第4章 安全かつ快適な交通の確保

第4節 交通環境の整備

1 交通実態を踏まえた交通環境の整備

(1)交通安全施設等整備事業の推進

警察では、交通の安全と円滑を確保するため、信号機や道路標識をはじめとする交通安全施設等の整備を進めている。

交通安全施設等の整備については、昭和41年(1966年)以降、多発する交通事故を緊急かつ効果的に防止するため、交通安全施設等整備事業長期計画に即して推進してきたが、平成15年(2003年)以降は、交通安全施設等、道路、港湾等の社会資本の整備に関して従来の事業分野別の長期計画を統合した「社会資本整備重点計画」に即して推進している。

令和3年(2021年)度から令和7年度においては、当該期間を計画期間とする第5次社会資本整備重点計画に即して、重点的、効果的かつ効率的に交通安全施設等の整備を推進することとしている。

 
図表4-32 主な交通安全施設等整備状況
図表4-32 主な交通安全施設等整備状況
 
図表4-33 警察の整備する交通安全施設等
図表4-33 警察の整備する交通安全施設等
 
図表4-34 第5次社会資本整備重点計画の概要(警察関連部分)
図表4-34 第5次社会資本整備重点計画の概要(警察関連部分)

一方、整備後長期間が経過した信号機等の老朽化対策が課題となっており、警察庁では、平成25年11月にインフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議において策定された「インフラ長寿命化基本計画」に基づき、警察関連施設の維持管理・更新等を着実に推進するための中長期的な取組の方向性を明らかにする「警察庁インフラ長寿命化計画」を策定した。警察では、同計画等に即して、交通安全施設等の整備状況を把握・分析した上で、中長期的な視点に立った老朽施設の更新、交通環境の変化等により効果が低下した施設の撤去、施設の長寿命化等による戦略的なストック管理、ライフサイクルコストの削減等に努めている。

 
図表4-35 老朽化した交通安全施設
図表4-35 老朽化した交通安全施設

(2)交通管制システムの整備

都市部では道路交通が複雑化・過密化し、交通渋滞、交通公害及び交通事故の一因となっているため、警察では、交通管制システムにより、道路交通を効率的に管理して、交通の安全と円滑の確保を図っている。

具体的には、車両感知器等から収集した交通量や走行速度等の情報を分析し、交通状況に即応した信号の制御を行うことで、車両の流れをコントロールしているほか、収集した交通情報を交通情報板や光ビーコン(注)等を活用して提供することで、交通流・交通量の誘導及び分散を図るなどの対策を講じている。

注:通過車両を感知して交通量等を測定するとともに、車載装置と交通管制センターの間のやり取りを媒介する路上設置型の赤外線通信装置

 
図表4-36 交通管制システム
図表4-36 交通管制システム

(3)交通実態の変化等に即した交通規制

警察では、地域の交通実態を踏まえ、速度、駐車等に関する交通規制や交通管制の内容について常に点検・見直しを図るとともに、道路整備、地域開発、商業施設の新設等による交通事情の変化に対しても、これを的確に把握してソフト・ハード両面での総合的な対策を実施することにより、安全で円滑な交通流の維持を図っている。

このうち、速度規制については、平成25年12月に有識者懇談会において取りまとめられた「交通事故抑止に資する取締り・速度規制等の在り方に関する提言」を踏まえ、一般道路(注1)において、実勢速度(注2)、交通事故発生状況等を勘案しつつ、規制速度の引上げ、規制理由の周知等を計画的に推進している。平成26年度から28年度にかけて実施した最高速度規制の見直しについて分析した結果、規制速度が引き上げられた多くの路線で実勢速度の上昇傾向や交通事故の増加傾向はみられなかった。

また、平成26年から、交通事故の減少や被害の軽減、交差点における待ち時間の減少、災害時の対応力の向上等の効果が見込まれる環状交差点の適切な箇所への導入を推進しており、令和2年度末までに126か所で導入された。

さらに、信号制御については、歩行者・自転車の視点で、信号をより守りやすくするために、横断実態等を踏まえた信号表示の調整等の運用の改善を推進している。

注1:生活道路において推進している速度抑制対策については、178頁参照

注2:例えば、ある区間を走行する100台の自動車の走行速度を低いものから順に並べた場合、85番目のものの速度

 
環状交差点(北海道檜山郡上ノ国町)
環状交差点(北海道檜山郡上ノ国町)

(4)交通管理等による環境対策

警察では、沿道地域の交通公害の状況や道路交通の実態に応じて、通過車両の走行速度を低下させてエンジン音や振動を抑えるための最高速度規制、エンジン音や振動の大きい大型車を沿道から遠ざけるための中央寄り車線規制等の対策を実施している。

また、交通状況に即応した信号の制御により、交差点における車両の停止・発進回数を低減させることで、騒音、振動及び排出ガスの発生を抑え、交通公害の低減を図っている。

(5)警察による交通情報提供

警察では、交通管制システムにより収集・分析したデータを交通情報板やVICS(注1)等を通じて交通情報として広く提供し、運転者が混雑の状況や所要時間を的確に把握して安全かつ快適に運転できるようにすることにより、交通流を分散させ、交通渋滞や交通公害の緩和を促進している。

また、関係団体の協力の下、警察が保有するリアルタイムの交通情報をカーナビゲーション装置等にオンラインで提供するシステムを構築するなど、民間の交通情報提供事業の高度化を支援するとともに、交通情報の提供に関する指針を定め、当該事業が交通の安全と円滑に資するものとなるよう働き掛けている。さらに、民間事業者が保有するプローブ情報(注2)を活用しつつ、災害時に通行実績情報等の交通情報を提供するためのシステムを整備・運用している。

このほか、平成29年3月から交通規制情報及び断面交通量情報(注3)を、平成30年3月からは交差点制御情報(注4)を、関係団体のウェブサイトを通じて提供している。

注1:Vehicle Information and Communication System(道路交通情報通信システム)の略。光ビーコン等を通じてカーナビゲーション装置に対して交通情報を提供するシステムで、時々刻々変動する道路交通の状況をリアルタイムで地図画面上に表示することができるほか、図形・文字でも分かりやすく表示することができる。

注2:10頁参照(特集1)

注3:道路上の特定の地点を単位時間当たりに通過する車両台数情報

注4:サイクル(信号機の灯火が青色、黄色、赤色と一巡する時間)、スプリット(1サイクル時間のうち、信号機が設置された交差点を通過する交通流のうち、同時に通行権を与えられている交通流の一群にそれぞれ割り当てられる時間の割合)等に関する実行履歴情報

 
VICS対応型カーナビゲーション装置の画面表示例
VICS対応型カーナビゲーション装置の画面表示例

MEMO 多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会

近年、技術の進展等により、電動キックボード、自動配送ロボット等の多様なモビリティが登場しており、海外の一部の国では、それらが新たな移動・運送手段として活用され始めている状況にある。

一方、このような新たなモビリティについては、我が国の既存の交通ルールの下では十分にその性能や利便性を生かすことができない可能性が指摘されており、交通ルール等の在り方の見直しを求められている状況にある。

そこで、新たなモビリティ以外の交通主体も含めた多様な交通主体全ての安全かつ快適な通行を可能とするような交通ルール等の在り方を検討するため、警察庁において「多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会」を令和2年7月から開催し、新たなモビリティに係る安全性や利便性について詳細に分析するとともに、専門家の意見を聴きながら、多様な交通主体全てにとっての新たな交通ルールの在り方を幅広く検討している。



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