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トピックスV 厳しい薬物情勢に対する警察の取組

近年の厳しい薬物情勢を踏まえ、警察では、薬物の供給の遮断及び需要の根絶に向けた取組を推進しています。

薬物は、乱用者の精神や身体をむしばむばかりでなく、幻覚、妄想等により、乱用者が殺人、放火等の凶悪な事件や重大な交通事故等を引き起こすこともあるほか、薬物の密売が暴力団等の犯罪組織の資金源となっていることから、薬物乱用は社会の安全を脅かす重大犯罪です。警察では、仕出地や乱用薬物の多様化といった最近の薬物情勢の特徴を踏まえ、関係省庁と連携して、薬物犯罪の根絶に向けた取組を推進しています。

(1)最近の薬物情勢の特徴

① 覚醒剤密輸入事犯における仕出地の多様化

我が国で乱用される薬物の大半は海外から密輸入されていますが、近年では、覚醒剤の仕出地に多様化の傾向がみられます。過去10年間の覚醒剤の仕出地の推移をみると、平成16年には12か国(地域)であった仕出地が、25年には32か国(地域)となっています。

また、従来は中国、マレーシア、フィリピン等のアジアからの密輸入事犯が大半を占めていましたが、近年では、中南米やアフリカ、中近東からの密輸入事犯が増加しています。特に、最近では、メキシコを仕出国とする覚醒剤密輸入事犯の割合が大きく、25年中は全体の16.1%を占めたほか、メキシコ人らによる覚醒剤の大量密輸入事犯が検挙されるなど、同国の薬物犯罪組織が覚醒剤の密輸に深く関与していることがうかがわれます。

 
図表V-1 覚醒剤密輸入事犯の仕出地数と地域別検挙件数の推移(平成16~25年)
図表V-1 覚醒剤密輸入事犯の仕出地数と地域別検挙件数の推移(平成16~25年)
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事例

メキシコ人の男(36)らは、25年5月、鉄鉱石様の物の内部に覚醒剤を隠匿し、メキシコから船舶コンテナで密輸入した。同年6月、メキシコ人2人及び日本人1人を覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)で逮捕し、覚醒剤約194キログラムを押収した(兵庫)。

 
鉄鋼石様の物の内部に隠匿された覚醒剤

鉄鋼石様の物の内部に隠匿された覚醒剤

② 乱用薬物の多様化

近年、「脱法ドラッグ」(注)の使用者が、自動車を運転して重大な交通事故を引き起こしたり、心身に異常を来して救急搬送されたりする事案が相次いで発生しています。また、新しい「脱法ドラッグ」が次々と出現しており、薬物対策上の新たな課題となっています。

注:規制薬物(覚醒剤、大麻、麻薬、向精神薬、あへん及びけしがらをいう。)又は指定薬物(薬事法第2条第14項に規定する指定薬物をいう。)に化学構造を似せて作られ、これらと同様の薬理作用を有する物品をいい、規制薬物及び指定薬物を含有しない物品であることを標榜しながら規制薬物又は指定薬物を含有する物品を含む。

 
「脱法ドラッグ」1

「脱法ドラッグ」1

 
「脱法ドラッグ」2

「脱法ドラッグ」2


(2)政府における「第四次薬物乱用防止五か年戦略」の策定

薬物乱用は、我が国の治安の根幹に関わる重要な問題であり、政府一体となった対策が必要であることから、内閣府特命担当大臣(薬物乱用対策)を議長、国家公安委員会委員長等を副議長とする薬物乱用防止対策推進会議の下、関係機関(注)が連携して対策を推進しています。平成25年8月には、「薬物密輸阻止に向けた国際的な連携・協力の推進」等5つの目標を設定した「第四次薬物乱用防止五か年戦略」が策定されました。

注:内閣官房、内閣府、警察庁、消費者庁、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、国土交通省及び海上保安庁

(3)警察の取組

① 薬物対策における国際的な連携

薬物の不正取引は、薬物犯罪組織により国境を越えて行われており、一国だけでは解決できない問題です。警察では、捜査員の派遣、国際会議への参加を通じた情報交換等の国際捜査協力や関係国に対する薬物捜査指導等の技術協力を推進しています。

警察庁では、アジア・太平洋地域を中心とする関係諸国において、薬物情勢、捜査手法及び国際協力に関する討議を行い、相互協力体制の構築を図る目的でアジア・太平洋薬物取締会議を主催しています。平成26年2月には、28の国・地域及び2国際機関の参加(オブザーバーを含む。)を得て、第19回目となる同会議を東京都で開催しました。

 
第19回アジア・太平洋薬物取締会議

第19回アジア・太平洋薬物取締会議


また、独立行政法人国際協力機構(JICA)と共催で、深刻な薬物問題を抱える国・地域から薬物取締機関の上級幹部を招へいし、薬物取締りに関する情報交換と日本の捜査技術の移転を図るための薬物犯罪取締セミナーを開催しています。

② 「脱法ドラッグ」対策

警察では、「脱法ドラッグ」の販売業者に対する指導・警告や悪質な販売業者の取締りを行うほか、「脱法ドラッグ」の使用者を危険運転致傷罪等により検挙するなどしています。25年中の「脱法ドラッグ」に係る事件の検挙人員は176人と、前年より64人(57.1%)増加しました。

 
図表V-2 「脱法ドラッグ」に係る適用法令別検挙人員の推移(平成21~25年)
図表V-2 「脱法ドラッグ」に係る適用法令別検挙人員の推移(平成21~25年)
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また、新しい「脱法ドラッグ」の出現に対処するため、麻薬や指定薬物への追加指定を始めとした規制強化について関係省庁と検討を進めた結果、薬事法が改正され、26年4月から指定薬物の単純所持や使用が禁止されるなどしています。警察では、こうした各種法令を駆使して検挙に努めています。さらに、「脱法」という呼称が国民に誤解を与えるおそれもあることから、その呼称の在り方についても関係省庁と共に検討を進めています。

事例

無職の男(35)らは、24年7月頃、指定薬物を含有する液体及び乾燥植物葉片を「脱法ドラッグ」店経営者に販売した。25年2月、同人ら2人を薬事法違反(指定薬物の授与)で逮捕した(埼玉)。


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