第1章 安全・安心なインターネット社会を目指して

(4)産業界、関係機関等との連携強化

 サイバー空間の安全を確保するためには、警察の取組みに加え、産業界や学校、教育委員会等との連携が不可欠であることから、警察においては、これらと連携した施策を推進している。

〔1〕 産業界、関係機関等と連携した違法・有害情報対策等
ア 学校、教育委員会等と連携した対策
 都道府県警察では、学校で開催する非行防止教室や、少年、保護者及び学校職員等を対象とする講演等を通じ、フィルタリング・システムの導入を勧めるとともに、インターネット上の違法・有害情報の実態、インターネットに起因した犯罪や少年が被害者となった事件の具体的な事例を紹介するなどの広報啓発活動を進めている。
 
 非行防止教室を通じた広報啓発活動
写真 非行防止教室を通じた広報啓発活動

イ 産業界と連携した対策
 警察庁では、インターネット上における薬物、銃器の取引の未然防止を図るため、複数の検索サイトを運営する事業者に依頼し、17年6月から、インターネットで薬物や銃器に関連する特定の用語を検索した場合、検索結果表示画面の上部に「薬物乱用は犯罪です」、「けん銃を所持することは犯罪です」等と記載した広告を掲示することにより、インターネット利用者への注意喚起等を行っている。
 また、警察においては、インターネット上の違法・有害情報対策としてサイバーパトロールを強化しており、例えば、警視庁では、17年8月から、サイバーパトロールを通じて蓄積した違法・有害情報のデータベースをフィルタリング・ソフトの開発事業者に提供するなど、産業界と連携した取組みを推進している。

ウ 総合セキュリティ対策会議
 警察庁では、13年度から、有識者、関連事業者、PTAの代表者等で構成する総合セキュリティ対策会議を開催し、情報セキュリティに関する産業界と政府の連携の在り方等について検討を行っている。
 16年度は、インターネット上の自殺予告事案への対応の在り方について検討を行い、人命保護等の観点から緊急の対応を必要とする事案であり、プロバイダや電子掲示板の管理者等が緊急避難に該当すると判断できるものが認知された場合には、プロバイダ等は自殺を予告する者等に関する情報を警察に開示することができることとするなど、自殺予告事案への対応の在り方についての提言を取りまとめた。
 17年度は、インターネット上の違法・有害情報への対応における官民連携の在り方について検討を行い、その検討の結果をインターネット上の「ホットライン」(第1章第3節(1)〔1〕(52頁)参照)の必要性及びその運用の在り方に関する提言として取りまとめた。
 
 平成17年度総合セキュリティ対策会議
写真 平成17年度総合セキュリティ対策会議

エ 民間企業等との連携
 警察からの要請に速やかに対応するため、15年12月、マイクロソフト株式会社に、都道府県警察からの照会に対応するための専用窓口が設置された。また、捜査の過程で押収した電磁的記録媒体の解析作業を行う上で、民間企業が有する技術情報等が必要になることから、17年4月、同社と技術協力に関する協定を締結し、同社からプログラム上の欠陥や脆弱性等に関して、非公開情報を含む各種技術情報の提供を受けられる協力関係を構築した。
 また、都道府県警察では、関係行政機関、プロバイダ、消費者団体等で構成されるプロバイダ連絡協議会等を設置し、サイバー犯罪の情勢や手口、サイバー犯罪被害防止等に関する情報交換を行っているほか、講習会等の実施、一般向け広報資料の作成等を行っている。
 
 プロバイダ連絡協議会
写真 プロバイダ連絡協議会

事例
 熊本県警察は、17年5月から同年6月にかけて、熊本県情報セキュリティ推進協議会と共同で、出会い系サイトやサイバー犯罪から子どもたちを守るために、中学生を対象とした熊本県青少年サイバー犯罪対策作文コンクールを開催した。

 さらに、常時、不特定多数の者がインターネットを利用することができる環境にあり、その利用者を特定することが困難であるインターネットカフェ等については、サイバー犯罪を敢行する者に悪用されやすいことから、各都道府県警察においては、インターネットカフェ等の事業者に働き掛け、連絡協議会を設立するなど、防犯意識の向上に努めている(18年6月現在、4道県・3地区において連絡協議会が設置)。

〔2〕 サイバーテロ対策に関する官民連携
ア 重要インフラ事業者等への個別訪問
 都道府県警察では、重要インフラ事業者等への個別訪問を通じて、重要インフラにおけるサイバーテロ対策を支援するなどの取組みを推進している。具体的には、
 ・ リアルタイム検知ネットワークシステムの分析結果、コンピュータ・ウイルスやソフトウェアの脆弱性情報等、インターネット上の治安情勢に関する情報提供
 ・ サイバーテロ発生時の警察への速やかな通報及び平素からの連絡窓口の設置の要請
 ・ サイバーテロを敢行した者を特定するための捜査に対する協力要請
等を実施し、サイバーテロ対策の重要性について理解を求めている。

イ サイバーテロ対策セミナー
 都道府県警察では、重要インフラ事業者等の基幹システムの運用等に携わる情報セキュリティ担当者等を対象としたサイバーテロ対策セミナーを実施している。このセミナーでは、DoS攻撃等代表的なサイバー攻撃の手法を実演し、その防御手法を解説するなど、サイバー攻撃に対処するための具体的な情報提供に努めている。
 参加者からは、「サイバーテロ対策を身近な問題としてとらえることができた」、「事例紹介や攻撃手法の実演を通じてネットワークの危険性について実感できた」などの意見が寄せられており、参加者の意識向上に役立っている。
 
 サイバーテロ対策セミナー
写真 サイバーテロ対策セミナー

ウ サイバーテロ対策協議会
 重要インフラ事業者や地方公共団体等から構成されるサイバーテロ対策協議会は、サイバーテロ対策に関する警察からの情報提供、参加者間の意見交換・情報共有を行う場として設置されている。この協議会では、重要インフラ事業者等から、実際にサイバー攻撃を受けた際の対応状況に関する経験も発表されるなど、活発な意見交換が行われている。
 現在、協議会は、東京都、大阪府、広島県及び香川県の4都府県に設置されている。
 
 サイバーテロ対策協議会
写真 サイバーテロ対策協議会

エ 共同研究
 情報通信技術の発展に伴い、これを悪用した新たなサイバー攻撃の手段が次々と顕在化している。これらに適切に対応していくためには、情報通信分野の最新の技術動向を把握していかなければならない。そこで、サイバーフォースでは、大学、民間企業等と協力し、共同でサイバーテロ対策のための技術に関する調査及び研究開発を実施している。

コラム7 情報セキュリティに係る政府全体の取組み

 コンピュータ・ウイルスのまん延、サイバー犯罪の急激な増加、国民生活や社会・経済活動を支える重要インフラにおける情報システム障害等、我が国を取り巻く情報セキュリティ問題は深刻である。このような情勢の下、政府においては、官民における統一的・横断的な対策の推進を図るため、17年4月、内閣官房に情報セキュリティセンター(NISC)を、同年5月、IT戦略本部(議長:内閣総理大臣)に情報セキュリティ政策会議(議長:内閣官房長官)をそれぞれ設置した。
 NISCでは、情報セキュリティ政策会議の下で、我が国の情報セキュリティ対策に関する基本戦略を立案し、政府機関における総合対策、重要インフラの情報セキュリティ対策を促進するとともに、政府機関に対するサイバー攻撃等が発生した際の事案対処支援等を行っている。警察においては、NISCや関係省庁との連携の下、サイバー犯罪やサイバーテロ対策等の情報セキュリティ問題に対して、その技術力、機動力をいかした取組みを推進し、政府における情報セキュリティ対策に貢献している。

 第2節 サイバー空間の安全確保に向けた取組み

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