11月25日~12月1日は犯罪被害者週間

「犯罪被害者週間」国民のつどい 中央大会(東京)

議事内容

開会挨拶

谷本 龍哉(内閣府大臣政務官)

 皆さんこんにちは。犯罪被害者等施策を担当いたします、内閣府大臣政務官の谷本龍哉でございます。本日は「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会開催にあたり、一言ご挨拶を申し上げたいと思います。

 本日は関係閣僚の皆様方、基調講演やパネリストをしていただく有識者の皆様方をはじめ、多くの皆様方にご列席いただきありがとうございます。国民の誰もが安心して暮らせる社会を実現するためには、犯罪を予防するだけでなく、不幸にして犯罪被害にあってしまった方々が再び平穏な生活を営むことができるように支援していくことが重要です。しかしながら、犯罪被害者等の多くはこれまでその権利が尊重されてきたとは言いがたいばかりか、十分な支援を受けられず、社会において孤立することを余儀なくされ、被害を受けた後まで二次的な被害に苦しめられることが少なくありませんでした。

 このような状況の下、平成17年4月に「犯罪被害者等基本法」が施行され、同年12月に、政府は犯罪被害者等のための施策の大綱として「犯罪被害者等基本計画」を閣議決定し、総合的かつ長期的な施策の推進に取り組んでおります。基本計画におきましては、国民の総意を形成しながら展開されることを基本方針とし、国民の理解の増進と配慮、協力の確保への取り組みを重点課題とし、基本法の成立日である12月1日にちなんで、毎年11月25日~12月1日までが「犯罪被害者週間」とされました。

 「犯罪被害者週間」は期間中の集中的な啓発事業などの実施を通じ、犯罪被害者等が置かれている状況などについて国民の理解を深めることを目的とするものであり、今回がその記念すべき第1回となります。「犯罪被害者週間」国民のつどいは犯罪被害者週間の中核的な行事として、国民が犯罪等による被害について考える機会として開催するものであり、本日はその中央大会です。

 本日は、犯罪被害者等の置かれている状況や、それを踏まえた施策の重要性、民間の支援団体などによる被害者支援の意義や、さらなる国民の理解の増進などをテーマとした基調講演やパネルディスカッションを行うほか、関係機関・団体によるパネル展示をご用意いたしました。これらを通じてご来場の皆様方には、犯罪被害者等の置かれている状況や犯罪被害者等の名誉、平穏な生活への配慮の重要性などについて理解と関心を深めていただければ幸いです。

 最後に犯罪被害者等の権利・利益の保護が図られる社会が1日も早く実現されるよう、今後とも全力で取り組んでいくことをお約束申し上げ、私の挨拶といたします。

挨拶

塩崎 恭久(内閣官房長官)(代読:荒木 二郎(内閣府犯罪被害者等施策推進室長))

 「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会開催にあたりご挨拶を申し上げます。先ほど谷本政務官からご挨拶が ございましたように、犯罪被害者の多くは、これまでその権利が尊重されてきたとは言いがたい状況にございました。

 私は官房長官就任以前より、犯罪被害者等施策に積極的に取り組んでまいりました。犯罪被害者等の方々が直面している大変困難な状況を打開し、その権利・利益の保護を図るために、自由民主党犯罪被害者基本法案プロジェクトチームの一員として、犯罪被害者等基本法の成立に向けて力を尽くし、また、犯罪被害者等基本計画の策定過程におきましても関係者と大いに議論してまいりました。

 基本法の制定と基本計画の策定は、高まりを見せていた犯罪被害者等からの声に答えたものであり、これにより我が国の犯罪被害者等施策は、初めて府省庁横断的、総合的かつ長期的な取り組みとして行われることとなりました。今般記念すべき初回の犯罪被害者週間が実施され、その中核的な行事である国民のつどい中央大会が開催されますことは、誠に感慨深いものがございます。

 基本計画に盛り込まれた各種施策を具体化していく段階にある今こそ、まさに犯罪被害者等施策は正念場を迎えております。犯罪被害者等の施策を推進するために、基本法による重要事項の審議、施策の実施状況の検証・評価・監視などを行う「犯罪被害者等施策推進会議」が設置されております。官房長官である私は、この推進会議の会長として、これまで以上の熱意と情熱を傾け、被害者の方々が安心して平穏な生活を送ることができるよう、犯罪被害者の視点に立った施策を総合的かつ着実に推進し、犯罪被害者等の権利・利益の保護が図られる社会の実現に向け努力してまいります。ご参加の皆様方におかれましては、引き続きご指導とご支援をいただきますようよろしくお願いを申し上げます。

 終わりにあたり、本日の中央大会により、国民理解の一層の増進が図られますよう祈念申し上げますとともに、多くの関係者の方々のご協力に感謝申し上げ、ご挨拶といたします。

挨拶

溝手 顕正(国家公安委員会委員長)(代読:大森政輔(国家公安委員会委員))

 「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会の開催にあたりまして、一言ご挨拶申し上げます。警察は犯罪被害者の方々にとって身近な機関であり、被疑者の検挙、被害の回復や軽減及び再発防止等の面で重要な役割を担っている立場でございます。このため、警察では犯罪被害者の方々への様々な情報提供、犯罪被害者やご遺族の方々に対する給付金の支給、精神的被害を受けた犯罪被害者の方々に対するカウンセリング体制の整備や、犯罪被害者の方々の再被害防止のための措置を講じるなど、様々な側面から犯罪被害者の支援に取り組んできたところであります。

 「犯罪被害者等基本法」に基づき昨年末に閣議決定されました「犯罪被害者等基本計画」には258の施策が盛り込まれましたが、そのうち70が警察に関わる施策であります。警察では犯罪被害者の方々への支援の充実に向けて、これらの施策を鋭意推進しているところであります。

 また、犯罪被害者の方々が犯罪等により受けた被害から立ち直り、再び地域において平穏に過ごせるようになるためには各種の被害者支援施策と併せて、国民の理解と協力が大変重要であります。警察におきましても犯罪被害者の方々への国民の理解を深めていただくために、この「犯罪被害者週間」が新たに設けられた趣旨を踏まえて、この期間中、各都道府県警察において関係機関や民間の被害者支援団体の方々と協力しながら、様々な啓発事業を実施しているところであります。

 国家公安委員会といたしましても、今後警察における犯罪被害者支援が一層充実したものとなるよう全力を尽くしてまいる所存であります。本日のこのつどいを始めとする、犯罪被害者週間における様々な活動が、被害者支援の輪を社会全体にさらに大きく広げることにつながることを祈念いたしまして、私の挨拶といたします。

挨拶

長勢 甚遠(法務大臣)

 「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会の開催に際しまして、一言ご挨拶を申し上げます。この「国民のつどい」は犯罪被害者等やそのご家族の方々が置かれた実状等について国民の理解を深め、それぞれの立場で適切な配慮をしていただくとともに、国や地方公共団体が犯罪被害者等のために行う施策についての協力のお願いをするという趣旨で開催されたものでございます。このことは既にご紹介がありましたように、昨年12月に閣議で決定されました「犯罪被害者等基本計画」の中で定められているところでございます。

 この「犯罪被害者等基本計画」には、法務省に関係する施策も数多く盛り込まれております。法務省は検察に代表されますように、犯罪被害者等の方々と直接に接する機会が多い立場でございますので、この基本計画を策定する過程におきまして、犯罪被害者等の方々から、さまざまなご指摘を受けたことを重く受け止め、犯罪被害者等の立場に立った保護や支援の重要性を改めて強く認識し、その着実な推進に努めているところでございます。

 制度面のことで一例を挙げさせていただきますと、法務省において検討することとされた施策のうち、損害賠償請求に関して、刑事手続で得られた成果を利用する制度、あるいは犯罪被害者等が刑事裁判に直接関与することのできる制度等を導入するということが盛り込まれています。これらにつきましては、犯罪被害者等の保護や支援をよりいっそう充実させるために、我が国にふさわしい新たな制度をできる限り早期に導入することが重要であると考えておりまして、本年9月6日に法制審議会に諮問をしたところであります。基本計画では2年という検討期限が示されているところでございますが、法務省といたしましては、犯罪被害者等の方々を始め、各方面の方々のご意見も伺いながら、審議会からの答申をいただいた上で、できる限り早期に国会に所要の法案を提出したいと考えております。

 また、本年4月10日には日本司法支援センターが設立され10月2日から業務を開始いたしております。同センターでは犯罪被害者等の方々のために、さまざまな取り組みをしている団体等と緊密に連携を図り、犯罪被害者等の方々の援助に精通した弁護士を紹介することなど、それぞれがその時々に最も必要な援助を受けることができるような情報を速やかに提供することを義務として、一生懸命取り組んでおります。その他、政府全体といたしましては、経済的支援の問題など残された重要な課題がありますので、引き続き皆様のご意見を伺いながら関係省庁と協力をし、十分に検討してまいりたいと考えております。

 終わりに、この大会の開催が広く国民に犯罪被害者等の方々に対する理解と配慮、それに基づく協力の必要性を共有できる機会となり、犯罪被害者等の方々の権利の保護と尊厳が守られる社会づくりの契機となることを祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。

基調講演

「犯罪被害者週間~犯罪被害者として思うこと」
岡村 勲(全国犯罪被害者の会代表幹事)

 全国犯罪被害者の会(あすの会)代表幹事の岡村 勲でございます。本年から私たち「あすの会」が求めに求めてきた「犯罪被害者週間」国民のつどいが開かれることになり、その第1回目の記念大会でお話させていただくことをとてもうれしく思っております。

 昨日は、私ども「あすの会」で犯罪被害者週間の幕開けをいたしました。180人しか入れない会場でしたが、立ち見席が出るくらいの熱狂的な雰囲気の中で行われました。

 「あすの会」が設立されたのは2000年1月23日であり、今から6年半前になります。そのときはまだ警察庁の次長通達や検察庁の通知制度があるだけで、被害者に対する保護・救済の制度は、犯罪被害者等給付金支給法を除いて全くありませんでした。その中で、犯罪被害にあって苦しい思いをしている5人の被害者が集まりました。1999年10月31のことです。お互いの苦しい胸を話しているうちに、なぜ被害者側だけがこんなに苦しまなければいけないのか、好奇の目で見られるのか、どこからも助けがないのかと考えました。これは国民が被害者の実情を知らないからです。被害者が口を開けば好奇の目で見られる、被害者のほうにも落ち度があったのではないか、どうもあの家は縁起の悪い家だと何かにつけて偏見の目で見られるので、被害者はジッと口を閉ざして1人で我慢をしてきていたのです。そこで私は言いました。「我々は好きこのんで被害者になったのではない。突然、被害者にさせられたのだ。何の悪いこともしていない。声を出そうではないか。声を出さなければ国民も国も社会もわかってはくれないぞ」ということを話し合ったのです。

 そして、思い切ってシンポジウムを開こうということで、マスコミのご協力を得て、翌年2000年1月23日にシンポジウム大会を開きました。何人集まるかなと思っていたのですが、マスコミも一生懸命宣伝をしてくれたおかげで、80人しか集まらないところに240人の被害者、一般の方、マスコミの関係の方が押しかけてきて酸欠状態になるような状況でした。

 そこに出てきた話は、まるで地獄絵を見るような話でした。会社の帰りにおやじ狩りにあって頭蓋骨の3分の1を取られたのですが、そこから感染性の菌が脳に入ったために個室に入れられて、個室代を払わなければいけません。また、お医者さんや看護師さん、あるいは家族が部屋に出入りするときには防菌性のエプロンを付けて入らなければいけないのですが、そのエプロン代も被害者負担なのです。そして、置いてくれる病院があるところはまだいい、3カ月ごとに病院を転々とさせられるのではたまらない。何とか被害者については病院を確保してもらえないだろうかという話がありました。

 また、DV(Domestic Violence 家庭内暴力)で離婚したご婦人がいました。10歳と8歳の子どもが2人いました。離婚して家を出ようとするとき10歳の長男は、「みんなが出て行ってしまったなら、お父さんは1人になって立ち直りができないだろう。僕は残るよ」と言って父親の元に残りました。それから3年後、父親の家庭内暴力でその男の子は殺されたのです。もう母親は半狂乱になりました。あのとき、何と言おうと子どもを連れて家を出るべきであったと、自分を責めて、責めて責め続けました。そして、裁判が始まりました。しかし、かつての夫がいる裁判所を見ただけでも足がすくんでとても中に入って傍聴できません。証人尋問の日がきて、検察官に言われてそのときは証人台に立ったのですが、そこで失神してしまいました。

 また、「子どもが拉致された。このままでは殺される。何とか早く救い出してください」と警察官に頼んでいるのに、警察官がなかなか動いてくれず、その間に子どもが生き埋めにされてしまった親の話もありました。次から次へ出てくる話は地獄絵のようでした。

 なぜこんなに被害者は放置されなければならないのか、私どもは悲しみから怒りに変わってまいります。そして、そのシンポジウムの後に「あすの会」を設立し、力を合わせて国や社会を変えようという運動を始めることになったのです。

 設立趣意書には次のように書いてあります。「犯罪が社会から生まれ、誰もが被害者になる可能性がある以上、犯罪被害者の権利を認め、医療と生活への補償や精神的支援など被害回復のための制度を創設することは国や社会の当然の義務であると考えます。そして、犯罪被害者の権利と被害回復制度の確立は被害者自身の問題ですから、支援の方々に任せるだけではなく、被害者自らも取り組まなければなりません。そして、私どもは犯罪被害者の権利と被害回復制度について論じ、国、社会に働きかけ、その確立を目指すために犯罪被害者の会を設立します。全国の犯罪被害者が連帯し、犯罪被害者の会のもと、それぞれの抱える苦しみと悲しみを生きる力に変え、今生きている社会を公正で安心できるものにするために心と力を尽くします」という宣言をしています。

 そして、私どもの会は全国を飛び回って実情を訴え、あらゆる政府機関、立法、司法府に提言書を出し、また、2回にわたってヨーロッパに調査団を派遣して現地調査など、さまざまな活動をしてまいりました。2003年には犯罪被害者の権利のために全国的な署名運動を行いました。署名活動のときには、「犯罪被害者のための刑事司法」「附帯私訴」「公訴参加」、この3つに絞って署名運動を開始しました。これは司法制度改革推進本部がつくられていたので、それに焦点を合わせて、まずは司法制度の改革から始めたわけです。36万通の署名が集まったところで、小泉前総理にお目にかかることができました。そして、被害者の実情をお話ししましたところ、「それは大変だ。党と政府で取り組もう。政府のほうは自分でやるから、党のほうを頼む」と言って、同席して下さっていた司法制度調査会会長の保岡興治先生と、この間まで法務大臣をなさっておられた杉浦正健先生に仰って下さいました。それから、自民党の政務調査会の活動が始まり、上川陽子先生が中心になって一昨年の12月には「犯罪被害者等基本法」ができたわけです。

 この犯罪被害者等基本法につきましても、私たちは絶対に権利法でなければいけないということを強く主張しました。支援法という案もその他から出てきておりました。また、犯罪被害者を支援する基本法という法律をつくろうという動きをする方もいらっしゃいました。しかし、犯罪被害者は尊厳のある権利主体であり、哀れみの対象ではありません。「支援してください。お願いします」というような哀れな存在ではないのです。なりたくもない犯罪被害者というこの立場は、国が、国民が守るべきであり、守ってくれという権利を有する立場であるということで、権利法の制定を強くお願いしたのです。1度は支援法に成りかけた自民党案でしたが、これに私たちは最後に巻き返し、権利法になり、そして全政党の同意を得て議員立法として成立したわけです。

 それから「犯罪被害者等基本計画」の策定が始まりました。そのときも、私どもは被害者週間をぜひつくっていただきたいということを申し上げました。犯罪被害者支援ネットワークを中心に「犯罪被害者支援の日」というものはありましたが、先ほど申しましたように、あくまでも被害者の尊厳、権利を中心にした週間をつくってほしいと考えたのです。「障害者週間」というものがあります。「障害者支援週間」とは言いません。今年からは精神障害者も入りましたが、障害者もきちんとした権利主体で、それを真正面に押し出して障害者週間がつくられています。また、「老人週間」というのもあります。老人をいたわる週間とは言いません。老人として長い間生きてきた人間の尊厳と権利を皆が尊重をして、老人問題を取り上げる週間なのです。同じように、「犯罪被害者週間」も「犯罪被害者権利週間」と本当は言いたかったのですが、私どもは遠慮をして「犯罪被害者週間」ということを申し上げました。そして、基本計画の検討委員の先生方からも異議なくこれが承認されたことを大変うれしく存じております。

 そして昨日は、先ほど申しましたように第1回の週間の先駆けを「あすの会」でさせていただきました。そのとき、私どもはぜひとも忘れてはならない方を偲ぶことをメインにした犯罪被害者週間の記念大会にいたしました。その方は市瀬朝一さんです。私も実は「あすの会」をつくるまでその方の存在を知りませんでした。その方は昭和41年に婚約の整った一人息子を夜間、通り魔に殺害されました。そのとき、病院でその一人息子さんは「悔しいよ、父さん。敵を討ってくれよ」と言ってすがり付きながら亡くなっていきました。父親の朝一さんは「絶対に敵を取ってやる」と言い、裁判が開かれた日に包丁を懐に忍ばせて裁判所へ行きました。廊下で擦れ違うときに包丁を出して突き刺そうとするとき、付き添いの人に止められました。「お父さん、そうすればあなたも殺人犯になるよ」と止められたのです。だけど悔しい、敵を取りたいのです。裁判の結果は、加害者は5年以上10年以下の無期懲役で不定期刑になりました。

 それからの市瀬さんは、いろいろな本を買い込みました。鉄工所の町工場のおやじさんだったのですから法律を知るはずもありません。本を買い込んで、どうすれば仇を取れるかということを調べましたが、どうしても自分の手で取ることはできません。そこで、千崎さんという方と巡り合い、「どうせ自分の手で仇は取れない。被害者、殺人の犯人を撲滅する会をつくろう」ということで、このような会をつくられたのです。大谷 實先生に話を聞きますと、「殺人犯人は全員死刑にしてしまえ。どんどん死刑にすれば人口は減るかもしれないが、そのうちに殺人犯はいなくなってしまう」と、このような過激なことを考えられて運動されたそうです。度々名称は変わっておりますが、市瀬さんは全国を回り、新聞に殺人の事件が載ると、それを切り取って全国を回られました。町工場は売り飛ばして、その活動資金に充てられました。

 そして、活動しているときに同志社大学の大谷先生と知り合います。大谷先生は、4人の家族と一緒に「犯罪被害者の補償制度をつくる会」を作っておられました。大谷先生は、「殺人犯をなくすと言ってもそう簡単にいくことはない。あなたは全国を回って、生活に困っている人にたくさん会ったでしょう。まず、その人たちの生活ができるようにすること、補償制度をつくること、これが一番大事ではありませんか」と、ハムラビ法典を示されておっしゃられました。そこで市瀬さんも、大谷先生と合流して「犯罪被害者の補償を促進する会」という会をつくられたのです。

 それから署名運動をして、9000人分の署名を集めました。街頭署名もする、募金活動もする、大会もする、そういうことでどんどん輪を広げていかれたのです。そして、1975年にとうとう国を動かし、衆議院の法務委員会に大谷先生とともに参考人として出席して補償制度の必要性を訴えます。しかし、そのときは、法律はできませんでした。

 そのうち白内障になって目が見えなくなり、奥様に手を引かれて全国を回りました。そして、伊那にある息子さんの墓で、「おまえが敵を討ってくれと言わなければ、おれはこんなに苦労しなかったよ。しかし、敵討ちのためにこの運動は絶対実現させるから、おまえも上から見守ってくれよ」と言って水をかけられるシーンがNHKの当時のドキュメンタリーフィルムに残っております。そして、とうとう1977年に「もう2年待たせてください。2年間生きさせてください」と先生に言いながら亡くなりました。そして、亡くなった3カ月後に、政府は犯罪被害者の補償制度のための調査費を付け、1980年に「犯罪被害者等給付金支給法」が成立したのです。残念ながら私は当時のことを知りませんでしたが、この話は木下恵介監督の『衝動殺人 息子よ』という映画になって大変ヒットしたそうです。昨日の大会では、現在、伊那市で市会議員をしておられる、市瀬さんをそっと支援してくださった元聖教新聞の記者の方に当時のことを話していただき、その話を皆泣きながら聞きました。

 私自身なぜこういう運動をしたかということは、市瀬さんの考えとまったく一致しているのを発見して驚きました。私は企業を脅迫してきた男に、会社の代理人としてその金銭要求を拒否したために、その男は私を逆恨みして、私を殺そうとしたのです。しかし、私と出会うことができないので、妻が身代わりに殺害されました。警察の捜査によりますと、その男は2つの企業を同じような手口で脅かし、成功して金をせしめておりました。ところが、私の代理する会社は私と一緒に拒否しました。もし金を払っていれば、私の妻は殺されることはなかったでしょう。お金を払って助かった会社の方が、妻の事件の裁判に証人として出てくださいました。「あのときは悔しかったが、岡村さんの事件が起きてみれば、お金を払ったために助かったのだから、今では良かったと思っている」というような証言でした。私はこれも尤もなお考えであると思います。しかし、私は法を守って妻を失ったのです。

 私は一家の主の一番の責任は家族の安全を守ることだと思っています。それが、家族を犠牲にして生きていることに耐えられませんでした。どうすれば早く死ねるかということを考え続けました。だけど死ねない、死ねないなら、妻の死を風化させては申し訳ない、この妻の死を契機に何かが生まれたとしたならば、これは妻に対する供養になるのではないかと思って被害者運動を始めました。

  11月23日は結婚記念日でした。1人、仏壇の前に座って、「私がプロポーズしなければおまえは死ななかったな。私が弁護士であり、法を守ろうしたが故におまえは亡くなったな。おれと結婚したために、おまえは不幸になったな。勘弁してくれ。しかし、決して君の死を風化させないよ。絶対に被害者の権利、一般の被害者の方々が困らないようにするための制度をつくって君のもとに行くから」ということを23日の結婚記念日の日に仏壇で私は改めて誓ったものでした。

 私どもの会員の中には、そのような考えで活動しておられる方はたくさんいらっしゃいます。私1人ではありません。皆がそのような考えで、国民の誰もが被害にあうかもしれない今日、もう自分たちのような苦しい目にほかの人たちをあわせたくない、それが遺族や後に残ったものの務めだということで「あすの会」の運動を行なっております。

 「犯罪被害者週間」ができて、犯罪被害者がどのような思いで過ごしているか、そして何を望んでいるのか、そのようなことをお考えいただく週間ができたことを私はうれしく思っております。そして、被害者を助けると同時に、被害にあわないようにするためにはどうすればいいのかということも、よくお考えいただきたいと思います。この犯罪被害者週間が全国各地に広がって、人権週間のように被害者ということを自分のこととして考える方々が増えていくと、また犯罪も減ってくるかもしれないと思います。この被害者週間をおつくりくださった、基本計画に入れてくださったことに対して、内閣をはじめ、いろいろ関係された方々に心からお礼を申し上げます。つたない話をご清聴ありがとうございました。

基調講演

「犯罪被害者等基本計画について」
荒木 二郎(内閣府犯罪被害者等施策推進室長)

 改めましてよろしくお願い申し上げます。ただいま岡村先生のほうから、犯罪被害者等基本法が作成された経緯等についてお話がありました。私のほうからは30分ほど時間をいただきまして、基本法の概要と、それに基づきまして昨年末に閣議決定されました犯罪被害者等基本計画の概要、そして、現在政府を挙げてその基本計画の推進にあたっているわけですが、その進捗状況等のご説明申し上げたいと考えております。

 「犯罪被害者等基本法」は、一昨年の12月に制定され、昨年の4月に施行となっておりますが、基本理念が3つあります。まずひとつ目には、犯罪被害者は個人の尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利を有するということがうたわれています。2つ目には、犯罪被害者等の置かれた状況は、いろいろな犯罪の種別、あるいは家庭の状況、その周りを取り巻く環境等によって千差万別であり、施策はそのような被害者個々の置かれた状況に応じて適切に実施されるべきであるということです。3つ目には、被害者の方が再び平穏な生活を営めるようになるまで切れ目のない支援をすべきであるということで、この3つが被害者支援法の基本理念として定められたところです。

 その上で、国と地方公共団体の責務について、国の責務として書かれていることは、ほとんどすべてが地方公共団体の責務ともなっており、都道府県、市町村に至るまで地方公共団体は犯罪被害者施策を実施する責務を有しております。また、広く国民1人1人の責務及び政府の基本計画策定義務ということが法律に明定されました。

 そして、さらに「犯罪被害者等施策推進会議」が設置されました。これは官房長官を会長といたしまして、関係大臣と有識者から成っております。ここで被害者施策に関する重要事項を審議いたしますとともに、被害者のための施策がどのように実施されているのかということについて、きちんと検証・評価・監視を行うことが、その任務となっております。以上が犯罪被害者等基本法の概要です。

 この基本法が昨年4月に施行となりました。内閣府には私がおります犯罪被害者等施策推進室の前身の準備室が昨年1月にでき、とにかく基本計画をつくらなければいけないということで進めてまいりました。そして、約1年がかりで、昨年の12月に基本計画が閣議決定されたわけです。内閣府は、ご案内のように警察でもなければ、司法機関でもありません。私は警察出身で、今は内閣府におりますが、そもそも犯罪被害者のことなどわからないのです。おそらく地方公共団体のほとんど方、知事部局の方、市町村の方もそうなのかもしれませんが、被害者がどういう状況なのかというそもそものところがまったくわからないのです。内閣府としても手探りの状況で基本計画を策定するという大変重い責務を担いました。

 内閣府は何をしたのかといいますと、これは被害者の声を受けてつくられた基本法なのだから、基本計画の中身についても被害者、あるいは被害者を支援している方の声をしっかり聞こうではないか、その上で計画をまとめようではないかということになりました。そこで、被害者団体、被害者支援団体等、合計70近くの団体からヒアリングを行なったところ、要望、ニーズが1066ほど出てきました。そして、その1066のニーズにつきまして、岡村先生を交えた基本計画の検討会を昨年の4月に立ち上げました。有識者、あるいは関係省庁の局長級の職員に集まっていただき、11回の検討会を開催して、1066のニーズすべてを検討し、258の施策にまとめ上げたという経緯です。

 この基本計画の中身については、重点課題を5つ設定いたしております。ひとつ目は、「損害回復、経済的支援等への取組」です。当然のことながら、一家の大黒柱の方が亡くなられたような場合は、その家族は本当に困窮に陥るわけであり、あるいは病気、けがのために職場を失ってしまうなど、被害者の方はそのような立場に置かれるわけであります。そういった経済的な問題をどう支援していくのかということです。加害者から損害賠償が得られる場合もあるかもしれませんが、凶悪犯の場合はまずほとんど考えられないとなると、やはり国がもう少しきちんと何かすべきであろうということです。

 先ほどもありましたように、昭和55年に「犯罪被害者等給付金支給法」ができ、逐次その中身も拡充されてきているわけであります。現在、ご遺族の方には最高で1575万円、それから後遺障害が残られた方には最高で約1800万円の一時金が給付されることとなっております。しかし、これでは必ずしも被害者の方の救済には十分ではないのではないかということで、「損害回復、経済支援への取組」がひとつ目の重点課題とされております。

 2つ目は、被害者の方は当然のことながら精神的・肉体的に大きなダメージを受けるわけであり、そういったダメージをどう回復するのかということです。メンタルな面でいいますと、例えばPTSD(心的外傷後ストレス障害)などに関しまして、必ずしも十分なカウンセリングが受けられないのではないか、あるいは加害者が出所してきたときにストーカー等でまた再被害にあうのではないか、これをどうやって防いでくれるのかという声もありました。そういった「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」が2つ目の重点課題です。

 3つ目の重点課題は、「刑事手続への関与拡充への取組」です。極端な言い方をすると、今までの刑事裁判において被害者は被告人を有罪にするための、いわば証拠物のような取り扱いになっていました。それでは被害者の声が刑事手続きに十分に反映されないのではないかということで、この関与拡充への取り組みをどう進めていくのか、あるいは裁判の進行状況がよくわからない、情報が全然入らないといったことにも、もっと取り組んでもらいたいという声もありました。

 4つ目は、被害者の方が立ち直るためには、国、地方公共団体、あるいは民間団体の方々による支援が必要です。しかし、その支援団体にしろ、あるいは国や地方公共団体の取り組みにしろ、まだ十分ではなく、立ち遅れているところがあるわけです。したがって、「支援等のための体制整備への取組」ということが、4つ目の重点課題とされております。

 最後の5つ目の重点課題は、「国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組」です。被害者のための施策を推進していく上ではこれが一番大事なのではないかということです。岡村先生も言っておられましたが、被害者になって初めて、「被害者というのはこんな立場になるのか」ということがわかるわけであり、実は被害者になってからでは遅いわけです。そのような被害者の置かれた状況、あるいはその被害者の方がさらに二次的な被害を受けないために、自分たちとして何ができるのかということを広く国民一人ひとりに理解してもらい、協力してもらうことがこの犯罪被害者施策の推進にとっては大変重要であると考えております。

 そして、この5つの重点課題に沿いまして、258の被害者施策が基本計画に網羅されました。そして、この258の施策のうち約8割については、政府によって直ちに実施することになっております。残りの2割については、宿題として残されており、それぞれ1年以内、2年以内、あるいは3年以内と期限を示しました。例えば、経済的支援の検討であれば、2年以内に被害者に対する経済的支援を手厚くする方向で検討して、結論をまとめなさいということに基本計画ではなっております。

 そういうことで、基本計画の策定からすでに1年近くたち、8割は直ちに実施されました。それから1年以内の期限付きという施策が14件ほどあったと思うのですが、合わせて9割近くの施策はなんらかの形で実施をされております。しかし、例えば、地方公共団体の担当者の方を集めて、「これは国が行う施策だから、被害者の方にこういうことがないように、こういうことをきちんとしてくれ」という指示をするわけですが、会議で指示されたことが本当に一線の現場の地方公共団体の人に伝わって、被害者の方が相談に行ったときにきちんと対応してもらえるかとなると、まだ時間もかかるでしょうし、浸透するまでにかなりの努力を要するのではないかと私は考えております。そのへんも、ぜひ被害者の皆さんの声も聞かせていただきながら、検証・評価に努めてまいりたいと考えております。

 基本計画ができて1年近くたつわけですが、この間にも政府としても全力で取り組んでおりまして、主な施策の進捗状況について説明させていただきたいと思います。

 まずひとつは、1つ目の重点課題のである「損害回復、経済的支援等への取組」ということで、犯罪被害者への給付制度は逐次拡充されていると申し上げましたが、実は今年の4月からさらに充実されております。今までは犯罪被害者の給付金は、遺族に対する給付と後遺障害で障害者となった場合の給付の2種類しかなかったのですが、4年前の改正で、大きなけがをした場合に保険診療の自己負担分を国が面倒を見るという「重傷病給付金」という制度ができました。したがって、犯罪によってけがをされた方は、現在は無料で医療を受けられることになっているはずです。その無料となる重傷病給付の範囲は、これまで1週間以上入院していないとダメだったものが、3日以上の入院でいいということになりました。あるいはDVの関係者の方から要望が出ていたのですが、これまでは親族間で犯罪が行われたような場合は、給付金は出ませんでした。それを、例えば裁判所からDVの関係で接近禁止命令などが出ていることがありますが、そういった裁判所の命令が出ているような一定の場合に限っては給付金の給付ができると拡大されています。

 2つ目に警察庁においては今年度の新規の予算措置がなされ、性犯罪の場合の緊急避妊料、あるいは初診料や診断書料について、予算措置が行われました。ただ、これは都道府県警察に補助金が出ているわけなので、各都道府県できちんと予算化しないと、この補助金が生きてこないわけであり、全県にはまだまだ行き渡っていないのではないかと懸念しております。

 3つ目には、被害者の方が自分の家が現場になって住めなくなる、あるいは賃借料が払えなくなってどうしても家を出ざるを得ないというケースがあります。そのようなケースに備えて、国土交通省では公営住宅へ被害者の方が優先入居できるようなガイドラインをつくりました。これは去年の暮れごろ、各県に通知を行なったところです。

 2つ目の重点課題の「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」ということですが、被害者の方が裁判所や検察庁に呼び出されて、証言をしたり事情聴取をされたりすることがあります。そのときには加害者も呼ばれている可能性が非常に高いわけです。そうすると同じ待合室で顔も見たくない加害者と顔を合わせることは大変な苦痛であり、現在は検察庁、裁判所におきまして被害者専用の待合室を順次整備しています。また、そういう待合室が整備されていない所でも、事前にご連絡があれば、きちんと待てるような場所を用意することになっております。

 また、メンタルなケアは大変重要ですが、今年診療報酬の改定が行われ、その中でPTSDの診断のために、CAPS(PTSD臨床診断面接尺度)という1時間半くらいかかる検査方法があるらしいのですが、そのCAPSという検査が新たに保険適用になり、実費負担をしなくてもできるようになりました。
 5つ目の重点課題の「国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組」ということで、実はこの被害者週間もその一番大きなイベントの一環ですが、もうひとつ大きなことといたしましては、先週の火曜日に閣議決定をいたしまして、国会に「犯罪被害者白書」というものをご報告させていただいております。内閣府のパネル展示のところには見本が置いてありますので、ぜひ手に取っていただければと思います。中には説明申し上げたようなことがすべて書いてありますので、よろしくお願いをしたいと思います。

 それから、この被害者週間のイベントとして、今日はここで中央大会を開催しておりますが、一昨日は秋田県で開催し、私も行ってまいりました。水曜日は神奈川県大会、金曜日が大阪大会ということになっておりますので、もしそこに住んでおられる方おられましたら、ぜひ参加を呼び掛けていただければと思います。

 4つ目の重点課題の「支援等のための体制整備への取組」を飛ばしたのですが、支援体制の整備の民間団体に対する援助のところでの一部活動費については、これも警察のほうで支援ネットワーク関係の団体に対して、新たに活動費の補助のようなことも始めているわけです。当面はやはり都道府県や市町村、地方公共団体の取り組みが大変大事ではないかと考えております。

 今年の3月に、都道府県、あるいは政令指定都市の「犯罪被害者等施策主管課室長会議」を開催しまして、知事部局に犯罪被害者施策の担当窓口を設置してくださいとお願いをしました。警察には昔からあるのですが、知事部局にもぜひ設置してくださいとお願いしました。警察、検察、裁判所という司法機関だけで被害者の問題や支援は完結できません。カウンセリング、あるいはその後の福祉、医療、あるいは住宅の問題などすべて行政機関がからんでくるところです。

 行政機関にはそのようなカウンセリングについても、能力あるスタッフの方がいらっしゃるわけです。ですから、ぜひ窓口を設けて、できれば被害者の方が相談に行ったときに対応できるような総合相談窓口のようなものをつくってほしい、被害者担当ですというところをつくってくださいということをお願いしました。そして、夏までには、知事部局と政令指定都市については、ほぼ担当の部局が定まったところです。まだまだこれからでありまして、やはり一番身近な自治体である都道府県の下の市町村がきちんとした対応ができるようになることが大事ではないかと思っており、これからの大きな課題だと思っております。

 地方公共団体で何をすればいいのだろうという話もありましたが、実は今、財務省のほうへ予算要求をしております。こういうことをすればどうでしょうかという、手引書を内閣府でつくり、配ろうではないかということで、予算要求をしているところです。

 それから、大変大きな宿題が4番と5番で2つ残っております。まず4番では、先ほどから出ております2つ目の「被害者が刑事裁判に直接関与できる制度」です。岡村先生の講演にも出てきた、いわゆる附帯私訴や損害賠償命令のように被害者の方が、加害者がお金を払わないからといって損害賠償訴訟を起こすというのは大変な負担になり、ほとんど返ってこないという問題もあるのです。いずれにしても刑事裁判で有罪になったときに、一緒に民事上の損害賠償も命令できる、あるいは刑事訴追と同時に附帯的に私訴が提起できるなど諸外国にはそのような制度を設けているところがあるわけです。そういった制度については、我が国にふさわしい方法を検討しなさいというように基本計画でなっており、これらについては今年9月6日に法制審議会へ諮問がなされました。現在、鋭意検討がなされているところと聞き及んでおります。

 この諮問の3つ目にある「公判記録の閲覧、謄写の範囲拡大」ですが、これは正当な理由があるときは、被害者の方は公判記録を閲覧、謄写できるとなっているのですが、別に理由はいらないのではないか、被害者の方であれば公判記録を見ることができるようにしたらどうかということで、諮問しております。

 4つ目の「犯罪被害者等に関する情報の保護」ということでは、起訴状の朗読がどうしても刑事裁判には必要です。そうすると、例えば性犯罪の被害者の方は、その氏名を公判廷で読まれるということですが、刑事裁判は公開ですから、誰でも傍聴できます。そのような二次的被害を受けてしまうということで、運用でも一部されておりますが、法律的に被害者が望まないようなときには氏名を読まなくていいようにしてはどうかということで諮問がなされております。

 5つ目の「民事訴訟におけるビデオリンク等の措置の導入」についてですが、刑事訴訟におけるビデオリンクについてはすでに実現をしており、加害者と顔を合わせずに証言ができる制度ができております。これを民事の損害賠償を提起したときにも、ビデオリンク、あるいはついたて(スクリーン)ができるように、これは民事訴訟法の改正になるのでしょうか、法制審議会へはそのようなことが諮問されております。先ほど法務大臣のご挨拶にもありましたように、できるものから、できるだけ早く被害者のために法制化をしていきたいということであります。

 それから5番ですが、内閣府では3つの検討会を開催しております。今年4月に立ち上げまして、基本計画ができてから2年以内に結論を得なさいということで、被害者の方も交えて、有識者の方や関係省庁の職員も入り、どうすれば被害者のニーズに応えられる施策が実現できるだろうかということで検討を行なっております。

 1つ目が「経済的支援に関する検討会」ということで、先ほど申しましたように、現状よりも手厚くするということを前提として、経済的支援制度のあるべき姿を検討してくださいということです。一番問題になることはなんといっても財源であり、財源をどこに求めるのかということになります。この他にも損害賠償債務を国で立て替え払いしたらどうだというような話もあり、その是非を検討しなさいということです。あるいは損害賠償をするときの費用を国が補償したらどうかというような話もあります。そういったことについて検討を行なっている、あるいはこれから行う予定であります。来年の春ごろには中間報告を取りまとめ、パブリックコメントなどにかけて国民の方からの意見も募集し、来年末までに結論を得たいと考えております。

 この経済的支援の中では、テロ事件のようなとき、例えば、9.11の後にはアメリカでは特別立法が行われ、被害者に対するかなり手厚い補償が行われております。ロンドンの地下鉄テロ事件のときにも、政府と市と民間だったと思いますが、迅速に基金がつくられ、その基金から通常の犯罪被害者補償とは異なる補償がなされております。したがって、テロのような場合には、日本でも何か特別な扱いをする必要があるのではないかというご意見もありました。これも鋭意検討をすることとしております。

 2つ目の検討会は「支援のための連携に関する検討会」です。被害者の方が二次的な被害を受けられるのは、どこかの窓口に行くとたらい回しにされて、たらい回しにされた揚げ句に「私は実はこういう事件のこういう被害者で、今までこういう所で相談したけどダメでこっちへ来ました」という話を何回もしなければいけません。支援する側の連携がまったくできていないのではないかという意見がありました。この連携については、どの機関やどの団体を基点としても、被害者に情報提供が行われ、また支援等がまさに途切れなく継続的に行われるための体制といったものをどのようにしてつくっていくのかということが非常に大きな問題です。実はこの検討会で、関連すると思われる全国の7000近くの団体にアンケート調査を取り、どのような団体がどのくらい連携しているのかという調査して、その実態を踏まえた上であるべき姿を探っていこうということになっております。

 そういう支援をするためには、コーディネーターと呼んでおりますが、やはり人材が必要だろうということです。1人の被害者の方に継続的にいろいろな機関を紹介したり、継続的に相談にのるようにします。コーディネーターには刑事訴訟、刑法の知識も必要でしょうし、カウンセリングや医療体制などすべてわかってなければいけません。そして、もちろん被害者の方の心情もよくわかる人が必要ではないかということです。その方を今後どうやって育成していくのかが問題です。育成するためには当然研修が必要でありますし、民間のコーディネーターですから、何か資格をつくってはどうかという意見もあります。これにつきましても今後検討を行なっていくこととしております。

 3つ目の検討会は「民間団体への援助に関する検討会」です。これも民間の団体に対して、財政援助を現状よりも手厚くするということを前提に検討しております。この援助の実態も実はあまりよく把握ができておらず、国と地方公共団体について調査を行なったりしています。現状を踏まえた上で、援助団体となる民間団体、援助するにふさわしい民間団体というのはどういうものがあるのかを把握しなければいけませんし、あるいは国が直接そのような民間団体の、いわゆる管理部門のようなところで人件費を出すことはなかなか難しい話であります。被害者のための活動をやっているので、その活動費を補助することは可能ですが、難しい問題がありますので、どういう事務を補助の対称にするのか、言うまでもなく、その財源をどこから持ってくるのかということにつきまして、鋭意検討を行なっているところです。

 この3つの検討会は来年の末までにはなんとか結論をまとめて、今よりも1歩も2歩も被害者のためになる施策となるようにしてまいりたいと考えております。いずれにしましても、まだ始まったばかりであります。昨日は支援ネットワークや被害者団体の方の集まりがあり、アンケートをとられていました。そのときも、そういう支援がまだ不十分だというご意見が多かったです。しかし、来年、検討会の結果が出て、ますます支援の体制や経済支援が強まった後では犯罪被害者の方の状況が変わっていなければおかしいです。もっと満足度が高くなるようにしなければいけないと思っております。

 岡村先生の講演にもありましたように、そういった被害者の置かれた苦しい状況というものを、国民1人1人が理解することで、被害者のために、あるいは被害を防止するために、自分でも何かしたいという方が1人でも多く出てくることを願っているところであります。今後とも一層のご協力とご支援をよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

パネルディスカッション

「これからの犯罪被害者等施策について」
コーディネーター:
久保 潔(元読売新聞東京本社論説副委員長)

パネリスト:
岡村 勲(全国犯罪被害者の会代表幹事)
中島 聡美(国立精神・神経センター精神保健研究所、成人精神保健部犯罪被害者等支援研究室長)
番 敦子(弁護士)
山上 晧(東京医科歯科大学難治疾患研究所教授)
和田 義広(杉並区区民生活部管理課長)
荒木 二郎(内閣府犯罪被害者等施策推進室長)

(久保)

 久保でございます。本日は、「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会のパネルディスカッションのコーディネーターという大役を仰せつかりました。非力ではございますが、一生懸命進めてまいりますのでどうかよろしくお願いいたします。

 本日のテーマは「これからの犯罪被害者等施策について」ということです。先ほど来、内閣府の荒木室長からお話がありましたように、昨年4月に施行されました「犯罪被害者等基本法」、そしてそれを受けて閣議決定されました「犯罪被害者等基本計画」は単に犯罪被害者、その関係者だけではなく、我々国民が待ち望んだものであったとも思います。

 基本法、あるいは基本計画の中には優れた考え方がたくさん盛り込まれており、それをキーワード風にいくつか申し上げますと、まず何と言いましても画期的なのは、犯罪被害者が個人の尊厳にふさわしい処遇を受ける権利として保障されていることが明記されていることだろうと思います。そして、その支援は犯罪被害が回復されるまで途切れることなく行われる、あるいは犯罪被害者がどこに駆け込んでも、つまり、どの関係機関や団体を起点にしても必要な支援を受けられることです。そして、今日の犯罪被害者は明日の我が身であるということで国民に理解と協力を呼び掛けていくなど非常に優れた考え方がたくさん盛り込まれています。しかし、いくら優れた考え方であっても、その運用が適切でなければ文字どおり絵に描いた餅になると思いますし、正直申し上げて、そのような考え方や施策が国民の隅々にまで浸透しているということはまだまだ言いづらいと思います。

 そこで、本日は犯罪被害者に最も身近なテーマであります、「民間被害者団体の役割」「地方自治体の役割」「国民の理解の増進」という身近な3つのテーマに絞り、議論を深めてまいりたいと思います。いずれも犯罪被害者対策の成功を左右する要とも言えるテーマだろうと思います。そして、途中にはパネラーの皆様方に対する質問コーナーも設けてありますので、手を挙げてご質問いただければと思います。

 それでは、早速議事に入りたいと思いますが、ここにご登壇の皆様は犯罪被害者等基本法の基礎を築かれた、いわば先駆者とも言われる方々であり、それぞれの分野で長い取り組みのある方々ですので、先ほどご講演いただきました荒木室長と岡村先生を除いた、4人の方々に自己紹介を兼ねて、犯罪被害者等基本法への思いや日ごろの取り組みについてお話いただければと思います。それでは、中島先生からよろしくお願いします。


(中島)

 国立精神・神経センター精神保健研究所で室長をしております中島と申します。本日はよろしくお願いいたします。私は精神科医師ですが、実はこの10月1日に精神保健研究所で犯罪被害者等支援研究室というセクションがつくられ、そちらの室長を拝命いたしましたので、この犯罪被害者等基本法との成立にあいまって非常に責任を感じている次第です。私自身は、約10年前に民間の犯罪被害者支援団体の設立とその運営等にかかわってきており、被害者の方やご遺族の方のカウンセリング、ボランティアの方の養成等にずっとかかわってきた次第です。

 約10年前というと、ちょうど阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件があった後なのですが、当時の日本の中では犯罪被害者支援ということも本当になじみがなく、精神医学の分野では、PTSDを、今では一般の方も知っていますが、精神科医でさえもあまり認知していないような状況でした。ですから、そのときと比べると本当に隔世の感があると思っております。当時は何も知識がなかったものですから、アメリカなどの犯罪被害者支援の団体や、そこにかかわっていらっしゃるドクターの方のお話を伺いに行ったとき、法律があって、その法律に基づいて普及がなされ、支援の取り組みがなされていることはとても重要なことだということを感じました。そして、いつか日本にもこのような法律ができるといいのにと思っていましたが、それが実現されてとてもうれしく思います。

 PTSDに関しては、精神科の中でもその概念が定着してきましたが、その治療はまだ十分に普及しておらず、皆さんがどこでも治療を受けられる状況にはなっていません。今までの犯罪被害者における精神的回復とは、現場のノウハウを積み重ねて、「これがいいんじゃないか」ということで一生懸命やってきた段階だったのですが、これからは「本当にこれが有効だ」と、皆様に役に立つ治療とはどういうものなのかという研究もさらに積み重ねていき、本当にきめ細かい対応をしていく段階に入ったのではないかと感じております。私自身は研究職という立場なので、そういった立場からもこれから推進していきたいと考えております。本日はよろしくお願いします。


(番)

 皆様こんにちは。弁護士の番と申します。私は日本弁護士連合会(日弁連)の犯罪被害者支援委員会の副委員長兼事務局長を務めておりまして、業務も特に女性が被害者の事件、例えば、性被害事件、セクシャルハラスメント、ドメスティックバイオレンスというものを扱っております。仕事も活動も何もかもすべて被害者問題と共にというような状況です。

 日弁連の活動を考えますと、3~4年ぐらい前は犯罪被害者支援委員会は皆熱く活動しておりましたが、日弁連内ではマイナーな存在で、「どうぞお好きに」というような風潮でした。しかし、岡村先生たちの本当に熱意あるお働きでいろいろな進展があり、現在は法制度等の議論をはじめ非常に注目されております。そして、日弁連内の犯罪被害者支援委員会は非常に注目される存在となり、若手弁護士がたくさん入ってきてさらに熱心に活動しております。現在の私たちの活動を申し上げますと、日弁連内の活動としては、支援弁護士の態勢を拡充しようとしております。支援弁護士の体制の拡充とは、できるだけ多くの被害者の方に弁護士が付いて、適切に法的支援ができる体制を整えたいということです。

 以前、自民党でこの被害者問題が話し合われ始めたころ、上川議員に「日弁連はいろいろ言うけれども、自分たちの支援体制はどうなのか教えてほしい」と言われて、調査しましたところ、私たちとしては実態はこのくらいのものだと思いましたが、上川さんからは「この程度ですか」と笑われてしまった記憶があります。それ以降、支援体制の拡充を一生懸命に行い、現在はすべての単位会に支援委員会が設置され、過半数の単位会で専用相談窓口があるという状況にまできました。私たちとしてはかなり進歩したと思いますが、皆さんは「まだそんなものか」とおっしゃるかもしれません。

 そこで、二次被害を与えずに適正な法的支援を行う弁護士をたくさん増やすために、私たち日弁連が中心となりまして、弁護士の研修を進めております。年1回サテライト研修を行い、また、中島先生にもご出演いただきましたが、研修ビデオも作成して全単位会に送付をしたりしております。

 例えば、調査によれば刑事和解があまり利用されていないという結果が出ております。刑事和解を周知徹底するということが基本計画でも出ておりますが、この理由は被害者に弁護士が付く割合が少ないということだと思います。弁護人から刑事和解しましょうというケースは考えられないわけであり、被害者が被害者の権利を前提とした施策をきちんと活用するためには、やはり弁護士の適切な支援が必要です。ただ、弁護士と言うと、「お金がかかる」と皆さんはすぐにおっしゃいますが、このような弁護士の支援活動に対しては、法律扶助協会が「犯罪被害者法律援助」という制度をつくっており、来年4月以降は扶助協会がなくなりますので、日弁連から日本司法支援センターに委託するというスキームで、現在検討しております。この制度がぜひ公費による弁護士選任制度に移行し、被害者の方にも弁護士がついて、いつでもすぐに法的なアドバイスをし、一緒に活動することができるようになれば、基本計画の258の施策のうち、特に法的な施策に関しては、被害者の方の権利をより伸長する形で進められるのではないかと思っております。

 私自身は、現在内閣府の、先ほどお話がありました民間団体への援助に関する検討会の構成員をしておりますし、法制審議会では日弁連推薦委員として出ております。日弁連はなかなか刑事司法について頑迷なところがありますが、一応私は自由に発言して良いということなので、被害者の方のためによりよい施策をと思って発言しております。今日はよろしくお願いいたします。


(久保)

 どうもありがとうございました。それでは、山上先生お願いいたします。


(山上)

 私は民間被害者援助団体の連合体である特定非営利法人全国被害者支援ネットワークの理事長も務めております。14年前に被害者支援の活動を始め、8年前に全国8団体で連帯して、全国被害者支援ネットワークをつくって活動を続けてきました。
 当初は被害者の支援といっても、理解も関心を持ってくれる方は本当に少なく、困難な時代が続きましたが、私たち自身がその支援の中で、先ほど岡村先生がおっしゃられたような悲惨な状況をたくさん見聞きし、それが放置されている社会はおかしいということで、そのことを伝え、また被害者の方たちにも一緒に行動していただいて、活動を続ける中でこのような時代を迎えることができたわけです。長い道のりのようにも思いますが、振り返ると感慨もひとしおです。私たちの活動の内容をスライドでご紹介させていただきます。

 私たちの全国被害者支援ネットワークは、6年前に8つの団体で立ち上がりました。そのときには全国バラバラだったので、連帯・協力して被害者支援の質を上げなければいけない、しっかり研修・教育をして、そして被害者の方たちとも連帯するという目標を持って組織をつくりました。1998年の8団体から始まって、現在では40都道府県42団体が加盟する全国組織になりました。ただし、被害者支援の内容では、組織がまだまだ弱体でありますので、十分なものができているとは思いません。

 これは、私たちのネットワークに関連のある歴史を紹介するものです。国による、ひとつの重要な施策として、1980年の「犯罪被害者等給付金支給法」の制定があります。その基には、先ほど岡村先生がご紹介された市瀬さんや大谷先生、あるいは三菱重工ビル爆破事件などでの犠牲があって、その上で初めてできたものです。この給付制度が非常に大きな貢献をしたことは事実ですが、支給の額や対象が限られており、そこで十分に支援されるのはごく一部の方に限られていたわけです。
 私たちの活動の原点となったのは、1991年の「犯給法(犯罪被害者等給付金支給法)制定10周年記念シンポジウム」です。私がその前年に、アメリカの被害者支援の実情を見て、日本でもそういうものが必要ではないかとシンポジウムでお話ししましたが、それに対する反響はあまりありませんでした。

 そのときに、会場からある遺族の方が発言を求められました。そして、ご自身がアメリカで受けた支援の経験を基に、「日本でもぜひその活動を始めてほしい」と言われました。それに応える形で、私たちは支援の活動を始めました。

 始めてみてすぐに、岡村先生がおっしゃられたような悲惨な状況を次々と見聞きました。同じ社会の一員によって人権を蹂躙され、放置されている、その現状を改めなければならないということを強く感じたものです。
 そして、1996年に警察庁が「犯罪被害者対策要綱」を策定して、警察が本来業務として被害者対策を位置付けて私たちを支援してくれました。その支援を受けて全国に支援組織を設立し、1998年に全国被害者支援ネットワークを設立して、そしてその翌年に「犯罪被害者の権利宣言」を発表しました。

 これは最初基本法の制定を目指して動き出したのですが、すぐに基本法制定というのは難しかったので、まずは犯罪被害者の権利を宣言し、これを国民に理解してもらおうということで行なったものです。

 国の施策がなかなか動き出しませんでしたので、2003年に先ほど触れた1991年のシンポジウム開催日「10月3日」を記念して、「犯罪被害者支援の日」と定め、全国でキャンペーンを広げました。

 「犯罪被害者支援の日中央大会」では、被害者団体の皆さんと一緒に行動し、街頭行進等も行い、そうやって働き掛ける中で基本法の動きができて、それが制定につながったということです。私たちの支援活動は、最初は電話相談という形から始まり、最近は直接的な援助をしていますが、まだ不十分な段階にとどまっております。その内容については、後ほど民間援助団体での活動についてのお話がありますので、そこで紹介させていただきます。


(久保)

 どうもありがとうございました。それでは、杉並区の和田課長よろしくお願いいたします。


(和田)

 杉並区の区民生活部管理課長の和田です。どうぞ今日はよろしくお願いいたします。これまでの先駆者の皆さんとは違い、私は本年4月に杉並区で犯罪被害者支援事業開始と同時に現職に就任しました。それ以前は、教育、高齢者福祉、あるいは地域振興などの仕事を担当してまいりました。担当する以前に、杉並区ではこの犯罪被害者支援につきまして、条例の制定などさまざまな機会でこの施策を進めていくことについて位置付けがされておりましたので、一応の理解はしていたつもりなのですが、実際に担当してみて、その知識、認識がいかに浅かったかと日々思い知らされているところで、改めて責任の重さを痛感しているところです。他の自治体の皆様に続いていただけるように、基礎的自治体として、しっかりとした取り組みを進めてまいりたいと考えております。

 基本法への思い、あるいは日ごろの取り組み、感じることということですが、私からは杉並区がこの施策に取り組んだ経過、現在の取り組みの状況、まだ就任して8カ月ですが、このような取り組みの中で見えてきた課題について簡単にお話をさせていただければと思います。

 経過でございますが、平成15年に議会で犯罪被害者支援のための条例の制定、総合相談窓口の設置が必要ではないかという意見が出されました。区としましては、「優しさを忘れず、ともに生きるまちをつくる」ことを目標としておりましたので、基礎的自治体の役割としてはこのような施策に取り組むことは当然だということで、直ちに犯罪被害者支援に取り組む方針を固めました。

 平成16年10月に専門家検討会を設置して、条例制定に向けた検討を開始し、平成17年4月の専門家の検討会からの答申を受けて、内部の関係部署での検討、あるいは条例制定のためのパブリックコメント、区民意見提出手続きなどを踏まえて、平成17年10月に条例を制定しました。条例制定に合わせて、専管組織を設け、常勤の担当職員を1名置いたという経緯です。今年4月には、さらに2名の非常勤相談員を置き、3名態勢で総合相談窓口を開始しました。

 支援内容については皆様のお手元の封筒の中にリーフレットが入れてありますので詳しくは申し上げません。ご覧いただきたいと思います。支援内容については、総合支援窓口ということで、電話・面接等の相談に応じて、助言や情報提供、各種手続きの手伝い、あるいは関係部署・機関との連携調整を行うとともに、必要に応じて警察や裁判所、あるいは病院等への付き添いを行なっています。

 具体的支援策としては3つあります。ひとつ目は一時的な住居の提供です。2つ目は家事支援、あるいは育児支援のためにヘルパー派遣を。生活支援サービスといいます。3つ目は被害を受けたことが原因で応急に資金が必要な場合についての資金貸付です。この3本の柱を支援サービスとして直接位置付けて、事業を行なっているところです。

 また、平成19年度からは地域の方に直接犯罪被害者の支援をしていただくことを制度として構築していこうということで、現在は区の中にある地域大学などで、そのようなボランティアを育成しているところです。

 実績としては、事業開始からこれまで56件のご相談がありました。具体的な支援としては、応急資金の貸付や警察等への付き添い、あるいは病院等の付き添いといったことを行なっています。相談していただいた方からの感謝の言葉、それから他の自治体の住民の方からもご相談があり、私たちは基礎的自治体としてこのような事業を始めたことに手応えを感じているところです。また、先ほど申し上げた犯罪被害者支援員の養成講座にも多くの区民の方の参加をいただいておりまして、今後地域でそのような支援体制を構築していく足掛かり、第一歩が築けたのかなと感じているところです。

 今後の課題ですが、これまで私たちが自治体でやってきたサービスは、保育などでもそうですが、対象者をしっかり押さえて、その対象者にきちんとサービスの中身を説明して利用を勧奨していくというものでした。しかし、この事業については、そういったことが不可能といいますか、なじまない分野ですので、まずサービスにどのように結び付けるかということが課題です。これから人権週間でも実施するのですが、機会をとらえて周知する、あるいはその地域の民生員活動などのさまざまな地域団体をも含めて、よりきめ細かな情報提供、制度周知を行い、犯罪被害者をこの支援サービスの利用につなげていくことが必要ではないかと考えています。

 また、地域での犯罪被害者支援の理解の向上、あるいは支援の輪づくりといったことについても、犯罪被害者支援員の養成・活動を通じて、これを足掛かりに取り組んでいかなければいけないと思います。さらに関係機関との連携についても具体的な事例を通じて一歩一歩積み上げる中で、実効性のある連携の仕組みをつくっていかければいけないと考えています。

 日ごろ感じていることですが、犯罪の被害を受けられた方、あるいはその家族の方がその傷を癒やして、平穏な生活を回復する場はやはり地域なのです。その地域で理解を進めるために、さまざまな取り組みをしていく中で、教育の場を通じての取り組みをどう進めるかといったことも含めて、義務教育は市町村がしているわけですから、国で全体的な統一な方策を出すとしても、考えていかなければいけないのかなと思います。

 それから、実際の仕事をしていく上では、先ほど荒木室長のほうからコーディネーターの話が出ましたが、せっかく育った職員の専門性を通常の人事異動の中でどのように確保していくかということです。例えば、3年、5年で異動するという仕組みを区市町村は大体持っていると思うのですが、そのような人事異動のあり方を今後どのようにしていくのかということが、現実に取り組んだ中で出てきた課題ととらえています。私からは以上です。


(久保)

 どうもありがとうございました。杉並区の取り組みは、住民に一番身近な単位自治体の先駆的な取り組みというところに大きな意義があると思うのですが、この問題につきましては、2番目のテーマであります「地方自治体の役割」というところで、また詳しく中身に踏み込んで伺いたいと思います。

 それでは、最初のテーマであります、「民間被害者団体の役割」というテーマに入っていきたいと思います。今の皆様のお話にありましたように犯罪被害者対策というと、どちらかといえば、民主導で進んできたと思います。それが、山上先生のお話にもありましたように、今や40都道府県の42団体に及ぶような全国支援ネットワークができております。このような民間の団体の役割についてどう考えるのかということを議論していきたいと思いますが、それでは中島先生、最初に口火を切っていただけますでしょうか。


(中島)

 私のほうからは、最初に被害者支援とは何かということと、その中で民間被害者支援団体の果たす役割について総論的な話をさせていただきたいと思います。

 「被害者支援」という言葉はよく使われますが、実際にどういうものを被害者支援と指しているかということです。これは別に明確な、学問的な定義があるわけではないのですが、大きく分けると3つあると私は考えています。まず、被害によって直接に障害されているものに対する支援です。例えば、身体のけがや精神的な傷など、障害された部分の回復を支援することで、被害者支援は非常に大きなことだと思います。
 2つ目は、犯罪被害にあうと、今まで全く経験しなかった新たなことに直面します。例えば、警察で事情聴取を受けたり、裁判で証言をしたり、傍聴に行ったりするような刑事司法にかかわります。あるいは補償金の申請などは、それまでの人生でほとんどかかわったことがないわけであり、精神的にダメージを受けている被害者やご遺族の方が直面するのはとても大変なことです。ですから、これを実際行うための手続きのお手伝いをするということがあると思います。
 3つ目は、直接的なものではないのですが、犯罪被害に出あうと、社会に対する不信感、あるいは他の人に対する不信感がつのり、自分はとても孤立している存在だと感じる状況がたくさんあります。被害者支援を行う人たちと接触することは、社会で人間的なつながりといったものを回復するための大きな力になると思うのです。ですから、間接的ではありますが、社会や他者との信頼やつながりを取り戻す支援を行うことも被害者支援の大きな仕事だと考えております。
 では具体的にどのように支援をするのかということです。例えば、被害直後にその方の状態を把握して、必要な助言をしたり、安全を確保したり、今後どうしたらいいかという話をするなど、いわゆる危機介入と呼ばれているようなことがあると思います。その他には精神的な支援もあります。刑事司法について情報を提供したり、病院に行く付き添いをしたり、あるいは裁判に傍聴に行くときのお子さんの世話をどうしようというような問題もあります。落ち込んでしまって家族のケアができない、自分のことをするのが困難なときなど、そのような生活支援があると思います。
 また、自助グループの方の設立を手伝うこともあります。これらのことは実際に欧米で被害者支援団体が行なっておりますし、現在多くの日本の民間被害者団体が目指しているようなことだと思います。

 それでは、民間の被害者支援団体がその中でどのような役割を果たしたらいいのかということですが、特に基本法が成立したことによって、新たにいろいろな役割の重要性が増したと私は考えています。基本法以前にはそれほどかかわりのなかった地方自治体や、医療でも救急医療などが、これからは関心を持ってかかわるようになります。そこではまだノウハウがありませんので、そういったものに対するノウハウの提供があると思います。また、被害者とかかわりのあったところもさらにいろいろな制度が充実します。被害者の利用できる制度の増加、先ほど荒木室長からもその給付制度の拡充という話がありましたが、そのようなものも増えるわけです。
 啓発が進むと、被害者の方はそれを利用したいというニーズがどんどん高まっていきます。こういったものを被害者の方がどこで情報を手に入れて利用したらいいのかというときに、あちこちの窓口に行って聞くことや、あるいはインターネットで情報を収集するのはとても大変なことだと思います。被害者の方どこか1カ所に行けば、少なくともどんなところで何がなされているかという情報が集約できることはとても重要なことだと思います。

 民間被害者支援団体は、直接的に先ほどお話ししたような付き添い、補助の申請、生活支援とカウンセリングということもあるのですが、これだけいろいろなものが出てくる中で最も重要なのは、連携の要になるということではないかと考えています。
 例えば、医療です。医療の現場で被害にあった人が治療を受けた後、どうしたらいいかというときに、ここに相談すればその後の情報が得られるかもしれないという場所が重要です。逆にそこからその精神科医療の窓口につなぐということもあります。また、刑事司法に関して情報を得ることもできるし、刑事司法関係者の人たちが被害者の人の生活の問題をどうしようと思ったときに民間被害者支援団体に連絡をします。また、地方自治体では、福祉的なサービスを行う、でもそこでは法律的な支援はできないのでどうしようといったときに民間被害者支援団体と連絡を取ります。このような要として、情報の発信と集約を行い、被害者の方がそこへ行けば大体のことを把握できるという被害者支援のプロフェッショナルとしての役割が、民間の被害者支援団体の方には非常に必要になってくる部分であると思います。これから基本法の中では、そのようなものがスムーズに行われるという形で検討会もできておりますので、推進されていくのではないかと考えております。以上です。


(久保)

 どうもありがとうございました。被害者支援と一言で申しましても、お話をいただきましたように、あらゆるいろいろな分野があるということで、それをいかに有効に活用して、組み合わせていくかという意味では、そこに民間団体の存在意義があるのだろうと思います。全国被害者支援ネットワークの山上先生、何かありますか。


(山上)

 スライドをお願いします。私は全国被害者支援ネットワークの活動を中心に、これからの問題をお話していきたいと思います。

 ここに示すのは、内閣府の連携に関する検討会に出された図ですが、その中でも民間援助団体は、中心的な大きな役割を果たすことが期待されています。欧米諸国でも、民間援助団体としていろいろなものがありますが、被害者支援のプロのスタッフが中心にいて、たくさんのボランティアスタッフが協力するような形での民間援助団体が、多くの国で中心的な役割を果たしておりますので、それにならって描かれたものだと思います。

 日本の民間援助団体の支援活動の内容は、最初は電話相談、あるいは電話相談を通じて必要と判断された方への面接相談ということから始まりました。しかし、犯罪被害者の本当のニーズ、一番大変な時期のニーズにきちんと対応できなければ、支援の実は上がらないということがわかってきました。そこで、「早期直接的支援」という、事件直後から直接お宅を訪ね、現場を訪ね、あるいは病院に付き添い、警察に付き添うというような支援の仕方が、重要視されるようになってきております。

 この早期直接的支援とは、事件直後の危機介入や、付き添い、情報の提供、生活の支援までさまざまですが、日本では従来ほとんどできていませんでした。それが、平成13年の犯罪被害者等給付金支給法の改正に伴って、公安委員会が「犯罪被害者等早期援助団体」を指定する制度ができ、現在わたしたちは各団体がその指定団体となり、警察の情報提供を受けて早期に動けるような体制づくりを目指しているわけです。

 私たちが目指すことは、犯罪被害者の方がいつでも、どこでも必要な支援を受けられる社会の実現です。そのために、私たちはできれば全都道府県に早く組織を設立して、支援サービスの質的向上を図りたいと思います。また、その全加盟団体が犯罪被害者等早期援助団体の指定を受けて、警察の情報を得て早期に援助活動ができるようにしたい。そして被害者の中にはより長期のいろいろな問題をかかえ、いろいろな段階で支援の必要な方がいらっしゃいますので、そういう方も支えられるような体制を取りたいと考えています。

 そのような目標を実現するためには、組織の財政基盤の強化が必要です。私たちの加盟各団体には、まだ常勤のスタッフがいないところも多く、無給のボランティアで支えられるものには限りがあります。責任ある支援サービスを提供するには、やはり財政基盤の確立が必要で、しっかりと国、あるいは地方公共団体によって支えていただかないといけないと思います。
 地域社会において被害者支援に利用可能な社会資源というのはたくさんありますし、またその場で直ちに使えなくても、協力し、工夫すれば利用可能になるものもたくさんあるのです。そのようなものを生かして連携できるような協力関係を関連機関・団体と一緒に培っていく必要があり、今後ご協力をいただけることを期待しております。
 それから、援助スタッフの研修・教育体制を充実することが必要ですので、それができるような環境条件を整えるため、資金的な援助をいただきたいと思います。また、各加盟団体の研修・教育の充実とともに本部機能を高めていく必要もあります。本部が全体を見渡して、全国どこでも必要な支援がきちんとできるようにするということは、容易なことではありません。支援の質を落とさずに向上させて、全国的にレベルを一致させていく努力ができるところとして、できれば「研修研究センター」を併設するような、ネットワーク本部を作らせていただきたいと思います。

 従来の全国被害者支援ネットワークの活動の概要、これらら求められる財政援助内容資金の流れなどを示すものです。これからは「犯罪被害者基金」のようなものをつくっていただき、私たち全国被害者支援ネットワーク組織の基盤をしっかり確立させていただいて、活動をあらゆる領域で充実させていただきたいと思っております。
 ようやく基本計画ができるところまで来ましたが、これは犯罪被害者の支援、被害者のための社会の改革としては、ようやく4合目か5合目に来たに過ぎないのだろうと私は思います。計画ができたとしても、それがどのようなものとして動き出すのか、それが実際に被害者のところにどのような形で届くのか。本当に犯罪被害者等基本法の基本理念に応えるような形で、途切れなく必要な支援を提供できるのか、これからチェックしていかなければいけませんし、支援の質を問われる時代を迎えているのです。私たちの全国被害者支援ネットワークの活動もそうですが、自ら質を問い、厳しくその質を高めていく努力が必要になってくると思います。


(久保)

 ありがとうございました。それでは、先ほどご講演いただきました全国犯罪被害者の会(あすの会)代表幹事であります岡村先生にお話を伺いたいと思います。


(岡村)

 最初にお断りを申し上げなければなりません。先ほどの私の話の中で、「昨日、犯罪被害者週間をあすの会が行った」と言いましたが、休憩時間に会員から「とんでもない、25日、一昨日じゃないか」と注意がありました。「犯罪被害者週間の幕開けを待ちに待って、先頭を切ってやったのに、何を昨日と言うのだ、痴呆が進んだのか」とおしかりを受けました。誠にそのとおりであり、25日に満を持して始めたわけですが、改めてここで訂正申し上げて、ご迷惑を掛けた会員にお詫び申し上げます。
 今、民間団体の役割をいうことでお話がありましたが、私はむしろ被害者団体あすの会から見た、民間支援団体に対する注文ということで申し上げたいと思っております。

 私たちは先ほど申しましたように、犯罪被害者が刑事司法の中で全く無視され、消耗品として使い捨てになっていることがどれだけ被害者を苦しめているかということで、全国的にこれを是正するための署名運動を行いました。知らない場所でもいろいろな手を尽くして道路の使用許可を取ったり、机を借りてきて並べたり、いろいろな苦労をしながら、雪の日も雨の日も暑い日も北海道から沖縄まで50カ所で街頭署名を行いました。そのときに、支援ネットワークが手伝ってくれたなら、もっと楽だったと思うのです。手伝ってくれたところは宮城支援センターです。こちらは旗を持って手伝ってくれました。静岡支援センターも佐賀支援センターも手伝ってくれたかもしれませんが、殆どの支援センターは何もしてくれませんでした。大阪教育大学附属池田小学校の事件のときには、100万人以上の署名が集まりました。これは全国のPTAがあっという間に集めました。もし支援ネットワークが手伝ってくれていたなら、署名が100万人、300万人を突破したのではないかと思うのですが、私たちの力では55万7000人しかいきませんでした。ここが非常に残念です。今、お話を聞きますと個々的ないろいろな支援を行っておられ、これはこれで大切なことですが、被害者が苦しんでいる、その根本にメスを入れるところもやっていただきたいと思います。

 ドイツなどでは被害者運動で、これは「白い輪」という民間団体が被害者の権利の実現のために大いに貢献してくれています。被害者自身が先頭に立ってやっているのではありません。アメリカのNOVA(National Organization for Victim Assistance 全米被害者援助機構)も同じです。フランスでも同じです。悲しいかな、日本では被害者自身が先頭に立たなければ、被害者自身が声を上げなければ、けいじしほうのもんだい、あるいはほしょうのもんだい犯罪被害者基本法も刑事司法の権利、あるいは補償の充実もできなかったという悲しい現実があるわけです。せっかく支援するネットワークがあるのなら、やってもらいたかったなと私は思っております。

 それから、日弁連の番先生は支援委員会でがんばっておられます。日弁連も何かというと、「一生懸命被害者問題を取り組んできた」と言いますが、実際は私たちの運動の足を引っ張るばかりでした。どれだけ日弁連に妨害されたかわかりません。日弁連は、加害者がかわいくて、かわいくてしかたがないのです。その証拠に特別会費を会員から徴収して、当番弁護士制度という制度にそのお金で加害者の弁護をしています。被害者のためには、1円も使いません。私は被害者ですが、加害者を弁護するために私の会費まで使ってしまっているのです。

 私は総会で質問をして、「会費を値上げするなら、被害者のためにも金を使え」と言ったのですが、「検討する」と言って何もしてくれません。そして、公訴参加にも附帯私訴にも反対です。犯罪被害者基本法にも反対の会長談話を出しました。このようなことをしていて、「犯罪被害者を支援しています」とは言ってほしくありません。そのような被害者団体があるということです。この犯罪被害者週間とは啓発週間ですから、私は啓発のために申し上げている次第です。被害者の団体として、まずはこのような注文を申し上げたいです。時間が3分しかないということで、だいぶ恨み節を申しましたので終わります。


(久保)

 今、岡村先生から厳しいご注文がありましたが、番先生は日弁連の犯罪被害者支援委員会の副委員長をなさっておりますので、ストレートな反論は結構ですので、日ごろの取り組みを言っていただければと思います。


(番)

 私は日弁連と言いましても、会議では日弁連内でも法制審議会でもいつも刑事関係委員会の委員とけんかしているほうなので、岡村先生のおっしゃることは十分わかります。このような被害者の声があるということは、日弁連において本当に頭に入れていなければいけないことだと常々思っております。

 民間支援団体の関係ですが、被害者支援は本当に長期に多方面にわたるものであり、ニーズもさまざまです。ですから、民間支援団体の果たす役割は非常に大きいと思っております。弁護士の立場でその関係を考えますと、例えば、先ほど岡村先生から話題に出ました当番弁護士制度は、例えば重大事件の場合は担当者が新聞を見て、要請がなくても弁護士を派遣するという制度も含んでいます。これを委員会派遣といいます。殺人事件のような重大事件が起きた場合に、すぐに被害者にアクセスできないかということは常々議論しています。ただ、そのときの被害者の状況を考えると、「弁護士です」と言って被害者にアクセスすることはやはり違うのではないかという意見があります。また、そもそも情報がありません。被害者情報がないので、したくてもできないというのが現実です。

 それを考えると、例えば、早期援助団体は被害直後からの危機介入が可能です。被害者情報を得ることができるわけです。その被害者情報を得て、弁護士会などに連絡をしていただいて、それで支援弁護士が赴くということができないかと最近私は思っています。被害直後にメディアスクラムにあい、メディアに囲まれて非常に困るという場合には、弁護士が行くのが一番効果的ではないかと考えております。しかし、被害直後の早期に弁護士は被害者となかなか接触ができません。被害者にたどり着くまでに時間がかかることには、いつももどかしさを感じております。例えば、メディアからいろいろな情報が出てきて、「何でこのような報道が出るのだろう」と思い、弁護士としては問題ではないかと思いながらも被害者にアクセスできないというもどかしさを感じているわけです。私の場合は、東京なので被害者支援都民センターに連絡して、そのときに都民センターも介入を開始しており、一緒にやりましょうと連携して支援が始まったケースもあります。

 このように、私は、民間支援の団体には私たちのような法律や医療などのスペシャルな支援につなげていく要としての役割を期待しております。そのためには、財政が潤沢にあって、質を向上させ、多くの団体が早期援助団体になるという流れを進めていっていただければと思います。

 また、先ほどの中島先生の図にも出てきましたが、日本司法支援センターは、基本法、基本計画で司法におけるコーディネーター的な役割が期待されております。まだ先は遠いですが、日本司法支援センターと民間団体との連携がうまくいって、被害者のための情報を集約する能力がアップすることが非常に求められるのではないかと思います。そのようなことから、今後とも民間支援団体の役割はとても大きいと思いますので、私も応援していきたいと思っております。


(久保)

 どうもありがとうございました。時間も迫ってまいりましたが、犯罪被害者といいますのは、いつでも、どこでも、望む場所で、個々の事情やニーズに応じて、支援を受けられることが基本ではなかろうかと思います。そういう意味では、民間支援団体は一番身近にいて、きめ細かな支援が可能であろうかと思います。皆さんのお話にもありましたように、ほとんどがボランティアで支えられているということで、財政の問題、人材の育成の問題、あるいは皆さん孤立しているので、どのように他の団体・グループと連携していくのかなどいろいろな問題をかかえています。また、地域格差もあり、非常に手厚いところと、過疎のところがあります。そのような問題を集約すれば、行政と民間団体の役割をどうやって分担していくのか、どうやってうまく組み合わせていくのかということだろうと思います。先ほどもありましたように、内閣府に設置されました検討会においては、民間団体への支援のあり方、援助のあり方ということを検討しておりますので、そこで議論が深まることを期待するのと同時に、先生方が取り組んでおられる運動が、もっと並行して地域社会に広がっていく、根付いていくということを期待したいと思います。

 それでは、2番目のテーマの「地方自治体の役割」に進みたいと思います。ご承知のように、犯罪被害者等基本法では、第4条から第7条にかけまして、国と地方公共団体の責務や、関係団体も含めた連携のあり方をうたっております。そして、第11条から第23条にかけては、実施すべき具体的な施策を掲げている構造になっていますが、犯罪被害者の居場所というのは、繰り返すまでもありませんが、地域社会の中にあるわけです。先ほど杉並区の和田課長もおっしゃいましたように、地域社会でどのようにしてニーズに応えていくのかということですが、生活の場で尊重され、配慮されていないと被害回復ができないという側面もあります。そういうことも含めまして、まず地方公共団体の役割について、全国的にはどのような状況になっているのかを、まずは内閣府の荒木室長に総論的にお話しいただければと思います。


(荒木)

 実態の前に、先ほどコーディネーターのほうから法律の話がありました。お手元にパンフレットが配ってあると思いますが、20ページを開いていただきますと、犯罪被害者等基本法の全文が載っています。この20ページの右側の上のほうには、第5条の「地方公共団体の責務」があり、「地方公共団体は、基本理念にのっとり、地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する」とうたわれています。それから、その下の第2章の「基本的施策」では、コーディネーターからお話がありましたように、第11条から第23条まで施策が並んでいるのですが、この主語をご覧いただきたいと思います。すべて「国及び地方公共団体は」ということで、国と地方公共団体が損害回復にしろ、精神的・身体的被害の回復にしろ、あらゆる施策について地方公共団体もその施策を講じる責務を負っているということを、まずご確認いただきたいと思います。

 国は既に推進会議を設けて基本計画もつくり、まだ不十分ですが、やっとその滑り出しをしているわけですが、基調講演でも申し上げましたように、地方公共団体のほうは、ようやく相談窓口が整備されたところです。それも都道府県と政令指定都市レベルであり、その下の市町村になると、窓口もないところがほとんどなのではないかと思います。しかし、市町村といえども地方公共団体ですから、犯罪被害者施策に関して、施策を講ずる責務があるわけです。今後は被害者の方が市町村の相談窓口などに行かれたときに、福祉の人でもどなたでも結構ですが、被害者の方が行って、「犯罪被害者の問題なんて知らない」という冷たい扱いをする人が出ないようにすることがまずは必要かなと思っております。

 都道府県レベルにおきましても、施策の窓口はできていますが、体制も不十分ですし、被害者専用の総合相談窓口があるのは、まだ数県にとどまっております。行財政改革の折で難しいところですが、ぜひとも法律で定められた施策が身近な自治体レベルで行われないと、国だけではうまくいかないだろうと考えております。ですから、内閣府としては会議ももちろん開き、現在は自治体の皆さんとメルマガを発行しております。先進的な各自治体の施策や、各省庁で被害者施策を検討しておりますので、そういった情報を各都道府県の窓口の担当者のところにお届けするようにしております。そのようなことを通じて、より一層地方公共団体の活動が活発になるようにしていきたいと考えております。


(久保)

 ありがとうございました。それでは、先ほど自己紹介のところで大枠をお話しいただきました、杉並区の取り組みについて、これは非常に住民の身近なところで取り組んでおられるということで、その中身についてご紹介いただければと思います。和田さんよろしくお願いいたします。


(和田)

 コーディネーターの方から施策の中身というお話でしたが、中身につきましては、先ほどリーフレットでご覧いただければとお話ししたとおりで、そのような中身で具体的には進めておりますので、それをご覧いただければと思います。

 私からは自治体の役割といった、このテーマに基づいて少し思っていることをお話させていただければと思いますがよろしいでしょうか。


(久保)

 どうぞ。


(和田)

 荒木室長のほうから区市町村に相談窓口を設けて、相談に行ったときに区市町村が「これはわからん」ということでは困るというようなお話があったわけですが、先ほどの基本法の話の中でもそれぞれの施策に取り組むとありました。地方公共団体では、それぞれの分野ごとでそれぞれの施策を進めており、都道府県と区市町村の役割、それぞれの窓口をどうするかといったこともにらみながら、今後は施策を構築していく必要があるのだろうと思います。また、先ほどの山上先生と中島先生のお話を聞いて、基礎的自治体が早期支援の危機介入や日常生活などまで入っていけるかということを考えながら、区市町村がどのような形でその役割を果たしていくのか少しお話させていただければと思います。

 ご存じのとおり、住民にとって最も身近な基礎的自治体である区市町村は、福祉、保健、教育、住宅、危機管理、各種相談というような住民福祉の向上を図り、誰もが安心して、豊かに暮らせる地域社会の形成に向けて取り組んでいます。一方、犯罪被害者、その家族の方は、それぞれの住み慣れた地域で、犯罪に起因した心の傷を癒やして、平穏な生活を回復したいと願っていると思います。このようなことから考えると、犯罪被害者の立ち直りを支え、平穏な生活を回復するための基礎的なサービスを行なっている区市町村は犯罪被害者等の生活全般に直接かかわり、個々の実情に応じて迅速かつきめ細かな支援を提供することができる存在であり、その果たすべき役割は非常に大きいのではないかと思っています。

 そのような期待に応えて、犯罪被害者やその家族が暮らしている地域で、各地域の実情に合わせた、犯罪被害者支援の施策の総合的・体系的な推進や区民理解の促進、地域でどのような支援体制を構築するかといったことへの取り組み、あわせて関係機関・団体とも連携協力を図りながら、住み慣れた地域で平穏で安全な生活のできる地域社会を形成していくということが区市町村の役割であると考えています。少なくとも、私たちには、生活の場の地域の中で人と人のつながりをどう確保して、二次的被害を防ぎながら必要とするサービスを総合的に提供し、犯罪被害者の生活の平穏、あるいは立ち直りを支えていくかということに取り組んでいくことが求められていると思っています。以上です。


(久保)

 ありがとうございました。基礎的サービスを担う役割は極めて重要だろうと思います。そのあたりに関して、山上先生ご意見はありますか。


(山上)

 杉並区の取り組みである一時住居、家事の手伝い、あるいは一時的な資金給付というのは私たち民間援助団体にとっては支援の活動をしながら、いつも困っていた問題ですので、地方自治体でこのような問題をしっかり取り組んでくれることは、すばらしいことだと本当に期待したいと思います。

 やはり犯罪被害者の方々は暮らしている地域社会の中で、そこにある社会資源を生かしてしっかり支えるというのが一番効率もよく、本人たちにとってもよい点が多いものです。このような地域における支援は杉並区だけではなく、全国に広がってほしいと思います。

 民間援助団体との関係で少し思うのですが、海外では民間援助団体の在り方として、例えばイギリスのように統一した組織で全国に同じような小さな支部を持って、均一の早期の援助をするという国もありますが、アメリカのように地域の実情に応じて、それぞれの形態の支援組織がその地域に必要な形態を取って、ニーズに応じた体制をしているというような形があります。イギリスの場合は、均一の支援サービスはできるが、小さい組織がそういう援助ができることは、かえって地域の側の活動の取り組みを後らせてしまうという指摘をされたことがあります。今の杉並区のお話を聞きますと、民間団体の支援活動も、同じレベルでの仕事ではなく、地域の人たちの指導ができたり、あるいは週7日で毎日活動するようなプロの集団の部分を含める民間援助団体に成長していく必要があるのだろうかと考えています。これからの方向は、ぜひ地域での支援をできるだけ充実して、足りないところはそれぞれ民間の団体が形態を変えながら補えると感じています。


(久保)

 ありがとうございました。中島先生何かありますか。


(中島)

 今、杉並区の取り組み等を伺っていて、地方自治体というのはその被害者がこれからずっと住んでいく地域ですから、そこで被害者支援の取り組みが行われることはとても重要なことだと思います。人間は最終的に生活していくことがとても大きなことであり、例えば警察であれ、検察であれ、それは生活とかかわっているわけではないと思います。その生活の上の支援というものをよりきめ細かくということは市町村単位がとても重要なのではないかと思います。

 公共団体が被害者の方を支援することは、心理学的に非常に大きな意味があると私は考えています。犯罪被害にあうということは、その社会に対する安全感や安心感が失われる体験をしていらっしゃるわけです。社会が自分を守ってくれなかったという大きな挫折体験を味わうわけですが、そこから回復する上では、犯罪被害にあったけれども回復のために、社会、つまり国や地方自治体や公共団体など公的なものが自分たちの支えになってくれることは、安全感の回復ということではとても大きな意味を持っていると感じています。したがって、このような法律ができたということと、その法律に照らし合わせて地方自治体レベルまできめ細かく被害者の方を支えられることは、心理学的にも本当に重要な意味を持っているのではないかと思います。

 国と地方自治体との関係では、医療の面で言うならば、例えば、地方自治体がきめ細かいPTSDの治療を行うような医療機関を育成しようとしたときに、現在、日本に導入されているセラピーは1回に1時間半~2時間かかるので、普通の保険診療では全然対応できません。しかし、国がそのような被害者の方に補助制度をつくることや、保険上の優遇措置をつくるような形で制度的に保障することになると、地方自治体でもきめ細かい具体的な支援ができるのではないかと思います。そういった意味で、地方自治体の行うことを国がより行いやすくする形でバックアップしていくという連携した形で今後進んでいけばいいのではないかと思っています。


(久保)

 どうもありがとうございました。先ほど荒木室長からもありましたように、地方自治体の役割というのは、やはり国との役割の分担を踏まえて、その地域の状況に合った取り組みということだろうと思います。ご承知のように、地域には捜査機関、司法機関、医療福祉、社会教育、市民団体などいろいろな団体・グループがありますが、それぞれがそれぞれのテーマ、課題に応じて取り組んでいるというのが今の実態だろうと思います。しかし、これが一歩間違って、被害者側から見ますと、それぞれの団体がバラバラに取り組んでいるようなことにもなるわけで、このままでは被害者を制度や組織の谷間に落としてしまう危険もはらんでいるわけです。それを埋めるのは、一番住民に身近な存在である地方自治体が地域ネットワークの要に座り、今申し上げましたような、いろいろな団体を結んで、途切れのないネットワークをつくるということだろうと思います。これは、言うはやすくで、これからの大きな課題であろうと思います。

 それでは、2つテーマが終わりましたので、10分間ほど質問コーナーということで、皆さんのお話を伺っていて、パネラーに聞いてみたいことがありましたら質問をお受けします。その前に、既に2つほど質問がきていますので、それからまず処理していきたいと思います。

 ひとつは先ほどからも出ておりますが、「各県市町村ではどこの窓口が犯罪被害者を担当しているのかよくわからない。担当を知るにはどうすればいいのか」という質問です、これは非常に重要であり、素朴な質問だろうと思いますが、この点について内閣府の荒木室長にお答え願えますか。


(荒木)

 先ほど申し上げましたように、現在、各都道府県には犯罪被害者の施策担当窓口ができており、大体は安全・安心まちづくりというようなところが担当していたり、人権関係の部局が担当しているところなどバラバラではありますが、施策の窓口はできています。

 市町村レベルになると、まだ十分に把握しておりませんが、杉並区や日野市など一部を除いて、まだほとんどの市町村でないのではなかろうかと考えております。杉並区では条例などもつくっておられますし、県レベルで被害者条例をつくっている宮城県など、いろいろとあります。その他にも安全・安心まちづくり条例の中で被害者支援の項目を入れているところや、被害者の給付金を出すことだけを目的にした条例をつくっておられる市町村もあります。いずれにしても、全国的に見ればこれからはそれをどうして拡げていくのかというところであろうかと思っています。


(久保)

 ありがとうございました。実際に取り組んでおられる和田課長は何かこの点についてご意見はありますか。


(和田)

 次のテーマのところで少し触れさせていただこうかと思いましたが、理解を進めるといった意味、それから先ほどお話があったとおり、社会不信、人間不信という状況に置かれてきたことから考えていくと、区市町村に窓口が置かれていくことは重要です。コーディネーターがおっしゃったように、早期援助団体も含めて全体的に関係団体が核になってコーディネートしていくことになっていくと、その人事、組織、職員育成などいろいろな課題はありますが、メッセージを送るという意味では窓口ができていくことは非常に大切なことではないかと思っています。


(久保)

 ありがとうございました。2つ目の質問は、「犯罪被害者に対する精神科の医療への理解や、あるいは診断や治療が大変遅れているのではないか。医師をはじめ、医療従事者にその犯罪被害者心理の理解を進めていく努力はどうなっているのか」というご質問です。中島先生に最初にお答え願えますでしょうか。


(中島)

 確かにご指摘のとおり遅れているのですが、私から基本計画ができたことによる厚生労働省の取り組みをご説明したいと思います。特に重要なのは、PTSD等の重度の精神的な疾患を被った方へ対応できる医師の要請ということになります。実は以前から厚生省のほうでPTSD対策にかかわる専門家の養成研修会はあったのですが、犯罪被害者に特化しているわけではないということで、今年度からアドバンスドコースという、さらに高度の研修を受けるコースができました。そこでPTSDの認知行動療法の研修等が行われるようになっているということと、また、私たちのセンターで今年の1月に精神科医の方に犯罪被害者メンタルケア研修ということで、被害者に特化した研修が行われています。

 また、平成17年度から厚生労働省の研究班で、「犯罪被害者の精神健康の実態と回復」ということで、武蔵野大学の小西聖子先生が主任になって研究が進められており、それにしたがって、精神保健福祉センターのガイドラインのようなものも検討しています。

 荒木室長からもお話があったのですが、医療保険でPTSDの診断については、例えば特に犯罪被害者等給付金を申請するときや、裁判にかかるときに、PTSDを正確に診断する必要があります。その正確に診断するための構造化面接というものがあり、この保険点数が適用になりましたので、精神科医の人が非常にしやすくなったということが挙げられるのではないかと思います。まだ不十分ですが、取りあえずはそのような形で取り組みが始まっているということです。


(久保)

 ありがとうございました。それでは、時間の都合で3つか4つぐらいご質問があればいただきたいと思います。挙手をお願いします。最初にどなたに聞きたいか、お名前をお願いします。


(質問者A)

 主に中島先生と番先生にお答え願いたいと思います。犯罪被害者としていくつか要望があります。私は重度の障害者なのですが、私は去年の11月に郵便局にいましたら、突然男が私の車いすのそばに寄ってきて、いきなり包丁を突き付けました。包丁を突き付けて、郵便局にお金を要求したのです。私にけがはありませんでしたし、命に別条はありませんでした。しかし、その後に人を見ると何かされるのではないかという恐怖感が残りました。そして、精神科の診察を受けたほうがいいのではないかと思い、精神科を受診したのです。たった1人で受診したのですが、そのときに誰か付き添いがいればよかったなと今になって思います。診察室の中で医師にとてもひどいことを言われて、とても考えられないような診断を受けて、精神的にひどく傷ついて、今では犯人よりもその医師を憎んでいるくらいです。その診断が取り消されない限り、私の記憶から事件の記憶はなくならないと思います。

 精神科の診察の後、私はもう医療を信じられなくなり、精神的な障害を持ちながらずっとそのままでいます。ときどき興奮状態がやってきて、「ワーッ」と大声を上げたくなります。私は犯罪被害者なのに、なぜ精神科であのようなひどいことを言われたのだろうと思っているのですが、私の悩みを相談できるところはどこにもありません。私の住んでいる区の保健課に相談しても、「そんなことは相談に乗れない。都に相談したら」と言われ、東京都の医療関係に電話すると、「医者を訴えるしかない」と言われました。

 そして、そのような精神状態の中で事件の刑事裁判が始まりました。私には障害があるので、自分で弁護士を探しに行くことはできませんでした。1人で担当検事と連絡を取り合い、犯人と犯人の弁護士にどう対応するか自分で考えながら毎回毎回裁判に臨みました。事件が起きたときに、警察で犯人にすぐに弁護士が付くのならば、被害者にもすぐに弁護士を付けてもらいたいと思います。


(久保)

 よろしいですか。


(質問者A)

 本当に私の苦しみをどこにぶつけたらいいのかと思って、今日はここに来ました。ぜひ答えてください。


(久保)

 わかりました。今のご質問は、最初に心ない対応による二次被害の問題、それから、自分の被害を回復するためにどこに相談をすればよいのかという2つの大きな課題があろうかと思います。最初に中島先生、精神的な二次被害についてお話ください。


(中島)

 今、お話を伺って本当に胸が痛むというか、残念ながらまだ医療機関でそのような二次被害を受けてしまう現実があることは、とても残念なことだと思っています。その問題を解決するためには、もちろんその医師に対する教育や訓練がとても重要です。今おっしゃった方の苦しみをどのように回復したらいいかということですが、そのような精神的な苦しみに関して、相談できる総合的な窓口というのは、現在きちんと設置されていない状況です。しかし、民間の被害者支援団体がひとつお手伝いできることかなと考えております。私たちをはじめ、いくつかの精神科医が民間の被害者支援団体と連携しておりますので、そういった窓口を通していただくことにより、お話を伺いながらその問題に取り組むという形が取れるのではないかと思います。

 ただ、今までそういった情報がきちんと提供されていなかったり、そういった支援を受けることができない状況に置かれたということは私たちの支援がまだまだ足りない点だなと思っておりますので、今のお話を伺って精神科医の研修も含めてきちんと検討していきたいと思います。


(久保)

 ありがとうございました。それでは番先生、「どこに相談をすればいいのか」ということについてお願いします。


(番)

 私の依頼者から、同じようなお話を聞いたことがあります。刑事裁判のときに、「弁護士はいらないのか」と言ったら、「いらない」と言われて、ずっと1人で傍聴をし、PTSDで相当ひどい状況なのに、自分でいろいろやらざるを得なかったということでした。そして、ますますその被害が重くなり、二次被害もあったということで、その依頼者の方のお話も思い出しながら伺いました。おひとりでやることは本当に大変だったと思います。

 東京にお住まいであればなおさら、電話は全国からでもできますが、東京では弁護士会が月曜から金曜まで無料の電話相談を受けております。そこに1度お電話していただければと思います。

 また、中島先生がおっしゃったように、支援団体から弁護士につながるという場合もあります。司法支援センターがコールセンターで犯罪被害者専門の電話を置いておりますので、そこから被害者の電話相談や、あるいは精通した弁護士の紹介もしております。そういうところにご相談いただいて、今後例えば、その医者に対する謝罪を求めることや、あるいは損害賠償を求めるなどということをお考えであれば、そういう解決の方法を取りたいというお気持があるのならば、弁護士にご相談になってはいかがかと思います。費用については、先ほど申しましたように、ご本人が費用負担しなくても大丈夫な制度がありますのでご相談になってみてください。


(久保)

 ありがとうございました。よろしいでしょうか。


(質問者A)

 長い間、そのような相談するところはないと聞かされていたので。


(久保)

 今、番先生がおっしゃったようなところには行かれましたか?


(質問者A)

 まだ私の中では弁護士に相談するというところまで決心がついていないのです。電話では真剣に相談に乗ってくれないのではないかという不安があるのです。私はなかなか外に出掛けられないので、今まで電話であちこちに相談したのですが、どこもまともに相談に乗ってくれるところがなかったのです。信頼できる弁護士に付きたいのですが、弁護士事務所を訪問するということも私にとっては大変なので、信頼できる弁護士を見つけるということも、私にとって大きな問題です。

 それから、医師については本当に医師への怒りです。本当にどうすればいいのかなと悩んでいます。苦しんでいます。


(久保)

 今、中島先生がお話になったように、いろいろな支援団体グループがありますよね。いきなり法的というには難しい面があることはよくわかります。いろいろな地域の支援団体があることが、あなたにここに行けば、こうなのだということが十分に周知されていなければ本当はおかしいのですが、これから始まるということですね。


(質問者A)

 東京都の「患者の声相談窓口」という機関があります。そこに電話をかけて相談したところ、相談を受ける担当者は医師だったのですが、「そういう問題は裁判に訴えるしかないですよ」としか言わないです。刑事裁判を受けている間は、東京の被害者支援センターの方が裁判に付き添ってくださったのですが、そういう事件の後の医療の問題については対応できないということで誰にも相談できず、もう1年近く苦しんでいます。


(久保)

 わかりました。それでは、もう一度それを踏まえて、番先生お願いします。


(番)

 弁護士に相談するかどうかということですが、弁護士が相談を受けて、必ずしも「すぐ裁判にしましょう」と言うわけではありません。そして、電話ではいいかげんになるということはありません。被害者の相談はまず電話でお話を聞いて、必要であれば面談するということになっておりますので、お電話いただければと思います。


(久保)

 これから、少しやってみてください。


(質問者A)

 障害のある被害者の場合、自治体のほうから障害者の自宅に聞き取りに来たり、相談を受けるなど、そういうことをしてもらいたいです。


(番)

 例えば、ご遺族の場合、こちらから伺っている例もありますので、それはその場合によってきちんと対応できると思います。


(質問者A)

 自治体にもお願いしたいです。相談をしたら、外に出て行けない障害者の場合は自宅に来て話を聞いてもらいたいです。自治体にもそういう対応を望みたいと思います。


(久保)

 和田さん何かありますか。


(和田)

 私たちも総合相談窓口を設置いたしました。まずは一般的には電話でご相談が来ます。その話を伺って、その人の状況に応じて相談に乗る、あるいは支援をするということで進めておりますので、その状況がどうしてもご自宅へというふうなことであれば、そういったことも検討しながら進めるという考えです。


(久保)

 どうもありがとうございました。それでは、このあたりで他の質問に進ませていただきますが、どなたかございますか。最初にご質問の相手のお名前を言ってください。


(質問者B)

 全国交通事故遺族の会の者です。質問がまた繰り返しになってしまうかもしれないのですが、今の問題というのは犯罪被害者支援には一番大切なことです。その入り口のところで、いち早く、どこにアクセスすればいいということをしっかりとやらないと、今のような被害者がたくさん出てしまうのです。結局、あの方もいろいろなところに行って、「そのような相談をするところはない」と言われたのですが、皆様方がそのひとつひとつをしっかりと把握することが大事なのです。

 犯罪被害者週間となり、基本計画というものができましたが、それは上のほうでつくられていて、末端には行っていません。例えば、警察庁について言えば、手引きはつくられていますが、実際の警察署にはその手引きが置かれていないところもたくさんあるのです。そういうことをしっかりと把握して、一番末端の我々被害者が直にあたったところにそういうものがなければ、このような器ができても何も機能しないと思います。そのようなことをしっかりと把握して、これからつくっていっていただきたいと思います。いくら被害者の声を聞いただけで、実際に被害者が行くところでそれが対応なされていなければ、ここまでたどり着かないのです。私たちも実際そういうことがあって、全国交通事故遺族の会という民間団体ようやくたどり着き、そこでいろいろな情報を知ったというのが現状なのです。そういうことをしっかりと把握していただきたいと思います。


(久保)

 ありがとうございました。基本計画には、どの団体・関係機関を起点にしても必要な支援を受けられるというふうにうたってはいますが、現実は第一線、あるいは皆さんに一番身近な部分での浸透、情報の仕分けがまだ不十分だというご意見だと思います。内閣府の荒木室長、何かご意見はありますか。


(荒木)

 おっしゃるとおりでありまして、特に国民の理解の増進ということにもつながるのだろうと思いますが、国にしても、地方公共団体にしても、司法関係者にしても、今出てきた医療、あるいは福祉関係者の方でも、あまり応接が良くない場合があり得ます。

 経済的支援の検討会の中でもいろいろあったのですが、例えば、生活保護をもらっている人が被害者になって給付金が出たら、自動的に生活保護は出ないということで打ち切られそうになったということがありました。生活保護はあらゆる所得を計算して、その事情を勘案して、所得が一定以上ならば打ち切られるわけですが、その説明も何もなく、「ともかく給付金が何百万か出たのだから、もういいだろう」というような感じの対応をしたのです。「その制度としてはそういうことではありません。生活保護は生活保護、給付金は給付金でこういうことになっていますよ」ときちんと説明すればいいと思います。

 もうひとつは、少し昔のお話になるのかもしれませんが、被害者の方が病院に行くと、「これは加害者がいるのだから、保険はききません」と言われた方は何人もいらっしゃると思います。これはその検討会の中で厚生労働省に、「本当にきかないのか。そういう指導をしているのか」と聞くと、「いや、そんなことはない。保険診療はきちんと行われますよ」と言いました。「そういうことを現場の人にきちんと徹底してください」と言い、この間も会議を開いて指導されていました。ただ、そのような指導をして、本当に医療機関の人、すべての医者にそういうことまで伝わっているかというと、またいろいろ様子を見ないとわからないのですが、いずれにしても、政府としてはおっしゃったように国が制度をつくって、この指示をしたからそれで終わりなどということはまったく考えておりません。そのような被害者の心情に思いをいたさないようなことがありましたら、いろいろと対応してまいりたいと考えております。


(久保)

 ありがとうございました。その他の質問はあと1点にしたいと思います。よろしいですか。


(質問者C)

 そもそも慢性疲労症候群という病気を知らない方がいるということもあると思いますが、お医者さん自身が知らないことがあるのです。ですから、医療機関や警察、公共団体の方たちにもう少し理解していただいて、いろいろな給付制度などがあるのでしたら、そういうものを紹介してほしいのです。

 さきほどの方と関連しますが、電話番号が全部違うのです。


(久保)

 書いてある電話番号が。


(質問者C)

 はい。


(久保)

 そうですか。


(質問者C)

 被害者の団体もそうですが、被害者が電話しても「それはうちではない」というようなことを言われて、本当に精神的、肉体的に追い詰められて回復できないので、とても裁判を起こすことはできません。検察庁に行くことすらもできないのです。ですから、ある程度そういうものを統一して、被害者に教えていただきたいと思います。支援団体というものも、私たちはそもそも知りません。


(久保)

 わかりました。先ほどから出ているような、その情報を一元的に受け入れて、解決を図る総合窓口やいろいろな団体があると、その団体間の連携や官民の連携という問題だろうと思うのですが、時間の都合がありますので、簡単にお答えしていただけますか。


(岡村)

 その問題は非常に大きい問題でして、私たちの会でもいつも検討しています。被害者をたらい回しにせずに、どこか1カ所で説明すれば、それがいろいろな部署に通ずるような制度をつくれないだろうかと考えています。例えば、被害者手帳のような物を持っていて、その手帳を示すと、どこか最初にお話ししたところへすぐ通じるなど、あるいはIDカードのような中に情報が入っている物をつくれないだろうかとか考えております。これには管理の問題などいろいろな問題がありますが、たらい回しをどのように防ぐかということは絶えず考えており、そのような提言もしてきました。まだ実現はしておりませんが、そういう方はあなただけでなく、他にもいらっしゃいますので、今後も1カ所で済むような方法を一生懸命考えていきたいと思っております。


(久保)

 ありがとうございました。犯罪被害者等基本法、犯罪被害者等基本計画は、皆さんがご不満になっているところ、たらい回しにしないこと、一元的に解決すること、情報を共有することなど、そういうところを目指しているのは間違いないのですが、まだ始まったばかりで周知されていないというご不満があろうかと思いますが、あきらめないで、今後を期待するということで見守っていただければと思います。

 それでは時間の都合で、3番目のテーマの「国民の理解の増進」に入りますが、荒木室長もおっしゃったように、先ほどの質問はこの問題に入っていると思います。国民の無理解、あるいは医療に携わっている人たちでさえ無理解によって二次的な被害を与えています。被害者の皆さんは、周りに被害のありのままを理解されていないというようなご不満が非常に強いことは我々もよく承知しております。まずそういうことがないように、犯罪被害者の皆さんが地域社会の中で生活していく上で、やはり国民の理解は欠かせないものだろうと思います。その点につきましては、先ほど荒木室長からお話をいただきましたので、何か付け加えはありますか。


(荒木)

 国民の理解の増進を図るために、まさにこのイベントも犯罪被害者週間も行われているわけです。警察は平成8年に要綱をつくって、10年がんばってやっていますが、まだいろいろ問題があるかもしれません。医療関係者、福祉関係者、あるいは住宅問題の担当者になると、まだまだ被害者の問題の所在がわからない方もおられると思います。ですから、ひとつは被害者の方と恒常的に接する可能性がある方、内閣府としてはこの人たちにより一層被害者問題を訴えて理解と協力を、あるいは責務ですからぜひ訴えていきたいと考えています。

 先ほど地方自治体の窓口も大体は都道府県にそろっていると申し上げました。白書の207ページには電話番号は付いていませんが窓口一覧を載せておりますので、ご参考にしていただきたいと思います。

 また、もうひとつの国民の理解と協力というものは、最初のテーマで話が出ていましたが、民間団体の支援が被害者施策の推進にあたっては必要不可欠です。イギリスでもアメリカでもドイツでも、ほとんどボランティアの方がこの被害者支援にあたっておられます。常勤の有給の人はそう多くありません。なぜボランティアが大事かとういと、これはまさに犯罪被害者施策が犯罪被害者の個々の事情に応じて行われなければいけない、そういうフレキシブルな、あるいは場合によっては迅速に行わなければならないということが大命題なのです。

 私は神戸の震災が起きたとき、たまたま神戸の警察に勤めておりました。あれはボランティア元年と言われていますが、例えば、ボランディアの方が避難所の避難民の方に食事を配りました。これをお役所がやろう思えば大変です。入札をかけなければいけないし、税金でしているわけです。その点、ボランティアの方は自分たちで炊き出しをして、温かいご飯とみそ汁を提供できるわけです。だから、私は行政と民間の間にはまさに役割分担というものがあるのだと思います。行政はお金もあるし、組織もあるわけですから行政でしかできないことがもちろんあります。この行政でしなければいけないことをするとともに、私はそれだけでは決して被害者の方の支援が十分にいきわたるとは思えません。

 先ほどの話にも出ていましたが、支援団体のネットワークにしろ、あるいは団体そのものの人的、物的な強化についても、一生懸命検討していますので、前進できるようなことをしたいと思いますが、被害者の方が困っているから、ボランティアをやりたいという人がもっと出てきてほしいと思っております。そういう意味でも国民の理解をもっともっと深めていけたらと考えております。


(久保)

 山上先生、行政との住み分けというか、分担というか、そういう意味での民間支援団体はいろいろなノウハウと知恵をお持ちだろうと思うのですが、そのあたりはいかがですか。


(山上)

 先ほども少し触れましたが、行政がしっかり取り組んでくれれば、民間団体ができることは、通常していることと少し形が変わるかもしれません。事件直後の早期の援助、あるいは先ほど言いましたように、もう少し専門化して、行政の方たちもきちんと教育、研修、指導できる専門家をしっかり育てるという役割が大きくなるかとは思います。しかし、今までの日本の実情から言いますと、杉並区のようなところが全国に広まっていくということは、すぐにできるとは到底思いませんし、地域ではそういうことが将来もできないところがたくさんあると思います。それぞれの地域で民間援助団体も組織を変え、そこに最も必要とされる役割をきちんと果たしていくべきだろうと思います。


(久保)

 ありがとうございました。岡村先生、被害者の会の立場からその国民の理解についてはどのように考えられますか。


(岡村)

 被害者に対する国民の理解は、だいぶ深まってはきましたが、まだ問題はあります。例えば、「あそこはお父さんが殺人の被害にあっている」ということで、縁組がダメになった例もあるわけです。被害者には何にも過失はないのに、そういうふうにとらえられて、縁起が悪いというような目で見られるのです。また、性犯罪の方を見ると、「落ち度があったからだろう」などと言われることがあります。いくら落ち度があるといって、夜に帰っていたからといって、襲ってきたほうが悪いのに、「夜道を歩くからだ」と言って被害者を非難することがあるのです。この好奇と偏見をなくすことが大事だと思っております。

 また、さきほど山上先生が進めていることに注文ばかりつけて恐縮でした。公的に支援をやってくださっていることについてはありがたく思います。敬意は十分に払った上で、なおもその上でいろいろなケースを積み重ね、そこから得られたノウハウで、また国を変えるという大きいところまでやっていただきたいということを申し上げたかったのです。時間がなかったので、文句ばかりで終わってすみませんでした。


(久保)

 いえいえ、大丈夫です。山上先生。


(山上)

 少し付け加えさせていただきたいのは、被害者支援ネットワークも日弁連ほどではないですが大きな組織です。全体の合意を得るところが難しく、自由に動けないときがありうることは申し訳なく思います。ただ、私たちも民間の被害者団体とは、できるだけその意をくんで、一緒に協働してまいりました。昨日も14団体と一緒に大会を開き、その前の日には約100人の方が一緒の宿で交流を持ち、シンポジウムを開いたわけです。

 私がこの「国民の理解の増進」のところで、ぜひ考えてほしいことは、民間の被害者団体へ援助をしてほしいということです。私たちが被害者の実態を知り、支援の必要性を感じたのは、やはり被害者の声を聞き、実態がわかったからです。現在、たくさん育っている被害者団体の方たちはいろいろなところで社会に向けて声を発してくださっているわけですが、それも自分たちがかなりの負担の上でしていることです。ぜひ国がその活動を支えることをしていただきたいと思います。

 また、民間団体もかなりの数のボランティアがいるわけですが、私たちが全国で研修会を開くときは、彼らは自費で旅費を工面して来なければいけません。加害者の側の保護司の研修会では、国から実費が全部出るような状況があるわけです。ボランティアの人がどんどん増えていく中で国民の理解を広げるというような流れをつくってほしいと思います。


(久保)

 ありがとうございました。それでは、国民に一番身近な法律家でいらっしゃる弁護士会ということで、番先生、国民理解についてお願いします。


(番)

 一番良いのは、このような研修会やシンポジウムを開く以上に、教育だと思っています。被害にあって、理不尽に被害者の立場に置かれるということを子どものうちから知ることは、例えば、いじめ問題などの解決にもつながっていくのではないかと、私は楽観主義者なのかもしれませんが、本当にそう思っています。このようなシンポジウムを開いても、関係者の方や興味がある方しか集まらないわけで、その場合には、その方がまた発信していくという作業が必要なのです。

 また、司法関係者については、二次被害の問題が本当に大きく、先ほどもお話がありましたが、そのためにはやはり研修が必要ということで、基本計画の中には法科大学院における研修があがっています。司法試験にその科目がないとなかなか難しいのかと思いますが、私自身はある法科大学院に行きまして、少しの時間ですが話したりもしています。司法研修所も、これも選択科目ですが被害者の問題を取り上げていて、若い法曹の卵は被害者問題に熱心に耳を傾けます。今後は、弁護士もできる限り、被害者の方に二次被害を与えないということを大きなテーマとして頭の中に入れて活動するのではないかと思います。

 刑事弁護に関しても、示談などのときに被害者の方と接するわけですから、このようなことをしてはいけない等というシンポジウムを、刑事弁護の委員会と一緒に私の弁護士会では開きました。そして、研修で二次被害をなくす必要があり、被害者問題について理解を増進させるには、研修を何回も何回も開催することが必要で、日弁連などでも行っていることをお話しました。

 もうひとつ有効なのは、メディアの方との協働だと思います。被害者について、きちんと配慮ができるメディアの方と一緒にいろいろな問題を発信していくことは非常に大きな効果があると思います。私自身はそのようなメディアの方と協働して、今後いろいろな問題について、あるいは被害者の方の声をメディアの方に聞いていただいて、きちんと深めて報道していただくということがとても重要だと思っています。


(久保)

 ありがとうございました。最後に、最近地域社会はバラバラで、人と人のつながりが薄いと言われます。その中で被害者の方々が苦しむケースもあると思うのです。その辺のことについて、地域の一番身近なところで取り組んでいらっしゃる和田課長にお話いただければと思います。


(和田)

 少し重なるかもしれませんが、犯罪被害者やその家族の方が、平穏な生活を回復するために、要は犯罪被害というのは誰にでも起こることで、特別なことではない、先ほどの岡村先生のお話を借りれば、犯罪被害者が被害にあったということで、地域で特別な存在となって、さまざまな制約を受けているということが起こらない地域をつくっていくとことが欠かせないと考えております。そのために、先ほど荒木室長からお話が出ましたが、私たちは条例の第10条の「支援体制の構築」といったところで、「区と協力して犯罪被害者等の支援を行う者を養成する等、地域のおける犯罪被害者等の支援体制を構築するために必要な措置を講ずるものとする」といったような形で、地域でどのようにボランティア活動を広めながら、地域社会にそのような認識をつくっていくかといった取り組みを進めようとしています。また、番先生の教育の場での必要性ということについては、先ほども私が触れたとおりです。

 いろいろな機会を通じて、きめ細かな周知や啓発活動をしていく、あるいは先ほども言ったとおり、全国の区市町村に相談窓口が置かれるといったことを進めながら、根本的、長期的に考えていくと、特に都市化の進展、あるいは核家族化の中で進んだ地域社会の絆や、人間関係の希薄になった部分をどう回復して、ともに生きるまち、人との確かなつながりがあるまちをつくるかということを、時間はかかるかもしれませんが、進めていくことが必要ではないかと思います。私たちは、この条例は、3年経過したときに見直すことになっていますので、現在の取り組みを進めながら、関係機関等のいろいろな取り組みも参考にし、今後の地域での理解につなげていきたいと考えています。


(久保)

 ありがとうございました。基本計画を読んでみますと、「犯罪被害者等」というのは、「我々の隣人であり、我々自身である」と書いてあります。ですから、犯罪被害者の皆さんへの配慮や理解は、単に被害対策というだけではなく、被害者と一緒に生きる健全な社会を再構築しようという試みでもあるわけです。そういう意味では、地域社会の皆さんの理解が非常に欠かせないと思います。

 そろそろ時間がまいりまして、非常につたない司会で大変恐縮ですが、最後に私は司会者として皆さんのご議論を伺いながら感じたことを簡単に申し上げまして、総括に代えさせていただきたいと思います。

 犯罪被害者等基本法の前文には、「安全で安心して暮らせる社会を実現することは、国民すべての願いである」と書いてあります。まさにそのとおりだと思います。我が国の治安は最近やや落ち着いてきたとは申せ、発生件数は昭和期の2倍前後で推移しています。内閣府の世論調査でも、犯罪被害にあう危険が高まっているという回答が8割にも上っているということで、国民の体感治安はなかなか回復しないという面があります。その中で、今回の基本法や基本計画ができたのは必然の流れではなかろうかと思います。これをどのようにして今後生かしていくかということですが、犯罪被害者の方々は生活の場である地域社会の中で配慮され、尊重され、そして支えられてこそ、その平穏さ、被害が回復されます。ご質問にもありましたように、そうしないと私たちの社会というのはなかなか良くなりません。そういう意味では、行政の施策と国民の理解、支援というものは車の両輪だろうと思います。

 ですから、たくさん議論にもありましたように、皆が力を合わせて支え合う健全な社会の構築に向けて、「国の責任だ。地方の責任だ」という前に、やはり皆でその国、地方、あるいはあらゆる団体と連携をして、国民が理解して支えていくことが大事だろうと議論を伺いながら感じました。長くなって恐縮でしたが、この辺でパネルディスカッションを終わらせていただきます。最後に、内閣府の荒木室長にご挨拶をいただければと思います。


(荒木)

 交通事故も含めると年間300万人以上の方が被害にあっているわけです。決して犯罪被害というのは他人事ではありません。そういう意味では、今日ここで、いろいろディスカッションしたことを、いろいろお知り合いの方にお持ち帰りいただき、理解の輪を広げていただきたいと感じております。また、今日は改めて被害者の岡村先生のお話などを聞いて本当に責任を痛感しております。微力を尽くしますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。


(久保)

 どうもありがとうございました。これでパネルディスカッションを終わらせていただきます。どうもご協力をありがとうございました。