講義1

 
テーマ:「犯罪被害者支援ボランティアの活動について」
講師:間中 壽一 氏(NPO法人長野犯罪被害者支援センター事務局長)

 皆さん、こんにちは。私は以前、仕事の関係でこちらにお世話になったことがありまして、何十年間振りかで参りました。今日はこんなに雪があるコンディションの悪い中、大勢の方々に参加していただきまして、本当にありがとうございます。

 久しぶりに飯田の町を歩きながらここまで来たのですが、飯田の大きな伝馬町の入り口の辺の商店では何か閉まっているところがたくさんあって、ちょっと寂しくなったような感じがしています。今日の話はそういう話ではなくて、犯罪被害者の支援という形で行うわけでございます。よろしくお願いしたいと思います。

 実は、1月の下旬に、長野市で、県警の音楽隊が主催したコンサートがございまして、私ども犯罪被害者支援センターも参加させていただきました。コンサート自体に参加ということではないのですが、おいでになったお客さんに、是非、犯罪被害者のことを知っていただきたいということで、PRの看板などを立てました。

 その中で、2人ほどの方が、「犯罪被害者支援とは、どういうことを被害者に対して支援をするのですか」、「なぜ支援をしなければいけないのですか」というようなお話をお聞きになってきたわけです。こういう話からしますと、確かに、犯罪被害者の方はなかなかまだ大勢の方に知れ渡っていないのが実情だと非常に強く感じました。ただ、犯罪被害者の方は困惑の状態でおられるということ自体は、もう皆さんも多分ご存じではないかと思います。

 今日の新聞に「東京・秋葉原の事件で第2回の公判が、昨日2月1日に東京地裁で行われた」ということが出ておりました。その中で、ちょうど目撃していた証人の方が証言されたという記事が出ていまして、その証言の中で、「なぜ自分が加害者の目の前にいて、それを止めることができなかったのか、それが非常に残念だ」ということが記事で紹介されておりました。

 こういう大きな事件そのものは、まだ長野県ではあまり発生することはないかと思っています。しかし、こういうこともございます。たまたま秋葉原の事件は、大勢の被害者の方あるいはご遺族の方がいたのですが、長野県の方はおいでにならなかったわけです。ところが、一昨年に、同じ東京都内の八王子の駅前にて、9階の本屋さんで被害に遭うということがありました。お客さんが1人、いきなり切りつけられて、さらにその後、店員の方を刺しまして、店員の方がお亡くなりになったという事件があったことを皆さんもご存じかと思います。

 この店員の方は、茨城県のご出身の方でした。ところが、お店のお客さんで来ておられ、最初に刺されて重傷を負った女性の方は、実は長野県のご出身の方だったのです。東京の大学に通っておられまして、ご自分の本を探す目的で来ていました。そこで、こんな災難に遭ったわけです。

 この女性の方は、東京で初期的な治療をされた後、長野県へお帰りになって、大学病院で治療を受けていたということがありました。この女性の方自身は、「こういう事件に遭うということは非常に残念なことで、私ももう傷が治り次第、もうこのことを早く忘れたい」とおっしゃっていました。

 ただ、ご家族の方は、「なぜ娘がこのような事件に遭わなければならないのか」ということを非常に思い詰めておられて、東京の八王子地裁で行われた裁判の傍聴に「是非私も行って傍聴したい」という申し出がありました。そして、私どもにも相談をいただいたものですから、東京の地検あるいは東京の裁判所等も連絡をとって、このご家族の方と一緒に裁判の傍聴に行ったという経過がございます。

 このようなことから考えますと、長野県にいるから犯罪が少ない、大きな事件はないという考えでは、心配なことがたくさんあるのではないかという感じがいたします。

 あるいは、これもご存じかと思うのですが、長野市の松代町というところのご出身の方が、東京の大学のため、港区のマンションにおりました。そして、そこのマンションの1つ隣に住んでいた方に切りつけられました。最終的には殺害されて、細かく刻まれて、捨てられるという犯罪に遭われているケースがありました。

 そのようなことで、長野県にいるから安全だ、あるいは、長野県だから犯罪のことは心配するようなことはないという、決してそういうお考えではなくて、是非、犯罪被害者ということについて深いご理解をいただきたいと思います。そのために、今日私のほうで話をさせていただきたいと思います。

 私の話は拙い話になるかと思います。今日はこんなネクタイをして来たのですが、実は、長野におりまして、犯罪被害者の支援のために、普段はジャンパーを着て長野県中を飛んで歩いているというのが実情でございます。このようなことで、主に犯罪被害者の話を中心にさせていただきたいと思います。私のほうの話が終わりましたら、先ほどご紹介ありましたとおり、私どものセンターで相談活動をやっておられる吉江さんという方が、今日こちらにお見えになっております。この方から、具体的なお話や、相談員として活動されておられるお話などもお聞きしながら、2時間お話しさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

 それでは、最初にビデオをご覧いただきます。前回にも、昨年11月に、この犯罪被害者の関係の話が行われましたが、もう一度、犯罪被害者の実態というのはこんな状態だということをご理解していただくために、少しビデオをご覧いただきます。その後、私のほうで話を進めさせていただく形をとりたいと思います。

 最終的に、相談員の吉江さんの話が終わった段階で、皆さんのほうからご質問などございましたら、お聞かせいただければありがたいと思います。そのようなことを、またこれからの相談に生かしていきたいと思っておりますので、是非ご質問下さい。どうぞよろしくお願いしたいと思います。

(ビデオ「ある日突然 最愛の娘を奪われて」)

 ビデオをご覧になって、いかがだったでしょうか。
 一つ、皆さんにご承知いただきたいのは、先ほど鈴木さんのご遺族の方が、家族そろって警察署へ行ったとき、警察署で金棒の張ってある加害者を調べるようなところでお聞きになっていたという場面がございました。ですが、これはもう4年も5年も前にあった事件ということで扱っております。今、警察署ではこのようなことはなく、被害者の方だけで対応できる部屋を用意して、お聞きしていると伺っております。ですので、どうぞ誤解されませんようにお願いしたいと思います。それでは、お話しさせていただきます。よろしくお願いします。

 まず始めに、今日おいでいただいて、私のほうでいろいろお願いをする場面もたくさんあるのですが、最初にお願いしたいことがあります。それは、この中南信方面では私どもの犯罪被害者支援センターへご参加される方が、極端に少ないということです。
 実はこういうことがございました。ここの飯田地裁で行われている、一つの刑事裁判がございまして、この被害者の方が「是非裁判を傍聴したい。どのように傍聴したらいいんですか」と、私どものほうへご相談がありました。いろいろとお聞きしましたら、「是非裁判を傍聴したいので、付き添ってもらいたい」ということで、地方裁判所へお願いして、傍聴の手続を取りました。

 こういうことにつきましては、皆さんにお渡ししたパンフレットをご覧いただければ、分かるかと思うのですが、私どもの仕事の中で、「直接的支援」と呼んでおります。いわゆる裁判の傍聴の付添いですとか、あるいは、一般の被害者の方のご家庭へ参りまして、そこでいろいろな生活的な支援をするということです。あるいは、他の検察庁ですとか警察署での付添いの支援等も含めて、相当幅の広い直接的な支援をしています。

 この直接的な支援をするには、ボランティアの相談員になったからといって、すぐそれに関わってもらうことはしていないのが実情でございます。と言いますのも、被害者あるいはご遺族の方に直接お伺いして、その方と接しながら犯罪被害者の支援をしていく形になるために、相当幅広い知識を学んでいただかないと、この直接的な支援ができません。私どもの中でそういう決まりがあるのです。

 最初にボランティアの養成講座を受けて、私どもの犯罪被害者支援のボランティアになっていただくと、まず始めに電話の相談を受けてもらいます。この電話の相談を1年、2年と、ある程度、経験を積んだ段階で、この直接的な支援に関わっていただきます。

 冒頭に話しました、飯田の地裁で行われた裁判の付添いが行われるわけです。ところが、この支援に携わる方、相談員の方が、この飯田近辺、あるいはこの中南信地域の中におられなかったというのが、非常に残念なことでした。そのために、長野にいる相談員で、ある程度経験を積んだ方が、私どもは車がございませんので、レンタカーを借りて飯田まで飛んできます。そして被害者の方と交流して、飯田地裁のほうへ行き、裁判を傍聴し、付添いをします。その終わった後、またいろいろ司法関係の方からお話を聞いた後、被害者の方とお別れをして、長野へ帰ってくる形になるわけです。 この長野から飯田までというと、距離にして約200キロ以上です。ここを、ボランティアの方がレンタカーを運転し、それで3時間くらいの裁判の傍聴をされて、また長野まで帰ってこられるということです。このボランティアの方自身も、実に8割が女性で、その年齢を見ても、50歳後半から70歳近い方々です。こういうことが、果たしてボランティアの方が行う仕事として適正なことなのだろうか。もっと詰めれば、ボランティアとしてやらなければならないことがこういうことなのかという問題があるわけです。一番は、この付添いという支援をされて長野まで帰ってくるときに、万が一、交通事故にでも巻き込まれてしまえば、私どもの今まで積み重ねてきた犯罪被害者支援という、長野犯罪被害者支援センターとしての仕事が全くできなくなってしまいます。

 そこで一番お願いしたいことは、この飯田地域あるいは中南信地域からも、是非大勢の方に、このボランティア組織に参加していただきまして、こういう直接的な支援に関わっていただけるようになっていただきたいということです。これが、私どもの一番お願いしたいことでございます。

 今日は幸い、長野県で行う事業の中で、こういう形で私どもがお話しする機会を取っていただいたことについては、本当に県へ感謝を申し上げます。昨年11月に行われました講演会にも大勢の方がお見えになり、その中から、またこういう形で大勢の方が来ていただけたことに、私どもは本当に感謝申し上げたいと思います。また、皆様方の周りの方で、この犯罪被害者のボランティア活動にご意向のある方がおいでになりましたら、是非お勧めしていただければと思います。

 実は、この中南信地域の皆さんに、ぜひボランティアになってご参加していただきたいということで、今年6月から11月までの間、講座を開く予定で、準備を進めております。この講座を開く場所は、従来は松本方面を中心に行っていましたが、今年は何とかして中南信地域の場所で講座を開く形で、この中南信の皆さんに参加していただければありがたいなと思って、今、計画をしております。そのようなことで、皆さん方のお知り合いの方でご希望の方がいらっしゃいましたら、是非お勧めしていただければありがたいと思っております。よろしくお願いします。

 それでは、皆様方にお渡ししたレジュメに沿って申し上げたいと思います。犯罪被害者につきましては、今、ビデオをご覧いただきました。また、昨年7月、11月に行いました、同じく県のこういう講座の中で、確か当地では、私どものほうへ参加していただきます弁護士の山岸さんという方が来てお話しされたと思います。そのような話を聞きまして、犯罪被害者の実情を、皆さん方もかなりご理解されたのではないかと思っております。そのような中で、これから私どもの活動について、特に重点的にお話ししていきたいと思っております。

 まず始めに、犯罪被害者につきましては、ご覧いただきましたビデオですとか、先ほどの話などでもおわかりだと思います。この中で、新しい制度について、山岸弁護士のお話の中からもあったのではないかと思います。今まで犯罪被害者というのは、全く孤立した状態でいました。それが、被害者あるいは遺族が裁判に参加して、直接意見を述べる、あるいは証人の尋問をするという形で、法廷内の活動ができるようになってきたということもご承知かと思います。

 また、犯罪被害者あるいはご遺族が、犯罪被害により受けた損害について、この損害賠償を求めるためには、今までは刑事事件とは別に民事裁判を起こさなければなりませんでした。ところが、お聞きのとおり新しい制度ができました。損害賠償命令制度という制度です。この制度によりまして、犯罪被害者の方は、ご自分が受けた被害の刑事裁判の裁判所に申立てをすることによって、その刑事裁判の成果を利用して、賠償請求についての審理、決定ができるようになりました。このような新しい制度ができました。これは、犯罪被害者にとって非常に有効な制度であるのではないかと思われます。

 こういった被害者参加制度、あるいは損害賠償命令制度というような新しい制度がどんどんできてきました。被害者にとっては、非常に新しい制度が生まれてきたというのが実態でございます。しかし、私ども犯罪被害者の民間の団体が行っている制度というのは、こういう大きな国の施策による制度以外に、隠れた犯罪被害者というのがまだまだ大勢おられます。そういうことも、皆さん、是非この中でお気づきになっていただきたいと思います。と言いますのも、今、犯罪被害者の持っている悩みは、目に見えない被害で悩んでいる方が非常に多いということです。私どものほうでも扱っている大勢の被害者の方で、確かに警察署では最初にいろいろな事件を扱います。警察署では、お金を盗られた、あるいは怪我をさせられたという被害に遭いますと、すぐに被害の届け出というのをつくります。こういう被害者、そして目に見えるはっきりした被害については、どんどん被害の回復を行います。

 ところが、被害者の方は、こういう被害以外に、心の悩みを気持ちの中で抱え込んでしまっておられるということです。こういう心の悩みというのは、なかなか外に出てこないのが実情です。見えない被害を、いかにいち早く被害者の方から酌み取って、適切な支援を行っていくか、これが私どもに課せられた一番大きな課題ではないかと思っております。また順次、このような内容について説明させていただきますが、現実の問題としまして、こういう見えない被害で悩んでおられる方というのは、非常に大勢となります。こういうことにもどうぞお気づきになっていただければありがたいと思っております。最初に差し上げましたレジュメの中で、2番目の問題に入ります。「民間団体による犯罪被害者支援ボランティアの活動」ということです。一番始めの「なぜ民間の犯罪被害者支援団体による支援活動が行われているのか」この犯罪被害者の支援というのは、世界の中から見ると、積極的に行われているのは、イギリスやアメリカなどです。こういうところでは、非常に早い段階から犯罪被害者支援ということが行われております。

 このアメリカ、イギリスなどでは、1975年くらいから、この犯罪被害者支援というものに積極的に取り組んでおります。ところが、日本は、犯罪被害者支援の取組が全く遅れていまして、実に、このアメリカ・イギリスという国から遅れること20年も経つ、1996年になってからやっと警察庁において被害者対策要綱が策定されて、警察の取組の中でも行われるようになってきたというのが実情です。この20年の差というのは、非常に大きな結果を生んでおりまして、その間ずっと、犯罪被害者というのは多くの悩みを抱え続けてきました。

 そのようなことで、被害者の方が一番受けることとして、手っ取り早いのは、警察署で事件を扱っているときに、警察署の担当者の方にいろいろお願いをして、ご自分の悩みや何かを打ち明けるという形をとっていました。ところが、なかなか警察署自体でも、この被害者自身を取り上げるという取組がそんなに早くから行われていませんでした。1996年になって初めて、取り組まれるようになってきました。

 そして「なぜ被害者支援について民間の団体が行うか」ということです。やはり、被害者の方のニーズに応じた細かい対応をしていくためということが、一番始めに挙げられるのではないかと思います。行政の方が、犯罪被害者の支援を大勢で行ってくださいますが、やはり行政の方自身にはそれぞれ、体を動かすということなどについては、非常に細かい規約・規制がおありになるわけです。

 そうしますと、例えば被害者の方が「こういうことをやってもらいたい」ということがあっても、行政の方にはなかなかそこまで手が届きません。あるいは、これは時間の制限などもある、あるいは活動の制限もあるというようなことからできないところもあります。しかしこれに対して、民間の団体とすれば、ある程度そういうことを柔軟に対応していくことができます。というのが、民間の団体としての犯罪被害者支援の一番大きな目的・ニーズではないかと思います。

 犯罪被害者の方がお持ちになっているいろいろな支援の形をニーズ別に分けてみても、かなり細かいことがあります。その多くは、やはり私ども民間の団体に求めてこられる形であるというのが実情でございます。

 このようなことから、被害者のニーズに対応するために、民間の組織が活動しているということです。私どもの組織自体は、先ほどもご紹介いただいたように、全く独立した、法人という形でやっております。アメリカやイギリスなどでは、この犯罪被害者をどう扱っているかということですが、イギリスなどでは、国の中に、犯罪被害者を支援する独立した行政庁があります。その行政庁に、なんとイギリスの中だけで800人の方がお勤めになっております。そこへ大勢のボランティアの方が一緒に参加をしまして、その行政庁の方と犯罪被害者の支援を行っているという形がとられています。

 ところが日本は、現在の段階ではそういう形はとられていません。もちろん警察署ですとか長野県ですとか、それぞれの機関がされていることはたくさんありますが、この犯罪被害者だけを取りまとめて行政庁が一つできてやっている形ではないのです。

 1996年以降になって、警察庁などのご指導で、民間の団体として、私どものような団体ができてきたということでございます。被害者の方自身もいろいろなニーズを求めて、私どものほうへご相談においでになっています。次に、「民間の被害者支援団体とは、どのような組織か」ということです。長野県における被害者支援の状況でございます。先ほど、この会は、長野県の人権・男女共同参画課のほうで主催していただけるということで、私どものほうでお礼を申し上げているわけでございます。長野県の中にも、実にいろいろな部署において、犯罪被害者支援が行われております。これにつきましては、「被害者のことを知ってください」という資料の中にも、記載があります。

 ですから、いろいろな支援のニーズがありまして、被害者の方から「こういうことについて支援をしてもらいたい」ことがあると、私どものほうへ電話をいただければ、それぞれ、一番専門的に、あるいは細かくやっていただけるようなところへご紹介するという形もたくさんとられております。

 そのようなことで、長野県自体でも、施設がいろいろあります。特に私どもで今使わせてもらっているのは、岡谷にある「あいとぴあ」という施設です。これは人権の施設で、中ではいろいろな被害者の方をこの施設へお連れいただいて、お部屋を借りて被害者の方とカウンセリングする、あるいは私どもの相談員が行って面接をするという活動が行われております。また、長野市の中にもいろいろ県の施設などがありまして、そういうところをお借りして、被害者の方等に対応していくという形がとられております。
 次に、私ども「長野犯罪被害者支援センターの組織」ということです。お渡ししました資料の中でご覧いただければ一番わかりやすいかと思います。私どものセンターが始まったのは平成11年6月で、県警などのご指導の下に、民間の団体として発足しております。その後、平成15年になりまして、特定非営利活動法人という法認証を取りまして、活動を続けています。

 そこの体制です。ご覧になっているとおり、弁護士の方などもたくさん参加してくださり、多くの精神科の先生にも入っていただいています。また、多分に犯罪被害者の方はいろいろな悩みを持っており、この悩みについて適切なアドバイスができるということで、臨床心理士の方なども大勢入っていただいております。

 長野県臨床心理士会の会長さんも、私どもの犯罪被害者の専門委員ということで参加していただいているという形がとられております。こういうことで、非常に多方面からの方に参加していただき、犯罪被害者の方を支えていくという体制がとられています。そして、先ほども触れたのですが、この中で一番活動してくださっているのが、ボランティア相談員でございます。長野県中に現在、犯罪被害者支援のボランティアの方は約50名と大勢おられますが、ボランティアの方自身も現在仕事を持っている方がたくさんおいでになります。なかなか、これだけ専門に関わってこられる方だけではなくて、ご自分の仕事をお持ちになりながら参加してきていただいております。

 この中南信の地域からも、ある行政のお役所にお勤めになっている方で、現役の方がいらっしゃいます。この中で私どものほうへ参加していただき、月一度か二度の電話の相談に出ていただける方がいます。あるいは直接的な支援、何度か申し上げておりますが、被害者の方に直接、寄り添っていく支援の形でこういうことに参加していただいている方もおいでになります。このような形でやっております。

 しかし、このボランティア組織というのは、なかなか難しいところもございます。こういう言い方をするのは失礼なのですが、ボランティアの方が、なかなかこの仕事だけ勤める形をとれないというのが実情です。

 もちろんボランティアの団体ですから、出ていただいた仕事についてお金を払うことがないものですから、これは致し方ないことですが、ボランティアの方自身の入れ替わりというのも非常に激しいのも実情でございます。そのようなことで、この中南信のほうからも是非、大勢の方に参加していただければありがたいなと思って参ったわけでございます。

 次に、3番目の「民間の団体における支援・活動の基本」です。「支援活動の究極の目的」ということでございます。これは多くの場合に、やはりボランティア活動の一番の基本になることではないかと思っております。被害者の方にはいろいろと困難な状態がありますが、最終的には、被害者の方にこの困難な状態を克復して、また元の生活に戻っていただく、これが私ども犯罪被害者支援センターの究極の目的になります。

 ですから、被害者の方自身が悩み続けておられたという状態から、ご自分の力で回復し、昔の平穏な生活に戻っていただく。100%戻ることはできないかもしれませんけど、それに近い状態になっていただくことが一番の目的です。先ほどのビデオの中でも、鈴木さんご夫婦が最後に、「家族の中で笑顔を取り戻すことができた」と言われていましたが、こういう形が最後の目的ではないかと言われております。

 少し前に、ある新聞の記事がありましたので、一つ紹介しておきます。これは、常磐大学の中で、犯罪被害者学ということを専門にされている長井進という先生がおられます。この方が少し前に新聞へ投稿された内容を、ご紹介したいと思います。

 この方はこのように言っておられます。「被害者支援とは、『私には自分で判断し、意思決定する力がある。意思決定する力がある』という感覚を取り戻してもらうことだ。被害者の悲しみや苦しみは消えない。10年先を見据えながら長期的に関わる必要がある。誰しもが犯罪に巻き込まれる可能性があるが、身近な人が被害に遭ったとき、どのように接したらよいか。一言で言えば、これまでどおり接することだ。下手な同情や哀れみは必要としない。時間はかかるが、回復する力はその人自身に備わっているということを心に留めて接して欲しい」と、こういうふうに言っておられます。

 いわゆる、いろいろな被害に遭ってお悩みの方が大勢おられますが、被害に遭った悲しみを克服する力は、その被害者自身、ご遺族自身に、ご自分の力で立ち直ってもらうことが一番大切なのだとおっしゃっています。私どもも支援をしている中で一番感じることは、この言葉ではないかと思います。

 続けさせていただきます。「途切れることのない支援」ということです。内閣府というところがございますが、この内閣府は、犯罪被害者等施策を推進している行政庁です。この内閣府が、犯罪被害者等基本法という法律を所管しております。この基本法に基づきまして、それぞれの国の施策の中で、各省庁にいろいろな犯罪被害者の支援の施策をまとめまして、実に258の施策を各省庁でやっておられます。

 この中で、この基本的な施策を行う重点の一つに、「被害者の人に対して、途切れることのない支援を継続することが一番大切なことである」と言われております。このような中で、途切れることのない支援を行うには、やはり一つは、「被害者の方にいろいろな情報をお伝えすることだ」と言われております。

 この情報とは、司法的なことに関する各種の情報もあります。あるいは、司法だけではなく、行政的なことがあります。例えば、被害に遭って、家をなくしてしまったというようなときに、それぞれの行政の方にお願いして、緊急の家、お住まいを何とか確保してもらうことができないかということなども、この258の中の一つの施策に含まれているということです。このようなことで、この情報の種類というのは非常に多くの形がありますが、被害者に途切れることのない支援を行うためには、適切にその被害者が望む情報を提供することが非常に強く言われております。

 また、この被害者を支援する途切れのない支援の中で次に大事なこととして、行政の機関あるいは私ども民間の団体も含めまして、犯罪被害者を支援するそれぞれがお互いに連携を深めて、一人ひとりの犯罪被害者に対して支援を進めていく形が大切だと言われております。

 現在、長野県の中でも、警察署単位の中で、犯罪被害者支援連絡協議会というのが行われております。この連絡協議会には、ありとあらゆる犯罪被害者を支援する団体が加盟されています。大きな事件などがあり、各方面からのいろいろな支援が行わなければならないときには、この団体の中で、「こういう犯罪が起きた。この犯罪、犯罪の被害者について、どういう支援をしていったらいいのか」ということが検討されて、その被害者に一番望ましい支援はこういう形だということを選択し、支援が行われているというものです。

 こういうことがもっと盛んに行われることがさらに大事なことになってくるのではないないでしょうか。この連携の力というのが、途切れることのない支援の2つ目の課題になってきています。

 さらに、支援をする担当の方に、犯罪被害者を支援する知識を大いに養っていただきたいということです。これは、特に、私ども民間の団体として、この知識・技能を養成しなければいけないと言われております。

 ご承知のとおり、ボランティアの皆さんが、いきなり犯罪被害者支援にご参加くださっているわけですので、この犯罪被害者に対してはどういう支援を行うのか、どういう支援を行う団体があって、その団体ではこういうことが一番適切な支援なのかということを理解していただくような知識がないと、なかなか皆さんから力を頂くところにならないのが実情でございます。そのようなことで、この3つのこと、情報の提供、さらに、連携を深めること、そしてまた、支援を行う者としてこの犯罪被害者に対する知識を大いに養っていくということが、非常に大切なことです。

 さらに、3つ目の問題としまして、「ボランティアの理論」ということがございます。ボランティアの理論としまして、一つは、その相談をしてきた被害者の方を、まず尊重するところから始まってもらわないと、ボランティアの方は務まらないのだと言われております。

 次に、求められることは、やはり犯罪被害者ということは非常に多くの悩みを持っておられますが、多分に周りの人にあまり聞かれたくないこともあるのです。そのようなことから、ボランティアとしては、秘密の保持ということに非常に重要性を置いて行っていただいております。私どもは、犯罪被害者の相談員の方にいろいろ活動してもらっています。この相談員の方は、被害者と接するときは、ご自分の名前だけはお伝えしますが、どこに勤めているとか、どこに住んでいるとか、そういうことは一切申し上げておりません。

 また、ご自分の電話なども被害者の方に直接はお教えていません。ですから、相談員は、一つの相談をする者の立場として独立の地位をお持ちですが、これが被害者と対応するときには自分のすべてをさらけ出して支援をしているということではありません。私どもの、一つの民間団体の代表として行っているということです。いろいろな被害者の方と連絡をするときにも、すべて私どもが用意する携帯電話を使っているのが実情です。このようなことで、秘密の保持が非常に重要なことになってきております。

 また、責任を持った支援をしていただくということも、私どものボランティア活動を行う相談員の皆さんに、日ごろ、強くお願いをさせていただいております。ボランティアの皆さんというと、こういう言い方をすると本当に失礼な言い方になるかもしれませんが、大勢のボランティアの中には、自分の居場所を求めて、このボランティア団体に参加してくるという方もおいでになるということも事実でございます。そういう方は、多くの場合、例えば私どもの中で、こういう支援があったというときに、私ども事務局のほうで、その相談員の方に相談するわけです。そうしますと、あるボランティアの相談員の方には、「私はそれはやるつもりはありませんから」と拒否される方もおいでになります。「自分の好む仕事の内容だけしか私はする気がありません」ということをはっきりおっしゃるボランティアの方もおいでになります。

 これは、犯罪被害者を対応する者として、あまり好ましい状態ではありません。すべての方がボランティアとして活動していただくためには、責任を持ってこの被害者の方と接していただきたいということもあるのです。こういう意味から、このボランティアの活動を目指す皆さんには、こういった面での留意点に是非お気づきになっていただき、活動に参加していただきたいということも、お願いしたいことの一つでございます。

 それでは、4番目の課題としまして、「支援活動の形態」ということです。被害者が望む支援というのはどういうものか、先ほども触れましたように、私どものほうへ支援をお願いしてこられる方、被害者自身のニーズは、非常に深いものです。もっと言えば、犯罪被害者のご遺族一人ひとりが、全く違った支援のニーズをお持ちになっているということです。

 ですから、被害者に対して、この人がどういう支援を望んでいるのかということをいかに適切に判断するのかが、私ども民間の団体の者が最初にやらなければならいことではないかと思っています。こういった中で、やはり望んでいることは、先ほども触れた情報の提供ということです。それが、被害者の望んでいることの中で、一番多い数でございます。

 この情報というのは、例えば、ご自分の受けた被害について裁判が始まります。そうしますと、裁判がどういう形が行われるのか。この裁判所へ行って裁判を傍聴するにはどういう形で傍聴したらいいのか。次に、自分をこういう被害に遭わせた加害者・被告自身がどういうところで今、生活をしているのか。被害者自身がこういうことを一番知りたいということです。さらに刑が確定した後については、どこの刑務所、あるいはどこの施設の中にいて、その中でどんな生活をしているのかということも、被害者が望む多くのニーズの一つです。こういう形で情報の提供を求める方は、非常に多いのです。

 次が、精神的な悩みについて、何とか克服したいと思っている被害者の方も大勢います。ただ、こういう方に対して、どこでこのような悩みについて打ち明けて、それを処理していただけるかということを望んでおられる方も非常に多いということです。精神的なケアの場所を求めて来る方が多いのも事実でございます。

 それからさらに、先ほども何度か触れております、直接的な支援ができるかということです。特に殺人ですとか傷害致死、こういった、人が亡くなるような大きな事件の被害に遭った方あるいはご遺族の方については、事件直後、非常に大きな悩みを持っております。この一番初めの問題として、被害者の方が亡くなった直後の生活が、非常に混乱していることも事実です。

 ちょうど5年ほど前になりますか、中信地区で大きな殺人事件がありまして、ご遺族の方が私どもへ支援を求めてこられました。このご遺族の方は、最初に私どものほうへ電話をいただいたという経過があります。
 まだ5年も前の事件ですから、当時、まだ司法の関係の方も、あまり被害者ということを取り上げた施策が行われていませんでした。

 母親が殺害される事件が起きてしまったのですが、この母親に対して、事件の直後は、先ほどのビデオの中でも触れました、解剖が行われます。解剖が行われた後、遺体がご遺族の方の家へ戻ってきます。それまでにかなりの時間がかかっています。そのご遺体が戻った後も、家の中は非常に混乱するわけです。というのは、この時点でまだ犯人が捕まっていなかったというのもありますので、警察署あるいは司法関係の方が、この事件の解決に非常に重きを置いた施策がとられます。そうすると、住んでいたところ自体が、全く自由のきかない状態になってしまうということなのです。こんなことがありまして、家の中の混乱が非常に大きなものであったのです。

 こんなときに、たまたまホームページを見ていた息子さんが、私どもの犯罪被害者支援という団体があることをお気づきになりました。亡くなった方の息子さんが私どものセンターのほうへ電話をかけてこられました。そういう経過で、支援を行うことになりました。

 こういったことから直接的な支援が始まりまして、最終的には犯人も捕まって、裁判も終わりました。実はこの裁判が、東京の高等裁判所、それから最高裁判所まで行くような事件になりました。私どもの支援員の方、支援の相談員の方と、東京の高等裁判所、あるいは、最高裁判所は直接支援がなかったのですが、最終的には最高裁判所まで取り扱われるような事件になったケースがございました。このような形で、被害者の望む支援というのは非常に多岐に渡り、細かいところまであるというのが実情でございます。

 次が、「支援の活動の形態」です。電話の相談による支援、被害直後の危機介入ということです。この危機介入というのは、今申しましたように、事件直後に行われた状態で、例えばご遺体の解剖が行われたとか、あるいは大きな怪我をされて病院に入院されたというような形になりますと、家の中は、非常に混乱します。

 こういうことについて、生活的な支援を行います。例えば小さな子どもさんがいれば、私どものホームヘルパーの資格を持った方が家庭を訪問して、その子どもさんをお預かりする。あるいは、家の食事の世話をする。あるいは、洗濯物も支援をするということも行ったことがあります。こういった危機的な介入の直接的な支援というのも行われております。さらに、「数日後における支援」ということです。大きな事件を行った後、ご遺体が家に戻ってくると、すぐ葬儀の問題なども出てきます。あるいは住宅自体が使えなくなってしまったために、どこに住んだらいいかというような問題なども出てくるわけです。こういうことも含めまして、事件の数日後における直接的な支援です。

 さらに、逮捕、裁判中の支援です。加害者の方が捕まると、裁判の付添い、あるいは公判の付添いという形が出てきます。この裁判の付添いですが、ただ裁判所へ行って、それで被害者の方あるいはご遺族の方と裁判を傍聴して、そのまま帰ってくるだけではありません。一つの裁判が行われるようになると、私どものセンターでは、この裁判所の被害者支援を担当される方は、裁判所にもおいでになります。また、この裁判を担当される方は、検察庁にもおいでになります。

 実は、冒頭に説明しました八王子の事件で、最初に公判に行ったときは、東京の裁判所、検察庁の方とお話をして、傍聴しました。この傍聴の中で一番問題になったことは、この被告が精神的な鑑定を受けるということです。それが裁判の中で非常に問題になりました。被害者の方としては、この精神的な鑑定というのが、被告にとってどういう意義にあるものなのか、被害者にとってはどういうものなのか理解出来ず、非常に疑問を持っておられました。

 それで裁判が終わりましたら、検察庁のほうから「ここへ寄ってもらいたい」ということでお話がありました。裁判所のすぐ裏にある検察庁に行き、検察庁の部屋の中でお話を聞きました。まだ被害者に対する施策がすべて整ってはいなかったものですから、この検察庁のお部屋というのは印刷を行うような部屋でした。

 そこへ机を持ってきていただきまして、担当した検察官の方が来られて、先ほど申しました精神鑑定などのことについて、非常に細かくご説明してくださいました。この検察官の方は30歳前後のお若い女性の検察官だったのですが、非常に丁寧に説明をしてくれました。

 帰りに、被害者の家族の方と同じ電車で長野県に向かう中でも「被害者の施策がここまで行われるようになったということについては、非常に感謝する」、「特に、忙しい仕事の合間を割いて、私ども被害者に対して、この事件の内容について細かく説明していただいたということは、非常に嬉しかった」とおっしゃっていたことがとても印象に残っています。いずれにしましても、こういう形で支援が行われているということでございます。

 そして、「ボランティアの相談員の養成・研修」です。先ほど申しましたように、私どものセンターでは、ボランティアの相談員になる方については、養成講座というのを受けていただくようになっております。これが、今年は中南信を中心に行います。

 そして、この相談員になっていただくと、その後、引き続いて、継続的な研修を行います。この継続的な研修というのは、私どもセンターは民間の団体ではありますが、全国的な組織でもあります。東京に全国ネットワークというのがあります。ここで、この相談員の方が、全国どこでも同じ資格と知識を持って、同じレベルで犯罪被害者の方に対応していくことが大切だということで、こういう継続的な研修、あるいは支援研修というのが行われています。

 さらに、全国ネットワークとしましては、全国の研修があります。ご承知かと思いますが、犯罪被害者週間というのがありまして、11月25日から12月1日の1週間で行われます。このときに、犯罪被害者の全国フォーラムというものが全国集会のネットワークというところで行われます。こういうところにも参加していただいたり、関東甲信越ブロックの研修にも参加していただいたりという形がとられております。もちろん、参加していただく方については、旅費・交通費については、すべて私どもセンターのほうで提供しまして、東京あるいはそれぞれの地域へ行っていただいて、研修を受けていただくという形がとられております。最終的になりましたが、被害者の方に対して、私ども民間団体の一番の課題は、冒頭から申し上げております、見えない被害者に対する支援を、どうやって被害者の方からのご要望に基づいて対応していくのかということでございます。

 何度か申し上げているわけですが、統計上表れている被害者の数、いわゆる殺人や傷害などの身体的なもの、あるいは窃盗ですとか財産的な被害は比較的どこでも把握できます。当然、被害があれば警察署などで補填を求める形がとれます。しかし、表に出ない被害、精神的な悩みを持っている方が非常に増えていることも事実です。

 特に、私どもの中で一番課題となっていることは、今、新聞紙上で毎日出ている、介護という問題です。あるいは認知症という問題が、多く取り上げられており、お年寄り自身がご夫妻でそれぞれ高年齢になって、どちらかが介護をする、あるいは両方とも介護を受けているという過程の中で、一つの犯罪が起きてしまうという問題も出てきています。私どものほうで扱っている中でも、この親族間の介護に伴う犯罪というのも非常に大きな問題として上がっています。

 この問題は、一つの親族の中やご夫婦の中で、1人が加害者で、1人が被害者になり、どちらかの方がお亡くなりになる、どちらかの方が刑務所へ入ってしまいます。そこで残ってくるのが、ご遺族の方、被害者のご家族の方です。この家族の方がそれぞれ大きな悩みをお持ちです。こういうことは、いろいろな行政の機関の中でも把握のしづらいところであることも事実です。このようなことで、幾つかの親族間の殺人事件、あるいは傷害事件などの、見えない被害者から私どものほうへご連絡をいただいて対応することが非常に増えています。

 もし行政を担当されるような方がいましたら、この機会をお借りしてお願いしたいのは、地域の中にこういう被害者の方や家族がおられた場合には、いろいろなことから気づいていただきたいのです。また、「こういうことで悩んでおられる」ということがわかりましたら、是非私どものセンターのほうへ電話をしていただくこともお勧めしていただければ、非常にありがたいなと思っております。このようなことから、見えない被害者に対して、少しでもいち早く支援の手を伸べることができるようになることが大事なことではないかと思っております。

 最後に一つだけお知らせしておきたいと思います。こういう事例がございました。ある地域で、大きな交通事故がありまして、ご子息を交通事故で亡くされた方がいらっしゃいました。この方は奥さんもご病気を持っていたために、いろいろな悩みがなかなか消えないことから、奥さんといいますか、お母さんが私どもセンターへ電話をくださったわけです。そんなことから事件そのものの支援、裁判などの支援もしました。

 私どもが支援をしている中で、あるとき、この息子さんを亡くされたお父さんからこんな話を聞きました。「息子が亡くなったということについて、当然、妻も承知しているのだけど、妻は家へ帰り、夕食の時間になると毎日必ず、『きょうも○○は帰ってくるのが遅いね』と声をかける」と。これは、わかっていても、なかなか気持ちの上で子どもが亡くなったことを認めることができないでいたということす。

 そんな中で、たまたまある市から「今年も実はこういうことで、被害者の話を聞く会を是非開催したいと思っている」とお話がありました。市民の集会というのが、この行政の中であるそうで、そんなことを聞いていた折から、「是非この被害者のお父さんから話をしてもらったらどうか」ということをお話したわけです。

 このお父さんに「こんな話がありましたよ」と説明したら、「それじゃあ私が行って、是非、被害者の立場でお話をしましょう」と、その市で行われた講演会に行って、1時間ほどお話をされました。

 それから帰って間もなく、このお父さんが、「下手な話をしてきたんだけど、一番喜んでくれたのは私の女房、妻だった」と。「妻は毎日夕食になると、『○○はちっとも帰ってこないね』ということを言うのだけど、『講演会の席で、夫がいろいろ述べてくれた』と、それは『被害者の立場として非常に悩んでいることをみんな伝えてくれたことが非常に嬉しかった』と言って、その講演会の日以後、子どもの名前を呼ぶことはなくなった」とおっしゃっていました。

 そんなことをわざわざ私どものところへ来てお話ししてくれたのです。最終的には、被害者の方あるいはご遺族の方がご自分の力で自立されて、新たなもとの生活を持っていただくことが、私どもの支援における一番の目的です。このような形で支援につながっていけばありがたいなということでご紹介しておきたいと思います。
 

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