第3節 大量交通時代への対応

1 科学技術を結集した交通管理

 自動車交通が年々増加の一途をたどる中で、交通の安全と円滑を確保するためには、交通管制センター、信号機、道路標識等の交通安全施設の果たす役割が極めて重要である。
 信号機については、地点感応式、系統式を導入し、その機能を高度化させている。また、道路標識については、可変標識等の整備を進めている。さらに、交通の過密化が進む都市において、安定した交通機能を維持していくためには、総合的な信号制御、交通情報の提供が不可欠であり、最新の科学技術を活用した交通管制センターの整備を積極的に進めている。
(1)高度化する信号機、道路標識
ア 信号機
 信号機は、交差する交通を時間的に分離し、交通流の交錯による事故を防止することを大きな目的として設置される。同時に、交通の円滑を確保するための機能を保持させる必要があり、種々の改良を図り、きめの細かい運用を行っている。
 まず、交差道路相互の交通流を車両感知器により感知し、それに応じて青信号の表示時間を変化させ、交通流に応じた制御を行う地点感応式の信号機への改良を進めている。また、路線全体で複数の信号機を相互に連動させる系統式を整備している。しかし、都市部の道路網における多数の信号機を広域的に関連付けて総合的、効率的に制御していくためには、交通管制センターによる地域制御式によることが必要になる。
 このような信号機の地点感応化、系統化、地域制御化を図ることを高度化と呼んでいる。昭和59年度末における高度化状況は、表1-4のとおりであり、今後、高度化率を更に高めていく必要がある。

表1-4 信号機の高度化状況(昭和59年度)

イ 道路標識等
 朝夕のバス専用レーンの設定のような時間帯を限って行う交通規制をドライバーに分かりやすく表示するため、曜日、時間に応じて表示パターンが変化する可変標識の整備を進めている。可変標識のうち路側に設置するものは、マイコンを使用するとともに、太陽電池を電源に用いており、エネルギー節約及び電柱からの引込線の廃止による都市美化にも貢献している。
 また、郊外と都心を結ぶ幹線道路のように朝夕で上り下りの交通量が極端に異なるところでは、それに応じて車線数を変化させる中央線変移システムを整備し、道路の効率的利用を図っている。

(2)都市交通機能確保のかなめ、交通管制センター
 交通管制センターは、コンピュータ、電子通信機器等を活用して膨大な交通の流れを安全かつ効率的に制御するための施設で、次のような機能を持っている。



[1] 道路上に設置された超音波式車両感知器、テレビカメラ等により、交通情報を広域的かつ大量に収集する。収集された交通情報は専用回線等を通じて、リアルタイムで交通管制センターに集められる。
[2] コンピュータにより、集められた交通情報を分析、処理し、地図板に渋滞状況等を表示するとともに、信号機や道路標識、道路標示の制御パターン及びドライバーに提供する交通情報を自動的に作成する。
[3] 信号機や道路標識、道路標示を専用回線等を通じて制御し、また、交通情報提供装置により交通情報をドライバーに提供し、交通流の配分、誘導を行う。
 昭和59年度には、長岡、佐世保の2都市に交通管制センターを新設し、これにより、都道府県庁所在地を含む主要72都市に交通管制センターが整備されるに至った。この結果、制御対象地域に含まれる都市の数は200を超え、全信号機11万6,616基のうち26.7%に当たる 3万1,162基の信号機が交通管制センターのコンピュータにより制御されている。また、交通管制センターに接続されている字幕式可変標識やテレビカメラ等の整備状況は、表1-5のとおりである。

表1-5 交通管制センター等の整備状況(昭和59年度)

 58年度に整備した釧路、土浦、横須賀の交通管制センターの設置効果は、表1-6のとおりである。このように、交通管制センターは、大量化する都市交通の安全性と円滑性の向上に大きな効果を挙げており、今後、その整備を一層進めていく必要がある。

表1-6 交通管制センターの設置効果

 

 最新の交通管制センターは、交通需要の増大による交通の過密、混合化の進展に対処するため、新しい信号制御方式等を導入している。例えば、数分先の交通量を予測して信号を制御し、渋滞の発生を未然に防止する予測制御方式や、右折交通量の変化に応じて矢印表示を制御する右折感応制御方式である。
 こうした制御方式が採用可能となったのは、コンピュータの高速化、大容量化と、センサー技術の発達に負うところが大きい。そこで、既設の交通管制センターについても、最新のコンピュータを導入し、その機能の向上を図る必要がある。また、センサーに関しては、交通量や速度を同時に測定でき二輪車も感知可能な超音波式ドップラー感知器や、画像処理により複数車線の交通量等を測定できる車両感知器の実用化を進めている。
(3)交通情報提供機能の拡充
 交通情報を収集、分析して運転者に提供し、交通流の配分、誘導を行うことは、交通規制、信号制御と併せて、交通状況の変化に適応した交通管理を行うために極めて重要である。
 現在、交通情報の提供は、交通管制センター等の活動を通じて収集した情報を基にして、主要な地点に設置されている電光式のフリーパターン式交通情報提供装置等によって行うほか、電話照会に対する回答やテレビ、ラジオ放送を通じて行っている。昭和59年度中に、(財)日本道路交通情報センターが行った情報提供の状況は、テレビ放送によるものが約5,500回、ラジオ放送によるものが約18万5,000回、電話照会に対するものが約770万回であった。また、最近は、複数都道府県にまたがる広域交通情報に対するニーズが強くなっているため、各都道府県の交通管制センターのコンピュータを接続し、相互に交通情報の交換を行っている。今後更にこの方式を拡充していく必要がある。
 58年12月には、よりきめ細かな交通情報の提供を目的として、警視庁管内2箇所(半蔵門、三原橋)において、経路選択等のために必要な交通情報をカーラジオを通じて局地的に提供する路側通信システムの運用を開始した。このシステムは、当初、あらかじめテープに録音した内容を流す方式であったが、59年4月には、この機能を高度化し、車両感知器によって収集した交通情報に基づき、コンピュータによって自動的に交通情報のメッセージを編集し、それを音声に合成する方式を採用して、交通情報提供の迅速化を図っている。さらに、60年5月には、環状7号線の加平(東京都)で新たに路側通信システムの運用を開始する予定である。
 情報化社会の進展とともに、今後も交通情報に対する国民の要求はますます強くなるものと予想されるため、ビデオテックス等のニューメディアを活用して交通情報を画像として提供するシステムの研究や、発光ダイオードを用いた信頼性が高く消費電力の小さい交通情報提供装置の開発を行っている。

2 コンピュータ・システムによる運転者管理業務

 全国の運転免許保有者数は、昭和59年中に5,000万人を超え、我が国は名実ともに国民皆免許時代を迎えている。このような中で、迅速できめの細かい運転免許行政を求める国民の要望にこたえ、かつ、大量の運転免許保有者にかかわる運転免許行政を能率的に推進するため、警察では、コンピュータを活用した運転者管理システムを採用している。
 運転者管理システムは、警察庁に設置された大型コンピュータと都道府県警察のデータ伝送端末機器から構成され、膨大な運転者に関するデータを全国一元的に管理、運用している。
(1)運転免許証の即日交付
 運転免許は全国を通じて有効なものであり、運転免許証の交付の際には、全国すべての事故、違反、行政処分歴等のデータとの照合が必要である。これらのデータはあらかじめ警察庁のコンピュータに登録されており、各都道府県警察が運転免許証の交付の際に端末機器を通じて照会できるようになっている。
 従来、免許証の交付には、申請を受理してから1週間前後を要していたが、昭和57年1月に、即時処理(リアルタイム処理)方式が実現されたことに伴い、即日交付が可能となった。これにより、59年度末現在では、新規、併記、再交付の免許証については全都道府県で、また、更新免許証については35都道府県で、即日交付が実施されており、国民の利便が増進されている。
(2)危険運転者の早期排除
 運転免許の取消し、停止等の行政処分による危険運転者の排除は、点数制度(運転者の違反や事故に、その内容に応じて一定の点数を付し、その運転者の過去一定期間内における合計点数に応じて行政処分等を行う制度をいう。)によって、運転者の危険性の度合いに応じて合理的かつ効果的に行われているが、ここでも運転者管理システムは不可欠の役割を果たしている。
 行政処分を行うためには、違反や事故が全国のいかなる場所で行われたものであっても常にこれを把握し、その違反者の過去一定期間内の合計点数が処分基準に該当することとなった場合には、その者の住所地を管轄する都道府県公安委員会にその旨通報されることが必要であるが、このような点数の計算、通報は、警察庁のコンピュータによって集中的に処理されている。
 さらに、危険運転者の排除を一層迅速化するためのシステムの開発、導入に努めている。例えば、違反、事故等のデータのコンピュータ入力をOCR(光学式文字読取装置)化することによる登録事務の迅速化が、また、警察庁からの通報データの受理から、関係書類の作成、その処分の登録までの一連の業務をコンピュータ処理することによる行政処分事務そのものの迅速化が都道府県警察で推進されている。今後とも、これらのシステムを拡充して行政処分の早期執行を図っていくこととしている。


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