第6章 公安委員会制度と警察活動の支え 

14 警察における被害者対策

(1)基本施策
 被害者(その遺族を含む。以下同じ。)は、犯罪によって直接、身体的、精神的、経済的な被害を受けるだけでなく、その後の刑事手続の過程における負担や周囲からの不利益・不当な取扱い等により様々な二次的被害を受ける場合がある。そこで、警察では、次のとおり、様々な側面から被害者対策の充実を図っている。また、当該事件の捜査員以外の職員が、被害者への付添い、刑事手続の説明等、事件発生直後に被害者支援を行う指定被害者支援要員制度が各都道府県警察で導入されており、平成17年12月現在、その要員として全国で2万3,753人が配置されている。
○ 被害者に対する情報提供等
 ・ 刑事手続や法的救済制度の概要等、被害者に必要な情報を取りまとめたパンフレット「被害者の手引」の作成、配布
 ・ 捜査の進ちょく状況や被疑者の処分結果等、事件に関する情報の提供
 ・ 被害者が再び被害に遭うことを予防するとともに、その不安感を解消することを目的とした、交番の地域警察官等による被害者訪問・連絡活動
○ 相談・カウンセリング体制の整備
 ・ 全国統一番号の相談専用電話「#(シャープ)9110番」等の被害相談電話・窓口の設置
 ・ 心理学等の専門的知識やカウンセリング技術を有する警察職員の配置及び精神科医や民間のカウンセラーとの連携
○ 捜査過程における被害者の負担の軽減
 ・ 応接セットの設置、照明や内装の改善による被害者用事情聴取室の整備・活用
 ・ カーテン等で遮へいするなど、被害者の心情に配慮した装備を施した被害者対策用車両の整備・活用
 ・ 職員による病院、実況見分の場所への付添い等の各種支援
 
 事情聴取室
写真 事情聴取室

 
 被害者対策用車両
写真 被害者対策用車両

○ 被害者の安全の確保
 ・ 身辺警戒やパトロール等を強化するなどの適切な再被害防止措置の実施
 ・ 緊急時に録音装置によって証拠を採取し、最寄りの警察署へ通報する仕組みを備えた緊急通報装置の被害者の自宅等への整備

コラム1 犯罪被害者等基本計画

 平成17年4月に施行された犯罪被害者等基本法に基づき、同年12月、総合的かつ計画的に犯罪被害者等のための施策を推進するための基本的な計画として、犯罪被害者等基本計画が閣議決定された。犯罪被害者等基本計画には、258の施策が盛り込まれているが、このうち警察に係る施策は、重傷病給付金の支給範囲等の拡大、性犯罪被害者の緊急避妊等に要する負担軽減等、70となっている。
 警察では、基本計画に盛り込まれた施策について、関係機関・団体等と一層緊密に連携して、可能なものから速やかに実施することとしている。

(2)被害者支援連絡協議会の活動
 被害者が支援を必要とする事柄は、生活、医療、公判等多岐にわたる。このため、警察のほか、検察庁、弁護士会、医師会、臨床心理士会、地方公共団体の担当部局や相談機関等から成る被害者支援連絡協議会が、全都道府県で設立されている。このほか、警察署の管轄区域等を単位とした被害者支援のための連携の枠組みが各地に構築され、よりきめ細かな被害者支援が行われている。

(3)民間の被害者支援団体との連携
 各地で、民間の被害者支援団体の設立が進んでいる。全国被害者支援ネットワークの加盟団体数は、平成18年3月現在、全国で40団体に上る。これらの支援団体は、電話・面接による相談の受理、ボランティア相談員の養成及び研修、被害者自助団体(遺族の会等)への支援、広報啓発等の活動を行っており、警察は、支援団体の設立、運営を支援している。
 また、都道府県公安委員会は、犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律に基づき、犯罪被害等の早期軽減に資する事業を適切かつ確実に実施できる非営利法人を指定する公的認証制度を運用しており、同年3月現在、全国で9団体が犯罪被害者等早期援助団体として指定されている。警察では、指定団体が被害者等への働き掛けを行いやすくするため、被害者等の同意を得て、その氏名及び住所その他犯罪被害の概要に関する情報を同団体に提供している。
 
 熊本県警察と(社)熊本犯罪被害者支援センターによる街頭広報活動
写真 熊本県警察と(社)熊本犯罪被害者支援センターによる街頭広報活動

(4)犯罪被害給付制度
 犯罪被害給付制度は、通り魔殺人等の故意の犯罪行為により不慮の死亡、重傷病又は障害という重大な被害を受けたにもかかわらず、公的救済や損害賠償を得られない被害者等に対し、国が一定の給付金を支給するものである。この制度は、昭和56年1月施行以来、被害者等の被害の軽減に重要な役割を果たしている。
 この制度では、被害者が死亡した場合には、遺族に1,573万円を上限とする遺族給付金が支給される。また、被害者が重傷病を負った場合には重傷病給付金が支給されるが、平成18年4月には、犯罪被害者等基本計画を踏まえ、その支給範囲を拡大し、従前は1月以上の加療及び14日以上の入院を要することとされていた重傷病給付金の支給要件を、被害者が1月以上の加療及び3日以上の入院を要する(精神疾患の場合は、3日以上労務に服することができない程度の)重傷病を受けた場合に改め、また、その支給対象期間について、従前は医療費のうち被害を受けてから3月以内の自己負担相当額が支給されることとなっていたのを、1年以内の自己負担相当額に拡大した。このほか、障害が残った場合には、障害の等級に応じ、1,849万円を上限とする障害給付金が支給される。
 
 表6-7 犯罪被害給付制度の運用状況
表6-7 犯罪被害給付制度の運用状況
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(5)被害者の特性に応じた施策
〔1〕 性犯罪の被害者
 警察では、性犯罪被害者の立場に立った対応を心掛け、その精神的負担の軽減を図るとともに、次のような施策を推進している。
・ 「性犯罪110番」等の相談専用電話や相談室の設置
・ 証拠採取に必要な用具や被害者の衣類を証拠として預かる際の着替え等をまとめた性犯罪捜査証拠採取セットの整備
・ 性犯罪捜査指導官及び性犯罪捜査指導係の設置、女性警察官の性犯罪捜査員への指定
・ 迅速かつ適切な診断・治療及び証拠採取等を行うための産婦人科医等との連携強化
・ 女性専門捜査官の育成と男性警察官を含む警察職員に対する教育・研修の充実
・ 被害者が望む性別の捜査員による事情聴取の実施
 このほか、犯罪被害者等基本計画を踏まえ、平成18年4月から、被害後の検査費用や緊急避妊に要する経費等の支援を拡大した。

〔2〕 少年犯罪の被害者
 警察では、少年犯罪の被害者との連絡に当たっては、被疑少年の健全育成に配慮しつつ、捜査上支障のない範囲内で、できる限り被害者の要望にこたえるよう努めている。具体的には、身体犯(殺人、強盗致死傷、強姦等)、ひき逃げ事件の被害者及び交通死亡事故の遺族については、被疑少年を検挙するまでの捜査状況、逮捕若しくは在宅送致をした被疑少年又はその保護者の住所及び氏名、逮捕した被疑少年を送致した検察庁又は家庭裁判所及びその処分結果等を、連絡することとしている。

〔3〕 悪質商法やヤミ金融の被害者
 警察では、被害者への被害回復をも視野に入れて、悪質商法やヤミ金融事犯の取締りを行うとともに、都道府県警察本部に警察安全相談窓口や「悪質商法110番」等を設置し、被害者からの相談に応じている。また、消費生活センター等の関係機関・団体と連携して、悪質商法等による被害の未然防止・拡大防止を図るための情報交換や広報啓発活動に努めている。

〔4〕 暴力団犯罪の被害者
 暴力団犯罪の被害者は、警察に相談することによって、暴力団から「お礼参り」や嫌がらせを受けるのではないかとの不安を感じている場合が多い。
 そこで、警察では、こうした被害者からの積極的な被害の申告を促すため、暴力ホットライン等の相談専用電話を開設したり、都道府県暴力追放運動推進センターや弁護士会の民事介入暴力対策委員会等の関係機関・団体と連携して被害相談を行ったりして、暴力団関係相談の受理体制を整備し、相談者の不安感を払しょくするよう助言を行っている。また、事件の検挙や暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律の規定に基づく命令の発出、暴力団員を相手方とする民事訴訟に対する支援等、事案の内容に応じた適切な対応に努めている。
 また、被害が回復されるよう、加害者の暴力団員の連絡先を教示したり、被害回復のための交渉を行う場所として警察施設を供用したりするなどの援助を行っている。
 さらに、これらの暴力団犯罪の被害者や参考人の安全を確保するため、自宅や勤務先におけるパトロールを強化するなどして、再被害の防止を図っている。

〔5〕 交通事故の被害者
 都道府県警察や全国の交通安全活動推進センターでは、交通事故の被害者等からの相談に応じ、保険請求・損害賠償制度、被害者支援・救済制度、示談・調停・訴訟の基本的な制度、手続等を説明している。同センターの中には、交通事故相談員として弁護士やカウンセラーを配置しているところもあり、経済的被害や精神的被害の回復に関する相談に応じ、必要な助言を行っている。また、交通事故の被害者から加害者の行政処分に係る意見の聴取等の期日や行政処分の結果について問い合わせがあったときは、適切に情報を提供をしている。さらに、交通事故の被害者が出演するビデオや被害者の手記等を停止処分者講習等に用いるほか、被害者による講話を取り入れるなどして、被害者の心情を運転免許保有者に理解させている。

〔6〕 配偶者からの暴力事案、ストーカー事案の被害者
 配偶者からの暴力事案については、警察では、相談窓口を設置するなど被害者が相談しやすい環境を整備しているほか、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律に基づき、配偶者暴力相談支援センター等の関係機関・団体と連携して、被害者の保護や被害の発生を防止するために必要な援助等の措置を講じている。
 ストーカー事案の被害者についても、ストーカー行為等の規制等に関する法律に基づく援助を実施するほか、地方公共団体の男女共同参画担当部局等や民間被害者支援団体等との連携による支援を行っている。

 14 警察における被害者対策

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