第4節 総合的長寿社会対策の推進

1 長寿社会における警察活動の在り方

(1) 高齢者の意識の実態
 警察では、昭和61年2月、無作為に抽出した全国の60歳以上の高齢者4,915人を対象としてアンケート調査を実施したが、最近の地域社会に対する感じ方についてのアンケートの結果(有効回答者4,764人)は、表1-19のとおりで、「交通量が多くなり、安心して歩けない道路が増えてきた」と感じている者が2,166人と最も多く、全体の45.5%を占めている。次いで「家庭でのしつけができていない子供を見かけることが多くなった」が1,754人(36.8%)、「社会が複雑になってきたためか、理解に苦しむことが増えてきた」が1,611人(33.8%)となっている。
 これを住居地域別にみると、住宅団地や新興住宅街に住む高齢者では、「家庭でのしつけができていない子供を見かけることが多くなった」と感じている者が最も多いことが注目される。

表1-19 アンケートの結果(昭和61年2月)

 こうした最近の地域社会に対する要望についてのアンケートの結果(4,915人中、有効回答者4,674人)は、表1-20のとおりで、「高齢者が集まって話ができるような場所を提供してほしい」が1,899人と最も多 く、全体の40.6%を占めているほか、「高齢者にもできる仕事を見つけてほしい」が1,132人と全体の24.2%を占めている。

表1-20 アンケートの結果(昭和61年2月)

 これを住居地域別にみると、商店街や料理飲食店街等では、「子供や若者と接する機会を作ってほしい」と回答した者の割合(19.8%)が他の 住居地域に比べて高いのに対し、「高齢者にもできる仕事を見つけてほしい」と回答した者の割合(15.7%)が他の住居地域に比べて著しく低くなっている。このことは、商店街や料理飲食店街等においては、自家営業等で働いている高齢者が比較的多いことを示すものではないかと思われる。
 また、身近に起こるかもしれないと最も心配している犯罪や事故に関するアンケートの結果(4,915人中、有効回答者4,851人)は、表1-21のとおりで、「交通事故」が1,604人と最も多く、全体の33.1%を占めている。次いで「火災や地震等の災害」が846人(17.4%)、「家の中に侵入してくる泥棒や強盗の被害」が767人(15.8%)となっている。
 これを住居地域別にみると、商店街等では、「火災や地震等の災害に遭うこと」を挙げている者の割合が他の住居地域に比べてかなり高く、また、中・高層住宅団地等や旧来の住宅街では、「家の中に侵入してくる泥棒や強盗の被害に遭うこと」を挙げている者の割合が高くなっていることが目立っている。
 生活の平穏を守るために警察が最も力を入れるべきことに関するアンケートの結果(4,915人中、有効回答者4,831人)は、表1-22のとおりで、「交通事故の防止」が1,414人と最も多く、全体の29.3%を占めている。次いで「侵入盗の防止及び検挙」が1,039人(21.5%)、「少年の非行防止」が943人(19.5%)となっている。
 これを住居地域別にみると、中・高層住宅団地等、旧来の住宅街、会社・銀行街等では、「侵入盗の防止及び検挙」を挙げている者の割合が他の住居地域に比べて高く、また、商店街等では、「少年の非行防止」を挙げている者の割合が高くなっていることが注目される。

表1-21 アンケートの結果(昭和61年2月)

(2) 高齢者の期待する警察活動
 高齢者の多くは、最近の地域社会について、交通量が多くなったため

表1-22 アンケートの結果(昭和61年2月)

安心して歩けない道路が増えてきたと感じているほか、集まって話ができるような場所を提供してほしいと考えている。
 また、多くの高齢者が、身近に起こるかもしれないと最も心配している犯罪や事故として交通事故を挙げ、生活の平穏を守るために警察が最も力を入れるべきこととして、交通事故の防止のほか、侵入盗や少年非行の防止を挙げている。
 このような状況を踏まえ、長寿社会における今後の警察活動の在り方を展望すれば、まず、高齢者が安心して暮らせるよう、交通事故や侵入盗等の犯罪による被害を防止するための交通事故防止対策や各種防犯対策等を強力に進めることが重要であり、次に、高齢者が精神的にも豊かな生活を送るために何らかの生きがいを持つことができるよう、その豊富な知識、経験等を少年の健全育成に活用する機会を提供するなど、様々な角度から積極的に支援していくことが必要であると考えられる。その際、我が国より早く長寿社会を迎えている諸外国の施策を参考にすることが、よりよい長寿社会対策を推進する上で有効であると思われる。

2 高齢者の安全の保持

(1) 諸外国における高齢者保護活動
ア 米国
 ワシントン市では、高齢者の犯罪被害防止対策として、警察署ごとに指定されている住民対策担当官(community relations officers)が、その担当地区を回って、高齢者に対し防犯対策についての映画やスライドを見せたり、パンフレットを配るなどの活動を行っている。
 また、高齢者に係る交通事故の防止対策としては、市の自動車局が、運転免許証更新の際に、70歳以上の高齢者に対して、肉体的にも精神的にも自動車の運転に支障がないという医師の証明書を提出するよう求めている。運転免許証の更新は、4年ごとであるが、特に健康上問題がある者については、1年ごとに医師の証明書が必要であるとされている。さらに、75歳以上の高齢者は、更新の際に、筆記試験と路上試験の両方を受けなければならないこととされている。
イ ドイツ連邦共和国(西独)
 高齢者の犯罪被害防止対策としては、ハンブルク、ベルリン等の都市州において、高齢者を対象とした防犯広報活動を行っており、パンフレットを配るなどして、ドアの施錠等の設備、訪問者との応対要領、屋外や路上での防犯要領、万一被害に遭った場合の措置等について指導している。

 また、交通事故による歩行者の死者のうち、65歳以上の高齢者が毎年50%前後を占め、65歳以上の者が全人口に占める割合(約15%)を大幅に上回っているため、高齢者に係る交通事故防止対策として、ドイツ交通安全協会では、連邦交通省の協力、支援を得て、交通安全プログラム「道路交通における歩行者としての高齢者」(Ältere Menschen als Fuβgänger im Straβenverkehr)を企画し、1983年末から実施に移している。このプログラムは、高齢者自身の交通安全意識の高揚を図ることを目的とするもので、他の年齢層の者に対する教養、啓もう活動、あるいは歩行者保護のための法的、技術的改善措置(交差点の改良、速度制限、駐停車禁止、信号機の設置等)の実施とあいまって、歩行者としての高齢 者を交通事故の被害から守ろうとするものである。
ウ 英国
 デヴォン・コンウォール警察と南ヨークシャー警察では、高齢者の犯罪被害防止対策として、高齢者の居る家庭や老人クラブ等を訪問し、映画やビデオを用いての防犯指導や防犯呼び掛けパンフレットの配布等を行っている。
 また、運輸省は、高齢者に係る交通事故の防止対策として、70歳以上の高齢者に対する運転免許証の更新制度を設けている。英国の運転免許証は、70歳の誕生日の前日まで有効であるが、70歳以上の高齢者は、健康体であれば3年ごとに、身体に故障があればその程度に応じて1~3年ごとに運転免許証の更新を受けなければならないこととされている。
(2) 高齢者のための犯罪予防対策
ア 幅広い年齢層の人たちによる地域防犯活動の展開
 都市化の進展や地域社会における連帯意識の希薄化により、高齢者の生活の安全を確保するためにこれまで有効に働いてきた地域全体の犯罪抑止機能や相互扶助機能が、次第に低下しつつある。
 表1-19のアンケートの結果をみても、高齢者の多くが、変ぼうする地域社会に対して、何らかの不安感や疎外感を抱いており、地域社会が高齢者にとって暮らしやすい場であるとは言えない状況になっていることがうかがえる。
 このような状況において、地域社会における連帯意識を高め、地域全体で高齢者の安全を気遣う気運を醸成するための活動を防犯対策の一環として展開していくことは、高齢者のための犯罪予防対策としても極めて有効であると考えられる。その実施に当たっては、高齢者はもとより、青少年、主婦等を含めた幅広い年齢層の人たちが共に活動できる機会を設け、そのふれあいの中から高齢者の安全を気遣う気運を醸成していくことが重要である。
 このため、警察では、地域における防犯活動の中心的役割を果たしている防犯協会により一層幅広い年齢層の人たちが加入するよう努めるとともに、その活動内容についても幅広い年齢層の人たちが参加できるものを多く取り入れるよう指導していくこととしている。
イ 困りごと相談等の相談業務の充実
 高齢者をめぐる社会環境の急激な変化によって、高齢者が日常生活において直面する困りごとや悩みごとは、極めて多様化している。人口の高齢化が進む中で、こうした困りごとや悩みごとの相談に適切に対処していくことは、高齢者が精神的にも豊かな生活を営む上で重要な課題となりつつある。
 警察では、従来から、困りごと相談のための専用の窓口や電話を設け、住民からの相談に応じているが、高齢者からの相談の中には、一人暮らしの寂しさを紛らすために話し相手になってほしいというものや、身近に頼れる人がいないために不安を感じているというものなど、その対応に当たって特別な配慮を必要とするものが少なくない。これらの困りごと相談に適切に対応していくことは、高齢者の自殺、家出等を未然に防止する上で極めて有効であるほか、高齢者のための犯罪予防対策としても大きな効果があると考えられる。
 警察の困りごと相談に対する要望についてのアンケートの結果(4,915人中、有効回答者4,786人)は、表1-23のとおりで、「高齢者宅の巡回連絡の頻度を高めて、相談の機会を増やしてほしい」が870人と最も多く、全体の18.2%を占めている。次いで「警察に、困りごと相談専用の電話を開設してほしい」が828人(17.3%)、「巡回相談所を開設するなど、もっと相談しやすくしてほしい」が334人(7.0%)となっており、相談体制の充実を望んでいる者がかなりの比率に達していることが分かる。

表1-23 アンケートの結果(昭和61年2月)

 高齢者からの困りごと相談に適切に対処するため、警察では、高齢者問題に精通した専門相談員の養成、高齢者専用の相談窓口の設置をはじめとした相談体制の整備を図るとともに、困りごと相談のための専用電話の番号を全国で統一してその積極的な広報を行うなど、相談窓口を分かりやすいものにしていく必要があると考えている。
ウ 高度情報システム等の活用
 近年における高度エレクトロニクス技術の発達、各種通信システムの高度化等に伴い、防犯機器、防犯システム等によるホームセキュリティは、急速な発展を遂げており、今後、更に広く普及していくものと考えられる。警察では、これらの防犯機器等が高齢者の安全維持のために有効に機能するよう、様々な角度から検討を進めている。
(ア) ホームセキュリティ・システムの普及促進
 ホームセキュリティ・システムは、個人がその居住する家屋における安全を確保するための設備として極めて効果的である。高齢者の居る家庭にホームセキュリティ・システムが広く普及することは、屋内で犯罪や事故の被害を受けるおそれのある高齢者の安全確保を図る上で大きな効果があると考えられる。こうしたホームセキュリティ・システムが広く一般に普及していくためには、誤報防止対策、非常通報に対応できる体制の整備等について検討を重ねるとともに、防犯のための総合的なシステムの設計について研究開発を進めていく必要がある。
 このため、警察では、機械警備業者、防犯設備関係業者等と連携して、必要な検討を進めている。

(イ) 防犯広報におけるニューメディアの活用
 近年における情報処理技術の発達に伴い、ビデオテックス、有線テレビジョン、ファクシミリ放送、文字放送等のニューメディアが開発され、普及し始めている。家庭に居ながらにして必要な情報を得られるこれらのニューメディアは、住居地を中心に活動範囲が比較的限定されていることの多い高齢者にとって、日常生活の安全を確保するために必要な情報を得る上で、極めて利用価値の高いものになると思われる。
 警察では、従来から、高齢者を対象とする防犯広報として、老人ホーム、老人クラブ等における防犯講習、高齢者宅の訪問、リーフレット等の配布等を行ってきたが、今後は、ニューメディアを活用した広報活動についても検討を進めることとしている。
(ウ) はいかい老人探索システム
 精神障害、老人性痴ほう症等のために、一人で外出したまま家に戻らない性癖のある「はいかい老人」は、犯罪や事故の被害に遭う可能性が高いので、行方不明になった場合には、その速やかな発見と保護が必要である。
 警察では、行方不明になった「はいかい老人」の早期発見が可能となる「はいかい老人探索システム」の活用について、必要な検討を進めている。
 このシステムは、
[1] ポケットベルの受信機能と緊急通報用の発信機能を兼ね備えた装置を、衣類に縫い付けるなどして、あらかじめ「はいかい老人」に所持してもらう
[2] 「はいかい老人」がいなくなったときなどの緊急の場合に、家族等がポケットベルの番号をダイヤルする
[3] 「はいかい老人」の所持する装置が自動的に作動してIDコード(認識番号)電波を発信する
[4] 街頭の各所に設けた最寄りの中継地がこの電波を受信し、電話回線に連動して受信センターに知らせる
[5] 同センターのコンピュータが作動し、だれの装置が発信した電波をどこの中継地で受信したかを即時にブラウン管に表示する
というものである。

(3) 高齢者のための交通事故防止対策
 長寿社会の進展により、様々な分野において、高齢者の社会活動が活発になるものと予想され、道路交通の場においても、高齢者の安全を確保し、高齢者にとって快適な環境を整備することがますます重要な課題となりつつある。
 このため、警察では、高齢者の特性やその要望等に配慮した長寿社会にふさわしい交通事故防止対策を検討し、推進することとしている。
ア 高齢者に対する交通安全教育の充実
 警察では、昭和61年2月、無作為に抽出した全国の60歳以上の高齢者4,915人を対象としてアンケート調査を実施したが、交通安全教室や交通安全講習会への参加状況に関するアンケートの結果(有効回答者4,869人)は、表1-24のとおりで、全体の62.6%に当たる3,048人が、これまでに一度も参加したことがないと回答している。

表1-24 アンケートの結果(昭和61年2月)

 また、参加したことがないと回答した高齢者3,048人に対し、その理由を尋ねたアンケートの結果(有効回答者2,910人)は、図1-14のとおりで、有効回答者の45.8%に当たる1,334人が、交通安全教室や交通安全講習会の開催を知らなかったと回答している。

図1-14 アンケートの結果(昭和61年2月)

図1-15 アンケートの結果(昭和61年2月)

 一方、参加したことがあると回答した高齢者1,867人に対し、その理由を尋ねたアンケートの結果(有効回答者1,778人)は、図1-15のとおりで、交通安全を身近な問題と考えて参加した者が、約8割を占めている。
 今後、高齢者に対する交通安全教育を行うに当たっては、交通安全教室や交通安全講習会の開催についてより一層効果的な広報活動を推進するとともに、さらにその教育効果を高めるため、地域における高齢者の組織化や既存の組織の活性化を促しつつ、教育内容の充実を図ることとしている。
 高齢者に対する交通安全教育については、単に高齢者の交通安全意識の高揚を図るだけでなく、高齢者の地域活動への参加の意義を踏まえ、高齢者自身が地域の交通安全のために積極的な役割を果たすことを期待し、これを促すような工夫をしていくことが必要である。このため、警察としては、高齢者の特性やその要望等に十分配慮して、高齢者が進んで参加できるような交通安全教育プログラムの策定等を進めることとしている。

〔事例〕 群馬県警察では、群馬県、群馬県ゲートボール協会等の関係団体とともに、ゲートボール競技に交通ルールと交通マナーを盛り込んだ交通安全ゲートボールを考案し、その普及に努めている。60年9月には、群馬県交通安全ゲートボール大会が開催され、延べ40チーム、約200人の高齢者が参加して、楽しみながら交通ルール等を学んだ。
イ 安全で快適な交通環境の整備
 交通安全施設の整備状況に関するアンケートの結果(4,915人中、有効回答者4,811人)は、表1-25のとおりで、「十分に整備されている」と回答した者が1,675人と最も多く、全体の34.8%を占めている。次いで「歩道をもっと整備すべきだ」が1,554人(32.3%)、「道路標識をもっと大きくして、見やすくすべきだ」が882人(18.3%)となっている。
 警察では、これら高齢者の要望を踏まえ、今後とも道路管理者等の関係機関、団体と密接に連携、協力しながら、道路標識の視認性の向上を図るなど、高齢者にとって安全で快適な交通環境を確立するために必要な交通安全施設の整備を推進することとしている。

表1-25 アンケートの結果(昭和61年2月)

ウ 高齢運転者に関する調査、研究を踏まえた施策の展開
 高齢運転者の事故の実態や運転特性を正確に把握し、適切な対応策を講ずることは、高齢者に係る交通事故を防止する上で極めて重要である。
 このため、警察では、今後とも高齢運転者の事故の実態や運転特性に関する調査、研究を進め、その結果を踏まえて効果的な施策を検討し、高齢運転者の安全の確保に努めることとしている。
 一部の都道府県警察では、主として高齢運転者の希望者に対し、実際に自動車を使用しての運転技能診断や検査機器を用いた運転適性診断を行い、その結果に基づいて個々具体的に安全指導を実施して効果を上げているが、高齢運転者に対する運転技能診断や運転適性診断については、科学的な調査、研究の結果を踏まえて、更に効果的なものに改善していくことが必要である。自動車安全運転センターでは、61年度に「高齢運転者の心身機能の特性に関する調査・研究」を行うこととしているが、その調査、研究の結果が高齢運転者の安全を確保するための施策の充実に資することになるものと期待されている。
〔事例〕 北海道警察では、60年7月から、北海道交通安全協会の協力を得て、同協会の安全運転学校において、60歳以上の高齢者を対象に、速度反応検査、重複作業反応検査、夜間視力検査等を行い、その結果に基づいて個別安全指導を行っている。60年中に検査を受けた高齢者は、1,046人であった。

3 高齢者の生きがいの保持

(1) 諸外国における高齢者の社会参加活動
ア 米国
 米国における高齢者の社会参加活動の例として、近隣警戒プログラム(Neighborhood Watch Program)を挙げることができる。
 近隣警戒プログラムは、高齢者を含む多くの市民が参加し、強盗、侵入盗等の犯罪の被害に遭わないよう地域住民がお互いに警戒し合って、隣家に不審者が侵入したときなどには直ちに警察に通報するというものであり、米国の犯罪情勢が急激に悪化した1970年代から主要な防犯対策の一つとして採用され始め、今では全米各地で取り入れられている。
 犯罪多発都市として知られたミシガン州デトロイト市は、1976年に米国で最初にこのプログラムを採用したが、その結果、強盗、窃盗等の財産犯が地区により30~50%減少した。同市では、現在、約3,500に上る単位防犯組織が結成され、警察と地域社会の連携の中心的役割を果たしている。また、ワシントン市でも、1981年ごろから急速にこの防犯組織の組織化が進み、現在、約25万人がプログラムに参加している。
イ ドイツ連邦共和国(西独)
 西独において、連邦政府、州政府、自治体が自ら、あるいは宗教関係の団体を通じて行っている高齢者の社会参加活動の例としては、高齢者に対するスポーツ、遊戯、教養講座(老人大学、市民講座、高齢者に対する一般大学の開放)への参加の機会の提供や、高齢者の談話場所の提供、高齢者の集いの開催等が挙げられる。
 また、高齢者の豊富な経験を活用する道を開くことによって、その社会参加を促進する方策としては、連邦経済協力省が中心となって推進している SES(Senioren-Experten Service)がある。これは、高齢の熟練工を海外開発援助に活用しようというもので、現在、約60のプロジェクトが進められている。
 このほか、生きた歴史の証人として、高齢者を政党の集会、成人教育、学校教育の場に招いてその体験談を話してもらったり、高齢者の証言をまとめて出版することなどが行われている。
(2) 高齢者の社会参加活動の推進
 高齢者が地域社会の一員として生きがいを感じながら暮らすことのできる豊かな長寿社会を形成するためには、高齢者をめぐる地域社会の連帯感を醸成するとともに、高齢者の社会参加を促進するための各種施策を推進することが極めて重要である。
 高齢者が参加できる社会活動には、趣味、スポーツ、文化活動等多種多様なものがあるが、高齢者がその知識や経験をいかすことによって安全で住みよい社会づくりに貢献でき、かつ、生きがいを感じられる活動としては、社会奉仕活動が最も適しており、今後、積極的にその推進を図る必要がある。
ア 高齢者の社会奉仕活動の実態
 高齢者の社会奉仕活動への参加状況に関するアンケートの結果(4,915人中、有効回答者4,855人)は、表1-26のとおりであり、「現在、社会奉仕活動を行っている」と回答した者が889人(18.3%)、「行っていない」と回答した者が3,966人(81.7%)で、社会奉仕活動を行っていない者が約8割と圧倒的多数を占めているが、80歳以上の高齢者でも10.9%の者が社会奉仕活動を行っていることが注目される。
 現在、社会奉仕活動を行っていると回答した高齢者889人に対し、その活動内容を尋ねたアンケートの結果は、図1-16のとおりで、「道路や公園等の清掃活動」が319人と最も多く、全体の35.9%を占めている。

表1-26 アンケートの結果(昭和61年2月)

次いで「交通安全の指導、火災予防の見回り等地域社会の安全に資する活動」が121人(13.6%)、「緑化、自然保護等地域社会の美観の向上に資する活動」が121人(13.6%)、「将棋、生け花の指導等少年の健全育成に資する活動」が41人(4.6%)となっている。
〔事例〕 広尾町老人クラブでは、地域の交通事故の防止に役立ちたいと考え、交通標語を書いた短冊と鈴を取り付けたしじみ貝を使ってキーホルダーを作製し、昭和53年から毎年、4月、9月、10月の3回、国道において、警察官、緑のおばさん等とともに通行中の車両の運転者に配布している(北海道)。

図1-16 アンケートの結果(昭和61年2月)

イ 社会奉仕活動に対する高齢者の意識
 現在、社会奉仕活動を行っていないと回答した高齢者3,966人に対し、今後の参加の意欲を尋ねたアンケートの結果(有効回答者3,830人)は、表1-27のとおりで、全体の51.2%に当たる1,961人が、可能ならば社会奉仕活動に参加したいと回答している。

表1-27 アンケートの結果(昭和61年2月)

 これを年齢層別にみると、高齢になるほど社会奉仕活動への参加意欲が低下しているものの、80歳以上の高齢者でもその約3分の1の者が意欲を示していることが注目される。
 また、高齢者にふさわしい社会奉仕活動の内容を尋ねたアンケートの結果(4,915人中、有効回答者4,708人)は、図1-17のとおりで、「道路や公園等の清掃活動」と回答した者が1,813人と最も多く、全体の38.5%を占めている。次いで「交通安全の指導、火災予防の見回り等地域社会の安全に資する活動」が970人(20.6%)、「緑化、自然保護等地域社会の美観の向上に資する活動」が750人(15.9%)、「将棋、生け花の指導等少年の健全育成に資する活動」が710人(15.1%)となっている。この結果を現在行っている社会奉仕活動の内容に関するアンケートの結果(図1-16)と比較すると、「交通安全の指導、火災予防の見回り等地域社会の安全に資する活動」と「将棋、生け花の指導等少年の健全育成に資する活動」の割合が著しく高くなっていることが注目される。
〔事例〕 静岡市老人クラブ連合会では、毎年初夏に行われる「静岡祭」の際に、警察と協力して「手作り広場」を設け、子供たちと一緒に竹細工、竹馬等を製作しながら日ごろの出来事について話し合うなど、老人と子供たちのふれあいと親ぼくを深めている(静岡)。

図1-17 アンケートの結果(昭和61年2月)

ウ 高齢者の社会奉仕活動の推進
 高齢者の社会参加を促進するためには、高齢者の社会奉仕活動の実態、社会奉仕活動に対する高齢者の意識等を踏まえ、高齢者にふさわしい社会奉仕活動の場を提供し、積極的な参加を促すよう努めることが必要である。
 警察では、従来から、防犯活動、青少年健全育成活動、風俗環境浄化活動、交通安全活動等の地域社会に密着した活動を展開するに当たって、高齢者による社会奉仕活動の場を提供してきたが、高齢者がこれらの活動を行う中で生きがいを感じる大きな要因としては、社会に貢献しているという精神的充足感が得られること、子供たちとふれあうなど世代を超えて地域の人たちと交流できること、高齢者相互の親ぼくを深められることなどが挙げられる。
〔事例〕 福江警察署A駐在所のB巡査は、管内の老人クラブの会長(78)が、週に一度、小学校の正門前で通学児童への声掛けや交通安全指導を行っていることを知り、老人クラブ全体でこれらの活動を行ってはどうかと同会長に助言した。これにより、60年7月、老人クラブの総会で「孫を見守る会」が結成され、以後毎月、会員が警察官と共に街頭に立ち、通学児童に対して「一声呼び掛け運動」や横断歩道の正しい渡り方等の交通指導を行っている。このため、学校では子供のあいさつが良くなったと喜んでおり、また、全校生徒が春休みに老人クラブに手紙を書き、感謝の意を表した(長崎)。
 警察では、今後とも、地域社会に密着した様々な警察活動の中に、高齢者が参加しやすい内容のものをより多く取り入れるとともに、その積極的な広報、啓発活動を行い、高齢者の参加について支援、協力するなどして、高齢者の社会参加を促し、長寿社会における警察への期待にこたえていくこととしている。


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