第1章 警察の組織と公安委員会制度

公安委員の声

私ならどうするか~元教員の公安委員としての視点~


山形県公安委員会委員

柴田 曜子(しばた ようこ)


委員就任  平成30年7月8日


私は長らく教育現場に身を置いてきたが、公安委員に就任して痛切に感じたのは組織の違いと教養の進め方の違いだ。警察はピラミッド型の組織で上下関係がはっきりしている。それに対して教育現場は鍋ぶた型で、各学校の校長・教頭の下には教員が一列に並んでいるような形だ。新任の教員もベテランの教員も、同じように授業を任され、クラスを持つことになる。警察では階級がはっきりしており、試験を受けて合格すれば昇任し、県や管区の警察学校で必要な教養を受ける。警察官になったかつての教え子が言っていたが、学生時代はあまり勉強をしなかったが、警察官になってからは階級があがる都度一生懸命勉強しているそうだ。そういう意味では警察は学び続けることが求められる組織といえる。

都道府県公安委員の役割は県警察の活動が適切に行われるよう管理することで、定例会では警察運営の基本方針やそれを踏まえた各種施策、事件・事故や災害の報告を受け、それらに対して県民の目線に立って意見を述べることが求められる。また、運転免許の行政処分では免許取消し等に係る案件を審議しているが、報告の中には、なぜこんな場所で交通事故が起こるのだろうと疑問に思うことも多い。感じるのは車を運転することが当たり前になっていて、車を運転することに慣れ過ぎ、前方を見ているようでも認識していないのではないかということだ。2018年のJAFの「信号機のない横断歩道における車の一時停止率」調査において山形県は7.6%であった。10台に1台も止まっていないことになる。停止率の高かった県にどんな対策を取っているのか問い合わせたところ、子供の頃から横断歩道で止まる車を見て、大人になって車を運転するときに、同じように止まるという良い循環が出来ているのではないかということであった。その後山形県では横断歩行者妨害に係る取締りを強化し、さらに「交通安全ありがとう運動」を展開して、停止率は昨年50%を超えた。この取組の効果として単に停止率が上がっただけでなく、走行車両のスピードが以前よりも落ちたように感じる。また、子供たちに交通安全を教える際に「右を見て、左を見て、もう一度右を見て車が来ないのを確認してから渡りましょう」と教えてきたが、これは車中心の発想だと思う。本来は「横断歩道では手を上げて、車を止めてから渡りましょう」なのではないかと思う。車が止まってくれるのを待つのではなく、主たる歩行者が車を止めるのだと、考えを改めるべきではないかと思う。車を運転していると、横断歩道近くの人が横断する意思があるのかわからなかったり、車を止めては悪いと思うのか、「行け」と手で合図したりする人も多い。子供の頃から横断の際には意思表示をするということを身に付けさせたい。

私たちは今までにない高齢化社会を迎え、かつ地方は車依存の社会になっている。高齢者の交通事故が問題になっているが、電車やバス等の移動手段のある都会と違い、地方において車の免許は大げさに言うと死活問題につながる。様々な会合で高齢者の車の運転について話題になるが、どこか他人事として話しているのが気になる。今問われているのは自分がその立場になった時にどうするかだと思う。

また、交通事故防止に関すること以外にも、犯罪を予防するための取組の強化や、重要・悪質な犯罪の検挙、情勢に即した警備諸対策等、山形県警察が推進すべき業務は山積している。

まだ数年任期があるが、常に私ならどうするかという視点で考え、これからも意見を言っていきたい。

 
山形県公安委員会委員 柴田 曜子


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