第5章 安全かつ快適な交通の確保

5 ITSの推進と自動運転の実現に向けた取組

(1)ITS(注1)の推進

① UTMS(注2)の開発・整備によるITSの推進

警察では、最先端の情報通信技術等を用いて交通管理の最適化を図るため、光ビーコン等の機能を活用したUTMSの開発・整備を行うことによりITSを推進し、安全・円滑かつ快適で環境負荷の低い交通社会の実現を目指している。

注1:Intelligent Transport Systems(高度道路交通システム)の略

注2:Universal Traffic Management Systems(新交通管理システム)の略

 
図表5-36 主なUTMSの概要(令和2年4月末現在)
図表5-36 主なUTMSの概要(令和2年4月末現在)
② ITSに関する国際協力の推進

警察では、令和元年(2019年)10月、シンガポールで開催された第26回ITS世界会議(注1)及び同年11月に東京で開催されたSIP-adus Workshop2019(注2)において、各種発表を通じてUTMSの先進的な技術を紹介するとともに、各国とITSに関して情報交換を行うなどして協力関係を深めた。

また、警察庁では、令和2年1月、米国運輸省道路交通安全局との会議を米国で開催し、両国が推進するITSに関する施策等について情報交換を行った。

注1:ITSに関する3つの団体が共同で開催する、ITSの研究・実用化を推進するための会議

注2:SIP第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」の成果発表や国際連携を推進するための会議。SIPはCross-ministerial Strategic Innovation Promotion Program(戦略的イノベーション創造プログラム)の略

(2)自動運転の実用化に向けた警察の取組

自動運転の技術は、交通事故の削減や渋滞の緩和等に不可欠なものと考えられ、警察としても、我が国の道路交通環境に応じた自動運転が早期に実用化されるよう、その進展を支援すべく積極的に取組を進めている(注)

注:自動運転システムの解析に関する研究については、28頁(トピックスII 科学捜査を支える取組)参照

① 法制度面を含む各種課題の検討

警察庁では、平成30年5月から、有識者を交えた委員会を開催し、自動運転の実用化を見据えた道路交通法の在り方の検討を行った。同委員会における検討結果等を踏まえ、令和元年5月、第198回国会において、自動運行装置(注1)を使用する運転者の義務や作動状態記録装置(注2)による記録に関する規定の整備等を内容とする道路交通法の一部を改正する法律が成立した。また、自動運転関係の規定については、令和2年4月に施行された。

この改正により、SAEレベル3(注3)の自動運転について、国土交通大臣が付する自動運行装置の使用条件を満たさなくなる場合等には、運転者が自動運行装置から運転操作を確実に引き継ぐことが求められる。運転者はこれに適切に対処することができる必要があり、警察では、自動運行装置を使用した運転上の留意事項等について広報啓発に努めている。また、警察庁では、関係機関・団体と連携して、自動運行装置を使用中の自動車に係る事故原因の究明に必要な取組を進めている。

また、令和元年9月には、「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」を見直し、「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」を新たに策定・公表した。同基準は、自動運転による移動サービスの事業化を見据えて安全対策等を充実させるとともに、手動による運転時は通常のハンドル・ブレーキと異なる特別な装置で操作する自動車の実験について新たに規定するものとなっている。

注1:プログラムにより自動的に自動車を運行させるために必要な装置であって、当該装置ごとに国土交通大臣が付する条件(使用条件)で使用される場合において、自動車を運行する者の操縦に係る認知、予測、判断及び操作に係る能力の全部を代替する機能(以下「代替機能」という。)を有するもの

注2:自動運行装置の代替機能の作動状態の確認に必要な情報を記録するための装置

注3:「自動運転に係る制度整備大綱」等で採用されている、SAE(Society of Automotive Engineers)InternationalのJ3016における運転自動化レベルのうち、システムが全ての動的運転タスク(操舵、加減速、運転環境の監視、反応の実行等、車両を操作する際にリアルタイムで行う必要がある機能)を、システムが機能するよう設計されている特有の条件内で実施するが、システムの作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に対して、運転者の適切な応答が期待されるもの

 
広報・啓発リーフレット
広報・啓発リーフレット
② 国際的な議論への参画

我が国が締約しているジュネーブ条約(注1)では、第8条第1項において「一単位として運行されている車両又は連結車両には、それぞれ運転者がいなければならない」と規定されている一方で、システムが完全に運転操作を実施する自動運転もあり得ることなどから、近年、自動運転と国際条約との関係の整理等に関し、国際連合経済社会理事会の下の欧州経済委員会内陸輸送委員会に置かれたWP.1(注2)において議論が行われており、警察庁としても、これら議論に参画している。

注1:昭和24年(1949年)にスイス・ジュネーブにおいて作成された道路交通に関する条約の通称

注2:Global Forum for Road Traffic Safety(道路交通安全グローバルフォーラム)の通称

③ 自動運転システムの実用化に向けた研究開発

平成30年から開始されたSIP第2期「自動運転(システムとサービスの拡張)」では、自動運転システムの実用化に向け、令和元年10月から、産官学連携の下、東京臨海部の公道で国内外の自動車メーカー等による実証実験が実施されている。

警察庁においても、ITS無線路側機(注)による信号情報の提供の高度化を目指し、自動車メーカー等と自動運転の実用化に有用な信号情報の提供方法等について検討を行い、これら信号情報を提供できるITS無線路側機を東京臨海部に整備するなど、実証実験に向けた準備を進めた。また、ITS無線路側機からの直接の通信以外の手法による信号情報の提供に係る各種課題についての技術的な検討を行っている。

今後、警察では、道路交通法に関連する課題の検討を更に進めるなど、交通の安全と円滑の確保の観点から、必要な取組を引き続き推進することとしている。

注:信号制御機や車両感知器等と接続し、設置されている交差点における信号灯火、横断歩行者等の有無といった周辺の交通状況等を、700MHz帯の周波数を利用して広範囲に提供する路上設置型の無線通信装置

 
図表5-37 ITS無線路側機による信号情報の提供
図表5-37 ITS無線路側機による信号情報の提供


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