富山大会:パネルディスカッション

「私たちにできる犯罪被害者支援」

コーディネーター:
西尾 憲子(高岡法科大学法学部法学科准教授)

パネリスト:
大岡 由佳(武庫川女子大学文学部 心理・社会福祉学科准教授)
木村 なぎ(性暴力被害ワンストップ支援センターとやまセンター長)
武 るり子(少年犯罪被害当事者の会代表、基調講演者)
在田 吉宏(公益社団法人富山青年会議所2019年度理事長)

西尾:会場の皆様、こんにちは。一気に寒くなってまいりましたが、ぜひ、このパネルディスカッションでは夏のような熱い議論とともに、春の木漏れ日のような優しい気持ちを共有できるような場所になっていただければと思っております。

 それでは、ただいまより「私たちにできる犯罪被害者支援」をテーマとするパネルディスカッションを始めさせていただきます。

 私は今回コーディネーターを務めさせていただきます高岡法科大学の西尾憲子と申します。高岡法科大学は、大変、小規模な大学ではあるのですけれども、珍しい刑事政策という科目が開講されておりまして、私が担当させていただいております。社会の中で起きてしまっている犯罪という現象をいかにしてゼロにしていくのか、ということを学生と共に勉強しているところになるのですけれども、この「犯罪をゼロにする」という究極的な目標に向かって、犯罪者に対して処遇であったり、処罰であったり、そういったものだけでは十分ではないのではないか。まさに、犯罪被害に遭われた、犯罪被害者の方やご遺族の方々がいらっしゃって、その方たちの置かれた状況、またそういったお立場などをしっかり、私たち自身も考えていかなければならないのではないかということを、このパネルディスカッションで皆さんと一緒に考えていく機会にしていただき、また行動に移していける機会にしていただきたいと思っております。

 このディスカッションの趣旨について、今、少し触れさせていただいたのですけれども、最初の御挨拶にございましたように、富山県では平成29年4月1日に「富山県犯罪被害者等支援条例」が施行されております。しかし、この条例は、2年半を経過しておりますが、まだ犯罪被害者の皆様に対して理解が深まっているとはなかなか言えない状況にあると考えます。今ほど、武るり子様の御講演がございましたが、絶望感であったり、疎外感であったり、更には自責の念にさいなまれるといったような、そのお苦しみ、また葛藤といったようなもの、想像を絶する状態であられたということをお聞きいたしました。心が大変痛むような思いでございます。

 今回のパネルディスカッションテーマにつきましては、「私たちにできる犯罪被害者支援」でございますので、このテーマの「私たち」というのは、この会場にいらしていただいている皆様とご一緒に考え、私たち自身が主体となってできる活動、どのようなものがあるのかを考えてまいりたいと思っております。また、この大会への参加をきっかけにしていただき、何らかの行動につなげていこうという思いを共有できる場にしていけたらと考えております。また、御登壇いただいております4名のパネリストの皆様には、それぞれのお立場からの御意見や御研究に関連するものなどを含めまして御意見を頂戴できればと思っております。

 それでは、パネリストの皆様を改めて御紹介させていただきます。

 これから敬称を省略させていただきますことをお許しください。

 まず、武さんから御紹介させていただきます。今ほどの御講演に続き、お疲れのところ、大変恐縮ではございますが、パネリストとして御参加いただき、犯罪被害者の御遺族代表として、また今後の犯罪被害者支援に求められる御意見などについてお伺いできればと思っております。よろしくお願いいたします。

 続きまして、3名の皆様に簡単に自己紹介をお願いしたいと思います。まず、大岡さん、よろしくお願いいたします。

大岡:今御紹介にあずかりました武庫川女子大学から参りました大岡と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

 私は、現在、専門分野は保健福祉学というものになるのですけれども、民間被害者支援に、ここ18年関わってきております。その中で、犯罪被害者の権利であったり、支援というものが進んできてはいるものの、これから更に改善していくところがあるのではないかというようなことを考え、有志でそういったことを考える「くらしえん(犯罪被害者等暮らし・支援検討会)」というものを立ち上げ、現在、活動しております。今日はどうぞよろしくお願いいたします。

西尾:ありがとうございました。次に木村さん、よろしくお願いいたします。

木村:皆さん、こんにちは。私は性暴力被害ワンストップ支援センターとやまでセンター長をしております木村なぎと申します。センター名は非常に長いため、通称「ワンストップとやま」と申し上げております。こちらは平成30年3月1日に開設しました。私自身、もともと看護師、助産師として勤務しておりまして、長きにわたって性暴力被害者支援をしていたかと言われると、実はそうではなく、被害者に向き合いはじめたのは5年ほど前からです。そのきっかけとなったのは、目の前に被害者の方が何人もいらっしゃったことがきっかけとなっています。ぜひ皆さんも、今日このあと、性暴力被害者の実情を知っていただいて、何かできることがないか一緒に考えていただけたらなと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

西尾:ありがとうございました。最後に在田さん、よろしくお願いいたします。

在田:ただいま御紹介にあずかりました、私、公益社団法人富山青年会議所の本年度理事長をさせていただいております在田吉宏と申します。早速ではございますけれども、私どもの活動を簡単な映像にまとめましたので、御覧いただいてもよろしいでしょうか。お願いいたします。

<映像上映>

 私たち富山青年会議所は、この富山に住み暮らす20~40歳までの青年経済人が所属しておりまして、まちづくりや人材育成、また次世代の若者の養成、そして国際交流という形で日々活動をしておる団体でございます。

 この公開例会をさせていただいて、様々なすばらしい講師の方に来ていただいたり、またこちらの、今、映像で流れておりますような富山で、富山のためにという思いを持ってそれぞれ活動されていらっしゃる方を我々で見つけ出して表彰させていただいたり、またこのまちの魅力、富山の魅力を集めて、そういった魅力を発信できる場をつくっていったり、また市民の有志の方々にお集まりいただいて、富山をどうやったら良くできるかという議論の場をつくらせていただいたり、そういった活動を普段させていただいております。

 この青年会議所という組織は世界組織でありまして、全世界で20万人くらいいます。日本には3万人くらいおりまして、そういった全世界のみんなと、友人たちと交流を深めたり、その中から様々な刺激をもらいながら、自分たちの成長にもつなげていって、そしてこの富山の未来のリーダーたちをつくっていって、一人一人のリーダーがこの富山を更に盛り上げていくということを考えて日々活動させていただいております。

 先日行わせていただきました全国大会では、全国から1万人がこの富山に集って、この富山の魅力を発信していった機会でございましたけれども、ちょっと台風がございまして、いろいろ皆様にも御迷惑をおかけしたところでございます。そして、今ほどこのビデオで使わせていただいた音楽は、歌手のMay.Jさんにつくっていただいた音楽でございまして、著作権フリーでつくっていただきましたので、皆様、もし御興味があれば、ぜひともまた御活用いただけたらというふうに思っております。簡単ではございますけれども、活動紹介とさせていただきました。ありがとうございました。

西尾:今ご紹介いただいたVTRですけれども、このように様々な社会貢献に取り組まれておられる在田さんには、そういった御立場からの御意見であったり、一般市民の代表としての御感想などをこれからいただきたいと思っております。

 それでは、早速ですけれども、犯罪被害者支援の現状についてディスカッションの話題提供とともに御報告いただければと思っております。まず、大岡先生からよろしくお願いいたします。

大岡:では、座ったまま失礼させていただきたいと思います。お手元に資料がございますので、そちらのほうもごらんいただきながら、10分程度、お耳を傾けていただきたいなと思っております。よろしくお願いいたします。

 私のほうからは「犯罪被害者の支援の現状」ということで、今、犯罪被害者が置かれている現状と、その支援がどのようになっているのかということをかいつまんでお話をさせていただきたいと思っております。なお、先ほど自己紹介でさせていただきました、私が活動しております有志の団体のホームページもこちらにございます。もしもよろしければ、この名前で調べていただきますと出てまいりますのでよろしくお願いいたします。

 犯罪被害者の置かれている状況でございますが、数字を挙げますと、このような数字になってございます。少子化の影響で少しずつ犯罪被害の数自体は減ってはいるのですが、しかし、それは少子化の影響です。毎日、本当に苦しい思いをされる、悔しい思いをされる、そういった被害者の存在は変わりません。更には、こちらのほうに書いていますように、犯罪被害者といったときに、犯罪被害者“等”というふうに犯罪被害者等基本法の中では明記されるわけですが、被害者及びその家族または遺族を指すことになっております。つまり、その御家族も含んでいきますと、相当な数になるわけであります。

 更には「犯罪の認知件数と実際は異なる」とこちらに書いてございますけれども、警察庁の一番新しい調査で見ますと、警察に事件があると、当然、通報するだろうと、ちゃんとそこに行くだろうというふうにお思いかもしれませんけれども、実は交通事故ですら91%、殺人・傷害に至っては半分を切るのです。つまり、私たちの目に触れないところで被害者はたくさん存在しているというようなことをこの数値は物語っております。

 こういった被害者--武様のお話にもありましたように、本当に想像を絶する、いろいろなことが事件後起こってくるというのは共通の理解ではないかなというふうに思います。体、心の不調、生活上の問題、そして周囲の人の言動による傷つき、加害者からの更なる被害、そして随分と減ってはまいりましたけれども、まだまだ捜査や裁判に伴う負担・課題というものもございます。

 “二次被害”と、よくそういった言葉を使いますが、事件後に起こってくる無理解や偏見等が原因となって起こってくる、そういったものがどうしてもつきまとってしまう、それが犯罪被害者の置かれている状況であります。

 もう少し、被害者が置かれている状況を私どもがいたしました調査の結果から御覧いただきたいと思います。

 これは五百数名の被害者の方に御回答をいただきました調査の結果であります。少し分かりづらい「精神的問題」というふうに書いてございますが、精神的な状況がどのように変異していくのかということを横軸、3カ月、1年、10年、20年、40年と右軸にとりまして、縦がその重症度を表すというようなグラフになってございます。例えば、事件の後、直後、3カ月以内でありますと、いわゆる通常、精神が正常というふうな言い方は少し語弊があるかもしれませんが、元気で心も体もおれるというような状況の方は一人もいらっしゃいません。それが1年過ぎても1割くらいしかいないんです。これは40年過ぎても、半分くらいの方は平穏な生活を幾らかは取り戻されるのかもしれませんが、一部の被害者はずっとその後遺症を引きずったまま生活をされている、という状況がこのグラフから見えてまいります。

 そうなってきましたら、当然ですけれども、社会生活に影響が出てまいります。事件後に欠席、休学/休職、退学/退職というような状況になってしまうことが往々にしてございます。

 更には、武さんのお話もありましたけれども、日常生活を送ることが難しくなるということが出てまいります。地域の支えもあればいいのですが、そういったものもなかなかなく、困っておられるという方が半分くらいいらっしゃり、その方の困っている内容を見ていただきますと、武さんの話にもありましたが、やはり買い物とか通院もそうです、もしもそのあと身体の障害を負われるというふうなことになりますとずっと通院を余儀なくされます。入院をされているという状況であれば、御家族はずっとそこに通院を続けることにもなります。こういったことがなかなか通常のようにはできない、ということが出てまいります。

 しかしながら、そういった方が、今、随分と犯罪被害者支援が進んだとは言え、「まだ相談をした機関がない」というふうに答えられる方が半数以上なのです。じゃ、相談したことがある方が半分くらいいるからいいじゃないか、とお思いかもしれません。しかし、御覧ください。一番相談が多いのは警察です。次が医療機関です。

 もちろん、被害者支援室をはじめとした警察は、本当に懸命に支援してくださっています。ただ、警察となったときに、やはり捜査をするのが警察の本務になろうかと思います。また、医療機関もそうです。医療機関は治療をする場です。その場で家族や遺族の思いをじっくり聞いて、生活の支援、そういった何らかのサポートを一緒に考えるということができているかというと残念ながらできていません。

 この五百数名の被害者に書いていただいた自由記述を一部持ってまいりました。これを見ていただいても、まだまだ実は被害者支援の情報の提供すら周知されていないんじゃないか、というような疑問が湧いてまいります。また、被害者中心の対応にない社会ではないか、と被害者になって初めて実感をされる、という被害者が多くございます。

 「加害者よりも被害者のほうが多大な負担を強いられる我が国の現状を打破して、昔と同じような生活ができる国家的支援が欲しい」、こういった切実な思いがたくさん綴られていました。

 その声に応えるべく、犯罪被害者等基本法というものが平成16年度にできています。この法律に基づいて、今は第3次犯罪被害者等基本計画が策定され、それに基づいてサービス、支援が行われています。今、第4次に向けて検討を始めようとしているところです。

 いろいろな側面からの支援が今検討されています。情報提供、損害賠償、保健医療、居住、雇用、そして刑事に関する手続、国民の理解への増進、調査研究、民間の団体による援助、多角的な視点で支援が検討されています。

 一番直近の第3次基本計画ではこういった5つの点に焦点を当てられ、いろいろな活動が展開されています。特に、この「地方公共団体における支援の充実促進」というところを少しフォーカスいたしますと、少し細かくて見づらいかもしれませんが、本当に5年ほどで急成長した支援の領域にもなります。

 つまり、今、第3次の部分ですが、この行政において体制整備の充実をさせていこう、専門職を活用して更なる連携・協力の充実・強化を求めようというようなことも盛り込まれています。

 一番直近のデータで言いますと、実は全国で100%、市町村に犯罪被害者の窓口が設置されている状況にあります。

 では、お伺いしたいのです。ここにいらっしゃる、御参加いただいている皆様がどれだけ自分のお住みになっている市町村の犯罪被害者等総合対応窓口をご存じか、訪れられたことがあるか、ということです。

 その他、条例、計画というのも今どんどんとつくられていっている途上にあります。しかしながら、実は、この地方公共団体に100%窓口ができた状況ですが、これは機能しているかは別問題です。私どもがした調査でございますけれども、2年前の調査の結果にはなるのですが、支援が今のところは十分に行えていないというところも多いのが実情です。全国で過去1年間に相談があった窓口は約2割なのです。

 実は、犯罪被害者の置かれている状況というのは、よく言われることでありますけれども、まず支援の枠組みが縦割りです。つまり、ここに書いているような犯罪被害者等基本法葉あるのですけれども、DV防止法であったり、児童虐待であったり、ストーカー防止法であったり、いろいろな法律で縦割りの行政の中で支援が展開されています。すると、情報がうまく連携されないなどの課題もあります。更には、地域格差の問題もあります。どうしても、富山でも下のほうと上のほうであれば、そこの支援の質というものもどうしても違ってきてしまうということがあります。

 あと、語りにくさの課題もあります。偏見の問題を武さんが指摘くださいました。まだまだ、そういった偏見、タブーというものがあるがゆえに、被害者が声を出さない、そういった状況があるのではないかと思っています。

 近年、犯罪被害者支援の分野に、“ワンストップ”という言葉が聞かれるようになっています。つまり、被害者がいろいろなところ、いろいろな支援機関に助けを求めなくても1カ所で支援を受けることができる。支援者が手を取り合って、被害者に支援していくという形がとれないか、こういうことが模索されています。

 これを更に進めていくためには、いろいろな関係者、地域、そして職場、そういった関係者が手を取り合って、みんなで支えていくというような視点が必要になるということだと考えています。

 犯罪被害者の問題といったときに、よく“心のケア”というような言葉も語られますが、それだけではありません。家事の支援も必要ですし、医療の確保も必要です。住宅の確保も必要ですし、社会参加の場も必要なのです。当事者が集まる場も必要なのです。実は、まだまだ支援が足りていません。まだまだそういった支援につながっていない被害者がまだいます。

 そういった課題を、今日、共有できること、非常にありがたい機会だなと思っています。このあともどうぞよろしくお願いします。ありがとうございました。

西尾:大岡さん、ありがとうございました。今、具体的な統計の数字も含めて、犯罪被害者等の皆様が抱えておられる現状についてお話しいただきました。今の国の施策としては、どうしても「犯罪をゼロにする」というような向きに向かっていくときには、犯罪者の処遇であったり、その社会復帰の支援というようなものに力が注がれるという報道がよく出ているのですけれども、やはり大きな困難さを抱えて、生きづらく、声をひそめるように過ごされている犯罪被害者の皆様にいかにワンストップ支援、さらに、途切れない支援、こういった対応が必要だということを改めてご指摘いただく内容だったかと思います。

 特に、犯罪の暗数について触れていただきました。暗数の多い犯罪として性犯罪は代表例とされていますが、私たち自身もまだまだ誤解をしているようなところがあるかと思いますので、これについて富山県において性暴力犯罪被害者の方々への支援体制や支援の現状について木村さんからお願いしたいと思います。

木村:それではよろしくお願いします。

 まず、富山県は犯罪被害者に向けて平成29年4月1日、犯罪被害者等支援条例が施行されました。この条例によって、県が一丸となって被害者支援をする動きが出てきており48の各種相談機関が協議会を行っています。また性暴力被害者の支援の動きも強まり、富山県、富山県警、富山県医師会、富山県弁護士会の4者が協定締結されております。

 その後性暴力被害ワンストップ支援センターとやまが平成30年3月1日に開設されております。

 性暴力というとレイプばかり想像されると思いますが、体だけでなく心のダメージも大変大きいです。そのため心理支援も必要になりますし、もし相手を罰したいと思った場合には捜査関連の支援、法的支援も必要になります。今まで被害者の方々は一人で立ち向かっていました。それは本当に大変なことだったと思います。しかし、ワンストップができたことで、被害者の方に必要と思われる情報提供を行い、ご希望をお聞きしながら一緒に考えていくことで、被害者の方の心身の負担を軽減し、その健康の回復を図る。それだけではなく、今まで、ないものとされていました性犯罪を訴える、顕在化させていくということも目的としております。

 性暴力のことをちょっとお話しさせていただく前に、まず、暴力について押さえていきたいと思います。暴力というと、どうしても殴る、蹴るなどの身体的暴力を思われる方が多いと思います。暴力は相手を力で支配するために行われます。身体的暴力だけではなく、相手を罵る、あとは無視するといった精神的暴力やお金を渡さないなどの経済的暴力、性的暴力、今まで関わっていた人との関わりを閉ざす社会的暴力。いろいろあります。

 相手が変われば、名前も変わります。夫婦間であれば、よく皆さん御存じだと思いますが「DV」です。恋人間で起きれば「デートDV」。親と子の間で起きると「虐待」、友達同士で起きると「いじめ」、職場の中で起きると「パワハラ」、性的な行為があれば「セクハラ」と言います。国と国の間で起きると「戦争」です。「戦争」と「いじめ」、全く違うように感じますが、同じ暴力です。

 そして、性暴力。これは、「身体の尊厳と性的自己決定を侵害するもの」と国連は定義しております。わかりやすくお手元のリーフレットに「相手がだれでも どんな状況でも あなたがイヤと感じた性的行為はすべて性暴力です」と御紹介させていただいております。

 「相手がだれでも」、これは夫婦間であっても、同性であっても、どんな相手でもということです。そして、「あなたがイヤと感じた性的行為はすべて」、これはさわる、見るだけではないです。言葉でもイヤだなと感じたら、それも性暴力になります。この定義から考えると、性暴力被害に遭っていない方はいないんじゃないかと思います。というのは子供のころ、ズボンとパンツを下ろされたとか、それを見ていたとか、スカートめくりをされた、それを見ていた、それでイヤな思いをされてきた人ってたくさんいらっしゃると思います。これもいたずらじゃないです、立派な性暴力です。これをぜひ皆さんにも知っていていただいて、もし、子供たちが笑いながらやっていたら、「こんなことしちゃいけないよ。これは性暴力なんだよ」ときっぱり言ってあげてほしいと思います。

 性暴力というのは大変偏見の多い暴力です。ぜひ、被害者の実情を皆さんに今日は知っていただき、その上で関わっていただきたいと思っています。

 性暴力というのは、若い女性が夜道で知らない人に襲われる、そういうイメージってありませんか。でも、実際は、加害者はほとんどが顔見知りです。約8割強です。「全く知らない」と言った人は11%程度です。しかし「見知らぬ人にはついていってはいけないよ」って子供たちには教えませんか。この防犯用語では性暴力で守れる人というのは11%程度なんです。

 じゃ、どうしたらいいか。「人の財布は取っちゃいけないよ。勝手に見ちゃいけないよ」だけでなく、「自分のからだは自分のもの、人のからだは人のもの、勝手に触ったり、勝手に見たりしちゃいけないよ」といった教育がすごく大事であると日々感じてます。

 性暴力は、平成30年の富山県の強制性交等罪認知件数は5件でした。となると、あまりないと思われがちなんですが警察に相談する人は13人に1人くらいです。それくらい、被害に遭っていても打ち明けられない現状があるということを知っていてください。

 異性からの被害がほとんどですが、同性からの被害もあるということも知っていてください。

 「そんな格好をしていたから被害に遭ったんじゃないか」ということもよく言われていますが、実は加害者というのは「おとなしそうな人だな。警察に言わないだろう」、そういう人をターゲットにしています。挑発的な格好をしていたからという理由は5%以下です。この現実もぜひ知っていてほしいなと思います。

 しかし実情と合っていないことがまことしやかに社会では認知されている、これを私たちレイプ神話、強姦神話と言っています。今後被害者の方に関われるときに、実情を思い出して頂きお声掛けしていただけたらうれしいなと思っております。

 暴力というのは、身体的暴力、精神的暴力などが幾重にも重なってます。性暴力は、更に社会の偏見によって、「自分が悪かったんじゃないか」「恥ずかしい存在」など心の傷を抱えています。それゆえ、先ほど西尾さんもおっしゃられましたが、性暴力というのは「魂の殺人」と言われています。体は傷ついていません。でも、心が死んでしまうのです。

 次に性犯罪と性暴力、これは別のものだよ、ということです。性犯罪というのは法律に規定されてます。今の日本では13歳以上になれば、性的同意がとれる年齢だと判断されています。でも、13歳は中学校1年生です。性交したら妊娠するかもしれない、性感染症にうつるかもしれない等の性教育がされていない年代です。それでも同意ができると判断しています。

 その上で、暴行・脅迫があった、抗拒不能・心神喪失だった、その状態でわいせつな行為がされた、ということが証明されなければ、性犯罪にならないんです。でも、先ほども言いました。加害者はほとんど顔見知りです。「おまえ、ここで抵抗したらどういうことになるか、分かっているか。明日から仕事に来れないかもしれないぞ。仕事に出てきてもどうなるか分かっているか」、この一言があれば、暴力なんて要らないんです。でも、今の刑法では、暴行があった、脅迫があった、これが証明されないと性犯罪にならないんです。性暴力のうち性犯罪はごくごく一部だということも知っていてください。

 私たち支援する側としては、暴行・脅迫要件ではなく、性的同意があったかどうかといったところを重視してほしいと思っています。海外でもイギリスをはじめいろいろな国々が性的不同意を性犯罪としています。ぜひこのように変わっていけばいいなと思っています。

 こういった実情の中、当センターでは、性暴力・性犯罪の被害者だけではなく、そのお話を伺った方も当然傷つきますので、相談を受けた方も対象に相談を受け付けております。電話は24時間365日、相談受付をしております。必要な方には面接相談、病院や警察などの同行支援も行っております。警察もされていますが、医療費公費負担制度、こちらはワンストップとやまでも受けております。身体的支援だけではなく精神的支援も受けております。

 昨年、1年間の相談件数ですが、延べ件数は515件です。この件数をどう捉えられますか。内訳は電話相談444件、面接相談50件、同行支援は21件です。医療機関、警察、学校だけではなく、セクハラなどの相談を受けた場合は労働局に伺っております。

 ワンストップとやまの相談内容ですが、一番多いのは性虐待です。これもどう捉えられるでしょうか。被害後間もない方もいらっしゃいますが、過去の被害の相談がほとんどです。小さなころというのは密室で繰り返し被害を受けています。その時は、「君が可愛いからだよ」などと言われ、何だかイヤだけど、と思いながら、毎日のように被害を受けているんです。でも、思春期くらいになって、ようやく「あ、これはおかしい」、そう気付いたときにはもうその子は精神的にボロボロです。学校にも行けなくなります。リストカット、オーバードース、自分を更に傷つけている子がたくさんいます。富山もこのような状況があるということをぜひ知っていていただきたいと思っています。

 相談は女性だけでなく男性もいます。年齢も様々です。富山も全国と変わらず、加害者は知っている人が多いです。相談に繋がるまで時間がかかります。被害者は加害者が顔見知りであると、かばおうとします。「もし警察に届けたら生活に影響するのではないか。そうなると家族にも迷惑をかける。だから、警察に届けません。相談できません。」と言われる方もいらっしゃいます。

 先ほど大岡さんもおっしゃられましたが、そのような相談も含め相談できなかったという人が内閣府のデータ(平成30年 内閣府「男女間における暴力に関する調査報告書」)で56.1%です。残念ながらワンストップの認知は低く0.6%です。ぜひ、皆さん、ワンストップのことを知っていただいて広めていただき、相談できなかった方の数字とワンストップへの相談数が逆転するとうれしいなと思っています。

 先ほど大岡さんもおっしゃられました二次被害のことなんですが、平成18年の犯罪被害者支援センター(被害者支援調査研究事業社団法人被害者支援都民センター)のデータです。残念ながら支援センターからも二次被害を受けている実情があります。この数値を0にするため私自身気を引き締めて対応したいと思っております。

 ぜひ、皆さんには被害者を傷つける言葉を知って頂きたいと思います。被害者の実情を知っていただければこのような言葉がけはされないと思います。

 最後に、相談を受けられたら、ぜひ当センターを御紹介ください。電話番号は076-471-7879、なやみなくです。御清聴、ありがとうございました。

西尾:木村さん、ありがとうございました。まさに陰に隠れるようにというのでしょうか、身をひそめて、声をひそめて、苦しい思いを抱えたままでいらっしゃる犯罪被害者の皆様、それに対する支援の内容など、また現場での御苦労などもお話しいただきました。

 そこでなんですけれども、今、現状について周囲の誤解が大きいというようなこと、これがなかなか変わっていかないというような御指摘をいただいたのですけれども、これに対して何か解決できるような糸口のようなもの、何か木村さんからお話があればと思うのですけれどいかがでしょうか。

木村:ありがとうございます。私が日々感じているのは、相談者の対応だけではだめだなということです。性暴力に関し社会の偏見はあるため被害者は苦しんでいます。ですから、被害者の実情を伝える啓発を絶対していかなければいけないなということが一つ。

 あと、もう一つは先ほども申し上げましたが、小さな頃から「自分の体は自分のもの。相手の体は相手のもの。だから、勝手にさわったり、勝手に見ちゃいけないよ」といった教育を繰り返ししていかなければならないと思っています。そうすることで、加害者を生まない、また被害に遭っても、できるだけ早く相談につながることになるんじゃないかと思っています。

西尾:ありがとうございました。まさに教育というのは、即効性があるというか、特効薬ではないというところではあるんですけれども、そういったところが一つずつ積み重ねられていくことによって社会も変わっていくというところにつながるのではないでしょうか。そういった教育活動がワンストップ支援センターの活動としても行われているということですね。

木村:はい、十数年前から教育活動はさせていただいております。教育はワクチンになると思っておりますし、「教育をしないのは虐待だ」と言われた先生もいらっしゃいます。私はその言葉はそのとおりだと思っておりますので、それを信じて、日々活動をさせていただいております。

西尾:ぜひ、富山だけではなく、いろいろな地域に広がっていき、またその見本のような形で進めていけるようなことになればいいかなと思っております。

 ここで、フロアのほうから、富山県における犯罪被害者支援の現状についてお伺いしていきたいと思っております。今、お話しいただいたのが性暴力犯罪被害のことを特に触れていただきましたので、その他の支援内容等についてもお伺いできればと思っておりますので、中川様、よろしくお願いいたします。

中川:座ったままで失礼いたします。今ほど、御紹介にあずかりましたとやま被害者支援センターで相談員をしております中川といいます。当センターで支援させていただいている内容について申し上げたいと思います。

 まず、私どもでも電話相談、面接相談を行っております。守秘義務がありますので、情報漏洩することはありません。話したくないことをお話しされなくて大丈夫です。お話ししたいことをお話ししてください。時には身近な人や家族だからお話ししにくいこともあると思います。皆様がお気持ちを十分に安心してお話しできる場所の提供を、と心掛けております。

 被害者、御家族、御遺族の方はもちろん、事件・事故を見聞きされた方も御相談ください。また、必要に応じて情報をお伝えしたり、各関係機関を御紹介させていただくこともあります。更には警察、検察庁、裁判所等、日ごろなじみのないところへ行かなければならないこともあると思います。敷居が高く、とても勇気が要るところになりますので、御要望があれば一緒に付き添うこともあります。お一人お一人、お困り事も異なり、千差万別な課題、ニーズがあると思います。それに対して、私たちが行える可能な限りでの支援をさせていただいております。

西尾:ありがとうございます。今、やはり様々な支援というお話をいただいたのですけれども、今の、現状として抱えておられる課題など、お聞かせいただけますか。

中川:大岡先生のお話にもありましたが、当センター自身もまだまだ知名度が低いということが挙げられます。また、それに付随してなのか、県民性もあるのでしょうか、なかなか被害者の方からどこかの相談機関に御相談いただけていないのではないか、ということです。他の人の力を借りず、迷惑をかけずに、自分の気持ちを押し殺し、自分たちだけで乗り越えようとされる方も多いようです。

 しかし、突然、とても強いストレスがかかり、日常生活を送ることも非常に大変な中、早急かつ多種多様にやらなければならないことに直面されるので、その御負担は計り知れません。まずはどこかに、誰かに相談していただいて大丈夫だということを知っていただきたいです。安心してどんなことでもお話しください。また、声を上げてください。手を差し出していただければ、その手を握り返してくれる機関があるということを知っていただきたいです。その声が私たちや様々な機関に届けば、被害者の方々のお悩みやお困り事を伺い、一緒に、どうしていけばいいか考えていければいいなと思っております。

 しかし、なかなか、私どもの機関等に声が届くまでに時間を要することもあります。武様のお話にもありましたが、「できることをできる人がする」ということが一番ではないかと思います。誰かがやってくれる、どこかの機関がある、ではなく、「私も」「私が」という、皆様お一人お一人のお気持ちが被害者支援の第一歩になると思います。まだまだ犯罪被害者支援の歴史は浅いですが、私どもも含めまして、社会全体で犯罪被害者支援に尽力していけたらと考えております。

西尾:どうもありがとうございました。

 続いて、また富山県の現状について、今回のパネルディスカッションのテーマでもあります、「私たちにもできる犯罪被害者支援」ということについて、また一般市民としてできること等、東城さんのほうからお話しいただければと思っております。

東城:私は富山県警で臨床心理士及び公認心理士の資格を有してカウンセリングを担当させていただいております。

 富山県警では、犯罪被害者に被害直後から初期支援を中心に行っています。お手元の資料の中に「警察における被害者支援」というチラシがありますので御覧ください。

 事件発生直後から犯罪の被害に遭われた方やその御家族の支援を担当する場合と、あと私は事件発生直後に犯罪被害者を支援する警察官が犯罪被害者の心身の状態を身近で感じて、「精神に変調があるな」と思えば私に相談をしたり、それを受けて私がカウンセリングを実施したり、投薬が必要となれば病院を紹介したりしています。

 犯罪被害後は、被害者本人も自分の変調に気付かないことが多いです。それも被害後の症状ではあるのですが、その麻痺症状に気付くことも警察官や私の大事な業務になります。 

 警察でのカウンセリングの対象は、犯罪被害に遭われた方やその御家族はもちろん、その関係者や犯罪を目撃した方を対象としています。警察のカウンセリングを受けるメリットは、警察署や御自宅、公共機関等で行うことが可能であることです。特に、被害当初は、外に出たり、病院を受診したり、新たなことをしたりすることに億劫になりがちです。そんな犯罪被害者に事件当初から関わり、カウンセリングを希望した時点で私が犯罪被害者の所に行き、実施しています。

 また、犯罪被害者への関わり方については、犯罪被害者に関わる警察官に対して、被害に遭われた方の心理状態を説明し、適切な支援を実施するよう促すような、教養や研修の機会を持っています。

 2年前にカウンセリング公費負担として、部内のカウンセリング以外に病院での診察やカウンセリング、投薬料を公費で負担する制度ができました。病院で掛かる費用は、上限がありますが、初診から3年間公費で負担しています。

 次に、犯罪被害に遭われた方への初めの一歩として、私見になりますが、私から幾つか選んで話させていただきます。

 まず、今までどおりのお付き合いを続けていただきたいということです。それから、ちょっとしたお手伝い、小さなお子さんのいる被害者の方ならお子さんの幼稚園の送迎を自分のお子さんの送迎と一緒にやっていただくなどが、特に初期には役立つかと思います。

 また、1週間頑張って支援するより、3カ月続けられる、息の長い支援が大事だと思います。寄り添う人も初めに頑張り過ぎるのではなく、3カ月後も同じことができるかどうかを考えて支援することかなと思います。

 犯罪被害者の方が本当の意味で回復、元通りになることはないのかもしれませんが、相当の時間がかかります。身近に犯罪被害者の方がおられたら、10年、20年と温かく見守っていただき、時には手を差し伸べて要望に応えたりと、必要な場合に寄り添っていただけたらと考えます。

 また、犯罪被害者が支援を求めていいという感覚を持ってもらうことが大事なのではと考えています。被害者に初期に関わる私たちはもちろん、身近で支える県民の皆さんと一緒にそんな雰囲気づくりができていければと思います。

 もう一歩踏み込んで、被害に遭われた方を支援する場合について、幾つかあるのですが、2点、話したいと思います。

 カウンセリングや病院受診についてですが、それを受けること自体、抵抗があると考える犯罪被害者の方がおられます。特に、富山県の方は、心療内科や精神科を受診することに抵抗があるようです。しかし、精神的な治療を受けるということは怪我をして病院を受診するように、犯罪被害者が現状を理解したり、対処法について話し合ったり、日常生活のリズムを守るために受診します。そして、骨折をしたらリハビリやギブスをするのと同じで、犯罪被害者の方が元の生活に戻る練習をする、また、事件の記憶を整理することです。これらのことを踏まえて病院受診を勧めていただけたらと思います。現在の投薬は、副作用が非常に軽減されています。

 次に、犯罪の被害に遭われた方に対して、3年から5年、もっと長いと10年ほどは新たなことはしないようにとお伝えしています。例えば、引越し、離婚、退職、退学等です。がむしゃらに事件を忘れるために大きな決断をしてしまって、後から後悔することが多々あります。もしも、身近な犯罪被害者に引越しなどの大きなことをしようと思っていると相談されたら、ゆっくり焦らず決めるよう、話をしていただくこともここに御参加いただいた皆さんができることの一歩かなと思います。

 長くなって申し訳ありません。最後になりますが、もしもここにいる誰かが犯罪被害者になったなら、警察には被害者に寄り添い支援する制度があること、警察では無料でカウンセリングがいつでも受けられること、他機関と連携していて、継続した支援をしていることを覚えておいていただけたらと思います。一人で悩まず、声を上げてください。もしかしたら、被害に遭ったことをまた話すことで二次的被害を受けるかもしれません。もしもそのとき傷ついて腹が立ったら怒ってください、悲しかったら泣いてください、感情を出すことも回復、前へ進む一歩になります。私たちはお話を聞かせていただいたなら、可能な限り、手を差し伸べさせていただきたいと思います。ありがとうございます。

西尾:どうもありがとうございました。今、中川さん、東城さんから具体的なお話をいただきました。私たちにできること、まず一つ一つ何かできることというのをご提案いただいた形になるのですけれど、そこで大岡さん、いろいろな国の施策であったり、国の施策の動向も先ほどご紹介いただいたのですけれども、今の富山県での現状やその対応や取組について、何かお感じになられたことなどあれば、お伺いしたいのですが、いかがでしょうか。

大岡:ありがとうございます。今回、話を一連の流れで聞いておりますと、まだまだつながっていない被害者が多いということかなというふうに感じております。これは、もしかしたらこの富山の県民性で非常に頑張り屋であり、また自分で何とかしようとする、こういったところもおありなのかなということを打ち合わせのときから出ておりました。そういった、いい面が裏目に出てしまうようなところをどんなふうに打開していくかということが問われているのかなというふうに思っております。

 必要なこととして3つ言葉を挙げるとするならば、やはり「地域で気付くこと」、そして「つなげること」、そしてつなげたあとに「見守ること」なのかなというふうに感じました。ありがとうございます。

西尾:どうもありがとうございました。それでは、先ほど御講演をいただきました武さんから続いて少年犯罪被害者当事者の会のWiLL代表として活動もしておられるという話もありましたけれども、現状の犯罪被害者の方々、またその御遺族の方々が求めておられるような支援について、今お聞きいただいた内容などからありましたからお話しいただけますでしょうか。

武:たくさんありすぎて、すみません。どれかひとつを言うのは難しいんですけど、今、聞いていて、やっぱり被害者が地域で声が上げにくいという現状を話したいと思います。

 私の場合は、もうプライバシーがなくてもいいという思いで声を上げましたけど、ほとんどの遺族の人は声を上げられないのです。自分のことを言っていいのだろうかと思ってしまいます。そこを一歩踏み出すにはとても勇気がいることだと思うのです。

 だから、地域づくりって大事だなと思います。「犯罪に遭ったときには困っていることを言っていいんですよ」「それは当然のことなんですよ」そういう地域づくりが大事だなと思います。勇気はいりますが警察にはわりと相談に行きやすいんですね。だけど、被害者支援センターという所を紹介されたときには、どうしてもここは本当に大丈夫だろうか、と思ってしまうところがあります。それは失礼な言い方なんですけど、みんな事件に遭うのは突然に起きたことなので、そういう存在をまず知らないのです。いろいろなパンフレットを渡されて、被害者のための支援団体がありますと言われても、事件直後は特に不信感が先にきてしまうので、本当にここに相談をしていいんだろうかと思うのです。23年前から見るとたくさんのパンフレットが出来てほんとうに良かった、すごいなと思います。これから被害者の人が、もっと利用しやすいようになるには、多くの被害者が最初に関わるのが警察署なので、そこでパンフレットを渡すときに何らかの説明があると違うなと思います。

 こんなものがありますとたくさんのパンフレットをいっぺんに渡されても、きっと分からないです。長い説明だと大変なので、「このパンフレットはこういうものなんですよ」って、ほんの少しの説明でいいんです。そして支援センターのことであれば「ここは信頼できるところですから」という一言があれば、「一度、電話を掛けてみようかな」と一歩を踏み出せると思うのです。みんなと話をして、そう思います。

 まずは警察から、そして次につないでいただきたいですね。こういう例があります。ある被害者の人が、警察の被害者支援室の人をとても信頼していて、その人にすごく頼っていました。精神的にもどんどん良くなられたのですけど、今度、そこから手が離れる時がきます。事件が調べられて進んでいくと、警察から離れていくわけです。そうなってから突然、支援センターに結び付けても信頼関係が結びにくいんですね。もちろん警察の人と信頼関係を結ぶのはとても大事なことですが、次につなげることを考え、関係機関の人も一緒に関わってもらいながらしていかないとバトンタッチがしにくいと思うんです。だから、ここだけで持ってしまう、警察だけで持ってしまう、センターだけで持ってしまう、そういうことのないように連携を考えながらしてもらえるともっとスムーズにいくし、長く支援が受けられるかなと思います。

 みんなの話を聞いていて、そばに被害者支援センターがあるのにそこに行きついていないことがあり、それはもったいないなといつも思うんです。ありがとうございました。

西尾:どうもありがとうございます。今、具体的な提案も含め、御経験があったからこそ求められる支援の内容などについてもお話しいただきました。ここで、在田さん、今までJCの代表として様々な社会貢献にも取り組まれておられますし、今、一市民としてのお考えなども含めて、何か向き合っていく姿勢と言えばよろしいでしょうか、何かございましたら感想も含めていただけますでしょうか。

在田:そうですね、まず、本当に武さんの御講演からはじめて、私自身は登壇させていただいておるのですけれども、本当に私自身の無理解が様々な被害を生んでいるなということを、改めてこの場ではありますけれども、今、非常に反省をさせていただいておる状況でございます。

 犯罪被害者は、ある日、突然なって、昨日まであったはずの日常が一切なくなって、新しい生活をこれからつくっていかなければいけない。そういう中で、先ほどの皆さんのお話にもありましたけれども、一番大事なのは周囲からの理解であったり、支援であったりするのかなというふうに思います。そういったことが相談しやすい社会であったりをつくっていって、そしてまだ相談できていない被害者というのも解決していけるのではないかなというふうに改めて感じました。

 私自身も企業の経営者としても活動しておりますので、そういう意味では企業の中でもいろいろな情報発信もそうですし、私自身も青年会議所という組織の中での発信と。そういったそれぞれの場において、できること、情報発信、理解を深めること、理解を広げることという活動からまずできるんじゃないかなというふうに思いましたので、まずそういうところから取り組んでいきたいなというふうに思いました。

西尾:どうもありがとうございました。本来であれば、これからようやくディスカッションに進めていける内容になってきたところではあるのですけれども、大変残念ながらお時間の都合上、そろそろまとめていかなければならない時間になってしまいましたので、せっかく御登壇いただいてお話しいただきましたパネリストの皆様から御一言ずつ、何かいただければと思いますので、順番に大岡さんからお願いできますでしょうか。

大岡:ありがとうございます。今回、この富山の大会でこんなに多くの方とこの課題が共有できたことを本当にありがたかったなと思っております。特に、青年会議所の在田様に一緒に御登壇いただいたことは意義あることだと思っておりまして、こうやってつながりができ、関係者が増え、やっていくことが今後の犯罪被害者支援を前進させていく力になるのかなと思っております。今日はありがとうございました。

木村:私、今日、何よりうれしいのは当センターの名前を知っていただいたことです。本当にまだまだ認知されていないので、まず知っていただきたい。マザー・テレサの言葉に「愛の反対は無関心」という言葉があります。無関心、これはいろいろな人を傷つけることにもなります。いろいろ学ばなければいけないこと、知らなければいけないこと、日々たくさんあるかと思いますが、まず関心を持って、そこからまず一歩踏み出せたらいいなと皆さんのお話を聞かせていただきながら感じました。まだまだこれからのセンターです。ぜひ、皆さんの御協力をいただき、一人でも多くの被害者の方の回復につながるよう頑張っていきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

在田:先ほど大岡さんもおっしゃいましたけれども、本当に多くの皆さんがこの場に御参加いただいたこと、本当にすばらしいことだなというふうに思います。そして、大岡さん、木村さんはじめとされまして、行政の皆さんもそうですけれども、様々な被害者支援の仕組みというものをしっかりとつくられていらっしゃる中で、私自身もこうやって本日もつながらせていただきましたし、その仕組みを更に我々、市民一人一人がしっかりと認知・理解をして、それを更にしっかり運用、活用していくことが社会の理解を深め、広げていって、より被害者支援につながっていくんじゃないかなというふうに感じました。まずは私自身からの情報発信というものをいろいろやっていきたいなと思います。また引き続きよろしくお願いします。本日はありがとうございました。

武:私は先ほども話したように、中学生とか高校生に話をすることがあるんですが、もう一つ、みんなにお願いしていることがあります。子供たちにいつも言っていることは「困っている人がいたら、大丈夫?と言える人になってね」。そして、何かをしてもらったときには「ありがとう」と素直に感謝の言葉を言える人になってね。

 大人になっても同じだと思うんです。何か困っていそうな人がいたら「大丈夫ですか」って言える人そして、いつも私が忘れてはいけないと思っていることは感謝の言葉を素直に「ありがとう」って言える人になりたいなということです。

 もう一つ、私は息子が事件に遭ってから初めて気付いて、犯罪被害者のことを一生懸命に考えるようになり、会をつくって頑張っているんです。自分のことだから息子のことだったからやりだしたんです。でも皆さんはすごいなと思います。自分がそういう目に遭っていなくても、関心を持ったり、こうやって集まってくださったり、支援のセンターに関わったりされているからです。もちろん専門の方たちはそれを一生懸命に色々な形で発信されている。そのこともすごいなと思います。私はいつも自分勝手やな、息子が事件に遭ってから慌ててやっているって思うので、いつも反省させられるんですね。

 皆さんはすごいです。こうやって足を運んでくださったこと、本当にすごいなと思うし、ありがたいと思っています。これをもう少し踏み込んで、もし良かったら、富山にも被害者支援センターがありますので、ボランティアにちょっと参加してみようかなとか、一歩踏み出してもらえたら、とってもうれしいなと思います。難しいこともあります。でも、必ずできることがあります。皆さんの少しの時間をそこに使ってもらえたら、もっとうれしいなと思います。本日は本当に貴重な時間をありがとうございました。

西尾:今、熱いお言葉をいただいたところではあるのですけれども、ここにお集まりいただきました、富山大会に御参加いただきました会場の皆様、本当にどうもありがとうございました。ぜひ本日の富山大会のこのディスカッションやまたパネル展示等も含めまして、皆様と共に、私たち一般市民にもできる犯罪被害者等への支援が何かについて考えていただきながら、更にその先、何かの行動につなげていただけることを願っております。また、ここでパネリストの皆様にぜひ拍手をお願いしたいと思います。

 大変つたないコーディネーターにお付き合いいただきましてどうもありがとうございました。これでパネルディスカッションを終了したいと思います。御清聴、ありがとうございました。

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