第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

4 構造的な不正事案

(1)政治・行政をめぐる不正事案

 国や地方公共団体の幹部や職員等による贈収賄事件、競売入札妨害事件、買収等の公職選挙法違反事件等の政治・行政をめぐる不正が相次いで表面化している。
 警察では、不正の実態に応じて様々な刑罰法令を適用するなどして、事案の解明を進めている。
 第17回統一地方選挙(平成23年4月10日及び同月24日施行)における選挙期日後90日現在(23年7月9日及び同月23日現在)の公職選挙法違反の検挙件数は554件、検挙人員は1,080人(うち逮捕者157人)と、前回の第16回統一地方選挙期日後90日の時点に比べ、検挙件数は472件(46.0%)、検挙人員は354人(24.7%)減少した。
 
図2-23 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成14~23年)
図2-23 政治・行政をめぐる不正事案の検挙事件数の推移(平成14~23年)
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事例①
 元稲沢市議会議長(65)は、20年3月頃及び同年6月頃の2回にわたり、不動産仲介業者及び行政書士から、請託を受けて要件を満たさない土地開発行為を許可するよう同市建設部長らに対して働き掛けたことの報酬として、現金合計100万円を収受した。23年4月、同元市議会議長をあっせん収賄罪で逮捕した(愛知)。

事例②
 大石田町長(75)は、19年8月頃、土木建設会社代表取締役から、請託を受けて同町発注の指名競争入札の指名業者から特定業者を除外し、同土木建設会社による落札を容易にしたことの報酬として、現金100万円を収受した。23年9月、同町長を受託収賄罪で逮捕した(山形)。

事例③
 県議会議員選挙の候補者で当選した者(65)らは、同人のための投票及び選挙運動の報酬として、23年2月上旬頃、選挙人十数名に対し供応接待するとともに、同年1月下旬頃から同年3月中旬頃にかけて、選挙人数名に現金合計約200万円を供与した。同年5月までに同候補者ら3人を公職選挙法違反(買収)で逮捕した(福井)。

(2)経済をめぐる不正事案

 最近の悪化した経済状況を背景として、金融機関からの各種融資をめぐる詐欺事犯、証券市場を舞台とした証券の発行や取引に関連した事犯のほか、役職員らによる不正等企業の内部統制の不備に起因する事犯が後を絶たない状況にある。また、生活保護費や年金等の社会保障制度を悪用した事犯や国の補助金等の不正受給事犯も相次いで発生している。
 警察では、これら金融・不良債権関連事犯、証券取引事犯、企業の経営等に係る違法事犯、その他国民の経済活動の健全性又は信頼性に重大な影響を及ぼすおそれのある犯罪の取締りを推進している。
 また、このような犯罪の捜査では、対象となる企業等の財務実態の解明が不可欠であるとともに、年々、犯行手口が巧妙化していることから、都道府県警察において、公認会計士や税理士等の専門的な知識を有する者を財務捜査官として採用し、その高度な技能を活用して事案の早期解明を図っている。
 
図2-24 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成14~23年)
図2-24 金融・不良債権関連事犯の検挙事件数の推移(平成14~23年)
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事例①
 稲川会傘下組織幹部の男(41)らは、住宅ローン融資の名目で金融機関から現金をだまし取ろうと企て、21年7月頃から22年9月頃にかけて、収入や借入金等について虚偽の内容を記載した住宅ローンの借入申込書を提出するなどして金融機関に融資を承認させ、総額約1億2,300万円をだまし取った。23年9月までに、12人を詐欺罪で逮捕した(山形)。

事例②
 ゲームソフト販売会社の代表取締役(40)は、第三者割当増資を行って債務超過を解消するとともに同社の株価をつり上げることを企て、22年2月頃、不動産の現物出資による第三者割当増資の公表に際して、不動産鑑定士に虚偽の内容の鑑定評価書を作成させるなどして当該不動産の価値を過大評価し、募集株式の払込金額に相当する価値のある不動産が現物出資として給付される旨の虚偽事実を公表した。23年7月、7人を金融商品取引法違反(偽計)で逮捕した(大阪)。

事例③
 投資会社の幹部(38)らは、高齢者等を対象に、商品の市場価格を指標として顧客と相対取引を行う差金決済取引に係る預託証拠金名目で金銭をだまし取ろうと企て、20年7月頃から21年7月頃にかけて、顧客110名に対し、同社への投資が安全かつ高利率の資産運用であるかのように虚偽の内容を伝え、現金合計約4億5,600万円及び小切手2通(額面合計300万円)をだまし取った。23年1月、8人を詐欺罪で逮捕した(大阪)。

 第1節 犯罪情勢とその対策

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