第1章 生活安全の確保と犯罪捜査活動

2 科学技術の活用

(1)DNA 型鑑定

DNA 型鑑定とは、DNA(デオキシリボ核酸)の個人ごとに異なる部分を比較することで個人を識別する鑑定法である(注1)。現在、警察で行っているDNA 型鑑定は、主にSTR 型検査法(注2)と呼ばれるもので、日本人で最も出現頻度が高いDNA 型の組合せの場合で、約4兆7千億人に1人という確率で個人識別を行うことが可能となっている。

DNA 型鑑定を実施する事件数は年々増加し、殺人事件等の凶悪事件だけでなく、窃盗事件等の身近な犯罪の解決にも多大な効果を上げている。また、被疑者DNA 型記録(注3)と遺留DNA 型記録(注4)をデータベースに登録し、犯人の割り出しや余罪の確認等に活用している。

図1―28 DNA 型鑑定を実施した事件数の推移(平成18~22年)

注1:警察で行うDNA 型鑑定に使用されるのは、DNA のうち身体的特徴や病気に関する情報が含まれていない部分であり、また、鑑定結果であるDNA 型情報からも身体的特徴や病気が判明することはない。

注2:STR と呼ばれる4塩基(A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)及びC(シトシン))を基本単位とする繰り返し配列について、その繰り返し回数に個人差があることを利用し、個人を識別する検査方法

注3:被疑者の身体から採取した資料のDNA 型の記録

注4:被疑者が犯罪現場等に遺留したと認められる資料のDNA 型の記録

事例

平成22年3月、建造物侵入及び窃盗未遂罪で逮捕した無職の男(27)について、捜査の過程でその同意を得て採取した口腔内細胞のDNA 型鑑定結果をデータベースに登録し、対照したところ、20年10月から21年10月にかけて発生した強盗強姦未遂事件等5件の遺留DNA 型記録と一致した。その後、所要の捜査を遂げ、22年8月までに、同5件について強盗強姦未遂罪等で検挙(うち4件逮捕)した(奈良)。

(2)指掌紋自動識別システム

指紋及び掌紋(以下「指掌紋」という。)は、「万人不同」及び「終生不変」の特性を有し、個人を識別するための資料として極めて有用であることから、犯罪捜査で重要な役割を果たしている。警察では、被疑者から採取した指掌紋と犯人が犯罪現場等に遺留したと認められる指掌紋をデータベースに登録して自動照合を行う指掌紋自動識別システムを運用し、犯人の割り出しや余罪の確認等に活用している。

なお、日本の警察における指紋制度は、平成23年4月1日で創設100周年(注5)を迎えた。

注5:明治44年4月1日、警視庁刑事課に日本の警察で初めて指紋に関する事務を取り扱う鑑識係が新設された。

(3)三次元顔画像識別システム

三次元顔画像識別システムとは、防犯カメラ等で撮影された人物の顔画像と、別に取得した被疑者の三次元顔画像とを照合し、個人を識別するものである。

一般に、防犯カメラで被疑者の顔が撮影される角度は様々であるため、被疑者写真等と比較するだけでは個人の識別が困難な場合が多いが、このシステムでは、被疑者の三次元顔画像を防犯カメラの画像と同じ角度及び大きさに調整し、両画像を重ね合わせることにより、個人識別を行うことが可能であり、防犯カメラの普及とあいまって被疑者の犯行を裏付ける有効な捜査手法となっている。

図1―29 三次元顔画像識別システムによる顔画像照合

(4)自動車ナンバー自動読取システム

自動車盗や自動車を利用した犯罪を検挙するためには、通過する自動車の検問を実施することが有効である。しかし、事件を認知してから検問を開始するまでに時間を要するほか、徹底した検問を行えば交通渋滞を引き起こすおそれがあるなどの問題がある。このため、警察庁では、昭和61年度から、通過する自動車のナンバーを自動的に読み取り、手配車両のナンバーと照合する自動車ナンバー自動読取システムの整備を進めている。

(5)プロファイリング

プロファイリングとは、犯行現場の状況、犯行の手段、被害者等に関する情報や資料を、統計データや心理学的手法等を用いて分析・評価することにより、犯行の連続性の推定、犯人の年齢層、生活様式、職業、前歴、居住地等の推定や次回の犯行の予測を行うものである。

従来、事件捜査では、犯人特定のために、犯行現場の状況や犯人の遺留品、さらには聞込み捜査等で得られた様々な情報等をつなぎ合わせるとともに、捜査員の経験則に基づく職人的な「勘」をも駆使して犯人を推定・浮上させ、特定してきたものであるが、より効率的で合理的な捜査を推進するため、科学的見地に基づくプロファイリングでの推定結果を併せ見て、犯人を推定・浮上させる捜査手法を活用している。また、プロファイリング技術の高度・専門化(注1)及び一般化(注2)に取り組んでいるところである。

図1―30 プロファイリング実施件数の推移(平成18~22年)

注1:専従者の育成及び体制の整備

注2:捜査員に対する指導の徹底及び有効活用の促進

(6)情報分析支援システム

「人からの捜査」、「物からの捜査」が困難となる中、被疑者の迅速な検挙のためには、捜査現場の体制・執行力の更なる強化に加え、犯罪関連情報の総合的な分析を推進することにより、捜査の方向性や捜査項目の優先順位の判断を支援することが重要である。

このため、警察庁では、複数のシステムで行っていた業務を1台の端末装置によって行い、犯罪手口、犯罪統計等の犯罪関連情報を、地図上に表示するなど他の様々な情報と組み合わせ、犯罪の発生場所、時間帯、被疑者の特徴等を総合的に分析することを可能とする情報分析支援システム(CIS-CATS)を平成21年1月から運用し、事件解決に役立てている。

図1―31 情報分析支援システム


第2節 犯罪の検挙と抑止のための基盤整備

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