11月25日~12月1日は犯罪被害者週間

「犯罪被害者週間」国民のつどい 神奈川大会

議事内容

挨拶

平沢 勝栄(内閣府副大臣)(代読:荒木 二郎(内閣府犯罪被害者等施策推進室長))

 「犯罪被害者週間」国民のつどい神奈川大会開催にあたりまして、一言ご挨拶を申し上げます。本日はお忙しい中、大変多くの皆様にご来場いただき誠にありがとうございます。また、日ごろから政府の犯罪被害者施策の推進について、多大のご支援とご協力を賜っております。心より感謝申し上げる次第であります。
 犯罪被害者の方々は、犯罪によって肉体的、精神的に大変大きな損害を被るのみならず、その後の捜査、公判、報道、あるいは診療等の過程において、関係者の心無い言動等により、いわゆる第二次被害を受けるなどその権利が尊重されてきたとは言い難く、また、十分な支援もなく社会において孤立することを余儀なくされてまいりました。

 このような状況の中で、一昨年の12月、被害者の方の声を受けて、「犯罪被害者等基本法」が成立し、昨年4月から施行となりました。基本法におきましては、被害者は個人としてその尊厳を重んぜられ、その尊厳にふさわしい処遇を受ける権利を有すること。それから、個別の状況に応じた適切な施策が講ぜられるべきこと。さらに、被害者の方が再び平穏な生活を営めるようになるまで、途切れのない支援を実施すること。この3点が法律の基本理念としてうたわれているところであります。

 この基本法を受けまして、政府では、昨年12月、犯罪被害者のための施策の大綱として、「犯罪被害者等基本計画」を閣議決定し、総合的かつ長期的な施策の推進に取り組んでおります。懸案となっております被害者の方の刑事裁判への直接的な関与等につきまして、今年9月、法制審議会へ諮問がなされました。また、経済支援のあるべき姿、連携のネットワーク、民間団体への支援、それぞれ3つの検討会が立ち上がっております。現在、来年末までの提言を目指しまして、鋭意検討が行われております。

 基本計画においては、施策を推進するにあたって、国民の理解の増進と協力の確保ということが重点課題の1つとされております。その一環として、毎年11月25日~12月1日が「犯罪被害者週間」と定められました。この週間中、集中的に啓発行事等を実施することによりまして、被害者の方のおかれている状況や施策の現況等について、国民の方の理解を深めることとしておりました。今年がその記念すべき第1回目になります。
 国民のつどいは被害者週間の中核的な行事として取り組まれているものでありまして、神奈川県では内閣府、神奈川県、神奈川県警察の3者の共催により開催をしております。その他、一昨日は東京で中央大会を開催いたしましたし、地方の大会としては週間の初日に秋田県で、明後日には大阪府で開催されることとなっております。

 神奈川県では、犯罪のない安全・安心まちづくり推進条例の中に、犯罪被害者支援の条文を盛り込むなど、大変先進的な施策が講じられております。また、松沢知事の強力なリーダーシップのもとで、行政と関係機関、団体が連携しながら、積極的に犯罪被害者施策を推進しておられます。
 この神奈川県で、国民のつどいが共催できましたことを大変うれしく思っております。本日は、大澤弁護士の基調講演に続きまして、生命のメッセージ展の鈴木様より基調報告が行われ、その後は被害者の方や専門家の方によりパネルディスカッションが行われます。また、関係機関や団体によるパネル展示もご用意をさせていただきました。これらを通じて、ご来場の皆様に犯罪被害者の現況、施策の進捗状況等について理解を深めていただきますとともに、被害者の生活の平穏を再び取り戻すために、自分自身で何ができるのかということを考えていただくきっかけにしていただければ大変幸いであります。政府では、今後とも被害者の方の声に真摯に耳を傾けながら、政府全体で犯罪被害者施策の推進にあたってまいる所存であります。今後とも、一層のご指導とご支援を心からお願いを申し上げます。

 終わりにあたりまして、本日のつどい開催にご尽力されました関係者の皆様に御礼申し上げ、また、重ねて本日のご来場に感謝申し上げますとともに、ご参加の皆様のますますのご健勝とご多幸を心から祈念申し上げまして挨拶といたします。

挨拶

松沢 成文(神奈川県知事)

 皆様こんにちは。県知事の松沢成文でございます。本日は「犯罪被害者週間」国民のつどい神奈川大会に、このように大勢の皆様にご参加いただきまして誠にありがとうございます。この大会は、内閣府、神奈川県、神奈川県警察の3者の共催でございますが、全国で4カ所の開催の中に私ども神奈川県が選ばれましたことを、私も大変心強く、またうれしく思っているところでございます。

 私たちの神奈川県では、県民生活の安全・安心の確保を県政の最重要課題と位置付けまして、警察官や交番相談員の増員、県職員によるくらし安全指導員の配置など、治安・防犯体制の強化に強力に取り組んでまいりました。また、昨年の4月には、「神奈川県犯罪のない安全・安心まちづくり推進条例」を施行しまして、県民の皆様と警察、行政が一体となって、県民総ぐるみで防犯対策に取り組んでいるところでございます。このような体制強化と県民総ぐるみの運動の結果、昨年の本県の刑法犯の認知件数は前年に比べて約4万件、率にして22%も減少し、減少数、減少率とも47都道府県で第1位になるなど、大きな成果をあげております。

 県では、この治安回復の流れを定着させ、犯罪のない地域社会の実現を目指して、今後とも全力で取り組んでまいる所存でございます。しかしながら、一方で、何の落ち度もなく普通に生活をしている人たちが、ある日突然、凶悪な犯罪や交通事故に巻き込まれ、尊い命を奪われたり、あるいは心や身体に傷を負わされるという悲惨な事件が後を絶ちません。誰もがこのような犯罪の被害者となる可能性を持っているということも残念ながら実情としてございます。

 そこで県では、昨年12月に策定された国の犯罪被害者等基本計画をふまえまして、具体的な支援体制の整備や支援施策について現在検討を進めているところであります。犯罪の被害者やご家族、ご遺族に対して、早い段階から途切れることなく適切な支援を行なっていくためには、司法関係者、行政、警察が連携して取り組むとともに、県民の皆様、お1人お1人のご理解とご協力が欠かせません。本日、お集まりの皆様には、犯罪被害者等がおかれている状況や支援の必要性について一緒に考えていただきたいと存じます。

 最後になりましたが、このつどいの開催にご協力をいただきました関係の皆様に改めて御礼を申し上げますとともに、これを契機として犯罪被害者に対する理解と支援の輪が大きく広がっていくことを祈念いたしまして、私の挨拶とさせていただきます。

挨拶

井上 美昭(神奈川県警察本部長)

 皆さんこんにちは。警察本部長の井上でございます。本日、「犯罪被害者週間」国民のつどい神奈川大会を開催するにあたりまして、お忙しい中お集まりをいただきました皆様に一言ご挨拶を申し上げます。
 県警察では、県民の皆様が安全で安心に暮らせる神奈川県であると実感していただけますよう、犯罪の抑止と検挙に取り組んでいるところであります。その一方で、大変残念なことでありますが、突然の事件や事故に巻き込まれてけがを負い、かけがえのない命を奪われるなど、犯罪の被害者となる事例がいまだ数多く存在いたします。このような犯罪被害者の中には、医療費の負担や収入の減少により、経済的に困窮する方もいらっしゃいます。また、最愛の家族、笑顔で見送ったはずの子どもさんを失ったことによる精神的ショック、身体の不調、場合によっては周囲の無責任な噂話など、さまざまな問題に苦しめられていることも少なくありません。

 このような問題に対応するため、県警察では犯罪被害者等給付金の支給手続きの実施をはじめ、専門的知識を有するカウンセラーによるカウンセリング、女性警察官によるきめ細かな対応等を実施しております。その例としまして、カウンセラーによるご遺族への心のケアをはじめ、児童の心の動揺を和らげるために少年相談員による学校への働きかけや、裁判の傍聴に慣れないご遺族に女性警察官が付き添うなどのほか、事件のトラウマに悩まされている女性への地元警察職員によるサポートなどが挙げられます。さらに、犯罪被害者等の幅広いニーズに応えるために、臨床心理士会、横浜弁護士会、神奈川被害者支援センター等の関係団体と連携し、また、警察署単位で設置している被害者支援ネットワークの活用によりまして、犯罪被害者等の立場に立ったきめ細かな支援に心掛けております。

 このように、従来の事件捜査だけではなく、心のケアと物理的なケアの両立にも力を入れた被害者支援が、県民の皆様の安心感につながっていくものと確信をしているところであります。犯罪被害者等がさまざまな痛手から立ち直り、地域において平穏に過ごせるようになるためには、犯罪被害者等基本計画をふまえ、幅広い分野の行政機関や民間の被害者支援団体、そして何よりも県民の皆様が共に手を携え、途切れのない支援を進めていくことが大変重要であると考えております。

 このたび、犯罪等による被害の深刻さや命の大切さを考える機会として、「犯罪被害者週間」国民のつどい神奈川大会が開催されたことは、まさに時機を得たものであり、本当に意義深いものであると考えております。結びにあたりまして、本日の大会を出発点として、県民の皆様1人1人に犯罪被害者のおかれた状況を正しく理解をしていただき、幅広い支援の輪に加わっていただくことにより、真の意味で安心して暮らせる地域社会が実現されていくことを心から祈念をいたしまして、あわせて、関係者の皆様に御礼を申し上げまして、私の挨拶とさせていただきます。

基調講演

「犯罪被害者等支援の現状と課題」
大澤 孝征(弁護士)

  大澤でございます。どうぞよろしくお願いいたします。私は神奈川県の中央部にあります大和市の出身です。市内の小中学校を出た後、高校は藤沢にある湘南高校を出ておりますので、神奈川県には成人近くまでお世話になりました。先ほど紹介がありましたように、法曹の道に進みまして、つい先日には司法研修所卒業35周年というものをしました。法律家として35年間も過ごしてきたのかなと感慨深いところであります。また、今日ここにまいりまして、このようなたくさんの皆様方の前でこのテーマでお話しができるということに、非常に深い感慨を持っております。

 実は平成12年に東京の被害者支援都民センターが立ち上げられました。それは、ある意味では細々とした立ち上げでしたが、そのときはまるで選挙に出る候補者のようにたすきをかけて、新宿駅の南口で皆さんに花の種を配った記憶があります。一体この犯罪被害者運動がどのようなものになっていくのか、まったく前が見えないような細々とした出発だったことを考えますと、わずか6年の間にこれほどまで大きな運動になり、そしてこの運動が皆様方の前でこのような形で講演ができるまでに成長したことに対して非常に深い感慨を覚える次第です。また、そのような運動に携わった者としては非常にうれしく、心豊かな感情を覚えるところがあります。ただ、これはあくまで始まったばかりであり、おそらくここにお集まりの皆様方は犯罪被害者の実態というものを、そう多くはご存じではない人も多いと思います。そこで、私、あるいはこのような犯罪被害者の支援運動に携わっている者は、できる限り多くの方々に理解を呼びかけておりまして、本日このような機会を得られたことに主催者側に本当に感謝を申し上げたいと思っております。

 さて、欧米においては、犯罪被害者支援とはごく当たり前のことです。スウェーデンには犯罪被害者支援庁という役所まであります。イギリスでは犯罪被害者のために数百億円のお金を使っています。欧米諸国において、犯罪被害者はある意味で正当な権利を確立しているといってもいい状態にあります。しかし、日本ではまだまだというところにいます。

 日本における犯罪被害者の人権問題、あるいは人権としての犯罪被害者問題というものが意識されるようになったのはいつごろかということをひも解いてみると、昭和55年ごろでした。さしたる理由がないまま、息子を殺されたお父さんがいまして、なぜ息子が死ななければならなかったのか、なぜ息子は殺されなければならなかったのか、そして、それについてなぜ被害者はこのように何もされないまま放っておかれるのか、おかしいではないかということで運動を始め、木下恵介監督の『衝動殺人 息子よ』という映画ができました。その映画が出来たことをきっかけにして、このころに「犯罪被害者等給付金支給法(犯給法)」という法律が成立したのです。その後、ほぼ20年間はそのままの状態で何も進展しないまま続いていたのが日本の現状そのものでした。しかし、同じころ欧米諸国では犯罪被害者問題が意識され、急速にこの問題に対する支援、あるいは国家的取り組みが行なわれ、先ほど申し上げたような国家的に犯罪被害者を支援するための組織づくりや、行政的な面でのカバー、保障といったものが進んでいった次第です。

 日本の場合は、ほぼ20年間は放っておかれたと申しましたが、次にひとつの契機になったのは、平成7年に起きたオウム事件です。オウム事件の地下鉄サリン事件で無差別殺人事件が起きたのです。あのとき、ただそこにいただけの方が死亡する、あるいは重症を負い、非常に多くの方が被害にあわれました。続いて、平成8年、9年には特異な事件が起きました。神戸のサカキバラ事件と呼ばれていますが、少年が小学生の首を切り落として校門にさらすといった猟奇事件が起きました。このときも、少年に対する保護が厚いために、犯人については、どこの誰だかわからない、しかも被害者に対しては対応がまったくなされなかったということが幅広く報道され、認識されていったわけです。

 ちょうどそのころの個人的なお話を申し上げれば、皆さんご承知のように、私はいわゆるワイドショーに出ておりまして、コメンテーターをしておりました。平成9年のサカキバラ事件が起きた当初、私は水前寺清子が司会者を務める『ワイド!スクランブル』という番組のコメンテーターをしていたのですが、そのときのプロデューサーがテレビ朝日の社会部長を経験していた方でした。社会的な問題に切り込みを入れたいということで、取り上げたのがこの犯罪被害者の問題だったのです。

 そして、たまたまですが、神戸のサカキバラ事件によく似た事件が、昭和44年に神奈川県川崎市で起きていました。高校生が同級生の首を切り落とすという殺人事件が起きていたのです。このときの横浜家庭裁判所の処遇を参考にして、神戸のサカキバラ事件も同じような処遇を行なったという経緯があります。いわばサカキバラ事件の原点になったような事件が、この神奈川で起きているということです。しかも、昭和44年はくしくも私が司法試験に合格した年でもありました。

 なぜこの話を私が申し上げたかというと、この犯罪の被害者である少年のお母さんは生きておられて、自分の息子がどこでどう殺されたかまったくわからない上に何の保障もされないまま現在に至っており、極貧といっていいような生活状況にありました。テレビ画面を通じてそれを見たわけです。そこまでですと、これは何とかしなくてはいけないという程度ですが、実はこの加害者側の少年がどうなったかというと、少年院を出て立派に更生をして大学を出て、なんと司法試験まで受かって弁護士になっていたのです。これはショックでした。まさに少年保護の典型のような、更生の見本のような例です。このとき、私は、弁護士会は何もしなくていいのだろうか、弁護士はどうなのだろと一種の原罪意識のようなものを持ちました。そして、被害者問題については、弁護士は加害者ばかりを擁護するのではなく、被害者を擁護するための組織的な活動をするべきではないかと思いました。それから現実に着手し、実行に移したというのが、私の犯罪被害者運動に関与した原点のひとつです。

 そして、たまたま私の同期生が検事を辞め、私の事務所に来ることになりました。彼は、犯罪被害者の支援運動をやりたいのだ、弁護士になったのもそのためなのだという話で意気投合して、2人でやっていこうとなったわけです。彼は福岡地検刑事部長であった当時、「被害者等通知制度」というものを発案して実施しました。つまり、被害者に対して放っておくのは失礼だ、検察庁からどうなったかという結果をお知らせしようではないかという運動を始めたのです。彼の着想のヒントとなったのは、皆さんは「当番弁護士制度」というものを聞いたことがありますか? 加害者が捕まると、無料で当番弁護士が加害者のところへ来て、「あなたの権利関係はこうですよ」と教えてくれるということで、人権を守るためには当番弁護士が駆けつけて人権、権利を教えなくてはいけないという制度です。現実にこれは弁護士会がお金を負担して、弁護士にお金を出して行ってもらって、そのようなことを始めたわけです。その制度の発祥の地は大分県弁護士会ですが、それを大きく社会に広めたのは福岡県弁護士会です。それを目の当たりに見た当時、刑事部長だった彼が弁護士会のしていることは確かにいいことなのかもしれないが、そんなに加害者を保護しなくてはいけないのか、被害者は一体どうなのか、何にもしないで放っておいて、これは変だと考えました。そして、少なくとも被害者、捜査に協力してくれた人に対して連絡をすべきだろうという発想で行いました。ある意味で、独創的なことを行なった人間だったのです。

 そして、平成10年から我々は東京第一弁護士会の中に研究会を持ち、いろいろな方を呼んでお話を伺いました。その中には、後の被害者支援都民センターの理事長になられた山上 皓先生がおられました。山上先生は東京医科歯科大学の難治疾患研究所におられますが、治療をすることが難しい人の中には犯罪被害者がいたということで、犯罪被害者のための支援組織をつくられました。また、犯罪被害にあわれた人たちを集めて、自分たちだけで立ち直りをしようという自助グループをつくられた大久保恵美子さんという後の被害者支援都民センターの事務局長になられた方にも来ていただいてお話を伺いました。また、神奈川県警からは板谷利加子さんという性犯罪の担当警部補や当時の警察庁の犯罪被害者対策室の室長であった太田裕之さんにも来ていただいて、いろいろなお話を伺ったわけです。

 その結果わかったことは、一番早く手を打ったところが警察だということです。警察は被害者の取調室は別につくろうということを始めたのです。それまでは、私は元検事ですから、捜査官としては被害者も加害者も同じところで調べることに何の違和感もなかったのです。ところが、被害者から言わせると、私たちは被害者なのになぜ加害者と同じ机に座らされるのか、変ではないのかということです。気が付かなかったのですが、確かに言われてみればおっしゃるとおりだと思います。鉄格子の入った、殺風景な部屋にある灰色のパイプ椅子と机に座らされて、ああだこうだと聞かれます。しかも、まるで加害者のように聞かれるのです。それを変に思わなかった私のほうが変だったのですが、警察はそれに気が付いて部屋を分けようとしました。絵を飾り、カーペットを敷き、花を生け、そこに被害者に来ていただいて話を聞こうじゃないかと、警察は平成8年、9年という段階で手を打ち、新しい新庁舎からはそのような施設をつくり始めたということでした。

 弁護士会はどうしたかというと、一応平成9年に日弁連の中に「犯罪被害者回復制度等検討協議会」をつくりました。しかし、残念ながら不活発な状態で、平成11年に至るまで、ほとんどこれといった活動をしていなかったのが実情でした。なぜ弁護士会がそれほど不活発だったかというと、どうして我々弁護士が被害者のために何かしなくてはいけないのかという意識が非常に強いからです。それは、「警察や検察庁が被害者を保護して、そちらがやるべきことで、我々弁護士がやるべきことは捕まった人間の人権を守ることこそが本旨であり、加害者擁護こそが弁護士の本来の使命である、被害者のために活動するのは弁護士の本旨ではないのではないか」というような論法であり、残念ながら、今もこの考えが非常に根強いのが実態です。中には「犯罪被害者などというものは法的には存在しないのだ。なぜなら裁判をやっている間は無罪の推定を受ける。無罪の推定というのは、やっていないということだ。犯罪被害者というのは、自分で犯罪被害者であったと主張しているものにすぎない。だから、有罪が確定するまでは犯罪被害者は存在しない」というような論理を言う人もいます。これを弁護士が言っているわけです。しかし、どうしてそのような発想になるのかと思います。また、現在の犯罪被害者支援の、例えば当事者参加問題で「附帯私訴」とは、刑事裁判と同時に被害者に対して損害賠償の請求を認めて言い渡そうという制度ですが、これに根強く反対をしているのは日弁連そのものです。論理は、今言ったような論理のためです。このようなことで世の中の理解が受けられるのかという我々少数派の意見は、ほとんど封鎖されている状態といってもいいのが現在の段階だと思います。

 では、どうしてそのようなことになるのかということを途中まで申し上げましたが、これは検察、警察、弁護士に共通してある、被害者は証拠なのだという考え方に根本的な原因があると思います。警察、検察は悪いことをした人を捕まえて、犯人を有罪にして罰するのが仕事である、その罰する仕事の上で一番大事なのは被害者である、被害者こそ最も重要な証拠だ、治安を乱して社会をかく乱する不逞な犯罪者を処罰するためには被害者が一番有力な証拠でなければならないという考え方です。これは、私もここにいる歳のいった捜査官も誰でも当然だと思って聞いております。

 我々の司法は精密司法と言われております。99.99%、フォーナイン(9999)で、純金に近いぐらいに有罪率が高いのです。最近は少し下がったかもしれませんが、一時はそのぐらい高いと言われていました。つまり、起訴した以上は絶対に有罪でなければならないと検察官は考えて起訴をし、そのように考えて捜査を行なってきました。だから、被害者の存在は一番大事な証拠で、立派な証拠であってほしいし、立派な証拠でなければならないということになってくるのです。

 性犯罪を例にとってみると、どうせ否認をする犯人は、「合意の上でした」と言うに決まっているのです。合意の上ではありえないという証拠を固めなくてはいけません。そうすると、その女性が一緒に行動をした、怪しくないか、その人の気持ちは本当に確かなのかという余計なことまで調べざるを得ません。プライバシーで、本来その女性が触れてもらいたくないことまで調べ上げようとするのが捜査官の性といってもいいと思います。その結果、女性はどうなると思いますか? 被害にあった上に、警察官や検察官によって徹底的に根掘り葉掘り聞かれ、男性遍歴、あるいは男性経験をすべて聞き出されます。私も聞きました。とんでもなかったと反省をしております。これは被害者を証拠としか見ない、人間として見ていない証拠なのです。被害者はどうしたらいいのでしょうか。

 一方、裁判になると被害者は検察側証人として出てきます。検察側証人は弁護側からは、敵性証人なのです。敵性証人、敵です。攻撃していい相手、だから攻撃するのです。おかしくはないか、その行動に変な点はないか、証言の信用性を争うことを弾劾というのですが、「弾」というのは「弾く(はじく)」と書きます。弾丸の「弾」です。つまり、鉄砲のようにだんだん弾いて、チクチク攻め立てます。これは、そうすることが当然だという教育を受け、また、そうしなくてはいけないものだと思い込んで弁護をしているのです。そうすると、検察や警察にとっては、有罪立証のための有力な証拠、治安を維持するための証拠としかみていないのです。そして、弁護側は攻撃します。では、本当に被害者の側に立って人間性を見てくれる場所には一体誰がいるのでしょうか。誰もいなかったのが実情です。

 もうひとつ性犯罪に絡んで申し上げますと、告訴期間というものがあります。性犯罪は原則として親告罪といい、告訴がなければ犯罪にならないという構成をとっているものなので、告訴を受けてから犯罪として捜査をすることになります。昔、我々は告訴は被害にあったらすぐにされるべきだ、長く時間がたってから告訴をするのは怪しくないか、いろいろ考えた末に利害損得を考えて、いろいろな思惑から告訴してきたのではないかと、告訴期間ぎりぎりで、満了すれすれで告訴をするのは怪しい者だという考え方でした。捜査官としては、被害にあったのなら、それだけひどい目にあったのなら、すぐに申告するのが当然だろうと考えていたのです。だから、告訴期間があり、警察も告訴期間に長く時間をかけて出てきたものに対しては信用しなかったのが実情です。そのために不起訴になった例も多かったと思います。

 しかし、それを専門に捜査を受けていた板谷さんのお話を聞くと、そうではないのだということでした。立ち直るまでに、生半可な状態では立ち直れないのだということを我々も知ったわけです。これは、被害者のそれぞれの立場によって、受け取り方がさまざまなのだということを理解せざるを得なかったのです。私の親友には同じように同期で検事をやって弁護士になった人間がいます。クリスマスが近づいてくると、胸が痛いのですが、彼には1人娘がおり、クリスマスイブの日に両親のクリスマスプレゼントを買いに出たとき、交通事故にあって死んでしまったという事故がありました。そのとき、彼がとった態度はどういうものだったかというと、とにかくもう何もしないのです。当然加害者に対する憎悪、怒りを出して、復讐してやる、あるいはおれが敵をとってやるというような態度をとるのかと思ったらそうではないのです。何もしないので、我々は周りで見ていてヤキモキして、「おい、おまえ、このままいくと相手はとても軽い処分ですんでしまうぞ。どうするんだ」「いや、ほっといてくれ。生き返ってくるわけじゃないし、俺はともかく思い出したくないんだ。イヤなことを思い出させないでくれ」という一貫した態度だったのです。喪失感からもう何もしないのです。後で考えたのですが、3年ぐらいは立ち直れませんでした。このように被害者はワンパターンではないのです。常に被害にあったから怒りを持って、それを加害者側にぶつけるかというと、そうではない、そのような人間ばかりではないのです。いろいろな人間がいる、喪失感から立ち直れないほどのダメージを受けて、立ち直るまでに相当な期間が必要な人間もたくさんいるのだということを、その具体的な例で知りました。これは我々がかつての職場で見ていた一方的なものの見方がいかに間違っていたか、それを反省せざるを得なかったと思っています。

 結局、性犯罪については平成12年に告訴期間の6カ月ということを撤廃する法改正が行われてなくなりました。このように、平成12年、つまり2000年を境に、大幅に法改正が行われ、実態における犯罪被害者の支援活動、あるいは支援のための施策というものが法律の上でも行われるようになってきたわけです。そして、かつては裁判の場において証人尋問を行う場合は、被疑者・被告人の面前で証言をすることが当然でした。その前で揺るがない証言をしてこそ証言として一級の価値があるとみられていたわけです。しかし、今はそうではありません。被疑者・被告人の面前で証言することがどれほど被害者にとってつらいことなのかということを理解した結果、被告と証人台の間にシャッターを置いて見えないように遮へい措置を報じて証言をしたり、あるいはビデオリンク方式といって、別室でビデオカメラの前で証言をするというように、2重、3重の保護をするような施策が実施されるようになってきました。現在、東京地裁では1年間で百数十件に渡って、そのような遮へい措置がとられているという報告があります。我々のかつての常識が今では非常識だったということを改めて感じた次第であります。

 では、どうしてこのような結果が起こっていたのでしょうか。ひとつには、まず我々の法学の教育システムにあるのではないかと思います。我々が法律家になるためには、法律を勉強しなくてはいけません。憲法、刑法、刑事訴訟法を勉強すると、人権というのは被疑者・被告人の人権を守ることしか書いていないのです。平成16年に犯罪被害者等基本法ができましたが、それ以前にはほとんどありませんでした。人権を守るということは、被疑者・被告人の人権を守ることにほかならないというすり込みが我々の若い時代からずっとされてきています。これは、抜きがたく残っていると言って差し支えないと思います。

 ですから、今の我々の世代や、あるいは10年ぐらい下の世代ぐらいまでは、人権派とは被疑者・被告人、つまり加害者側の人権を守るものが人権派だと凝り固まっています。今でも日弁連の主流派は被疑者・被告人の人権を守る、最大限に擁護するものが人権派ということで通っています。したがって、犯罪被害者のための施策を実現するような立法に関して、例えば経済的支援などあまり法律論と関係のない部分について言う分には問題はないのですが、法律論に絡むとアレルギー反応を起こして断固反対をするのが今の実情です。また、先ほど申し上げましたように、被害の回復のためには1回の手続きで刑事裁判と同時にその内容について被害を査定して、有罪判決と同時に損害賠償を言い渡し、被害者の利便のためにはそのほうがいいだろうという附帯私訴のような施策について意見の諮問を求められると、絶対反対を言うのが弁護士会の主流派です。我々のような犯罪被害者の支援委員会のみが、これに賛成をするというのが実情といってよいと思います。

 どうしてこのようになるでしょうか。そのまた昔に戻ると、加害者、つまり犯罪者には人権も何もない時代があり、めちゃくちゃに処罰されていた時代がありました。それではいけないと、1人1人の状況を調べて、手続きも正しい手続きにのっとって処罰するべきだという形で、加害者を守る、加害者の人権を擁護し、加害者1人1人の人間性に立った正しい科刑がなされるべきだという理論の基、20世紀はそれが徹底されてきた世紀だったと思います。私はこれはこれで正しいものだし、今後もそうあるべきで、それが維持されるのは当然ではないかと思います。しかし、犯罪被害者についても同様に考えられるべきではないのかと思います。加害者については生い立ち、犯行時の精神状況、犯行後の状況、1人1人個別にその状況を証拠によって判断して、彼にはこのような刑がいいのではないかという形で処罰をしていっているわけです。しかし、被害者に対してはほとんどそれがなされていません。ある意味では、十把一絡げの被害者扱いをされているのです。被害者は1人1人別々の人間であり、痛みも苦しみもそれぞれ違いがあるのだということを我々はもっと知るべきなのだろうと思います。ある意味で、21世紀は被害者の人権回復、個々の人間性の回復が求められる世紀でなければならないと思っております。

 我々は少数派で、弁護士として被害者の支援活動に携わっておりますが、我々の弁護士の価値観からは、正反対のことを考えなくてはいけないという特殊な場面であるといってもよいと思います。有能、優秀である弁護士は、ごく短時間の間にその話していることの要領をつかまえて、直ちにこれはこうだという結論を出すことが優秀だというように思われています。皆さんご承知のとおり、法律相談は30分単位でいくらということが決まっていますから、早い時間で30分なら30分の間に全部の論点を把握して、それを全部理解してそれに対する答えを正しく出せるのが優秀、有能な弁護士ということになっています。しかし、同じことを被害者にしたならばどうなのでしょうか。「ああ、もう分かりました。そんなことは聞きたくないのだ。ここはどうなの?」と、被害者がされたらどう思うかということなのです。そして、現にそうしている人が多いです。我々弁護士は、被害者にあたるときには遮ってはならない、最後まで話を聞け、途中でちゃちゃを入れるようなまねはするな、最後まで共感して、最後まで話を聞いて、そして話を聞いた上で注意深く話しをするようにというマニュアルをつくっているぐらいです。特殊な分野でありますが、このようなものを勉強する弁護士の研修を2回以上実施しているのが実態です。我々弁護士の活動の中で、特殊な分野であるから、誰でもすぐにできる相談員にはならないというのが、我々の考え方といっていいと思います。

 それから、被害者の方からよく言われることがあります。非常に弁護士は評判が悪いのです。なぜなら加害者の立場に立っているのも変ですが、「随分ひどいことを言って示談交渉にくる」と言うのです。このような言葉を何度も聞きます。「私たち被害者は、被害にあって痛み苦しんでいる。しかし、加害者には弁護人がついている。しかも場合によっては、国がお金を出した国選弁護人がついている。つまり、プロがついている。私たちのところへ、どうだという話をしにやってくる。不公平ではないか。なぜ加害者にはプロの弁護士なのか。しかも国がお金を払った弁護人がついて自分たちのところに来て、いくらで示談にしろと言う。私たちは自分でお金を払って弁護士を頼まないと対等にはならない。そんなバカなふざけた話があるのか」ということで、本当にそうだと思います。ですから、被疑者・被告人に国選弁護があるのなら、当然、被害者にも公費による国選代理人や国選弁護人というような制度が創設されないとおかしいだろうと思っています。我々はそのような方向で努力をしているのですが、これはお金のかかることですから、そうたやすくはいきません。また、被害者はどこまでが被害者なのかという認定が難しい問題もあります。しかし、大ざっぱにいったところで、被害者の叫びには我々は頭を下げざるを得ないのが実態ではないかと思います。

 我々がここへ来て弁護士の立場でいうのは大変心苦しいし、また、自分の母体の悪口を言うのは大変心苦しいのですが、やはり加害者の人権を守ることが人権擁護だと考えるステレオタイプの考え方をやめて、実態にもう少し目を向けてもらって、被害者の人権を守るのも車の両輪のように必要なのだということを早く自覚してもらいたいと努力をしております。実は我々は年寄りの弁護士は諦めたらいいやという感じで、若い先生に期待をしようとしています。比較的若い先生にこのような講演や研修を行なって、1人でも理解を求めようという運動をしています。そして、少なくとも20年後ぐらいには、我々のような考え方が弁護士会のメジャーになりたいと思っております。法科大学院や新任の弁護士、あるいは法学部を志すような人たちに犯罪被害者の実態、そして我々の教育の陥りがちな難点というものを知ってもらい、若い力で犯罪被害者の運動をより多くしていってもらいたいなと思っています。

 私たち法律家の現状はこのようなものですが、課題としては、一刻も早く公費による被害者のための弁護制度をつくりたいと思います。被害者の財政的、あるいは精神的な労苦を軽減するために、刑事事件そのものの証拠を被害者の損害賠償請求に使うという制度を制度化したいと思っております。おそらくこれは近々実現する方向になっていくのではないかと期待をしているところです。

 皆さんもぜひこのような状況を皆さんのお知り合いにお話していただいて、ぜひとも被害者はワンパターンではない、ステレオタイプの被害者はいないのだ、1人1人が深い傷を負い、1人1人が違う人間なのだ、そのことをより深く考えなくてはいけないのだということに目を向けることが大事ではないかと思います。犯罪被害者等基本法も精神としては、そのようなことをうたっているのではないと思います。また、この10月からは法テラスという日本司法支援センターが開始しまして、犯罪被害者のために精通弁護士を紹介するという制度も出来上がっております。中身をどう盛るかは、これからの課題ですが、多くの方々の支援と力がないと、より大きな盛り上がりはないのではないかと思います。

 私がこのような運動を通じて、代表例として考えたのは、もちろん被害者の刑事訴訟法における告訴期間の撤廃であったり、証人への遮へい措置であったりすることでもありますが、「危険運転致死傷罪」が成立したというのは、その運動の1つの成果ではないかと思います。これは、井上さんというご夫妻が、東名高速道路上で飲酒運転のトラックに追突をされて、お子さん2人が衝突のショックで発火した炎によって焼死したという事件がありました。あの事件は求刑5年で刑は4年ということになり、実は我々法律家からすると不思議でない、むしろ重いぐらいの刑かなと思ったら、世の中の人たちがそれは違うのではないかということで、今では最高刑20年までの刑が制定されるようになったわけです。

 時の流れを考えますと、皆さん1人1人の力が結集すれば世の中を変えることができる、法律も変えることができる、現に変えられつつあるという実感を持っております。そして、今から6年前の自分の姿を思いますと、この運動は先細りで消えるのか、どうなるのだろうと思ったものが、政府が本腰を入れてこのような会まで持つようになったことを考えると、より大きく強い運動になってもらいたいと心から思っております。

 私の基調報告と言っていいのか、基調講演と言っていいのかどうか、あくまで法律家というメガネを通してのお話でしたが、皆様の犯罪被害者という問題に対する理解が少しでも深まっていただければ幸いです。ご清聴ありがとうございました。

基調講演

「犯罪被害者の声」
鈴木 共子(生命のメッセージ展代表)

 こんにちは。生命のメッセージ展を企画し、また代表を務めさせていただいております鈴木共子と申します。神奈川県座間市からまいりました。会場のロビーには生命のメッセージ展で実際に展示されているレプリカではありますが、息子のオブジェがあります。生命のメッセージ展のことについては後ほどお話をさせていただきますが、最初に息子の事故の事をお話させてくださいませ。

 2000年4月9日、私の1人息子鈴木零は友人と道を歩いているところを、飲酒、無免許、無車検、無保険、そしてパトカーの追跡を逃れてきた悪質な車に後ろから激突されて2人とも殺されました。その当時は本当に茫然自失で、自分の身に何が起きたのか全くわかりませんでした。でも、幸いな事に私は被害者支援センターのサポートを受けることができました。先ほど大澤先生がお話しておりましたように、支援センターの立ち上げは2000年4月1日でした。息子たちの事故は2000年4月9日でした。なぜサポートを受けることができたかといいますと、息子の友達のお父様が常磐大学で犯罪被害者学をやっている先生でした。その先生からの紹介で、被害者支援都民センターの大久保さんがすぐに駆けつけてくれたのです。

 そして、その時に私はいろいろな事を教えていただきました。私は全く法律に無知でしたから、刑事と民事の区別もわかっていませんでした。今では笑い話になってしまうのですが、「未必の故意」も密室で行われる行為、つまり密室で行われる犯罪なのだろうと考えていたくらいです。その時に加害者の裁かれる刑の事を聞きました。何の落ち度もない2人の若者の命を奪ったのです。死刑でも当然だと思いました。でも死刑ではないだろう、でも何十年の刑なのだろうと思っていました。しかし、裁かれる刑は業務上過失致死罪で、最高刑が5年だと聞きました。なぜ業務なの、なぜ過失なの、私にはわかりませんでした。加害者は車で結婚式場に出かけ、そこでお酒をたっぷり飲み、それからまた二次会、三次会とキャバクラだ、なんだかんだと飲んで、そして挙げ句の果てに起した事故、いえ、事件です。それなのになぜ業務で、なぜ過失なのだろう。私の事件の加害者は無免許でした。そして、無保険車に乗っていました。車を運転してはいけない男です。それなのになぜ過失なのか、私には全くわかりませんでした。許せないという怒りが、当時の私を生かしていたと思います。先ほどの大澤先生がお話していた、ずっと沈み込んでしまう例とは全く対照的なのですが、怒ることでその当時の私はなんとか生き抜くことができたと思っています。

 そして、支援センターのサポートもあって、悪質運転手への量刑の見直しを求めて署名活動を展開しました。それまで私は社会活動をほとんどしたことはありませんでした。そうした事には本当に無関心でした。今は本当に深い反省です。そこで、さきほどの井上さんたちと合流し全国の交通事故遺族を中心に展開して、その結果、1年後には37万5000人の署名を集め、危険運転致死傷罪が成立いたしました。確かに一時的には効果を見せていたようですが、いまだに飲酒運転は減ることはありません。ドライバーの意識の問題であることは確かだと思いますが、昨今の事件、事故の報道を知るにつけ世間一般のモラル意識も低いと思います。法改正での厳罰、また環境整備だけでは大事な命は守れないと私は思いました。1人1人の意識改革への取り組みが必要なのではないか、ではどうすればいいのかと考えました。そして、私は現代美術のカテゴリーでアート表現をしてきていたので、メッセージとして伝える手段としてはアートが有効な手段ではないかと考えました。

 そこで始めたのが「生命のメッセージ展」の企画です。署名活動をハードとするならば、生命のメッセージ展の活動はソフトです。生命のメッセージ展は、犯罪、交通事故、いじめ自殺、一気飲ませの犠牲者が主役の展覧会です。その死の原因は私たちが社会問題としてきちんと考えていかねばならない理不尽な死です。犠牲者1人1人の等身大の人型、胸元には笑顔の写真、そして遺族のつづったメッセージが掲げられています。また、足元には生きた証である靴を置いて展示をするという方法です。1人1人が夢や希望を持って精一杯生きていたこと、それぞれの理不尽な現実を知ってもらいたい、決して他人事ではないのだということを伝えたいです。そして、残された家族の悲しみ、苦しみを知ってほしいです。人型の白は行き場のない、残された家族の喪失感を表現しています。また、その白は来場者が犠牲者の残された家族の悲しみ、苦しみを想像してほしいという願いを込めています。私たちは犠牲者をメッセンジャーと呼んでいます。犠牲者は命の重み、命の大切さを伝えるメッセンジャーなのです。

 2001年3月に被害者支援都民センターのキャンペーンとして16体でスタートしてから、昨日始まりました平塚開催は39回目で、現在では参加者は100名を超えています。メッセンジャーが伝え、訴える事故は氷山の一角に過ぎません。先に起こりました福岡の飲酒ひき逃げ事件のように世間もマスコミも注目する事件や事故だけではなく、新聞の片隅にしか載らない事件、事故もたくさんあるのです。特に交通事故はその原因が飲酒運転のように悪質であれば、事件として取り上げてもらえます。しかし、大方は交通事故だからと、まるで不可抗力のような言い方、見方をしているのではないでしょうか。その結果、命の軽視がはびこって、国民の生命と安全が脅かされているのではないかと思います。

 マスコミの多くは福岡の事件を特別な事故と私に言いました。私たちは特別と思う観点が違います。何が特別かと言うと、事故直後にまるで殺人現場のように警察官が一列に並んで証拠集めをしていました。できるのであれば、すべての死亡事故でそうあってほしいと思います。しかし、現実は違います。交通事故は日常茶飯事だからおざなりの捜査がされているのではないかと私には思えてなりません。また、早くからマスコミが動いたことで警察は異例の対応をしたと言えるのではないでしょうか。警察の動きが特別だったという事で、事故内容は特別ではありません。被害者の遺族にとっては自分の家族の命を奪った事件、事故ほど特別なことはないのです。

 その後に起きた埼玉の事故では、幼児が4人も亡くなったにもかかわらず、業務上過失致死罪でしか裁かれていません。あの悪質な事故がミスとして裁かれ、最高で5年の刑でしかないのです。また、いろいろな理由付けをされて3年ぐらいで刑が確定してしまうかもしれないという現実にもっと問題意識を持ってほしいと思います。人を4人も殺してもこの程度の罰しか受けないことが命の軽視と治安の悪化、そして犯罪を誘発しているのです。少なくとも愛する家族の命を奪われた、残された者の悲しみ、苦しみは、事件事故の違い、事件事故の大小にかかわらず同じなのだということを生命のメッセージ展では強く訴えたいところです。命の軽視、これに赤信号を灯したいです。

 会場では天国の手紙と称して来場者に感想を書いてもらっています。来場者の多くが、飲酒、無謀運転はしない、暴力は振わない、いじめはしない、一気飲ませを強要しない等の誓いをつづっていました。また、生きたくても生きることのできなかった人たちの存在を知って、生きることに悩んで自殺を考えていたという若者が、もう一度生き直してみるという手紙を書いてくれました。そのような若者は1人や2人ではありません。まさに生命のメッセージ展は犯罪抑止にもなり、命の教育にもなっていると実感しています。しかし、生命のメッセージ展は外に向けてのメッセージばかりではありません。根底にあるのは亡き愛する家族、特に我が子を失った親の思いなのです。

 よく他人の死は3人称の死、親や兄弟、連れ合いの死は2人称の死、我が子の死は1人称の死といわれます。つまり、自分の死と同じなのです。それが暴力的に奪われたのですから、それを認めることは到底できるものではありません。私自身もあれから6年半、いまだに息子の死を認められず、死を認めさせられるようなことすべてを拒否しています。死を終わりとするには我が子に先立たれた親にとってあまりにも残酷です。今でも息子の部屋もそのままです。いつか息子が帰ってくる、今は旅に出ているのだという物語を懸命に紡いでいます。物語のひとつが生命のメッセージ展なのです。メッセンジャーとなって新たな命を得た息子は命の大切さを伝える旅に出ている、旅先でいろいろな人に会っている、息子を過去形ではなく現在進行形で語れるのが生命のメッセージ展なのです。私たち参加家族にとって生命のメッセージ展は自助の場であり、グリーフワークの場なのです。理不尽な体験をした私たちの多くは無常な壁にぶつかり、ときにはマスコミ報道の被害を受け、世間の無関心に悔しさを募らせ、孤独感にさいなまれています。しかし、生命のメッセージ展の場では、自分は1人ではないと癒されているのです。  私はかつてメッセージ展の会場でこのような詩を読みました。ご紹介いたします。

だけどあなた知らないの?
今の世の中、何が起きてもおかしくないと
悟ったように言ったけど
そんな事はすぐ忘れ
今の今を楽しんで
すべての不都合先送り
目先の幸せだけが関心事
理不尽な出来事はワイドショーの中だけとたかくくり
哀れな者たちに煎餅ポリポリ同情寄せる
世間というあなた

だけどあなた知らないの?
勤め帰りのサラリーマン
親父狩りとゲーム楽しむ少年たちに袋叩きの滅多打ち
救急病院で命を落としたその人は
あなたの会社の同僚だってこと

だけどあなた知らないの?
子どもたちが遊び戯れる路地裏を
減速せずに突っ走る
かわいいあの子をひき殺したドライバーは
あなたの娘の通う小学校の先生だってこと

だけどあなた知らないの?
助けを求めて警察に通報すれど相手にされず
ストーカーの執拗な魔の手に恐怖の中で殺された若い娘は
あなたの友達だってこと

だけどあなた知らないの?
仲むつまじい老夫婦
薬物常習の強盗に刺し殺された
返り血あびた犯人は
あなたのお隣のご主人だってこと

だけどあなた知らないの?
ばい菌と蔑まれ、いじめられ、追い詰められて自殺した少女が
あなたが毎朝挨拶交わす、笑顔がさわやかなあの子だってこと

だけどあなた知らないの?
ちょっと1杯、これくらいとそのままハンドル握り
登校中の生徒の列に突っ込んだ
飲酒運転常習のドライバーは
あなたの町のお役人だってこと

だけどあなた知らないの?
己の歪んだ欲望で幼い命を平気で奪う変質者
普段は一件優しい大人だってこと

だけどあなた知らないの?
信頼していたドクターに過剰投薬で殺された
患者の1人はあなたの尊敬していた恩師だってこと

だけどあなた知らないの?
生意気と因縁つけて無抵抗の少年をよってたかって殴りつけ
瀕死の彼をほっぽらかして死なせてしまった仲間のひとりは
あなたの息子の友達だってこと

だけどあなた知らないの?
新人歓迎の祝いの席で先輩たちのおふざけが
一気飲ませを増長させる
揚げ句の果てに命を奪われた犠牲者は
あなたが旅先で出会った若者だってこと

だけどあなた知らないの?
安全であるはずの学校で
見知らぬ大人が入り込み
無差別に子どもの命を奪ってしまう狂気の加害者は
あなたがかつて無視した男だってこと

だけどあなた知らないの?
行楽帰りのマイカーに飲酒運転のトラック突っ込んで
幼い姉妹が母親の目の前で焼き殺された
悲劇の母親はあなたのかつての同窓生だってこと

だけどあなた知らないの?
虐待を受けているかもしれない子どもの様子を見聞きしながら
かかわり合いになることに躊躇した
親の手で殺された幼い子は
あなたの孫と同い年だってこと

だけどあなた知らないの?
足元にゴロゴロ転がる理不尽な死の中に
あなたの愛する人がいることだって
少しも不思議でないことを

だけどあなたは知っている
あなたの心の奥底に押し込んだ恐怖感
目覚めさせられる事への恐れから
あなたは理不尽な現実から目を逸らす
世間というあなた

 もう一遍読ませていただきます。

「犯罪被害者遺族という種族」

私たちは犯罪被害者遺族という種族
人類学的には認知はされてはいないが
誰もがある日突然に犯罪被害者遺族の仲間入り
ひとたびそのレッテルを貼られたら
警察捜査の中では人的証拠となり下がり
裁きの席では加害者ばかりが当事者で
私たち遺族は蚊帳の外
学問の世界では犯罪学、被害者学と専門家たちのモルモット
マスコミという業界は大きな事件ばかりに群がって
小さな事件には見向きもしない
おまけに他人の不幸は蜜の味と
世間の好奇の眼差しが突き刺さる
強者の論理ばかりが大手を振って
私たち遺族に寄せられるのは同情というお情けばかり
人類の歴史の中で迫害された種族の悲しみ、怒りを
平和なはずのこの国で体験させられた私たちは
犯罪被害者遺族という種族
ならば、かの地の種族が生存と尊厳を掲げ
武器を手にしたように
私たちは殺された者の人権と
残された者の人権を高らかにうたい
犯罪被害者遺族としての誇りを取り戻そう
何よりも亡き愛する者たちのために
ともに支え合い
前進するのだ

 何とも攻撃的な詩なのですが、当時は私自身がこのような詩を書いて、もう萎えそうになる自分を鼓舞していきました。犯罪被害者、それから遺族の先輩たち、また関係者の方たちが血のにじむような働きかけをした結果として、犯罪被害者等基本法、また犯罪被害者週間ができたことは、ようやく犯罪被害者そして遺族の人権、何よりも犠牲者の人権に光が当てられたように思います。こうした国の取り組みが国民1人1人の心に届いてほしい、命を守るために1人1人が何をできるかを真剣に考えてほしいと願っています。その取り組みのひとつとして生命のメッセージ展が活かされることを願っています。

 最後に、生命のメッセージ展の「命」とは「生命」と書きます。命を生きる、命が生まれるという意味です。自分の命も他者の命もかけがえのないものであることを私たちは声を大にして言いたいです。生命のメッセージ展のことは一応説明させていただきましたが、単にただ犠牲者の等身大の人型と遺品の靴を展示したのがメッセージ展とご理解していただくだけでは本当に生命のメッセージ展を理解していただいたことにはなりません。ご自身の目で直接見て、メッセンジャーの無言の訴えに耳を傾けてほしいのです。メッセージ展は知るのではなく、感じるのです。1人1人の人型と対峙するだけではなく、全体が醸し出す雰囲気の中にいてこそ、見えないけれど触れられないけれど犠牲者たちの存在を確かに感じることができるのです。そこには衝撃と感動があります。皆さんのお手元の資料の中にも入っているかと思いますが、12月3日まで平塚市の美術館、12月5日~10日まで早稲田大学で開催しております。ぜひこの機会にメッセンジャーたちに出会って、私たちの現実を知っていただきたいと思います。ありがとうございました。

パネルディスカッション

「犯罪被害者に必要な支援とは何か」
コーディネーター:
大澤 孝征(弁護士)

パネリスト:
鈴木 共子(生命のメッセージ展代表)
村尾 泰弘(特定非営利活動法人神奈川被害者支援センター副理事長、立正大学社会福祉学部教授)
高津 守(内閣府犯罪被害者等施策推進室参事官)
石澤 邦昭(神奈川県警察本部警務部警務課被害者対策室長)

(大澤)

 それではパネルディスカッションを始めたいと思います。まずはパネリストの方にお1人ずつ、約10分を目処に現在の活動状況と課題をそれぞれの立場からご説明いただき、問題点について指摘をしていただきたいと思います。それでは鈴木さんからお願いいたします。


(鈴木)

 先ほど、生命のメッセージ展の取り組みをお話させていただきました。メッセージ展は我が子の命を理不尽に奪われた母親の思いから始まりました。我が子への愛、加害者への憎しみ、予期せずに被害者遺族となってしまった戸惑い、それから不利益な立場に置かれた被害者の実情、世間の無理解と無関心に翻弄される中で、精一杯生きた我が子の事を知ってほしい、事件の事を風化させたくないという切羽詰った思いから生まれました。被害者支援や命の教育などといった大義が先にあったわけではありません。気がつくとメッセージ展の場で参加家族が癒されていたのです。メッセージ展に参加するにはそれぞれ高いハードルがあります。まず、人型の胸に取り付けられるメッセージ文を書くために改めて事件、事故を振り返らなくてはなりません。フラッシュバックして心が乱れてしまう恐れがあります。そして、触れることのできなかった遺品に触れなければなりません。それから、家族の反対を受けたり、ときには周囲から「さらし者にする?」と言われたりします。このように参加をすることは容易ではないのです。しかし、参加を決意したときに回復への第一歩を踏み出したと言えるのではないかと私は思います。

 参加者には都合がつく限り自らの手でそれぞれの亡き愛する人型をつくっていただくことになっています。自らの手で我が子を、我がつれあいを、我が両親を、我が兄弟姉妹の新しい命を誕生させるのです。言ってみれば、メッセージ展の物語の始まりです。命の大切さを伝える役割を担うメッセンジャーとなって旅に出るという物語です。保管場所である私の自宅は下宿屋で、私は下宿屋のおばさんなのです。下宿屋から開催地へ旅立ち、開催地でさまざまな人たちと出会い、そして使命を終えて下宿屋へ帰ってくるという物語です。

 こうした開催への旅を通して、参加家族の回復の過程を見ることができます。それまで外出すらままならなかった遺族が、開催地へ出かけることで外出ができるようになったということがあります。また、最初の頃は会場へ行っても会場から離れることができなかったのですが、しばらくするとその開催地の観光ができるようになります。それはまさにメッセンジャーからのプレゼントだと思えるようになるのです。このように生命のメッセージ展は遺族の回復のための物語の場であると言えるかもしれません。

 物語を自分の物とすることができるようになると、メッセージ展を卒業して、サバイバーとして被害者支援や自らの自助グループを立ち上げたり、社会に対しての信頼を取り戻すことができます。いずれにしても、深い喪失感を体験し、生きる意味を見失ってしまった私たちが再び生きていくためには物語が必要なのだと思います。その物語を紡ぐためには経済的、物理的支援は不可欠ですが、同じくらいに必要なのは精神的な支援だと思っています。精神的な支援の根底にあるのは、支援する側の人間性を抜きにしてはありえないのではないかと感じています。つまり、支援組織という器が先にある支援は、「なんだか事務的だ」と感じてしまうのは私の感じすぎでしょうか。

 また、被害者の真の回復のために、加害者のことも無視するわけにはいかないと思います。加害者のことには触れたくない、考えたくないとしてなんとか精神の安定を保っている被害者がほとんどだと思います。私自身も加害者のことを考えると、ヤツさえいなければと、当時の事がフラッシュバックして息苦しくなります。去年、加害者が仮釈放で5年半の刑期を終えて刑務所を出てきました。そのまま会わずにいようと思っていましたが、やはりどこかで消化不良を起している自分がいました。会ったら殴りつけてやりたい、罵倒してやりたい、殺してもやりたいという感情を爆発させてしまうかもしれないと思うと怖かったです。刑務所で加害者がどのような処遇を受け、どのように思っているのか、私たちは何も知らされていません。もし加害者が、刑期が終わればそれで終わりと考えているなら、「違う」と言ってやりたいです。散々悩んで、結局加害者に会うことにしました。逃げないで対峙しようと思ったのです。

 その結果、加害者は母親と保護監察官に付き添われて我が家にやってきました。最初から最後まで涙を流し、謝罪の言葉を繰り返し、「加害者として犯罪抑止につながる取り組みをしていきたい」とさえ言いました。私はギリギリの理性を保って「まっとうに生きてほしい、二度と同じ過ちをしてくれるな」と言い、「あなたの更生していく過程を見守りたいから、月に一度は連絡をしてほしい」とさえ言いました。加害者は涙を流しながら、「わかりました。約束します」と私に言いました。しかし、その後一度も連絡をくれることもなく、行方をくらましてしまったのです。保護監察官に問い合わせても、「保護観察期間が終わっているので、加害者の行方を追う権限はない」と言いました。それまで大方の多くの遺族からは加害者なんてそんなものだと聞いてはいましたが、信じようとしていた自分がすごく腹立たしいです。裏切られたという思いです。加害者だけではなく、保護監察官にも裏切られたと思いました。その後はしばらく悔しくて心を乱していましたが、今は加害者のことを考えないようにしてかろうじて安定を保っています。

 私はメッセージ展を開催して、一見被害者として回復していると言えるかもしれません。しかし、加害者のことは私の喉に小骨が突き刺さったような異物感であり、すっきりしません。改めて、加害者の更生は被害者の真の回復に大きくかかわってくるのではないかということを提案したいと思います。以上です。


(大澤)

 ありがとうございました。この犯罪被害者の運動を行なっている我々の弁護士会の元会長で「あすの会」を主催されている岡村 勲先生は、このような場でよく基調講演等をされているのですが、自分の奥さんを自分の顧問先のトラブルから殺害されました。家に帰ると、自分の奥さんが玄関先で刺し殺されていたのです。立ち直るまでに相当な時間を要したということですが、「自分はこのような運動を始めたから、この話をしなければならないのだが、本当はしたくない。しかも自分の妻が殺害された話をして、終わった後に皆さんから拍手をもらうのは耐えられない」とおっしゃっていました。やはり犯罪被害者の心情はなかなかに微妙なものがあり、体験した者でないとわからない部分が非常にあるように思います。

 また、加害者の更生の問題ですが、矯正当局、つまり刑務所、あるいは少年院でも犯罪被害者を意識したプログラムが、ここ2~3年になってようやく始められたという状態です。管理だけをしていた施設から矯正改善に至るまで、本当に配慮が行き届いた刑務所になっていってほしいとつくづく思います。鈴木さんのお話を伺い、そのような思いも深めました。

 それでは、現実に神奈川県の被害者支援センターで活動されている村尾先生のお話を伺いたいと思います。よろしくお願いします。


(村尾)

 私は神奈川被害者支援センターの副理事長をしております村尾と申します。今日はよろしくお願いいたします。皆さんのお手元の袋の中に当センターのしおりが入っているのではないかと思います。お出しになってお聞きいただければと思います。また、私の話の簡単なレジメが入っているかと思いますので、それもご覧になっていただければと思います。

 現在、私は被害者支援の活動を始めています。児童養護施設で生活している虐待を受けた子どもたちの心理療法や職員へのアドバイスなどもしています。私はかつて家庭裁判所で調査官をしていたので、そういう意味では昔は加害者のお世話をして、今は被害者の支援をする仕事をしている立場にいる者です。

 まず、当被害者支援センターについて若干ご説明をさせていただきます。私たちの神奈川被害者支援センターは、いわゆるNPO法人です。現在、全国にいろいろな民間の被害者支援センターが立ち上がってきておりますが、どこも経済的に非常に苦しくて、私たちのセンターも皆さんの寄付行為によって成り立っています。もし、皆さんが今日の話をお聞きになり、当センターに寄付をとお考えになられた方はぜひよろしくお願いいたします。

 私たちの被害者支援センターは4つの柱で活動しています。1つ目は電話相談です。ここに「1人で悩まずお電話ください」書かれています。045-440-0212が、相談電話になっており、月曜、水曜、土曜日の午前10時~午後4時まで電話相談にあたっております。2つ目は面接相談でのカウンセリングをしています。3つ目には「直接支援」と書きました。これは電話相談、面接相談以外のあらゆる活動を直接支援活動と呼ぶのですが、加害者の刑事裁判への被害者の方の付き添い活動を中心に行なっております。先ほどもお話がありましたが、加害者の裁判を傍聴したくても恐ろしくて行くことができない被害者が多いわけです。そのような方に付き添い、傍聴していただけるように支援する活動を中心に直接支援活動をしています。4つ目は自助グループへの支援です。皆さんは自助グループをご存知だと思います。鈴木さんのお話にも出てきましたが、同じような困難や苦しみを抱えた方々が一緒に自発的なグループをつくって、その中で自分たちを支え合っていこうという趣旨のグループをセルフ・ヘルプ・グループ(自助グループ)と呼んでおります。

 皆さんは「レイ・エキスパート」という言葉をご存知でしょうか。レイ(lay)とは「素人の」という意味です。エキスパート(expert)は「専門家」という意味です。「素人の専門家」とは極めて不自然な言い回しかもしれませんが、ここに重要な意味があります。つまり、大澤先生は弁護士でいらっしゃいます。これは専門家です。私も臨床心理士をしていますので、専門家と言えるかもしれません。ところが、鈴木さんは被害にあわれたのですが、弁護士ではない、では専門家と呼べないのでしょうか。鈴木さんは、被害にあわれたことにおいてさまざまな生きた体験をしてこられました。そういう意味では本当の専門家であるといえるでしょう。そこで私たちは敬意を込めて、このような人たちをレイ・エキスパートと呼ぶのです。そして、このような方々こそが被害者の本当の意味での支援ができる方なのではないかと考えます。自助グループの立ち上げについての支援、あるいは自助グループを展開していくための支援を当センターはしています。

 私は臨床心理士として活動していますので、その立場から被害者のことや、いろいろ感じることをお話させていただきたいと思います。被害者の方のことをお話しないといけないのですが、私自身が対応した方のお話をするのはプライバシーの問題があるので、なかなかできません。しかし、被害者のお話をしなければ皆さんにご理解いただけないので、被害者の方のプライバシーに触れない程度のお話、肝心なところを変えず、枝葉末節なところを変えてお話をします。あるいはすでにマスコミ等で公開された事例を用いてお話をします。被害者の方々の心情理解を深めるためですので、その趣旨をご理解の上、よろしくお願いいたします。

 例えば、このような被害者がおられました。この方は路上で突然暴力を振るわれ、意識不明になりました。身体が動かない状態が半年続いて、後遺症が残りました。高次脳機能障害と診断されたのです。結局、職を失い、支給された犯罪被害者等給付金の約500万円は、「全部医療費に消えた」と言っておられます。

 本人と両親が損害賠償請求を申し立て、裁判で4000万円の損害賠償を受けることが決まりました。ところが、これが加害者から支払われないのです。結局もう一度話し合い、毎月1万円を20年間支払うことで和解が成立しました。しかし、実際は毎月1万円のお金も滞りがちなのが現実です。この方は「やられたらやられっぱなしが現実だ」と言っておられます。現在は作業所に通っておられますが身体が不自由で、月に2万円の収入があるだけです。職を失い、そして身体も壊してしまった、本当に泣き寝入りだと言わんばかりの訴えです。

 次に、これはある男性のお話です。「3年前に小学校1年生の自分の長女が帰宅中に連れ去られて殺害されました。父親である私は娘の名前を何度もノートに書いていた。しかし、私はその事をまったく覚えていないのです。頭の中が真っ白で、娘の遺体が見つかってからも、その後の生活の事をあまり覚えていません。娘の四十九日が過ぎてからもショックで気を失ってしまうことが何度も何度も続きました。結局、自分の仕事である工務店を閉めてしまって、その場所が殺害現場に近かったので、もういたたまれなくなって引越しをしました。今からどうすればいいか、まったくわからない。あれから3年たった。3年たった今でも突然意識が朦朧とする症状に襲われます」という事を語っておられます。

 次の方は、「私の長男は私たち両親の目の前で刺されて殺されました。刺殺です。子どもの事も自分の事も考えられない状況が毎日続きました。私は何もできず、ただボーッとして座っているだけでした。何もできませんでした。自分がどうなっているかも考えられない状態でした。何もする気力が出てきませんでした。自分が住んでいた住居にもいたたまれなくなって、結局引越しをすることになった」と言っておられます。

 次は強盗の被害にあわれた女性ですが、お金を奪われて、自分と子どもは縛り上げられたというのです。ショックでその後は外出もできなくなり、夢にうなされたり、当時の恐ろしかった事が頭の中になだれ込んできます。これは先ほどから鈴木さんが言っておられるフラッシュバックのことです。

 加害者や一般の方々は、このような予想外の苦しさはおわかりにならないのではないかと思うのです。加害者は強盗はしたが、別にけがをさせているわけではないので、どうってことないと思っているかもしれません。しかし、その後何度もフラッシュバックやいろいろな精神症状に襲われるのが現実なのです。ですから、被害者は精神的な苦しみを背負う、職を失う、それから経済的な苦しみを背負う、このような何重にも苦しい状態に置かれることになるのです。

 私たち支援者についても、肝に銘じなければいけないことがあります。専門家の支援の落とし穴とでも言うのでしょうか。私は臨床心理士ですのでカウンセリングや心理療法を行っています。このような苦しい思いをされた方にはぜひカウンセリングを受けていただきたいと思うのですが、実はカウンセリングを受けたくないという方が結構多いのです。それはなぜだと思いますか? 例えば、ある事件で娘を亡くされた方が、「カウンセリングを受けたくない」とおっしゃっていました。これはなぜだと思いますか? 非常に苦しい思いをしている、精神的につらい、そして精神科医へ行ったとします。そこで医者から、「ああ、あなたはうつ状態ですね。お薬を出しましょう」と言われたとします。これはいかがでしょうか。つまり、自分の苦しさを病気として片づけられたくないという思いが出てくるのではないでしょうか。ですから、我々支援者はそのようなこともしっかり理解していかないとダメだと痛感しました。

 また、弁護士の支援に対しても被害者の方は戸惑いを覚えることがよくあるとお聞きします。なぜかと言いますと、非常に大きな苦痛を受けたときに、弁護士はそれをお金に換算して請求する行為を取られたりします。それが納得できない思いになるという話もよく聞きます。

 先ほど、二次被害の話が出ました。警察の捜査段階でいろいろな事を聞かれて、つらい思いをされてしまうのですが、それだけではなく、被害者の方はもっと違う形で追い詰められることもあるのです。それは非行少年たち、例えば恐喝をした少年たちに会いますと、恐喝の被害者になったことがあるとよく聞きます。つまり、被害が加害者を生み出すこともあります。虐待を受けた子どもが虐待する親になってしまうこともあります。被害がそのような形で展開することもあるのです。これは、早く被害者の方に適切な対応をしなければ、こういうところに追い込んでしまいます。そのようなことは我々が理解しなければいけないのではないかと思います。

 最近私は、「被害者の三重苦」という言葉を使います。1つ目は精神的苦しみ、2つ目は金銭的苦しみ、そして3つ目は実は家族を失う苦しみです。被害にあうと怒りが出てきます。しかし、この怒りが自分に向かうとうつ状態になります。この怒りが加害者に向かえば、例えば、鈴木さんのように活動される推進力になったのかもしれません。ところが、その怒りを家族に向けたりすることがあり得るのです。例えば、娘を亡くした妻はそれについて夫にいろいろと言います。そうすると「お前は何をいつまでメソメソと言っているのだ」という言葉かけになってしまい、夫婦げんかが起こることはよくあるわけです。このようについつい家族内で紛争が生じる。すると、被害者は、家族の中で孤立し、家族が崩壊してしまう不幸を背負うことにもなりかねないのです。

 皆さんには、このように家族を失ってしまう苦しみまで背負わなければいけない被害者の方々のことも、ぜひご理解いただければと思います。どうもありがとうございました。


(大澤)

 ありがとうございました。それでは、立法に携わっていらっしゃる高津参事官から現在の状況および今後の法的整備の方向等について解説と課題のご指摘をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。


(高津)

 皆さんこんにちは。犯罪被害者等施策推進室参事官の高津です。よろしくお願いいたします。私からは基本計画の概要と政府の取り組みについて概略をお話して、その課題のようなこともお話したいと思います。

 すでに冒頭の副大臣挨拶の中などにも入っていたのですが、平成16年12月に「犯罪被害者等基本法」が制定されました。この基本法が制定される以前からも省庁単位での取り組みは特に警察、法務省を中心としてそれなりに一生懸命行われていました。しかし、それらの施策は時々に把握できている問題に対処するという対症療法的な形のものが多く、犯罪被害者等は実にさまざまな多様なニーズを有しているのですが、それらに総合的に十分に応えたものにはなっていませんでした。それを踏まえて平成16年に犯罪被害者等基本法が制定されたわけです。

 この基本法の内容には、3つの基本理念があります。1つ目は、初めて犯罪被害者について尊厳にふさわしい処遇を受けることを権利として保障したということです。2つ目は、個別の状況に応じて施策が実施されるべきことを規定したことです。3つ目は、平穏な生活を営めるようになるまで途切れなく支援を行うべきことを規定したことです。この3つの基本理念の下、それ以下の条文では国、地方公共団体、国民の責務などについて規定しています。この犯罪被害者等基本法は国や地方公共団体において講ずべき施策の設計図を示したようなものと言ってよいと思います。いわゆる骨組みです。この犯罪被害者等基本法の中で具体的な施策について基本計画を定めるべきことが定められ、また、「犯罪被害者等施策推進会議」を置く事などが定められました。そして、犯罪被害者等基本法は平成17年4月に施行されました。犯罪被害者等施策推進会議は官房長官を会長として特に犯罪被害者施策に関連の深い閣僚と有識者からなる会議ですが、これが内閣府に置かれ、一番最初の役割は基本計画案を作成することでした。この機関が重要事項の審議を行い、基本計画ができた後は、施策の推進の実施状況の検証をし、評価し、監視をしていきます。また、将来的には基本計画の見直し等も行う役割を担っています。

 これに伴い、同じ平成17年4月に私が現在勤めている「犯罪被害者等施策推進室」が設立されました。せっかくの機会ですので、この室の役割についても説明させていただきます。役割は主に大きく分けて2つあります。ひとつは先ほど述べました犯罪被害者等施策推進会議の事務局としての役割です。犯罪被害者等施策推進会議は閣僚が入っている会議であり、この会議をスムーズに運営して、必要な情報を適宜提供する事務局機能は非常に重要です。そして、必要な情報を議論しやすい資料の形にまとめる仕事は非常に大切です。もうひとつは主として広報啓発です。犯罪被害者等施策についての意義や重要性、国民の方々の理解がまだ十分でないところについて埋めていく役割を果たしています。この2つが大きな役割になります。そこで推進会議の下に基本計画検討会が設置され、検討の結果、計画案が策定されました。これが推進会議の決定を経て最終的に平成17年12月に閣議決定をされました。そこで今後の犯罪被害者等施策についての行うべき具体的な施策が定められたことになります。

 この基本計画を策定するにあたっては、犯罪被害者団体や国民の方々から広く意見を募集しまして、1066におよぶ意見、要望が寄せられました。これを有識者や関係省庁の職員からなる推進会議の下部に置かれた機関である犯罪被害者等基本計画検討会で、2時間の予定の会議が5時間以上におよぶ真剣な議論を経て基本計画は策定されました。この結果、定められた基本計画については1066の意見要望の内、別の形で叶えたほうがよいもの、あるいはむしろ不適切な結果になるようなごく一部のものを除き、すべて意見要望に対応するものとなっており、合計258の施策が定められました。

 この内8割の210余りの施策は直ちに実施すべき施策として、基本計画が閣議決定された直後から取り組みが始まっています。残りの2割は技術的な問題や、その前に検討しなければならない問題があるということで、直ちに実施ではありませんでしたが、それにつきましてはどういう方向で行うのかという方向性と、どれくらいの期間内に行うのかという期限を明記した上で基本計画に盛り込まれました。比較的簡単なものであれば1年以内、法改正等を伴うものは2年以内、特に難しいものは3年以内と、長くても3年以内にそれなりの施策が実施できるような形で基本計画に盛り込まれました。

 その中でも方向性は示せても特に困難な課題は大きく分けると2つ、全部で4つあるかと思います。ひとつは法務省で検討している犯罪被害者等の司法参加への取り組みです。これは附帯私訴と言ったほうがわかりやすいかもしれませんが、これは大澤先生からも先ほどお話があったところです。もうひとつは細かく3つあり、私たちは3つの検討会と呼んでおりますが、現在内閣府が事務局を務めまして、犯罪被害者等施策推進会議の下の検討会で検討がなされているものです。詳しくは後でお話をします。

 犯罪被害者等基本計画は5つの重点課題からなっており、これは犯罪被害者等基本法の中にある、このような施策を講じなさいというものを性質に沿って5つにまとめたものです。ひとつは、「損害回復、経済的支援等への取組」です。先ほど村尾先生からお話がありましたように犯罪被害者等は直接経済的な被害を被るのみならず、けがをして治療費がかかる、あるいは介護費用やリハビリ費用がかかる、職を失うなどさまざまな理由から経済的困窮に陥る場合があります。損害回復や経済的支援が必要となる場合が多いのですが、これに関する取り組みです。

 2つ目は、「精神的・身体的被害の回復・防止への取組」です。PTSD(心的外傷後ストレス障害)という言葉は馴染みが深くなっていると思いますが、精神的な被害、身体の被害はもちろん、さまざまな被害を受けます。また、二次被害です。周囲の人や我々のような行政機関などの言葉などからさまざまな被害を被ることがあります。さらに同じ人間から再び被害にあう、いわゆるお礼参りというものもあります。これは再被害と呼ばれます。このようなさまざまな側面で、精神的・身体的被害が発生しますので、それらの回復・防止への取り組みが重要になります。

 3つ目は、「刑事手続への関与拡充への取組」です。これは先ほどからお話しているとおりで、附帯私訴、あるいは司法参加です。被害者の方が主体的に刑事裁判に関与していくことなどがすべてこの中に入ってきます。

 4つ目は、「支援等のための体制整備への取組」です。支援等を行うにしても体制がしっかりしていないと、施策はあっても実施できないことになってしまいますので、そのようなことがないように体制をしっかりと整備していきなさいということが定められています。特に連携や民間団体に対する援助などが大きな施策です。

 5つ目は、「国民の理解の増進と配慮・協力の確保への取組」です。結局、犯罪被害者等を受け入れるのは地域社会であり、国民の皆様の理解、配慮がなければ、どれほど行政や民間団体ががんばって支援したとしても被害から回復することはできません。これは非常に重要な課題です。まさにこの「犯罪被害者週間」国民のつどいもその一環であります。

 基本計画の内容は以上のとおりですが、その進捗状況についても簡単にお話をしておきます。8割は直ちに実施され、その他14施策ほどは1年以内に実施になっていますので、これについては実施の体制に入っております。例えば、経済的支援の取り組みは警察の施策ですが、犯罪被害者給付制度がかなり拡充されました。従来の重傷病給付金は3カ月までの医療費しか出ない、入院は2週間以上でなければ出なかったものが、3日以上の入院で給付金が出る、あるいは期間も1年までは出るようになりました。このような状況ですので、先ほどの村尾先生がおっしゃった状況は新制度の下ではかなり改善されているのではないかと考えます。これは今年の4月からすでに実施済みです。

 その他にも性犯罪被害での緊急避妊や診断書料等について負担する制度ができたり、被害者等を公営住宅へ優先入居させるガイドラインができたりとさまざまな施策が進捗しているところです。精神的・身体的被害の回復であれば、PTSDの診断のための検査が新たに保険適用対象になりました。また、警察署や裁判所に被害者等専用待合室ができることになっています。「国民の理解の増進と配慮・協力への確保への取組」では、まさに犯罪被害者白書をつくったり、犯罪被害者週間でこのようなイベントを実施していることもそのひとつとなっています。

 先ほどの法務省の課題に関して、法制審議会への諮問が今年9月6日に行われたという話は冒頭の挨拶の中にもありました。3つの検討会については、今年の4月に3つの検討会を設け、「経済的支援に関する検討」「支援のための連携に関する検討」「民間団体への援助に関する検討」を現在行なっているところです。最初は正確に状況を知らなければ施策を検討しようにもできないということで、必要なヒアリング、海外制度の調査等を行い、構成員の方々の理解を深めることに努めてきました。この3つの検討会とも9月ごろから具体的な検討に入っています。

 ただ、この3つの課題は端的に被害者の方々の要望をストレートにお応えしていけばいいというものであれば、基本計画検討会のときに可能だったわけです。しかし、3つの検討会において検討期間を設けることになったことからもわかるように、困難な問題を抱えていることは事実です。「経済的支援に関する検討」であればもちろん財源の問題は非常に大きな問題としてありますし、犯罪被害以外にも気の毒な状況に置かれている方はたくさんいらっしゃいますので、そのあたりの公平をどのへんに見出すのかということです。国民の理解を得なければいけません。あるいは「モラル・ハザード」と呼ばれるもので、例えば保険金殺人があることからもおわかりと思いますが、お金が出るとなれば事件を起こす人の存在も出てくるのです。そのようなことに対する対策を取らねばならないなど、さまざまな困難があります。そのさまざまな困難を解決するべく調整を図りながら、可能な限り被害者の方々の意見や要望に応える提言ができるよう検討している最中であり、事務局である犯罪被害者等施策推進室としてもしっかりサポートしていきたいと思っております。

 「支援のための連携に関する検討」に関しても同様です。例えば、犯罪被害者の方が何回も同じ事を聞かれることは非常に苦痛であるということは多くの方々がおっしゃいます。いろいろな機関に行く度に何度も同じ事を話さなければいけないことを解決するために関係機関の連携を密にして、なるべくそのような負担をかけないようにしようとしています。そのような観点から連携に関して、どのような連携体制をとっていくのがよいか検討をしています。例えば、犯罪被害者の方はショックもありますし、羞恥心などから、どうしても最初から正確な情報を話すには難しいことがあります。また、聞く側の能力の問題もあります。もし最初に聞いた情報だけを確定したものとして伝えて、他の機関が一切聞かないということであればかえって被害者のためにならないことになります。やはり種々の調整を図りながら理想的な連携はどういうものかを検討していかなければいけません。

 「民間団体への援助に関する検討」が3つ目の課題ですが、民間団体は極めて重要な役割を果たすものです。どうしても行政は予め想定される事、そしてニーズの高い部分にしか対応できないのですが、民間団体は何より早期に対応したり、例外的なニーズにも対応でき、きめ細かい継続的な支援をしていくことが可能です。ですから、民間団体に対する援助は非常に重要な課題です。適切な例かどうかはわかりませんが、発展途上国にお金だけをあげても上手く回らないのは当たり前であり、やはりそれを支える人材育成が先行しなければならないなど非常に難しい問題を抱えています。どういう形で援助を行なっていくのがよいか現状を踏まえながら、現実的な観点から検討しています。

 その他の課題としては、やはり地方公共団体の取り組みを一層充実していかなければいけません。地方公共団体については我々に直接の権限がありませんので、お願いをすることになります。都道府県レベルではすでに施策を担当する窓口がほぼ出来上がりました。これはかなりの前進ですが、これだけでは被害者の方が直接窓口で対応を受けるなど、そういうことまではできません。あくまで施策を担当するという状況です。また、市区町村レベルでも同様の取り組みがなされていかなければ、きめ細かい支援は到底望めないことになります。内閣府においても、都道府県はもちろん、市区町村にも総合的に被害者の方々に対応できる窓口の設置や施策担当の窓口の徹底などを求めていきたいと考えております。ただ、もちろん財政の問題もありますので、専用窓口までできるかどうかはわかりませんが、被害者に対する理解が非常に深い人を1人でも育成して対応するようになれば、それだけでもかなり前進するのではないかと考えております。。

 最後に基本計画は基本法という骨組みに肉をつけたものです。要するに身体ができあがったのです。基本計画自体はかなり立派な身体だと思います。今、政府として行うべき事はこの基本計画を着実に、確実に実施していくことだと私は考えています。当たり前ですが、身体だけではダメなので、これに血を通わせて生命を与えないと、結局は冷たいものになってしまいます。生命を与える一番の要は支える人です。例えば、研修や犯罪被害者の方々の声を聞く機会を設けたりするなどという施策はたくさん入っており、もうすでに実施されています。しかし、結局は聞く耳を持ち、理解し、実践しなければあまり意味がありません。そこまでいって初めて意味があるわけです。施策の実施は研修さえ行えば施策は実施したことになりますが、それでは不十分です。いかに意味あるものにしていくかということは、人の意識の改革が重要であろうと考えています。ただ、これには非常に時間がかかります。被害者にまったく接していなかった人のほうがむしろ研修等は効果があるかもしれません。被害者に常日頃から接してきた人々は自分たちはそれなりにやってきたという自負心がありますので、それを越えて被害者の方々のつらい気持ちを真に理解し真に必要な支援を行えるかどうかは、今後の課題となると思います。これで私からは終わらせていただきます。


(大澤)

 ありがとうございました。後でいろいろとお聞きすることもあろうかと思います。それでは警察の現場から被害者対策室の石澤室長からお願いいたします。


(石澤)

 皆さんこんにちは。被害者対策室の石澤です。警察の被害者対策等を中心に簡単にご紹介させていただきます。今日皆さんは会場にお見えになっていますが、ショルダーバッグを持って来られている方もいらっしゃるかと思います。皆様がこのシンポジウムを終わって会場を出られ、表の玄関を出て右に曲がった瞬間に正面から走って来た自転車に乗った男にショルダーバッグをひったくられるということが現実に考えられます。そのような被害の話を私は何度か聞いたことがあります。
 皆様は被害にあったとき、携帯電話から110番をしたり、あるいは警察官がたまたま通りかかれば警察官を呼び止めて被害にあったことを伝えます。被害にあったときに、いきなり市役所へ走って行く方はいらっしゃらないと思います。だいたいは警察へ連絡をして、警察と最初に接触されるのではないかと思います。犯罪が発生した場合は、最初に被害者と警察という機関が接触することが多いと思います。それを出発点として被害の届出を受けて、いろいろな状況を聞いて、そして捜査をして、捜査の過程で必要ならば皆様からさらにお話をお伺いします。被害の回復やいろいろな意味で警察と被害者の方とのかかわりが一番多いと思います。被害直後から被害者の方とかかわる意味も含めて、被害者の方の被害直後の負担を和らげて、なるべく負担を軽くしてさしあげて、間違っても不適切な言葉を使ってさらに追い討ちを掛けるような二次的被害を与えてしまうことがないようにする必要性を感じながら、日々仕事を進めています。その辺のことについて順番にご説明をさせていただきたいと思います。

 先ほど大澤さんからもお話がありましたが、平成7年に地下鉄サリン事件が発生しました。そして、被害者の方が受ける精神的被害は大変深刻なのだということが認識され、警察庁でもいろいろな検討が行われました。そして、平成8年に「被害者対策要綱」をまとめました。これは現在警察で行なっている被害者対策の3つの基本的な考え方を示しています。

 1つ目は被害者対策を行うことが警察の設置目的の達成そのものであるということです。警察法では個人の権利と自由を保護することが設置の目的としてうたわれています。犯罪によって個人の利益などが侵害されるのを防ぐことは、当然に警察に課された義務ですが、被害が発生して侵害された状況を改善していくことも、警察の設置目的を達成するためには当然行うべき事柄になると理解されます。したがって、被害者対策は警察本来の業務であって、警察は被害者を保護する立場にあるという考え方です。

 2つ目は、被害者の方はいろいろなダメージを受けていますが、少しでも被害者の方のダメージを軽減してさしあげることによって被害者の方の負担が減ります。負担が減ることによって被害者の方が早く冷静になります。そして、その冷静になった分、警察の捜査に協力していただけるのではないかということです。結果として、警察の捜査も早く犯人にたどり着き、被害者の方の最大の関心事のひとつである犯人逮捕、検挙につながるということで、捜査の進展にも大変有意義だということです。

 3つ目は、捜査過程における被害者の人権尊重です。これは当然の事ですが、これまで被疑者の人権が尊重されてきたという中で、被害者についても人権を尊重していくということを再確認したわけです。被害者の視点に立った人権尊重の姿勢はやはり大前提として基本的に考えなければいけないということです。今申し上げたこの3つが、現在警察が被害者対策を行なっている基本となっています。

 次に、警察で実施している具体的な被害者対策についてご紹介をしたいと思います。大きく分けて、「被害者の方への情報提供」「精神的な負担の軽減」「捜査過程における二次的被害を防止する」「関係機関・団体との連携強化」、この4つをご紹介いたします。

 最初に「被害者の方への情報提供」です。実際に皆様が被害にあって、警察でこのような物をもらわれた方もいらっしゃるのではないかと思いますが、「被害者の手引き」というパンフレットがあります。被害によっていろいろなダメージを受けますが、被害を回復、軽減していくために、この手引きを警察でお渡ししています。この中身については、いろいろな刑事手続きや相談する機関の電話番号、これからの手続きがどのように進んでいくのかなどさまざまな事が書いてあります。被害者の方は被害にあった直後にどうしていいかわからないと大変困惑する中で、このパンフレットを見て少しずつ自分が冷静になりながら、情報を見ながら自分がやることを見極めてやっていくための資料にしていただきたいです。中にはいろいろな事が載っていますが、これを見ながら被害直後に自分がやるべきことを順番にやっていっていただく資料にしていただいています。

 それから被害者連絡制度です。犯罪の被害にあわれた方は、捜査の状況がどのように進んでいくかがやはり最大の関心事ではないかと思います。捜査の結果、なかなかわからなかった犯人が見つかり、捕まって、最終的には処分を受けていくことになりますが、捜査の状況に大変関心があるのは当たり前だと思います。特に殺人事件や傷害での死亡事故、死亡ひき逃げ事故など事件が重ければ重いほどその関心が高いことは当然ではないかと思います。したがって、このような犯罪の被害者の方や遺族の方については被害によって受ける精神的な苦痛は大変大きい、事件への関心も大きいということで、警察から捜査の担当者が積極的に捜査の状況等をお知らせするようにしています。

 また、平成9年に一部の被害者連絡実施要綱を改正し、いろいろな被害者の方への連絡の状況の管理を徹底するなど、中身の整備を図ってこの制度を運用しています。先ほど、基本計画のお話がありましたが、それと関連してこの被害者連絡制度についてはさらに充実をしていくことで検討が進められています。また、被害者の方からご希望があれば被害者の方のお住まいを管轄する交番の警察官が自宅訪問をして、被害の拡大防止やご要望の聴取などもして、実際に事件の捜査を担当した方の連絡とは別個に交番の勤務員が立ち寄りをすることなども実施をしています。

 次に「精神的な負担の軽減」についてお話します。警察では相談とカウンセリングを行なっています。ひとつ目は各種相談窓口です。一般市民の方は実際に事件や犯罪にかかわりを持つことはあまりないと思います。一生に何十回も事件にかかわったということはないと思います。ですから、そういった事件等に接した場合に、どのような手続きを取ればよいのか、どのような事が問題点になっているのかなど、おわかりにならないことは多いと思います。そのような場合に専門家に助言を求めて、どうしたらいいかを教えてもらう意味で、警察本部には被害者相談窓口を設置しています。

 例えば、少年の被害の相談であれば「ヤングビクティム・サポートコーナー」があります。それから今、被害が大変多くなっています、振り込め詐欺や悪質商法については、「悪質商法110番」があります。駅や列車内で痴漢の被害にあった、迷惑行為を受けた場合については「痴漢等迷惑行為相談所」を設置しています。また、「性犯罪110番」「交通相談センター」「暴力団からの不当要求拒絶コール」など、警察本部に電話を開設して相談をお受けしています。また、県下の各警察署においてもご相談をお受けしておりますので、皆さんも何かありましたら遠慮なく相談をしていただきたいと思います。

 相談をするときに、110番をかけて相談をする方がたまにいらっしゃるのですが、110番は緊急事件の対応で使っておりますので、皆さんが被害にあわれて事件の緊急通報ではなく相談したいという場合は110番を掛けるのではなく、「♯9110」が相談に使える回線となっています。もし何かありましたら「♯9110」へかけていただきたいと思います。

 カウンセリングについて説明をいたします。犯罪によっては大変大きな精神的被害を受けることがあると思います。心理学的な立場からは、村尾先生はご専門ですが、専門的なカウンセリングをしていただいて、精神的な負担の軽減を図るということで、私たちの被害者対策室にもカウンセリングを担当する者がおります。事件の被害者の方がカウンセリングが必要な場合には警察署から連絡をいただいて被害者の方のカウンセリングを実施しております。また、被害者支援センターとも連携をとり、民間のカウンセラーにも協力をいただいてカウンセリングをしている状況です。被害少年については、少年育成課で相談員を専門に担当する方がいますので、その方がカウンセリングを行い、対応しています。カウンセリングをしてよかったという被害者の方からの感想をいただいています。その他にも証人として裁判に出る場合の付き添い支援をしたり、裁判の傍聴の付き添いをしたり、被害者支援センターと協力をしながら、カウンセラーがそのような支援もしております。

 また、経済的な負担の軽減についてご説明いたします。犯罪被害給付制度の紹介がありましたが、通り魔殺人などの故意の犯罪によって不慮の死をとげた被害者の遺族の方、また重いけがを負わされ、あるいは身体に障害が残った被害者の方に対しては社会の連帯共助の精神に基づき、国が犯罪被害者等給付金を支給いたしました。これは、精神的、あるいは経済的な打撃の緩和を図る制度です。被害者の方が死亡した場合の「遺族給付金」、身体に障害が残った場合の「障害給付金」、重いけがを負った場合の医療費の自己負担分についての「重傷病給付金」の3種類です。

 成立のいきさつについては大澤弁護士からご紹介がありましたが、平成18年4月には制度の拡大として、重傷病給付金に関する制度の改正をしております。手続き的には被害者の方の住所地を管轄する公安委員会に申請の手続きをしていただき、公安委員会で審査をした後に支給されます。この手続きについては犯罪の発生を知った日から2年、または犯罪が発生した日から7年が経過したときには申請できなくなるので、被害者の方が必ず申請の手続きをすることができるように、被害者の方に制度についてお教えするようにしています。

 次に「捜査過程における二次的被害の防止」ですが、捜査過程において被害者の方が精神的な負担を受ける、二次的被害を受けることがないようにするということです。捜査員として被害者の方と接触するときはいろいろな配慮をしています。犯罪の内容や個人差はあると思いますが、一般の市民の方はめったに犯罪の被害にあうことはないと思います。そして、被害にあったことそのものに驚いてしまうことがあると思います。また、犯人がたまたま知り合いであったりする場合は精神的なショックはさらに大きく、目の前で被害にあったような状況があればさらに大きくなります。また、性犯罪や殺人などの犯罪の内容によっては極めて大きな精神的なダメージを受けることがあろうかと思います。被害そのものにダメージを受けている被害者の方にとって、捜査過程での捜査官の言葉や行動が被害者の方の心理状況におよぼす影響は大変大きなものだと思います。したがって、例えば、性犯罪の被害者からの事情聴取はなるべく女性警察官が担当する、あるいは捜査の過程では、性犯罪の被害の状況を再現することが必要なのですが、そういった場合は、人形を使って行なったり、被害届けの受理や捜査手続きを通じて被害者の気持ちに配慮した方法を考えながら進めてしていくように心がけています。また、捜査員が被害者の自宅に急行する場合には、事件の内容によっては周りの人に知られたくないこともあるわけで、そのようなときはパトカーではなく捜査用の、一般車両と区別がつかない車で現場へ行くような配慮もしています。いずれにしても捜査手続きにあたる警察官は、被害者の方が捜査によって余計な負担を負わないように、二次的被害を受けないように、出来る限りの配慮をするように努めています。

 警察官の場合、採用になると警察学校に入りますが、この学校で1年近く受ける採用時の研修があり、昇任をしたときにはやはり学校へ入って研修をします。また、刑事、生活安全、交通などの専門捜査員になる場合も研修を受けます。その他にもいろいろな研修がありますが、このような研修等を通じて、今申し上げた被害者の方に対する配慮が最重点事項のひとつであることを繰り返し研修で教えていくという形で徹底を図ってています。

 また、被害者支援要員制度という制度があります。これも被害者の方へ二次的被害を与えない、負担をなるべく軽くしてさしあげる制度です。例えば、殺人、強盗、強姦、ひき逃げなどの事件が発生した場合には、被害者の方に対する支援活動が被害の直後から必要になってきます。専門的な被害者支援が必要とされる事案が発生した場合には、捜査員とは別に予め被害者支援要員として指定をされた職員が被害発生直後から被害者の支援を行うこととしています。現在、神奈川県では県下54の警察署に約1800名の被害者支援要員が指定されており、万一事件が発生した場合には、被害者支援にあたるようにしています。任務としては、発生の直後から被害者の方に「自分が支援の担当者です」と自己紹介をするような形で接触をして信頼関係をつくります。そして、事件の内容にもよりますが、例えば、病院の手配、実況見分の付き添い、取るものも取りあえず出て来てしまった方の自宅への送迎、捜査の手続きのご説明などをします。また、ご家族が亡くなって病院へ来たが、他の家族には連絡をしないで来てしまったというような申し出があれば、ご家族へ連絡をしてさしあげます。ご家族が亡くなって皆さんが病院へ来てしまい、病院での手続きが終わってご遺体を持って家へ帰られるときに、家が何も片付いていないので家へ行って片づけをしたこともあります。これも被害者の方のご要望にしたがってということです。

 最後に、「関係機関・団体との連携強化」ということです。警察でしている支援にはやはり限界があり、被害者の方の幅広い要望にはなかなか応えられないので、他の行政機関やいろいろなところと連携をして対応させていただいています。2つご紹介いたしますが、ひとつは神奈川県被害者支援連絡協議会です。これは平成10年に検察庁等の国の機関、県、横浜市や川崎市などの行政機関、医師会、横浜弁護士会などの民間機関や団体、NPO法人神奈川被害者支援センターも含めて現在55の会員が加盟しております。事務局は私たち被害者対策室が担当していますが、先般、11月21日に第9回総会を行い、今日のシンポジウム「犯罪被害者週間」国民のつどい神奈川大会の開催準備を中心になってされました、県の安全・安心まちづくり推進課にも新たに加入をいただきました。被害者対策については、当課が県の総合的な相談窓口を担当することで、これからの被害者支援を進めていく上では重要な転機になったかと思います。また、このときにあわせて法テラスの日本司法支援センター神奈川地方事務所と、被害者支援の自助グループであるピア・神奈川にも加入をいただき、より充実した組織になってきたと思います。県レベルの支援についてはこの協議会を通じて連携をさせていただいています。

 それから、被害者支援ネットワークがあります。これは被害者の多様なニーズに応えるということで、各警察署管内のいろいろな機関や団体、民間企業の方に加わっていただき、被害者支援ネットワークという組織をつくっています。各警察署が事務局になり、被害者の方からご要望があれば、ネットワークの会員の通常の業務の範囲でご協力をいただきます。例えば、性犯罪の被害にあった方がアパートを移りたいが、なかなか不動産屋を回る機会、時間がないという場合に、どのような部屋がいいのかご要望を聞いて、それをネットワークの会員にお願いをしてアパートを紹介していただき、その方はすぐに引越しができたということで大変感謝されています。

 そのような形で被害者対策をいろいろやってきておりますが、これから状況が変化していく中で連携も重要であると思います。しかし、最終的には個人個人が被害者支援の重要性を理解し、支援していくことが本当に重要であると思います。ですから、職員1人1人にそのようなことを研修していくのと同時に私たちも勉強して、さらに被害者の理解をしていく必要があると思っています。以上です。


(大澤)

 ありがとうございました。こちらから向こうへ行くにしたがってだんだん時間が長くなっておりまして、5分、15分、20分、25分という具合でした。それだけ話の内容があるということで、ご理解をいただきたいと思います。これからパネルディスカッションになりますが、それを戦わせているゆとりがなさそうですので、私から若干のコメントを加えて、場合によってはパネリストのご意見を伺おうかなと思っています。

 最初の鈴木さんのお話や、あるいは基調報告の中で、「裁判になると、被害者は当事者だけではなくて放りっぱなしになっている」という言葉が出てまいりました。参事官は司法参加の問題をおっしゃいましたが、刑事手続きの中に犯罪被害者が当事者として参加したいという問題があります。これは確かに困難な問題でして、日弁連はなんとしてもそれは認められないと大反対をしています。これは刑事裁判の本質を変えるものであると当事者として被害者が参加することに対して強く反対をしているのです。先ほど申しましたように、被疑者・被告人には無罪の推定が働いて、そこに被害者と称する者が来て一方的に主張されては困るのだという無罪推定の法理論を危うくするものだという根拠で反対をしているのです。

 しかし、裁判のときに被告人は裁判長に向かって「申し訳ありませんでした」と言います。これは犯罪被害者の立場から申し上げると、あれは何だ、被告人が頭を下げる相手は被害を与えた我々ではないか、なぜ裁判長に向かって「申し訳ない、二度としません」とあのような反省の言葉を直接言うのか、本来自分に向かって言われるべき言葉ではないのかという思いが強くあるのです。我々は被害の当事者だ、当事者として犯人が裁かれる場に参加したいのだという強い意思を持っているわけです。鈴木さん、そうですよね?

 参事官、そういう気持ちをなんとか法制度として実現したいということで、それを諮問しているわけですよね? 

 そういうことをご理解いただきたいのです。もちろんこれは弁護士会が総力を挙げて反対をしていますから、そうたやすく通るかどうかはわかりませんが、事の本質はそういうところにあるのだということです。自分たちは被害の当事者であって、裁判の場合は当事者として処遇されなければおかしいのではないかという思いが被害者の司法参加、当事者としての参加問題です。

 私は基調講演の中で附帯私訴のことを申しました。刑事事件に附随、あるいは附帯して被害者に対して損害賠償請求を認めることも、ある意味で完璧な証拠が残っているのは民事裁判よりも刑事裁判であり、それを現実の損害賠償の算定に使いたいという被害者の言い分、または負担軽減の観点から裁判上における附帯私訴の問題が出てきているのです。これもそういう意味でご理解をいただければと思います。

 石澤室長のお話の中で、被害者の連絡制度ということがありましたが、これはいつごろから実施されるようになったのですか。


(石澤)

 これは結構前になりまして、手元に資料がないので、何年からというのはわからないのですが。


(大澤)

 大体で結構です。


(石澤)

 もう20年とか、そういう単位です。


(大澤)

 そのレベルですか。一部の人からは全然連絡がない、なしのつぶてということもあります。しかし、現在の指導としては、警察の捜査状況について積極的に連絡を取るように指導しているし、現場でもそれをしている態度のはずだということになるのですね。


(石澤)

 そうですね。


(大澤)

 そういうことですので、知り合いに万一被害にあわれた方がいらっしゃった場合には、警察は本来そういう形で被害者に対して連絡をして、捜査状況について説明する姿勢でいるのだということをぜひご理解いただければと思います。

 もうひとつは、犯罪被害者給付金というお話がありました。給付金は現在では1500万円ぐらいで金額としては一番大きくなりましたね。


(高津)

 はい。死亡者の場合は約1500万円が上限で、後遺症の場合は約1800万円ぐらいです。


(大澤)

 これぐらい拡充されたわけです。先ほどの村尾先生から500万円程度という話がありましたが、それと比べると相当拡充されているのが実情です。ただ、このような問題にかかわっている我々弁護士からすると、「まだ足りない」と言います。それはどうしてかいうことです。例えば、ひき逃げ事件で被害者をひいて逃げて犯人が捕まらない場合にどうなるかと言うと、政府保障事業というものがあり、自賠責保険に準じた扱いをします。これは亡くなった場合には3000万円ぐらいが支給されるということです。そのことが一番顕著に現れたのは、山口県で自動車で人を跳ねた上に、車から降りていき人を殺傷した事件です。自動車で跳ねられたほうは政府保障事業で、ある程度の交通事故に準じた補償がされたのですが、刺し殺されたほうは給付金で半分ぐらいの金額でしかないということになり、同じ被害にあいながら、故意でやられたほうがむしろ補償が少ないという実態があります。少なくとも我々弁護士が支援しているほうは、せめて交通事故のひき逃げレベルの補償がされるのが筋ではないかと思います。これには財源の問題もあるのでたやすくはいかないとは思いますが、そういうことを考えていると理解していただきたいと思います。

 ほとんど時間がない状態なので、最後に主催者側からどうしても聞いてほしいという事があります。「今後の地方自治体に犯罪被害者対策として望むこと」ということで、石澤さんを除く各パネリストからごく短くお話をお願いします。鈴木さんお願いします。


(鈴木)

 私たちの置かれている状況を広く一般の方に知っていただきたいです。私たちは一般の日常の中で生きなければいけないので、普通の人たちの理解がとても大切だと思うのです。その取り組みとして、メッセージ展をしているのですが、いろいろな所で、例えば映像表現や音楽などやわらかなソフトな部分を通して伝えていってほしいと思っています。


(大澤)

 ありがとうございました。次に村尾先生お願いします。


(村尾)

 私たちのセンターはまだ知名度が低いので、ぜひいろいろな所でご紹介をいただきたいということがひとつです。もうひとつはカウンセリングについてです。当センターでは無料でカウンセリングをします。しかし、危機介入ですから、大体5回ぐらいで終わりにして、終結するか、他のカウンセリングをする機関を紹介することになります。カウンセリングは保険の適用がきかないことが多く、高額な負担を強いられます。被害者の方が被害を受け、その上に高額なお金がかかるのはいかにも理不尽で、私たちは本当に心を痛めております。なんとかカウンセリングにかかるお金の補助を国家レベルで検討していただければなと思います。


(大澤)

 ありがとうございました。高津参事官。


(高津)

 まずは犯罪被害者等について知ることから始めていただきたいということと、一歩でも進めていただきたいということです。都道府県に関しては市区町村にも広めていただきたいです。内閣府は基本的にお願いをする省庁ですので、ぜひその点をお願いしたいと考えます。

 それから、皆さんのお手元の資料の中に緑色の冊子がありますが、これには犯罪被害者等基本法、基本計画について極めて詳しく載っています。解説ですので参照にしてください。展示コーナーにはこの見本があります。「犯罪被害者等施策」と書いてありますが、これは白書です。こちらを見ますとほとんどすべてがわかるようになっていますので、ぜひご参照ください。


(大澤)

 ありがとうございました。ということで、ぴったり予定の時間がまいりました。皆さん、長い時間いかがだったでしょうか。犯罪被害者の実情、課題に少しでも理解ができ、そしてそれを広めていっていただければ、このような運動に参加している者としてこれほどうれしいことはありません。今日は長い時間本当にありがとうございました。