第4章 組織犯罪対策

3 暴力団対策法の運用

指定暴力団員がその所属する暴力団の威力を示して暴力的要求行為(注)を行った場合等において、都道府県公安委員会は、暴力団対策法に基づき、中止命令等を発出することができる。

また、対立する指定暴力団等の間に凶器を使用した一連の暴力行為(対立抗争)が発生した場合、都道府県公安委員会は、同法に基づき、事務所使用制限命令を発出することができるほか、対立抗争に係る暴力行為が人の生命又は身体に重大な危害を加える方法によるものであり、更に同様の暴力行為が行われるおそれがある場合には、当該対立抗争に係る指定暴力団等を特定抗争指定暴力団等として指定するものとしている。

中止命令等の発出件数の推移は、図表4-6のとおりである。

注:指定暴力団の暴力団員が指定暴力団の威力を示して行う不当な金品等の要求行為

CASE

神戸山口組傘下組織の構成員が、みかじめ料名目の金銭の支払を拒絶した飲食店経営者に暴行を加え負傷させた強盗致傷事件について、被害を受けた飲食店経営者が神戸山口組組長(71)らに対し提訴した損害賠償請求訴訟に関し、令和元年11月、兵庫県公安委員会等は、同組長らに対し、請求者に不安を覚えさせるような方法で請求を妨害することなどをしてはならない旨を命じた(福井、兵庫)。

 
図表4-6 暴力団対策法に基づく中止命令等の発出件数の推移(平成27〜令和元年)
図表4-6 暴力団対策法に基づく中止命令等の発出件数の推移(平成27〜令和元年)
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MEMO 山口組の分裂と暴力団対策法の効果的な活用

1 山口組の分裂

平成27年8月末、六代目山口組傘下の直系組長13人が離脱して神戸山口組を結成し、平成28年4月には、兵庫県公安委員会が暴力団対策法に基づき、神戸山口組を指定暴力団として指定した。また、六代目山口組と神戸山口組が対立抗争状態にある中、平成29年4月には、神戸山口組傘下組織の一部が任侠山口組の結成を表明し、平成30年3月、兵庫県公安委員会が同法に基づき、任侠山口組を指定暴力団として新たに指定(令和2年2月、絆會と改称)したことで、3つの指定暴力団が対立することになった。

2 対立抗争の激化

六代目山口組と神戸山口組の間では、平成31年4月以降、拳銃使用の殺人事件等が相次いで発生するなど、対立抗争が激化する状況が認められた。

CASE

六代目山口組傘下組織の構成員の男(56)らは、神戸市内の路上において、殺意をもって、神戸山口組傘下組織の組長に対して刃物を突き刺すなどし、負傷させた。平成31年4月、同男らを殺人未遂罪で逮捕した(兵庫)。

CASE

神戸山口組傘下組織の組長の男(60)は、令和元年8月、神戸市内の路上において、殺意をもって、六代目山口組傘下組織の構成員に対して拳銃を発射し、負傷させた。同年12月、同男を殺人未遂罪等で逮捕した(兵庫)。

CASE

六代目山口組傘下組織の構成員の男(68)は、神戸市内の神戸山口組傘下組織事務所付近において、殺意をもって、神戸山口組傘下組織の構成員2人に対して拳銃を発射し、殺害した。令和元年10月、同男を殺人未遂罪で逮捕した(兵庫)。

3 事務所使用制限命令の発出

対立抗争の激化を受け、令和元年10月、兵庫県警察、岐阜県警察、愛知県警察及び大阪府警察が、暴力団対策法に基づき、両団体本部事務所等について、当該事務所を多数の指定暴力団員の集合の用に供すること、対立抗争のための謀議、指揮命令又は連絡の用に供することなどの禁止を命じる事務所の使用制限の仮の命令を発出した。これに続いて同年11月、各事務所について本命令に係る意見聴取の手続を経て、これら4府県の公安委員会が、同法に基づき、事務所使用制限命令を発出した。

4 特定抗争指定暴力団等の指定

その後も、自動小銃を使用した殺人事件が発生するなど、六代目山口組と神戸山口組に関連する凶器を使用した殺傷事件が続発し、地域社会に大きな不安を与えた。こうした状況を受け、令和元年12月、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府及び兵庫県の公安委員会が、暴力団対策法に基づき、3か月の期間を定め、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市等を特に警戒を要する区域(以下「警戒区域」という。)として、両団体を「特定抗争指定暴力団等」に指定することを決定し、令和2年1月、その効力が発生した。同指定により、警戒区域内での事務所の新設、対立組織の構成員に対するつきまとい、対立組織の構成員の居宅及び事務所付近のうろつき、多数での集合、両団体の事務所への立入り等が禁止されることとなった。

同年4月、特定抗争指定の期限を3か月延長するなど、対立抗争等の情勢に応じた措置を講じている。

 
警戒区域内の事務所への標章貼付の状況
警戒区域内の事務所への標章貼付の状況

CASE

六代目山口組傘下組織の元構成員の男(52)は、令和元年11月、尼崎市の路上において、殺意をもって、神戸山口組幹部に対して自動小銃を発射し、殺害した。同月、同男を殺人罪等で逮捕した(兵庫、京都)。

5 今後の取組

対立抗争の激化は、一般市民の安全を脅かすとともに、暴力団が威力を高め、その資金獲得力の強化につながることから、今後も引き続き、必要な警戒、取締りの徹底に加え、暴力団対策法を効果的に活用して、市民生活の安全確保並びにこれらの団体の弱体化及び壊滅に向けた取組を推進していく。



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