山口大会:パネルディスカッション

「犯罪被害者を広く地域で支えるために」

コーディネーター:
加登田 惠子(山口県立大学副学長(地域共生センター所長))

パネリスト:
鶴 義勝(山口県弁護士会犯罪被害者支援センター委員長(公益社団法人山口被害者支援センター理事長))
中村 美佐夫(山口県警察本部警務部警察県民課長(山口県被害者支援連絡協議会幹事長))
太田 列子(山口県臨床心理士会被害者支援部会幹事(山口県警察被害者支援カウンセラー))
糸賀 美恵(基調講演者)

加登田: 皆様こんにちは。私は山口県立大学の副学長の加登田と申します。会場の皆様、今日はお忙しい中、お集まりいただきましてありがとうございます。先ほど糸賀さんの、胸の詰まるような御遺族、被害者としての御講演を承りました。殺人事件の被害者といいますと、それこそドラマとか映画等の作品で知っているだけのような、かなり距離があるように感じますが、実は、人間の社会の中には、自殺とか殺人という事件は、日頃私どもが感じているよりかなり多うございます。しかし、日常の中で身近なものとして、ましてや自分たちが被害者にも、また加害者にもなる可能性があるものとしてはなかなか感じにくい分野、テーマでもあるかと思います。

 本日は、案外身近な、そしていつなるかも分からない被害者、犯罪被害者となった方々をいかに広く地域で支えていくかについて、短い時間ではございますが、パネリストの皆さんの御意見を伺いたいと思います。

 最初にちょっと私の関わりを御紹介させていただきますと、本務は大学教員なのですけれども、20数年前に山口に参りまして、専門が児童福祉関係の方でございましたので、児童虐待や性暴力の問題に、福祉関係者を通じて接することになりました。当時は児童虐待防止法ができたばかりでして、先ほど糸賀さんの講演にもございましたけれども、家庭内における児童虐待とか家族関係の問題とか、今だんだん深刻になっていますいじめの問題でありますとか、やはり21世紀になって本当に育ちや心の問題が深刻になる時期だったと思います。

 その後、それをきっかけに、性暴力とかDV(ドメスティック・バイオレンス)の被害者の方を支援する活動が山口の中でもできてまいりまして、私はDV被害者の方のシェルターを作っていらっしゃる山口女性サポートネットワークというNPO法人の手伝いをさせていただいています。平素は間接的な後方支援しかできないのですけれども、そこで出会う被害者の皆さんの痛みを、やはりどう受けとめていいのか、受けとめられない部分、未熟さであるとか重さを感じさせていただいている者の1人でございます。

 今日は、いくつかのそういった山口県における支援団体・機関の代表としてお三方の方に来ていただいております。パネリストの方から御自身の今のお仕事と、犯罪被害者の支援の役割のことを含めて自己紹介をお願いしたいと思います。

 まず、鶴さんからお願いします。

鶴: 御紹介いただきました弁護士の鶴でございます。私はもともと山口出身ですが、山口に戻って15年ほど弁護士をしております。

 弁護士という言葉は、弁護人というところから実は由来しております。弁護人というのは刑事弁護、加害者の方を弁護するから弁護人であって、弁護士という名前が日本の場合付いているのですね。アメリカでは弁護士とは言わないのですよ。法律家、ロイヤーですね。ちょっと日本は、実はその言葉からして、どちらかというと加害者に寄った存在として弁護士が位置づけられているわけであります。そういう意味で、私は弁護士になったのですから、加害者のそれこそ人権を擁護しておけばよかったのかもしれないわけです。

 ところが、私も、先ほど糸賀さんのお話もありましたが、実際にいろんな刑事裁判に弁護人として関わる中で、自分がやっていることにある種の違和感を感じたというのが、やはりこういった問題に関わるきっかけでした。そういう中でひとつ、今日は糸賀さんのお話を伺いましたが、犯罪被害者が、裁判自体に参加して意見を述べたり質問をしたりする機会ができる制度ができたり、あるいは更にいろいろな諸施策、これは非常に国も頑張っていると思うのですが、そういう施策の中で弁護士としても、やはりそういった分野も取り組みたいという気持ちがしておりまして、一応、山口県弁護士会の中でそういう委員会の委員長をさせていただいております。そういった関係もございまして、今は被害者支援センターの方の理事長をさせていただいております。

 私自身、実はまだまだ勉強していかなければいけないことがあることは分かっております。被害者支援をしたつもりで自己満足に終わっているときもあるんじゃないかなとも思っております。いろんな反省をしながらやっております。また、今日勉強していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

加登田:素人からしますと、弁護人が制度的には加害者の立場だというのも意外ですね。恐らく糸賀さん御自身も、被害者とならなければそういった御体験をされなかったのではないかと拝察いたします。しかし、やはり弁護士さんというのは、弱者の味方だと一般人は思っているのだけども、先ほどの糸賀さんの講演にもございましたけれども、関わり方として、逆に二次被害を呼び起こすような立場もあるという支援者のことで、また、後ほど鶴さんにはお話ししていただこうと思います。ありがとうございました。

 それでは、中村さん、お願いします。

中村: 警察本部警察県民課長の中村と申します。

 自己紹介に先立ちまして、先ほどつらい体験を御講演いただきました糸賀さん、大変ありがとうございました。また、本日は会場にお越しの皆様、誠にありがとうございます。

 それでは、自己紹介に移らせていただきます。警察は犯人を捕まえて治安を守るというのが大きな業務の柱でございます。ただし、それと同時に理不尽な犯罪に遭って、その後も、先ほどの糸賀さんではございませんけれども、苦しい思いを背負っていかれる被害者の方、またその御家族の方を救ってこそ、本当の意味での国民の「人としての権利」を守ることができると警察は考えております。

 そこで、山口県警察では、平成10年から被害者に対する二次的被害の防止とか病院への付き添いとか、診察料の公費負担とか、そういうような様々な取組を積み重ねてまいりました。現在は全警察署と本部に、直接被害の支援を担当する係や部署ができました。

 私は4年間一線の警察署の課長として被害者支援に当たることができました。そのときに、警察だけではとてもこれは支援できないなというような要望を受けたのですけれど、何とか他の機関の助けを借りて支援できたことが非常に印象に残っております。現在はそのような、各警察署の被害者支援が有効に機能しているか、適正に運用されているか、関係機関との連絡調整は迅速的確に行われているか、そういうことを監督管理する部署でございます警察県民課に、昨年の3月から勤務しております。

 今後も被害者の権利が忘れられたり置き去りにされたりすることのないように、部内の連携はもとより関係機関との調整を図っていきまして、途切れることのない被害者の支援を続けてまいりたいと思っております。よろしくお願いいたします。

加登田: ありがとうございます。何か警察って聞きますと、地域住民からすると頼りにもなるし、だけど、余り御縁を得たくないようなこともありますよね。私は被害者の方をサポートして、警察にエスコートしたりするときに、被害者なのに警察に入るのはやっぱりちょっとちゅうちょする、怖い、何を聞かれるかしらというプレッシャーもあるぐらいですね。警察の方は本当に身近に私たちを守ってくださるよ、また、地域の皆さんと一緒に守りましょうね、というような形ができるといいかなと思いますね。また、具体的支援のことについて、後ほどお願いします。

 では、地域の中で被害者支援を実際にしてくだっている団体の一つで、先ほど糸賀さんの講演にもございましたけれども、本当に体の傷以上に、ずっと一生背負っていかなくてはいけない心の傷、それに一番専門的に関わってくださっている臨床心理士会の方から太田さんにお願いしたいと思います。

太田: 臨床心理士の太田列子と申します。山口県臨床心理士会の被害者支援部会の幹事をしております。被害者支援部会の委員が山口県警察の委嘱による被害者支援カウンセラーという役割を担っておりまして、被害者の方々のお話を聞かせていただいております。

 先ほど糸賀さんのお話の中に、警察からカウンセリングの紹介があったのかしらと思いながらお話を伺っていたのですけれども、現在では、警察官の方たちは被害に遭われた方々に対して、「被害者支援のカウンセリングの制度がありますよ」という、無料でカウンセリングが受けられる制度等を御紹介することになっているのですが、まだまだ私たちの力不足で、皆様方に全員に浸透するということが、なかったのかもしれないと思っております。

 私は臨床心理士ですので、皆様方のお話を伺うのが仕事で、ひたすら被害者の方に寄り添ってお話を聞いて、一緒に方向を模索していくというのが本来の役割ですがやはり法律とか行政のシステムとか、組織の動きというようなものを知らないと、被害者の方は本当に日常の普通の生活をしていらっしゃる中からいきなり、生まれて初めて犯罪被害という暗やみの中に投げ落とされるような状態に陥られるわけです。法律の制度も、今お話にあったように弁護士の呼び方すら知りませんし、裁判の流れにしても、警察官の方たちの捜査の流れも、何も知らないわけです。そういったところで、何も知らない方に寄り添っていくときに、少しでも道先が案内できるような、一緒に付き合いながら、でも、その中である程度の方向性がわかっておかないと被害者支援カウンセラーというのは務まらないと考えております。

 そういう中で、いろんな組織との連携とつながりというものがとても大切になってまいりますし、私ども臨床心理士も、ただ被害に遭われた方のお話を聞くだけではなく、そういったことの知識も持ってやっていかなければいけないと考えております。

加登田: ありがとうございます。今の3人のパネリストの皆さんは、弁護士、法的な立場から、それから警察、事件の最初の出会いになる方、それから心のケアという臨床心理のお立場からの御登壇ということですが、糸賀さん、何かこの辺について、このお3方にとか、先ほどの御講演でちょっと言い足りなかったというところはございますか。

糸賀: ありがとうございます。先ほど最後まで話を聞いていただいてありがとうございます。山口の支援は大丈夫だと思いますが、先ほど言ったように私も本当に、この私みたいな思いをさせたくないと、その一心でしかないですね。例えば最近の高齢者の交通事故とか殺人事件とか自殺も、本当に悲しいことが毎日のようにあるのですけれど、この尊い命をなくさないように何かできないかというのが、私は被害者支援ではないかと思っているのですね。例えば被害に遭ってから救うのではなくて、その遭いそうなと言ったら変ですけれど、その前に何とかして大切な命を守る。

 よくストーカー事件では、先ほども言いましたように、警察に相談してあるとかあったとかということも言うのですけど、本当にそこだけでは駄目だと、駄目と言うと変ですけれども、警察だけではなく、やっぱり自治体とかいろんなところの連携で、やっぱりそこに逃げ道があるという、そういった意味でお話を聞いていると、山口県は弁護士の鶴先生を始め、皆さんが本当に一生懸命で安心しましたけれど、皆さんにも本当に、例えば声を上げることも一つの回復になるということをちょっと分かっていただけると有り難いと思います。

加登田: ありがとうございます。「山口、結構頑張っているかもね」というお言葉を頂きましたけれども、本当にそうでありたいと思いますし、とはいえ、こういった司法の分野で、被害者の支援の法律が出てきたのも日本全体としても歴史が浅うございます。恐らくこの3つの団体でも、まだ言ってみれば立ち上げ期ですね。これから本当に被害者の方と一緒に犯罪等を生み出さない社会作りはということを、ずっと考え続けなければいけないことなのですが。

 この3つの機関から、被害者支援という視点で取組始めて、現在の取組の具体的内容とか、「ちょっとこういうところにぶつかっているんだ」という課題でありますとか、そういうことをお伺いできませんでしょうか。鶴先生、弁護士さんも千差万別、いろいろあるようですが、支援センターとしてはいかがでしょうか。

鶴: 私は弁護士会、被害者支援センターと二つの立場があるわけですが、弁護士会としての取組ということですが、できるだけそういう活動しているということのまず案内、できるだけ公的機関、市役所の人や、いろんな公的機関がそういう被害者の対策をしていますよということはアピールするようにしております。

 その上で、やはり法テラスはいろんな情報を集める核になっているのですが、警察からの情報、あるいは法テラスからの情報、いろんなものを頂いて、それで弁護士会の方でできる範囲のことをしていくということですが、弁護士に何ができるかというところは本当にどう考えるかというところですが、まずとにかく相談に来ていただきたいというスタンスでおります。

 そして、我々のやるのは裁判の手続がどうかとか、さっき言いました被害者参加制度はどうなのか、損害賠償の問題はどうなのか、それで被害者参加というのは裁判が始まってからの話ですが、始まる前には何が起こっているのか、今どういう手続が進行しているのだろうか、そういう説明なんかを、ちゃんとお会いになった弁護士にしてもらうようにします。

 一つ問題として言えるのは、弁護士でできるスキルというのはしょせん限界があるということです。法的な側面では、それは専門なのかも知れません。先ほど加登田先生がおっしゃったとおり、あるいは臨床心理士会にももちろん御協力を頂きますが、やはり心の問題を、傷づいた方にどれだけ我々が対処していくかというのは、実際苦手です。はっきり申し上げて。

 人の話を聞くというのは、大体弁護士、私を含めて苦手です。本当です。自分からしゃべるのは得意なのですが、人の話を聞くのが大の苦手という人が大体多いです。それでやはり本当に寄り添っていくというときに、いろんな団体、組織、公的機関等と付き合うことが重要だと思います。我々だけではできない。このように思っています。そういうところですね。

加登田: 人の話を聞くのが苦手な弁護士さんが多かったら、ちょっと困りますね。連携をしていくということも大切ですけれども。先ほどの講演で糸賀さんがおっしゃいましたけれども、刑事事件の限界といいますか、刑事事件でかなり傷ついたというお話が先ほどありましたけれども、そういうものなのですか、鶴先生。刑事事件では、そういった加害者に対する思いというのは、刑事事件では対処されない。

 ただ、素人はそういった司法制度に初めて出会うのですよね、事件に遭われて。そういうことそのものを、弁護士さんに御相談をしてもいいということなんでしょうか。これからどう進んで行くんだとか、どこに行ったらいいんだとか・・・。

鶴: 糸賀さんの話では結構、割と裁判が早く始まったかなという気がしたのですよ。2か月で始まったのですよね?そういう事件もあるでしょうが、ちょっと世の中をにぎわすようなタイプの事件、山口県内でもあった事件、大きな誰でも知っているような5人殺されたような事件は、なかなか裁判が始まりませんね。やはり捜査機関が非常に頑張って、事件の解明に尽力されているわけです。だけど、ということはですね、その間というのはなかなか情報開示できない部分とかあるわけですね。捜査にはやっぱり密行性というのが必要な部分があったりします。そういった部分で、被害者・遺族からしてみると情報がなかなか開かないとか、こういう御不満を結構お持ちの方が多いです、はっきり言って。

 私は、捜査機関の側の気持ちはよく分かるのです。それは捜査の秘密ということをどんどん漏らしていけばなかなか真相の解明ということはやっぱりできません。だから私はそういった部分で、「今、警察も頑張っているのですよ」と。一生懸命やっている中で時間がかかっているんですよというようなことをサポートしてあげるぐらいしかできないですね。刑事事件はやっぱりそういった部分があるだろうと思います。

 ただ、刑事事件、ほかにもいろんなサポートが必要なのですが、糸賀さんのはちょっと割と早く始まっているなという気がしましたが、そういったケースも多分多いと思います。

 それと、昔と今が違うのは、昔は刑事記録というものは、確定記録といって、裁判が確定した後じゃないとなかなか開示されなかったのですが、今は事実上、刑事裁判が始まって、起訴された段階ぐらいで、裁判に出される記録は見せてもらえるようになりました。これは改善点で、非常にいいと思いますが、そうしたいろんな御遺族が持っている御不満というものを聞いていくという、そういうことは刑事事件としてあるでしょうね。

加登田: 司法の制度そのものが一般市民にとっては分かりづらいものなので、それを弁護士会や支援センターとしては、その手順や事情も含めていろいろ解説してくださると有難いですね。情報の開示とかね。

 警察の方ではどうですか。実際に支援なさって、いろいろな難しいことがあると思いますが。

中村: 確かに、補償の関係とかでは、交通事件は保険制度等が充実しておりますし、それに比べまして犯罪の被害者の方はまだまだ足りないところがあるということで、どんどん法律も改正されて、その差を埋めようとしております。また、制度的にもどんどん整備されておりますが、警察本部警察県民課では次の3点に配意しています。

 1つは、先ほど申しましたように、この被害者支援の制度は、必要に応じて制度がだんだん積み上げられてきました関係から、それが確実に機能しているか、これを管理しなければいけません。あと、それに携わる警察官そのものが新しい知識を知っているか。これを理解させていかなければいけません。知識をずっと高い位置で保たなければいけません。また、被害者によって、担当する警察官によって、被害者に対するサービスが異なってはいけませんから、ハンドブックを作って対応しています。ハンドブックは、刑事事件用と交通事件用の2種類を用意しております。また、スキルを高めるためにマニュアルを作って教養をするようにしています。それが県民課の大きな仕事の一つです。

 2つ目は、自己紹介でも申しましたけれど、ひとり被害者支援は警察だけではもちろんできると思っていませんし、できません。被害者の支援には関係機関や団体、また民間のボランティアの方の力が必要ですから、これをうまく機能させるというのが県民課の大きな仕事の2つ目です。

 3つ目は、県民課が直接支援をするというのがあります。原則的には警察署が直接支援に当たるのですけれど、事案が複数の所属にまたがったり、体制を大きく立てなければいけないとか、そのようなときには県民課が現場で直接支援に当たります。また、部内の心理カウンセラー、この者を犯罪発生間もないときに派遣します。被害者の方は何をどうして欲しいのかさえ分からないという状態がございますので、そういうときにうちのカウンセラーを直接投入しまして、それでお隣にいらっしゃる太田先生等にカウンセリングを引き継ぐというような直接支援、この3つをやっております。

 次に、直接支援の主役であります警察署でございますけれども、これにつきましては二次的な被害を絶対に与えないというのと、所属や担当者や地域で格差があってはいけないという、この2つを大前提としまして対応しております。例えば、犯罪被害に遭われた方の中には警察に話をしたいけれど、なかなか敷居が高い、怖いと言うような方がいらっしゃいます。そういう方のためにハード面では警察署の各署に、もちろん警察の施設ですから、「いらっしゃいませ」というような雰囲気ではないのですけれど、話がしやすいような相談室を必ず設けるとか、そこでもやっぱり警察官にじろじろ見られて嫌だなというような時には、外から見えないようにした車を配備しておりますし、それでも「警察に行きたくない」という方には、県内に130以上の協力者の施設を借りるように契約しておりまして、そこでお話を聞くとか、そのような細かな配慮をしております。

 また、話を聞く警察官につきましても、警察官はいろんなタイプがおりますけれども、各所属であらかじめ、被害者から話を聞き出しやすいような警察官を登録しています。これは指定要員制度というのですけれど、これを各署で約3割の警察官を指定しておりまして、事件ごとに判断しまして、「この被害者にはこの指定要員を投入しよう」ということでやっております。その指定要員の中で19%を女性警察官が占めておりまして、特に女性の被害者に対しては女性の警察官が当たるというケースが非常に多いと思っております。

 あと、先ほど申しましたように、ちゃんと説明しなければといけないということで手引き、これに乗っ取って説明させております。けれど、被害者の方は説明を聞いてもなかなか御理解できておられないときもあると思いますので、継続して説明なりをするように言っています。これが被害者連絡制度と申しまして、一定の時期に担当した警察官が「困ったことはないでしょうか」とか、「犯人を逮捕しましたよ」とか、「公判が始まりましたよ」とか、それを連絡させるようにしております。

 というのが大体の大きな流れでございます。

加登田: 随分細かく、色々な工夫が出てきたのですね。私もお目にかかったことがありますけれども、DV被害とか性被害なんかは、対応される女性刑事さんがぐっと増えたと思いますね。山口もね。それだけでも被害者にとってみれば話しやすい環境が整ったと思います。ただ、メニューが増えますと、本当におっしゃるように、ムラができないように、さらに現場のみなさんがそれを共有されるように、現場としてはちょっと御配慮いただきたいし、大事なところかもしれませんね。

 さて、警察から連携されることもあるしという、心のケアですが、今度は臨床心理士からすると、さてどのようなアプローチでなさったりしているのでしょうね。カウンセラーとして。

太田: そうですね。臨床心理士の仕事をざっと御紹介させていただきたいと思います。

 臨床心理士は、いろんな職域にわたって働いております。最近はテレビドラマになったり、スクールカウンセラーなどで随分と知名度が上がってきていますが、まだまだ身近な存在とは言い難いと思っております。

 被害者支援部会は、大規模な災害とか事件・事故の被害者に携わるようなセクションです。そのほかに、病院とか大学の相談室、少年院とか刑務所等、最近は自衛隊も臨床心理士を雇われたりしております。

 その中で、被害者支援部会では、被害者支援を担うカウンセラーを養成しているわけです。具体的には、山口県警察に心理カウンセラーの臨床心理士が1名、今年度採用になりまして、精力的に活動され始めたところです。また、県内を6地域に分けて、8名の臨床心理士が被害者支援カウンセラーということで担当させていただいております。

 犯罪被害の方たちに私どもがお目にかかるときは、例えば性被害に遭われた方がおられたとしますね。その方が警察等に、あるいは弁護士とか、医療機関もありますが、そういった機関に相談されれば、警察に被害届を出すとか、医療機関を受診するとか、弁護士等のところに御相談に行かれれば、そういう方がおられるということが分かるわけです。それ以外にも、スクールカウンセラーをしておりますと、学校で被害に遭われた方がおられるというようなお話を聞いたりとか、児童相談所で勤務している者は児童相談所に相談があったりとか、そういった形で被害者とお会いすることになります。

 被害者にお会いしたときに、まずはお話を伺うというところから始まるわけなのですけれども、ただ、その方たちが話したくないということだってあります。話せばやはり思い出してしまいます。警察にしろ、弁護士にしろ、医療機関にしても、みんな事実を知ろうとされるのですね。それは適切な対応のために、犯人を捕まえるとか、裁判とか、適切な対応のためにはどうしても必要なことなのだけれども、治療もそうですね、どの程度けがをしているかが分からなければ治療のしようがないわけです。だけれども、そのことを話すこと自体がその被害者の方にとっては苦痛なんだということなのです。

 先ほど糸賀さんのお話にもありましたけれども、例えば司法制度では12年がきっと常識なんだろうと思うのですね。そういった専門の方々の常識と、被害を受けた方々の気持ち、一生涯刑務所に入ってほしい。25歳だったら55年間ですよね。全然違いますよね。そのぐらいかい離しているわけです。

 被害に遭った方の、例えば法律について知らないということについて、警察の方もすごく手当てをされるようになってきておられて、様々な受皿を作っておられるけれども、でも、じゃそれをするときに、その人たちが1回の説明でちゃんと全部理解できるだろうかということですね。

 そういったところを私どもは、「どんなことを聞かれたのですか」とか、「どんなお気持ちなのですか」とか、あるいは「話したくないのです」とおっしゃる方には、話さずに済むように、きちんとふたをしておけるように、その方が自分でそのことに向き合おうと思うまでは話さずに済むように、そういった配慮をしながらいつもお目にかかっているというのが現実の仕事になります。

 私個人の仕事といたしましても、犯罪被害者の御遺族とか御家族、あるいは関係者の方々、警察官もやっぱり受傷されるのです。犯罪被害の生々しいものを見られると、やはりそういうふうな気持ちが動いたりされることもあるわけですね。

 それ以外に、交通事故もありますよね。交通事故の被害者の方、あるいは御遺族、御家族、関係者の方々。それで、自死遺族、こちらの方はやっぱりつらいですよね。関係者の方々。

 災害支援といたしましては、2009年の中国・九州北部豪雨の災害のときに、直接被害を受けられた方じゃなくて、その被害でお祖父様を亡くされた高校生の方とか、あるいは2011年からずっと、東日本大震災の岩手県、宮城県に、山口県でチームを組んで、被害者支援チームを派遣しておりますし、2016年の熊本地震もスクールカウンセラーとして被害者支援に行っております。そんな形で寄り添っていくというふうに考えていただけたらと思います。

加登田: ありがとうございます。被害者支援というのは、鶴先生たちがやっていらっしゃるような、法律上で制度で守られているものですから、そのことを面からのサポートも必要でしょうし、警察の現場で、事件そのものから入って、その事件がどうなるかというプロセスでの出会いもありますし、その両方に心のケアなどが関わってくるし、また、制度以外のところでも関わりが出てくるということだと思います。

 そういった3つの機関に、糸賀さんの方から、当事者のお立場からサポーター側へのお気付きや要望がありましたら、改めましてお願いします。

糸賀: 山口の取組を聞いて私は本当にうれしくなるのですけど、あくまでも、14年前の話です。そう思って聞いてください。今、私も警察とか警察大学校とか、講演、研修のときに呼ばれていったりするのですけど、本当にまず検察官と警察がすごい変わったと思います。

 私の、14年前の話なのですけど、事件当日、先ほど言ったように、息子の家に駆けつけたらパトカーで警察署へ連れて行かれて、4時間の事情聴取が終わって、「はい、御苦労さまでした」って、そのまま警察署から帰されました。家まで歩いて30分くらいかかるのですけれど、山口だったらもっと遠い人がいるかもしれない。うちだったら30分で警察署なのですけど、ただ、そこで「御苦労さま」って帰されたのです。帰る道に、息子が通っていた小学校、中学校とか、仲がよかった友達の家、警察署からうちまでの間にみんなあるのですね。その時々の楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、つらかったことをまた思い出してしまいました。

 あと、その日のうちにテレビで事件の放送をしていて、うちはちょっと珍しい名前だからかもしれませんけど、マスコミが家へ駆け付けてくるのですね。テレビ局とか新聞社とか。ピンポーン、「話を聞かせてください」みたいな、よくテレビでやっているような、あれです。あれをやられて。私はそういうときに警察がマスコミをシャットアウトしてくれる方法はないかなとか、後になって気が付いたのですけど、そういうところまで、あのときやってほしかったなという気持ちがありました。

 それと、ある女性週刊誌が、お通夜とか告別式の写真を撮って、週刊誌にその写真をそのまま載せて、最後にまるでDVでもあったような記事を書かれたのですね。そこが本当に悔しかったんだけれど、そういうのもテレビの視聴率とかを取るために被害者の方が傷つけられるといったことがあるのですよ。これも大きな二次被害だったと思います。だから警察の人が、例えばせめてその日とか、葬式が終わるまでもうちょっとケアをしてくれたらうれしいなと思いました。

 弁護士の先生に対しては、当時東京でも一、二を争うという、弁護士会から弁護士を紹介してくれたのですけど、当然その頃はまだ先ほど言った被害者参加制度はありません。弁護士は傍聴席に一緒にいて、何もできません、何もできません、それしかなかったのですけど、今は被害者参加制度ができたので、是非これからの弁護士さんには、何とか被害者のために、その立場を守るために協力していただきたいと思います。

 あと心療内科。私は数か月して心療内科に行ったのですけど、2か月で8キロぐらい痩せて、40キロを切ってがりがりになっちゃって、御飯も食べられないし、眠れない。主人がすごく心配して心療内科に連れていってくれたのですけど、そこの病院では鬱病という診断をされまして、睡眠導入剤と抗鬱剤が処方されて、確かに睡眠導入剤というのは、飲むと眠れるようになるのですね。でも、薬が切れて、その次にその心療内科に行ったときに、その先生がニコッと笑って、「抗鬱剤、効くでしょう。元気になったでしょう」と言って、事件のことを知っている先生がよくそんなことが言えるなと思って、それから私は二度と行くことができなくなってしまいました。そういう意味では、ちょっとそういう事件ごとにカウンセリングが必要だったのではないかとも感じています。

 あとは被害者支援センターなのですけど、やっぱりいろいろな事件、事故の遺族がおられまして、例えば一人息子を亡くしたとか、2人の子供を一度に交通事故で亡くしたとか、そういう被害者とか、あとは例えば不起訴事件とかで、お母さんが殺されたんだけど、相手が心神喪失で不起訴になったという事件。確実に殺した人間がいて、殺された人間がいるのに、刑事裁判にもならないという、そういう遺族の方は本当にもっともっと、私たちよりまだ苦しい思いをしている人がいます。

 あとは未解決ですね。私もそういう人たちと関わってきた中で、皆さんに言うことは、こういう事件・事故をなくしたい、そういう思いでしかありません。山口県は本当にいいところで、いろんな意味でやっていただいておりますので、これからも本当に、被害者が出ないことを望むのですけど、もし被害に遭われた方には全力で、鶴先生始め、皆さんにケアしていただきたいと思っています。よろしくお願いいたします。

加登田: ありがとうございました。先ほどの3つの団体もありますし、まだほかにボランティアもごさいますでしょうし、やはり法制度の被害者支援という視点でのアプローチは、このところ随分進歩したといいますか、配慮されるようになった。しかし、ほかの事件でもそうですけれども、マスコミ被害のことなんかは、なかなか現状の制度だけでは手に負えない、新たな問題もまだ出てきている。また、それぞれの制度ができた後にどうつなぐかということですね。それが一つの部署が縦割りでその業務だけをやっていればいいということでは、とても先ほどの弁護士さんとお医者さんとのつながりのように、被害者自身からするとバラバラであり、それがまた傷つけてしまうというような状況があるようですね。

 最後に、ちょっと時間が迫ってまいりましたが、この被害者支援活動の歩みを一歩でも進めるためには、どうしたらよいのでしょうか? やはりバラバラの支援では役に立たないということは感じられたと思いますし、一つの機関ではできないという、一番最初に鶴先生がとても弁護士ではできることとできないことがあって、という自嘲的なお話でしたけれども、いろんな支援を被害者の視点でつないでいくには、もう少しこうしたらいいんじゃないかとか、こうありたいとか、何か御意見がございますでしょうか。

鶴: 犯罪被害者の支援で今一番参考にすべきなのは、多分、高齢者や障害者の福祉の分野のいろんな実践例ではないかと私は考えています。キーパーソンという言葉を福祉では使いますね。キーパーソンに誰がなってもいいのだろうと思います。それは警察官であったり被害者支援センターであったり法テラスであったり弁護士であったり。多分それは被害者あるいは御遺族にとって一番ウマが合う人、信用のおける人というのが結局キーパーソンになってくるのではないかと思うのですが、そういう人を中心にいろんな支援と結びつけていくということが重要ではないかと思います。

 そして、そういうときにキーパーソンとなれる、なるべき可能性のある人が、できるだけ山口県なら山口県の中でつながっておくということですね。そして、こういったシンポジウムに参加いただくことも結構でございますし、官民を問わずいろんなそういう協議会をできるだけたくさん設けていただいて、私もああいうことならやれそうだなということを知っていただくのが一番重要じゃないかと思います。そういったところですね。

加登田: ありがとうございます。先ほど糸賀さんがおっしゃいましたけれども、必ずしも被害者の息子さんを知っている人がキーパーソンでなくてもいい。知っている人がかえって嫌な場合もあるわけですね。そこで、一定の距離がある人がキーパーソンになっていただいて、その人が被害者を軸に一緒にいろんなサービスや事業とつなげていってくれる、寄り添っていただく人がキーパーソンなんでしょうかね。

 中村さんの方は何かございますか。

中村: 私は、組織人でございますから、いろんな組織の特質をうまくつなげてやれるのが一番重要じゃないかと考えています。

 それで、山口県では山口被害者支援連絡協議会というのを平成10年に立ち上げて、現在37の機関、団体、これは公的な機関もございますし、一般の方の団体もございますけれども、これが構成員になっていただいております。これら各機関には、それぞれ得意技がございますけれど、被害者の方が各機関一つ一つを回って、その得意技のサービスの提供をお願いするということは不可能でございますから、どこかに届けられたとき、それをつないであげて、各機関が得意な分野をうまくサポートして、必要な時期に提供してあげるという、これが非常に大事だと思っております。

 あと、私は先ほど自己紹介で、「警察署の課長のときに非常に他の機関に助けられた」という話をしましたけど、その頃交通死亡ひき逃げ事故が発生しました。亡くなられた方には奥さんと小さなお子さんがおられました。署では犯人を捕まえることに一生懸命だったのですけれども、奥さんから御飯をつくったり、買い物をしたりとか、子供さんの世話をすることができないという相談を受けまして、「これはちょっと警察にはできないかな」と思ったときに、警察本部を通じまして支援センターにつないでもらい、最終的には市に対応してもらいました。市役所には、そんな直接犯罪被害者をサポートするというようなサービスはなかったのですけど、それに似た福祉サービスがございまして、それをうまく適用していただきまして、料理を作ったり買物をしていただく。果てはナスバまで紹介していただいて、その子供さんの育英資金の手続もやっていただくということがありましたので、本当に各機関や団体の力を引き出して、うまく提供するというのが非常に重要だと思っております。

加登田: 最後に太田さん、糸賀さんは本当につらい思いを経験なさったのですけれども、本当に唯一救いはですね、糸賀さんがそこから回復されたということ。そしてむしろ犯罪被害の予防とか社会の啓発にその痛みを転嫁させたということの強さというか、そこに1つの希望があると思うのですが。それに関してみんなにメッセージがありましたら。

太田: まだちょっとまとまっていないのですけれども、糸賀さんの場合は、語ることによる回復というものがあると思います。また、いくつかお話を伺っていて思ったことがありまして、1つは未然防止、できたらこういう被害者を出さないでほしいという、切実な訴えを聞かせていただいたのですけれども、その方が犯行に及ぶまでの経緯とか、そういったところで、これまでにいろいろと出てきた機関も含めて、少しでも、そこで誰か気付いて、直接医療機関なり、司法機関なりに連絡するような、そういった人やシステムがあれば、もしかしたら同じことが防げる可能性もあるのかもしれない。防げることが随分とでてくるのかもしれないというのが1つ。

 それと、被害者御自身と周りの家族の方、それぞれ思いが少しずつ違うのですね。親として子供を思う思いと、当事者の方の思いとか、あるいは周りの関係者の方とかですね。捜査されている方たちもそうなのですけれども、みんなそれぞれ思いが少しずつ違っていて、その人たちがそれぞれ納得していくことが必要なんじゃないか。いろいろと疑問が湧いたりとか怒りが湧いたりとか、いろんなものが湧いてくるたびに次の扉をたたいて一つ一つ進んでいかれる。そのときにちゃんとそれぞれのセクションの方たちがきちんとそれに向き合って、付き合ってやっていけるようになるためには、被害者の方の思いをつないでいく必要があるんじゃないか。そういったものに対するこちらの感覚というか気付きを伝えていく、つないでいく必要があるんじゃないかなというのは、今すごく強く思っているところです。

 連携というのは、随分とできてきていて、直接支援員といって、ずうっと最初から最後まで付き添ってくださる方も、山口被害者支援センターにおられます。今後もそういった方たちが出てくる可能性もあって、それは非常に力強い、心強いことではあるんだけれども、まずは被害者の思いをずうっとつなげて、伝えていく人があってほしいと思います。

 もう一つは、先ほどの未然防止のところで、今日会場に来られている方々がそれぞれの日常生活のところでの小さな気付きとか、連携とかチームとか、そういうものをつないでいっていただけると、もしかしたら未然防止や被害を受けた方たちの回復につながっていくのかなと思います。

加登田: ありがとうございます。あっという間に時間が過ぎてしまいました。

 本日のパネルディスカッションが、犯罪被害者というのはそんなに遠い存在ではなくて、本当に誰でもあり得ることだということを知り、そして被害者のその重い被害や痛みを、みんなのつながりによって支援することが回復の一助になるんだということを確認する機会になり、そしてこれからさらに支援の輪を充実させていくために、一歩を踏み出すきっかけになったらと念じております。

 なかなか思いが先行しまして、段取りよくはいかなかったかもしれませんが、おかげさまでそういうふうな有意義な会になったと思います。お話を聞かせていただきました登壇者の皆様、本当にどうもありがとうございました。これで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。

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