特集 SNSを取り巻く犯罪と警察の取組

2 SNSを悪用した犯罪実行者募集の実態と対策

(1)匿名・流動型犯罪グループによる犯罪実行者の募集

匿名・流動型犯罪グループは、犯罪を実行するに当たって、SNS等において、仕事の内容を明らかにせず、「高額」、「即日即金」、「ホワイト案件」等、「楽で、簡単、高収入」を強調する表現を用いるなどして、犯罪実行者を募集している実態が認められる。同グループは、このような犯罪実行者を募集する情報(犯罪実行者募集情報)への応募者に対して、あらかじめ運転免許証や顔写真等の個人の特定に資する情報を匿名性の高い通信手段を使用して送信させることで、応募者が犯行をちゅうちょしたり、グループからの離脱意思を示したりした場合には、個人情報を把握しているという優位性を利用して脅迫するなどして服従させ、犯罪実行者として繰り返し犯罪に加担させるなどの状況がみられる。また、応募者が犯罪を実行したとしても約束した報酬が支払われない場合もある。

 
図表特-8 犯罪の実行犯を募集する手口
図表特-8 犯罪の実行犯を募集する手口
① 特殊詐欺(注)及びSNS型投資・ロマンス詐欺

特殊詐欺やSNS型投資・ロマンス詐欺を実行する匿名・流動型犯罪グループは、SNS等で高額な報酬を示唆して犯罪実行者を募集し、犯行に加担させるなどしている。

また、首謀者、指示役、犯罪実行者の間の連絡手段には、匿名性が高く、メッセージが自動的に消去される仕組みを備えた通信手段を使用するなど、犯罪の証拠を隠滅しようとする手口が多くみられる。

さらに、暴力団構成員や海外に所在する首謀者や指示役が、SNSを用いて犯罪実行者を募集して応募者に特殊詐欺等を実行させているケースや、応募者を海外に渡航させて犯行に加担させているケースもみられる。

注:被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝及びキャッシュカード詐欺盗を含む。)の総称

 
犯罪実行者募集情報の掲載イメージ
犯罪実行者募集情報の掲載イメージ

CASE

職業不詳の男(36)らは、令和5年7月から令和6年6月にかけて、悩みの相談に応じれば報酬が得られるなどとして、架空の相談者を紹介するウェブサイトに会員登録した利用者に対し、実際には、相談者は存在せず、同ウェブサイトを通じて行われた相談に回答しても報酬は支払われないにもかかわらず、同サイトが案内する正規会員になり各種手続費用を支払えば、報酬を受領できるなどと虚偽の内容を記載したメールを送信するなどして、同手続費用名目で約280万円をだまし取った。同年7月までに、同男ら45人を詐欺罪で逮捕した。実行役の中には、SNSや求人サイトを通じて、「平均月収48万円」などの文言により通常の求人情報を装った犯罪実行者募集情報に応募し、被害者に対して、架空の相談を持ち掛ける、いわゆる「サクラ」役として犯行に加担した者がいたことが明らかになった(警視庁、埼玉、千葉及び福岡)。

② 強盗・窃盗等(注)

強盗・窃盗等についても、SNSや求人サイト等で「高額」、「即日即金」、「ホワイト案件」等の文言を用いて犯罪実行者が募集された上で実行される実態がうかがわれる。このような匿名・流動型犯罪グループによるものとみられる手口により実行された強盗事件等の中には、被害者を拘束した上で暴行を加えるなど、その犯行態様が凶悪なものもみられ、特に、令和6年8月以降、東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県の1都3県において相次いで発生した強盗事件等によって、国民の体感治安が著しく悪化した。

警察では、一連の強盗事件等について、首謀者の検挙に向けて、同年10月、警視庁を中心とする関係都県警察による合同捜査本部を設置し、令和7年4月末までに被疑者48人を検挙するなど、捜査を強力に推進している。

注:強盗、窃盗、住居侵入及び建造物侵入等

CASE

建設作業員の男(29)らは、令和6年9月、質店に侵入し、同店店員の面前でショーケースをバールでたたき割るなどして同人を脅迫し、その反抗を抑圧して腕時計(販売価格合計約2万円)を強奪し、その際、取り押さえようとした同店店員に暴行を加え、傷害を負わせた。実行役のうち1人をその場で逮捕し捜査を進めたところ、同男らは、SNS上に掲載された犯罪実行者募集情報に応募し、匿名性の高い通信手段を用いるなどして指示役から指示を受けて犯行に及んだことが判明した。同年11月までに、同男ら4人を強盗致傷罪等で逮捕した(神奈川)。

(2)犯罪実行者募集に対する警察の対策

① インターネット・ホットラインセンターの運用

警察庁では、一般のインターネット利用者等から、違法情報等に関する通報を受理し、警察への通報、サイト管理者等への削除依頼等を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を運用している。近年、インターネット上に犯罪実行者募集情報が氾濫していることを踏まえ、「いわゆる「闇バイト」による強盗事件等から国民の生命・財産を守るための緊急対策」を受けて、犯罪実行者募集情報の実効的な削除のため、令和7年2月、IHCにおいて犯罪実行者募集情報を違法情報と位置付けるとともに、同年3月、体制を増強した。

また、警察では、SNSにおける返信(リプライ)機能を活用し、犯罪実行者募集情報の投稿者等に対する個別警告等を推進している。

 
IHCに関する広報啓発資料
IHCに関する広報啓発資料

IHCの運用状況については、図表特-9から図表特-11までのとおりである。

 
図表特-9 IHCにおける分析件数の推移(注)
図表特-9 IHCにおける分析件数の推移
Excel形式のファイルはこちら、CSV形式のファイルはこちら
 
図表特-10 犯罪実行者募集情報の処理状況(注)
図表特-10 犯罪実行者募集情報の処理状況
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図表特-11 警察に通報された違法情報の件数及び削除に至った違法情報の件数の推移(注)
図表特-11 警察に通報された違法情報の件数及び削除に至った違法情報の件数の推移
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② 違法・有害な労働募集の排除

SNSや求人サイト等において、通常の求人情報を装った、「受け子」や「出し子」等の特殊詐欺等の犯罪の実行者を募集する違法・有害な求人情報に関し、都道府県警察及び都道府県労働局がそれぞれ把握した情報について、相互に情報共有を行っており、警察では、犯罪実行者募集情報等の発信が、職業安定法に規定する「公衆道徳上有害な業務に就かせる目的」での「労働者の募集」等として違法行為に該当することに鑑み、この種の犯罪の取締りを推進している。

CASE

道仁会傘下組織の幹部の男(28)らは、令和6年10月、SNSを利用して、「高収入の1週間バイトしたい人」などと記載した求人情報を投稿した上で、これに応募してきた者に対し、匿名性の高い通信手段を通じて、特殊詐欺の「受け子」等として稼働することを勧誘し、公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で職業紹介及び労働者の募集を行った。同年11月までに、同男ら4人を職業安定法違反(有害業務の労働者募集)で逮捕した(熊本)。

③ 犯罪に加担させないための広報啓発活動等の推進

SNSで犯罪実行者を募集する手口による犯罪に対しては、首謀者や犯罪実行者等の検挙といった取締りの推進に加えて、犯罪に加担させないための広報啓発や募集に応じてしまった者に犯行を思いとどまらせるための広報啓発が重要である。

令和6年8月以降、関東地方を中心に相次いで発生した、SNSで犯罪実行者を募集する手口による強盗事件等を受け、警察では犯罪に加担しようとする者や求人情報に応募しようとする者に対し、様々な機会を通じた効果的な対策を講じている。

その一環として、犯罪実行者募集情報には、「高額」、「即日即金」、「ホワイト案件」等、「楽で、簡単、高収入」を強調する文言に加え、匿名性の高いアプリに誘導して個人情報を送信させる等の特徴があることから、それを周知するため、警察庁では一連の強盗事件等の犯罪実行者の募集に用いられた文言の特徴や、警察に寄せられた犯罪実行者募集に係る相談等の事例をまとめた広報資料を作成・公表した。

また、青少年が事の重大性を認識することなく、安易な考えから犯罪実行者募集に応じた結果、自身や家族に危害を加えるなどと脅迫され、凶悪な犯罪に加担してしまうことがないよう、関係機関と連携して、犯罪実行者募集情報の危険性や周囲の善良な大人や警察に相談することを呼び掛ける広報資料を作成・公表した。

 
犯罪実行者募集情報の特徴や相談事例をまとめた広報啓発資料
犯罪実行者募集情報の特徴や相談事例をまとめた広報啓発資料
 
少年に対する広報啓発資料
少年に対する広報啓発資料

さらに、インターネット上で高額な報酬のアルバイトへの高い関心を示す者に対して、インターネット上での行動に応じて犯罪実行者募集情報の危険性等を伝えるターゲティング広告を実施したほか、東京都、埼玉県、千葉県及び神奈川県内の、若年層が多く集まる繁華街等において、犯罪実行者募集に応じないよう、アドトラックを活用した呼び掛けを実施するなど、若年層に対する注意喚起に取り組んでいる。

 
アドトラックを活用した呼び掛け
アドトラックを活用した呼び掛け

MEMO SNS等を利用した警察庁からの呼び掛け

犯罪実行者募集情報に応募して犯罪に加担しようとする者の中には、自身や家族に危害を加えるなどと脅迫されていることを理由に犯罪に加担しようとする者もいることから、そのような者から相談があった場合には、状況に応じて、保護措置等を講じること等により適切に対応する必要がある。

警察庁ではSNSや動画配信サイトを通じ、犯罪に加担する可能性がある者に対して、「警察に相談に来てくれれば必ず保護する」などの呼び掛けを2回にわたり実施した。

警察では、こうした呼び掛けを始めて以降、令和7年4月末までに345件の相談について、相談者やその家族等の関係者を保護した。

 
警察庁幹部からの呼び掛け
警察庁幹部からの呼び掛け

MEMO 政府全体としての広報(総理メッセージ等)

犯罪実行者募集情報に係る広報啓発には、警察のみならず政府全体で取り組んでいる。

令和6年10月には石破首相が、SNS等を通じて、いわゆる「闇バイト」が犯罪であり、警察は相談者の安全を必ず守ることなどを周知した。

さらに、いわゆる「闇バイト」の実態や危険性を紹介する動画の公開やSNS広告等を実施し、犯罪実行者募集情報に応募すれば、犯罪組織に「捨て駒」として都合よく利用され、凶悪な犯罪に加担した結果、検挙されることなどを広報啓発した。

 
石破首相からの呼び掛け
石破首相からの呼び掛け
 
政府広報オンライン「『闇バイト』の真実 高額報酬をうたう犯罪実行役の募集」#SNS #実行犯
政府広報オンライン「『闇バイト』の真実 高額報酬をうたう犯罪実行役の募集」#SNS #実行犯
 
政府広報オンライン「そんなバイト、ないから!それ「バイト」ではなく犯罪です。」
政府広報オンライン「そんなバイト、ないから!それ「バイト」ではなく犯罪です。」


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