第1節 地域社会に密着した警察活動

 全国すべての地域はいずれかの派出所、駐在所の管轄区域に属しており、派出所は主として都市部に置かれ、交替制の警察官が昼夜を問わず警戒に当たっており、駐在所には原則として1人の警察官が家族とともに住み込んで勤務している。
 これらの派出所、駐在所(以下「派出所等」という。)は、全国約1万5,000箇所に上り、ここに勤務する警察官と約2,600台の警ら用無線自動車(以下「パトカー」という。)に乗務している警察官は、パトロールや巡回連絡等を行いながら、犯罪の予防や交通の指導取締りをはじめ、迷い子や酔っ払いの保護、遺失物、拾得物の取扱い、困りごと相談等地域に密着した幅広い活動に当たっている。

1 地域の安全と平穏を守る警察活動

(1) きめ細かな警戒、警ら活動
 派出所等の警察官は、常に無線機を携帯して、パトカーや通信指令室と密接な連携を取りながら管内の事件、事故の発生状況を分析し、犯罪等の発生しやすい時間帯、あるいは多発する場所に重点を置いたパトロールや立番等の警戒活動を行っている。
 この結果、昭和58年に警察が検挙した刑法犯検挙人員の69.7%に当たる約30万6,000人を派出所等の警察官が検挙したほか、覚せい剤事犯や交通法犯等の特別法犯検挙人員についても全体の54.4%を検挙している。
 また、パトカーは、原則として警察署に配置され、昼夜を問わず管内のパトロールや主要地点にとどまっての警戒活動を行っているが、事件等が発生した場合には、通信指令室や警察署の指令を受けて現場へ急行し、犯人の検挙や事故の処理に当たっているほか、パトロールに際しては、住民からの意見や要望を聞いたり、犯罪や事故の防止の指導に努めている。これらのパト カーのほか警察署から遠い地域にある駐在所には約1,100台の小型のパトカーが配置され、地域の隅々までパトロールを行ったり、幼稚園等での交通安全教育にも活躍するなど地域に溶け込んだ「ミニパトカー」として親しまれている。
(2) 110番、直ちに出動
 通信指令室は、110番の受理と派出所等の警察官やパトカーに対する指令センターとして、全国の警察本部に置かれており、初動活動の中枢として重要な役割を果たしている。通信指令室では、110番で殺人や強盗等の犯罪の発生通報を受けると、直ちにパトカーや派出所等の勤務員を現場へ急行させるとともに、必要に応じ、緊急配備や広域緊急配備を発令したり、全国の警察本部にも通報して、警察力を緊急かつ組織的に動員して犯人の早期検挙に努めている。
 昭和58年に全国の警察で受理した110番の件数は、約325万件で、前年に比べ約8万件(2.5%)増加した。これは9.7秒に1回、国民37人に1人の割合で利用されたことになる。また、110番の受理件数を内容別にみると、図1-1のとおりで、交通事故、交通違反等の通報が約100万件(30.9%)と最も多く、刑法犯被害の届出は約31万件(9.4%)、困りごと、要望の通報は約21万件(6.4%)となっている。110番受理件数を時間帯別にみると、表1-1のとおりで、午後8時から午前0時までが最も多い。

図1-1 内容別110番受理件数(昭和58年)

表1-1 時間帯別110番受理件数(昭和58年)

2 ふれあいを深める警察活動

(1) 身近な相談の機会、巡回連絡
 巡回連絡は、派出所等の警察官が、担当の区域内の家庭や事業所を戸別に訪問し、住民から要望や意見をくみ取り警察活動に反映させるとともに、警察からも犯罪や事故の防止等について必要な連絡を行う活動である。巡回連絡の際は、家族構成や非常の場合の連絡先等も尋ねており、災害や事故の際の緊急連絡や地理案内等に役立てている。
(2) 一所管区一事案解決活動
 警察では、派出所等の管轄区域ごとに、地域の抱える問題の中から重要なものを一つずつ順に取り上げ、警察官が地域の住民とともに解決していく「一所管区一事案解決活動」を推進している。
〔事例〕 宇和島警察署A駐在所の管内にある漁港の荷揚げ場は、付近の住民や釣客の駐車場所に利用され、過去には車が転落し死者が出たこともあった。受持ちのB巡査は、安全措置を望む付近住民の声を受けて、自治会役員と協議し、「要望書」を作成、町や漁協の関係者と粘り強く交渉した。その結果、約1箇月後、町、漁協、県により海岸沿いの約100メートルにわたって高さ15センチメートルの車止めが設置された(愛媛)。
(3) 1万4,100種類の「交番新聞」
 全国の派出所等では、約1万4,100種類のミニ広報紙を発行している。この広報紙は、警察官の手作りのもので、管内の事件、事故とその防止策や善行児童の紹介、住民の声等身近な出来事を伝える「交番新聞」として親しまれている。
〔事例〕 熱海警察署C駐在所のD巡査は、地域住民とのふれあいを深めようと、駐在所に赴任当初から、ミニ広報紙を作成し、自己紹介や地域での身近な出来事を掲載してきたが、管内に居住する女性脚本家がこの広報紙を読んで、10月の週刊誌の連続随筆欄に「『今までの制服アレルギー』を治してくれた私の町の駐在さん」と題して、D巡査とミニ広報紙を紹介した(静岡)。

(4) パトロールカードで「異状ありません」
 警らや巡回連絡の際には、戸締りの不十分な家庭や無施錠の車両等に対して「パトロールカード」を配布して防犯上の注意を促したり、落とし物を届け出た善行児童や子供の危険な遊びの実態を保護者に知らせるため「ミニレター」を活用している。

3 警察に寄せられる住民の困りごと

(1) 増加の一途をたどる困りごと
 このように、常に地域住民と接している警察官には、住民が抱える困りごとや要望(以下「困りごと等」という。)が数多く寄せられている。例えば、110番は、本来、事件、事故等の緊急通報用として設けられたものであるが、住民の困りごと等が寄せられることも多い。過去10年間の110番に占める困りごと等の件数の推移は、図1-2のとおりで、昭和58年は49年に比べると110番の総件数は1.5倍、困りごと等の件数は2.1倍となっている。
(2) 多岐にわたる困りごと
 昭和58年11月21日から10日間に、警察に寄せられる地域住民の困りごと等

図1-2 110番に占める困りごと等の件数の推移(昭和49~58年)

について全国調査を行った結果、派出所等の警察官に寄せられたものと、110番通報により通信指令室に寄せられたものの総数は約5万6,000件にも上っている。その内訳は、表1-2のとおりで、交通関係が43.7%を占め、なかでも駐車対策が最も多い。次いで、騒音の防止が多く、これは、夜10時から深夜2時までの間に集中しており、夜間も活動している行政機関としての警察に寄せる住民の期待の大きいことが分かる。また、パトロールの強化を望む声も多く、犯罪や事故に対する住民の不安感の根強さがうかがわれる。このほか、少年非行の防止、サラ金や訪問販売等消費生活問題、いたずら電話、家庭不和等多種多様な相談が寄せられている。
(3) 地域別にみた困りごと
 困りごと等の内容を地域別にみると、図1-3のとおりである。どの地域をみても交通関係が最も多いが、大都市周辺の人口急増の続いている衛星都市の住民は、騒音や放置自転車、痴漢等の迷惑行為に関する困りごと等を多

表1-2 派出所等の警察官及び110番通報により通信指令室に寄せられた困りごと等(昭和58年)

図1-3 地域別にみた困りごと等の内容(昭和58年)

く抱えており、パトロールの強化を望む声が特に多い。
(4) 大部分は派出所等の警察官で解決
 困りごと等の大部分は派出所等の警察官の指導、助言により解決しているが、警察だけでは措置できないものは他の適当な機関を紹介し、また、派出所等の警察官が即断できないものは、交通、防犯、少年、刑事等の担当係へ連絡してその解決を図っている。
 困りごと等の措置の状況は、図1-4のとおりである。
〔事例1〕 派出所員が巡回連絡中、主婦(52)から「隣の喫茶店が夜遅くまでカラオケの音を高くして騒ぐので眠れない。直接には言いづらく困っている。」との相談を受けた。夜間警らの際、同喫茶店に立ち寄り、屋外に漏れる音を店主に確認させたところ、意外に大きな音に本人も驚き直ちに音量を下げるとともに、翌朝、近隣にわびて回った(北海道)。

図1-4 困りごと等の措置の状況(昭和58年)

〔事例2〕 派出所員が勤務中、主婦が訪れ、「昼夜を問わず無言の電話がかかり迷惑している。近所の主婦のいやがらせと思うが、警察でうまく注意してもらえないか。」との相談を受けた。派出所員が付近一帯の巡回連絡を行い、「最近この近くでいたずら電話があり、困っているということを聞きましたが、お宅ではどうですか」と尋ねて回ったところ、以後、相談者宅に対するいやがらせ電話はなくなった(群馬)。
〔事例3〕 派出所員が勤務中、中学3年生の女子(15)が訪れ、「母が離婚、再婚を繰り返し、現在も妻子ある男性と交際中で、いつもその男性が泊まりに来たりするため、勉強も手につかず、家にいるのもいやになった。もっときちんとした生活をするように母に注意してほしい。」と泣きながら訴えた。母親を派出所に呼んで3人で話し合った結果、母親も反省し、以後、親子の会話がなされるようになった(佐賀)。
(5) 複雑な事案には専門の困りごと相談所
 困りごと等の多くは、派出所等の警察官に寄せられているが、このうち複雑な事案は、警察署、警察本部の専門の相談窓口に引き継がれている。警察署、警察本部には、一般の困りごと相談を受ける「困りごと相談所」、「住民コーナー」等のほか、「少年相談所」、「暴力相談所」、「交通相談所」等の相談窓口が設けられている。さらに、「ヤング・テレホン・コーナー」、「暴力110番」、「サラ金110番」等の専用電話による相談も活発に行われている。
 最近5年間のこれら専門の相談窓口に寄せられた困りごと相談の受理件数の推移は、表1-3のとおりである。

表1-3 専門の相談窓口に寄せられた相談の内容別受理件数の推移(昭和54~58年)

 以下、第2節では、このような地域社会の抱える問題、地域住民の困りごとの実態を分析するとともに、それへの対応策を検討することとする。


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