5 構造的な不正事案への対策
(1)政治・行政をめぐる不正事案
国又は地方公共団体の幹部職員等による贈収賄事件、入札談合等関与行為防止法違反事件、公契約関係競売等妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正は依然として後を絶たない。
しかし、このような事案は、直接の被害者がおらず、金品の受渡し等は密室で行われることが多いことから、通常は被害申告や目撃者の証言等が期待できず、端緒情報の把握や犯罪事実の立証は容易ではない。
警察では、このような事案に対し、端緒情報の把握に努めるとともに、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。
第49回衆議院議員総選挙(令和3年10月31日施行)における選挙期日後90日現在(令和4年1月29日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は91件、検挙人員は109人(うち逮捕者は17人)であった。

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山梨県市川三郷町の元町議会議員の男(76)は、在職中に、設計事務所の経営者から、同町が委託する生涯学習センター等の設計業務の入札に関し、職務上不正な行為をするよう同町長に対して働き掛けてほしいとの請託を受け、同町長にあっせんしたことに対する謝礼として、平成29年6月、現金1,000万円を収受した。また、同町の元町長の男(82)は、在職中の同月、同元町議会議員の男から、同設計事務所が受注できるようにしたことに対する謝礼として、現金200万円を収受した。令和3年10月、同元町議会議員の男をあっせん収賄罪で、同元町長の男を加重収賄罪で逮捕した(山梨)。
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千葉県多古町長の男(56)は、令和3年10月、部下職員等に対し、その職務上の地位を利用して、自己の支持する候補者を当選させる目的で、同候補者への投票を依頼するなどした。同年11月、公職選挙法違反(公務員の地位利用等)で逮捕した(千葉)。
(2)経済をめぐる不正事案
企業の役職員らが組織の内部統制を逸脱したことによる背任、詐欺、横領等の違法事犯のほか、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯や国及び地方公共団体の補助金の不正受給事犯が後を絶たない状況にある。また、弁護士や税理士といった社会的地位を有する者による詐欺、横領等の犯罪も発生している。
警察では、これらの金融・不良債権関連事犯、企業の経営等に係る違法事犯、証券取引事犯、財政侵害事犯その他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。また、様々な投資名目で消費者等が被害に遭う詐欺事件等においては、被害者が多数・広域に及ぶ場合があることから、関係する都道府県警察が連携を図っている。
このような事案に対しては、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であることから、都道府県警察においては、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。

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電気通信事業会社の元代表取締役の男(43)らは、令和元年12月から令和2年2月にかけて、5回にわたり、顧客の利用料金を引き落とす決済システムに水増しした利用料金請求情報を送信して、合計約4億9,192万円をだまし取った。令和3年5月までに、同男ら2人を電子計算機使用詐欺罪で逮捕した(警視庁)。
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宿泊施設の経営者の男(50)らは、令和2年10月、GoToトラベル事業給付金制度を利用して同給付金の名目で現金をだまし取ろうと考え、2回にわたり、給付申請用ホームページに接続し、同男の経営する宿泊施設への宿泊の事実がないにもかかわらず、当該事実があるように装って同給付金の給付を申請し、合計945万円をだまし取った。令和3年6月、同男ら2人を詐欺罪で逮捕した(栃木)。
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債務保証会社の元代表取締役の男(52)らは、令和元年9月から同年11月にかけて、破産手続開始の決定を受けた子会社が有する財産及びホテル運営事業等を同債務保証会社等へ譲渡する旨の事業譲渡契約書を作成した上、これを地方裁判所に提出して、債務者である同子会社の財産の譲渡を仮装するなどした。令和3年9月、同男ら2人を破産法違反で逮捕した(静岡)。