第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

第3節 女性・子供を犯罪から守るための取組

1 恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案への対応

(1)現状

恋愛感情等のもつれに起因する各種のトラブルや事件であって、被害者やその親族等(以下「被害者等」という。)に危害が及ぶおそれのある事案(以下「恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案」という。)のうち、ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等(注1)の認知件数の推移は図表2-62のとおりであり、26年中の認知件数は、いずれも、ストーカー規制法(注2)及び配偶者暴力防止法(注3)の施行以降、最多となった。

注1:平成25年6月に成立した配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律の一部を改正する法律の施行に伴い、26年1月3日以降、生活の本拠を共にする交際(婚姻関係における共同生活に類する共同生活を営んでいないものを除く。)をする関係にある相手方からの暴力事案についても計上している。
注2:ストーカー行為等の規制等に関する法律
注3:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
 
図表2-62 ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等の認知件数の推移(平成17~26年)
図表2-62 ストーカー事案及び配偶者からの暴力事案等の認知件数の推移(平成17~26年)
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(2)対策

恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案は、加害者の被害者に対する執着心や支配意識が非常に強いものが多く、また、加害者が、被害者等に対して強い危害意思を有している場合には、検挙されることを顧みず大胆な犯行に及ぶこともあるなど、事態が急展開して重大事件に発展するおそれが大きいものである。

このため、警察では、恋愛感情等のもつれに起因する暴力的事案を始めとする人身の安全を早急に確保する必要の認められる事案(以下「人身安全関連事案」という。)に一元的に対処するための体制を確立し、被害者等の安全の確保を最優先に、ストーカー規制法や配偶者暴力防止法その他の法令の積極的な適用による加害者の検挙のほか、被害者等の安全な場所への避難や身辺の警戒、110番緊急通報登録システム(注1)への登録、ビデオカメラの設置等による被害者等の保護措置等、組織による迅速・的確な対応を推進している。さらに、被害者等からの相談に適切に対応できるよう「被害者の意思決定支援手続」(注2)及び「危険性判断チェック票」(注3)を導入している。

注1:あらかじめ電話番号を登録した被害者等から通報があった場合、被害者等からの通報であることが自動表示されるもの
注2:100頁参照
注3:100頁参照
 
図表2-63 ストーカー事案への対応状況の推移(平成22~26年)
図表2-63 ストーカー事案への対応状況の推移(平成22~26年)
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図表2-64 配偶者からの暴力事案等への対応状況の推移(平成22~26年)
図表2-64 配偶者からの暴力事案等への対応状況の推移(平成22~26年)
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① 一元的に対処するための体制の確立

人身安全関連事案に的確に対処するため、警視庁及び道府県警察本部において、認知の段階から対処に至るまで、警察署への指導・助言・支援を一元的に行う生活安全部門と刑事部門を総合した体制を構築した。また、警察署においても、人身安全関連事案への対処を統括する責任者及び事案対処時の要員をあらかじめ指定することにより生活安全部門と刑事部門を総合した体制を構築した。

こうした体制の下、事案認知時において危険性・切迫性を見極めるために、被害者等からの相談対応に当たっては、生活安全部門の担当者と刑事部門の捜査員が共同で聴取するなど、組織による的確な対応を徹底しており、個別の事態に応じて、誘拐事件や立てこもり事件の捜査に関する専門的知識を有した刑事部捜査第一課特殊班や機動力をいかした捜査活動を行う機動捜査隊を積極的に投入している。

 
図表2-65 体制の確立
図表2-65 体制の確立

事例

26年10月、かつて被害女性(20歳代)と交際関係にあった男(39)が同女性に対する殺害予告をしている旨の110番通報を受理した通信指令本部では、警察署に指令するとともに、人身安全関連事案事態対処チームに速報した。同チームでは、同女性の保護を最優先とする指示を行い、警察署から同女性の勤務先に警察官を派遣した。元交際相手の女性を安全な場所へ避難させた上、付近の警戒を実施している最中に同男を発見し、職務質問を実施したところ、同男が包丁を所持していたことから銃刀法違反(刃物の携帯)で逮捕した(警視庁)。

② 被害者の意思決定支援手続

被害者の意思決定支援手続は、事案の危険性やストーカー規制法等に基づき警察が執り得る措置等を被害者等に図示しながら分かりやすく説明し、被害者等が求める対応についての意思決定を支援するためのものである。警察では、この手続により被害者等の意思を明確にすることで、被害者等と共通認識を持って、より迅速・的確な事案対応を図っている。

 
図表2-66 ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等に関する手続の流れ
図表2-66 ストーカー事案・配偶者からの暴力事案等に関する手続の流れ
③ 危険性判断チェック票

危険性判断チェック票は、外部の司法精神医学に関する有識者の科学的・専門的知見を得て作成されたものであり、被害者から、被害者本人や加害者の性格等に関する項目についてチェック票に従って聴取し、その回答結果から事案の危険性等の判定を行うものである。警察は、この判定結果を事案の危険性等を判断するための資料として活用するとともに、判定結果を被害者に教示することにより、事案の危険性等について被害者に認識されるよう努めている。

④ 加害者に対する精神医学的・心理学的アプローチに係る調査研究

更なる加害行為を思いとどまらせ、同様の被害の拡大を防止するためには、加害者の内面に働き掛け、加害者の被害者に対する支配意識や執着心を取り除くことが効果的な対策となり得ると考えられる。警察庁では、加害者に対する精神医学的・心理学的アプローチの在り方に関する調査研究を行っている。

コラム ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会における検討

平成25年6月に成立したストーカー規制法の一部を改正する法律の附則第5条により、政府は、ストーカー行為等の規制等の在り方について検討するための協議会の設置等の所要の措置を講ずることとされた。これを踏まえ、警察庁では、同年11月から26年7月まで8回にわたり、有識者や被害者関係者等から成る「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する有識者検討会」(以下「検討会」という。)を開催した。検討会では、ストーカー対策の在り方全般について検討が行われ、同年8月、「ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書」が取りまとめられ、ストーカー対策の在り方について、今後の方向性が示された。

 
図表2-67 ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書の概要
図表2-67 ストーカー行為等の規制等の在り方に関する報告書の概要

コラム ストーカー総合対策

平成26年10月、全閣僚を構成員とするすべての女性が輝く社会づくり本部において、「すべての女性が輝く政策パッケージ」が決定され、その中で、ストーカー対策の抜本的強化のため、被害者支援の取組や加害者対策の在り方について、警察庁の有識者検討会において提言された取組の方向性も踏まえつつ、関係省庁から成る会議において検討の上、同年度内を目途に総合対策を取りまとめることとされた。

これを受け、警察庁が内閣府と共同で開催した「ストーカー総合対策関係省庁会議」において、27年3月、ストーカー事案に対応する体制の整備、被害者等の一時避難等の支援、被害者情報の保護、被害者等に対する情報提供等、ストーカー予防のための教育等及び加害者に関する取組の推進を内容とするストーカー総合対策が策定された。警察庁では、ストーカー総合対策を踏まえ、関係省庁と連携した取組を一層推進することとしている。



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