特集:変容する捜査環境と警察の取組 

3 捜査技能の組織的な伝承

捜査員の世代交代が急速に進む中、捜査技能の伝承が課題となっていることを踏まえ、次世代を担う捜査員に捜査技能を習得させ、第一線の捜査力の維持・向上を図るため、警察では、捜査技能等が体系的に伝承されるよう、組織的な取組を進めている。

(1)新時代に対応した刑事捜査員の育成

新たな捜査手法や最先端の科学技術を活用した捜査は、全ての捜査員が実際の事件で経験できるわけではない。他方で、こうした捜査手法等が必要となる事件は、時間や場所を問わず発生し得るものである。警察では、各捜査員の捜査技能の更なる向上を図るため、様々な教育訓練の場において、仮想の事件の模擬的な捜査を通じて、防犯カメラ画像、DNA型鑑定資料等の客観証拠の収集方法を含む様々な捜査手法全般を体験させるなどしている。

コラム⑧ 新任捜査員育成プログラム

警察では、捜査員を計画的かつ確実に育成するため、新任捜査員を対象に、半年から約1年かけて、刑事として必要な知識や捜査技能の習得状況を検証しながら、各捜査員の特性に応じた効果的な教育訓練を行う「新任捜査員育成プログラム」を実施している。

同プログラムは、全ての都道府県警察で実施されており、これに加えて各都道府県警察では、先輩捜査員によるマンツーマン指導を導入するなど様々な取組を進めている。

 
先輩捜査員による指導状況(足跡の採取)

先輩捜査員による指導状況(足跡の採取)

捜査幹部に対しては、警察大学校、管区警察局、管区警察学校等において教育訓練を行い、事件の全容を把握した上での適切な捜査方針の策定、事件の性質に応じた組織的捜査の推進、被疑者の特性に応じた適正な取調べの方法、裏付け捜査の徹底等の適正な捜査運営等、捜査幹部としての職務に必要な知識及び技能の向上を図っている。

コラム⑨ 捜査指揮能力や取調べ技術の組織的伝承を図るための取組

管区警察局及び管区警察学校では、捜査指揮能力や取調べ技術の組織的伝承を図るため、事例研究を中心とした実践的な教育を実施している。

管区警察局では、捜査指揮能力の向上のため、警察署の刑事担当課長を始めとする捜査幹部に対して、適正な捜査指揮等に関する少人数制の討議方式の演習や、犯罪捜査に関して優れた知識・経験を有する退職した警察官の講義を行っている。

管区警察学校では、心理学的知見に基づく取調べ技術の習得や捜査指揮能力の向上のため、刑事担当係長等に対して、ロールプレイング方式の取調べ演習や、退職した警察官等による実例に基づく想定事例を活用した受講者参加型の講義を行っている。

 
退職した警察官による講義を受ける捜査幹部

退職した警察官による講義を受ける捜査幹部

(2)取調べ技術の伝承と取調べの高度化

取調べ技術については、従来、OJTにより伝承されてきたが、捜査経験が豊富な優れた取調官が少なくなっていることとも相まって、取調べ技術の組織的伝承に努めている。

こうしたことも踏まえ、警察庁では、平成24年3月に策定した「捜査手法、取調べの高度化プログラム」に基づき、取調べにおいて真実の供述を適正かつ効果的に得るための技術の在り方やその伝承方法について、時代に対応した改善を図るため、心理学的知見を取り入れて取調べ技術を体系的に整理した教本や教育方法を開発するなどして、取調べの高度化を推進している。

なお、警察では、21年4月、被疑者取調べ監督制度の運用(注)を開始し、取調べの適正化を図る取組も進めている。

注: 警察庁長官官房総務課に取調べ監督指導室を、警視庁及び道府県警察本部の総務又は警務部門に被疑者取調べ監督業務を担当する所属を設置するなど所要の体制を整備し、取調べの状況の確認、調査等を行っている。

コラム⑩ 取調べ技術総合研究・研修センターにおける取組

平成25年5月に警察大学校に設置された取調べ技術総合研究・研修センターでは、心理学的知見に基づく取調べ技術習得のための教育訓練を全国において実践させるため、各都道府県警察の取調べ指導担当者を集めて、心理学的知見を取り入れて作成した教本「取調べ(基礎編)」やロールプレイング方式の取調べ演習を活用した教育を行っている。また、取調べ技術の更なる体系化及びその習得のための教育訓練の方法に関する調査研究も行っている。

 
取調べ演習の状況

取調べ演習の状況

(3)警察庁指定広域技能指導官制度

警察庁では、平成6年、警察庁指定広域技能指導官制度の運用を開始し、卓越した専門技能又は知識を有する警察職員を警察庁長官が指定し、その職員を警察全体の財産として、都道府県警察の枠組みを超えて広域的に指導官として活用している。

現在、全国警察において、情報分析、強行犯捜査、窃盗犯捜査、薬物事犯捜査、鑑識等の各分野で広域技能指導官が指定され、各都道府県警察職員に対して警察活動上必要な助言や実践的指導を行うとともに、警察大学校、管区警察学校等において講義を実施している。

コラム⑪ 見当たり捜査

見当たり捜査とは、多数の指名手配被疑者の写真からその特徴を記憶し、その特徴を頼りに、繁華街や駅等の人が多く集まる場所において、通行人等の中から指名手配被疑者を見つけ出し、検挙に結びつける捜査手法である。潜伏・逃亡を続ける被疑者の発見に効果的であり、平成25年12月現在、14都道府県警察において、専従捜査班が運用されている。

警察庁では、見当たり捜査に関して卓越した知識・技能を有する警視庁及び大阪府警察の捜査員を広域技能指導官に指定している。これらの指導官は、他道府県警察から研修のために派遣された捜査員に対する実地指導や各都道府県警察の捜査員に対する技能指導等を行い、全国的な専従捜査員の育成を図っている。

 
指名手配被疑者の特徴を記憶する捜査員

指名手配被疑者の特徴を記憶する捜査員


 第3節 警察の取組

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