第3節 都市化の進展と犯罪

1 金融機関等対象強盗事件

 キャッシュレス時代の進展した今日、大量の現金を取り扱う銀行をはじめとした金融機関が、一獲千金を夢見る犯人によってねらわれることとなり、金融機関を対象とした強盗事件は増加を続けてきた。都市化による匿名性の浸透、交通機関の発達、情報のはん濫等社会環境の変化が、これらの犯罪の実行を容易にし、模倣犯罪を誘発する役割を果たしたものとみられる。
 ところが、特に銀行を中心とする金融機関の防犯体制が次第に整備されてくるにつれて、最近では、より防犯体制の弱い小規模の郵便局、さらには金融機関以外のサラ金、スーパー・マーケットへとその対象が拡大し、社会的にも大きな注目を集めている。

図1-20 金融機関等対象強盗事件の発生、検挙状況の推移(昭和48~57年)

(注) 以下、金融機関、サラ金、スーパー・マーケットを対象とした強盗事件を総称し、「金融機関等対象強盗事件」と呼ぶこととする。
(1) 発生、検挙状況
 図1-20は、金融機関等対象強盗事件の発生、検挙状況の推移をみたものである。
 金融機関を対象とした強盗事件は、昭和52年以降大幅に増加を続け、56年には史上最高の172件を記録したが、57年には141件とやや減少した。発生件数の推移を金融機関別にみると、図1-21のとおりで、防犯体制が整備されつつある銀行に比べ、特定郵便局等一般に店舗の規模が小さく、防犯体制の整備が遅れている郵便局での発生が急増している。
 このような防犯体制の弱い金融機関に対する強盗事件の増加に伴い、金融機関以外でも、まとまった金が手に入りやすく、しかも店舗の規模が小さく防犯体制が弱いという点で共通しているサラ金や深夜営業のスーパー・マーケットに対する強盗事件が多発する傾向がみられる。サラ金を対象とした事件は、57年には前年を27件(64.3%)上回る69件発生しており、また、スーパー・マーケットを対象とした事件(売上金の強奪を目的としたものに限る。以下同じ。)について調査したところ、57年には62件発生している。

図1-21 金融機関別発生件数、構成比の推移(昭和49、53、57年)

ア 都市部で多発
 57年の金融機関等対象強盗事件の発生状況を都市規模別にみると、人口10万人以上の都市で、金融機関については78.0%(110件)、サラ金については97.1%(67件)、スーパー・マーケットについては87.1%(54件)を占めており、都市部で多発している。
イ 被害額の増加
 57年の金融機関を対象とした強盗事件の被害総額は、約2億3,900万円で史上最高である。1件当たりの平均被害額は約89万円であり、最も被害額の大きい事件では、3,219万6,000円が強奪されている。
 また、57年のサラ金を対象とした強盗事件の被害総額と1件当たりの平均被害額は、それぞれ約4,000万円、約58万円であり、スーパー・マーケットを対象とした強盗事件の被害総額と1件当たりの平均被害額は、それぞれ約940万円、約15万円である。
ウ 凶悪化、巧妙化する犯行
(ア) 銃器使用事件の増加
 表1-21は、最近5年間の金融機関を対象とした強盗事件における銃器使用、強盗殺人事件等の推移をみたものである。

表1-21 金融機関を対象とした強盗事件における銃器使用、強盗殺人事件等の推移(昭和53~57年)

 銃器使用事件は、55年以降多発の傾向にあり、57年には11件(7.8%)を記録し、強盗事件一般における銃器使用事件の割合が0.7%(57年の検挙事件における割合)であるのに比べ、その割合は高くなっている。また、発砲事件は、57年には10件発生し、前年を6件上回っている。
(イ) 盗難車を利用するものが多い
 57年に発生した金融機関を対象とした強盗事件では自動車を利用した犯行が76件(53.9%)と多く、このうち50件は盗んだ車を利用したものである。また、金融機関等対象強盗事件の被疑者の変装状況をみると、174件(64.0%)において、被疑者が目出し帽、ヘルメット、サングラスやマスク等何らかの覆面を着けている。
エ 被疑者の特徴
(ア) 多い30歳代、無職の被疑者
 57年に検挙した金融機関等対象強盗事件の被疑者を年齢層別にみると、30歳代の被疑者が57人と全体の42.9%を占めており、強盗事件全体では30歳代の被疑者は21.8%であるのに対し、目立って多くなっている。
 また、職業別にみると、無職者が76人と全体の57.1%を占めており、強盗事件全体に占める無職者の割合が42.9%であるのに比べ、高くなっている。
(イ) 借金返済を動機とするものが多い
 被疑者の犯行の動機をみると、表1-22のとおりで、借金の返済のために犯行に及んだ者が多く、このうちサラ金から借金をしている者が多数を占めている。特に、サラ金を対象とした強盗事件では、サラ金からの借金の返済を動機とする被疑者が非常に多く、いわば「サラ金借金苦にサラ金を襲う」といった状況にある。

表1-22 被疑者の犯行の動機(昭和57年)

〔事例1〕 会社の金をギャンブルにつぎ込んだ会社員(31)は、その穴理めのため、5月20日、八千代町内の信用組合に押し入り、猟銃を発砲して従業員を脅迫し、現金1,200万円を強奪し、盗んだ車で逃走した。猟銃所持者の捜査から被疑者を割り出し、8月11日逮捕した(茨城)。
〔事例2〕 無職者(41)は、ギャンブルによる借金の返済のため、10月7日、川崎市内のサラ金に押し入り、女子店員に包丁を突き付けて金員を要求したが、男子店員に抵抗されたため、用意していたガソリンを店内にまき散らして放火し、店員1人と客1人を殺害した。10月26日逮捕(神奈川)
〔事例3〕 無職者(22)が、6月28日午前3時40分ごろ、練馬区内のスーパー・マーケットに押し入り、従業員に刃物を突き付けて脅迫し、現金65万円を強奪して逃走したが、現場に急行中の警察官が、付近の駐車場に逃げ込んだこの男に職務質問したところ、犯行を自供したため逮捕した(警視庁)。
(2) 対策の現状と今後の課題
ア 初動捜査体制の充実
 金融機関等対象強盗事件では、迅速、的確な初動捜査により、犯人を犯行現場やその周辺で早期に検挙することが何よりも重要である。
 科学警察研究所が、昭和55年、56年に発生した金融機関を対象とした強盗事件322件を対象に行った調査(57年)によると、事件発生から警察への第1報までの時間が2分未満であれば、事件の48.0%が現行犯、緊急配備により検挙されているのに対し、2分以上の場合には37.5%となっている。
 そのため、事件発生時における金融機関等から警察への通報体制を確立するとともに、これに即応し得る初動捜査体制の充実に努めている。
イ 犯行予測に基づいた先制的な捜査
 前述の調査によると、被害に遭った金融機関を被疑者が強盗の対象として選んだ理由としては、「店員、客等が少なく店内が手薄だから」が58.7%、「逃走しやすい場所にあるから」が33.2%、「人通りが少ない場所にあるから」が25.5%を占めている。このような状況にあることから、必要がある場合には、ねらわれる危険の高い金融機関を選定して警察官を張り込ませ、強盗犯人を逮捕するという捜査手法も用いている。
〔事例〕 県警察では、前年の発生状況を検討して、従業員数が少なく、逃走に便利な場所にある金融機関を選んで、それらに警察官を張り込ませていたところ、1月27日、大井町内の郵便局に廃品回収業者(27)が押し入り、局員に包丁を突き付けて脅迫し、金員を強奪しようとした。張り込んでいた警察官は、直ちにこの男を逮捕した(神奈川)。
ウ 防犯対策の推進
 金融機関等対象強盗事件を防止するためには、まず営業店舗の一つ一つが防犯体制の確立と防犯設備の整備、充実に積極的に取り組んでいくことが必要である。
 金融機関の防犯設備の設置状況は表1-23のとおりで、全体的には「安全な店舗」への転換が着実に進められているものの、農協、漁協、郵便局等の小規模店舗においては、依然として普及率が低い。

表1-23 金融機関の防犯設備の設置状況(昭和54、57年)

 次に、57年に発生したサラ金を対象とした強盗事件の被害店舗69店について従業員数別被害店舗数をみると、表1-24のとおりで、被害に遭った店舗の大半は、従業員数が極めて少ない。また、事件発生時の在店員数別被害店舗数は表1-25のとおりで、在店員数が2人以下であったものが59.4%を占めている。

表1-24 従業員数別にみた被害店舗数(昭和57年)

表1-25 事件発生時の在店員数別にみた被害店舗数(昭和57年)

 このような体制の下で、58店舗(84.1%)は、平素、従業員に防犯教育、訓練又は発生時における任務分担の付与等を行っておらず、40店舗(58.0%)は、防犯設備を全く設置していないなど、防犯面での立ち後れが目立っている。
 一方、57年に発生したスーパー・マーケットを対象とした強盗事件の被害店舗62店の防犯状況をみると、事件発生時の従業員数は1店平均1.8人で、1人で従事していた店舗が71.0%(44店)、防犯設備を全く設置していなかった店舗が48.4%(30店)を占めているなど、無防備な状態で営業し、被害に遭っていたことが分かる。また、発生時の店舗外の状況をみると、出入口に面する道路の人通りは、「とだえるほどに少ない」ものが87.1%(54店)、周辺の営業店は、「ほとんど又は全くない」が64.5%(40店)を占めるなど、人の目の届かない空間となっている。
 警察では、金融機関に対して、専従警備員の配置、防犯カメラ、テレビ等の設置による監視体制の強化、非常通報装置等による通報連絡体制の整備、スクリーンの設置等によるカウンター構造の改善等について防犯診断、防犯指導を強力に推進している。また、57年には金融機関との連絡会議、研修会等を約4,300回、実戦的模擬訓練を約2,800回実施するなどして金融機関の防犯意識の高揚に努めている。
 一方、サラ金業者に対しても、従業員の防犯意識の高揚、カウンター・スクリーン、相互連絡用装置等の防犯設備の充実強化等について指導を行っている。
 スーパー・マーケット、特に夜間営業の店舗については、夜間時における警戒体制の強化、近隣協力関係の醸成等を働き掛けるとともに、重点的なパトロール等を実施している。
 「安全な店舗づくり」を行うには、金融機関等の自主的かつ積極的な取組に期待するところが極めて大きい。このため、管理者等に対して事件発生時を想定した犯人との応対方法や警察への迅速な通報方法等についての教育訓練等の実施を働き掛け、従業員の防犯意識の高揚を図らなければならない。また、防犯設備の整備、充実を図るとともに、職域防犯体制の強化、地域や近隣住民との協力体制の確保を促進させていくことが必要である。

2 都市の死角を利用した犯罪

 近年、都市化の進展に伴い、都市空間の形態や利用方法、管理の仕方等に大きな変化が生じている。例えば、建築物の高層・高密化、地下化、雑居化等であり、これらの変化は、市民相互間の目や関心を弱めるとともに、犯行を容易にする死角空間を多数作り出している。最近の犯罪情勢をみると、こうした弱点を巧みに突いた犯罪が目立ち始めており、その防止は今後の重要な課題となっている。
(1) 犯罪の発生状況
ア エレベータ犯罪
 土地の高度利用を目的とした建築物の高層化は、エレベータの普及を促し、利用者の利便を図ったが、同時に運行中の密室状態を巧みに突いた犯罪を発生させることとなった。このような高層・高密化に伴う犯行の一形態として登場したエレベータ犯罪(注)は、ここ数年の間に顕在化してきたものであり、最近2年間の調査結果によると表1-26のとおり合計178件発生している。特に、昭和57年には強制猥褻(わいせつ)事犯が倍増しており、今後、更に多発することが予想される。
(注) エレべータ犯罪とは、エレべータを利用中に又はエレべ-タ内に連れ込み、若しくはエレベータから連れ出して行う凶悪犯(殺人強盗及び強姦(かん))、粗暴犯(傷害及び恐喝)及び強制猥褻(わいせつ)をいう。

表1-26 エレベータ犯罪の発生状況(昭和56、57年)

 発生した建物の総階数をみると、表1-27のとおりで、おおむね階数の多い建物ほど発生件数も多く、人目に付きにくくなるほど犯罪発生の危険性が増大している。さらに、発生場所では、エレベータ内での犯行が52.9%を占めているが、エレベータ内で抵抗を抑圧の上、踊り場や屋上等に連れ出し犯行に及んでいる事犯も33.7%となっている。

表1-27 エレベータ犯罪が発生した建物の総階数(昭和56、57年)

 被害者については、183人中、175人(95.6%)が女性であり、年齢も13歳以下の少女が73人(39.9%)を占めている。
 一方、発生場所における事件発生時の防犯状況をみると、建物の管理人は135箇所(75.8%)に置かれていたが、日常の活動状況をみると、出入者のチェックは「全くしていない」(管理人なしを含む。以下同じ。)が121箇所(68.0%)、建物内の巡回も「全くしていない」が94箇所(52.8%)を占めるなど、その多くが日常無防備な状態に置かれている。
イ 地下街、地下通路犯罪
 近年、都市環境は、高層化する一方で地下街も発達し、その多くは駅あるいは地下駐車場と地下通路により接続しているなど、便利な都市空間が作られているが、大きな支柱や曲り角、人通りから離れた公衆便所、非常階段等が設けられることにより、各所に多くの死角空間が発生している。
 地下街、地下通路犯罪は、54年から統計を取り始めたが、図1-22のとおりで、恐喝と強制猥褻(わいせつ)が急増し、57年には、恐喝が196件、強制猥褻(わいせつ)が16件とそれぞれ54年に比べ約2倍の増加を示している。
 なお、全国で有数の広い地下街を管轄している警視庁新宿警察署管内で56年に発生した強盗、恐喝、傷害、すり、ひったくり及び仮睡者ねらいの検挙率をみると、地下街における事件は28.6%で、地上の同種事件の34.8%を下回っており、このことは、これらの施設に特有の死角空間が作用して犯行を容易にしていることを示している。

図1-22 罪種別にみた地下街、地下通路犯罪の発生件数の推移(昭和54~57年)

ウ 雑居ビル犯罪
 近年、都市空間を多目的に使用するためのビルの建設が進んでいるが、このようなビルは事務所、店舗等が雑居し、管理責任が不明確になっていることが多く、施設の管理について協力し合う意識も弱く死角の多い問題のある空間となっている。
 雑居ビル犯罪は、54年から統計を取り始めたが、54年に2万6,269件発生し、57年には3万3,347件(犯罪総数の2.2%)発生している。その罪種別の発生件数の推移をみると、図1-23のとおり凶悪犯の増加が目立っている。なかでも強盗の発生件数は、57年には54年の2.1倍となっている。
 57年の雑居ビル犯罪のうち、29.7%を占める侵入強盗と侵入窃盗の犯行手段をみると、「錠破り」が16.3%となっており、侵入窃盗全体の「錠破り」が6.8%であるのに比べ高い数字を示しており、管理体制が弱い夜間等の無人化に近い状態となった監視性の低下を巧みに突かれていることがうかがわれる。

図1-23 罪種別にみた雑居ビル犯罪の発生件数の推移(昭和54~57年)

(2) 今後の課題
 死角空間を巧みに突いた犯罪を防止するためには、防犯意識の高揚に加えて、大別して2つの対応があると考えられる。1つは、管理責任区分の明確化と管理システムの確立であり、管理人の配置等管理体制を強化することが必要である。2つには、死角を生じさせている建築物や施設の改善であり、例えば、屋上や非常階段等について監視しやすいような構造、配置とするとともに、さらに、これを補充するものとして防犯テレビ、警報装置等の防犯設備の設置を図ることが必要である。

3 いわれなき殺人事件

 都市化の進展は、近隣社会の連帯感や相互扶助の関係を弱めており、社会の中に孤立することとなった者は、次第に疎外感を深め、欲求不満を増大させているが、これらの者の中には、精神障害や覚せい剤中毒等の要因が加わって、さしたる原因もなく、あるいは、一見取るに足らないような原因から、うっ積していた欲求不満を一挙に爆発させ、殺人行為へと走るものもある。このような、いわれなき殺人事件ともいうべき、現代の社会病理の一面を反映した事件の発生が目立っており、次の事件が、その残忍さと動機の薄弱さのために社会の注目を浴びたことは、いまだ記憶に新しいところである。
〔事例1〕 昭和55年8月19日、土木作業員(38)は、新宿駅前のバスターミナルに停車していたバス内にいきなりガソリンをまいて放火し、6人を殺害し、17人に重軽傷を負わせた。被疑者は、精神病院の入院歴があり、知らない人に因縁を付けられたり、競艇で負けたことにむしゃくしゃして犯行に及んだものであった(警視庁)。
〔事例2〕 56年6月17日、無職者(29)が、江東区内の路上で、通り掛かった主婦(27)、幼稚園児(3)ら4人を次々に刺殺し、2人に重軽傷を負わせ、さらに通行中の主婦(33)を人質に取って、付近の中華料理店に立てこもった。被疑者は覚せい剤乱用者で、社会に疎外感を抱き、また、就職がうまくいかないことにむしゃくしゃして犯行に及んだものであった(警視庁)。
〔事例3〕 57年8月20日、2人の無職者(42、39)が、港区内の路上で、乗っていた乗用車から降り、その前に信号待ちで停車していた車に駆け寄って、車から降りた大学生(21)の顔面を殴打した上、持っていた洋傘を首に突き刺して死亡させた。この2人の男は、車の進路を妨害されたとして衝動的に犯行に及んだものであった(警視庁)。
 以下、いわれなき殺人事件の典型例である通り魔殺人事件、騒音殺人事件(注)の分析を通じて、その現状と今後の課題について検討を加えることとする。
(注) 通り魔殺人事件とは、人の自由に通行できる場所において、確たる動機がなく、凶器を使用するなどして、通りすがりに不特定の者を殺害する事件をいい、騒音殺人事件とは、騒音によるトラブルをめぐる殺人事件をいう。
(1) 事件の実態
ア 通り魔殺人事件
(ア) 都市部で多発
 通り魔殺人事件は、従来から散発的には発生をみていたが、最近、前述の〔事例1〕、〔事例2〕をはじめとする残虐な事件が多発している。そのため警察庁では、昭和55年以降に発生した事件について実態の分析を行った。
 最近3年間の通り魔殺人事件の発生、検挙状況は、表1-28のとおりである。57年には13件発生し、前年に比べほぼ倍増している。

表1-28 通り魔殺人事件の発生、検挙状況(昭和55~57年)

 事件の発生地域をみると、東京都特別区で8件、大阪市で3件、横浜市、川口市でそれぞれ2件発生しているのをはじめとして、28件のうち22件(78.6%)が人口10万人以上の都市で発生しており、都市部において多発している。
(イ) 被疑者は1人暮らしと無職者が多い
 最近3年間に検挙した被疑者27人の性別をみると、女性は1人で、他はすべて男性である。
 年齢層別には、30歳代が15人(55.6%)で最も多く、20歳代が5人(18.5%)、10歳代が4人(14.8%)、40歳代が2人(7.4%)の順で続いている。
 犯行当時1人暮らしであった者は15人(55.6%)と半数以上を占めている。
 職業別には、無職者が13人(48.1%)とほぼ半数を占めている。
(ウ) 被害妄想、邪推によるものが多い
 被疑者が犯行に及んだ原因をみると、図1-24のとおりで、被害妄想、邪推に基づくものが14人(51.9%)と最も多く、以下薬物使用による幻覚、幻聴に基づくもの、欲求不満に基づくものがそれぞれ5人(18.5%)となっている。
 また、被疑者のうち10人(37.0%)は、精神障害者又はその疑いのある者であった。

図1-24 犯行の原因(昭和55~57年)

(エ) 被害者は働き盛りが多い
 最近3年間の通り魔殺人事件の被害者は76人で、うち25人(32.9%)が死亡している。
 その性別をみると、男性が36人(47.4%)、女性が40人(52.6%)であり、男女ほぼ相半ばしている。
 年齢層別にみると、30歳代が21人(27.6%)、20歳代が17人(22.4%)、40歳代が13人(17.1%)であり、働き盛りの被害者が多い。
 57年に発生した通り魔殺人事件の主要事例は、次のとおりである。
〔事例1〕 宗教団体に入信したが、一向に生活が楽にならないことからこの団体に恨みを抱いていた漁業手伝い(29)が、7月4日、武雄市内の路上で、仏具店に入ろうとしていた主婦(30)の右首に切り出しナイフで切り付け、さらに付近の寺に押し入って、手伝いの女性(21)ら4人に次々と襲い掛かり、3人を殺害し、2人に傷害を負わせた。即日逮捕(佐賀)
〔事例2〕 5月22日、覚せい剤を常用している無職者(31)が、暴力団に追われているという幻覚症状に陥り、横浜市内の中華料理店に飛び込み、切り出しナイフを同店の客(20)の左肩に突き刺したのをはじめ、付近の路上を通行中の船員(53)、会社員(29)に次々と襲い掛かり、傷害を負わせた。即日逮捕(神奈川)
イ 騒音殺人事件
 最近3年間に検挙した騒音殺人(傷害致死を含む。)事件は57件である。
 事件の内容をみると、騒音に対して異常、過敏な反応を示し、突然殺人行為に走る異常反応型が25件、騒音に端を発したけんか、口論のやりとりのうちに激昂(こう)して殺人を犯す激昂(こう)型が32件となっている。
(ア) 異常反応型
a 発生地域
 異常反応型の検挙事件25件の発生地域をみると、東京都で発生したものが、52.0%(13件)に上り、57年に発生した殺人事件全体では東京都での発生は9.6%にすぎないのに対し、極めて高い比率を示している。
b 被疑者の特徴
 異常反応型の被疑者26人をみると、次のような特徴がみられる。
 第1に、女性の被疑者が30.8%(8人)を占め、57年に検挙した殺人事件の被疑者全体(以下「殺人全体」という。)では女性は20.5%であるのに対し、比率が高い。
 第2に、被疑者の年齢をみると、20歳代が最も多く、42.3%(11人)を占めている。殺人全体では30歳代が最も多く34.7%を占め、20歳代は20.8%にすぎないのに比べ、20歳代の比率が高い。
 第3に、初犯者の被疑者が69.2%(18人)を占め、殺人全体での45.0%に比べて高い。
 第4に、精神障害者又はその疑いのある者は、15.4%(4人)を占め、殺人全体での7.7%に比べて高い。
c 事件を誘発した騒音
 被疑者が事件を起こす原因となった音の種類をみると、幼児の泣き声が44.0%(11件)と最も多く、これに次いで、単なる話し声、ドアの開閉音、足音等の日常生活から生じる音が36.0%(9件)を占めている。
〔事例〕 大学生(22)は、自己の住むアパートと隣り合った家主宅のテレビの音や、会社員宅の子供の声が耳に付いていらいらし、日々不快の念を強くしていたが、10月6日、テレビの音が聞こえてきたことから憤激し、包丁を持って家主宅に押し入り、家主(95)とその次女(65)を刺し殺し、さらに会社員宅に押し入り、主婦(44)とその長男(10)、次男(4)を殺害した。即日逮捕(警視庁)
(イ) 激昂(こう)型
a 被疑者の特徴
 激昂(こう)型の被疑者33人をみると、次のような特徴がみられる。
 第1に、男性の被疑者が97.0%(32人)を占め、異常反応型とは逆に男性の比率が殺人全体に比べて高い。
 第2に、被疑者の年齢をみると、40歳代が33.3%(11人)、50歳代が12.1%(4人)、60歳以上が15.2%(5人)を占めている。殺人全体では40歳代が24.9%、50歳代が9.7%、60歳以上が4.9%で、激昂(こう)型では高齢の被疑者の比率が高い。
 なお、最高齢の被疑者は75歳であった。
b 事件を誘発した騒音
 事件を誘発した騒音をみると、音響機器の音が46.9%(15件)を占め、異常反応型では4.0%(1件)しか発生していないのと対照的である。これに 次いで、シンナー、酒、けんか等による騒ぐ声が18.8%(6件)と多い。
〔事例〕 無職者(51)は、自己の住むアパートの隣人(54)が57年5月上旬からほとんど毎日、午後10時から午前2時ごろまで自室のラジカセで演歌を鳴らしていたため、日ごろからこのことを極めて不快に思い、この隣人と絶えず口論していた。6月19日午前5時ごろ、ラジカセの音がうるさいので隣人に苦情を申し入れたが、逆にこの隣人が「大きな声でかけようとおれの勝手や。文句があるか。」と切り返したため、男は激昂(こう)して、自室から果物ナイフを持ち出し、隣人の首や腹を刺して殺害した。即日逮捕(兵庫)
(2) 精神障害者又はその疑いのある者等の処分状況
 最近3年間に検挙した通り魔殺人と騒音殺人の被疑者86人のうち、精神障害者又はその疑いのある者等は25人であったが、勾(こう)留中、鑑定留置中の者及

表1-29 通り魔殺人、騒音殺人被疑者のうち、精神障害者又はその疑いのある者等の処分状況(昭和57年)

び犯行直後に自殺した者を除く22人の処分状況は、表1-29のとおりである。覚せい剤やシンナー、アルコールの影響による7人のうち5人が起訴され、1人が措置入院、1人が任意の入院となっているが、精神障害者又はその疑いのある者は、15人中3人が起訴、1人が家庭裁判所に送致され、11人は措置入院となり、医療機関にその措置がゆだねられている。
(3) 対策の現状と今後の課題
 現在、警察では、いわれなき殺人事件について、次のような対策を進めている。
ア 発生事犯の早期検挙
 通り魔殺人事件は、その性格上特に早い時期に検挙する必要があり、現場検挙等早期検挙に努めている。
イ 通報措置の徹底と関係機関との連携強化
 精神障害又は覚せい剤の慢性中毒のために、自傷、他害のおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに知事へ通報することにより、本人に対する必要な医療及び保護が加えられ、あわせて自傷及び他人に対する危害の防止が図られるように努めている。また、保護した酩酊(めいてい)者が、アルコールの慢性中毒者又はその疑いのある者と認められたときは、保健所長に通報し、医師の診療が受けられるように努めている。
ウ 覚せい剤等の薬物対策の推進
 覚せい剤等の薬物事犯について、徹底した取締りを行い、あわせて関係機関と連携し、薬物乱用防止のための諸施策を推進している。
エ 相談業務の推進
 騒音殺人のように、関係者間の小さなトラブルから殺人事件に発展する例が多いので、日ごろから困りごと相談等を通じて、隣人間のトラブル解消に努めている。
オ 被害者救済対策の推進
 被害者やその遺族に対して、犯罪被害給付制度及び財団法人犯罪被害救援基金(134ページ参照)の事業を活用して救済活動を推進している。
 警察は、いわれなき殺人事件について以上のような活動を行っているが、警察活動のみでは対処できない問題も多い。特に、精神障害者や薬物中毒者に関する対策の進め方については、国民全体の問題として対処していくことが必要である。

4 風俗関連営業と犯罪

 風俗ほどその時代の社会的世相を反映するものはないといわれているが、最近の都市の風俗環境は、社会一般の享楽的風潮を反映し、これに行き過ぎた商業主義が便乗して、ますます多様化、悪質化の傾向をたどっている。
 風俗営業等取締法の規制対象営業には、都道府県公安委員会の許可対象営業と、営業方法等によって制限を受ける深夜飲食店、個室付浴場業、ストリップ劇場、モーテル営業等の風俗関係営業とがある。
 しかし、最近、こうした規制対象営業に加え、これに類似した営業形態で「個室付きファッションヘルス」、「個室ヌード」等という売春、猥褻(わいせつ)等を誘発するおそれの強い新たな業態が出現しているほか、従来、ひそかに営業していた売春目的の「デートクラブ」が表面化している。また、露骨なわいせつ出版物が公然と販売されたり、ゲームセンター、喫茶店等で遊技機を利用した賭博(とばく)事犯が横行するなど、その営業形態は多様化し、営業方法も公然化している。しかも、いずれの営業も、利益の追及のみに走るものが多く、風俗環境の悪化に拍車をかけている。
 また、かつては売春婦等のほとんどが搾取の対象であり、被害者とみられていたが、現在の売春婦等と営業者との関係の多くは、共存関係に変わっている。しかも、法に抵触しないよう偽装するなど、警察の取締りを免れるための工作がますます巧妙化し、この種の風俗関係事犯の取締りがより困難となっている。
 このような傾向は、今後とも、続くものと思われる。
(1) 料飲関係営業における売春関係事犯の増加
 夜間における国民の活動時間帯の広がり等を背景として、キャバレー、バー等の風俗営業はやや減少傾向を示しているが、深夜飲食店営業は、スナック等風俗営業に類似した業態を中心に増加を続けている。これは、風俗営業の許可を取らずに飲食店営業の許可だけで手軽に営業できるためとみられる。
 昭和57年12月末現在、キャバレー、バー等の風俗営業の営業所数は10万4,337軒、深夜飲食店営業の営業所数は34万5,315軒である。
 これらの営業の内容をみると、キャバレー、バー等の風俗営業に、より扇情的なもの、より快楽的なものへの志向が強まっているほか、これらの営業と極めて類似したスナック等の業者の中にも、競争の激化から悪質なサービスへと移行しているものが増加している。
 このような傾向を反映して、これらの業者が関与した売春関係事犯が増加傾向を示している。
 表1-30は、過去10年間における料飲関係営業者が関与した売春関係事犯の検挙状況であるが、57年は、検挙件数が877件、検挙人員が338人で、いずれも過去10年間の最高となっている。

表1-30 料飲関係営業者が関与した売春関係事犯の検挙状況(昭和48~57年)

(2) 売春を誘発するおそれの強い新たな業態の出現
 最近、個室において異性の客に接触する役務を提供する営業と、デート名目で異性を派遣する営業が増加していることに伴い、これに関連する売春関係事犯の増加が目立っている。いずれも、女性と営業者とが雇用関係にならないようなシステムで営業を行うなど、警察の取締りを免れるための工作が活発化している。また、女性の意識にも変化がみられ、検挙された事例をみると、自ら売春することを承知しているケースがほとんどで、営業者との間に緊密な共存関係がみられる。このため、営業者等の売春への関与の立証を含め、この種の事犯の捜査が極めて困難となっている。
ア 個室において異性の客に接触する役務を提供する営業
 個室において異性の客に接触する役務を提供する営業としては、ソープランドと呼ばれる個室付浴場業があるが、このほか、昭和56年ごろから、ソープランドに類似した「個室付きファッションヘルス」、「男性マッサージ」等といった新たな業態が出現している。
 このような営業は、その設備、営業内容等からみて極めて売春に移行しやすく、これに関連する売春関係事犯が年々増加している。
(ア) ソープランド
 57年12月末現在、ソープランドの営業所数は、1,669軒で、10年前に比べ約1.5倍となっている。
 57年のソープランドにおける売春関係事犯の検挙件数は、839件で、前年に比べ45件(5.7%)増加した。過去10年間の検挙状況は、表1-31のとおりである。

表1-31 ソープランドにおける売春関係事犯の検挙状況(昭和48~57年)

(イ) 「個室付きファッションヘルス」等
 浴場業の施設としての個室ではないが、マンション等の個室において異性の客に接触する役務を提供する営業(一般に「個室付きファッションヘルス」とい れる。)やマッサージ業を仮装し、個室において客を相手に主として性的サービス行為を行う「男性マッサージ」が出現し、57年12月末の調査で警察が把握した営業所数は、それぞれ145軒、146軒となっている。
 いずれも、新聞、週刊誌等を通じて募集した主婦、OL、女子学生等に売春をさせているのが実情とみられたところから、警察は、先制的な取締りを行い、57年は売春防止法違反等により200件、190人を検挙した。また、検挙事例をみると、この種の営業に暴力団関係者が関与するケースが目立っている。
〔事例1〕 暴力団員(33)は、マンション5部屋を借り受けて、スポーツ新聞等で募集したOL、女子学生ら8人をマンションの個室に交代で常時待機させ、客から入会金名目で2万5,000円から3万円を取って売春させ、約4箇月間に、約4,700万円に上る不法利益を得ていた。この事件で、暴力団員ら3人を売春防止法違反、職業安定法違反により検挙し、不法利益について税務署に課税通報を行った(愛知)。
〔事例2〕 「男性マッサージ」の経営者(25)は、ソープランドのない長野県に着目し、元はり美容業者の施設を買い取り、5部屋の個室を設けてマッサージ業を仮装し、コンパニオンと称する女性を各個室に配置し、1回1万5,000円から2万円で売春させ、1箇月約400万円の不法利益を得ていた。この事件で、経営者ら4人を売春防止法違反により検挙した(長野)。
イ デート名目で異性を派遣する営業
 デート名目で異性を派遣する「デートクラブ」は、57年に入ってから急激に目立ち始め、57年12月末の調査で警察が把握した営業所数は、182軒となっており、売春防止法違反等で124件、34人を検挙した。
 また、57年後半ごろから、これらの営業と喫茶店、スナック等が複合化した営業が急激な広がりをみせ、57年12月末の調査では、61軒を把握し、売春防止法違反等で13件、6人を検挙した。
〔事例〕 「デートクラブ」の経営者(33)は、新聞、週刊誌等で、女性を募集し、主婦、OL、学生ら15人をデート嬢として採用し、ポケットベルを携帯させて一定の場所に待機させ、客からの電話申込みを受ける都度、指定の場所にデート嬢を赴かせ、1回2万円から3万円で売春させていた。この事件で、経営者ら8人を売春防止法違反等で検挙した(埼玉)。
(3) 女性の裸体を見せる営業の多様化と猥褻(わいせつ)事犯の増加
 女性の裸体を見せる営業としては、ストリップ劇場、ヌードスタジオ等がその典型的なものである。しかし、これらの既存の営業形態に加え、昭和56年には、ノーパン喫茶が全国的な広がりをみせたが、警察の取締りとこの種の営業が客にアピールしなくなったこともあって、その後、急速に減少した。これに代わって、最近では、「のぞき劇場」、「個室ヌード」等の新たな営業形態が出現し、これらの女性の裸体を見せる営業において、公然猥褻(わいせつ)等の犯罪が目立っている。
ア ストリップ劇場等
 ストリップ劇場、ヌードスタジオの57年12月末現在の営業所数は、410軒となっている。
 57年のストリップ劇場等における公然猥褻(わいせつ)事犯等の検挙件数は89件、検挙人員は458人で、最近5年間の検挙状況は、表1-32のとおりである。

表1-32 ストリップ劇場等の検挙状況(昭和53~57年)

 違反の内容は、最近では、「本番ショー」へとエスカレートしている。しかも、ここ数年、この種の興行に外国人女性が出演するケースが目立ち、57年に検挙した踊り子208人のうち63人(30.3%)が外国人女性であった。
 また、監視カメラを設置したり、監視人を劇場近くに配置し検挙を免れようとするものや、検挙された場合に備えて、逮捕時の差し入れ、弁護人の選任、罰金の支払等について踊り子と契約を結んでいるもの、さらには、ストリップ劇場等の経営者が自己に及ぶ責任を免れるため興行主に劇場を貸すいわゆる貸小屋形式をとっているもの、検挙されても営業停止処分を免れようと、廃業を装って、他人名義に切り替え、繰り返し営業を行うもの等悪質なケースが目立っている。
イ 「のぞき劇場」等
 舞台の周りに複数の個室を設け、それぞれの個室から、女性の裸体ショー等を見せる「のぞき劇場」といわれる営業形態が56年暮れごろから、また、個室においてモデル嬢を撮影させたり、モデル嬢の身体に触れさせる「個室ヌード」といわれる営業形態が57年から、それぞれ目立ち始めた。57年12月末の調査で警察が把握したこれらの営業所の数は、「のぞき劇場」が52軒、「個室ヌード」が37軒となっている。
 これらの営業では、その営業形態からわいせつ行為や売春が行われるケースが多く、57年は、公然猥褻(わいせつ)、売春防止法違反等により、38件、83人を検挙した。
〔事例〕 元カフェー経営者(38)は、カフェーの店舗を改造して個室を設け、モデル嬢5人を雇い入れ、個室において、客にモデル嬢の裸体を撮影させたり、客の求めに応じ売春をさせていた。この事件で、経営者、モデル嬢ら関係者8人を公然猥褻(わいせつ)、売春防止法違反により検挙した(北海道)。
(4) 「ビニール本」販売専門店の出現
 近年、性を露骨に表現する出版物が増加し、なかでも「ビニール本」の増加が著しい。「ビニール本」とは、読者の立見を防ぎ、かつ購買心をそそる

ため、ヌード写真誌をあらかじめビニール袋に入れて店頭に陳列、販売しているものである。「ビニール本」のなかには、わいせつ出版物に該当するものも多く、その内容も次第にエスカレートしている。従前、このような出版物は、暴力団関係者によりひそかに販売されていたが、昭和55年初めごろから「ビニール本」販売専門店が出現し、これが全国的に広がり、さらに、一般書店等もこれら「ビニール本」を取り扱うようになった。
 57年12月末現在、警察が把握した「ビニール本」販売店数は、専門店959軒を含む4,063軒であり、猥褻(わいせつ)文書図画販売等により909軒を摘発し、1,100件、

表1-33 「ビニール本」関係営業者の業態別検挙状況(昭和55~57年)

1,273人を検挙した。最近3年間の「ビニール本」関係営業者の業態別検挙状況は、表1-33のとおりである。
 また、最近のビデオテープレコーダーの普及に伴い、従来のいわゆるわいせつ8ミリフィルムに代わって、わいせつビデオテープが急激に増加していることに目を付け、これらのわいせつピデオテープを販売したり、貸し出したりする「ビニール本」関係営業者が目立っている。
(5) モーテル類似営業の増加
 モーテル営業は、地域の清浄な風俗環境を害し、かつ、その施設が密室的構造のため、性犯罪をはじめ各種の犯罪を誘発助長するおそれがあるところから、昭和47年風俗営業等取締法の改正により、モーテル営業の定義を定めるとともに、営業について場所的規制を行うこととなった。47年当時、モーテル営業は、全国に約5,900軒を数えていたが、法改正後、モーテル営業の定義に該当しないようにするため施設の改築、改造が行われ、そのほとんどがモーテル営業に該当しないものとなり、57年12月末には、モーテル営業に該当するものがわずか7軒となっている。しかし、このような法律上の定義には該当しないが、外形や営業形態はモーテルとほとんど同様のモーテル類似営業が年々増加し、57年12月末現在、6,924軒となっている。
 56年のモーテル営業及びモーテル類似営業(以下「モーテル営業等」という。)とその他の旅館、ホテル等における刑法犯発生率をみると、旅館、ホテル等が、1,000軒に98件の割合なのに対し、モーテル営業等は、1,000軒に211件の割合となっており、また、強姦(かん)、強制猥褻(わいせつ)といった性犯罪は、旅館、ホテル等が、1,000軒に1件の割合なのに対し、モーテル営業等は、1,000軒に12件の割合で発生している。さらに、モーテル営業等の営業者が、積極的に売春の場所を提供していた事犯、客の室内の行動をビデオ録画し、そのテープを販売していた事犯や、女子高校生を無理に連れ込んで覚せい剤を注射した上暴行していた事犯等が発生しており、モーテル営業等が各種の犯罪の場として利用されるケースが目立っている。
〔事例〕 モーテル類似営業者(63)は、近くのスナックの外国人ホステスが飲食客を相手に売春を行っていることを知り、スナック経営者らに自己のホテルを利用するように申し入れ、売春の場所を提供していた。この事件で、営業者を売春防止法違反で、スナック経営者を風俗営業等取締法違反で、外国人ホステス6人を出入国管理及び難民認定法違反で検挙した(千葉)。
(6) 遊技場営業における賭博(とばく)事犯の増加
 遊技場営業には、風俗営業等取締法の許可対象営業としての規制を受けるぱちんこ屋、まあじゃん屋等の風俗営業と、この法律の規制を受けないゲームセンター等がある。
 最近、IC等電子応用部品の普及に伴い、特に、ゲームセンター等にポーカー式テレビゲーム機が導入され、これを利用した賭博(とばく)事犯が大幅に増加している。
 昭和57年12月末現在のぱちんこ屋、まあじゃん屋等の営業所数は4万6,428軒で、ゲームセンター等は、専業店4,700軒、喫茶店等との併設店2万3,333軒、スナック等との併設店8,647軒を含む4万8,585軒となっている。
 ゲームセンター等に設置された遊技機は、54年ごろはインベーダーゲーム機等技術介入性のある遊技機が主流を占めていたが、56年後半ごろからポーカーゲーム機等技術介入性のない遊技機が設置されるようになり、これが全国的に急激な広がりをみせた。これに伴い、このような遊技機を利用した賭博(とばく)事犯が急増し、57年は、前年に比べ、件数で3.8倍、人員で4.1倍に当たる1,870件、1万353人を賭博(とばく)事犯で検挙した。
 検挙事例をみると、賭(と)客の過半数は、会社員、店員等で占められており、遊技機賭博(とばく)をするに至った動機も、小遣い銭稼ぎ、暇つぶし、好奇心がほとんどである。
 また、遊技機賭博(とばく)により損をし、多額の借金をして家出をしたり、ゲーム代欲しさに窃盗、強盗等の犯罪を犯すケースもみられた。
 最近4年間のゲームセンター等における賭博(とばく)事犯の検挙状況は、表1-34のとおりである。

表1-34 ゲームセンター等における賭博(とばく)事犯の検挙状況(昭和54~57年)

〔事例〕 土産品のセールスマン(33)は、遊技機賭博(とばく)のゲーム代欲しさに集金した商品の代金約317万円を横領し、うち約300万円を遊技機賭博(とばく)に使用していた。この事件で、セールスマンを業務上横領、賭博(とばく)で検挙するとともに、セールスマンが遊技機賭博(とばく)を行っていたゲーム喫茶店等5店を摘発し、経営者、従業員、客等48人を賭博(とばく)で検挙した(山梨)。
(7) 今後の課題
 最近の風俗環境の悪化は、売春、猥褻(わいせつ)、賭博(とばく)といった風俗犯罪の予防の観点はもとより、地域の善良な風俗環境の保全、さらには青少年の健全な育成に与える影響等の観点からも看過することができない状況にある。
 警察としては、風俗環境の浄化を図るため、現在進めている対策を更に強力に推進する一方、時代とともに変ぼうする風俗環境に対応する対策を推進しなければならない。
 第1に、風俗犯罪の取締りは、営業者の対取締り工作がますます巧妙化するなど厳しい条件下にあるが、悪質事犯に対する計画的、継続的な取締りを粘り強く実施し、新たな業態の違法行為については、その実態を的確に把握して先制的な取締りを行い、早期に違法行為の芽を摘み取る必要がある。
 第2に、風俗関連営業者に対する指導の徹底を期する必要がある。風俗営業等取締法の許可対象である風俗営業はもちろん、許可対象営業ではないが営業方法等について規制を受ける風俗関係営業、さらには次々と出現する新たな形態の営業についても関係機関との連携を密にし、行政指導を強化するとともに、健全な営業が営まれるよう法制面の検討を含め、総合的な対策を推進する必要がある。
 第3に、盛り場等における環境浄化活動をより一層強化する必要がある。最近、一地域に風俗関連営業が集中した歓楽街が広がる傾向をみせているところから、これらの地域の実態を的確に把握して、その実態に即した計画的取締りを行うとともに、各種の関係機関、団体等との連携を一層緊密にし、地域ぐるみの環境浄化活動の推進を図る必要がある。


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