特集 匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組

第1部 特集・トピックス

匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組

特集に当たって

本年の警察白書の特集のテーマは「匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組」です。

我が国の治安をめぐる情勢は近年目まぐるしく変化を続けています。サイバー空間は社会経済活動が営まれる重要かつ公共性の高い空間へと変貌を遂げ、特に、SNSの目覚ましい普及がみられています。また、人流が新型コロナウイルス感染症の感染拡大前の水準に戻るなど、国内外を問わず、人と人との交流が活発化しています。このほかにも、人口減少・少子高齢化といった人口構造の変化等、様々な要素が複雑に絡み合って治安情勢に影響を与えている状況にあります。

こうした中、令和5年(2023年)1月に東京都狛江市で発生した強盗殺人事件をはじめとして、広域的に強盗等事件が発生し、国民に大きな不安を与えました。これらの犯罪を敢行したのは、SNSや求人サイト等を利用して募集された実行犯らであり、匿名性の高い通信手段を活用しながら、指示役等と連絡を取り合っている実態がみられました。また、深刻な情勢にある特殊詐欺についても、同様の特徴を持つ犯罪グループが広域的に敢行している実態が次第に明らかになりました。このような集団は、多様な資金獲得活動により得た収益を吸い上げる中核部分が匿名化されているという点、SNSや求人サイトを通じるなどして緩やかに結び付いたメンバー同士が役割を細分化させ、その都度、メンバーを入れ替えながら多様な資金獲得活動を行うという点で、組織構造や構成員がはっきりとしている暴力団等の従来の犯罪組織とはその特徴を大きく異にしています。

このような情勢を踏まえ、警察では、こうした特徴を有する集団を「匿名・流動型犯罪グループ」として位置付けたところです。

匿名・流動型犯罪グループに対して、従来の取組をそのまま踏襲するだけでは、有効な対策を講じることはできません。同グループは、特殊詐欺をはじめとして、強盗・窃盗、違法な風俗営業等、様々な分野で多様な資金獲得活動を行っています。警察では、部門ごと、都道府県警察ごとにそれぞれ対策を進めるのではなく、これらの垣根を取り払い、同グループに対する戦略的な実態解明、取締りを推進しているところです。

この特集では、第1節で匿名・流動型犯罪グループの特徴を説明しつつ、同グループが典型的に敢行する多様な資金獲得活動を紹介することで、その動向を概観します。第2節では、匿名・流動型犯罪グループへの対策と題し、政府及び警察における同グループの実態解明、取締り等のための各種取組を紹介します。そして、第3節では、匿名・流動型犯罪グループをめぐる現状及び対策を踏まえ、今後の匿名・流動型犯罪グループ対策の在り方について展望します。

匿名・流動型犯罪グループによる組織犯罪は、我が国の市民社会に対する重大な脅威となっており、社会全体で取り組むべき課題でもあります。この特集が、匿名・流動型犯罪グループに対する警察の取組についての国民の皆様の理解を深めるとともに、社会全体で治安の確保に向けた対策の在り方について考えていただく一助となれば幸いです。



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