2 経済安全保障等に関する取組
(1)経済安全保障をめぐる情勢
近年、国際情勢の複雑化、AI、量子技術等の革新的技術の出現、宇宙・サイバー・電磁波といった安全保障における新たな領域の誕生等により、安全保障の裾野が経済・技術分野に拡大している。
我が国には、規模の大小を問わず、様々な産業分野において、先端技術に関する情報を保有する企業が多数存在しており、これらの企業が保有する技術情報等の中には、軍事用途に転用可能なものもある。こうした技術情報等が国外に流出した場合、企業や研究機関の国際競争力が低下するだけでなく、我が国の安全保障上重大な影響が生じかねない。我が国においては、「国家安全保障戦略」において、我が国が優先する戦略的アプローチとして「自主的な経済的繁栄を実現するための経済安全保障政策の促進」が掲げられるなど、経済構造の自律性の確保や技術の優位性、不可欠性の獲得等のための取組が進められている。
こうした中で、安全保障の確保に関する経済施策として所要の制度を創設することを内容とする経済安全保障推進法の全ての規定が、令和6年5月までに施行された。
また、「重要経済安保情報」の指定やその取扱者の制限、我が国の安全保障の確保に資する活動を行う事業者への重要経済安保情報の提供等について所要の制度(いわゆる経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス制度)を整備することなどを内容とする重要経済安保情報保護活用法の全ての規定が令和7年5月までに施行された。
(2)技術情報等の流出防止に向けた取組
警察庁では、令和4年4月、経済安全保障室を設置し、技術情報等の流出の未然防止のための取組を都道府県警察と連携して推進している。
① 取締り
警察では、従前から、安全保障貿易管理の実効性を確保する取組の一環として、大量破壊兵器関連物資等の不正輸出に対する取締りを徹底している。また、「拡散に対する安全保障構想(PSI(注))」に平成15年(2003年)の発足当初から参画するなど、国際的な取組にも積極的に参加している。
これらに加え、経済安全保障の観点から、広く先端技術に関する情報の流出に対応すべく、産業スパイ事案やサイバー事案の実態解明と取締りを強化している。
注:Proliferation Security Initiative(拡散に対する安全保障構想)の略。国際社会の平和と安定に対する脅威である大量破壊兵器関連物資等の拡散を阻止するために、国際法及び各国国内法の範囲内で、参加国が共同してとり得る移転及び輸送の阻止のための措置を検討・実践する取組のことで、116か国(令和7年3月現在)がPSIの基本原則や目的に対する支持を表明している。
② アウトリーチ活動
様々な経済活動を通じた技術情報等の国外流出を未然に防止するためには、技術情報等を取り扱う企業等による自主的な対策が不可欠である。警察では、技術情報等の獲得に向けた外国からの働き掛けの実態を捜査等を通じて把握した上で、技術情報等を取り扱う企業や研究機関に対してその手口や有効な対策についての情報提供を行う「アウトリーチ活動」の強化を通じ、企業等による対策の実施を支援している。
警察によるアウトリーチ活動は、地域住民の生活に密着して犯罪の予防等に当たる我が国の警察の特性をいかして行っている。また、都道府県警察では、経済産業省、経済団体等と連携し、これらの関係機関・団体が所管している安全保障貿易管理に関する制度や、現に講じられている営業秘密の流出防止対策等についての情報提供を行っているほか、地方自治体や産業界等と連携し、技術情報等の流出やそのおそれのある事案の発生を想定した対処訓練を行うなどの取組を進めている。こうした都道府県警察の取組に加え、警察庁では、大企業や経済団体等へのアウトリーチ活動を行い、国レベルでの官民協力を推進している。
警察庁では、技術情報等の流出防止対策を呼び掛けるパンフレットや動画の制作を行っているところ、同パンフレットでは、技術情報等の獲得に向けた外国からの働き掛けに対する有効な対策として、「See(相手・書類をよく見る)」、「Stop(立ち止まってリスクを把握する)」、「Share(共有する・相談する)」ことを「企業やアカデミアに守ってほしい3つのS」として紹介している。警察庁では、企業等における社内研修等での活用も念頭に、警察庁ウェブサイトにおいて、これらのパンフレットや動画を公開している。


技術情報等流出事案対処訓練の様子

警察庁経済安全保障室ウェブサイト
③ 海外関係機関との連携
令和5年8月、日米韓首脳会合の共同声明において、米国の創造的技術攻撃部隊(DTSF(注))並びに日本及び韓国のカウンターパートとの間で情報共有や連携強化を進めることが合意された。これを受け、令和6年4月、「第1回日米韓輸出管理執行機関間会合」が開催され、日本からは経済産業省、警察庁及び財務省が参加した。同会合では、日米韓関係当局間において、不正な技術移転への対処が国家及び経済安全保障上の重要な課題であるという認識を共有し、3か国の執行機関間における情報共有及び更なる連携強化について合意した。
こうした枠組みを含め、警察庁では、海外関係機関とも連携しつつ、経済安全保障の確保のための取組を行っている。
注:Disruptive Technology Strike Forceの略。2023年2月、米国の司法省国家安全保障部及び商務省産業安全保障局のリーダーシップの下、連邦捜査局及び国土安全保障省並びに12の大都市圏の14の連邦検事事務所も参加して発足した部隊であり、違法行為者の特定、サプライチェーンの強化及び外国勢力による重要技術資産の獲得又は利用を防ぐための省庁横断的な取組