2 暴力団犯罪の取締り
(1)検挙状況
暴力団構成員及び準構成員その他の周辺者(以下「暴力団構成員等」という。)の検挙状況は、図表4-3のとおりであり、近年減少傾向にある。暴力団構成員等の総検挙人員のうち、覚せい剤取締法違反、恐喝、賭博及びノミ行為等(注)(以下「伝統的資金獲得犯罪」という。)の検挙人員が占める割合は3割程度で推移しており、これらが有力な資金源となっているといえる。他方、暴力団構成員等の検挙状況を主要罪種別にみると、図表4-4のとおりであり、暴力団の威力を必ずしも必要としない詐欺の検挙人員が占める割合が増加しており、暴力団が資金獲得活動を変化させている状況もうかがわれる。


(2)暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件及び対立抗争事件等
近年の暴力団等によるとみられる事業者襲撃等事件(注)、対立抗争事件等の発生状況は、図表4-5のとおりであり、これらの事件は、市民生活に対する大きな脅威となるものであることから、警察においては、重点的な取締りを推進している。
1 殺人、殺人未遂、傷害、傷害致死、逮捕及び監禁、逮捕及び監禁致死傷又は暴行
2 上記1に該当しない次の事件
(1)銃器の使用 (2)実包(薬きょうを含む。)の送付 (3)爆発物の使用(未遂を含む。)
(4)放火(未遂を含む。) (5)火炎瓶の使用(未遂を含む。)
(6)上記(1)から(5)までに掲げるもののほか、車両の突入によるなど人の生命又は身体に重大な危害を加えるおそれがある建造物損壊、器物損壊又は威力業務妨害

事例
工藤會幹部(43)らは、平成24年8月、暴力団員の立入りを禁止する標章を掲示した飲食店が入居しているビル等2棟のビルに放火し、両ビルのエレベーターを焼損させた。27年11月、同幹部ら11人を現住建造物等放火等で逮捕した(福岡)。
事例
稲川会傘下組織幹部(46)らは、27年9月、住宅に向けて拳銃を発射し、同住宅の壁を損壊するなどした。同年10月、同幹部ら2人を銃刀法違反等で逮捕した(北海道)。
(3)資金獲得犯罪
暴力団は、企業や行政機関を対象とした恐喝・強要、強盗、窃盗等のほか、振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺、各種公的給付金制度を悪用した詐欺や、一般の経済取引を装った貸金業法違反、労働者派遣法(注)違反等、様々な資金獲得犯罪を敢行している。
事例
住吉会傘下組織組長(48)らは、老人ホームの従業員を装って高齢者に電話をかけ、「老人ホームの建設が取りやめになったので、申込金をお返ししたいのだが、お返しするには、その費用として、現金を郵送してもらう必要がある」などと虚偽の事実を告げ、現金合計2,100万円をだまし取った。平成27年7月までに、同組長ら11人を詐欺罪で検挙した(警視庁、静岡、和歌山)。
事例
六代目山口組傘下組織幹部(69)は、自らが暴力団から離脱した旨の記載のある脱退証明書を偽造するなどして、生活保護の適用要件を満たしているかのように装い、22年10月から27年4月にかけて生活保護費合計約570万円をだまし取った。27年7月までに、同人を詐欺罪等で逮捕した(栃木)。
事例
六代目山口組傘下組織組長(44)は、畜産会社の元社長(55)及び人材派遣会社の経営者(33)と共謀の上、両会社間で架空の人材派遣契約等を締結して、同畜産会社に約850万円を支出させ、財産上の損害を与えた。27年8月までに、同組長ら3人を会社法違反(特別背任)で逮捕した(香川)。
コラム 暴力団の資金獲得活動の変遷
昭和20年代から30年代にかけて伝統的資金獲得犯罪を敢行するなどして勢力を拡大した暴力団は、40年代以降、摘発のリスクを逃れつつ、より安定的に資金を獲得するため、明らかに違法な資金獲得活動から、暴力団の威力を示すことによる不当な金銭等の要求行為へと重点を移行するようになった。
さらに、近年、暴力団は、実質的にその経営に関与している暴力団関係企業を利用し、又は共生者と結託するなどして、その実態を隠蔽しながら各種の事業活動へ進出するなどし、一般社会での不透明な資金獲得活動を活発化させているほか、特殊詐欺や各種公的給付金制度を悪用した詐欺への関与を深めるなど、その活動分野を更に拡大させている。
このように、暴力団は、暴力と組織の威力を最大限に利用しつつ、より巧妙かつ効率的に経済的利益を得るため、経済・社会の発展等に対応して、その資金獲得活動を変化させ続けている。警察では、不透明化・多様化する暴力団の資金獲得活動に関する情報を収集・分析するとともに、社会経済情勢の変化に応じた暴力団の資金獲得活動の動向にも留意しつつ、暴力団や共生者等に対する取締りを推進している。
