4 対日有害活動の動向と対策
(1)北朝鮮による対日諸工作
北朝鮮は、「過去の清算」を最優先させた早期の国交正常化の実現等を求めて、各種対日諸工作を展開している。
図4-10 北朝鮮による対日諸工作
〔1〕 万景峰92号等の入港禁止措置等に対する非難
北朝鮮は、2006年(平成18年)7月、弾道ミサイルを発射し、同年10月には地下核実験の実施を発表したことから、我が国は、万景峰92号等の入港禁止措置等をとった。これに対し、北朝鮮は、「言語道断だ」とした上で、「日本は過去の清算を行っておらず、(日本の措置に対する北朝鮮の対応は)他の国が我が国に対して行う制裁への対応よりも厳しさを増す」と我が国を激しく恫喝した。
〔2〕 北朝鮮による拉致容疑事案に係る我が国の対応に対する非難
拉致容疑事案について、我が国は、国際会議等において関係各国に拉致問題に対する理解を求めるなど、解決に向けて取り組んだ。しかし、北朝鮮は、既に「解決済み」との姿勢を変化させることなく、「(拉致問題を)国際問題化しようとしている」などと、我が国の姿勢を激しく非難している。
捜索に対して抗議する関係者
〔3〕 朝鮮総聯関係施設等への捜索等に対する非難
北朝鮮は、18年11月に警視庁が行った捜索等を始めとする朝鮮総聯(注)関連施設等に対する一連の捜索等について、その目的が「総聯を違法行為を行う団体であるかのようにそのイメージを曇らせることにより、結局は総聯を抹殺しようとするところにある」などとして、激しい非難を繰り返している。
〔4〕 祝宴等への招待を通じた各界関係者への働き掛け
朝鮮総聯は、我が国の各界関係者を北朝鮮の各種記念日の祝宴等に招待し、その中で、「日本当局が総聯と在日同胞を規制・抑圧する一連の措置を即時解除し、過去の清算と国交正常化に誠実に臨むこと、日本の各界人士がこれからも民族教育を始めとする総聯の活動に変わりない支持と協力を寄せてくれることを確信する」(徐萬述議長)などと述べ、出席した我が国の関係者に対して北朝鮮及び朝鮮総聯に対する理解を求めた。
警察は、こうした諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、関連して行われる違法行為に対しては、厳正な取締りを行うこととしている。
事 例
朝鮮総聯傘下団体である在日本朝鮮兵庫県商工会幹部(44)は、同商工会の元職員(36)と共謀の上、16年2月ころから同年8月ころにかけて、税理士ではなく、法律に別段の定めがある場合ではないのに、同商工会会員の求めに応じ、税務書類を作成して税理士業務を行った。また、この幹部は、17年1月ころから18年12月ころにかけても、同様の税理士業務を行った。18年12月にこの元職員を、また、19年1月にこの幹部をそれぞれ税理士法違反(税理士業務の制限)で逮捕した(兵庫)。
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(2)中国による対日諸工作
中国は、東シナ海における資源開発や軍事力の強化を進めるとともに、我が国からの先端科学技術移転を図るなどして、各種対日諸工作を展開している。
〔1〕 東シナ海における資源開発等
東シナ海における日中中間線付近の資源開発については、日中両国ともそれぞれ共同開発を提案しているが、その実現は厳しい情勢である。このような中、中国は中間線付近の一方的な資源開発を行っており、2007年(平成19年)2月には、中国の海洋調査船が事前通報なしに尖閣諸島近くの日本の排他的経済水域(EEZ)に侵入していたことが確認されている。我が国は、中国に抗議を行っているが、中国は一方的な資源開発を続けている。
中国の海洋調査船(提供:海上保安庁)
〔2〕 軍事力の強化等
中国の軍事予算は、19年連続で前年比10%以上の増加率を示しており、実際の軍事費は公表額の2倍から3倍に達しているとの指摘もなされている。また中国の宇宙開発は軍主導で進められており、2005年(17年)に打ち上げに成功した有人宇宙船「神舟6号」は、高精度カメラで自衛隊や在日米軍等の偵察を行っていたとの指摘もある。2007年(19年)1月には、弾道ミサイルを使った人工衛星の破壊実験に成功した。
〔3〕 我が国からの先端科学技術移転
中国は、更に高水準の科学立国を目指し、我が国からの先端科学技術移転を図るため、多数の学者、留学生、代表団等を派遣し、多面的かつ活発な情報収集活動を行っているものとみられている。
警察では、平素から中国による対日有害活動の実態を明らかにするための情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対しては、厳正な取締りを行うこととしている。
(3)ロシアによる対日諸工作
ロシアは、石油、天然ガス産業等の国内基幹産業に対する国家の関与を強め、数年来の好調な経済成長を堅持し、対外的にも周辺国家への影響力を回復しつつある。プーチン大統領は、2006年(平成18年)5月の教書演説で、ロシア経済の発展のためには先端科学技術の取得が不可欠である旨指摘するとともに、2007年度の国家予算において治安機関等の予算として、前年より多い約3兆円(歳出の12.2%)を計上している。
また、我が国では、在日ロシア通商代表部員等による諜報事件の検挙が続いており、ロシアによる違法行為が、冷戦終結後も一向に止まる気配がないことを示している。ロシアは、今後とも先端科学技術取得の手段の一つとして、ロシア情報機関員による各種情報収集活動を更に活発に展開させていく可能性がある。
警察では、こうした諸工作に関する情報収集・分析に努めるとともに、違法行為に対しては、厳正な取締りを行うこととしている。
事 例
ロシア情報機関員と認められるロシア通商代表部員(35)と日本人の元会社員(47)は、17年2月ころ、共謀して、元会社員が以前勤務していた会社から、同社が所有し、管理する可変光減衰器(VOA)素子(注)1個(評価額約10万円)を窃取した。18年8月、この両名を窃盗罪で検挙した(警視庁)。
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(4)大量破壊兵器関連物資等の不正輸出
〔1〕 大量破壊兵器関連物資等の拡散についての国際社会の関心
2006年(平成18年)2月、第3回アジア不拡散協議(ASTOP-III)(注1)が東京で開催され、国際社会の重大関心事項として、北朝鮮による大量破壊兵器等の拡散及びイランの核開発問題が取り上げられた。
同年7月、ロシアで開催されたサンクトペテルブルク・サミットに際し、ブッシュ米国大統領とプーチン・ロシア大統領は、同地で会談し、テロリストによる核物質の取得の防止等を内容とする「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ」を発表した。また、両首脳は、会談後に発表した共同声明の中で、北朝鮮による7月5日の弾道ミサイル発射に関し「深刻な懸念」を表明し、北朝鮮に対し、弾道ミサイル発射の凍結と六者会合への復帰を求めた。
〔2〕 不正輸出防止対策
大量破壊兵器の拡散が国際安全保障上の重大関心事項となっていることを踏まえ、警察は、拡散に対する安全保障構想(PSI)(注2)等、国際的な取組みにも積極的に参加している。また、日本からの大量破壊兵器関連物資等の不正輸出の取締りを強化しており、18年中には、2件の不正輸出事件を検挙したほか、19年2月にも、静岡県内の自動二輪車等製造販売会社の事業部長ら3人を外国為替及び外国貿易法(以下「外為法」という。)違反(無許可輸出)で逮捕した。
事例1
東京都内の商社の元代表取締役(58)は、14年9月、核兵器等の開発等のために用いられるおそれがあるものとして輸出許可が必要な凍結乾燥機(注3)1台を、経済産業大臣の許可なく台湾経由で北朝鮮向けに輸出した。18年8月、外為法違反(無許可輸出)で逮捕した(山口、島根)。
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事例2
神奈川県内の精密機器メーカーの代表取締役社長(67)ら5人は、13年10月及び11月、核開発等に転用可能であることから輸出規制されている三次元測定機(注4)2台を、経済産業大臣に対する許可申請の不要な機器であると偽って、シンガポール経由でマレーシア向けに輸出した。18年8月、外為法違反(無許可輸出)で逮捕した。このうち1台は、マレーシアから再輸出され、15年12月ころから国際原子力機関(IAEA)等により行われたリビアに対する査察の際、同国の核開発関連施設で発見された(警視庁)。
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