2 サイバー犯罪への対策
(1)インターネットバンキングに係る不正送金事犯への対策
① 発生状況
不正送金事犯の被害額は、平成25年に約14億600万円と急増し、26年は約29億1,000万円となった。26年下半期は被害がやや減少していたものの、27年上半期は再び増加に転じ、27年中の被害額は約30億7,300万円で、過去最高となった。また、27年は、信用組合、農業協同組合等に被害が拡大し、特に信用金庫の法人名義口座に係る被害が急増したほか、4月以降は都市銀行での被害が多発するなど、深刻な状況にある。このほか、不正送金先の口座名義人については中国籍の者の割合が高いことが特徴として挙げられる。
② 不正送金事犯に対処するための取組
ア 不正送金事犯に関与した者の検挙状況
警察では、27年中、不正送金事犯に関連して、金融機関のサーバに不正アクセスして不正送金を行った者や他人に利用させる意図を隠して口座を開設した者、口座を売買した者、不正に送金された資金を引き出した者、現金を回収した者、これらを指示した者等計160人を検挙している。
イ 金融機関等と連携した抑止対策
警察では、金融機関に対するインターネットバンキングのセキュリティ機能強化のための注意喚起、不正送金に悪用される口座を凍結するための口座情報・凍結口座名義人情報の提供、資金移動業者に対する国外送金の審査強化に関する働き掛け等を行っている。
(2)通信事業者における通信履歴等(ログ)の保存
通信履歴等(ログ)は、サイバー空間における事後追跡可能性を確保するために必要であるが、我が国では事業者に平素からログの保存を義務付ける制度が存在しておらず、サイバー犯罪捜査等を行う上で大きな課題となっている。
警察では、ログの保存が許容される期間を具体的に例示することを内容とする総務省による「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン」の解説を踏まえ、総務省と連携し、関係事業者における適切な取組が推進されるよう、必要な対応を行っている。
(3)民間事業者、外国捜査機関等と連携した被害防止対策
サイバー犯罪における手口が悪質・巧妙化する中、被害防止対策の重要性が高まっていることから、警察では、民間事業者や外国捜査機関等と連携し、不正プログラムの無害化措置、ボットネット(注)を崩壊させる「国際的なボットネットのテイクダウン作戦」への参加、外国捜査機関と連携した不正プログラムの通信先サーバの停止等を行ったほか、サイバー犯罪に悪用される中継サーバへの対策を実施するなど、積極的な被害防止対策を推進している。
事例
平成26年に検挙した中継サーバ事業者から押収したコンピュータから、大量のインターネットサイトのID・パスワード等を把握したことから、当該サイトの運営会社にID・パスワード等を提供し、不正アクセス事案等の未然防止を要請した(警視庁・埼玉)。
事例
悪質な中継サーバへの対策として、警察庁及び警視庁が総務省及び大手通信事業者に対して、不正アクセス行為に使用された通信回線の契約の強制解約を要請した結果、27年12月、大手電気通信事業者が契約約款を改正し、要請に応じて契約を解除することとなった。
(4)コンピュータ・ウイルス対策
警察では、コンピュータ・ウイルスに関する罪の取締りを推進するとともに、民間事業者と連携したコンピュータ・ウイルスによる被害拡大防止のための対策を講じている。
警察庁では、犯罪捜査の過程で警察が把握した新たなコンピュータ・ウイルスに関する情報をウイルス対策ソフト事業者等に提供し、当該コンピュータ・ウイルスによる被害の拡大防止を図るための枠組み(注)を構築している。
事例
無職の少年(18)は、平成27年6月、人の電子計算機における実行の用に供する目的で、身代金要求型ウイルス「ランサムウェア(注)」の作成ツールを保管した。27年8月、少年を不正指令電磁的記録保管罪で検挙した(警視庁)。
(5)不正アクセス対策
① 発生状況等
平成27年における不正アクセス行為の認知件数は2,051件であり、これを不正アクセス行為後の行為別にみると、「インターネットバンキングでの不正送金」が1,531件(74.6%)と最多であった。
また、検挙した不正アクセス禁止法違反に係る不正アクセス行為の手口は、「利用権者のパスワードの設定・管理の甘さにつけ込んだもの」が117件(35.2%)と最多であった。
② 不正アクセス防止対策に関する官民連携
不正アクセス防止対策に関する官民意見集約委員会(注1)における「不正アクセス防止対策に関する行動計画」に基づき、情報セキュリティに関する情報を掲載した情報セキュリティ・ポータルサイト「ここからセキュリティ!」(注2)を公開するなど、不正アクセスを防止するための官民連携した取組を実施している。
注2:http://www.ipa.go.jp/security/kokokara/
(6)インターネット上の違法情報・有害情報対策
インターネット上には、児童ポルノ画像や覚醒剤等規制薬物の販売に関する情報等の違法情報や、違法情報には該当しないが、犯罪や事件を誘発するなど公共の安全と秩序の維持の観点から放置することができない有害情報が氾濫している。
① インターネット・ホットラインセンターにおける取組等
警察庁では、一般のインターネット利用者等から、違法情報等に関する通報を受理し、警察への通報やサイト管理者等への削除依頼を行うインターネット・ホットラインセンター(IHC)を運用している。平成27年中にIHCが削除依頼を行った違法情報のうち9割以上の3万359件が削除された。
通報された違法情報の中には、外国のウェブサーバに蔵置されているものがある。このうち児童ポルノについては、各国のホットライン相互間の連絡組織であるINHOPE(注)の加盟団体に対して削除に向けた措置を依頼している。
② 効果的な違法情報・有害情報の取締り
警察では、サイバーパトロール等により違法情報・有害情報の把握に努めるとともに、IHCからの通報に基づく全国協働捜査方式(注)の活用等により、効率的な違法情報の取締り及び有害情報を端緒とした取締りを推進している。
また、警察では、合理的な理由もなく違法情報の削除依頼に応じない悪質なサイト管理者については、検挙を始めとした積極的な措置を講じている。
(7)出会い系サイト及びコミュニティサイトに起因する事犯への対策
① 出会い系サイト及びコミュニティサイトに起因する事犯の発生状況
出会い系サイト(注1)に起因して犯罪被害に遭った児童(18歳未満の者をいう。以下同じ。)の数は、平成20年の出会い系サイト規制法(注2)の改正以降、届出制の導入により事業者の実態把握が促進されたことや、事業者の被害防止措置が義務化されたことなどにより減少傾向にある。一方、コミュニティサイト(注3)に起因して犯罪被害に遭った児童の数は、平成20年以降増加傾向にある。また、27年中、フィルタリングの利用の有無が判明した被害児童のうち、9割以上がフィルタリングを利用していなかった。
注2:インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律
注3:SNS、プロフィールサイト等、ウェブサイト内で多数人とコミュニケーションがとれるウェブサイト等のうち、出会い系サイトを除いたものの総称
② 被害児童の状況
27年中、被害児童の最も多い罪種は、出会い系サイトに起因する事犯では、児童買春43人(全体の46.2%)、コミュニティサイトに起因する事犯では、青少年保護育成条例違反699人(全体の42.3%)となっている。
事例
大学生の男(34)は、27年1月及び同年2月の2回にわたり、コミュニティサイトで知り合った女子児童(15)が児童であることを知りながら、ホテルにおいて買春をした。27年4月、男を児童買春・児童ポルノ禁止法違反で逮捕した(警視庁)。
③ 出会い系サイト及びコミュニティサイトへの対策
警察では、出会い系サイトに起因する児童被害の防止に向けた対策として、悪質出会い系サイト事業者や禁止誘引行為等の書き込み違反者に対する取締り等を徹底している。また、コミュニティサイトに起因する児童被害の防止に向けた対策として、サイト事業者の規模や提供しているサービスの態様に応じて、ミニメール(注1)の内容確認を始めとするサイト内監視の強化や実効性あるゾーニング(注2)の導入に向けた働き掛けを推進している。
さらに、出会い系サイト及びコミュニティサイトにおいて、サイバー補導(注3)を実施しているほか、関係省庁、事業者及び関係団体と連携し、スマートフォンを中心としたフィルタリングの普及促進や児童、保護者、学校関係者等に対する児童被害の防止に関する広報啓発と情報共有を推進している。
注2:サイト内において悪意ある大人を児童に近づけさせないように、携帯電話事業者の保有する利用者年齢情報を活用し、大人と児童との間のミニメールの送受信や検索を制限すること
注3:99頁参照
(8)サイバー防犯ボランティアに対する支援
サイバーパトロールにより発見した違法情報・有害情報をIHC等に通報する取組や講演活動等を行うサイバー防犯ボランティアは全国で224団体(平成27年12月末現在)に増加しており、警察ではこうした活動を行う団体を育成するため、研修会の開催等の支援を行っている。