中央イベント:パネルディスカッション

「被害者支援はどこまで進んだか」

コーディネーター:
伊藤 冨士江(上智大学総合人間科学部社会福祉学科客員研究員・社会福祉学博士)

パネリスト:
澤田 美代子(基調講演者)
伊東 秀彦(弁護士(みどり総合法律事務所)、千葉県弁護士会副会長)
奥田 暁宏(警視庁総務部企画課犯罪被害者支援室警部・警察庁指定広域技能指導官)
乗木 亜子(東京都総務局人権部被害者支援連携担当課長)

(伊藤) 皆さん、こんにちは。本日の中央イベントの最後のパート、パネルディスカッションに入りたいと思います。約60分の時間を予定しておりますが、最後までどうぞよろしくお願いいたします。

 パネルディスカッションでは、このスライドにありますように「被害者支援はどこまで進んだか」をテーマとしております。内容は、ここに書いてあるとおりで進めてまいりたいと思います。

 被害者支援はどこまで進んだか。いささか大きなテーマではありますが、この4月から第4次犯罪被害者等基本計画が始まったところですので、犯罪被害者に対する支援がどのように進展し、そしてこれからどう進めていくべきかについて議論していきたいと思います。

 申し遅れましたが、私は上智大学の伊藤と申します。今日のパネルディスカッションのコーディネーターを務めさせていただきます。警察庁の犯罪被害者等施策推進会議がありまして、その専門委員として第4次基本計画の策定に携わらせていただきました。専門は社会福祉で、ソーシャルワークの視点から犯罪被害者の問題、被害者支援について研究を続けております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

 続いて、パネリストの方の御紹介に移ります。最初のパネリストは、澤田美代子さんです。先ほどは大変貴重な御講演をどうもありがとうございました。澤田さんは千葉の民間被害者支援団体である千葉犯罪被害者支援センターの理事を務めていらっしゃいます。また、先ほどの御講演の中に出てきましたが、少年犯罪被害当事者の会においても活動されておられます。引き続いての御登壇となりますが、被害者御遺族の立場からコメントをいただければと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

 続きまして、伊東秀彦弁護士です。千葉県の弁護士会の副会長でいらっしゃいます。被害者支援に積極的に取り組まれており、裁判を多数担当しておられます。また、アメリカ留学中のお兄様を犯罪で亡くされた御遺族でもいらっしゃいます。今日は刑事手続、弁護士による支援、また千葉における被害者支援の取組についてお話しいただく予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

 3人目のパネリストの方になります。警部の奥田暁宏さんです。現在、東京都の警察、警視庁の犯罪被害者支援室でお仕事をされていて、昨年からは国の、警察庁において全国初めての指定広域技能指導官に任命されておられます。全国の警察職員に対して、被害者支援に関する助言や指導を行う立場でいらっしゃいます。後ほど、警察による支援についてお話をいただきたいと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

 最後のパネリストの方になります。乗木亜子さんです。東京都の公務員として総務局人権部の被害者支援連携担当課長をお務めです。昨年4月から施行された東京都の犯罪被害者支援条例、また第4期の支援計画の策定に携わっておられます。自治体の取組についてお話しいただく予定です。よろしくお願いいたします。

【被害者支援の発展経緯】

 では、本題に入ってまいります。

 まず、澤田さんの御講演を振り返りながら被害者支援の進展のポイントを押さえておきたいと思います。我が国の被害者支援がどのように進展してきているかということですね。簡単に御説明させていただきたいと思います。スライドを御覧ください。

 我が国における被害者に対する支援制度がいつから始まったかですが、一応、この昭和55年の犯罪被害者等給付金支給法の成立をもって始まりとしています。1980年のことでした。今から41年前ということになりますが、それ以前は全く、何の支援制度もありませんでした。欧米では1960年代にこうした補償制度ができ上がっておりましたので、日本はかなり遅れていたということが言えるかと思います。

 そして、何といっても大きいのが、先ほどのトークショーでも出ましたが、平成16年の犯罪被害者等基本法の成立になります。そして、この基本法に基づいて翌年の平成17年には犯罪被害者等基本計画が策定されました。関係省庁はもちろん民間団体も一緒になって被害者施策を進めていきましょうということで、当時、258もの施策が決まりました。この基本計画は5年ごとに見直しをされていて、現在、第4次基本計画が施行されています。

 ざっとですが、基本法ができて17年経ち、経済的な支援そして精神的なケアが整ってきました。権利を求めていた時代から現在は被害者の方の様々なニーズ、生活上のニーズももちろん入りますが、ニーズを満たすために中長期にわたって支援をしていこうと、そういう時代に入っているということが言えるかと思います。

 先ほどもトークショーのところで御説明がありました、この犯罪被害者等基本法を見ますといいことがたくさん書いてあるわけです。「犯罪被害者等は、尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利を有する」と謳っていて、被害者の基本的権利を明記した画期的な内容になっていると思います。

 そして、基本計画ですね。基本計画は4つの基本方針と5つの重点課題に基づいて定められていますが、そのうちの5つの重点課題を見てみたいと思います。スライドにあるように定められています。見ていきますと、最初に損害回復・経済的支援等への取組、2つ目に精神的・身体的被害の回復・防止への取組、3つ目に刑事手続にもっと関与できるようにしようということです。それから、4つ目は支援のための体制を整備しようということ、そして5つ目は国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組ということで、最後の5番目に、「国民への理解の増進」が入っています。ですので、犯罪被害者週間が定められ、中央イベントのようなイベントが毎年開催されているということだと思います。この重点課題はずっと引き継がれていて、第4次基本計画でも引き継がれております。

 ここからは3番目の「刑事手続への関与・拡充への取組」について入ってまいります。最初の基本計画のもとで大きな前進がありましたが、基調講演の中で澤田さんが述べられていた被害者参加制度というものですね。この制度について説明を加えていきたいと思います。

 これは2008年12月から導入された制度です。長いこと、刑事裁判において被害者の人たちは「蚊帳の外」とよく言われますが、全く関与できない状況に置かれていました。被害者や御遺族の方が長いこと望んでおられた制度なのですが、この辺については伊東弁護士のほうから説明していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【被害者参加制度・少年法】

(伊東) 改めて弁護士の伊東と申します。よろしくお願いいたします。本日お話しする中で評価や感想にわたる部分もあるかと思いますが、これについては私個人のものであって弁護士会等を代表したものではありませんので、その点、御留意いただければと思います。

 さて、被害者参加とはその名のとおり、被害者や御遺族が刑事裁判に直接参加できるという制度です。具体的には、傍聴席ではなくてバーの中に入って裁判に出席することができたり、被告人に質問ができたり、いわゆる求刑意見を述べることができるといったものです。澤田さんの先ほどのお話の中でも裁判への出席や被告人に質問する様子、求刑意見を述べた様子がございました。この被害者参加制度は2008年12月から運用が開始されましたが、これにより犯罪被害者の刑事裁判への関わり方が劇的に前進しました。それまではほとんど外野で見ていることしかできなかっただけではなく、情報もほとんど入らないといった状態が多かったのですけれども、この被害者参加制度の導入により、刑事裁判の情報がリアルに得られるようになったことはもちろん、自分の目で、自分の言葉により刑事裁判に主体的に関与することができるようになりました。被害者参加制度を利用された被害者の方の多くは、直接、裁判の雰囲気に触れられた、言いたいことが言えたなどポジティブな評価をされている方が多い印象です。なお、被害者参加して裁判に出席したいけれども、顔は見られたくないのだという方に関しては、一定の要件のもとで衝立を立ててもらうこともできます。なお、司法統計によれば、令和2年に被害者参加が許可された人数は1,377人とのことです。私から以上です。

(伊藤) ありがとうございました。もう一つ、澤田さんの事件では加害者が19歳の少年だったために、少年法という壁がありました。このあたりのことについて伊東弁護士からまた説明をお願いしたいと思います。お願いします。

(伊東) はい、少年法は1条で「少年の健全な育成を期し」と規定されていることからも分かるとおり、刑罰適用の実現よりは少年の健全育成を重視するという保護主義がとられております。そのため、少年審判を行うのは家庭裁判所でありまして、手続は原則として非公開であるなど、成人の刑事裁判とは手続が大きく異なっております。その関係で、長らく少年事件において被害者はほぼ蚊帳の外であって、知りたい、意見を述べたいといった被害者の希望をかなえる場面は原則としてはございませんでした。

 なお、少年審判において家庭裁判所が重大な事案であり、刑事裁判を行うのが相当であると判断した場合には、家庭裁判所は検察官送致を行って、その後、成人と同様の刑事裁判に付されることがあります。これはいわゆる逆送と呼ばれるものでして、澤田さんのケースも逆送されたケースでございます。以上です。

(伊藤) ありがとうございます。少年法が制定されて以来、長い間、手を加えられていなかったのですね。それが2000年以降、改正が続きました。その中では少年事件の被害者の方々に対して配慮する形で改正が行われていった点もございます。この点について、伊東弁護士から御説明いただきたいと思います。お願いします。

(伊東) 少年法の保護主義という理念は維持されております。ただ、被害者等への配慮の必要性も考慮され、徐々に被害者の取り得る手段が拡大していきました。例えば、被害者が審判廷等で心情に関する意見を述べることができたり、少年審判の結果の通知を受けることができるようになったり、記録の閲覧等もできるようになりました。更に、殺人等の重大事件に限ってではございますが、原則、非公開である少年審判を傍聴することも可能となっております。澤田さんのお話の中でも意見陳述や少年審判傍聴の様子がございました。ただ、このお話の中で、「事前に音を立てないように注意された」というエピソードがございましたけれども、やはり家庭裁判所が少年へ相当配慮しているということは今でも変わってはございません。とは言っても、少年法の中で一定の被害者に関する制度が取り入れられたことによって、限定的ではあるかもしれませんが、被害者の知りたい、意見を言いたいというニーズをかなえることが一定の範囲で可能となっております。

 なお、最近のお話ですと2022年4月1日から更に改正少年法が施行されることになります。この改正少年法では18歳、19歳を特定少年と位置付けて、この特定少年について逆送の対象を広げたり、逆送され、起訴された場合の報道規制に関してこれまでとは異なった取り扱いをするなどといった改正がなされております。私からは以上です。

(伊藤) ありがとうございます。少年法改正のポイントについて御説明いただきました。今、ご説明いただいたように、徐々に被害者の方が刑事手続に関与できるようになった点ですけれども、澤田さんのほうからコメントをいただけるでしょうか。お願いいたします。

(澤田) 以前の裁判では加害者の刑罰を決めるだけのように思われました。被害者のことは証拠として扱われていたと感じる被害者御遺族も多くいたことも分かりました。刑事裁判に直接関われるようになったことは、被害からの回復につながるのではないかと思っています。私達がもしあのとき少年審判傍聴もできず、刑事裁判に参加等できなかったらと考えたとき、理不尽な犯罪被害の苦しみ、悔しさをどう訴えればいいのか、命を奪われてしまった子供の無念をどう表せばいいのかとずっとつらい状況が続いていたと思います。亡くなってしまった被害者の存在というものを法廷で表し、残された家族が気持ちを言える場は誰にとっても必要なことだと自分が参加できて強く思います。それが加害者の反省にもつながり、更生へ良い影響を与えるのではないかとも考えています。

(伊藤) ありがとうございました。本当に御遺族の気持ちがよく伝わったものと思います。澤田さんの御講演の中では、事件後間もなく2人の弁護士に出会うことができて、大変助けられたといった御発言がありました。弁護士の支援について、弁護士の立場からご説明いただけるでしょうか。

【弁護士による被害者支援】

(伊東) 弁護士の被害者支援について、端的に述べますと法的支援ということになります。犯罪被害者や御遺族というのは、否応なしに捜査だったり、裁判だったりという世界に放り込まれますが、これは難解な法的世界ということになります。弁護士は被害者の方々がこのような法的世界の中で安心して適切に権利行使できるよう、支援をしております。具体的な支援内容として数が多いのは、先ほど来、出ている刑事裁判における被害者参加制度の支援でして、被害者の方とともに裁判に出席したり、弁護士から被告人に質問したり、意見を作成したり、朗読したりしております。

 その他、被害者参加以外でも、少年審判の対応でしたり、被害届や告訴の提出、また民事分野での示談交渉だったり、損害賠償等の法的手続全般を対応しております。また重大事件や社会的耳目を集める事案においてはマスコミ対応を行わせていただくこともあります。私が所属する千葉県では、県警と連携して、マスコミ対応等に動いたり、あるいは事件その日に県警から支援依頼を受けて、県警の方とともに被害者宅に赴いて相談を受けることもございます。

 弁護士というと、犯人側というイメージも強かったかと思いますけれども、被害者支援を担う弁護士の数も増えているところでして、弁護士による被害者支援は、例えばここ10年でも質・量ともにかなり進んできたのではないかと思っております。以上です。

(伊藤) ありがとうございます。一般には弁護士さんというと、なかなかなじみがなくて、依頼すること自体、敷居が高いように思われる方も多いかと思います。そのあたりはいかがでしょうか。

(伊東) この敷居というところで最もネックになっているのは費用なのではないかと思っております。この弁護士費用については、原則としては各弁護士と依頼者との間で自由に設定できるとされております。そのため、例えば被害者参加の場合に一律幾らですよということをここで正式に申し上げられないところが正直なところなのですけれども、そう言ってしまうとますます皆様の不安を高めてしまっているのではないかとも危惧するのですが、ここで強調したいのは、弁護士費用については豊富な援助メニューが用意されているという点です。ここのスライドにも上げましたけれども、被害者参加制度には国選制度がございます。この場合、一定の資力要件がありますけれども、例えば不動産というのは資力要件に含めません。なので不動産を持っているから国選制度が使えないということはございませんし、またこの国選制度の場合の資力要件というのは、世帯、家族単位ではなくて個人単位です。何はともあれ、思ったより使える範囲は広いと考えていただければと思っております。そのため、弁護士費用は高いというイメージから、即弁護士への相談を諦めるといった事態が生じないよう、注意しなければならないとも思っております。

 なお、後に述べようと思いますけれども、今後、弁護士費用の国費負担を更に広げていきたいとも考えているところです。私からは以上です。

(伊藤) ありがとうございました。では、ここでまた澤田さんのほうからコメントをいただけますでしょうか。

(澤田) 突然の犯罪被害であまりの衝撃に自分から何かをするということ、考えることなどできませんでした。でも、葬儀はしなければならない、そのことだけは必死で準備しました。そうした中で、早い段階から弁護士さん方の支援が受けられたということは救われたことであって、とても心強く感じました。法律や被害者参加制度について知識もほとんどない私達に寄り添い、その都度、本当に適切なアドバイスをしてくださったと思っています。事件から間もない時期に先生が家まで来てくださって、そのときに、やはり少年審判の期日も迫っていたので、先生は被害者に寄り添いながらも準備はきちんと進めなければならないという思い、それも伝わってきました。

 そして、調書のコピーを渡されたときに、「更に傷つくことがあるかもしれませんが、これをしっかり読まないと傍聴や裁判に向き合うことはできません」というような助言をいただきました。生半可な気持ちで裁判に参加はできないなと、悲しみや苦しみを乗り越えてやらなければならない、それが裁判参加なのだと思いました。やはり、先生方の御支援によって、そのときにしかできない裁判参加、少年審判傍聴したことは、遺族としてもやれることは全てやることができた、息子への思いも家族として表せたと本当に感謝しています。

(伊藤) コメントをありがとうございます。弁護士さんの助言がとても役に立ったというお話だったと思います。

 では、ここで警察における被害者支援ということに移ってまいりたいと思います。トークセッションの中で説明がありましたが、被害者支援というと、まず思い浮かぶのが警察の対応だと思います。そのあたりについて現場で御活躍されている警部の奥田さん、お願いいたします。

【警察における被害者支援】

(奥田) 改めまして、警視庁の総務部企画課犯罪被害者支援室の奥田と申します。よろしくお願いいたします。それでは、警察における被害者支援の主な取組について御紹介させていただきます。

 1番目は、犯罪被害者等への情報提供ということになります。これは捜査状況や被疑者の検挙状況、それから処分状況について連絡を行う被害者連絡制度となります。2番目は相談・カウンセリング体制の整備となります。被害者や遺族は命を奪われる、家族を失う、怪我をするなどの直接的な被害だけでなく、事件に遭遇したことによる精神的ショックや身体の不調等、被害に生ずる様々な問題に苦しめられます。大きな精神的被害を受けられた被害者や遺族に対しては心理学的立場からの専門的なアドバイスが必要となり、そこで警察においてはカウンセリングに関する専門的知識や技術を有する職員の配置、精神科医や民間カウンセラーとの連携を強化しております。3番目につきましては、犯罪被害給付制度でございます。被害者や遺族等が再び平穏な生活を営むことができるよう支援するため、犯罪被害者等給付金を支給するものです。現在では支給要件の緩和、それから親族間犯罪に係る減額支給事由の見直しなど、法令改正により犯罪被害給付制度の拡充が図られております。さて、4番目におきましては、捜査過程における犯罪被害者等の負担の軽減ということになります。これは刑事手続の概要だとか、利用できる制度、それから各種相談機関窓口について分かりやすく記載したパンフレット、被害者の手引を作成、配布させていただいております。5番目は、犯罪被害者等の安全確保ということになります。警察では被害者と連携を密にし、必要な助言を行うとともに、状況に応じて自宅や勤務先における身辺警戒やパトロールを強化したり、緊急通報装置を貸し出すなど、犯罪被害者等への危害を未然防止するための対策を講じております。6番目につきましては、性犯罪、DV、ストーカー事案における各施策ということになります。一例を挙げますと、緊急避妊等の公費の負担、それから保護措置を図るため、女性相談所や配偶者、暴力相談支援センター等との関係機関・団体と連携を図っております。最後に、7番目ですね、関係機関・団体との連携になります。主なところを申し上げますと、各都道府県の民間被害者支援団体との連携、それから警察、地方公共団体、関係機関・団体等で構成する被害者支援連絡協議会との連携が挙げられます。民間被害者支援団体につきましては、警察や関係機関と連携を図りながら、電話での相談、面接としての相談、それから病院や裁判所等への付き添い等の活動を行い、被害者の精神的被害の回復等、被害の早期軽減に大きな役割を果たしております。

 そして、最初に被害者や遺族に接触、事情聴取をするのは警察だけでございます。被害認知直後から被害者や遺族に対する支援が強く求められていることなどから、警察ではこのようにして、指定被害者支援要員制度という制度を設けております。これにつきましては、殺人や性犯罪、交通死亡事故、また社会的反響の大きい事案において、あらかじめ指定された警察職員が事情聴取、実況見分等の立ち会い、病院等の付き添い、要望の対応等の初期的支援、被害者連絡及び訪問連絡活動を行っております。以上です。

(伊藤) ありがとうございます。続いて、一つの具体的な事例として、今から13年ほど前に都内で起きて多くの方が巻き込まれた事件、秋葉原の事件について警察がどのような支援をしたかについて御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

(奥田) 今からこれは13年前の出来事になります。平成20年6月8日、日曜日の午後0時33分ごろ発生いたしました。加害者については当時25歳、派遣社員の男、1名でございます。犯行動機については、後に「世の中がいやになった、誰でもいいから人を刺して殺すつもりだった」などと供述しておりました。発生場所につきましては、秋葉原地区となります。当時は歩行者天国の区域となっており、買い物客や観光客でごった返している中での犯行でありました。

 まず、この第1現場でございます。第1現場として加害者の運転するトラックが赤信号を無視して突入、青信号を横断中の歩行者5名をはね飛ばし、第2現場として、トラックを運転していた加害者はそのまま車を降り、道路に倒れ込む被害者の救護に駆けつけた通行人、警察官らを所持していたダガーナイフで立て続けに切りつけ、第1現場、第2現場併せて死亡者7名、負傷者10名、計17名となる大惨事となりました。これは平成時代に起きた無差別殺傷事件としては、平成13年の同じ日に発生しました附属池田小事件に次ぐ惨劇となりました。

 当時、私は犯罪被害者支援室に着任したばかりでありましたけれども、当日は休日でした。出先でけたたましくなる携帯電話をとって、初めて事案の重大さを知りました。そして、そのまま捜査本部が設置された警察署に向かいました。その後、警視庁においては本件が被害者多数の事案で、被害者及びその遺族等に対する組織的かつ総合的な被害者支援を効果的に行う必要があると判断。被害者支援本部の設置を決定、隣接している警察署等から被害者特別支援員等を招集、私ども犯罪被害者支援室員を含めて計40名以上にのぼる体制で被害者や遺族、それからそれぞれの支援に当たりました。

 なお、警視庁において被害者支援本部が設置されたのは後にも先にも、この秋葉原事件だけとなります。秋葉原事件に対する具体的な支援については、遺族に対する支援として遺族の待機場所の確保、それから被害者支援車両にて遺体の安置場所への送迎支援、遺体安置場所から自宅等への送迎支援、司法解剖時の病院と自宅における送迎支援、また通夜や告別式における対応、付き添い、報道対策を行いました。

 また、重傷の被害者に対する支援といたしましては、被害者支援本部員を入院先、治療先の病院へ派遣、被害者または家族と面会、また報道対策、退院時、病院から自宅までの送迎支援等を行う他、要望を受けて各種給付金の教示、説明や申請の補助、職場や学校への連絡、また精神的な不調を訴えられた方についてはカウンセラーの紹介に当たりました。以上です。

(伊藤) ありがとうございます。警視庁による大掛かりで、きめ細かな支援について、御説明いただきました。澤田さんのほうから警察における被害者支援についてコメントいただけるでしょうか。

(澤田) 事件発生と同時に、被害者や遺族は警察の方々と関わらなければなりません。信じられないような状況で、精神的にも相当の衝撃を受けている中で、最初に話すことになる警察官の対応というものはとても重要なことだと思います。遺族のその後にとっても影響を与える、ああいう支援があった、こういう言葉をかけてもらった、そういうことで救われることも多いと思います。私自身の経験からも、やはりそうでした。少年審判傍聴、刑事裁判参加の送迎、これも自分達でもし裁判に向かうということだったら事故を起こしてしまうかもしれない。そういう中で、そういう支援はとてもありがたく、安心感が得られました。

 そして、再被害防止制度について利用できたことも感謝しています。被告の法廷での態度、また「でかいことをする」、そういうことを何度も何度も言っていた加害者、その後の刑務所での処遇通知で知る、更生が全く望めないような状況、そういう中で社会に出てくる。私は事件後、様々なことが不安でした。事件に遭ってしまった身では、何もかも心配の種になりました。そんな中で、加害者が社会に出る、またどんなことを起こすか分からない、心配だったので、この制度を利用できて、心も救われました。万が一のことを想定して、被害者への支援をこれからもお願いしたいと思っています。

(伊藤) ありがとうございました。警察にしかできない支援というのがあることを強く感じましたが、ここで奥田さんのほうから警察として今後どのように被害者支援に取り組まれていくかについてお聞かせいただけますでしょうか。

(奥田) この秋葉原事件を受けて、被害者支援の制度や内容も大きく変わりました。警察においても被害者支援の重要性がようやく認識され始め、私が所属していた警視庁犯罪被害者支援室においても検討され、それまでなかった制度が予算化、制定されるきっかけともなりました。

 しかしながら、まだ現在、私達、現場の隅々まで、また若年層からベテランの職員までまだまだ被害者支援の重要性というのが伝わっていないのも現状だと思っております。私は警察庁指定広域技能指導官としていろいろなところで教養しておりますけれども、被害者や遺族は家族のつもりで、また支援活動は警察の大切な役割、やれることは何でもやるということを伝えております。今後も私自身もこれまで接してきた被害者や遺族の存在を胸に、十分な知見と強い使命感を持った警察官、後進の育成に努めたいと思っております。

 また、私自身、今まで多くの被害者、遺族と出会いましたけれども、年齢や生まれ、生活環境等も大きく違って、同じ支援は二つとありません。先般、都内の鉄道車両内で立て続けに無差別殺傷事件が発生して、多数の方が負傷、身体的にも精神的にも大きなダメージを受けた被害者の方もいらっしゃいます。今後、中長期的にかつ広域にわたる支援の必要性も感じております。それぞれの被害者に必要とされる支援内容を被害者の立場に立って考えながら、各関係機関、市区町村、全国警察と連携しながら効果的な支援を展開できればと思っております。以上です。

(伊藤) ありがとうございました。では、ここで自治体における支援に入っていきたいと思います。今、奥田さんから連携の必要性、総合的な支援を展開するためには連携が大事だということをお話しいただきましたが、自治体における被害者支援について、東京都のお話を伺おうと思います。東京都は昨年、全国で20番目に被害者支援に特化した条例を制定したと伺っております。乗木さん、東京都の取組について御説明いただけるでしょうか。お願いいたします。

【自治体における被害者支援】

(乗木) 改めまして、東京都総務局人権部被害者支援連携担当課長の乗木と申します。

 東京都における犯罪被害者等支援として、都は犯罪被害者等支援条例を制定していますので、その経緯等について御紹介いたします。東京都は、平成20年1月に「東京都犯罪被害者等支援推進計画」を策定し、それ以降、3期にわたる支援計画に基づき、東京都総合相談窓口の機能強化や性犯罪、性暴力被害者のためのワンストップ支援事業をはじめとした被害者等の支援に幅広く取り組んでまいりました。一方、都内における刑法犯の認知件数は依然として全国の1割強を占めるなど、犯罪被害者の置かれている状況は厳しいものがあります。そこで、都としての被害者支援の姿勢を明確に示すとともに、社会全体での取組をより一層進めていくため、「東京都犯罪被害者等支援条例」を制定し、令和2年4月1日に施行いたしました。

 東京都犯罪被害者等支援条例の概要を御紹介します。第1条に目的がありますが、目的は、犯罪等により受けた被害を回復又は軽減し、犯罪被害者等の生活再建を図ること、また犯罪被害者等を社会全体で支え、誰もが安心して暮らすことができる社会の実現に寄与することを目的としています。

 そのための方策としては、都が実施する被害者支援の施策及びその方向性として条例の第11条から第22条に規定しています。具体的には、相談体制の更なる充実や経済的負担の軽減に加えて、先ほど奥田警部よりお話のあった緊急支援の実施等で、被害者多数の大規模被害が発生した際、関係機関が協力して対応するよう、支援体制を整備することとしています。条例ができたことで条例に基づいて被害者に寄り添った支援策を総合的に展開していける体制が整いました。

 経済的負担の軽減のための東京都の犯罪被害者等支援策について御紹介します。条例の検討に当たって実施した犯罪被害者の実態調査では、被害後、医療費等の支出が増えたにもかかわらず、収入が減り生活が苦しい、また性犯罪事件等においては自宅が被害現場になり、住み続けられない、転居したいが費用を捻出できない。また、不慣れな裁判への準備等を迫られ、弁護士からの適切なアドバイスが必要、等が明らかになりました。

 そこで都では、犯罪被害者のニーズを踏まえて、条例の施行に合わせて支援策の拡充を行いました。具体的には、被害者の実態を踏まえて、令和2年度より転居を余儀なくされる際に必要となる場合の費用を、上限20万円まで助成する転居費用の助成、被害者が無料で法律相談を受けることができる無料法律相談、犯罪により死亡した被害者遺族に30万円、重傷病を負った被害者本人に10万円を給付する見舞金制度を開始しました。また、令和3年度より被害者参加制度における弁護士費用助成として、先ほど伊東弁護士より説明があった被害者参加人のための国選弁護制度の資力要件に該当しない方を対象として、一定の条件はありますが、新たに都としても10万円を上限に費用の助成を開始しました。

 経済的支援については、それぞれ対象となる犯罪等、要件がありますので、都のホームページやスライドにあるリーフレット、リーフレットは、本日、配布もしておりますので、ご確認いただければと思います。これらの経済的支援ですが、必要な被害者の方に適切に届くことが重要ですので、警視庁、検察、弁護士会等、被害者支援の関係機関にも協力を依頼し、制度を御紹介いただいております。

 第4期東京都犯罪被害者等支援計画について御紹介します。条例の翌年、令和3年2月に策定した5か年の支援計画になります。条例に基づく初めの支援計画として、犯罪被害者等支援の施策を更に充実させています。第4期支援計画の施策の基本的方向ですが、3期にわたる都の支援計画の間で、都や警視庁、弁護士会、各関係機関における犯罪被害者等支援策は充実してきましたので、今後は関係機関が更に連携して、状況に応じた支援を途切れることなく提供し、被害者支援の実効性を高めていくことが重要です。

 そこで、犯罪被害者等が安心して暮らすことができるよう、目指すビジョンを「関係機関の連携強化による支援の充実」とし、犯罪被害者を支える社会の形成を目指す上で、必要な支援策を推進していくこととしています。施策の柱は1から5まであります。施策の柱1は、「総合支援体制の整備」です。関係機関が連携した支援を行う体制を整備します。施策の柱2は、「相談体制・情報提供の充実」、相談窓口の充実等に取り組みます。施策の柱3は、「早期回復・生活再建に向けた支援」、施策の柱4は、「都民の理解の増進」として、都民、事業者の理解を深めるための広報、啓発を展開します。施策の柱5は、「人材の育成と民間支援団体への支援」になります。本日はそのうち、「総合支援体制の整備」を御紹介します。

 総合支援体制とは、関係機関のどこを起点としても必要な支援につながり、適切な支援を受けられることです。犯罪被害に遭うと、被害に遭って精神的なダメージを受けているにもかかわらず、警察や検察の事情聴取への対応に加え、家事、育児、介護等の日常に迫られます。また、自宅で被害に遭い、現在の住居に住み続けられないが、どこに転居したらよいか分からない、また転居できたとしてもお子さんの転校等、様々な手続が必要になり、対応に苦慮することがあります。そこで、都は区市町村の他、被害後に接する警視庁、弁護士会等、関係機関と連携し、被害者中心にサポートするため、調整、つなぎ役となる「被害者等支援専門員(コーディネーター)」を令和3年度から東京都に配置しました。なぜ、都にコーディネーターが必要かというと、犯罪被害者等の被害後の居住場所や就業、子供の教育等、様々な生活上のニーズについては被害者が居住する地域での支援が重要です。そのためには身近な相談窓口である区市町村のサポートが必要ですが、そのような多岐にわたる生活上のニーズをお聞きして、支援した経験がある自治体は多くはないからです。

 そこで、都は広域自治体として、令和3年度からはコーディネーターが中心となって、区市町村の職員を対象に事例検討会等により、犯罪被害者一人一人の要望に応じた支援を提供できるよう、実践的な研修も充実させています。コーディネーターの配置により、実際、今まで支援した経験がないという自治体でも、コーディネーターと協力して支援していただきました。区市町村とは被害者のニーズに合わせて既存の制度や支援策を組み合わせて、また特別な配慮も時にはしていただきながら、必要な支援を提供しています。犯罪被害者等が被害から回復し、生活を再建できるよう、被害直後から中長期にわたって支援できる体制を今後も構築していきたいと思います。以上です。

(伊藤) 乗木さん、ありがとうございました。自治体の被害者支援の取組ということで詳しくお話しいただきましたが、この中には「自治体がここまでやるようになったのか」と、驚かれた方もいるかもしれません。全国に様々な自治体があって、少しずつ体制を整備しているという状況ですね。

 東京都の特徴として、御説明の中にあったように、今年度からコーディネーターを配置されるようになったということでした。そのコーディネーターについてもう少し詳しくお聞きしてみたいと思います。乗木さん、お願いいたします。

(乗木) コーディネーターについて改めて御説明いたします。このスライドですけれども、警視庁や弁護士会等、被害者と最初に接する支援機関向けに「このような場合にコーディネーターにおつなぎください」と御連絡した想定事例になります。

 例えば、「犯罪被害で重傷を負い、仕事ができなくなった。今後もすぐには働くことができず、家賃の支払い等、経済的に困窮してしまった。居住している区市町村に伝えたいが、どの窓口に連絡したらよいのだろうか」ということが考えられます。経済的に困窮していれば、自治体によっては貸付金等の支援がありますが、どの窓口に行ったらいいか分からないということがあります。そのような場合、支援機関から区市町村につなぐことも可能ではあるのですが、被害者のニーズは貸付金だけとも限りません。都のコーディネーターが被害者から今後の就業など、生活全般をお聞きし、犯罪被害に遭ったという事実を本人が説明することは負担がありますので、被害者の方の同意を得た上で、お住まいの区市町村と連携して、提供できる支援を区市町村と都が一緒に考えています。

 また、「子供が犯罪被害に遭ってしまい、これまでどおりの学校生活ができないかもしれない」と御両親が心配している、そのような場合もコーディネーターが被害者の状況を伺って、警察や区市町村等、必要な関係機関と連携した支援を行っています。お子さんについては地域全体で支えることが重要です。コーディネーターが区市町村窓口と協力することは、その意味で意義があると思います。区市町村窓口から学校や福祉部門等、必要な部門と協力して支援を提供しています。

 コーディネーターは、条例の目的である被害の回復または軽減、生活の再建を図るために都が主体となって取り組む核となる支援です。都には、先ほど御紹介した見舞金や転居費用の助成等の支援もありますので、今後とも区市町村等、関係機関と連携しながら総合的な支援の提供に向けて取り組んでいきたいと思います。

(伊藤) 御説明、ありがとうございました。こういうコーディネーターについて、先ほど東京都が初めてですかと伺ったら、「どこかももう始めているかもしれません」というお話でした。私などは社会福祉が専門ですので、ぜひこういうコーディネーターを自治体に置いていただいて、きめ細かな支援を行っていただきたいと思っております。自治体の市区町村レベルでは全国に被害者対応を行う総合的対応窓口が開設されたのですが、担当される方が対人援助の専門職ではないなど、まだまだ課題があります。ですので、こういったコーディネーターの配置は、とても参考になると思います。ありがとうございました。

 では、今のお話で、東京都は条例が制定されたことを契機として、いっそう被害者支援の体制が整備されてきたということが分かりました。澤田さんの事件は千葉で2008年に起きましたが、澤田さん、当時、自治体から何か支援はありましたでしょうか。また、自治体の支援について望むことがあればお聞かせいただきたいと思います。

(澤田) 私は、自治体から被害者遺族お見舞金をいただきました。当時、そのような制度があることにびっくりしました。被害者参加制度も丸きり分からなかったのですけれども、自分の住んでいるところで被害者遺族に対してそういう支援をするということがもう制度としてあったということに驚きと、ああ、そういう支援をするということもきちんと決まっていたんだなということで、ありがたかったです。経済的な支援ももちろん重要ですが、やはり家族にどんなことが起こるか分からないこういう世の中で、様々な困難に陥ると思われます。生活に対して早期の支援、小さい子がいれば本当にいろいろ困ることもある、家計を担っている中心の人が被害に遭ったら、それもまた経済的な困難もある。自治体の中で、生活に対しての条例やそれをできるような体制を早期に整えていただきたいなと、私は願っています。

(伊藤) ありがとうございました。では、ここから千葉の話を伺いたいと思います。そもそも千葉県レベルではいかがでしょうか。最近の様子とこれまでの経緯を伊東弁護士のほうから御説明いただきたいと思います。お願いいたします。

(伊東) 今、澤田さんのお話は成田市のお話だったのですけれども、千葉県自体や千葉県内の自治体ではなかなか条例制定が進みませんでしたが、千葉県レベルでは本年4月1日から被害者支援条例が施行されております。支援項目自体は概ね網羅されているかと思いますので、重要なのはこれをどう実現していくかだと思っております。これについては、現在、支援計画を策定中でして、澤田さんも私もその計画策定会議のメンバーを務めております。先ほどの東京都のお話も参考にさせていただきながら、充実した計画にしていきたいと思っております。

 ここからは千葉県での条例制定に向けて、私自身がどのように動いたのかについて少し紹介させていただきます。平成後半から各自治体で被害者支援条例の制定が進み、また千葉県が残念ながら刑法犯人件数が全国で5位、6位といったところに位置していたため、千葉県でも被害者支援条例をつくるべきだと考えておりました。平成29年8月には、私の所属する千葉県弁護士会主催で条例に関するシンポジウムを開催しました。この終了後のアンケートでは、98%の方が「被害者支援条例が必要だと思う」との回答をされておりました。また、その前後からは、私自身、県内各自治体を直接訪問して、条例制定にお願いに回りました。ただ、なかなか条例制定の気運はすぐには高まらず、本当に条例は必要なのかとか、自治体でやれることは少ないんじゃないかといった厳しいお言葉も多々いただきました。ただ、東京都を含めた首都圏でも条例制定が進んでおりましたし、千葉県でも多くの被害者の方が生まれてしまっている以上、諦めるわけにはいかないと思いました。

 私自身、犯罪被害者遺族でございまして、こういった状況下で条例を求めるためには、単に弁護士としてのみならず、私の遺族としての立場や思いも伝えていかなければならないのではないかと思いまして、令和元年に入りますと、千葉県知事や重立った市長に条例制定をお願いするお手紙を出しました。このお手紙は弁護士としてというよりは、私、被害者遺族としてという思いを込めまして、もう一名の遺族の方と連名でお出ししました。

 こうした中で、ようやく議員の方が関心を示してくれまして、それに伴って県職員の方々も奮闘していただきまして、その後、議員の方々や職員の方々の前で、再度、条例制定に向けた説明だとか、思いを伝えた結果、本年、制定、施行となった次第です。私からは以上です。

(伊藤) ありがとうございました。全国的に見ますと、まだ被害者支援に特化した条例、支援計画を持っていない自治体も多いようです。参考ですが、令和3年4月1日現在、都道府県では68.1%、それから政令指定都市では40%、市区町村になりますと22.3%でしかと言っていいでしょうか、犯罪被害者支援を目的とした条例が制定されておりません。まだまだ条例を持っていない自治体があるのが現在の状況ですので、今の伊東弁護士のお話を参考にしていただけたらと思います。

 では、最後のまとめに入っていきたいと思います。時間が押してまいりましたので、最後にパネリストの皆さんからこれからの被害者支援に望むことなどコメントいただきたいと思います。乗木さんからお願いいたします。

【今後の展望】

(乗木) それでは、私のほうからですけれども、被害に遭われた方のニーズですけれども、経済面にとどまらず、メンタルケアの問題、転居の問題、就業の問題等、多岐にわたっております。先ほど澤田さんのほうからお話もありましたけれども、一人一人、家族の状況も含め、ニーズも異なりますので、関係機関が連携して、被害後、初期にとどまらず中長期にわたる支援が必要と思います。

 また、被害者遺族の方から「区市町村に相談できるとは知らなかった」などというお話もお聞きしておりますので、当時、2年前くらいなのですけれども、見舞金制度等、東京都で創設するにあたっては見舞金を給付して支援が途切れてしまうということはないようにしたい。これを契機に地域の支援につながるようにしたいと考えていました。今年度から配置されたコーディネーターのお二人ですが、本当に熱心に被害者の話を聞いて、支援につなげていただけておりますので、見舞金の給付や転居費用の助成等、経済的支援が充実したあとに中長期にわたる支援のためのコーディネーターを配置したということはとても意義があることと思います。

 関係機関の皆様におかれましては、被害者の方が自ら言わないまでも困っていると思われるニーズがあることについては、都のコーディネーターに御相談いただくことをお願いしたいと思います。コーディネーターに御相談いただきますと区市町村と協力して、普通に相談すると配慮されないようなことでも、コーディネーターが間に入り、丁寧に状況を説明していくことで被害者の状況の理解が進み、配慮いただける事例も増えてきました。この積み重ねが地域全体で支え合う社会につながっていくと信じております。引き続き、被害からの回復、生活の再建に向けて東京都は取り組んでいきたいと思います。

(伊藤) ありがとうございました。では、奥田さん、お願いします。

(奥田) 犯罪被害者支援においては、平成16年に犯罪被害者等基本法が成立、その後、数回にわたって基本計画が策定され、今日に至っておりますけれども、被害者支援の歴史については実際のところ、まだ20年にも満たず、歴史が浅い部門となります。この期間、警察においても様々な方から御意見をいただき、試行錯誤を繰り返しながら各種制度を充実させてまいりました。

我々、警察のミッションはやはり悪をくじき、弱きを助けるということであります。現場を預かる私としましては、国民からの思いを推し量り、新たな犯罪被害者を生まないように検挙活動や犯罪の抑止に努める一方で、万が一、被害者や御遺族となった方と接することになれば、気持ちや心情に寄り添うだけでなく、我々から今後は未来への道しるべを示せるような支援活動を行っていきたいと思っています。また、社会全体で支える仕組みを関係機関と連携、構築していきたいと思っております。以上です。

(伊藤) ありがとうございました。では、伊東弁護士、お願いいたします。

(伊東) 例えば司法分野では被害者参加制度の制定やそれに伴う被害者支援を担う弁護士の増加等、進んだ点は少なくありません。ただ、幾つか課題もあると考えておりますので、主に3つに絞って述べさせていただきます。

 1点目は、被害者支援分野における弁護士の存在感を高めたいという点です。まだまだ弁護士が被害者支援でもお役に立てるということの認知度は決して高くないと感じております。担い手である弁護士の数は増えておりますので、適切で寄り添った支援を重ねていくことにより、頼られる存在になるべく進めていきたいと思っております。

 2点目は、国費による犯罪被害者支援制度の導入を求めたいと思っております。被害者参加制度に国選制度はございますが、あくまでも国選制度は被害者参加に限定されております。その他、費用援助制度も日弁連の事業でカバーされているところがあるなどしておるため、まだまだ不十分であると考えております。そこで、多岐にわたる弁護士による被害者支援全般について国費によるカバーがなされて、それにより少しでも被害者の方の不安や負担を軽減していきたいと思っております。

 3点目は、行政分野との連携です。基本法には「犯罪被害者等のための施策は再び平穏な生活を営むことができるようになるまでの間、途切れなく行え」と規定されております。私が身を置く裁判分野は、被害者の方にとって重要な局面ではあるものの、一場面に過ぎないとも言えます。被害者の方が平穏な生活を回復できるように支援するためには、司法と行政による支援は不可欠でありまして、そのために条例等もございます。今後、司法と行政が連携することにより、継続的で重厚な支援を実現していきたいと考えております。私からは以上です。

(伊藤) ありがとうございます。では、最後に澤田さん、お願いいたします。

(澤田) いつどこで誰が犯罪に巻き込まれるか分からない。私は自分の子供を失って、本当にそのことを身をもって感じ続けてきたこの13年。そのときに、自分から何かをしてほしい、被害者の支援窓口に電話するという、その当時はそういうものがなかったですけれど、そういうことはなかなか被害者遺族はできないので、どんな支援が必要かということを関係機関が連携して、被害者の御遺族の情報とかを知った上で支援に当たる、声掛けをしていただきたい。そうすることによって生活基盤が戻っていくのではないかなと思います。そして、社会で、一人一人が犯罪抑止を意識した行動も大切だと思います。若い世代へ命の大切さを伝えていくことも今以上に重要であると感じる事件が続いているので、そのことも引き続きお願いしたいと思っています。以上です。

(伊藤) ありがとうございました。まとめになりますが、「被害者支援はどこまで進んだか」について、聴衆の皆さんはどのような感想を持たれたでしょうか。かなり進んできている、あるいはまだまだ改善すべきところがあるなど、いろいろお感じになったかと思います。被害当事者の方をはじめ支援者、それから関係者の尽力によって被害者支援はかなり進んできた面があります。しかし、一方で、私などは被害者の方のお話を聞くたびに、「もっとこういう制度があればよかったのではないか」とか、「周りからこういうサポートがこの時点で入っていれば、違ったのではないか」などと思うことが多くあります。ですので、どうぞ、皆さんお一人おひとりが支援について考えていただけたらと思っております。

 実は、第4次犯罪被害者等基本計画のこともお話ししようと思っていたのですが、時間が押しておりますので、スライドをご覧になってください。

 これは警察庁のホームページに載っています。警察庁の犯罪被害者等施策というページは大変充実しておりますので、ぜひ皆さん、御覧になってください。4つのポイントが記されています。例えば4番目の多様な支援というのは最近の社会情勢を反映して、インターネット上の誹謗中傷等への適切な対応という点がしっかり入っています。第4次基本計画に関心を持っていただけたらありがたいと思っております。

 最後のスライドになります。このパネルディスカッションのために、数か月にわたって警察庁の担当の方にお世話になりながら、準備を進めてまいりました。時間も限られ、私の不手際もあったかと思いますが、パネルディスカッションを閉じるにあたり、ぜひ犯罪被害者支援に関心を持っていただき、更なる進展につなげていきたいと思っております。長時間にわたり、御清聴どうもありがとうございました。

    警察庁 National Police Agency〒100-8974 東京都千代田区霞が関2丁目1番2号
    電話番号 03-3581-0141(代表)