特集I:東日本大震災と警察活動

4 被災地における安全・安心の確保

(1)緊急通報への対応

岩手県警察、宮城県警察及び福島県警察における地震発生日の110番受理件数はそれぞれ403件、1,096件及び443件、その翌日の110番受理件数は478件、1,893件及び415件であり、平成22年中の1日当たりの110番受理件数(110件、329件及び244件)を大きく超える数の110番通報がなされた。このため、各県警察では、受理・指令体制を強化し、救助要請、安否確認、被災状況の問い合わせ等の緊急通報に対応した。

表―2 110番受理状況(平成23年3月11日~16日)

(2)震災に便乗した各種犯罪への対策

<1> 地域警察特別派遣部隊による警戒・警ら活動

被災地における違法行為の発生を抑止するとともに、地域の安全・安心を確保するため、40の都道府県警察では、「地域警察特別派遣部隊」を編成して、地域警察官とパトカー(1日当たり最大449人、210台)を岩手県警察、宮城県警察及び福島県警察に派遣し、警戒・警ら活動を推進した。

<2> 特別機動捜査派遣部隊による犯罪の取締り

犯罪発生時における初動捜査等を的確に行い、被災地における犯罪の取締機能を回復・維持するため、11の都道府県警察では、「特別機動捜査派遣部隊」を編成して、警察官と捜査用車両(1日当たり最大76人、19台)を岩手県警察、宮城県警察及び福島県警察に派遣した。

地域警察特別派遣部隊による活動状況

地域警察特別派遣部隊による活動状況

特別機動捜査派遣部隊の出動状況

特別機動捜査派遣部隊の出動状況

<3> 閉鎖施設等に対する防犯対策の強化

震災により閉鎖した金融機関、コンビニエンスストア等のATM や金庫から現金等を窃取する事件が発生したことから、警察庁から金融機関等に対して、管理強化や現金の早期回収等により、これらの閉鎖施設等に対する防犯対策を強化するよう要請した。

<4> 震災に便乗した悪質商法、義援金名目の詐欺等への対策

震災や原子力発電所の事故に便乗した悪質商法、義援金名目の詐欺事件等の発生を受け、関連情報の収集や関係機関・団体との情報共有を行った上、取締りの徹底を図るとともに、政府広報や警察庁ウェブサイトを利用した広報啓発活動、犯罪利用口座凍結のための金融機関への情報提供等を推進した。

政府広報による注意喚起

政府広報による注意喚起

<5> 復旧・復興事業からの暴力団排除の取組

復旧・復興事業への暴力団等の介入を阻止するため、建設業、廃棄物処理事業等の各業界団体に、契約書等への暴力団排除条項の導入の徹底を要請するなど、関係機関・団体との連携を強化している。

事例〔1〕

自営業の男(50)らは、医薬品の販売許可がないにもかかわらず、「体内に侵入した放射性物質を吸着し、排泄(せつ)します」などと放射性物質の体外排泄効果をうたって医薬品を販売するなどした。平成23年4月、2人を薬事法違反(医薬品の無許可販売等)で逮捕した(警視庁)。

事例〔2〕

無職の男(39)は、被災者を装い、インターネット上の掲示板に「被災地に遊びに行っていて被災した。交通費を支援してほしい」などと書き込み、これを見て連絡した被害者に対し、現金12万円を預金口座に振り込ませた。23年4月、同人を詐欺罪で逮捕した(長野)。

(3)流言飛語の実態と対策

被災地を始めとする全国各地においては、「被災地では、ナイフで武装した外国人窃盗グループが荒らしまわっている」などといった被災者の不安心理をあおり立てるような流言飛語が、口伝えや電子メール、インターネット上の掲示板への書き込み等により流布した。

警察では、国民がこうした流言飛語に惑わされないよう、チラシの配布等により、広く注意喚起を行った。特に、インターネット上の流言飛語については、インターネット利用者に対する注意喚起を行うとともに、これらのうち、法令や公序良俗に反し、著しく国民の不安感を高める悪質な情報については、サイト管理者等に対して、利用規約等に照らして自主的に適切な対応をとるよう依頼した。

チラシの配布による注意喚起

チラシの配布による注意喚起

(4)被災者への支援

<1> 避難所の訪問を通じた相談対応の強化

避難所での生活が長期間にわたることから生じる様々な問題を解消し、被災者の安全・安心を確保するため、女性警察官等が避難所を訪問して、被災者からの相談に対応するなどの被災者支援活動を行った。また、こうした活動を実施するに当たり、皇宮警察及び16の都道府県警察から女性警察官等(1日当たり最大115人)が、岩手県警察、宮城県警察及び福島県警察に派遣された。

女性警察官による活動状況(写真1)

女性警察官による活動状況(写真1)

女性警察官による活動状況(写真2)

女性警察官による活動状況(写真2)

事例

避難所を訪問した女性警察官は、被災者に寄り添い、パトロール要望等の警察関係の相談のみならず、「家も家族も畑も何もかも全て失った。生きる希望が持てない」、「今後、生活していくお金がない」など、過酷な状況に置かれた被災者からの切実な相談にも親身に耳を傾け、各種支援制度を紹介するなどして、その不安感を解消することに努めた。

被災者からは、「話を聞いてもらえるだけでありがたい。生きる希望が持てた」、「警察官の姿が見えると安心する」、「また来てほしい」などの声が寄せられた。

<2> 移動交番の設置による被災者への対応

被災地の一部の警察署では、管内の全避難所を巡回する「移動交番」を開設し、遺失届や被害届の受理のほか、チラシの配布等による防犯に資する情報の提供や被災者からの各種要望・相談への対応等の活動を行った。

移動交番における相談の受理状況(写真1)

移動交番における相談の受理状況(写真1)

移動交番における相談の受理状況(写真2)

移動交番における相談の受理状況(写真2)

<3> 自主的な防犯活動への支援

被災地においては、防犯パトロール等の自主的な防犯活動が実施された。警察では、被災者と合同パトロールを実施したり、自主的な防犯活動を行ったりする団体や個人に対して、活動用ジャンパー、腕章、懐中電灯等が十分に行き渡るようにするなどして、こうした団体の結成や活動を支援した。

自主的な防犯活動の実施状況

自主的な防犯活動の実施状況

<4> 預貯金口座開設時等における本人確認方法の特例

震災により運転免許証等の本人確認書類を亡失し、これを用意することが困難な被災者が預貯金口座を開設する場合等における本人確認について、関係省庁と連携の上、暫定的な措置として、申告を受ける方法で足りることとする特例措置を講じた。

<5> 警備業者との連携

(社)全国警備業協会や各都道府県の警備業協会の呼び掛けに応じた全国の警備業者が、警察との連携の下、防犯パトロール等の防犯活動を実施した。

(5)行方不明に係る相談への対応

<1> 行方不明者相談ダイヤルの開設等

岩手県警察、宮城県警察及び福島県警察は、全国から寄せられる被災者の親族等からの行方不明に係る相談に対応するため、「行方不明者相談ダイヤル」(以下「相談ダイヤル」という。)を開設し、相談ダイヤルの電話番号をウェブサイト、新聞等に掲載し、周知するとともに、相談ダイヤルに寄せられた行方不明者の情報と避難所に避難している方の情報とを照合するなどして、安否確認を推進した。

行方不明者相談ダイヤルの受理状況(写真1)

行方不明者相談ダイヤルの受理状況(写真1)

行方不明者相談ダイヤルの受理状況(写真2)

行方不明者相談ダイヤルの受理状況(写真2)

<2> 外国人に係る相談への対応

在日大使館等から寄せられた外国人の行方不明に係る相談については、外務省がその情報を集約した上で、警察庁を通じて関係都道府県警察に提供するなど、外務省と警察が連携を図りつつ、対応した。


第2節 主な警察の活動

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