第1章 長寿社会における警察の役割

~豊かな長寿社会を目指して~

 近年における医学・医療の進歩、公衆衛生の向上、国民の食生活の改善、出生率の低下等によって、我が国は、急速に長寿社会へと移行しつつある。すなわち、昭和60年の国民の平均寿命は、男性が74.84年、女性が80.46年で、世界一の水準に達しているほか、60歳以上の高齢者の人口をみても、10年前には約1,315万人で、総人口の11.7%であったのが、60年10月1日現在約1,778万人で、総人口に占める割合も14.7%となっている。この比率は、今後ますます高くなり、21世紀初頭には20%を超えるものと予想され、高齢化の進行速度は、他国に例を見ないほど急速なものとなっている。
 一方、都市化の進展や地域社会における連帯意識の希薄化、家族構成の変化等は、家庭や地域社会が伝統的に有していた自律的問題解決機能、相互扶助機能、犯罪抑止機能等の低下を招き、人々の生活に様々な事件、事故等の問題を発生させている。特に、判断力や肉体的機能の低下した高齢者は、このような社会の変化に大きな影響を受けやすく、種々の問題にさらされている。例えば、高齢者特有の原因による自殺や家出の増加、主に高齢者を対象とした悪質な商法の横行、高齢者に係る交通事故の多発、逃げ遅れて火災等に巻き込まれた事案の発生等は、家庭や地域において今や深刻な問題となりつつあり、早急に有効な対応策を講ずることが求められている。
 このため、警察では、犯罪の検挙や事故の防止に努めるほか、各種防犯対策や困りごと相談等の総合的な施策の推進を図っているが、人口の 急速な高齢化と様々な社会情勢の変化がもたらすこれらの問題に対しては、既存の社会システム全般を長寿社会に対応して再構築していくことが基本的に必要であり、地域社会に密着し、昼夜を分かたず各種の活動を行っている警察には、高齢者にとって安全で住みよい生活環境の実現や高齢者の社会参加の促進等の分野において大きな期待が寄せられている。
 今後、国民の期待にこたえ、豊かな長寿社会を築いていくためには、高齢者の生活の安全を確保しつつ、高齢者がその能力を地域社会において有効に発揮できるよう支援することが必要であり、より一層総合的な施策を展開し、その充実を図っていかなければならない。その際、長寿社会を将来支えることになる少年の健全な育成が極めて重要な課題であることにかんがみ、長年にわたって培われた高齢者の各種能力を少年の健全育成にも役立てるなど、世代間の交流を促進し、地域社会の連帯意識を醸成するような施策を推進することが肝要である。
 以上のような観点から、警察では、高齢者が生きがいを持ちつつ、安心して暮らすことができる豊かな長寿社会を築くための諸施策を推進していくこととしている。


目次  次ページ