第2章 組織犯罪対策の推進 

第2節 薬物銃器対策

1 薬物情勢

 平成18年中の薬物事犯の検挙人員は、図2-7のとおり、全体では1万4,440人と前年より1,363人(8.6%)減少したが、覚せい剤事犯及び大麻事犯の検挙人員に占める暴力団員の割合が増加傾向にあり犯罪組織の薬物事犯への関与が増加するなど、依然として厳しい情勢にある。
 
 図2-7 平成18年中の薬物事犯検挙人員
図2-7 平成18年中の薬物事犯検挙人員

(1)覚せい剤情勢

 平成18年中の覚せい剤事犯の検挙人員は前年より減少したものの、依然として全薬物事犯検挙人員の8割強(80.4%)を占めている。また、押収量は、粉末が前年より若干増加し、錠剤型は大きく増加した。
 
 図2-8 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(平成9~18年)
図2-8 覚せい剤事犯の検挙状況の推移(平成9~18年)

事 例
 道仁会傘下組織幹部(40)は、18年5月、JR博多駅において、密売目的で覚せい剤約3.9キログラムをお茶袋に隠匿して所持していたことから、覚せい剤取締法違反(営利目的所持)で逮捕した。また、関係箇所を捜索し、同傘下組織構成員等が契約していた貸コンテナ内から覚せい剤約0.3キログラム等を押収した。さらに、同人に覚せい剤を譲り渡した松葉会傘下組織組長(57)を、同年6月、同法違反(営利目的譲渡し)で逮捕した(警視庁、福岡)。

(2)各種薬物事犯情勢

〔1〕 各種薬物事犯(有機溶剤事犯を除く。)
 最近5年間の大麻事犯、MDMA等合成麻薬事犯等の各種薬物事犯(シンナー等の有機溶剤事犯を除く。)の検挙人員及び押収量は、表2-5のとおりである。
<平成18年中の大麻事犯の特徴>
・ 検挙人員は過去最高を記録
・ 検挙人員の66.7%は、少年及び20歳代の若年層
<平成18年中のMDMA等合成麻薬事犯の特徴>
・ 検挙人員の65.1%は、少年及び20歳代の若年層
 
 押収された乾燥大麻
押収された乾燥大麻
 
 表2-5 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成14~18年)
表2-5 各種薬物事犯の検挙状況の推移(平成14~18年)

〔2〕 シンナー等の有機溶剤事犯
 最近5年間のシンナー等有機溶剤事犯の検挙(補導を含む。)人員の推移は、表2-6のとおりである。
<18年中の特徴>
・ 検挙人員(摂取、吸入及び摂取・吸入目的所持)の39.9%は、少年
・ 検挙人員(知情販売(乱用する目的で購入すると知った上での販売))の60.7%は、少年
 
 表2-6 有機溶剤事犯の検挙人員の推移(平成14~18年)
表2-6 有機溶剤事犯の検挙人員の推移(平成14~18年)

(3)来日外国人による薬物事犯

〔1〕 国籍・地域別検挙状況
 最近5年間の来日外国人による薬物事犯検挙人員の推移は、表2-7のとおりである。
 また、国籍・地域別の検挙状況の推移は、表2-8のとおりである。
<平成18年中の特徴>
・ ブラジル人が大幅に増加
・ フィリピン人及びイラン人が減少
 
 表2-7 来日外国人による薬物事犯検挙人員の推移(平成14~18年)
表2-7 来日外国人による薬物事犯検挙人員の推移(平成14~18年)
 
 表2-8 国籍・地域別来日外国人による薬物事犯検挙人員の推移(平成14~18年)
表2-8 国籍・地域別来日外国人による薬物事犯検挙人員の推移(平成14~18年)

〔2〕 イラン人薬物密売組織
 18年中のイラン人の覚せい剤事犯検挙人員は60人と、前年より28人(31.8%)減少した。このうち、営利犯(営利目的所持及び営利目的譲渡をいう。)は48.3%を占めており、依然としてイラン人が覚せい剤の密売に深くかかわっている状況がうかがわれる。最近では、携帯電話を利用して客に接触場所を指定する方法による密売が多数敢行されている。
 
 図2-9 来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員に占める営利犯(平成18年)
図2-9 来日外国人による覚せい剤事犯の検挙人員に占める営利犯(平成18年)

(4)インターネット利用による薬物密売事犯

 平成18年中にインターネットを利用した薬物密売事犯で密売人を検挙した事件は13件と、前年より5件(27.8%)減少した。
 密売の主な手口は、インターネット特有の匿名性を悪用したものであり、具体的には、電子掲示板等に「エス0.1g1万円」等と掲載して薬物の購入を勧誘し、これに連絡してきた客から注文を受け、指定した金融機関口座に代金を振り込ませた後、薬物を配送するというものである。

(5)薬物密輸入事犯の現状

 平成18年中の薬物密輸入事犯の検挙件数は217件、検挙人員は239人と、それぞれ前年より19件(9.6%)、29人(13.8%)増加した。我が国で乱用される薬物のほとんどは、国際的な薬物犯罪組織の関与の下に海外から密輸入されており、航空機を利用して、手荷物品の中に隠匿したり、身体に巻き付けたり、国際郵便・国際宅配便を利用するなどの方法が用いられている。
<平成18年中の大量押収事件(注)での主な仕出地>
・ 覚せい剤  中国、香港、カナダ
・ 乾燥大麻  南アフリカ、フランス
・ 大麻樹脂  パキスタン、インド
・ MDMA    フランス、ドイツ

注:覚せい剤及び大麻については1キログラム以上、MDMA(他の薬物との混合錠剤を含む。)については1,000錠以上押収した事件

 
 中国からお茶パックに偽装して密輸された覚せい剤
中国からお茶パックに偽装して密輸された覚せい剤
 
中国からお茶パックに偽装して密輸された覚せい剤


コラム1 北朝鮮を仕出地とする覚せい剤密輸とその対策

 平成9年以降、警察では、北朝鮮を仕出地とする覚せい剤の大量密輸入等事件を水際において7件検挙している。18年5月には、14年に北朝鮮ルートで覚せい剤数百キログラムを密輸し、国内で密売して多額の利益を得ていた組織を解明し、極東会傘下組織組長ら9名を逮捕した。
 9年から14年の間の覚せい剤大量押収事案における総押収量の約4割を北朝鮮からのものが占めており、これまでに検挙した北朝鮮ルートの覚せい剤密輸入等事件の特徴としては、1回の押収量が大量であること、押収した覚せい剤の純度が高いこと、比較的整った規格の包装が行われていることなどが挙げられる。
 さらに、10年の高知県沖における覚せい剤密輸入事件の際、密輸入に使用された船舶は、13年12月に九州南西海域において沈没した工作船と同一である。
 なお、18年に検挙した事件の捜査を通じ、13年12月に沈没した工作船が我が国への覚せい剤密輸を企図していたこと、13年春にも工作船の工作員による密輸が敢行されていたことが解明されたところであり、これら捜査の結果から判断すると、覚せい剤の密輸に北朝鮮当局の関与が認められる。また、15年以降に押収した覚せい剤の中にも北朝鮮が仕出地であると疑われるものもある。
 警察では、北朝鮮ルートの覚せい剤密輸入に重大な関心をもち、関係機関と連携した水際対策の強化、諸外国と連携した情報収集等に努めている。このため、各種国際会議等において、情報交換の強化、国際捜査協力の推進等について、関係各国の協力を呼び掛けるなど、北朝鮮を仕出地とする薬物密輸入事犯の根絶のための国際社会への働き掛けを推進している。
 
 図2-10 北朝鮮を仕出地とする覚せい剤密輸入事件
図2-10 北朝鮮を仕出地とする覚せい剤密輸入事件


 第2節 薬物銃器対策

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