第6章 公安の維持と災害対策 

4 対日有害活動の動向と対策

(1) 北朝鮮による対日諸工作
 北朝鮮は、日本、米国、韓国、中国、ロシア及び北朝鮮による北朝鮮の核問題を協議するための会合(六者会合)の再開に向けた我が国の動向について、「本来、日本は米国の徹底的な手下であり、六者会合に参加する資格も持たない」と述べるなど、けん制する動きをみせた。
 また、保障契約を締結していない総トン数100トン以上の船舶の入港を禁ずる改正船舶油濁損害賠償保障法が平成17年3月に施行されたことに対し、「日本がわが方に対する「厳重な対応」をうんぬんして「経済制裁」と「海上封鎖」を通じて反共和国孤立・圧殺を追求するのは泥棒の居直りのような破廉恥な行為」であると主張するなど、辛辣(らつ)な表現で強い反発を示した。同月に島根県で「竹島の日」を制定する条例案が可決された際は、「北と南と海外の全同胞は、日本の白昼強盗さながらの独島強奪策動を断固粉砕」すると述べ、日本を非難するとともに、韓国との連帯意識を強調し、日韓両国の離反を図る姿勢を示した。

 国内では、朝鮮総聯(れん)(注)が、結成50周年を祝う記念中央大会を開催したほか、各界関係者を招いて、祝典や祝宴等を開催した。これは、拉致問題等で膠(こう)着する日朝関係や朝鮮総聯を取り巻く厳しい現状を背景に、この機をとらえて組織の結束を強めるとともに、朝鮮総聯の活動に対する理解を求め、親朝世論を醸成することで、こうした局面を打開する意図があったとみられる。


注:正式名称を在日本朝鮮人総聯合会という。

 北朝鮮は、今後とも、時宜をとらえた対日非難を継続するとともに、我が国の各層に対して、過去の清算を最優先させた早期の国交正常化への協力や朝鮮総聯の活動に対する理解を求めて、直接に、又は朝鮮総聯を介した諸工作を活発に展開するものとみられる。
 警察は、こうした諸工作に関する情報収集活動を強化するとともに、関連して行われる違法行為に対しては厳正な取締りを行うこととしている。

 
朝鮮総聯(れん)結成50周年記念祝賀パーティー(2005年(平成17年)5月)(時事)
朝鮮総聯結成50周年記念祝賀パーティー(2005年(平成17年)5月)(時事)

事例 16年10月、在日韓国人を出入国管理及び難民認定法違反等で検挙した。捜査の結果、同人は、日本から北朝鮮へ密出国した疑いがあるほか、自宅から乱数表等が発見されたことから、我が国で、かつて北朝鮮の工作員として活動していた疑いが認められた(大阪)。

 
(2) ロシアによる対日諸工作
 ロシアでは、2004年(平成16年)8月末以降に発生した国内線旅客機同時爆破テロ事件、北オセチア共和国における学校占拠事件等一連のテロ事件を契機に、プーチン大統領が社会制度改革のための政策を発表し、「強いロシア」を再建するために中央集権化を進めている。同国の情報機関は、多発しているテロの対策については米国を始めとする旧西側諸国と連携しており、2004年(16年)12月には、ロシアの連邦保安庁(FSB)と米国の連邦捜査局(FBI)との間で国際テロリズム・大量破壊兵器拡散対策分野における協力に関する覚書が調印された。
 しかし、プーチン大統領は、政策決定過程における諜報活動の重要性を強調しており、情報機関員による諜報活動は依然として活発に行われている。16年は、ノルウェー、リトアニア、エストニア、ラトビア及びスロバキアで、ロシアの外交官等による諜報活動が摘発された。日本でも、ロシアの情報機関員は、我が国の政治、軍事、経済、科学技術等に関する諜報活動のほか、米国、中国、北朝鮮等に関する情報収集を活発に行っている。
 警察では、このような対日有害活動の実態を明らかにするため、情報収集・分析能力の強化を図るとともに、違法行為に対しては厳正な取締りを行うこととしている。

 
北オセチア共和国における学校占拠事件
北オセチア共和国における学校占拠事件

 
(3) 中国による対日諸工作
 中国国内では、反日感情が高まり、2004年(平成16年)7月に中国で開催されたサッカー・アジア杯では、日本人選手や日本人観光客に対して悪質な嫌がらせが行われ、日本大使館の車両が破壊されるなどの事案が多発した。また、2005年(17年)4月には、中国各地で、日本の国際連合安全保障理事会の常任理事国入りに反対すること、日本製品の不買運動を行うことなどを訴える大規模なデモが発生した。

 
北京の反日デモ行進(2005年(平成17年)4月
北京の反日デモ行進(2005年(17年)4月(時事)

 他方、国外では、2004年(16年)11月、中国の原子力潜水艦が日本の領海に侵入する事案が発生したほか、東シナ海や沖ノ鳥島周辺の日本近海では、中国の海洋調査船が活発に活動した。
 温家宝首相は、2005年(17年)3月の全国人民代表大会での政治活動報告の中で、同年の経済発展における4つの工作重点の一つとして、「経済成長にとって重大な牽引的役割を持つハイテク、伝統産業のグレードアップを促進することができる汎用技術、鍵となる技術、関連技術の開発を加速させる」と述べ、更に軍事面に関しては、「国防科学研究と武器装備の現代化建設の強化、国防科学技術工業の改革と発展の継続推進」を指針に掲げるなど、更に高水準の科学立国を目指している状況がうかがえる。

 
日本近海で活動する中国の海洋調査船(海上保安庁提供)
日本近海で活動する中国の海洋調査船(海上保安庁提供)

 同年2月には、米国連邦捜査局(FBI)関係者が、「カリフォルニア州シリコンバレー等米国のハイテク産業の中心地で、コンピュータ関連の高度な情報の取得を目的とした中国人によるスパイ事件が急増した。ここ数年の傾向として(中国人スパイは)学生やサラリーマン、研究員を装い暗躍しており、最大の脅威である」と指摘した。我が国にも、先端技術の習得のために、多数の中国人科学者、技術者、留学生等が滞在しており、これらの中国人や在日中国大使館員による日本企業関係者への働き掛け等、多様かつ巧妙な手段により活発に情報収集活動を行っているものとみられる。
 これら中国の情報収集活動に関連して違法行為が行われる可能性があることから、警察では、所要の対策を講じるとともに、違法行為に対しては厳正な取締りを行うこととしている。

 
(4) 大量破壊兵器関連物資等の不正輸出(第2章第2節(2)参照)

 4 対日有害活動の動向と対策

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