特集 国際テロ対策

4 伊勢志摩サミット等警備

(1)伊勢志摩サミット等警備の概要

伊勢志摩サミットは、平成28年5月26、27日、三重県志摩市賢島において開催された。また、オバマ・米国大統領は、27日のサミット終了後に、現職米国大統領として初めて被爆地・広島を訪問したほか、サミットの関係閣僚会合として、4月10、11日に広島県広島市で開催された外務大臣会合を皮切りに、5月20、21日に宮城県仙台市で開催された財務大臣・中央銀行総裁会議までのおよそ1か月半に8つの会合が集中的に開催された(注)

注:残り2つの関係閣僚会合として、28年9月、兵庫県神戸市において保健大臣会合が、長野県軽井沢町において交通大臣会合が、それぞれ開催される予定である。
 
第42回伊勢志摩サミット
第42回伊勢志摩サミット

伊勢志摩サミット及び関係閣僚会合(以下、「伊勢志摩サミット等」という。)をめぐる脅威としては、我が国に対する脅威が現実のものとなっている国際テロの脅威、反グローバリズムを掲げる過激な勢力等のデモ等に伴う違法行為、極左暴力集団や右翼による「テロ、ゲリラ」事件の発生等の国内の脅威、世界的に頻発しているサイバー攻撃の脅威の「3つの脅威」が考えられた。

これら3つの脅威を踏まえ、今回の伊勢志摩サミット等警備では、首脳会議に伴う警備(三重・愛知)及び関係閣僚会合に伴う警備(全国10都市)に加え、東京を始めとする大都市に対する警備の「3正面の警備」を完遂する必要があった。

そのためには、会議場周辺等における「陸上の警戒」、首脳会議開催地の賢島や各国首脳が利用した中部国際空港、外務大臣会合の主会場等周囲が海に囲まれた場所等における海上保安庁等と連携した「海上の警戒」及び米国における同時多発テロ事件のような航空機を使ったテロや、ドローン等小型無人機を使ったテロ等に対する「上空の警戒」の陸・海・空における「3方向の警戒」を徹底する必要があった。

さらには、サミットに引き続いて現職米国大統領による初の被爆地訪問という歴史的行事が行われることとなり、厳重かつ大規模な警備を、伊勢志摩と広島の2か所で実施することとなった。

警察では、国民の理解と協力を得つつ、国内外要人の身辺の安全と行事の円滑な遂行の確保、テロ等違法行為の未然防止を図るために、全国警察の全ての部門が一体となって、テロ等関連情報の収集・分析、関係機関と連携した水際対策、ソフトターゲットにおける警戒、交通総量抑制対策その他警備諸対策を推進した。

こうした中、三重・愛知両県警察においては、全国警察から多数の特別派遣部隊の派遣を受け、伊勢志摩サミット警備を、広島・山口両県警察においては、米国大統領の広島訪問に伴う警備を、それぞれ完遂した。また、それまでに開催された関係閣僚会合についても、各県警察においてそれぞれの警備責任を全うした。さらに、全国警察においては、各地のソフトターゲット等における警戒警備についても徹底し、テロ等違法行為の発生を完全に防遏(あつ)するとともに、一般治安の確保にも万全を期すなど、開催国としての治安責任を全うした。

 
伊勢志摩サミット警備状況
伊勢志摩サミット警備状況
 
オバマ・米国大統領車列警護(広島)(朝日新聞社/時事通信フォト)
オバマ・米国大統領車列警護(広島)(朝日新聞社/時事通信フォト)

(2)伊勢志摩サミット等における警備諸対策

① 警察の総力を挙げた取組

警察庁では、平成27年6月、警察庁次長を長とする「伊勢志摩サミット等警備対策委員会」を設置したほか、都道府県警察においては、三重、広島、宮城及び愛知の4県警察がサミット対策課を、その他全ての都道府県警察が警備対策委員会等を、それぞれ設置して体制を確立し、全国警察が一体となって総合的な警備諸対策を強力に推進した。

伊勢志摩サミット警備では、全国から三重・愛知両県警察への特別派遣部隊約1万5,000人を含む最大時約2万3,000人が、米国大統領の広島訪問に伴う警備では、広島県警察への特別派遣部隊約1,900人を含む最大時約5,600人が、それぞれ動員されたほか、その他の関係閣僚会合でも、部隊の特別派遣を受けるなどして、所要の警備体制を構築した。

また、全国で機動隊等は、大規模なデモを適切に規制し、テロ等違法行為を未然に防止するため、複数の都道府県警察が合同で大規模な訓練を実施するなどしたほか、各国首脳等を直近で護る警護員については、実戦的訓練を繰り返し実施して、個々の警護員の実力向上を図った。特に、厳しい国際テロ情勢を踏まえ、各都道府県警察の銃器対策部隊等については、対処能力の向上を目的とした実戦を想定した訓練を繰り返し実施することにより、テロ等の突発事案が発生した際に的確に対応できるよう万全を期した。

 
テロ対策訓練
テロ対策訓練
② 官民連携、国民の理解と協力の確保

三重県警察では、27年10月、関係機関や民間事業者と連携して、テロ対策を推進するため、「テロ対策三重パートナーシップ推進会議」を設立したほか、28年1月までに県下全18警察署に「地域版テロ対策パートナーシップ」を発足させ、関係機関とのテロを想定した合同訓練等の取組を推進した。

また、伊勢志摩サミット等警備では、全国各地で検問や交通規制等の実施が必要となる中、こうした取組が、市民生活に少なからず影響を及ぼすほか、テロや不審者等に関する情報について、通報等の協力を得るためにも、国民の理解と協力の確保が不可欠であった。そこで、警察では、ポスターやウェブサイト等各種広報媒体を活用した情報発信を実施するとともに、三重県においては、同県が主催する住民懇話会等各種会合に参画したほか、賢島に臨時警備派出所を設置するなど、国民の理解と協力の確保に努めた。

 
賢島臨時警備派出所
賢島臨時警備派出所
③ サイバー攻撃対策

警察では、伊勢志摩サミット等関係施設の管理者や重要インフラ事業者等に対する個別訪問やサイバーテロ対策協議会等の開催により、最近のサイバー攻撃の情勢や手口についての情報共有等を推進した。また、伊勢志摩サミット等に影響を及ぼし得るサイバー攻撃の発生を想定した共同対処訓練やサイバー攻撃対策セミナー等を実施するなどして、対処能力の向上に努めた。

④ 国際テロ対策

警察では、国際空港・港湾において、関係機関や民間事業者と合同で、伊勢志摩サミット等に向けた各種訓練を実施するなど、水際対策を推進した。また、伊勢志摩サミット等開催を見据え、改めて関係省庁に対し、爆発物の原料となり得る化学物質の販売事業者等に対する管理強化を要請するとともに、販売事業者等に対しても販売時の本人確認の徹底や盗難防止等の保管管理の強化等を要請するなどした。



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