特集 緊急事態への備えと対応

第1節 大規模災害への対応

1 大規模災害における警察活動

(1)多岐にわたる警察活動

様々な自然災害が発生しやすい条件下にある我が国では、近年でも東日本大震災をはじめとする地震、火山噴火、豪雨等による大規模災害が発生し、毎年のように大きな被害を受けている。警察では、こうした大規模災害発生時において、消防、自衛隊等と共に被災者の避難誘導及び救出救助、行方不明者の捜索等に従事するほか、検視・身元確認、各種交通対策、被災地における各種犯罪等への対策等にも取り組むなど、幅広い役割を担っている。

 
図表特1-1 災害時における警察活動
図表特1-1 災害時における警察活動
① 被災者の避難誘導及び救出救助

被災者の避難誘導に際しては、安全な避難経路を選定し、避難先や経路等を指示するほか、避難経路に危険があるときは、カラーコーンやパトカーの赤色灯等によりその旨を標示したり、警察官を配置したりするなどして被災者の保護に当たっている。

被災者の救出救助に際しては、負傷した被災者の搬送や浸水した被災地での行方不明者の捜索活動のため、状況に応じて車両やボート等を活用している。また、被災者が逃げ遅れて建物の屋上や車両の中で救助を求めていたり、倒壊家屋等の下敷きになっていたりするなど、危険な状態に置かれている場合も少なくないが、こうした被災者の救出救助活動に当たっては、災害救助犬、エンジンカッター、投光器、レスキュー車等の装備資機材・車両を活用するとともに、ホイスト救助等を行うために警察用航空機(ヘリコプター)も利用している。

こうした避難誘導・救出救助を迅速かつ的確に実施するため、平素から、警察署において管内の危険箇所に関する実態把握を行うとともに、危険な状況下で活動する警察官の安全確保に必要な装備資機材の整備を推進している。

 
平成30年7月豪雨における救出救助活動
平成30年7月豪雨における救出救助活動

CASE

平成30年(2018年)7月8日、高知県宿毛(すくも)警察署の警察官2人は、高知県宿毛市内において、平成30年7月豪雨の影響により発生した土砂崩れに巻き込まれて倒壊寸前の家屋から、倒れた家具に挟まれて動けなくなった被災者を救出し、消防団と連携して屋外へと避難させた。

 
土砂崩れの状況
土砂崩れの状況
 
被災者宅の状況
被災者宅の状況

CASE

平成30年7月28日、神奈川県小田原警察署の警察官2人は、神奈川県小田原市内の国道135号において、台風第12号の影響により約5メートルの高波が押し寄せる中、交通規制を実施した上、身動きが取れなくなっていた被災者4人を安全な場所へと避難誘導した。

 
高波に流され大破したパトカー
高波に流され大破したパトカー
② 警察用航空機(ヘリコプター)(注)の運用

警察では、大規模災害発生時に、全国から警察用航空機(ヘリコプター)を被災地に派遣し、被災状況の把握、ヘリコプターテレビシステム等を活用した警察本部の通信指令室等に対する情報の伝達、被災者等の救出救助や捜索活動、派遣部隊員や物資の輸送等を行っている。

注:平素における警察用航空機(ヘリコプター)の活用については、129頁参照

 
警察用航空機(ヘリコプター)による派遣部隊員の輸送
警察用航空機(ヘリコプター)による派遣部隊員の輸送

CASE

平成30年9月6日、北海道胆振(いぶり)東部地震の発生を受け、道外からの応援を含む複数の警察用航空機(ヘリコプター)を震源地付近に派遣した。複数機を効率的に運用して被災状況の切れ目ない把握、行方不明者の捜索活動、救出救助活動等を行った結果、生存者8人を発見・救助した。

 
警察用航空機(ヘリコプター)による被災状況の確認
警察用航空機(ヘリコプター)による被災状況の確認
 
生存者の救助活動
生存者の救助活動
③ 検視、身元確認等

大規模災害発生時には、警察において犠牲者の遺体の検視等を行い、身元を確認した上で遺族に引き渡すこととしている。こうした活動は、被害規模を正確に把握する上でも、また、犠牲者の遺体を少しでも早く確実に遺族のもとに返すためにも非常に重要であるため、警察では、次のような取組を行っている。

ア 自治体との連携による検視等の場所の確保

警察では、発災直後から迅速に検視、身元確認等を実施できるようにするため、自治体と連携して市区町村ごとに複数の施設を災害時の検視・遺体安置所として指定することでその確保を図り、建物の損壊等により検視・遺体安置所の確保に困難が生じることのないようにしている。

イ 医師会等との連携の強化

収容される遺体の取扱いに当たっては、医師から死因等について専門的知見に基づく意見を、歯科医師から身元確認の有効な手掛かりとなる歯牙形状の記録を求める必要がある。そのため、警察では、平成26年に閣議決定された「死因究明等推進計画」も踏まえ、各都道府県の医師会、歯科医師会等と、必要な情報交換等を行うための連絡会議を開催したり、被害想定を踏まえた合同訓練を実施したりするなどして、相互の連携強化に努めている。

CASE

群馬県警察は、平成30年10月、多数の死者を伴う大規模災害等の発生に際し、迅速・的確な活動を行うことができるよう、群馬県歯科医師会との合同により、遺体の搬送から検視、身元確認等に至るまでの実戦的な訓練を実施した。

 
歯科医師との合同訓練状況(遺体は模擬)
歯科医師との合同訓練状況(遺体は模擬)

また、警察庁は、公益社団法人日本医師会、公益社団法人日本歯科医師会及び特定非営利活動法人日本法医学会との間で、大規模災害等における協力に関する協定をそれぞれ締結しており、遺体の検視、身元確認等の業務に当たる医師、歯科医師及び法医学専門家を被災地へ速やかに派遣できるよう、協力体制を確保している。

ウ 遺体の身元確認に資する資料の収集・確保

災害による建物の倒壊、浸水等により、行方不明者本人に直接関係する指紋及び掌紋(以下「指掌紋」という。)、DNA型、歯牙形状等に係る資料の多くが失われてしまった場合でも、遺体の身元確認に資する資料を的確に収集できるよう、行方不明者の家族等から資料を収集し、それを管理する方法等に関する要領を定めるなどしている。

④ 交通対策
ア 緊急通行車両(注1)等の通行の確保

大規模災害発生直後は、人命救助、災害の拡大防止、負傷者の搬送等に要する人員・物資輸送を優先するとともに、被災地域への車両の流入抑制を図る必要がある。

このため、大規模災害発生直後から災害の規模、被害状況等に関する情報に加え、道路損壊や交通状況等に関する交通情報について迅速かつ正確な収集に努め、必要に応じて、災害対策基本法に基づき緊急交通路(注2)を指定し、災害応急対策が的確かつ円滑に行われるようにしている。

大規模災害発生直後においては、緊急通行車両、自衛隊用自動車をはじめとする特別なナンバープレートを付けた車両及び災害後特に優先すべき社会経済活動に使用される民間事業者等の車両(注3)の通行を認めることとしている。

その後、道路の復旧状況に応じて、緊急交通路の交通量や道路状況、他の道路の交通容量、被災や復旧の状況、被災地のニーズ等を踏まえ、緊急度・重要度を考慮しつつ、通行を認める車両の範囲を順次拡大するなど、交通規制が長期又は過剰とならないよう、臨機応変に対応することとしている。

注1:警察、消防等の緊急自動車及び指定行政機関等(災害対策基本法に基づき内閣総理大臣又は都道府県知事が指定した行政機関、公益的事業を営む法人等)が行う被災者の救難・救助、緊急輸送等に使用される車両

注2:災害応急対策が的確かつ円滑に行われるようにするため、都道府県公安委員会が、緊急通行車両以外の一般車両の通行を禁止し、又は制限する道路の区間であり、例えば、東日本大震災においては、地震発生の翌日(平成23年3月12日)に指定した。

注3:例えば、医師・医薬品関係や重機運搬・道路啓開(道路における障害物の除去)関係の車両等

 
緊急交通路の指定に伴う流入規制
緊急交通路の指定に伴う流入規制
 
サインカーによる交通情報の提供状況
サインカーによる交通情報の提供状況
イ 交通障害に伴う交通の危険等の防止

大規模災害発生直後から道路の復旧までの期間には、信号表示の調整、警察官による交通整理、ラジオ、テレビ等の各種広報媒体等を活用した迂(う)回路の指示や交通情報の提供等により、交通容量が大幅に減少した道路における交通の危険防止及び混雑緩和のための措置を実施している。

また、信号機の滅灯による道路交通の混乱を防止するため、各都道府県の主要幹線道路や災害応急対策の拠点に連絡する道路等における信号機電源付加装置(注)の整備を推進し、大規模災害発生時における交通の安全と円滑を確保するとともに、信号機が滅灯した交差点で交通整理に割かれる警察官の数を削減し、災害対応の効率化を図っている。

注:停電に起因する信号機の機能停止による道路交通の混乱を防止するため、信号機に備え付ける予備電源

 
図表特1-2 信号機電源付加装置のイメージ
図表特1-2 信号機電源付加装置のイメージ
⑤ 被災地における各種犯罪等への対策
ア 災害に便乗した各種犯罪への対策

大規模災害発生時には、被災地における犯罪の発生を抑止するとともに、地域の安全安心を確保するため、被災地警察以外の都道府県警察から特別自動車警ら部隊を派遣するとともに、被災地のパトロールをはじめとする警戒警ら活動等を行っている。

また、被災地における犯罪発生時の初動捜査等を的確に行い、被災地における犯罪の取締機能の維持等を図るため、災害の規模に応じて、被災地警察以外の都道府県警察から警察官等を派遣して特別機動捜査部隊を編成し、犯罪の取締りに当たらせている。

 
特別自動車警ら部隊による警戒警ら
特別自動車警ら部隊による警戒警ら
イ 流言飛語への対策

大規模災害の発生に際しては、SNS(注)等で被災者の不安心理をあおり立てるような流言飛語の流布がみられる。

警察では、国民が流言飛語に惑わされないよう、SNS、チラシ等の各種媒体を活用して注意喚起を行うとともに、関係機関・団体等と連携し、流言飛語のうち、法令や公序良俗に反し、著しく国民の不安感を高める悪質な情報の排除に取り組むこととしている。

注:Social Networking Serviceの略

 
広島県警察による注意喚起
広島県警察による注意喚起

CASE

平成30年7月豪雨の発生に際し、SNS等で「レスキュー隊のような服を着た窃盗グループが被災地に入っている」などといった流言飛語が流布した。警察では、国民がこうした流言飛語に惑わされないよう、SNS、メール、ラジオ、チラシ等の各種媒体を活用して広く注意喚起を行い、冷静に行動するよう呼び掛けた。

ウ 避難所等の訪問を通じた相談対応の強化

避難所での生活が長期間にわたることなどから生じる様々な問題を解決し、被災者の安全安心を確保するため、警察では、女性警察官等が避難所等を訪問して、被災者からの相談への対応や防犯指導等の被災者支援活動を行うこととしている。

 
避難所で相談対応に当たる警察官(福島)
避難所で相談対応に当たる警察官(福島)

CASE

平成30年7月豪雨では、避難所を訪問した警察官が、被災者から「避難所に貴重品ロッカーを設置してほしい」との要望を受けたため、その要望を自治体に伝えたところ、避難所に貴重品ロッカーが設置され、避難所の管理者から「これまでは貴重品を預かれないと断っていたので有り難い」といった声が寄せられるなどした。

⑥ 警察活動に必要な情報通信の確保

大規模災害発生時には、電気通信事業者の回線が不通になったり、携帯電話が通話困難になったりすることがあるため、警察が独自に整備・維持管理している無線多重回線、車載通信系をはじめとした各種の警察無線等が、被災状況の把握、被災者の避難誘導及び救出救助、行方不明者の捜索等を行う上で重要かつ不可欠な情報の収集・伝達手段となっている。警察では、災害発生当初から情報通信対策を行い、警察活動に必要な情報通信を維持・確保している。

ア 警察通信施設への給電対策

大規模災害発生時に、警察無線の無線中継所が長期にわたり停電するような事態が発生した場合には、情報通信部(注)の職員が、徒歩で非常用発電機の燃料を搬送し、補給を行うなどして、情報通信の維持・確保に不可欠な無線中継所の機能を維持している。

注:管区警察局情報通信部(四国警察支局情報通信部を含む。以下同じ。)、東京都警察情報通信部、北海道警察情報通信部、府県情報通信部(四国警察支局の管轄区域内の県情報通信部を含む。以下同じ。)及び方面情報通信部

 
警察通信施設への給電対策
警察通信施設への給電対策
イ 機動警察通信隊の活動

被災地において、迅速かつ的確な避難誘導や救出救助を行うため、全国の情報通信部に設置されている機動警察通信隊(注1)が、デジタル映像モバイル伝送システム(注2)、衛星通信車、無人航空機型映像撮影伝送システム(注3)等を運用して、被災状況や警察部隊の活動状況等の映像を、警察本部、警察庁、首相官邸等にリアルタイムで伝送している。

また、警察部隊の活動現場等における無線の不感地帯対策を講じるため、臨時の無線中継所を設置するほか、現地指揮所や被災した交番の代替施設等における通信手段を確保するため、無線用アンテナや衛星携帯電話等の応急用通信資機材を設置するなど、警察活動に必要な指揮命令や連絡等を円滑に行うための通信を確保している。

注1:225頁参照

注2:撮影した高解像度のデジタル映像を伝送するシステム

注3:225頁参照

 
捜索活動映像の伝送
捜索活動映像の伝送

CASE

平成30年7月豪雨においては、岡山県玉島警察署真備(まび)交番が浸水し、同交番周辺の署活系(注)無線が使用できなくなったため、隣接する総社(そうじゃ)警察署に代替の署活系基地局設備を設置するとともに、同交番の代替施設として設置された臨時交番において、無線機等を設置し、必要な通信手段を確保した。

注:警察署を中心に所属する警察官を結ぶ無線通信系。224頁参照

(2)平成30年に発生した大規模自然災害と警察活動

① 自然災害の発生状況(注)

平成30年中は、地震、大雨、台風、火山噴火等により、死者・行方不明者376人、負傷者4,051人等の被害が発生した。平成26年から30年にかけての自然災害による主な被害状況は、図表特1-3のとおりである。

注:数値は、いずれも平成31年4月末現在のもの

 
図表特1-3 自然災害による主な被害状況の推移(平成26~30年)
図表特1-3 自然災害による主な被害状況の推移(平成26~30年)
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平成30年中は、29個の台風が発生し、うち5個が日本に上陸した。

② 草津白根山(本白根山)の噴火(注)

平成30年1月23日午前10時2分頃、群馬県と長野県にまたがる草津白根山(本白根山)が噴火した。この噴火により、死者1人等の被害が発生した。

群馬県警察では、警察用航空機(ヘリコプター)等を活用した被災情報の収集、被災者の避難誘導及び救出救助等を実施した。

注:数値は、いずれも平成30年1月29日現在のもの

 
火山噴火現場における被災者の避難誘導
火山噴火現場における被災者の避難誘導
③ 大阪府北部を震源とする地震(注)

平成30年6月18日午前7時58分、大阪府北部を震源とするマグニチュード6.1の地震が発生し、大阪府大阪市北区、高槻市、枚方(ひらかた)市、茨木市及び箕面(みのお)市で震度6弱を観測した。この地震により、死者5人等の被害が発生した。

大阪府警察では、被災状況についての情報収集、交通対策、被災地域の警戒警ら、地震災害に便乗した特殊詐欺に対する注意喚起等の活動を実施した。

注:数値は、いずれも平成30年9月12日現在のもの

 
地震により崩壊したブロック塀(朝日新聞社)
地震により崩壊したブロック塀(朝日新聞社)
④ 平成30年7月豪雨(注1)

平成30年6月28日から同年7月8日にかけて、前線及び台風第7号の影響により、西日本を中心とした広い範囲で記録的な大雨となり、河川の氾濫、浸水害、土砂災害等が発生した。

特に、大雨により生じた土砂崩れに巻き込まれるなどして、死者数が広島県で109人、岡山県で61人、愛媛県で27人となるなど、西日本を中心に死者221人、行方不明者9人等の被害が発生した。

警察では、2管区41都府県警察から広域緊急援助隊等の警察災害派遣隊(注2)延べ約1万9,400人及び25都府県警察から警察用航空機(ヘリコプター)延べ435機を広島県警察、岡山県警察、愛媛県警察等に派遣し、猛暑が連日続く過酷な環境の下、昼夜を問わず、被災状況についての情報収集、被災者の避難誘導及び救出救助、行方不明者の捜索、交通対策、情報通信対策、被災地における各種犯罪等への対策等の災害警備活動に当たった。

注1:数値は、いずれも平成31年1月9日現在のもの

注2:14、15頁参照

 
土砂災害現場における行方不明者の捜索活動(広島)
土砂災害現場における行方不明者の捜索活動(広島)
 
ボートによる捜索活動(岡山)
ボートによる捜索活動(岡山)
 
土砂災害現場における行方不明者の捜索活動(愛媛)
土砂災害現場における行方不明者の捜索活動(愛媛)

MEMO 警察職員の殉職

平成30年7月豪雨において、職務執行中に被災し死亡が確認された警察官は3人に上った。

広島県呉(くれ)警察署交通課に所属する警察官2人は、警察署での勤務を終えて車で帰宅する途中、同県広島市安芸(あき)区において土砂災害に遭遇し、土砂に巻き込まれた被災者に「警察です。逃げましょう」と声を掛け、避難誘導を実施していたところ、更なる土砂災害に遭遇し、殉職した。

また、広島県東広島警察署地域課に所属する警察官は、災害対応のために出勤している途中、同県東広島市安芸津(あきつ)町において土砂災害に遭遇し、殉職した。

⑤ 台風第21号(注)

平成30年9月4日から同月5日にかけて、台風第21号の影響により、四国地方から近畿地方にかけての各地で暴風を伴った大雨となるとともに、記録的な高潮が発生した。この高潮等により、関西国際空港において、浸水による滑走路の閉鎖、タンカーの衝突による連絡橋の破損等の被害が生じるなど、各種公共交通機関が運休したほか、断水、停電等のライフラインへの被害が発生した。

また、近畿地方及び東海地方を中心として、暴風により家屋の屋根から転落するなどして、死者14人等の被害が発生した。

大阪府警察をはじめとする関係府県警察では、被災状況についての情報収集、被災者の避難誘導及び救出救助、交通対策等の活動を実施した。

注:数値は、いずれも平成30年10月2日現在のもの

 
ボートによる救出救助活動(大阪)
ボートによる救出救助活動(大阪)
⑥ 平成30年北海道胆振東部地震(注)

平成30年9月6日午前3時7分、北海道胆振地方中東部を震源とするマグニチュード6.7の地震が発生し、北海道勇払(ゆうふつ)郡厚真(あつま)町で震度7を、同郡安平(あびら)町及び同郡むかわ町で震度6強を、札幌市東区、千歳市、沙流(さる)郡日高町及び同郡平取(びらとり)町で震度6弱を、それぞれ観測した。この地震により土砂災害が発生するなどして、死者41人等の被害が発生した。

警察では、2管区16都県警察から広域緊急援助隊等の警察災害派遣隊延べ約3,600人及び8都県警察から警察用航空機(ヘリコプター)延べ122機を北海道警察へ派遣し、被災状況についての情報収集、被災者の避難誘導及び救出救助、行方不明者の捜索、交通対策、情報通信対策、被災地における各種犯罪等への対策等の災害警備活動に当たった。

注:数値は、いずれも平成31年1月28日現在のもの

 
土砂崩れ現場における救出救助活動(北海道)
土砂崩れ現場における救出救助活動(北海道)
 
信号機が滅灯した交差点における交通整理(北海道)
信号機が滅灯した交差点における交通整理(北海道)

警察庁指定広域技能指導官の声①

-現場指揮官の任務-

宮城県警察本部警備部機動隊
警部補 永野裕二

「ヘリで北海道に飛べ」という指示を受けて宮城県仙台市から離陸。青森空港での給油も含めて4時間で厚真町吉野地区の上空に入った。上空から被災地の現状を確認。山の斜面が崩落し、多数の家屋が押し流されて倒壊しており、更に山が崩落する危険があった。

稲刈りを待つ水田の農道に着陸してヘリを降りた。発災から既に10時間ほど経過、要救助者の救出を急ぐが、絶対に二次災害を防がなければならない。現場指揮官には、救助部隊の安全を確保して、活動しやすい環境を整えることが求められる。

現場に展開してからは、

① 現地指揮所の設定

② 救助部隊の人員管理(救助活動等のローテーションの指定)

③ 活動現場の安全管理(非常退避場所等の設定、崩落監視要領や警笛音の確認)

④ 夜間の活動に備えた自治体に対する資機材の要請

等の活動を行った。

救助部隊は要救助者とその家族の気持ちに応えることを忘れてはならない。行方不明者を発見したときに、現場指揮官は、各機関と調整し、救出、搬送、プライバシー保護等の役割分担を行う。そして、これから行う部隊活動の内容を、救助を待つ要救助者の家族に伝え、その気持ちに寄り添うことが大切である。

「全ての要救助者を一刻も早く救出したい」と気持ちは焦るが、救助隊員にも怪我をさせてはならない。救助隊員にも家族がある。帰りを待つ隊員の家族の気持ちに応えることも現場指揮官としての私の任務である。

 
現場指揮に当たる広域技能指導官
現場指揮に当たる広域技能指導官
⑦ 平成30年に発生した自然災害における教訓
ア 平成30年7月豪雨

平成30年7月豪雨では、汚水から身を守ることができるサーフェスドライスーツ(注1)の数が足りず、長時間汚水に浸(つ)かっていたことで体温の低下を訴える者や肌に異常を訴える者がいた。個人防護資機材を確実に装着させ、部隊員の安全管理について徹底を図ることは部隊活動を行う上で最も重要な課題であり、特に、水害現場における部隊活動の安全確保のために、サーフェスドライスーツや水難救助セット、ウェットスーツ(注2)、ドライスーツ(注3)等を十分に配備する必要性が明らかになった。

また、手作業等マンパワーに頼らざるを得ない状況下において、警視庁の特殊救助隊(SRT)(注4)が使用したベルトコンベアーが土砂搬出に非常に有効であったほか、自衛隊の大型重機が入れないような広島市内の狭隘(あい)な道路において、小型のバックホウ(注5)が活躍した。

注1:水面又は雨天・荒天時における活動の際に、体温の保持、外傷の防止等、隊員の身体を保護するために着用する資機材

注2:潜水活動の際に着用する資機材であり、耐寒仕様となっていないもの

注3:潜水活動の際に着用する資機材であり、内部への浸水を防止し、耐寒仕様となっているもの

注4:Special Rescue Teamの略。平成24年9月に警視庁に設置され、特別救助班(P-REX)(13頁参照)の経験者を中心に、重機操作等の救出救助に関する特殊技能に習熟した者から構成されている。

注5:アーム先端のバケットで土砂を手前にすくい取る土木建設機械の一種

 
活動する小型バックホウ(広島)
活動する小型バックホウ(広島)
イ 平成30年北海道胆振東部地震

平成30年北海道胆振東部地震では、土砂に埋没した家屋等の現場において可燃性ガス流出のおそれが認められたほか、地震警報器を保有していない部隊では余震発生のモニタリングができず、携帯電話の不感地帯において緊急地震速報の発令すら把握できない状況もみられるなど、部隊員の安全管理や二次災害防止の観点から、ガス検知器、地震警報器等を十分に配備する必要性があることが判明した。

また、同地震は未明に発生したことから、夜間でも被災状況を撮影できるヘリコプターテレビシステムの不足が判明したほか、警察用航空機(ヘリコプター)に被災者を引き上げて救助する際に、部隊員間で使用する通信資機材がエンジン音や風圧等の影響を強く受け、通話に支障が発生することがあった。

さらに、部隊配置を検討する際には、現場周辺の状況を把握するために小型無人機(注)を活用する場面もあった。

注:例えば、ドローン

 
小型無人機を活用して撮影された部隊活動状況(北海道)
小型無人機を活用して撮影された部隊活動状況(北海道)
ウ これらの災害を踏まえた効果的な装備資機材の整備

これらの災害で判明した課題を踏まえ、土砂災害対策及び水害対策を念頭に、過酷な環境下における部隊員の安全管理や、限られた部隊員を効率的に運用するための装備資機材の活用といった問題に早急に対応する必要があると認められた。そこで、警察庁では、国土強靱(じん)化における重要インフラの緊急点検(注)に際して、救出救助に係る装備資機材の配備について緊急点検を行い、その結果を踏まえ、サーフェスドライスーツや地震警報器等の安全管理に資する装備資機材、ヘリコプターテレビシステムの夜間撮影用資機材、小型無人機等の高度な装備資機材を整備するなどして、これらの課題を克服するための対策を講じた。

注:19頁参照



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