第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 科学技術の活用

客観証拠による的確な立証を図り、犯罪の悪質化・巧妙化等に対応するため、警察では、犯罪捜査において、DNA型鑑定、プロファイリング等の科学技術の活用を推進している。

また、DNA型鑑定等のうち、特に高度な専門的知識・技術が必要となるものについては、都道府県警察からの依頼により、警察庁の科学警察研究所において実施している。

(1)DNA型鑑定

DNA型鑑定とは、ヒト身体組織の細胞内に存在するDNA(デオキシリボ核酸)(注)の塩基配列を分析することによって、個人を高い精度で識別する鑑定法である。

注:細胞核に存在する23対46本の染色体を構成する物質の一つで、長いらせんのはしご状(二重らせん)の構造をしている。

① 警察におけるDNA型鑑定

警察で行っているDNA型鑑定は、主に、STR型検査法と呼ばれるもので、STRと呼ばれる特徴的な塩基配列の繰り返し回数に個人差があることを利用し、個人を識別する検査法である(注)

注:塩基の繰り返し配列について、その反復回数を調べて、その繰り返し回数を「型」として表記して個人識別を行う。

 
図表2-73 警察におけるDNA型鑑定の概要
図表2-73 警察におけるDNA型鑑定の概要
② DNA型鑑定の犯罪捜査への活用

DNA型鑑定の実施件数の推移は、図表2-74のとおりであり、殺人事件等の凶悪事件のほか、窃盗事件等の身近な犯罪の捜査にも活用されている。

また、警察では、被疑者から採取した資料から作成した被疑者DNA型記録及び犯人が犯罪現場等に遺留したと認められる資料から作成した遺留DNA型記録をデータベースに登録し、未解決事件の捜査をはじめとする様々な事件の捜査において犯人の割り出しや余罪の確認等に活用している。

 
図表2-74 DNA型鑑定実施件数の推移(令和元年~令和5年)
図表2-74 DNA型鑑定実施件数の推移(令和元年~令和5年)
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図表2-75 DNA型データベースの運用状況(令和元年~令和5年)
図表2-75 DNA型データベースの運用状況(令和元年~令和5年)
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③ 身元確認のためのDNA型鑑定の活用

警察では、身元不明死体の身元確認及び特異行方不明者(注)の速やかな発見に活用するため、身元不明死体に関する資料から作成した変死者等DNA型記録及び死体DNA型記録並びに特異行方不明者本人、その実子、実父又は実母に関する資料から作成した特異行方不明者等DNA型記録をデータベースに登録している。

注:犯罪や事故等に巻き込まれ、生命又は身体に危険が生じているおそれ等のある行方不明者

 
図表2-76 身元確認のためのDNA型データベースの活用
図表2-76 身元確認のためのDNA型データベースの活用

(2)デジタル・フォレンジック(注)

電磁的記録は、犯罪捜査において重要な客観証拠となる場合がある一方で、消去、改変等が容易であるため、これを犯罪捜査に活用するためには、適正な手続により解析・証拠化することが重要である。

警察では、デジタル・フォレンジックを活用し、電子機器等から電磁的記録を抽出した上で、文字や画像等の人が認識できる形に変換するという電磁的記録の解析を行っている。

また、近年、新たな電子機器や情報通信サービスが次々と登場し、電磁的記録の解析が一層困難になる中で、最新の技術を有する民間企業や研究機関との技術協力を推進し、技術情報を継続的に収集するとともに、国内外の関係機関・団体等との連携を強化し、電磁的記録の解析に係るノウハウや技術の蓄積に努めている。

注:犯罪の立証のための電磁的記録の解析技術及びその手続

 
図表2-77 デジタル・フォレンジックの概要
図表2-77 デジタル・フォレンジックの概要

(3)指掌紋自動識別システム

指掌紋は、「万人不同」かつ「終生不変」の特性を有し、個人を識別するための資料として極めて有用であることから、明治44年(1911年)に警視庁において指紋制度が導入されて以来、現在に至るまで、犯罪の捜査に欠かせないものになっている。

警察では、被疑者から採取した指掌紋と犯人が犯罪現場等に遺留したと認められる指掌紋をデータベースに登録して自動照合を行う、指掌紋自動識別システムを運用し、犯人の割り出し、余罪の確認等に活用している。

 
指掌紋自動識別システムによる指掌紋確認状況
指掌紋自動識別システムによる指掌紋確認状況

(4)防犯カメラ画像等の活用

防犯カメラ画像等は、被疑者の特定や犯行の立証に有効であることから、事件関係者の足取りの確認、防犯カメラ画像等を公開しての追跡捜査等、警察捜査における様々な場面で活用されている。

防犯カメラ画像等の分析結果から被疑者の検挙に結び付いた事件の中には、被害者と全く面識がない被疑者による偶発的な犯行によるものもあり、防犯カメラ画像等は、警察捜査に欠かせないものとなっている。

① 防犯カメラ画像等の迅速な収集・分析

防犯カメラ画像等が記録されているハードディスク等の記録媒体は、一定期間を過ぎるとデータが上書きにより消去されるものが多い。データが上書きにより消去されるまでの期間は、防犯カメラが設置されている施設や機種ごとに異なるが、数日程度と短いものもある。そのため、警察が事件を認知し、防犯カメラ画像等の入手を試みた時点で、捜査に必要な部分のデータが上書きにより残っていないという場合も少なくない。また、防犯カメラ画像等の中には記録の抽出等に技術的な困難を伴うものもある。

警察では、事件発生後、迅速に防犯カメラ画像等の収集・分析をするための体制の構築を進めている。

 
防犯カメラ画像等の収集・分析
防犯カメラ画像等の収集・分析
② 防犯カメラ画像等の解析

警察で収集した防犯カメラ画像等は、録画装置の性能や撮影条件等により画像が不鮮明な場合があり、分析に支障を来すことがある。

警察では、画像を鮮明化するための技術開発を進めており、これらの技術を駆使して防犯カメラ画像等の解析を行い、犯人の特定や追跡等に役立てている。

 
図表2-78 画像の鮮明化技術
図表2-78 画像の鮮明化技術

CASE

令和5年5月、三重県内において、外出先から帰宅した女性が自宅前路上で何者かに殺害され、所持品を奪われる強盗殺人事件が発生した。

現場周辺に設置された防犯カメラ画像等の収集・分析により、1台の不審車両が浮上し、捜査対象者の特定に至った。また、現場から約200キロメートルに及ぶ「リレー方式」での防犯カメラ画像の追跡捜査を行い、同車両の走行状況及び立ち寄り先を明らかにするなどの捜査の結果、事件発生から20日後に、ブラジル人の夫(48)ら3人を強盗殺人罪で逮捕した(三重)。

(5)犯罪関連情報の総合的な分析

警察では、従来のシステムが集約・統合された警察共通基盤(注)を運用し、様々な犯罪関連情報の一元的な管理と総合的な分析を行っている。警察共通基盤では、犯罪発生状況のほか、犯罪手口、犯罪統計等の犯罪関連情報を地図上に表示し、その他の様々な情報とも組み合わせることで、犯罪の発生場所、時間帯、被疑者の特徴等を推定することが可能であり、警察共通基盤を活用した的確な捜査指揮や効率的な捜査の支援を行うことで、事件解決に役立てている。

注:212頁参照(第7章)

 
図表2-79 犯罪関連情報の総合的な分析
図表2-79 犯罪関連情報の総合的な分析

(6)自動車ナンバー自動読取システム

自動車盗をはじめとする多くの犯罪では、犯行や逃走に自動車が悪用されていることから、被疑者の早期検挙を果たすためには、車両ナンバーに基づいて当該車両の発見・捕捉をすることが効果的である。このため、警察庁では、通過する自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する、自動車ナンバー自動読取システムの整備に努めている。

(7)プロファイリング

プロファイリングとは、犯行現場の状況、犯行の手段、被害者等に関する情報や資料を、統計データや心理学的手法等を用い、また、警察共通基盤を活用して分析・評価をすることにより、犯行の連続性の推定、犯人の年齢層、生活様式、職業、前歴、居住地等の推定や次回の犯行の予測を行うものである(注)

プロファイリングは、連続して発生している性犯罪、窃盗、放火、通り魔事件等、犯行状況に関する情報量の多い事件や犯人の行動の特徴がつかみやすい事件において、特に効果が期待される。

警察では、より高度で効率的な捜査を推進するため、捜査員とプロファイリング担当者が情報の共有・連携をし、聞き込み捜査等の従来の捜査の結果と科学的見地に基づくプロファイリングによる推定結果の双方から、犯人像の推定等を行っている。また、プロファイリングには、行動科学や統計分析に関する専門的知識が求められることから、警察庁では、全国警察の捜査員及び科学捜査研究所で勤務する職員に対し、科学警察研究所による研修を実施するなどして、プロファイリング担当者の育成を図る一方、全国警察における分析結果の集約、検証等を通じて分析技術の高度化について研究を進めている。

注:我が国では、平成6年に科学警察研究所においてプロファイリングに関する研究が開始され、平成12年には北海道警察が都道府県警察として初めて特異犯罪分析班を設置した。警察庁においては、平成18年に情報分析支援室が設置され、プロファイリングを担当することとなり、平成26年には、体制を充実させ、捜査支援分析管理官が設置された。それ以降、都道府県警察においても体制の整備を進めている。

 
図表2-80 プロファイリング
図表2-80 プロファイリング


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