特集 組織犯罪対策の歩みと展望

4 犯罪収益対策

暴力団等の犯罪組織を弱体化させ、壊滅に追い込むためには、犯罪による収益の移転を防止するとともに、これを確実に剥奪することが重要である。警察では、犯罪収益移転防止法(注1)、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法を活用し、関係機関、事業者、外国のFIU(注2)等と協力しながら、総合的な犯罪収益対策を推進している。

注1:犯罪による収益の移転防止に関する法律
注2:Financial Intelligence Unit(資金情報機関)の略。疑わしい取引に関する情報を集約・分析して捜査機関等に提供する機関として各国が設置している。我が国のFIUは、国家公安委員会・警察庁が担当している。

(1)犯罪収益移転防止法の制定及び改正と同法の効果的な運用

① 犯罪収益移転防止法の制定及び改正

金融機関以外の事業者がマネー・ローンダリング行為に利用されるなど、マネー・ローンダリング行為の手口が複雑かつ巧妙化している状況や、平成15年にFATF勧告(注)が改訂され、本人確認等の措置を講ずべき事業者の範囲が金融機関以外に拡大されたこと等を踏まえ、19年3月、犯罪収益移転防止法が制定され、20年3月から全面施行された。

注:41頁参照
 
図表-42 犯罪収益移転防止法の概要
図表-42 犯罪収益移転防止法の概要

同法において、本人確認法(注1)と組織的犯罪処罰法に規定されていた本人確認や疑わしい取引の届出制度についての規定が整備されるとともに、対象事業者の範囲が金融機関以外の事業者に拡大されたほか、疑わしい取引の届出に関する情報を集約し、整理・分析するFIUの機能が金融庁から国家公安委員会・警察庁に移管された。

また、23年4月には、第3次FATF対日相互審査(注2)での指摘事項や国内での振り込め詐欺等の被害状況等を踏まえ、特定事業者(注3)の取引時の確認事項の追加、電話転送サービス事業者の特定事業者への追加、預貯金通帳等の不正譲渡等に係る罰則の強化等を内容とする犯罪収益移転防止法の改正が行われ、25年4月に全面施行された。

注1:金融機関等による顧客等の本人確認等及び預金口座等の不正な利用の防止に関する法律
注2:41頁参照
注3:犯罪収益移転防止法第2条第2項で規定されている事業者であり、金融機関等、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者、電話転送サービス事業者、公認会計士等の士業者を指す。

コラム 顧客管理措置の充実のための犯罪収益移転防止法改正

平成23年の改正後も、FATF勧告で求められている顧客管理に関する事項が法令に明記されていないなどの指摘をFATFから受け、26年6月には、マネー・ローンダリング対策等の不備に我が国が迅速に対応することを促す声明がFATFから公表された。

これを受けて、顧客管理に関するFATF勧告の水準を満たすための制度改正についての警察庁における議論等を踏まえ、疑わしい取引の届出に関する判断の方法、外国所在為替取引業者との契約締結の際の厳格な確認義務、特定事業者の体制整備等の努力義務の拡充について定めることなどを内容とする犯罪収益移転防止法の一部を改正する法律が、同年11月、第187回国会において成立した。

② 犯罪収益移転防止法の適切な履行を確保するための措置

犯罪収益対策を効果的に推進するためには、犯罪収益移転防止法に基づき、顧客等の本人特定事項等の取引時確認、疑わしい取引の届出等の義務が特定事業者により適切に履行されることが重要である。このため、国家公安委員会・警察庁は、関係機関と連携して、特定事業者を対象とした研修会等を利用して犯罪収益移転防止法に対する理解と協力の促進に努めている。また、国家公安委員会・警察庁は、特定事業者が犯罪収益移転防止法に定める義務に違反していると認めた場合、当該特定事業者に対して報告を求めるなどの必要な調査を行うとともに、当該特定事業者を所管する行政庁に対して、是正命令等を行うべき旨の意見陳述を行っている。

 
図表-43 国家公安委員会・警察庁による報告徴収等の実施件数の推移(平成20~26年)
図表-43 国家公安委員会・警察庁による報告徴収等の実施件数の推移(平成20~26年)
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③ 疑わしい取引の届出と疑わしい取引に関する情報の積極的な活用

犯罪収益移転防止法に定める疑わしい取引の届出制度(注)により事業者がそれぞれの所管行政庁に届け出た情報は、国家公安委員会・警察庁が集約して整理・分析を行った後、都道府県警察、検察庁を始めとする捜査機関等に提供され、各捜査機関等において、マネー・ローンダリング事犯の捜査等に活用されている。

疑わしい取引の届出の年間受理件数は、図表-44のとおりであり、26年中は37万7,513件と、17年と比べて27万8,578件(281.6%)増加した。

注:特定事業者のうち金融機関等、ファイナンスリース事業者、クレジットカード事業者、宅地建物取引業者、宝石・貴金属等取扱事業者、郵便物受取サービス業者、電話受付代行業者及び電話転送サービス事業者は、業務で収受した財産が犯罪収益である疑いがあると判断した場合等に、所管行政庁へその旨を届け出ることが義務付けられている。
 
図表-44 疑わしい取引の届出状況の推移(平成17~26年)
図表-44 疑わしい取引の届出状況の推移(平成17~26年)
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都道府県警察が、疑わしい取引に関する情報を端緒として検挙した事件数は、図表-45のとおりであり、17年中は18件であったが、犯罪収益移転防止法が制定された19年以降大幅に増加し、26年中は1,001件となっている。

 
図表-45 疑わしい取引に関する情報を端緒として検挙した事件数の推移(平成17~26年)
図表-45 疑わしい取引に関する情報を端緒として検挙した事件数の推移(平成17~26年)
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④ 犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価

犯罪収益対策を効果的かつ効率的に行うためには、事業者が取り扱う各種取引や商品・サービスがマネー・ローンダリング等に悪用される危険性の程度を評価し、その程度に応じた措置を講ずることが重要である。警察庁では、25年6月に合意された「法人及び法的取極めの悪用を防止するためのG8行動計画原則」(注)も踏まえ、26年12月、金融庁等の関係省庁と協力して、「犯罪による収益の移転の危険性の程度に関する評価書」を取りまとめて公表した。同評価書では、マネー・ローンダリング等の危険性に関わる要因を、取引形態や商品・サービス等の類型ごとに分析し、危険性の程度を示している。

注:G8ロック・アーン・サミットで合意された原則。各国が自国のマネー・ローンダリング対策等を取り巻くリスクを評価し、そのリスクに見合った措置を講じることなどが盛り込まれた。

(2)犯罪収益の剥奪

犯罪収益が、犯罪組織の維持・拡大や将来の犯罪活動への投資等に利用されることを防止するためには、これを剥奪することが重要である。警察では、没収(注1)・追徴(注2)の判決が裁判所により言い渡される前に犯罪収益が隠匿されたり、費消されたりすることなどのないよう、裁判官に対して、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法に定める起訴前の没収保全命令の請求を積極的に行い、没収・追徴の実効性を確保している。

近年の起訴前の没収保全命令の発出状況は、図表-46のとおりであり、平成19年以降、組織的犯罪処罰法に基づく命令の件数が大幅に増加している。その背景としては、組織的犯罪処罰法の改正により、18年12月、これまで没収・追徴ができなかった犯罪被害財産の没収・追徴が可能となったことや、23年7月、無許可の風俗営業や無免許の銀行営業等の罪が新たに前提犯罪に追加され、没収対象財産の範囲が更に拡大されたことなどが挙げられる。

また、第一審裁判所において行われる通常の公判手続における組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法の没収・追徴規定の適用状況は、図表-47のとおりである。

注1:物の所有権及び金銭債権を剥奪して国庫に帰属させる処分を内容とする財産刑
注2:没収することができる物又は金銭債権の全部又は一部を没収することができない場合に、その価額の納付を強制する処分
 
図表-46 起訴前の没収保全命令の発出状況の推移(平成17~26年)
図表-46 起訴前の没収保全命令の発出状況の推移(平成17~26年)
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図表-47 組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法の没収・追徴規定の適用状況の推移(平成21~25年)
図表-47 組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法の没収・追徴規定の適用状況の推移(平成21~25年)
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(3)国際的な連携の推進

国境を越えて敢行されるマネー・ローンダリングやテロ資金供与を防止するためには、各国が連携して対策を講ずることが不可欠である。このため、国際社会においては、FATF(注1)、APG(注2)、エグモント・グループ等の枠組みの下、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策の国際的基準の策定、普及等が行われており、警察庁もこれらの活動に積極的に参画している。

注1:The Financial Action Task Force(金融活動作業部会)の略
注2:The Asia/Pacific Group on Money Laundering(アジア・太平洋マネー・ローンダリング対策グループ)の略
① FATFの活動と警察庁の参画状況

FATFは、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策に関する国際協力を推進するため設置されている政府間会合であり、平成26年末現在、我が国を含む34の国・地域及び2国際機関が参加している。FATFは、マネー・ローンダリング対策及びテロ資金供与対策として、各国が法執行、刑事司法及び金融規制の各分野において講ずるべき措置を、「FATF勧告」として示している。また、FATFは、加盟国における勧告の遵守の徹底のため、順次、各加盟国に審査団を派遣して相互審査を実施しており、我が国に対しても20年に3回目の審査が実施された。以後、我が国は、全体会合において、同審査で指摘された各勧告の不備事項の改善状況を報告しており、27年2月の全体会合においては、26年11月の犯罪収益移転防止法の改正(注1)、国際テロリスト財産凍結法の成立(注2)等について報告した。

注1:38頁参照
注2:173頁参照
② APGの活動と警察庁の参画状況

APGは、アジア・太平洋地域のFATF非参加国におけるマネー・ローンダリング対策等を強化・促進するために設置された機関であり、マネー・ローンダリング対策等に取り組む国・地域に対する支援等を行っている。26年末現在、我が国を含む41の国・地域が参加している。警察庁では、年次会合等に職員を派遣し、最新のマネー・ローンダリングの手口・傾向等についての議論に参画している。

③ エグモント・グループの活動と警察庁の参画状況

エグモント・グループは、各国のFIU間の情報交換、研修、専門知識に関する協力等を目的として設置された機関であり、26年末現在、我が国を含む147の国・地域のFIUが参加している。我が国は、エグモント・グループからの要請を受け、ミャンマー及びパキスタンの加盟手続を支援している。

④ 外国のFIUとの情報交換

国境を越えて行われるマネー・ローンダリングやテロ資金供与を発見するためには、各国のFIUが保有する情報の積極的な交換が必要であることから、国家公安委員会・警察庁は、外国のFIUとの連携を強化し、活発な情報交換を実施している。

また、26年末現在、合計78の国・地域のFIUとの間で情報交換のための枠組みを設定している。

 
モナコのFIUとの情報交換枠組みの設定
モナコのFIUとの情報交換枠組みの設定
 
図表-48 国家公安委員会・警察庁と外国のFIUとの情報交換件数の推移(平成19~26年)
図表-48 国家公安委員会・警察庁と外国のFIUとの情報交換件数の推移(平成19~26年)
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