特集II 子供・女性・高齢者と警察活動

1 高齢者の犯罪被害対策

(1)高齢者の犯罪被害の現状と対策

刑法犯認知件数のうち、高齢者が被害者となった件数(以下「高齢者の被害件数」という。)は、平成8年に10万件、13年に20万件を突破し、14年のピーク時には、約22万5,000件となった。その後、刑法犯認知件数全体の減少とともに、高齢者の被害件数も減少し、24年中は約13万件となった。一方、認知件数に占める高齢者の被害件数の割合(以下「高齢者の被害割合」という。)については、刑法犯全体についてみると、24年中は、9.5%と、5年と比較して2倍以上の割合を記録している。

 
図II-49 刑法犯認知件数及び高齢者の被害割合等の推移(平成5~24年)
図II-49 刑法犯認知件数及び高齢者の被害割合等の推移(平成5~24年)
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包括罪種別にみると、高齢者が被害者となった認知件数の割合が全体的に増加している。特に、知能犯について高齢者の被害割合の増加が顕著であり、24年は20%を超えるなど、20年前と比較して約3倍となっている。また、暴行・傷害等の粗暴犯について高齢者の被害割合をみると、24年は6.9%と、5年と比較して3倍以上になっている。

 
図II-50 包括罪種別高齢者の被害割合の推移(平成5~24年)
図II-50 包括罪種別高齢者の被害割合の推移(平成5~24年)
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個別の罪種・手口別にみると、多くの罪種・手口で高齢者の被害割合が増加傾向にある中、特にひったくりの約30%、殺人、詐欺の約25%が高齢者が被害者となったものである。また、すりの認知件数に占める高齢者の被害割合は約15%と、高止まりしている。

 
図II-51 主な罪種・手口別高齢者の被害割合の推移(平成5~24年)
図II-51 主な罪種・手口別高齢者の被害割合の推移(平成5~24年)
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① 高齢者の金銭を狙った犯罪の現状と対策
ア 高齢者を狙った特殊詐欺

振り込め詐欺を始めとする特殊詐欺(注)は、高齢者が主な被害者層であり、多大な被害が生じている。一人暮らしの高齢者が増加し、地域社会の連帯意識の希薄化が指摘される現在、社会全体でこうした犯罪への対策を講ずることが求められている。

注:86頁参照

(ア) 現状

特殊詐欺全体における被害者の年齢構成については、70歳以上が5割以上、60歳以上では約8割を占め、性別構成については、女性が7割以上を占めている。その中でも、オレオレ詐欺、還付金等詐欺及び金融商品等取引名目の特殊詐欺(注)については、高齢者が犯行のターゲットとされている。

注:金融商品等取引名目の特殊詐欺とは、未公開株・社債等の有価証券、外国通貨等の売買勧誘等をめぐるもので、これによる被害が近年急増している(86頁参照)。
 
図II-52 特殊詐欺の被害者年齢・性別割合(平成24年)
図II-52 特殊詐欺の被害者年齢・性別割合(平成24年)
 
表II-10 特殊詐欺の手口別被害者年齢・性別割合(平成24年)
表II-10 特殊詐欺の手口別被害者年齢・性別割合(平成24年)
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(イ) 高齢者を守るための対策

警察では、特殊詐欺の被害者の多くを占める高齢者を守るために、関係機関・団体等と連携して対策を推進している。

◯ 防犯指導・注意喚起の推進

警察では、高齢者の特殊詐欺被害を防止するため、ポスター掲示等による一般的な広報啓発のほか、警察官による巡回連絡や防犯講話、民間に委託したコールセンターによる架電等による直接的な防犯指導・注意喚起を推進している。また、関係機関・団体等と連携した各種取組も実施している。

さらに、警察から高齢者の子や孫等の家族に対しても働き掛けを行い、家族から高齢者に対して、留守番電話等の活用促進や犯行手口の周知等を実施してもらう取組を推進している。

 
牛乳配達事業者による防犯チラシの配布状況
牛乳配達事業者による防犯チラシの配布状況

コラム④ 振り込め詐欺被害者の防犯意識

警察庁意識調査において振り込め詐欺の被害に遭った高齢者に対し、自分自身が被害に遭う可能性についてこれまでどのように考えていたか質問した結果、「全くない」又は「ほとんどない」と答えた者が8割以上に上った。

 
図II-53 振り込め詐欺被害者の防犯意識
図II-53 振り込め詐欺被害者の防犯意識
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◯ 金融機関等と連携した「声掛け」による被害防止

特殊詐欺の被害金の多くがATMや金融機関窓口を利用して出金又は送金されていることから、だまされている高齢者に対する金融機関職員等による声掛け(注1)は、被害防止のために極めて重要である。警察では、高齢者への声掛け用のチェックリスト(注2)を金融機関等に提供するほか、声掛け訓練を行うなどして、声掛けの実施を促進しており、その結果、特殊詐欺の阻止率は年々上昇している。平成24年における金融機関職員等の声掛け等による特殊詐欺被害の阻止金額は、約95億円であった。

注1:金融機関職員のほか、コンビニエンスストア店員や警備員、タクシー運転手等による声掛け阻止事例がある。
注2:「この振込(引出)は息子や孫から電話で頼まれた/はい・いいえ」等の質問項目に記入を求めるアンケート用紙
 
図II-54 特殊詐欺の認知件数と阻止件数の推移(平成20~24年)
図II-54 特殊詐欺の認知件数と阻止件数の推移(平成20~24年)
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コラム⑤ 「声掛け訓練」で特殊詐欺被害防止

金融機関と連携した声掛け訓練では、警察官等が詐欺に遭った被害者役となり、行員が声掛け用のチェックリストを利用するなどして被害者を説得したり、警察に通報したりするなどの一連の対応を確認している。

警察では、21年から全国一斉の声掛け訓練を4回実施しており、25年2月の実施時には、金融機関職員、防犯ボランティアら2万486人が参加し、全国1,275店舗で訓練を実施した。

 
銀行における声掛け訓練状況
銀行における声掛け訓練状況

事例①

金融機関職員は、女性(80歳代)が慌てた様子で高額の引き出しを申し込んだことから、振り込め詐欺被害の疑いを持った。同職員は、現金の引き出しに応じた上で女性宅に同行することができたため、女性の家族に事情を説明して事実関係を確認すると、孫をかたる者から株取引の損失補てんのためとして現金を求める電話を受けていたことが判明したので、家族と共に女性を説得して現金の入金を思いとどまらせた(山梨)。

イ 高齢者を狙った悪質商法

悪質商法とは、一般消費者を対象に、組織的・反復的に行われる商取引であって、その商法自体に違法又は不当な手段・方法が組み込まれたものをいうが、悪質業者は、商取引に不慣れな高齢者等を狙って詐欺的商行為を重ね、多数の被害をもたらしている状況にある。

(ア) 利殖勧誘事犯

利殖勧誘事犯(注)は、被害者に占める高齢者の割合が非常に高い。平成24年中の全国の消費生活センターに寄せられた利殖勧誘事犯の可能性のある既遂被害に関する相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合は71.5%に上り、近年増加傾向にある。

警察では、利殖勧誘事犯の被害拡大防止・被害回復を図るため、利殖勧誘事犯を重点的に取り締まるとともに、口座凍結のための金融機関への情報提供を推進しており、24年中の情報提供件数は4,955件であった。また、24年中の利殖勧誘事犯の検挙状況は表II-11のとおりであった。

注:未公開株、社債等の取引や投資勧誘等を仮装し金を集める悪質商法。具体的には、出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)、金融商品取引法、無限連鎖講の防止に関する法律等の違反に係る事犯をいう。
 
図II-55 全国の消費生活センターに寄せられた利殖勧誘事犯の可能性のある既遂被害に関する相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合の推移(平成21~24年)(注)
図II-55 全国の消費生活センターに寄せられた利殖勧誘事犯の可能性のある既遂被害に関する相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合の推移(平成21~24年)
注:全国消費生活情報ネットワーク・システム(PIO-NET)に平成25年1月15日までに登録された相談(未公開株、公社債、ファンド型投資商品、外国通貨、デリバティブ取引、二次被害に関する相談)のうち、既に金銭を支払ってしまったこと及び契約年が判明したものの件数を基に作成。
 
表II-11 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成20~24年)
表II-11 利殖勧誘事犯の検挙状況の推移(平成20~24年)
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事例②

無登録業者役員(65)らは、23年1月頃から同年6月頃にかけて、「グリーンシート銘柄で有望株。近々上場する予定なので、買えば必ずもうかる」などと告げて、33都道府県の156人から約9億6,600万円をだまし取るなどした。24年11月までに、21人を金融商品取引法違反(無登録営業等)、詐欺罪、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」という。)違反(組織的詐欺)等で検挙した(大阪)。

(イ) 特定商取引等事犯

特定商取引等事犯(注)についても、被害者に占める高齢者の割合が非常に高い。平成24年中に全国の消費生活センターに寄せられた特定商取引等事犯の可能性のある既遂被害に関する相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合は77.9%に上り、近年増加傾向にある。

24年中の特定商取引等事犯の検挙状況は表II-12のとおりであった。

注:訪問販売、電話勧誘販売等で不実を告知するなどして商品の販売や役務の提供を行う悪質商法。具体的には、訪問販売等の特定商取引を規制する特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)違反及び特定商取引に関連する詐欺、恐喝等に係る事犯をいう。
 
図II-56 全国の消費生活センターに寄せられた特定商取引等事犯の可能性のある既遂被害に関する相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合の推移(平成21~24年)(注)
図II-56 全国の消費生活センターに寄せられた特定商取引等事犯の可能性のある既遂被害に関する相談のうち、契約当事者が高齢者であったものの割合の推移(平成21~24年)
注:PIO-NETに25年1月15日までに登録された相談(住宅リフォーム工事訪問販売、布団類の訪問販売、消火器の訪問販売に関する相談)のうち、既に金銭を支払ってしまったこと及び契約年が判明したものの件数を基に作成。
 
表II-12 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成20~24年)
表II-12 特定商取引等事犯の検挙状況の推移(平成20~24年)
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事例③

訪問販売業者(30)らは、19年6月頃から24年1月頃にかけて、過去の顧客名簿を基に、活水器の点検と称して高齢者方等を訪問し、「活水器の磁力が弱くなっている。新しい活水器を付けないと水道管にたまったさびが逆流する。」などと虚偽の内容を告げて、活水器購入名目で、5府県の620人から約1億4,200万円をだまし取るなどした。同年5月、3人を特定商取引法違反(不実の告知)及び詐欺罪で逮捕した(愛知)。

コラム⑥ 悪質商法等に悪用されるサービスの犯罪利用防止対策

悪質商法等を敢行する者は、被害金の振込先として銀行口座を悪用するほか、被害者等を信用させるためにバーチャルオフィス(注1)を悪用するなどの状況が認められる。

バーチャルオフィス事業者等に対する調査(注2)によると、警察安全相談等で認知した利殖勧誘事犯を行っている業者のうち、バーチャルオフィスを本店所在場所として商業登記していたものは約6割であり、うち当該バーチャルオフィスを本店所在場所として銀行等で口座開設していることが確認できたものが約9割であった。また、これら業者に利用されているバーチャルオフィス事業者の店舗の約7割は都内中心部に所在しており、法人契約を締結していたバーチャルオフィス事業者のうち、約4割が法人自体の本人確認を行っていなかった。

このような現状に鑑み、警察では、口座凍結のための迅速かつ積極的な金融機関への情報提供、金融機関に対する凍結口座名義法人情報の提供等を行うとともに、事業者に対する解約要請、悪質な事業者の検挙、犯行助長サービスの悪用実態の継続的な把握・分析等の犯罪利用防止対策を推進している。

注1:自己の所在地を顧客が本店所在地として登記することなどを許諾するいわゆる貸し住所サービス、犯罪による収益の移転防止に関する法律第2条第2項第41号に規定する自己の居所若しくは事務所の所在地を顧客が郵便物を受け取る場所として使用させることを許諾するいわゆる郵便物受取サービス等専用スペースを持たずに対外的な事務所機能を持つことができるサービスやレンタルオフィスに関するサービスを提供するものをいう。
注2:警察庁では、いわゆる郵便物受取サービス等を提供するバーチャルオフィス等の悪用実態を把握するため、平成24年中に、警察安全相談等で認知した利殖勧誘事犯を行っている業者と所在地又は電話番号が同一のバーチャルオフィス事業者等に対し、利用契約実態に関する調査を実施した。

コラム⑦ 「訪問購入」の規制

昨今の貴金属価格の高騰に伴い、不意に自宅等を訪問した事業者によって強引に貴金属等を買い取られる被害が急増したことを踏まえ、特定商取引法が改正され、不当な勧誘行為の規制、書面交付義務、クーリング・オフ等「訪問購入」に係る規制が新たに整備された(平成25年2月施行)。

ウ 高齢者を狙ったひったくり等

窃盗犯について高齢者の被害割合は増加傾向にあり、手口別にみると、24年中は、ひったくりが約30%、すりが約15%となっている(46頁参照)。

24年中のひったくりの時間帯別被害割合をみると、全年齢では、日没後となる20時から24時までの時間帯における被害割合が最も高くなっている。一方、高齢者では、16時から20時までにおける被害割合が最も高くなっているほか、昼間(8時から16時)における被害割合も高い。

警察庁意識調査からは、高齢者は一般的に、ひったくり・すりに対する高い防犯意識を有していることがうかがわれるが、被害実態や高齢社会の進展等を踏まえ、一層の注意喚起等が必要であるとの考えの下、警察では、高齢者を対象とした、ひったくりの被害防止のための防犯教室や街頭における広報啓発活動を継続して実施している。

 
図II-57 ひったくりの時間帯別被害割合(全体)
図II-57 ひったくりの時間帯別被害割合(全体)
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図II-58 ひったくりの時間帯別被害割合(高齢者)
図II-58 ひったくりの時間帯別被害割合(高齢者)
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図II-59 高齢者の防犯意識
図II-59 高齢者の防犯意識
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② 高齢者に対する暴力的事案の現状と対策

粗暴犯の高齢者の被害割合や高齢者虐待の件数は増加傾向にあり、心身の機能が低下し、抵抗が困難になった高齢者を保護するための対策が求められている。

ア 高齢者を被害者とする殺人・暴行・傷害

殺人・暴行・傷害における高齢者の被害件数は、殺人では横ばい、暴行・傷害では増加傾向となっており、全体の認知件数に占める高齢者の被害割合は増加している(46頁参照)。

24年中の暴行・傷害の認知件数を犯行場所別にみると、住宅における発生割合は、暴行が20.0%、傷害が24.9%であった。一方、これを高齢者が被害者となったものに限ると、住宅における発生割合は、暴行が38.8%、傷害が40.3%となっており、身近な生活空間である住宅において高齢者の被害が顕著となっている。

注:発生場所が「一戸建住宅」「中高層(4階建以上)住宅」「その他の住宅」のもので、その敷地内を含む。
イ 高齢者虐待

(ア) 現状

厚生労働省の調査(注1)によると、平成23年度に市町村及び都道府県で受け付けた高齢者虐待に関する相談・通報件数は、養介護施設従事者等(注2)によるものが687件(うち虐待と判断された件数は151件)、養護者(注3)によるものが2万5,636件(同1万6,599件)となっている。養護者による虐待の種別(複数回答)は、身体的虐待が64.5%で最も多く、次いで心理的虐待(37.4%)、経済的虐待(25.0%)、介護等放棄(24.8%)となっている。

注1:「平成23年度高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」をいう。
注2:介護老人福祉施設など養介護施設又は居住サービス事業等養介護事業の業務に従事する者
注3:高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等
 
図II-60 養護者による高齢者虐待の相談・通報件数等(平成18~23年度)
図II-60 養護者による高齢者虐待の相談・通報件数等(平成18~23年度)
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図II-61 養護者による高齢者虐待の種別・類型(平成23年度)
図II-61 養護者による高齢者虐待の種別・類型(平成23年度)
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(イ) 対策

警察では、相談等の各種警察活動に際し、高齢者虐待事案を認知した場合には、速やかに市町村へ通報することはもとより、事案に応じて加害者に指導・警告したり、事件化を図るなど高齢者虐待事案への適切な対応を図っている。

事例④

高齢者の女性(75)から「同居する長女(48)から暴力を振るわれけがをした。自宅を飛び出して車上生活をしている。長女を処罰してもらいたい」旨の届出を受けた。女性に事情聴取した結果、同居する長女が女性に殴る蹴るなどの暴力を振るい、右手の小指を骨折するけがを負わせたことが判明したことから、市に対し高齢者虐待事案として通報するとともに、所要の捜査を行い、長女を傷害罪で検挙した(長野)。



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