特集 技術革新による社会の変容と警察の新たなる展開

第1部 特集・トピックス

技術革新による社会の変容と警察の新たなる展開

特集に当たって

本年の警察白書の特集テーマは、「技術革新による社会の変容と警察の新たなる展開」です。

科学技術は、経済成長の原動力であり、社会のパラダイムシフトを引き起こす力を持ちます。戦後の我が国においても、急速な経済成長を牽(けん)引し、石油危機等数々の危機を克服する要因となったものは科学技術でした。特に、インターネットの登場によりサイバー空間という新たな空間が創出され、我が国では、情報通信技術の発展・普及に伴ってデジタル経済が急速に発展するなど、サイバー空間はあらゆる人々に大きな便益をもたらすとともに、社会経済活動の基盤となっています。

その反面、技術革新に伴って、技術が悪用されることによる脅威も顕在化しています。例えば、電子商取引が拡大し、キャッシュレス決済サービスが普及する中で、サイバー犯罪の検挙件数が過去最多となっているほか、国内におけるランサムウェアによる被害の報告件数が一貫して増加するなど、現代では、サイバー空間における脅威が人々に身近なものとなっています。サイバー空間が実空間と融合し、現実社会に様々な影響を与える存在となるに連れて、国家を背景に持つサイバー攻撃集団によるサイバー攻撃が明らかになるなど、その脅威については、極めて深刻な情勢となっています。

また、世界各国が自国の競争力強化のため、AI、量子技術等の安全保障にも影響し得る先端技術の研究開発を急速に進展させている中で、地政学的な緊張の高まりもあいまって、科学技術自体が激化する国家間の覇権争いの中核となっています。このような情勢の変化に伴い、企業の保有する技術情報等が外部に持ち出されるなどの営業秘密侵害事犯といった類型の犯罪についても、事業者間の公正な競争を妨げるなどの問題を生じさせるだけでなく、我が国の技術の優位性・不可欠性に対するリスク、いわゆる経済安全保障上の脅威として顕在化しつつあります。

他方、足元では、少子高齢化の進展に伴い就職適齢人口が減少しているほか、現場における世代交代が進み、経験が豊富な警察官が減少するなど、警察としても、現有するマンパワーの中長期的な維持・向上に質的・量的な課題が生じています。その中で、サイバー事案等の新たな脅威はもちろん、依然として被害が深刻な特殊詐欺、後を絶たない人身安全関連事案、激甚化・頻発化する豪雨等の自然災害等、従来からの脅威にも的確に対応していくことが必要であり、警察としては、科学技術の利活用を通じて警察活動の高度化・合理化を図ることが不可欠となっています。

この特集では、第1節で技術革新がもたらす様々な社会の変化やそれにより生ずる新たな脅威への対策を概観し、第2節では、限られた人的・財政的資源の下、深刻化する脅威に対処するための科学技術の利活用を通じた警察活動の高度化・合理化に向けた不断の取組について紹介します。そして、第3節では、技術革新に伴い急速に変容する社会経済情勢の中で、国民の安全・安心を確保するための警察の課題と今後の取組について展望します。

この特集が、技術革新が進展する社会における警察の今後の取組についての国民の皆様の理解を深めるとともに、変わらずに国民の安全・安心を確保していくための対策の在り方について考えていただく一助となれば幸いです。



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