第2章 組織犯罪対策の推進

第2節 薬物銃器対策

1 薬物情勢

平成22年中の薬物事犯の検挙人員は1万4,529人と、前年より418人(2.8%)減少したが、覚醒剤事犯の検挙人員が増加している。また、覚醒剤の密輸入事件の検挙件数は前年より減少したが、平成に入ってからは21年、元年に次ぐ高水準であるなど我が国の薬物情勢は、依然として厳しい状況にある。

図2―4 薬物事犯の検挙人員(平成22年)

(1)各種薬物事犯の情勢

<1> 覚醒剤事犯

平成22年中の覚醒剤事犯の検挙人員(注1)は、前年より増加し、全薬物事犯の検挙人員の82.5%を占めている。また、粉末押収量及び錠剤押収量は、前年より減少した。

〈22年中の覚醒剤事犯の特徴〉

・検挙人員の59.3%が再犯者

・検挙人員の52.7%が暴力団構成員等

・所持・使用事犯の検挙人員が増加

図2―5 覚醒剤事犯の検挙状況の推移(平成13~22年)

注1:国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律(以下「麻薬特例法」という。)違反の検挙人員のうち、覚醒剤事犯に係るものを含む。

<2> その他の薬物事犯

最近5年間の大麻事犯、MDMA(注2)等合成麻薬事犯等の各種薬物事犯の検挙人員及び押収量は、表2―5のとおりである。

表2―5 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成18~22年)

注2:化学名「3,4―メチレンジオキシメタンフェタミン(3,4―Methylenedioxymethamphetamine)」の略名。本来は白色粉末であるが、様々な着色がなされ、文字や絵柄の刻印が入った錠剤の形で密売されることが多い。

(2)薬物犯罪組織の動向

<1> 薬物事犯への暴力団の関与

平成22年中の暴力団構成員等による覚醒剤事犯の検挙人員は6,322人と、前年より121人(2.0%)増加し、覚醒剤事犯の全検挙人員の52.7%を占めていることから、依然として覚醒剤事犯に暴力団が深く関与していることがうかがわれる。また、大麻事犯については、暴力団構成員等の検挙人員は691人と、前年より179人(20.6%)減少しているものの、全検挙人員の31.2%を占めており、暴力団構成員等が薬物事犯に幅広く関与していることがうかがわれる。

図2―6 暴力団構成員等による覚醒剤事犯の検挙人員の推移(平成13~22年)

<2> 来日外国人による薬物事犯

22年中の来日外国人による薬物事犯の検挙人員は538人と、前年より39人(6.8%)減少した。このうち、覚醒剤事犯の検挙人員が全薬物事犯の71.2%を占めている。国籍・地域別でみると、イラン、フィリピン及びブラジルの比率が高く、3か国で全体の38.7%を占めている。イラン人の覚醒剤事犯の検挙人員は50人と前年より35人減少したが、このうち営利犯(注)は70.0%を占め、他の国籍・地域の者と比べると著しく高率であり、依然としてイラン人が覚醒剤の密売に深く関わっている状況がうかがわれる。また、最近では、イラン人だけではなく、多国籍化した犯罪組織が密売を敢行する事案もみられる。

注:営利目的所持、営利目的譲渡及び営利目的譲受け

事例

イラン人の男(25)ら密売グループは、住宅街の路上等において、覚醒剤や大麻を組織的に密売していた。密売グループから覚醒剤等を購入した日本人31人を覚せい剤取締法違反(所持)で逮捕するとともに、22年2月までに、同人ら密売グループ10人を覚せい剤取締法違反(営利目的譲渡)、大麻取締法違反(営利目的譲渡)等で逮捕(同人については、同年3月、より罰則の重い麻薬特例法違反(業として行う譲渡)に訴因変更)した(警視庁)。

(3)薬物密輸入事犯の現状

平成22年中の薬物密輸入事件の検挙件数は188件と、前年より72件(27.7%)減少した。22年中の覚醒剤密輸入事件についてみると、検挙件数は132件、検挙人員は158人と、前年よりも減少したものの、過去10年間で最高となった前年に次ぐ検挙数である。

この背景には、我が国での根強い薬物需要と、暴力団や来日外国人犯罪組織と国際的な薬物犯罪組織等とのグローバルなネットワークの構築があると推認される。

表2―6 覚醒剤密輸入事件の検挙状況の推移(平成13~22年)

<1> 密輸入事犯の手口

従来の船舶や国際郵便・国際宅配便を利用した密輸入のほか、最近では、薬物犯罪組織が募ったいわゆる運び屋が航空機の手荷物内に隠匿したり、身体に巻き付けたりするなどして密輸入を行う携帯密輸事犯が増加している。薬物犯罪組織は組織と比較的つながりの薄い者を運び屋に仕立て、これまで密輸事犯の検挙がなかった国内の地方空港等を利用して密輸を敢行するなど、手口を巧妙化し、密輸ルートを多様化させている。

事例

シンガポール人の女(53)は、22年2月、カンボジアから韓国を経由して福岡空港に到着した際の税関検査において、リュックサックの背当て部分に覚醒剤約2.2キログラムを隠匿していたことが発見された。同日、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)で逮捕した。女は、「密輸はカンボジアで知人の外国人に頼まれた。報酬を得る目的だった」と供述した(福岡)。

<2> 仕出国の多様化

国際航空網の発達等から覚醒剤の仕出国は、過去10年で中国等のアジア諸国から米州、中東、アフリカといった世界各地に拡大している。

図2―7 航空機利用の覚醒剤密輸入事件の仕出国


第2節 薬物銃器対策

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