第2章 生活安全の確保と犯罪捜査活動 

2 広域捜査力の強化

(1)広域捜査隊の設置運用
 通信手段や交通手段の発達等を背景に犯罪が広域化したことから、多くの犯罪捜査では、複数の都道府県にまたがって活動する必要が生じている。また、犯行後に素早く他の都道府県に逃亡する例や、同一犯人が広域にわたって連続的に犯罪を敢行する例も目立っている。我が国の警察組織は都道府県を単位としていることから、こうした事象に的確に対応するためには、都道府県警察が相互に緊密に連携して捜査を行うことが重要となる。
 このため、都府県境をまたがって連続的に市街地が形成されている区域等において、事件発生時の初動措置を迅速かつ的確なものとするため、都府県警察の単位を越えて広域的に捜査を行う広域捜査隊の編成が進められている。平成17年末現在、全国12地域で広域捜査隊の編成に関する協定が締結されている。
 
 広域捜査隊
写真 広域捜査隊

事例
 17年3月、栃木県で強盗未遂事件が発生し、栃木・茨城・群馬・埼玉の各県警察の警察官により編成された北関東広域捜査隊の隊員が現場から逃走する被疑車両を発見し、航空隊等と連携して追跡を行い、被疑車両を停止させた。同車両を運転していた無職の男(47)を事情聴取したところ、犯行を自供したため、強盗未遂罪で逮捕した(栃木、茨城、群馬、埼玉)。

(2)専門捜査員制度の運用
 専門捜査員制度とは、誘かい事件や航空機事故、列車事故のように、捜査に特別の専門的知識等を必要とする一方で、発生がまれであるなどの事情により、専門的知識等を有する警察職員が少ない事案に対処するため、あらかじめ特別の専門的知識等を有する職員を専門捜査員として登録し、他の都道府県で発生した事案であっても現場に派遣し、活用することができるようにする制度である。
 平成16年4月には、専門捜査員の派遣をより迅速かつ円滑に行うことができるようにするため、犯罪捜査共助規則を改正するとともに、専門的な知識等を有すると認められる部隊等を専門捜査員として登録し、活用することができる仕組みを整備した。また、警察庁長官は、必要があると認めるときは、捜査を行う都道府県警察に専門捜査員の要求をすべきことを指示することとした。

事例
 18年1月、宮城県仙台市内の病院から新生児が連れ去られ、身の代金が要求される事案が発生した。宮城県警察は、専門捜査員の派遣を受け、所要の捜査を実施した結果、同月、被害者を保護するとともに、衣料品販売業者の男(54)ら3人を、身の代金目的拐取罪等で逮捕した。

(3)合同捜査、共同捜査の推進
 警察では、複数の都道府県の地域に関係のある重要な犯罪で広域にわたるものが発生した場合には、指揮系統を一元化し、関係都道府県警察が一体となって捜査を行う「合同捜査」や、指揮系統の一元化までは行わないものの、捜査事項の分担その他捜査方針の調整を行う「共同捜査」を積極的に推進している。
 
 合同捜査本部での検討
写真 合同捜査本部での検討

 
 合同捜査の状況
写真 合同捜査の状況

事例
 平成14月11月から17年3月にかけて、サムターン回し等の手口により高層マンションへ侵入し、金品を窃取する事案が北海道、富山県、山口県、愛媛県等において発生した。関係警察による共同捜査を進めた結果、同年6月までに中国人の男(42)ら58人を窃盗罪等で逮捕した。被疑者らは、上海出身の中国人による窃盗団を組織し、預貯金通帳等を窃取した上、日本人を中心とした引き出し役に偽造した印鑑等を使用させて金融機関から多額の現金を引き出させるなどして、約350件の窃盗事件等を敢行しており、その被害総額は約5億800万円に上った(北海道、宮城、福島、警視庁、新潟、富山、石川、兵庫、山口、愛媛、長崎、熊本)。

(4)警察庁指定事件制度
 警察庁指定事件とは、複数の管区警察局の管轄地域で発生している社会的影響の大きい凶悪又は特異な事件で、複数の地域にまたがり組織的に捜査を行う必要があるものとして警察庁が指定した事件をいう。現在までに、24事件が指定されている。
 警察庁指定事件について、警察庁は、都道府県警察と捜査会議を開催して、捜査方針を協議するほか、関係都道府県警察以外の都道府県警察に対して捜査共助を指示したり、関係情報を集約・分析したり、事件の解決に向けて捜査活動を支援している。

事例
 無職の男(62)ら2人は、平成14年8月から同年11月にかけて、千葉県内の会社役員宅に侵入し、住人2人の首を絞めるなどして殺害し、金品を奪った上、家屋に放火するなど、広域にわたり、3件の強盗殺人事件等を敢行した。警察庁では、これらの事件を警察庁指定第124号事件と指定し、千葉県警察及び警視庁が共同捜査を行った結果、18年1月までに、上記3件の事件について、強盗殺人罪等で逮捕した(千葉、警視庁)。

 第2節 犯罪の検挙と抑止のための基盤強化

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