第7章 警察活動の支え

8 研究機関の活動

(1)警察政策研究センター

警察大学校に置かれている警察政策研究センターは、様々な治安上の課題に対する調査研究を進め、政策提言を行うとともに、警察と国内外の研究者等との交流の拠点として活動している。

① フォーラムの開催

警察政策研究センターでは、関係機関・団体と連携し、国内外の研究者・実務家を交えて社会安全等に関するフォーラムを開催している。

 
フォーラムの開催
フォーラムの開催
 
図表7-18 フォーラムの開催状況(令和5年度)
図表7-18 フォーラムの開催状況(令和5年度)

CASE

令和5年10月、公益財団法人日工組社会安全研究財団との共催により、「「公共空間化」するサイバー空間の安全安心の確保~官民の多様な主体連携」をテーマとするフォーラムを開催した。専門家及び警察庁の職員による講演・パネルディスカッションが行われ、活発に意見交換がなされた。また、同フォーラムは特設サイトにおいてオンデマンドで配信された。

② 大学関係者との共同研究の推進

警察政策研究センターでは、大学関係者と共同して研究活動を行っている。これまでに、例えば、テロ等の各種治安事象への対策を講じるに当たって、国民の自由と安全をいかにバランス良く保障していくかについて、慶應義塾大学大学院法学研究科との間で、憲法学的見地からの共同研究を行っている。

③ 大学・大学院における講義の実施

警察政策研究センターでは、警察政策に関する研究の発展及び普及のため、京都大学法科大学院・公共政策大学院、中央大学法学部・総合政策学部、東京大学公共政策大学院、東京都立大学法学部、一橋大学国際・公共政策大学院、法政大学法学部及び早稲田大学法科大学院に職員を講師として派遣し、警察行政や社会安全政策論に関する講義を実施している。

 
大学・大学院での講義
大学・大学院での講義
④ 警察に関する国際的な学術交流

警察政策研究センターでは、海外で開催される国際的な学術会議に参画し、日本警察に関する情報発信を行っている。また、韓国警察庁警察大学治安政策研究所、フランス高等治安・司法研究所及びドイツ・フライブルク大学安全・社会センターとの間で協定を締結し、警察に関する国際的な学術交流を実施している。

⑤ 海外調査研究員の派遣

警察政策研究センターでは、海外調査研究員を海外の大学・大学院や行政機関等に1年間派遣し、警察に係る外国の法制度等について調査研究を行っている。令和4年から令和5年にかけて、6人を米国等に派遣し、サイバー犯罪捜査をはじめとする最新の海外の取組について調査研究を行った。

(2)警察情報通信研究センター

警察大学校に置かれている警察情報通信研究センターでは、警察に係る情報通信に関する研究を行っており、その成果は、犯罪捜査の効率化や警察における情報通信システムの整備に活用されている。

例えば、犯罪捜査等の効率化のため、防犯カメラ等に記録された低照度・低画質な画像の鮮明化技術等の画像処理に関する研究を行っている。

 
画像処理に関する研究
画像処理に関する研究

(3)科学警察研究所

科学警察研究所は、最新の科学技術に基づき警察活動を支えるため、警察庁に附置されている研究機関である。その業務は、科学技術を犯罪捜査や犯罪予防に役立てるための研究、その研究成果を活用した鑑定・検査及び都道府県警察の鑑定技術職員に対する技術指導を行うための研修という三つの柱から構成されている。

① 犯罪捜査等のための研究

科学警察研究所では、犯罪捜査をはじめとする警察活動への実用化の観点から科学技術の研究を行うとともに、鑑定等に利用する技術、資機材等についての検証等を行っている。科学警察研究所の研究によって確立・実証をされた知識や技術は、犯罪捜査における鑑定・検査に活用されており、DNA型鑑定、違法薬物の分析、画像解析、ポリグラフ検査、プロファイリング等を通じて、事件の解明、被疑者の検挙等に貢献している。

研究例 土壌及び植物試料からの除草剤分析

植栽や農作物に除草剤が散布される器物損壊事案を想定し、散布現場付近の土壌や枯葉等の試料から、グリホサートやパラコートをはじめとする複数の主要な除草剤成分を簡便な前処理法で同時検出する手法を開発した。類似の研究例は過去に知られていなかったところ、本手法は、近年多発した街路樹への除草剤散布が疑われる事案等において、都道府県警察の鑑定実務に貢献している。

 
除草剤散布により枯れた植物からの分析
除草剤散布により枯れた植物からの分析

研究例 犯罪者プロファイリング分析ソフトウェアの開発に関する研究

プロファイリング(注)の高度化の一環として、時空間モデリングアプローチや機械学習等の先端技術を用いた手法の開発を行っている。また、手法の開発に加えて、現場の捜査員や分析担当者向けに、開発したプロファイリング手法を導入したソフトウェアの構築を行っている。最新版のソフトウェアは令和3年に全国配布し、全国の捜査支援業務で活用されている。現在は特に、複数犯行が同一犯による犯行か否かの推定を行う事件リンク分析や、犯人の年齢層や前歴等の推定を行う犯人像推定の手法の開発を進めている。今後、これらの新たな手法についても、精度検証を行い、同ソフトウェアに機能を追加することで、プロファイリング分析の総合的な高度化を図ることとしている。

注:88頁参照(第2章)

 
事件リンク分析の出力イメージ(デモデータによる。) 背景地図は国土地理院が公開する土地利用データを加工して作成
事件リンク分析の出力イメージ(デモデータによる。)
背景地図は国土地理院が公開する土地利用データを加工して作成
https://www.gsi.go.jp/kankyochiri/gm_jpn.html

研究例 新たなモビリティの関わる交通事故の研究

近年、電動キックボード等の新たなモビリティの普及が進んでいるが、これらのモビリティは搭乗姿勢や走行性能が従来の乗り物とは異なり、事故発生時の乗員の挙動や受傷過程が不明である。そこで、実車実験及びコンピューターシミュレーションの活用により、これらモビリティの関わる交通事故を再現し、交通鑑識活動に必要な知見の蓄積や、ヘルメット等の防護具の着装による被害軽減効果の検証を行っている。

 
実車及びシミュレーションによる交通事故の再現
実車及びシミュレーションによる交通事故の再現
② 鑑定・検査

科学警察研究所では、ミトコンドリアDNA検査(注)、薬物プロファイリングによる異同識別等の高度な専門的知識や技術が必要とされる鑑定や、火災の再現実験等の特殊な設備や技術が必要とされる鑑定を実施している。また、偽造通貨及び銃器の弾丸・薬きょう類については、全て科学警察研究所が資料の鑑定を行っている。

注:細胞核ではなく、細胞内のミトコンドリアに存在するDNAの塩基配列を分析する検査。同配列は、男女を問わず母親の配列と同一となるため、母子や兄弟姉妹間の比較に有効とされる。

③ 法科学研修所における研修

科学警察研究所に置かれている法科学研修所では、主に都道府県警察の科学捜査研究所及び鑑識部門で勤務する職員を対象として、鑑定・検査及び鑑識活動に必要となる専門的知識に関する研修を行っている。また、国内外の大学、研究機関等に、研修生をおおむね3か月から6か月までの期間にわたって派遣し、専門性を高めるための研究に従事させることによって、新たな鑑定手法の開発等に役立てている。



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