第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 子供の安全を守るための取組

(1)子供を犯罪から守るための取組

① 子供が被害者となる犯罪

13歳未満の子供が被害者となった刑法犯の認知件数(以下「子供の被害件数」という。)は、図表2-15のとおりである。子供の被害件数は、平成13年以降減少傾向にあるが、子供の被害件数のうち、略取誘拐の被害件数は、過去10年間では、ほぼ横ばいで推移している。また、略取誘拐は、刑法犯の認知件数に占める子供の被害件数の割合の高い罪種であり、29年中は30.1%(認知件数239件のうち72件)であった。

 
図表2-15 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成20~29年)
図表2-15 子供(13歳未満)の被害件数及び罪種別被害状況の推移(平成20~29年)
Excel形式のファイルはこちら
② 子供の生活空間における安全対策
ア 学校や通学路の安全対策

警察では、子供が被害者となる犯罪を未然に防止し、子供が安心して登下校することなどができるよう、制服を着用した警察官による通学路や通学時間帯に重点を置いたパトロールを強化している。また、退職した警察官等をスクールサポーターとして委嘱し学校へ派遣しているほか、地方公共団体、防犯ボランティア団体、地域住民等と連携した子供の見守り活動を行うなど、学校や通学路等における子供の安全確保を推進している。

イ 被害防止教育の推進

警察では、子供に犯罪被害を回避する能力等を身に付けさせるため、小学校、学習塾等において、学年や理解度に応じ、紙芝居、演劇やロールプレイング方式等により、危険な事案への対応要領等について子供が考えながら参加・体験できる防犯教室、地域安全マップ作成会等を関係機関・団体と連携して開催している。また、教職員に対しては、不審者が学校に侵入した場合の対応要領の指導等を行っている。

ウ 情報発信活動の推進

警察では、子供が被害に遭った事案等の発生に関する情報を子供や保護者に対して迅速に提供できるよう、教育委員会、小学校等との間で情報共有体制を整備するとともに、都道府県警察のウェブサイトや電子メール等を活用した情報発信を行うなど、地域住民に対する情報提供を実施している。

エ ボランティアに対する支援

警察では、「子供110番の家」として危険に遭遇した子供の一時的な保護と警察への通報等を行うボランティアに対し、ステッカーや対応マニュアル等を配布するなどの支援を行っているほか、防犯ボランティア団体との合同パトロールを実施するなど、自主防犯活動を支援している。

MEMO 千葉県我孫子市における殺人等事件を踏まえた取組

平成29年3月、千葉県我孫子市において、不動産賃貸業の男(46)が小学校に登校中の女児を略取誘拐し、同女児を殺害する事件が発生した。

同事件を踏まえ、千葉県警察では、地域住民の不安を解消するため、地域におけるパトロールを強化するとともに、小学校等の周辺で移動交番車を活用した警戒活動を実施した。また、子供の安全対策を強化するため、小学校において児童及び教職員を対象とした不審者対応訓練を実施したほか、通学路の防犯診断を行い、関係機関に対して環境の改善及び防犯活動の推進を働き掛けるなどの取組を行った。

MEMO 地方公共団体における「暮らしの安全ガイドブック」の作成

子供が被害者となる犯罪は、地域住民に強い不安感を生じさせるものであり、同犯罪を防止するためには、警察のほか、学校、保護者、地域住民等が地域ぐるみで子供を守る必要があることから、地方公共団体においては、警察をはじめとした関係機関・団体と連携しながら、子供の安全を守るための取組を行っている。

岐阜県では、平成29年に、県として初めて小学生向けの「暮らしの安全ガイドブック」を作成し、県内全ての小学校に配布して、体育や総合的な学習の時間等の教材として活用している。同ガイドブックでは、子供の身近で発生する各種犯罪について、何が犯罪行為なのか、犯罪を防止するためには何をすべきかなどを分かりやすく解説しているほか、岐阜県警察の「幼児等連れ去り事案未然防止教育班」(通称「たんぽぽ」)が、日頃から児童等に対して広報又は教育を行っている身を守るための約束「セーフティファイブ」を記載するなど、子供の防犯意識を高めるための工夫がなされている。

 
小学生向けの「暮らしの安全ガイドブック
小学生向けの「暮らしの安全ガイドブック
 
セーフティファイブ
セーフティファイブ
③ 子供女性安全対策班による活動の推進

警察では、21年以降、警視庁及び道府県警察本部に設置された子供女性安全対策班(JWAT(注))が、子供や女性を対象とする性犯罪等の前兆とみられる声掛け、つきまとい等の事案に関する情報収集、分析等により行為者を特定し、検挙・指導・警告等の措置を講じている。検挙活動等に加え、これらの先制・予防的活動を積極的に推進していくことによって、子供や女性を被害者とする性犯罪等の未然防止に努めている。

注:Juvenile and Woman Aegis Teamの略

④ 子供対象・暴力的性犯罪出所者の再犯防止措置制度の強化

警察では、13歳未満の子供を被害者とした強制わいせつ等の暴力的性犯罪で服役して出所した者について法務省から情報提供を受け、各都道府県警察において、その出所者の所在確認を実施しているほか、必要に応じて当該出所者の同意を得て面談を行うなど、再犯防止に向けた措置を講じている。

(2)少年の福祉を害する犯罪への対策と有害環境対策

警察では、福祉犯(注)の取締り、被害少年の発見・保護、インターネット上の違法情報・有害情報の取締り等少年を取り巻く有害環境の浄化対策を推進している。このうち、児童買春、児童ポルノの製造等の子供の性被害に係る対策については、国家公安委員会が政府内における同対策の企画・立案及び関係機関との総合調整の業務を行っており、平成29年4月に犯罪対策閣僚会議において策定された「子供の性被害防止プラン」(児童の性的搾取等に係る対策の基本計画)に基づき、政府全体の取組を推進している。

注:少年の心身に有害な影響を与え、少年の福祉を害する犯罪をいう。例えば、児童買春・児童ポルノ禁止法違反、児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為等)、労働基準法違反(年少者の危険有害業務等)等が挙げられる。

① 少年の福祉を害する犯罪への対策

福祉犯の被害少年数は図表2-16のとおりであり、23年以降は減少しているが、スマートフォン等の普及により、インターネットの利用に起因する福祉犯が発生するなど、深刻な状況にある。

被害少年を早期に発見・保護するとともに、新たな被害を発生させないため、警察では積極的な取締りと被害少年に対する支援のほか、援助交際を求めるなどのインターネット上の不適切な書き込みをサイバーパトロールによって発見し、書き込みを行った児童と接触して直接注意・助言するサイバー補導を推進している。

 
図表2-16 福祉犯の検挙件数等の推移(平成25~29年)
図表2-16 福祉犯の検挙件数等の推移(平成25~29年)
Excel形式のファイルはこちら
ア 児童の心身に有害な影響を与える事犯

近年、SNS等を利用した児童買春事犯や、児童の性に着目した形態の営業に児童を従事させる事犯等、児童の心身に有害な影響を与える事犯が発生している。このような事犯に対して、警察では、国民からの情報提供、インターネット・ホットラインセンター(IHC)(注)からの通報、街頭補導活動、サイバーパトロール等による端緒情報の把握に努めるとともに、情報の分析、積極的な取締り等を推進している。

注:124頁参照

CASE

無職の男(31)は、26年5月から29年1月にかけて、SNS等で知り合った少女らに対し、現金を供与する約束をして、ホテル内において児童買春をした。また、同少女らの一部に対し、再度の面会等に応じなければ、児童買春をした場面等を撮影した動画又は画像をインターネット上に公開するなどと脅迫した。同年9月までに、同男を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童買春)等で逮捕した(千葉)。

CASE

いわゆるJKビジネスと呼ばれる営業を行っていた男(19)は、従業員として雇い入れた少女(16)を「散歩」等の名目で男性客に紹介し、レンタルルームにおいて男性客を相手に性的な業務に従事させた。29年7月、同男を児童福祉法違反(児童に淫行をさせる行為)で逮捕した(警視庁)。

イ 児童ポルノ

児童ポルノ事犯は近年増加傾向にあり、29年中の検挙件数は2,413件、検挙人員は1,703人と、いずれも過去最多となった。被害児童数(注)は過去最多であった28年より減少したものの、19年に比べて約4.4倍に増加した。被害態様別でみると、児童が自らを撮影した画像に伴う被害が約4割を占め、被害児童数は24年以降5年連続で増加しており、特に、スマートフォンを使用したSNSの利用に起因するものが約7割を占めている。また、小学生以下の被害児童のうち、約4割が強制性交等・強制わいせつの手段により児童ポルノの製造の対象とされているなど、児童ポルノをめぐる情勢は深刻な状況にある。

警察では、このような情勢を踏まえ、関係機関・団体と緊密な連携を図りながら、低年齢児童を狙ったグループや児童ポルノ販売グループによる悪質な事犯等に対する取締りの強化、国内サイト管理者等に対する児童ポルノ画像の削除依頼、被害児童に対する支援等を推進している。

また、警察庁では、29年12月、国内外の関係機関・団体が参加する子供の性被害対策に関するセミナーを開催し、政府の取組を紹介するとともに、関係機関・団体との情報交換を行うなどの連携強化に努めている。さらに、プロバイダによる閲覧防止措置(ブロッキング)について、アドレスリスト作成管理団体に情報提供や助言を行うなどの流通・閲覧防止対策を推進している。

注:児童ポルノ事犯の検挙を通じて、新たに特定された被害児童数

 
図表2-17 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成25〜29年)
図表2-17 児童ポルノ事犯の検挙状況等の推移(平成25〜29年)
Excel形式のファイルはこちら

CASE

26年8月から28年3月にかけて、低年齢児童を狙ったグループのメンバーである旅行代理店の元従業員の男(35)らは、看護添乗員又はボランティアとして自然体験教室に同行するなどして、同教室に参加した男児等に対してわいせつな行為をし、その状況を撮影して児童ポルノを製造した上、メンバー内及び別の同グループのメンバーである小学校の教員の男(45)と互いに児童ポルノを提供し合うなどしていた。29年2月までに、同男ら6人を児童買春・児童ポルノ禁止法違反(児童ポルノ製造)等で逮捕した(神奈川、茨城、栃木、埼玉、千葉、静岡、広島)。

② 少年を取り巻く有害環境の浄化対策

近年、スマートフォン等の普及に伴い、インターネットの利用に起因する少年の犯罪被害が増加しているほか、繁華街等において児童の性に着目した新たな形態の営業が出現しているなど、少年を取り巻く社会環境は変容している。

警察では、インターネットの利用に起因する少年の犯罪被害の発生状況を踏まえ、関係機関・団体等と連携し、保護者に対する啓発活動、児童に対する情報モラル教育、フィルタリング等の普及促進に向けた携帯電話事業者等に対する要請等の取組を推進している。

また、児童の性に着目した新たな形態の営業については、少年の保護と健全育成の観点から、あらゆる警察活動を通じて、各地域の実態の把握に努めるとともに、これらの営業において稼働している女子高校生等に対する補導、立ち直り支援等の取組を推進している。

さらに、少年に有害な商品等を取り扱う店等に対して、少年の健全育成のための自主的措置が促進されるよう指導・要請を行うなど、有害環境の浄化に努めている。

MEMO いわゆるJKビジネスと呼ばれる営業の実態の把握

平成29年12月末現在、警察が把握しているいわゆるJKビジネスと呼ばれる営業(以下単に「JKビジネス」という。)の店舗数(無店舗型を含む。)は131店と、同年6月末現在より17店(14.9%)増加しており、東京都及び大阪府に全体の約9割が集中している。また、形態別では、同期間において、店舗型に比べて無店舗型の営業が増加している。

警察では、実態の把握が困難な無店舗型の営業が増加していることなどから、JKビジネスの実態の把握を一層推進するとともに、JKビジネスに関する違法行為に対して厳正な取締りを行っている。

 
図表2-18 JKビジネスの店舗数の推移(平成29年6月末現在及び同年12月末現在)
図表2-18 JKビジネスの店舗数の推移(平成29年6月末現在及び同年12月末現在)
Excel形式のファイルはこちら

(3)少年の犯罪被害への対応

警察では、犯罪の被害に遭った少年に対し、警察本部に設置された少年サポートセンター等に所属する少年補導職員を中心としてカウンセリング等の継続的な支援を行うとともに、大学の研究者、精神科医、臨床心理士等の専門家を被害少年カウンセリングアドバイザーとして委嘱し、支援を担当する職員が専門的な助言を受けることができるようにしている。

 
図表2-19 被害少年の支援
図表2-19 被害少年の支援

CASE

愛知県警察では、児童買春等の被害に遭った者に対し、助産師の資格を有する女性警察官又は支援活動への協力を得られた産婦人科医によるカウンセリング等の継続的な支援を行っている。

(4)いじめ事案への対応

近年のいじめ(注)に起因する事件数は図表2-20のとおりであり、29年中は155件であった。また、29年中の検挙・補導人員は245人であり、その約5割を中学生が占めている。

警察では、いじめ防止対策推進法の趣旨に基づき、少年相談活動やスクールサポーターの学校への訪問活動等により、いじめ事案の早期把握に努めるとともに、把握したいじめ事案の重大性及び緊急性、被害少年及びその保護者等の意向、学校等の対応状況等を踏まえ、学校等と緊密に連携しながら、必要な対応を推進している。

注:いじめの定義は、平成25年6月に制定されたいじめ防止対策推進法第2条に定める「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」としている。

 
図表2-20 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成25~29年)
図表2-20 いじめに起因する事件数と検挙・補導状況の推移(平成25~29年)
Excel形式のファイルはこちら
 
図表2-21 警察によるいじめ事案への対応
図表2-21 警察によるいじめ事案への対応

CASE

長野県警察では、学校からの要請に応じて、スクールサポーターが教職員と共に「いじめ防止教室」を実施している。同教室では、児童に対し、いじめがもたらす不幸な結果やいじめがあった場合の対処方法等を教示するなど、児童一人一人がいじめについて深く考えることができるように工夫した取組を行っている。

 
「いじめ防止教室」
「いじめ防止教室」


前の項目に戻る     次の項目に進む