第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 国民の財産を狙う事犯への対策

財産犯の被害額は、平成14年以降減少傾向にある(注1)ものの、窃盗(注2)や強盗のほか、悪質商法事犯やヤミ金融事犯(注3)等の国民の財産を狙う事犯は依然として多く発生しており、警察では、各種法令を適用した取締りのほか、これらの事犯の未然防止に努めている。

注1:32頁参照

注2:5頁参照

注3:無登録・高金利事犯及びヤミ金融関連事犯

(1)悪質商法事犯対策

① 利殖勧誘事犯(注1)

利殖勧誘事犯の検挙状況の推移は、図表2-34のとおりである。平成29年中は、ファンド型投資商品に関連した事犯(注2)の検挙が目立った。

利殖勧誘事犯では、被害者が被害に遭ってから気付くまでに時間を要する場合が多いことから、警察では、同事犯の被害拡大防止のため、早期の事件化を図るとともに、犯罪に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供等を推進しており、29年中の同事犯に関する情報提供件数は165件であった。

注1:出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)、金融商品取引法、無限連鎖講の防止に関する法律等の違反に係る事犯

注2:出資者から集めた資金を有価証券や事業への投資等で運用し、生じる利益を配分する仕組みを商材とする事犯

 
図表2-34 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成20〜29年)
図表2-34 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成20〜29年)
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図表2-35 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成29年)
図表2-35 利殖勧誘事犯の類型別検挙状況(平成29年)
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CASE

雑誌・書籍の制作、出版等を目的とする会社の代表取締役(77)らは、同社の業務に関し、法定の除外事由がないのに、26年12月から28年3月にかけて、不特定かつ多数の相手方である同社の株主及び雑誌の定期購読者に対し、同社の学習用教材の開発に出資すれば、元本を保証するとともに所定の利息を支払うことを約して、全国の延べ約300人から約6億9,000万円を受け取り、業として預り金をした。29年3月までに、同男ら3人を出資法違反(預り金の禁止)で検挙した(山口)。

② 特定商取引等事犯(注)

特定商取引等事犯の検挙状況の推移は、図表2-36のとおりである。29年中の検挙事件を類型別にみると、訪問販売に関連した事犯の検挙が目立った。

特定商取引等事犯では、被害者が被害に遭っていることに気付いても、被害者自身で解決しようとして警察への届出までに時間を要する場合もみられることから、警察では、ウェブサイト等を通じて早期の相談を呼び掛けている。

注:訪問販売、電話勧誘販売等で事実と異なることを告げるなどして商品の販売や役務の提供を行う悪質商法。具体的には、訪問販売等の特定商取引を規制する特定商取引に関する法律違反及び特定商取引に関連する詐欺、恐喝等に係る事犯

 
図表2-36 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成20〜29年)
図表2-36 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成20〜29年)
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図表2-37 特定商取引等事犯の類型別検挙状況(平成29年)
図表2-37 特定商取引等事犯の類型別検挙状況(平成29年)
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CASE

会社役員の男(32)らは、26年2月から27年11月にかけて、企業経営を企図していた者に対し、実際は新たな受講者の勧誘獲得方法を教示するものでしかないのに、起業するために必要な知識、技術等を習得できるかのように装い、「起業家育成プログラム」の受講料名目で、6都府県の約330人から約3億1,000万円をだまし取るなどした。29年2月までに、同男ら5人を詐欺罪等で逮捕した(福岡)。

(2)ヤミ金融事犯対策

ヤミ金融事犯の検挙状況の推移は、図表2-38のとおりである。ヤミ金融事犯のうち、無登録・高金利事犯(注1)の検挙事件数及び検挙人員はいずれも減少傾向にあるが、ヤミ金融関連事犯(注2)は増加傾向にある。

無登録・高金利事犯のうち、携帯電話や預貯金口座を利用して非面接で敢行されるいわゆる090金融事犯については、平成29年中は、検挙事件数の16.3%、検挙人員の22.0%を占めている。また、29年中に検挙した無登録・高金利事犯に占める暴力団が関与した割合は、25.2%であった。

警察では、ヤミ金融事犯の取締りを推進するとともに、ヤミ金融に利用された預貯金口座の金融機関への情報提供、レンタル携帯電話等の解約に関する事業者への要請等の総合的な対策を行っている。29年中の金融機関への情報提供件数は1万8,979件、レンタル携帯電話事業者への解約要請件数は1,744件であった。

注1:貸金業法違反(無登録営業)及び出資法違反(高金利等)に係る事犯

注2:貸金業に関連した犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)違反、詐欺、携帯電話不正利用防止法違反等に係る事犯

 
図表2-38 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成20〜29年)
図表2-38 ヤミ金融事犯の検挙状況の推移(平成20〜29年)
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CASE

無登録で貸金業を営む男(32)らは、27年8月から28年11月にかけて、インターネット広告を利用し、又は名簿業者から購入した債務者名簿に記載された者を電話等で勧誘して、「ファクタリング」と称して顧客が保有する売掛債権の売買契約を装い、中小企業約660社に対し、法定利息の約4.2倍から約48.9倍で金銭を貸し付け、元利金約14億6,000万円を受領した。29年8月までに、同男ら5法人22人を貸金業法違反(無登録営業)、出資法違反(超高金利)等で検挙した(大阪)。

(3)通貨偽造犯罪対策

① 発見状況

偽造日本銀行券の発見枚数(注)の推移は図表2-39のとおりであり、平成29年中は、前年より減少した。

 
図表2-39 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成20〜29年)
図表2-39 偽造日本銀行券の発見枚数の推移(平成20〜29年)
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注:届出等により警察が押収した枚数

② 特徴的傾向と対策

近年は、高性能のプリンタ等で印刷された偽造日本銀行券が日本国内で多数発見されているほか、精巧な偽造日本銀行券が海外から大量に日本国内に持ち込まれる事案が発生している。

警察庁では、財務省、日本銀行等と連携して、ポスターやウェブサイトで偽造日本銀行券が行使された事例や偽造通貨を見破る方法を紹介するなどして、国民の注意を喚起している。

CASE

大工の男(42)は、29年3月頃、埼玉県内の自宅において、カラープリンタを使用して千円券等を偽造した上、同月から同年4月にかけて、同県内及び千葉県内のコンビニエンスストア等において、商品購入代金の支払等として偽造千円券等を手渡し、行使した。同年6月までに、同男を通貨偽造・同行使罪で逮捕した(埼玉)。

 
押収した偽造日本銀行券及びカラープリンタ
押収した偽造日本銀行券及びカラープリンタ

(4)カード犯罪(注)対策

カード犯罪の認知・検挙状況の推移は図表2-40のとおりであり、平成28年は認知件数、検挙件数及び検挙人員が急増し、29年中は更に増加した。これは、不正に取得等したキャッシュカードを使用してATMから現金を窃取する事案が多発したためと考えられる。

警察では、早期検挙のため捜査を徹底するほか、口座名義人からキャッシュカード等の盗難・紛失等の届出があった場合にカードの利用停止を促すなど、被害の拡大防止に努めている。

注:クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカード及び消費者金融カードを悪用した犯罪

 
図表2-40 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成20〜29年)
図表2-40 カード犯罪の認知・検挙状況の推移(平成20〜29年)
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(5)知的財産権侵害事犯対策

① 商標権侵害事犯(注1)及び著作権侵害事犯(注2)

偽ブランド事犯等の商標権侵害事犯、海賊版事犯等の著作権侵害事犯においては、インターネットを利用して侵害行為が行われる場合が多いことから、警察では、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めている。

また、不正商品対策協議会(注3)の活動への参加をはじめ、権利者等と連携した知的財産権の保護及び不正商品の排除に向けた広報啓発活動を推進している。

注1:商標法違反に係る事犯

注2:著作権法違反に係る事犯

注3:不正商品の排除及び知的財産権の保護を目的として、知的財産権侵害に悩む各種業界団体により設立された任意団体。警察庁等の関係機関と連携し、シンポジウムの主催や各種催物への参加を通じて、広報啓発活動、海外における不正商品販売の実態調査、海外の捜査機関や税関等に対する働き掛け等を行っている。

 
図表2-41 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成25〜29年)
図表2-41 知的財産権侵害事犯の検挙状況の推移(平成25〜29年)
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図表2-42 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成20〜29年)
図表2-42 押収した偽ブランド品のうち、仕出国・地域が判明したものの国・地域別押収状況の推移(平成20〜29年)
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② 営業秘密侵害事犯(注)

営業秘密侵害事犯については、平成29年中、18事件25人を検挙した。

警察では、各都道府県警察で指定された営業秘密保護対策官が、警察署における営業秘密侵害事犯の相談対応について指導を行うなどにより捜査能力の一層の向上を図っているほか、被害の早期届出の必要性についての企業に対する啓発等を推進している。

注:不正競争防止法第21条第1項及び第3項に係る事犯

CASE

切削工具等の製造販売等を目的とする会社の元従業員の男(62)は、同社に在職中の29年2月、不正の利益を得る目的で、同社の営業秘密である製品工作図等の電磁的記録を、同男が所有するハードディスクに記録して複製を作成し、同社の営業秘密を領得した。同年10月、同男を不正競争防止法違反(営業秘密の領得)で逮捕した(愛知)。



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