トピックス

トピックスIII 特殊詐欺の手口の変遷と警察の取組

(1)特殊詐欺の現状

特殊詐欺(注1)は、振り込め詐欺(オレオレ詐欺(注2)、架空請求詐欺(注3)、融資保証金詐欺(注4)及び還付金等詐欺(注5))及び振り込め詐欺以外の特殊詐欺(注6)に分類され、犯行グループのリーダーや中核メンバーを中心として、電話を繰り返しかけて被害者をだます「架け子」、被害者の自宅等に現金等を受け取りに行く「受け子」等が役割を分担し、組織的に敢行されている。警察では、手口・被害実態を分析し、これを踏まえながら、犯行グループの検挙の徹底を図る(注7)とともに、被害防止の取組を推進している。

注1:被害者に電話をかけるなどして対面することなく信頼させ、指定した預貯金口座への振り込みその他の方法により、不特定多数の者から現金等をだまし取る犯罪(現金等を脅し取る恐喝を含む。)の総称
注2:親族を装うなどして電話をかけ、会社における横領金の補填金等の様々な名目で現金が至急必要であるかのように信じ込ませ、動転した被害者に指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
注3:架空の事実を口実に金品を請求する文書を送付して、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
注4:融資を受けるための保証金の名目で、指定した預貯金口座に現金を振り込ませるなどの手口による詐欺
注5:市区町村の職員等を装い、医療費の還付等に必要な手続を装って現金自動預払機(ATM)を操作させて口座間送金により振り込ませる手口による電子計算機使用詐欺
注6:例えば、金融商品等取引名目、ギャンブル必勝法情報提供名目、異性との交際あっせん名目等の詐欺がある。
注7:平成28年5月、刑事訴訟法等の一部を改正する法律が成立し、同年12月から特殊詐欺の捜査に通信傍受を活用できることとなったことから、警察では、特殊詐欺の捜査における通信傍受の有効かつ適正な実施に努めている。101頁参照
① 特殊詐欺の情勢

28年中の特殊詐欺の被害総額は前年より減少したが、認知件数は増加している。

また、28年中の検挙件数は4,471件と23年以降で最多となり、検挙人員は2,369人と過去最多の27年に次ぐ水準となった。さらに、28年中の検挙人員のうち、暴力団構成員等(注)が26.3%を占めており、特殊詐欺が暴力団を始めとする犯罪組織の資金源となっている状況がうかがわれる。

注:150頁参照
② 高齢者を標的とした特殊詐欺

28年中の特殊詐欺の被害者の78.2%を65歳以上の高齢者が占め、特にオレオレ詐欺(95.9%)、還付金等詐欺(93.1%)及び金融商品等取引名目の特殊詐欺(89.6%)においてその割合が高く、高齢者が特殊詐欺の標的となっている。

 
図表III-1 特殊詐欺の情勢の推移(平成19~28年)
図表III-1 特殊詐欺の情勢の推移(平成19~28年)
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(2)近年の犯行の手口

平成15年5月以降に発生が目立ち始めたオレオレ詐欺を含め、振り込め詐欺の認知件数は16年以降高水準で推移したが、21年には16年の約3分の1まで減少した。22年頃からは金融商品等取引名目の特殊詐欺等振り込め詐欺以外の特殊詐欺が多発し、26年以降は減少傾向にあるものの、24年以降は振り込め詐欺が再び増加傾向に転じている。

また、犯行グループは、介護施設の入居権や医療費等の高齢者にとって身近で興味を示しやすい話題を名目としたり、複数の人物が入れ替わり電話をかけるなどすることにより、特殊詐欺と察知されにくいよう演出するなど、だまし方を巧妙化させている。

28年中の特殊詐欺の手口については、次のとおりである。

① 還付金等詐欺の増加及びオレオレ詐欺の多発

特殊詐欺のうち、還付金等詐欺の認知件数は3,682件(前年比1,306件(55.0%)増加)、被害額は約42.6億円(前年比約17.1億円(67.3%)増加)といずれも大幅に増加しており、特に金融機関職員等による顧客への声掛け等が行われにくい無人ATMに誘導されて被害に遭う場合が多い。

また、オレオレ詐欺の認知件数は5,753件(前年比75件(1.3%)減少)、被害額は約167.1億円(前年比約7.9億円(4.5%)減少)といずれも減少したものの、それぞれ特殊詐欺全体の約4割を占めており、手口別で最も多くなっている。

② 電子マネーの悪用

交付形態別では、被害者が現金を自宅等に受け取りにきた犯人に直接手渡す「現金手交型」及び宅配便等で送付する「現金送付型」の認知件数及び被害額は前年より減少した。

しかし、架空の有料サイト利用料金等の支払を求められた被害者が、コンビニエンスストア等で電子マネー(プリペイドカード)を購入し、そのIDを教えるよう要求され、プリペイドカードの額面分の金額(利用権)をだまし取られる被害が増加している。

 
図表III-2 電子マネー型による被害
図表III-2 電子マネー型による被害

(3)警察の取組

① 取締りの推進

警察では、犯行拠点の摘発やだまされた振り作戦(注)の実施のほか、架空・他人名義の携帯電話等が犯行グループの手に渡らないようにするため、携帯電話の不正利用等の特殊詐欺を助長する行為の取締りや悪質なレンタル携帯事業者の検挙を推進している。

注:特殊詐欺の電話等を受け、特殊詐欺であると見破った場合に、だまされた振りをしつつ、犯人に現金等を手渡しする約束をした上で警察へ通報してもらい、自宅等の約束した場所に現れた犯人を検挙する、国民の積極的かつ自発的な協力に基づく検挙手法
② 官民一体となった予防活動の推進

警察では、犯行の手口や被害に遭わないための注意点等の情報を積極的に発信している。特に、高齢者に対しては、各種メディアを通じた広報や民間のコールセンター職員による注意喚起がなされるよう予防活動を推進している。

また、金融機関と連携し、特殊詐欺の被害金が出金又は送金されることを防止するため、顧客への声掛けを推進しているほか、郵便・宅配事業者やコンビニエンスストアに対して、被害金が入っていると疑われる荷物の発見・通報を依頼するなどしている。これらの取組により、平成28年中、1万3,139件、約188.6億円の被害を未然に防止した。

 
図表III-3 声掛け等による特殊詐欺の阻止率(注)の推移(平成23~28年)
図表III-3 声掛け等による特殊詐欺の阻止率(注)の推移(平成23~28年)
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コラム 犯行使用固定電話の無力化

警察では、犯行グループによる固定電話の悪用の実態を通信事業者等と情報共有するなど、固定電話を特殊詐欺に利用させないための取組を推進している。

例えば、警視庁では、通信事業者に対し、特殊詐欺に悪用された番号等の情報提供を行ったところ、同事業者が、平成28年12月、東京都内の別の通信事業者に提供していた固定電話の約5,900番号を解約した。



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