第1章 警察の組織と公安委員会制度

公安委員の声

人とともに、人のために


北海道公安委員会委員

小林(こばやし) ヒサヨ


委員就任  平成28年2月27日


初夏の陽射しが眩しく、緑あふれる札幌市の大通公園を舞台に、YOSAKOIソーラン祭りが3年ぶりに開催されました。踊り子たちの熱気に負けまいと花々も咲き誇り、躍動感に満ちた空気が街を包んでいます。そんな大通公園にほど近い場所に、私が勤めている「更生保護施設(寮)」があります。この場所で保護の事業を開始してから百余年、札幌石材馬車鉄道会社(のちの札幌市電)の経営者だった創始者夫妻の想いを、脈々と受け継いできました。

公安委員にとのお話をいただいた時、「罪を犯した人を逮捕する側の警察」と「刑務所等から釈放され、社会復帰しようとする人たちを保護する側の施設職員」と、二つを同時に抱えることに矛盾はないのか悩みました。その答えは、施設の玄関ホールに置かれている石碑に刻まれていました。「人とともに、人のために」。創始者の長男で、事業を引き継いだ二代目の言葉です。奇しくも、北海道警察の活動指針は「道民とともに 道民のために 強く正しく」です。“生身の人間”に寄り添って、共に“安心して暮らせる地域社会を目指す”という使命は、24時間毎日絶え間がなく、警察も保護も同じだと分かり、悩みは払拭されました。

公安委員として活動していくうちに、多種多様な警察活動と職務執行の大変さを知り、警察に対するイメージは大きく変わりました。知床の観光船事故では海上保安庁や自衛隊と共に救助や捜索に加わっていますが、被害者支援は主に警察の役割だと聞いています。また、交通事故や刑事事件のみならず、地震などの自然災害や冬山遭難等々の現場では、危険を伴いながら昼夜を問わず任務に当たります。忍耐と注意深さを要する留置管理や鑑識、SNS加害者の追跡。子どもや高齢者に交通安全や特殊詐欺防止等を呼び掛ける出張講話に加え、そのポスターや動画作り等々。パトロールだけではない、机上の作業もたくさんあります。道警察は、鍛えられた知力・体力を目いっぱい使って、広大な北海道の隅々まで道民のために活動していることを知り、本当に頼もしく感じる毎日です。

こうした警察活動の成果もあり、刑法犯の「認知件数」は令和3年まで年々減少しています。一方、刑法犯の「再犯者率」は高止まりで、再犯を防止することが国の重要な課題になっています。私の施設では、国からの委託などで年間百人前後を保護し、これまで多くの寮生に接してきましたが、ネット社会では寮の住所で保護施設だと分かり、仕事や住居探しの場でも不利な扱いを受けることがしばしばです。罪を犯した人たちへの社会の偏見は根強く、彼らのこうした「生きづらさ」も再犯の背景になっていると感じます。自立していった元寮生が、まるで実家に立ち寄るように施設を訪ねてくることがよくあります。私たち職員は、社会での本人の頑張りを労い、「生きづらさ」に寄り添い、しばし雑談の相手をして見送ります。地道ですが、そういった息の長いフォローアップの時間も、再犯防止の一助になっていると確信しています。

公安委員としての私は微力ですが、道警察には「人」に対して誠実かつ丁寧に向き合ってほしいという願いから、これまで道民目線で感じたこと、気になることを申し上げてきました。道警察が、これからも良い仕事を続けていくために、何より職員が大切にされる職場を目指して、委員の方々と共に知恵を出し合い、私の任期をしっかりと務めてまいりたいと思います。そして退任後も再犯防止のお手伝いをしながら、道警察を応援し続けたいと思っています。

 
北海道公安委員会委員 小林 ヒサヨ


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