でも参加していただければ非常にありがたいと思っております。このボランティアの方は、私どもの組織の中に約50名の方がおります。しかし、1つの会社組織ではありません。何と言いますか、大きな組織ではなく、全くのボランティア団体ということでやっているものですから、ボランティアの方自身が、いろんな事情ですぐお辞めになってしまうこともあります。ですから、この50名という数が、必ずいつも今年いっぱいは50名いますよ、という数字ではないということもご承知おきしていただきたいと思います。

 ボランティアにおなりになるには、この養成講座というものを最初に受けていただきまして、これが大体、毎年6月から11月末の半年間行われます。一月に2回ずつ、合計で12回の講座を受けていただいて、講座が終了した段階でボランティア相談員になっていただくのですが、正式にはその翌年に行う総会の席で、理事長から委嘱状をお渡しして、ボランティアになっていただくということです。ですから、6月に講座が開始になって11月に終わります。それで、11月以降、翌年の3月まで、電話の相談の研修というものがございます。この電話の相談の研修に中信地域の電話相談か、長野の電話相談へ来ていただき、それで電話を受けるときの仕方を勉強するという形になっております。

 それで、その3月の電話相談の研修が終わりますと、5月に総会がございまして、この総会の席で正式な委嘱を受けて、ボランティア相談員になるという形です。

 そして、犯罪被害者の対応というのは非常に複雑である、あるいは要望というものは非常にたくさんあるというようなことから、また司法的な手続きということについても、たくさん勉強しなければならない問題がたくさんあるものですから、一応この養成講座が終わってボランティア相談員の委嘱を受けた後も、ここにある継続研修ですとか、あるいは支援研修といった、こういった支援の形が非常にたくさんとられています。これに、相談員になられた方は是非参加していただいて、研修を受けていただくというような形がとられます。

 さらにこの下にあります、全国被害者支援ネットワークというものが東京にございます。ここのネットワークが主催する全国研修会というのも、年に1回行われております。こういったところへも参加していただいたり、あるいは関東甲信越ブロック研修会というものも行われます。こういった研修会に参加する場合は、1泊2日とか、2泊3日という形で行われます。こういった費用については、すべて私どものほうでお持ちして、参加していただます。このような点をご承知していただければと思います。このようなことが私どもの支援センターの、一番大きな組織の内容ということでございます。

 最後になりました。民間の犯罪被害者支援団体としての課題です。一番始めは見えない被害者に対する支援ということです。警察署で扱う統計上の犯罪被害というのは、物を盗られたという経済的な損害や、外を歩いていたら怪我をさせられました、傷害などを受けてしまいました。そうしますと、届け出が出ます。こういう届け出は見える被害ということで、それぞれの機関が、例えば警察の機関ですとか、司法機関、あるいは医療機関などが対応するわけですが、先ほど言いましたように、全くの見えない被害に悩んでいる方はたくさんいらっしゃいます。こういった方に対してどうやって私どもが近づいていくかということが問題です。一番はやはり行政の機関として、被害者と触れる機会が一番多い身近な機関であると言われております。

 ですから、市の、町の、あるいは村の行政の機関の方が被害者の方にお気づきになって、もしお悩みになっている状態を把握されましたら、いち早く私どものほうへでも結構ですので、それぞれの機関へ紹介していただいて、犯罪被害者支援に繋げていただけるというようなこと、あるいは、被害者の方がお住まいになっております町内会といったところでも、隣近所の方が被害に遭ったことをお気づきになっておられた段階で、悩んでいることに気付かれましたら、私どものセンターでも結構ですので、あるいは市の犯罪被害者支援の担当者の方でも結構でございます。町内会あるいは隣近所の方、こういったところが犯罪被害者にお気づきになって、支援を繋げていくこと、これが見えない被害に対する一番大きな形ではないかと思います。

 さらに、広範囲な地域における支援活動上の課題です。長野県は縦に長くて、時間がかかります。しかしそうはいっても、犯罪被害者というのはどこにいるかわかりません。そうしますと、この松本にいれば、こういう松本の町の中におります相談員の方が対応できますが、村部のほうへ入ってしまったり、市街地から離れたところにお住まいになっている方が被害に遭ったりすると、なかなか支援の手が届かないことがございます。特に相談員の方の実態というものをご承知していただきたいのですが、今50名の方がいると申し上げたのですが、大体北信地域に、6割から7割近くの相談員の方が入っています。そのほか、中信地区の方が2割くらい。一番大きな課題としては、南信地域の方が相談員として非常に不足しているという実態もございます。是非今年のボランティアの養成講座はこの中信地区か南信地区でやろうということで、現在詰めております。いずれにしましても、この中南信地域で行うことは決定していますから、もう少し詰まった段階で早めに皆様方に、町の広報あるいは新聞紙上をお借りして、お知らせする予定でおりますので、是非そのようなものをご覧になって、参加していただければありがたいなと思っております。

 最後に民間支援団体として財政的な形、あるいは施設、人材上の大きな課題ということです。すべての方にいち早く支援の手を差し伸べるために、こういった3つの施策がとられています。ただ民間の団体としましては、こういったものがすべてオーケーになるという状態ではないというのも実態でございます。

 最後になりました。1つだけ私どもが扱った事例をご紹介しておきます。この事例というのは、子どもさんを、子どもさんと言いましてももう成人になっている息子さんなのですが、轢き逃げ交通事故で亡くされた方です。息子さんが亡くなられた後、いろいろ精神的に悩まれて、お母さんが私どものセンターのほうへ電話で連絡してこられまた。それから、間もなく犯人が捕まり裁判が始まったりしましたものですから、この裁判の付添いの支援なども行ったりして、ずっと支援を続けてきた方でございます。それで、この方のお父さんがときどき私どものセンターへお見えになりまして、お話しするのですが、電話をいただきました奥さんが夕方になると必ず食事の時に亡くなった息子さんの名前を呼んで、「きょうも○○は帰ってくるのが遅いね」と、声をかけるのだそうです。これは奥さん自身も息子さんがお亡くなりになっていることは、十分承知しているのですが、夕方のこの時間帯になると、どうしても子どもさんの名前を呼んで、今日も帰ってくるのが遅いねという声をかけるのだという話を、ご主人から聞いていました。ある時に、東信地域の市の中で市民の集いというのがあって、今年は是非、交通事故の遺族の方でお話をしていただけるような方、誰かおいでになりませんかというお話を聞いて、すぐこの、子どもさんの名前を呼ばれていることのお話をしたところ、このご遺族の方に是非お話してもらったらということで、ご連絡を取ったところ、「それではわかりました。私のほうで参ります」ということで、旦那さんが市の講演会に行っていただくことなりました。

 それで、当日私もご紹介した手前、その講演会に行きまして、奥さんもそばにおられて、前のほうで聞いていました。その後2日ほどしたら、このご主人が私どものセンターのほうへ来まして、「講演なんて慣れない仕事をやったけれど、一番喜んでくれたのは妻だった。妻は毎日夕方になると子どもの名前を呼んでいたのだけれど、講演会が終わった後、全く変わった状態になった。妻は私が講演会の中でしゃべったことをすべて聞いていて、妻自身の思っていることを私が代弁したような形で述べてくれた。これが妻にとって非常に嬉しいことであった」と、子どもさんが亡くなったことを胸の内で認めることができたとのことでした。これが奥さんの立場として一番嬉しかったということで、その日以降、毎日夕方呼んでいた子どもさんの名前を、全く呼ばなくなったと、来て言っていただきました。

 被害者の方がこういう形で立ち直っていただけるようになっていただければ、私どもセンターとしては非常にありがたいことだと思っています。

 そのようなことで少しご紹介しました。いずれにしましても、犯罪被害者の方は、非常に大勢の方がいらっしゃいます。まだまだ私どもの手の届かない被害者の方もたくさんいるかと思います。どうか皆様方の中でもこういったことにご賛同していただき、被害者支援に携わっていただける方がお一人でも増えていただければ、私どもとしては非常にありがたいことだと思っておりますので、是非ご参加していただくようお願いしたいと思います。
 

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